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平成25年7月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(ワ)第28857号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成25年5月15日
判決
東京都中央区<以下略>
原告株式会社サプライズ
同訴訟代理人弁護士辻哲哉
同訴訟復代理人弁護士小西智志
東京都中央区<以下略>
被告株式会社タイパン
(以下「被告会社」という。)
東京都中央区<以下略>
被告A
(以下「被告A」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士小林幸夫
同坂田洋一
同安部剛
主文
1被告らは,原告に対し,連帯して金1747万6912円及びこれに対する
平成24年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余は被告らの負
担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告会社は,別紙被告商品目録記載の各商品を製造,譲渡,販売又は販売の
ための広告をしてはならない。
2被告会社は,別紙被告商品目録記載の各商品を廃棄せよ。
3被告らは,原告に対し,連帯して金5627万1781円及びこれに対する
平成24年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,別紙被告商品目録記載の各商品(以下,併せて「被告商
品」という。)について,別紙原告商品目録記載の各商品(以下,併せて「原
告商品」という。)の形態を模倣しているから,不正競争防止法2条1項3号
に該当するなどと主張して,①被告会社に対し,同法3条1項に基づく差止請
求権として,被告商品の製造,譲渡,販売等の禁止,②同条2項に基づく廃棄
請求権として,被告商品の廃棄,③被告らに対し,同法4条及び不法行為に基
づく損害賠償9391万4788円(逸失利益8891万4788円と弁護士
費用500万円の合計額)の一部である5627万1781円(附帯請求とし
て不法行為の後である平成24年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金)の連帯支払を求めた事案である。
1前提事実(当事者間に争いがない。)
(1)当事者
原告は,小物の製造販売を行う株式会社である。
被告会社は,小物の製造,販売,卸を行う株式会社である。被告Aは,被
告会社の代表取締役社長である。
(2)原告商品
原告は,平成21年12月から平成22年10月までの間,原告商品を合
計12万7373個販売した。原告商品の販売状況は,別紙原告商品の販売
状況一覧のとおりである。
被告会社は,平成21年12月から平成22年5月までの間,原告商品の
販売元として,原告から原告商品を購入した上で,雑貨量販店等の小売事業
者に対して販売を行っていた。
原告商品の構成は,別紙原告商品目録記載3の構成(同目録別添写真目録
及び図面を含む。)のとおりである。原告商品は,電気マッサージ器として
も携帯ストラップとしても使用できるものであった。
(3)被告商品
被告会社は,平成22年5月から,原告商品の取扱いを中止し,被告商品
を合計14万0624個販売した。
被告商品の構成は,別紙被告商品目録記載3の構成(同目録別添写真目録
及び図面を含む。)のとおりである。被告商品は,電気マッサージ器として
も携帯ストラップとしても使用できるものであった。
被告商品は,原告商品に依拠して作成されたものである。
2争点
(1)原告商品の形態が不正競争防止法2条1項3号によって保護される「商
品の形態」に当たるか(争点1)
(2)原告商品と被告商品の商品形態が実質的に同一であるか(争点2)
(3)原告商品が被告会社にとって不正競争防止法2条1項3号の「他人の商
品」に当たるか(争点3)
(4)被告らの故意又は過失及び共同関連性の有無(争点4)
(5)損害額(争点5)
3争点に関する当事者の主張
(1)原告商品の形態が不正競争防止法2条1項3号によって保護される「商
品の形態」に当たるか(争点1)
(原告の主張)
ア原告商品の形態
(ア)原告商品の構成は,別紙原告商品目録記載のとおりである。
原告商品は,取替え可能なボタン電池を動力とした超小型の電気マッ
サージ器としても使用でき,商品の最下部のストラップリングとカニカ
ン付きストラップ紐によって,携帯電話・キーホルダーなどに付けて持
ち運びできる小型雑貨であり,次の①~⑥の基本構成からなる。
①小型モーターを内蔵し,電動式で振動する半球と溝のある円柱とか
らなるヘッド部分,②ヘッド部分とボディ部分とをつなぐ円すい台と蛇
腹状の円柱体からなるネック部分,③中央やや下側にスライド式スイッ
チを配置した,使用時に電源となるボタン電池2個を内蔵することがで
きる,涙型のボディ部分,④ボタン電池2個をボディ部分に収納し,ま
たボタン電池を取り替えるために,ボディ部分から着脱することができ
る電池カバー部分,⑤電池カバー部分が涙型のボディ部分に閉蓋された
状態のときに,両部分が重なり合う両部分の下部先端にそれぞれ空けら
れた小穴に通されたストラップリング部分,⑥ストラップリングに付け
られたカニカン(接続金具)付きのストラップ紐部分
原告商品の大きさは,全長64mm,ヘッド部分の長さ15mm・最
大径18mm,ネック部分の長さ7mm・最大径9mm,ボディ部分の
長さ42mm・最大径19mm,スイッチ上部の「ON」の凹みの長さ
2mm・幅3mm,ストラップリング穴の直径2mmである。
(イ)原告商品は,全体として携帯ストラップとして適した大きさであり,
これを電気マッサージ器として使用する際は,親指を含む2本ないし3
本の指でつまんで持つこととなるのが通常で,手のひらで握って使用す
ることは相当困難な大きさである。
これに対して,健康器具・家庭用電気製品としての,通常の大きさの
電気マッサージ器は,通常,本体部分の全長は概ね300mmである。
また,対照商品である「フェアリーポケットミニ」(乙5,6,検乙
4)の本体部分の全長は146mmであり,その寸法は同種の商品とし
ては相当に小さい部類に属するものの,携帯ストラップとして携帯電話
に付けて持ち運ぶのに適した寸法であるとはいい難く,これを電気マッ
サージ器として使用する際は,通常,手のひらで握って持つことになり,
親指を含む2本ないし3本の指でつまんで持って使用することは著しく
困難な大きさである。
(ウ)原告商品の本体部分の最大径と本体部分の全長の比率は約1対3.
4であり,また,ヘッド部分とネック部分を合わせた長さとボディ部分
の長さの比率は約1対1.9であって,全体に頭でっかちのずんぐりと
した印象を与える。
「フェアリーポケットミニ」の本体部分の最大径と本体部分の全長の
比率は約1対6であり,また,ヘッド部分とネック部分を合わせた長さ
とボディ部分の長さの比率は約1対3.1である。健康器具・家庭用電
気製品としての,通常の大きさの電気マッサージ器としてはいくぶん小
さい部類に属する例である甲30を見ると,本体部分の最大径は42ミ
リ,本体部分の全長は245ミリ,その比率は約1対5.8であり,ま
た,ヘッド部分とネック部分を合わせた長さとボディ部分の長さの比率
は約1対3.3であり,いずれの例も原告商品に比べて細長くシャープ
でエレガントな印象を与える。
イ原告商品の形態が「ありふれた」形態でないこと
(ア)原告商品は,全長64mm,最大径19mmという寸法である。こ
れに対して,①手持型電気マッサージ器の通常の寸法は,概ね全長30
0mm以上であること,②原告商品とほぼ同じ寸法の被告商品を販売す
るインターネット上のサイト(甲3,4)にも「本物の電マの1/5サ
イズ!」との宣伝文言が大きく挙げられていること,③「フェアリーポ
ケットミニ」の商品の説明(乙5)として「全長146×最大径25m
m」,「2009年5月発売!世界最小の電マ,フェアリーポケット
ミニ完成」などと記載されていることからうかがえるように,当時「世
界最小」と自称していた商品に比較して全長が半分以下という際だった
小ささであること等から,原告商品は,一般的な手持型電気マッサージ
器との比較において「ありふれた」とはいえない程度にまで極端に小さ
い寸法が選択されている。
(イ)また,一般的な手持型電気マッサージ器との比較における原告商品
の形態的特徴ないし独自的要素として,以下の点を挙げることができる。
①涙型のボディ部分がボタン電池2個を内蔵できる形状を持つ点,②ボ
ディ部分から着脱することができる電池カバー部分を持つ点,③電池カ
バー部分が涙型のボディ部分に閉蓋された状態のときに両部分が重なり
合う両部分の下部先端にそれぞれ空けられた小穴に通されたストラップ
リング部分を持つ点,④ストラップリングに付けられたカニカン(接続
金具)付きのストラップ紐部分を持つ点は,原告商品に独自の形態であ
る。
(ウ)実際,このような形態を備えた商品は,原告商品の販売以前,原告
商品以外には市場において存在していない。
ウ原告商品の形態が「商品の機能を確保するために不可欠」でないこと
一般的な手持型電気マッサージ器との比較で原告商品の形態を検討する
と,手持電気マッサージ器一般としての機能を確保するために,原告商品
の形態を選択することは不可欠でもなければ,不可避的でもないことは明
らかである。
(被告らの主張)
ア原告商品の形態は,他人の商品である「フェアリーポケットミニ」(対
照商品)の形態と実質的に同一であるし,その他電気マッサージ器の形態
とも実質的に同一であるから,ありふれたものである。
原告商品が電気マッサージ器とみられるべきことは,これと同種の被告
商品が小売店舗(ドンキホーテ)で電気マッサージ器と一緒に陳列されて
いること(乙8),ウェブ広告(乙9,10)においても電気マッサージ
器の一種として取り扱われていることからも明らかである。
イ原告は,原告独自の商品の形態として,A「ボディ部分に電池2個を内
蔵できる点」,B「ボディ部分に電池カバーが存在する点」,C「ボディ
部分の下部先端にストラップリングと接続金具付きのストラップ紐を有す
る点」,D「全体の寸法が小さい点」を挙げている。逆にいえば,その他
の形態については,「フェアリーポケットミニ」の形態と全く同一である
ことを認めているのである。別紙原告商品目録記載3の構成のうち,「①
小型電動モータを内蔵し,電動式で振動する,半球と溝のある円柱からな
るヘッド部分」,「②ヘッド部分とボディ部分とをつなぐ,円すい台と
蛇腹状の円柱体からなるネック部分」,「③中央やや下側にスライド式
スイッチを配置した,涙型のボディ部分」といった,原告商品の形態の要
部ともいうべき極めて特徴的な構成は,「フェアリーポケットミニ」から
の借用にすぎないのである。
また,「フェアリーポケットミニ」にも,ボディ部分の下部にストラッ
プ紐用の穴が設けられ,ストラップ紐が付属となっており,原告が独自の
形態として主張するCの構成(ストラップリングとストラップ紐)につい
ても,ほぼ同一の形態が「フェアリーポケットミニ」にも見られる。
ウそうすると,原告商品に先行する「フェアリーポケットミニ」と比較し
た場合に,原告商品の形態として固有なのは,α「ボディ部分に電池を内
蔵し,そのためのカバーが設けられている点」,β「全体の寸法が,『フ
ェアリーポケットミニ』の半分程度である点」にすぎないことになる。
そのうち,αについては,単に電源として,使い捨ての電池を採用した
というだけのことであって,電池をボディ部分に内蔵した場合に,カバー
が設けられることは当然であって,カバーの形態に特徴があるわけでもな
い。
また,全体の寸法についても,「フェアリーポケットミニ」の約半分と
いうにすぎず,基本的な用途として電気マッサージ器としても使用できる
という点は,「フェアリーポケットミニ」と何ら異なるところはなく,こ
の程度の差異では,原告商品の固有の形態上の特徴ということはできない。
このサイズは携帯用ストラップに付随する小物としては通常のサイズであ
り,何ら目新しいものでもない。
(2)原告商品と被告商品の商品形態が実質的に同一であるか(争点2)
(原告の主張)
ア被告商品の形態は,上記(1)(原告の主張)アの原告商品の形態の全て
の点において同一である。
イ原告商品は,それまでにない携帯電話機用ストラップとしても使える極
端に小さい寸法,大きさでありながら,実際に電気マッサージ器のように
振動することで,ジョークないしギャグとしての面白みを実現し,その面
白みをよく発揮する寸法・形状を追求し,これを需要者に訴求することに
よって大ヒットした商品である。被告商品のパッケージにおいて「ホンモ
ノの電マの1/5サイズ!」「毎分7500回転の超パワフル振動」「世
界最小のジョークフィギュア!!」などと,その小さい寸法,現に振動す
ること及びその面白みが強調されていること(甲33),原告商品と被告
商品はともに,その主要な販路であるドン・キホーテの一店舗において,
同一場所に並置されつつ,「ホンモノの電マの1/5サイズ」「世界最小
のジョークフィギュア」などというポップが設けられて販売されていたこ
と(甲29),被告商品とは別に原告商品を模倣した商品が,そのパッケ
ージに「コデンマと同じサイズ!」などと表示し,原告商品と同じ寸法で
あることを強調し販売・広告されていること(甲34)等が指摘できるの
であって,これらの事情に照らしても,原告商品及び被告商品を特徴づけ
ているのは,まさにその電気マッサージ器としては特異な寸法・形状であ
りながら現に振動することによる面白みという効果であって,原告商品の
寸法・形状は,これに接する者に対して,圧倒的に強い印象,すなわち,
健康器具・家庭用電気製品としての通常の大きさの電気マッサージ器とは
格段に異なった強い印象を与え,際だった形態的な特徴があるものとなっ
ている。
したがって,原告商品において「寸法を含む商品の外部及び内部の形
状」こそが,その形態の実質的同一性を判断する上で重視されるべき形態
的な特徴であることは明白である。
ウ雑貨・玩具・電化製品等の類の商品一般において,同一の寸法・形状で
模様・色彩だけが異なる商品が用意されること,ことに,雑貨・玩具の類
の商品では,その色違いの数は豊富であることは取引通念上明らかである。
また,それらの同型の色違いが用意される類の商品は,需要者に対して
も,各々の模様・色彩の商品が同型の商品の色違いの商品であることを示
すように並列して販売陳列・広告(販売サイト上の掲載を含む)されるの
が通常であるから,このような場合には,その商品の形態の同一性はその
型(すなわち,寸法・形状)によって担保され,その模様・色彩がその商
品の形態を特徴づける要素となる余地は乏しくなる。
これを本件についてみるに,原告商品は同型の3つの色違いが揃って同
時に販売を開始している。また,原告商品と被告商品の小売店における陳
列方法やインターネット上の販売方法を見ても,各々相互に“同型の色違
いの商品”として並置して陳列されて販売・広告されている(甲29,3
2)。加えて,原告も販売開始以前からより多数のカラーバリエーション
について検討した中から3つの色違いを選択したものにすぎず,原告商品
の売れ行きが好調であれば更に色違いの商品を製造しようとも考えていた
(甲32)。このことからすれば,原告商品において同型の色違いの商品
を作ることの着想は極めて容易であることが明らかである。
他方,原告商品ないし被告商品が特定の模様,色彩,光沢及び質感であ
ることが,「ジョークないしギャグとしての面白み」という効果に何らか
の無視できない程度の影響を及ぼしているような事情はうかがえない。
以上より,原告商品の「模様,色彩,光沢及び質感」が,その形態の実
質的同一性を判断する上で重視されるべき形態的な特徴でないことは明白
である。
エ被告商品イ~ハ,ト及びチは,原告商品同様いずれも2色を採用し,そ
の塗り分け部位すら同一であって,その相違点は配色パターンの違いのみ
である。また,被告商品イ~ハ,ト及びチは,そのパッケージに「COD
ENMA」と表示され,原告商品と同じ寸法,同じ形状のパッケージに包
装され(甲33),原告商品及び他の被告商品と並列的に小売店店舗及び
インターネット広告上に陳列,販売されていた(甲25,29)。
以上のとおり,被告商品イ~ハ,ト及びチは,塗り分け部位すら同一で,
色を共通にしたものや,配色を逆転させただけのものもあるなど,原告商
品との色彩の差異の程度すら極めて小さいものであって,これが原告商品
と商品形態において実質的に同一と評価されるべきであることは明らかで
ある。
オ被告商品ニ~ヘと原告商品との相違点は,本体部分が半透明のスケルト
ンであり,原告商品と模様,色彩及び光沢が異なることのみである。
雑貨・玩具・電化製品等の類の商品一般において,いわゆる“色違い”
の中に,スケルトンが用意されることも今日的に通常のことである(甲4
2~44)。
被告商品ニ~ヘが,原告商品及び被告商品イ~ハの同型の色違いにすぎ
ないことは,被告商品ニ~ヘが,原告商品と同じ寸法,同じ形状のパッケ
ージに包装され,そのパッケージに「SkeletonCODENM
A」などと表示されていること,原告商品と同じ寸法,同じ形状のパッケ
ージに包装されていること(甲45),原告商品及び他の被告商品と並列
的に小売店店舗及びインターネット広告上に陳列,販売されていたこと
(甲25,29)からも明らかである。
以上のとおり,被告商品ニ~ヘに見られる原告商品との相違点は実質的
同一性の判断において重視されるべき要素でない色彩及び光沢の違いでし
かなく,被告商品ニ~ヘの商品形態も原告商品のそれと実質的に同一と評
価すべきことは明らかである。
(被告らの主張)
先行する「フェアリーポケットミニ」と比較した場合,原告商品の形態上
の固有の特徴は皆無か極めて小さいというべきである。
これを前提に,被告商品と原告商品とを比較すると,被告商品イ~ハ,ト
及びチは,原告商品と配色が異なっており,その差異は,原告商品の形態上
の特徴が皆無かわずかであるという事実を考慮したとき,無視できないもの
であり,原告商品と形態が同一とはいえない。
被告商品ニ~ヘは,ボディ全体をスケルトンにするという独自の形態上の
特徴があり,原告商品と形態が同一とはいえない。
(3)原告商品が被告会社にとって不正競争防止法2条1項3号の「他人の商
品」に当たるか(争点3)
(原告の主張)
ア原告商品の企画・発案・開発の経緯は,以下のとおりである。
(ア)原告代表者は,平成21年3月中旬までに,「超小型の電気マッサ
ージ器としても使用できる,携帯電話に付けて持ち運べる小型雑貨を発
表すれば売れるのではないか」との発案を得,この発案を元にした商品
を開発すべく,商品の仕様等の検討作業を開始させた。
(イ)企画・開発にかかる作業を担当したBは,金型・製品サンプルの製
作を委託する事業者の選定を行い,平成21年4月25日までに,これ
を中国深圳に工場を保有している香港法人に決定した。
Bは,平成21年4月25日,香港法人に対し,原告商品の見積依頼
をした。この際,Bは,原告商品の形態のすべての基本的要素(寸法,
外部・内部の形状)を示した図面を添付している(甲7)。
その後も,Bは,継続して,商品全体の形状・寸法,それらを決定す
る前提で必要となる諸要素である電源・動力(モータ)の選択,電源・
動力部分の配置,各構成パーツの寸法・形状・素材・結合の方法などを
具体的に検討し,商品形態の微細な点(1~2mm単位での寸法の調整,
発色・光沢)にまで関わる試案の作成・その改良・修正を行い,その結
果を香港法人に対して指示した(甲8~10,12~15)。
(ウ)原告は,平成21年7月7日,香港法人に対し,原告商品の金型制
作費(3284米ドル)を支払った(甲10,17)。
原告は,平成21年7月10日,香港法人に対し,原告商品(本体・
電池付)3万個の製造を発注した。当該発注は,原告商品(本体・電池
付)の初回の発注であり,当該発注にかかる製造費は合計4万7910
米ドル(単価1.597米ドル)とされた(甲12,16)。
原告は,香港法人に対し,上記商品製造費について,平成21年10
月30日9582米ドル,同年11月19日3万米ドル,同年12月2
1日8328米ドルを支払った(甲16,18~20)。
イこの間の原告と被告らとの関わりは,以下のとおりであった。
(ア)原告は,平成21年3月下旬頃から,原告商品の販売元の候補とな
る複数の事業者に連絡を取り,原告商品の取扱いを打診した。
原告代表者は,平成21年4月16日,共通の知人の紹介によって,
初めて被告Aと原告オフィスにて面談した。被告Aは,原告商品に大変
興味を持ち,ぜひ自分の会社で取り扱わせて欲しいと申し出た。
その後,原告と被告会社との間で,原告商品の上代価格(小売価格),
卸価格の設定等の話し合いを経て,被告会社が原告商品の販売元となる
ことが口頭にて申し合わされた。その上で,原告は,平成21年12月
頃,原告商品の販売を開始した。
(イ)平成21年12月以前に,被告会社側の関係者から原告に対し,原
告商品の形態の構成要素について,独自のアイデア・意見・修正案等が
述べられたことは一度もない。
原告は,被告らに対し,原告商品の企画,開発,製造にかかる費用の
負担を求めたことはないし,実際にも,被告らは,原告商品の企画,開
発,製造にかかる費用の負担していない。
被告らが支払を約束した金銭は,原告が被告会社に原告商品を販売し
た代金(卸販売代金)のみであり,実際,被告らは,原告に対し,卸販
売代金以外の金銭を支払っていない。
(ウ)原告は,原告商品の販売開始当初から,独自に被告会社以外の卸販
売事業者を選定・確保して,原告商品を販売し,原告自らの労力及びリ
スクと費用の負担により,原告商品を市場に置いている(甲21)。
ウ以上のとおり,原告商品の形態にかかる全ての要素につき,商品として
市場で流通可能な状態にまで決定した者は原告にほかならず,被告らは,
原告商品の形態の構成要素に関し,何ら具体的なアイデア提供又はその創
作・考案上の貢献・関与もしていないし,労力・費用の負担もしていない。
原告商品の形態は,被告らにとって「他人」(不正競争防止法2条1項
3号)のものである。
(被告らの主張)
ア原告商品は,原告と被告会社が共同で,企画・発案・開発・製造したも
のであり,不正競争防止法2条1項3号の「他人の」商品の形態には該当
しない。
イ平成21年夏頃,被告Aと原告代表者との間で,当時すでに発売されて
いた中型(10センチ大程度)の電気マッサージ器を小型化して,携帯ス
トラップの形にした商品を制作販売しようとの企画が持ち上がった。被告
Aは,既存の電気マッサージ器を小さくしたいというアイデアのみで,サ
イズ,形状等の具体的なことが何一つ決まっていない段階から,原告代表
者と打合せを重ね,電池方式にすべきこと,携帯ストラップにした方が売
れると思われること,まずはサンプルを作るべきであること,首の部分を
揺れる形ではなく固定にした方がいいことなど,携帯の開発に不可欠で重
要な提案をしている。その後,両者の間において,形や色などの打ち合わ
せが重ねられた。
ウ商品の仕様が固まって来た段階で,原告代表者が3万個は製造しないと
金型代も出ないと費用面を心配していたため,原告と被告会社との間で,
①原告商品の製造金型代を被告会社が負担する,②原告が当初作成する3
万個全てを被告会社が買い取り返品はしない,③原告は被告会社に無断で
原告商品を販売しないと合意した。
エ原告商品の販売開始後,被告会社の積極的な営業活動によって,当初は
順調に販売が伸びていたが,次第に多くのディスカウントショップ,ネッ
トショップなどで,廉価な模造品が販売されるようになり,それに対抗し
て,被告会社も,原告商品の価格を下げざるを得ない状況になった。
そこで,被告会社は,原告に対し,被告会社に販売する際の卸売価格を
下げるように要請したが,結局合意に至ることはできなかった。やむなく,
被告会社は,原告に対し,他の製造元にあたる旨を告げ,原告も特にこれ
に対し異議は述べなかった。
オ以上のとおり,被告会社は,原告商品の企画・開発の段階から深く関与
しており,「他人の」商品の形態には該当しない。
(4)被告らの故意又は過失及び共同関連性の有無(争点4)
(原告の主張)
ア被告会社は,原告商品の人気ぶり・好調な売れ行きを当事者として認識
した上で,平成22年5月から,被告商品の製造,販売を行った。また,
被告Aは,被告会社の代表取締役として,被告会社の経営・事業を支配し,
実際にも,原告との間の原告商品に関する取引及び被告商品の製造,販売
に自らも積極的に関与していた。
以上のとおり,被告らは,不正競争行為について,それぞれ故意又は少
なくとも過失があり,被告らの間に共同行為者としての関連共同性がある
ことは明白である。
イ被告Aの責任についての反論
本件においては,①被告Aが不正競争行為の期間を通じて被告Aが被告
会社の唯一の代表取締役であること(甲2),②被告Aが原告商品の卸販
売について自ら原告との交渉に当たっていたこと(甲22,被告A本人),
③被告Aが,原告代表者に無断で,自らの名義において原告商品の商品名
である「CODENMA」につき商標登録を行っていること(乙4,被告
A本人,証人B),④被告会社が被告商品の販売先に対し交付したという
「廃盤商品のお知らせ」と題する文書(乙11)において,被告会社にお
ける担当者が被告Aである旨明示されていることなどからすれば,被告会
社において,被告商品の譲渡を中心となって行ったのが被告Aであること
は明らかであり,不正競争行為は,被告A個人の行為と評価でき,また,
被告Aに故意又は過失があったことも明らかである。
(被告らの主張)
ア原告の主張アは争う。
イ原告は,被告Aについて,被告会社の代表取締役として被告の経営・事
業を支配し,実際にも,原告との間の原告商品に関する取引及び被告商品
の製造,販売にも自らも積極的に関与していたと主張するのみである。し
かるに,代表取締役であれば,経営・事業を支配するのは当然であるし,
代表取締役が取引や被告商品の製造・販売等の,法人の事業に携わるのも
当然のことである。このような代表取締役としての当然の行為をもって,
法人とは別に,代表取締役個人の賠償責任が認められるはずがない。
(5)損害額(争点5)
(原告の主張)
ア一般不法行為に基づく損害額
(ア)原告は,不正競争行為がなければ,原告商品の販売が開始された平
成21年12月から平成22年5月までの月平均販売数量である1万7
919個の販売数量を,同年6月以降も維持できたことが明らかである。
被告らが被告商品の販売を継続していることに照らせば,原告は,同月
以降少なくとも平成24年6月までの25か月間,1万7919個の月
平均販売数量を維持できたと認められるべきである。一方,平成24年
6月以降現在までの原告商品の販売総数は1万9862個である。
よって,不正競争行為がなければ販売できた原告商品の個数は,1万
7919個に25を乗じ,1万9862個を控除した42万8113個
を下回らない。
(イ)逸失利益の額は,不正競争行為がなければ販売できた原告商品の個
数に,原告商品の1個当たりの利益の額を乗じて算出すべきところ,原
告商品の1個当たりの利益の額については,不正競争防止法5条1項の
「被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位
数量当たりの利益の額」と同様に考えられる。
不正競争防止法5条1項の利益は,不正競争行為がなければ,その被
侵害者が追加的に被侵害物品を譲渡することができたことにより生じる
利益をいうと解される。そうすれば,利益の額を算出するに当たり販売
価額から控除すべき経費は,当該数量の被侵害者製品を追加して販売す
るために追加的に必要であったはずの経費(変動経費)をいうものと解
される。
別紙原告商品の販売状況一覧表によれば,原告商品の販売が開始され
た平成21年12月から被告商品の販売が開始された平成22年5月ま
での原告商品1個当たりの売上金額は371.76円/個である。
また,別紙原告商品の製造原価計算書によれば,原告が原告商品合計
17万個を製造するに当たって投じた経費の合計金額は2789万12
17円であり,原告商品1個当たりの経費は同金額を17万個で除した
164.07円/個である。
よって,本件における「被侵害者がその侵害の行為がなければ販売す
ることができた物の単位数量当たりの利益の額」は371.76円/個
-164.07円/個=207.69円/個である。
(ウ)以上のとおり,原告商品の1個当たりの利益の額は207.69円
/個であり,原告が被告らによる不正競争行為がなかったら販売できた
原告商品の個数は42万8113個を下回らないのであるから,原告の
逸失利益の額は,8891万4788円(1円未満切捨て)を下回らな
い。
不正競争行為により原告が本件訴訟の提起を余儀なくされたこと,本
件事案の性質,内容及び審理の経過等に照らせば,不正競争行為と相当
因果関係が認められ,被告らに負担させるべき弁護士費用は500万円
を下回らない。以上に加えて,原告は,以下の損害額を選択的に請求す
る。
イ不正競争防止法5条1項に基づく損害額
(ア)被告商品の譲渡数量は,株式会社ドン・キホーテ(以下「ドン・キ
ホーテ」という。)販売分8万9370個及び株式会社ティーアイエス
(以下「ティーアイエス」という。)販売分5万1254個の合計14
万0624個を下回らない。
(イ)上記ア(イ)のとおり,不正競争防止法5条1項にいう「被侵害者が
その侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの
利益の額」は207.69円/個である。
(ウ)以上のとおり,被告商品の譲渡数量は14万0624個を下回るこ
とはなく,原告商品の単位数量当たりの利益の額は207.69円/個
であるから,原告の逸失利益の額は,同譲渡数量と同利益の額を乗じて
得られる2920万6198円(1円未満切捨て)を下回らない。
上記ア(ウ)のとおり,被告らに負担させるべき弁護士費用は500万
円を下回らない。
ウ不正競争防止法5条2項に基づく損害額
(ア)被告商品の1個当たりの売上額は,ドン・キホーテ販売分が482
円/個であり,ティーアイエス販売分が336円/個である(乙13)。
被告会社は,有限会社オークションテレビに被告商品を製造させ,そ
れを購入して頒布していたことがうかがわれ,被告商品の購入数量は合
計13万4455個,合計購入額は2729万2244円で,被告商品
の1個当たりの購入額は202.98円/個である(乙16の1~4)。
被告会社が上記合計購入額以外に有限会社オークションテレビに金員
を支払っている事実がないことからすれば,上記合計購入額には,本来
被告商品の売上額から控除されるべきでない被告商品の金型代等の開発
費用,製造管理費等が含まれていると考えるほかない。本件において,
被告商品の1個当たりの変動経費は202.98円を上回ることがない。
(イ)以上のとおりであるから,被告商品1個当たりの限界利益は,ド
ン・キホーテ販売分につき,被告商品の1個当たりの売上額482円/
個から変動経費202.98/個を控除した279.02円/個を下回
らず,ティーアイエス販売分につき,被告商品の1個当たりの売上額3
36円/個から変動経費202.98円/個を控除した133.02円
/個を下回らない。
被告らの限界利益は,ドン・キホーテ販売分につき「被告商品1個当
たりの限界利益」279.02円/個に「被告商品の譲渡数量」8万9
370個を乗じた2493万6017円(1円未満切捨て)を下回らず,
ティーアイエス分につき「被告商品1個当たりの限界利益」133.0
2円/個に「被告商品の譲渡数量」5万1254個を乗じた681万7
807円(1円未満切捨て)を下回らないのであって,その合計は31
75万3824円を下回らない。
(ウ)上記ア(ウ)のとおり,被告らに負担させるべき弁護士費用は500
万円を下回らない。
エ不正競争防止法5条1項ただし書の事情(及び推定覆滅事情)等につい
ての反論
(ア)侵害者の営業努力としては,㋐侵害者の広告等の営業努力,㋑市場
開発努力,㋒独自の販売形態,㋓企業規模,㋔ブランドイメージ等が侵
害品の販売促進に寄与したこと,㋕侵害品の販売価格が低廉であったこ
と,㋖侵害品の性能が優れていたこと,㋗侵害品において商品形態模倣
が認められる部分以外に売上げに結び付く特徴が存在したこと等が考え
られる。
しかし,被告会社の営業努力として,㋒から㋗の事情が認められない
ことは明らかである。㋐侵害者の広告等の営業努力について,被告Aは,
本人尋問において,原告商品の無料配布を行ったなどと述べたが,具体
性を欠く陳述であって認められないばかりか,被告Aの陳述を前提とし
ても,原告商品の販売開始時期前後に行われたというのであるから,侵
害者の広告等の営業努力に当たらない。㋑市場開発努力については,原
告商品の主な販路は被告会社(被告会社の原告商品の主な譲渡先はド
ン・キホーテ)及びティーアイエスであったが,被告商品の主な販路は
ドン・キホーテ及びティーアイエスであったから,販路の獲得・拡大は
皆無であり,被告会社の市場開発努力はないといわざるを得ない。
(イ)ティーアイエスは,乙12号証のメールを原告に送信し,それを被
告会社に転送しているが,これは被告商品の仕入れの継続を前提として
原告との取引を停止する旨の申し合わせがあったと考えなければ極めて
不自然なものであって,ティーアイエスはそのような申し合わせに従っ
て,原告との取引を停止したかのようなメールを送信したと考えるほか
なく,同メール記載の内容が事実を反映したものであるとは到底考えら
れない。
(ウ)乙17号証の1及び2を見ても,それらに表示された商品が,原告
商品の形態模倣品ではないことは全く明らかでないし,市場においてい
つからいつまでの間販売されていたものか,原告商品と市場で競合する
ものか,販売数量や市場占有率についての立証もない。被告商品の販売
当時,原告商品を模倣した競合商品が相当多数存在したなどという事実
自体が認められない。
(被告らの主張)
ア原告の主張アは否認する。同イのうち,被告商品の譲渡数量(ドン・キ
ホーテ販売分8万9370個及びティーアイエス販売分5万1254個),
原告の限界利益(207.69円/個)は認め,その余は否認する。同ウ
のうち,被告商品の譲渡数量は認め,その余は否認する。
イ一般不法行為に基づく損害額について
原告は,平成22年10月,当時の大口取引先であるティーアイエスに
無断で同種の製品の廉価版を他の取引先に販売しようとしたことにより同
社の信用を失い,取引を打ち切られている(乙12)。そして,その時期
を境に原告の売上が激減し,翌月からは全く販売できていない(別紙原告
商品の販売状況一覧参照)。
原告は,平成22年6月以降も原告が同じペースで原告商品を販売でき
たと主張するが,乙12号証に照らしても明らかに事実的根拠を欠いてい
る。原告商品の売上が激減したのは,専ら原告がティーアイエス社の信用
を失い取引を打ち切られたことが原因であり,被告らの行為とは因果関係
がない。
ウ不正競争防止法5条1項に基づく損害額について
被告会社の売上は,専ら被告会社の営業努力によってもたらされたもの
であり,原告にはそのような売上を挙げる能力がなかった。また,原告は,
ティーアイエスに取引を打ち切られると,以後,原告商品を全く販売でき
ていない(乙12,別紙原告商品の販売状況一覧参照)。このことは,原
告にはティーアイエスを通じてしか原告商品を販売する能力がなかったこ
と,あるいは少なくとも原告の営業能力が極めて低かったことを端的に示
す事実である。さらに,乙17号証に示すように,被告商品の販売当時,
市場には原告商品を模倣した競合商品は相当多数存在した。
以上を考慮すれば,不正競争防止法5条1項ただし書の被侵害者が販売
することができないとする事情は,少なくとも全体の95%はあるという
べきである。
エ不正競争防止法5条2項に基づく損害額について
被告商品1個当たりの限界利益は,ドン・キホーテ販売分は200円程
度,ティーアイエス販売分は50円程度である。
上記ウのとおり,推定覆滅事情があり,その結果,推定される賠償額の
うち95%が覆滅される。
第3当裁判所の判断
1原告商品の形態が不正競争防止法2条1項3号によって保護される「商品の
形態」に当たるか(争点1)について
(1)不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」が保護されるのは,先行
者が商品形態の開発のために投下した費用・労力の回収を可能にすることに
より,公正な競業秩序を維持するためであると解される。商品の形態があり
ふれた形態であって,その開発のために特段の費用・労力を要しないような
場合は,同号による保護の必要が認められないから,そのような場合には,
同号の「商品の形態」には当たらないものと解するのが相当である。
本件において,被告らは,原告商品の形態は,原告商品に先行して販売さ
れていた電気マッサージ器「フェアリーポケットミニ」(対照商品)の形態
と実質的に同一であり,その他電気マッサージ器の形態とも実質的に同一で
あって,ありふれたものであるとして,不正競争防止法2条1項3号の「商
品の形態」に当たらない旨主張する。
(2)アそこで検討するに,前提事実(2)に加え,証拠(甲56,検甲1~3に
係る検証の結果)によれば,原告商品の構成は,別紙原告商品目録記載3,
別添写真目録及び図面のとおりである。
原告商品は,プラスチック製であり,その全体の形状は,①半球状の滑
らかな先端部とそれに接続する溝のある円柱からなるヘッド部分,②始端
部がヘッド部分に接続し,始端部はヘッド部分より細く,ヘッド部分から
離れるに従ってより細くなる円すい状台とこれに接続する蛇腹状の円柱体
からなるネック部分,③円柱体に接続する涙型のボディ部分,④ボディ部
分末端に空けられた穴に通されたストラップリング及びストラップリング
に付けられたカニカン(接続金具),⑤カニカンに付けられたストラップ
紐によって構成され,その全長64mm,ヘッド部分の長さ15mm・最
大径18mm,ネック部分の長さ7mm・最大径9mm,ボディ部分の長
さ42mm・最大径19mm,ストラップリング穴の直径2mmである。
ボディ部分のほぼ中央には,電源を入れるための楕円形状のスイッチ穴
が設けられ,スイッチ穴からは同じく楕円形状のスイッチがスイッチ穴か
ら滑らかに盛り上がるように設けられている。スイッチ表面には滑り止め
の縞状の凹凸が設けられている。スイッチ穴近傍のヘッド側本体部分には
「ON」の文字が刻まれており,「ON」の文字の凹みの長さは2mm・
幅3mmである(色彩については別紙原告商品目録の別添写真目録参照)。
原告商品は,その大きさから,電気マッサージ器としての用途のほか携帯
ストラップとしても使用できることが認められる。
イ他方で,証拠(乙5,6,検乙4に係る検証の結果)によれば,「フェ
アリーポケットミニ」(対照商品)は,平成21年5月に発売された電気
マッサージ器である。
「フェアリーポケットミニ」は,プラスチック製であり,その構成(付
属のオリジナルストラップを付けた構成)は,①半球状の滑らかな先端部
とそれに接続する溝のある円柱からなるヘッド部分,②始端部がヘッド部
分に接続し,始端部はヘッド部分より細く,ヘッド部分から離れるに従っ
てより細くなる円すい状台とこれに接続する蛇腹状の円柱体からなるネッ
ク部分,③円柱体に接続する涙型のボディ部分,④ボディ部分末端に空け
られた穴に付けられたストラップ紐によって構成され,その全長146m
m,最大径25mmである。ボディ部分のヘッド側約3分の1の部分に,
電源を入れるための細長い形状のスイッチ穴が設けられ,スイッチ穴には
同じく細長く平たい形状で表面に滑り止めの筋状の凹凸が設けられたスイ
ッチが設置されている。
原告商品1「フェアリーポケットミニ」
(3)以上に基づいて,原告商品と「フェアリーポケットミニ」とを比較する。
「フェアリーポケットミニ」の基本的な構成は,ストラップ紐を本体に接
続するためのストラップリング及びカニカン(接続金具)が存在しない点を
除けばほぼ同一である。もっとも,ボディ部分の涙型は,原告商品がずんぐ
りとした形状であるのに対し,「フェアリーポケットミニ」は細長い形状で
あるという相違がある。また,このほか,スイッチ部分の位置や形状につい
ても相違がある。このような相違点が存在するものの,両商品の全体の形状
が相当程度類似していることは否定できない。
しかしながら,「フェアリーポケットミニ」は,全長が146mmである
のに対し,原告商品の全長は64mmであり,「フェアリーポケットミニ」
の全長の半分未満である。そのため,原告商品が携帯ストラップとしても使
用できるのに対し,「フェアリーポケットミニ」は,ストラップを付けるこ
とができるものの,携帯ストラップとしての使用に適するものではない。
そして,原告商品の発売以前において,原告商品の全長と同じ程度の長さ
の電気マッサージ器が存在したことを認めるに足りる証拠はない(「フェア
リーポケットミニ」の商品説明〔乙5〕では,「世界最小の電マ,フェアリ
ーポケットミニ完成。」と記載されている。)。
そうすると,原告商品は,その全長を極端に小さくした構成を採用するこ
とによって,電気マッサージ器としてのみならず携帯ストラップとしても使
用できるものとしたことに形態的特徴があり(原告は,このような新たな用
途の商品として開発するため,小型化のための工夫等を含めて費用・労力を
投下したものと認められる。),そのような商品は原告商品の発売以前にお
いては存在しなかったのである。したがって,先行商品として「フェアリー
ポケットミニ」存在するからといって,原告商品の形態がありふれた形態で
あるということはできず,他に原告商品のような用途の商品について類似の
形態の商品が流布していたことを認めるに足りる証拠もない。
以上のとおり,原告商品の形態は,不正競争防止法2条1項3号によって
保護される「商品の形態」に当たると認められる。
(4)これに対し,被告らは,原告商品の全長が短いとしても,電気マッサー
ジ器としても使用できるという点は,「フェアリーポケットミニ」と異なる
ところはなく,この程度の差異では,原告商品の固有の形態上の特徴ではな
いし,携帯用ストラップに付随する小物としては通常のサイズであるなどと
主張する。しかしながら,上記(2)のとおり,原告商品は,その全長を極端
に小さくした構成を採用することによって,電気マッサージ器と携帯ストラ
ップとしての使用を両立させたことに特徴があるから,電気マッサージ器と
携帯ストラップのそれぞれから比較するだけでは不十分であり,被告らの主
張は採用できない。
2原告商品と被告商品の商品形態が実質的に同一であるか(争点2)について
(1)ア原告商品の構成は,前記1(2)アのとおりである。
イ他方,被告商品の構成は,別紙被告商品目録記載3,別添写真目録及び
図面のとおりである。
被告商品は,プラスチック製であり,その全体の形状は,①半球状の滑
らかな先端部とそれに接続する溝のある円柱からなるヘッド部分,②始端
部がヘッド部分に接続し,始端部はヘッド部分より細く,ヘッド部分から
離れるに従ってより細くなる円すい状台とこれに接続する蛇腹状の円柱体
からなるネック部分,③円柱体に接続する涙型のボディ部分,④ボディ部
分末端に空けられた穴に通されたストラップリング及びストラップリング
に付けられたカニカン(接続金具),⑤カニカンに付けられたストラップ
紐によって構成され,その全長64mm,ヘッド部分の長さ15mm・最
大径18mm,ネック部分の長さ7mm・最大径9mm,ボディ部分の長
さ42mm・最大径19mm,ストラップリング穴の直径2mmである。
ボディ部分のほぼ中央には,電源を入れるための楕円形状のスイッチ穴
が設けられ,スイッチ穴からは同じく楕円形状のスイッチがスイッチ穴か
ら滑らかに盛り上がるように設けられている。スイッチ表面には滑り止め
の凹凸が設けられている。スイッチ穴近傍のヘッド側本体部分には「O
N」の文字が刻まれており,「ON」の文字の凹みの長さは2mm・幅3
mmである(色彩については別紙被告商品目録の別添写真目録参照)。
ウ原告商品と被告商品とを比較すると,原告商品と被告商品は,いずれも
プラスチック製であり,①半球状の滑らかな先端部とそれに接続する溝の
ある円柱からなるヘッド部分,②始端部がヘッド部分に接続し,始端部は
ヘッド部分より細く,ヘッド部分から離れるに従ってより細くなる円すい
状台とこれに接続する蛇腹状の円柱体からなるネック部分,③円柱体に接
続する涙型のボディ部分,④ボディ部分末端に空けられた穴に通されたス
トラップリング及びストラップリングに付けられたカニカン(接続金具),
⑤カニカンに付けられたストラップ紐によって構成され,さらに,ボディ
部分のほぼ中央には,電源を入れるための楕円形状のスイッチ穴が設けら
れ,スイッチ穴からは同じく楕円形状のスイッチがスイッチ穴から滑らか
に盛り上がるように設けられている。スイッチ表面には滑り止めの凹凸が
設けられている。スイッチ穴近傍のヘッド側本体部分には「ON」の文字
が刻まれている。そして,その全長,ヘッド部分の長さ・最大径,ネック
部分の長さ・最大径,ボディ部分の長さ・最大径,スイッチ上部の「O
N」の凹みの長さ・幅,ストラップリング穴の直径,「ON」の文字の大
きさが同じであるから,それぞれの外部の形状はほぼ同じであると認めら
れる。
他方で,被告商品イ~ハ,ト及びチは配色が異なる点で原告商品と相違
し,被告商品ニ~ヘはボディ全体がスケルトンである点で原告商品と相違
する。
(2)そこで,上記の相違について検討する。
ア不正競争防止法2条1項3号の「模倣する」とは,他人の商品の形態に
依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう(同条
5項)。そして,問題とされている商品の形態に他人の商品の形態と相違
する部分があるとしても,その相違がわずかな改変に基づくものであって,
商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な相違に
とどまると評価される場合には,当該商品は他人の商品と実質的に同一の
形態というべきである。これに対して,当該相違部分についての改変の着
想の難易,改変の内容・程度,改変が商品全体の形態に与える効果等を総
合的に判断したときに,当該改変によって商品に相応の形態的特徴がもた
らされていて,当該商品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類否の
上で無視できないような場合には,両者を実質的に同一の形態ということ
はできない。
イこれを本件についてみるに,原告商品が3種類の異なる配色のものであ
る上,証拠(甲13,32,53)によれば,原告は,原告商品の発売以
前である平成21年7月頃,スケルトンカラーの原告商品を検討していた
こと,原告は,原告商品の発売後である平成22年3月頃,原告商品とは
違う配色の商品を検討していたことが認められるから,異なる配色あるい
はスケルトンに改変することが着想として困難であるとは認められないし,
このような改変が実際に困難であった事情も見当たらない。
そして,前記1(3)のとおり,原告商品は,その全長を極端に小さくし
た構成を採用することによって,電気マッサージ器としても携帯ストラッ
プとしても使用できるものとしたことに形態的特徴があるから,異なる配
色あるいはスケルトンに改変することによって,形態全体に与える効果は
乏しいものと認められる。これは,被告商品のパッケージには,「ホンモ
ノの電マの1/5サイズ!!」(判決注記:「1/5」は他の文字よりもフ
ォントが大きい。),「全長65ミリ」,「待望の新カラー登場!!」ある
いは「スケルトンモデルが新登場!!」等と記載されているが(甲33,4
5,57,58),その中では新カラーやスケルトンモデルであることよ
りも,その小ささが強調されていることからも裏付けられる。
そうすると,原告商品と被告商品との相違は,その相違がわずかな改変
に基づくものであって,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全
体から見て些細な相違にとどまると評価するのが相当である。
ウしたがって,被告商品は原告の商品と実質的に同一の形態というべきで
ある。
(3)以上のとおり,原告商品と被告商品の商品形態は実質的に同一である。
そして,前提事実(2)及び(3)のとおり,被告会社は,被告商品の販売以前
に,原告商品の販売元として,原告から原告商品を購入していたのであって,
被告商品の形態は原告商品の形態に依拠したものである。
したがって,被告会社は,原告商品の形態を模倣した被告商品を販売した
ものと認められる。
3原告商品が被告会社にとって不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」
に当たるか(争点3)について
(1)被告らは,原告商品が原告と被告会社の共同開発である旨主張するので
検討するに,後掲の証拠によれば,以下の各事実が認められる。
ア原告代表者は,平成21年3月頃,電気マッサージ器が携帯ストラップ
程度に小さくなると面白いのではないかと考え,原告従業員であるBに対
し,そのような商品の開発を指示した。Bは,金型や製品サンプルの製作
を委託する事業者として,中国深圳に工場を有する香港法人(Shenzhen
MeizhiPlasticandElectoronicsCo.Ltd.)を選定し,平成21年4月
25日,香港法人に対し,企画書を送付して見積りを依頼した。当該企画
書に記載された「マイクロ電マ」は,その全長62mm,ヘッド部分の長
さ15mm・最大径15mm,ネック部分の長さ7mm・最大径7mm,
ボディ部分の長さ40mm・最大径17mmというものであり,ボタン電
池1個を使用すること,ヘッド部分はボディ部分と一体で曲がらなく構わ
ないこと,ストラップ取付用リングを付けることなどが記載されていた。
(甲7,32,証人B)
イその後,Bは,モータのサイズ,ヘッド部分とネック部分の素材と色,
ボディ部分に凹凸を付けること,スイッチ周りの凹凸,ボディ部分の色,
電源の方式等の検討を行って,同年6月19日,香港法人に対し,最終見
積依頼の仕様を伝えた。Bは,香港法人に対し,同年7月3日,最終仕様
を伝え,同月7日,金型製作費3284米ドルを支払った。
(甲8~11,17,32)
ウBは,同月10日,香港法人に対し,色のバリエーションを三色に減ら
した上で,3万個の製造を注文した。さらに,Bは,ボディ部分の幅,ヘ
ッド部分の固定方法等の調整を行い,同年8月下旬頃,原告商品の最終図
面を完成させた。Bは,当該図面に基づいてサンプルを製造させ,サンプ
ルでの確認等を経て,同年10月下旬頃,香港法人に対し,原告商品の製
造を指示した。原告商品は,同年12月14日頃,発売が開始された。
(甲12~16,32,48~52,証人B)
エ原告は,香港法人に対し,原告商品3万個の製造代金として,同年10
月30日9582米ドル,同年11月19日3万米ドル,同年12月21
日8328米ドルを支払った。
(甲16,18~20,弁論の全趣旨)
オ原告代表者は,同年4月16日,原告事務所において,他の商品の商談
のため,初めて被告Aと面談した。被告Aは,原告商品の発売までに,原
告事務所を13回訪問しているが,Bは,被告Aに対し,原告商品の具体
的な開発状況や金型製作費の支払について説明したことはなかった。
(甲22,乙7,証人B,被告A本人)
(2)以上に照らすと,原告商品を開発・商品化して市場においた者は原告で
あると認めるのが相当である。
これに対し,被告Aは,陳述書(乙7)及び本人尋問において,原告商品
について,①USB充電方式ではなく電池方式にすること,②携帯ストラッ
プとすること,③首の部分を固定にすること,④当初製造する3万個は被告
会社が全て買い取ること,⑤金型代は当初の3万個の卸値に上乗せして構わ
ないことを提案した旨供述する。
しかしながら,上記②及び③については,Bが香港法人に対して送付した
企画書に記載されていたことであるが(上記(1)ア),被告Aは,陳述書で
は,平成21年5月に提案した旨供述し,本人尋問では,時系列がはっきり
しない旨供述する。加えて,上記①~⑤については,被告Aの供述以外に裏
付けとなる証拠はなく,被告Aの陳述は全体として抽象的で具体的な内容の
乏しいものであるから,容易にこれらを認めることができない。
そして,上記(1)に認定した事実に照らすと,原告商品が原告と被告会社
の共同開発であったことを肯定できる事情は認められないし,その他これを
的確に認めることができる証拠もない。
(3)以上のとおり,原告商品が被告会社にとって不正競争防止法2条1項3
号の「他人の商品」に当たると認められる。
4被告らの故意又は過失及び共同関連性の有無(争点4)について
前記3のとおり,被告会社は,原告商品の形態を模倣した被告商品を販売し
たものと認められる。
そして,証拠(甲22,乙1,4,7,11の1及び2,証人B,被告A本
人)によれば,被告Aは,自ら原告商品の商談を行っていること,被告Aは,
平成22年3月,商標「コデンマ/CODENMA」を登録出願したこと,被
告会社は,同年4月,被告Aを創作者として,原告商品及び被告商品に類する
意匠を出願していること,被告会社が被告商品を廃盤にした際の「お知らせ」
には被告Aが担当者として記載されていることが認められる。
以上に照らすと,被告Aも原告商品の形態を模倣した被告商品の販売に積極
的に関与していたと認めるのが相当であるから,被告らは,原告商品の形態の
模倣について,共同して行ったと認められるし,故意があることも認められる。
したがって,被告らは,原告に対し,被告会社につき不正競争防止法4条及
び被告Aにつき不法行為に基づく損害賠償責任があり,連帯して損害賠償を支
払う義務がある。
5損害額(争点5)
(1)まず,原告は,不正競争行為がなければ,原告商品の販売が開始された
平成21年12月から平成22年5月までの月平均販売数量である1万79
19個の販売数量を,同年6月以降も維持できたとし,一般不法行為に基づ
く損害額を主張する。
そこで検討するに,前提事実(2)(別紙原告商品の販売状況一覧)及び(3)
のとおり,被告会社は,平成22年5月,原告商品の取扱いを中止したが,
原告は,同年10月まで,被告会社以外に原告商品を販売していたことが認
められる。そして,証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば,ティーアイ
エスは,平成22年10月16日,原告に対し,原告が他社に対して原告商
品の類似商品である「デンマン」を提案しているため,原告商品の取扱いを
中止する旨通知していることが認められ,そのため,原告は,同年11月以
降,原告商品を販売できなかったものと推認される(別紙原告商品の販売状
況一覧参照)。
以上に照らすと,原告は主として卸売り会社を通じた販売ルートで原告商
品を販売しており,しかも原告の取引先である卸売り会社の数は限定されて
いたものと認められる。そうすると,原告の取引する卸売り会社の中で中核
的存在であった被告との取引が平成22年5月に終了した後に,被告の不正
競争行為がなければ平成22年5月までの月平均販売数量をその後もそのま
ま維持できたとは認められないし,その他これを認めるに足りる証拠もない
から,これを前提とする原告の損害主張は認められない。
これに対し,原告は,乙12号証のメールについて,被告商品の仕入れの
継続を前提として原告との取引を停止する旨の申し合わせがあったと考えな
ければ極めて不自然なものである旨主張する。しかしながら,同メールには,
原告作成の提案資料が添付されていること,Bは,証人尋問において,ティ
ーアイエスの取扱い中止について質問されるも,あいまいな供述に終始して
いることに照らすと,原告の主張は採用できない。
(2)続いて,不正競争防止法5条1項に基づく損害について検討する。
ア被告商品の販売により原告の営業上の利益が侵害されたことは明らかで
ある。そして,被告商品の譲渡数量が14万0624個(ドン・キホーテ
販売分8万9370個及びティーアイエス販売分5万1254個)である
こと及び原告商品1個当たりの利益の額が207.69円であることは当
事者間に争いがないから,不正競争防止法5条1項本文により,被告商品
の譲渡数量14万0624個に,原告商品1個当たりの利益の額207.
69円を乗じると,2920万6198円(1円未満切捨て)となる。
イ続いて,不正競争防止法5条1項ただし書の事情について検討する。
(ア)証拠(被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社は,従前
からドン・キホーテに対して販売ルートを有しており,被告商品のみな
らず原告商品も被告会社を通じてドン・キホーテに販売されていたこと
が認められる。このように,被告商品の譲渡数量のうち,ドン・キホー
テ販売分は,従前からの被告会社の販売ルートを利用したものであって,
原告がドン・キホーテに対して被告会社と同様に販売できたとはいい難
い(原告がドン・キホーテに対して原告商品を販売していたことを認め
るに足りる証拠はない。)。
そして,上記アのとおり,被告商品の譲渡数量14万0624個のう
ち,ドン・キホーテ販売分が8万9370個,ティーアイエス販売分5
万1254個であるから,ドン・キホーテ販売分の占める割合は約6
4%,ティーアイエス販売分の占める割合は約36%である。
このように,被告商品の過半数の数量の販売先はドン・キホーテであ
るところ,原告は同社との直接の取引実績がなく,原告の営業努力によ
りドン・キホーテと取引をすることができた可能性も証拠上明確ではな
い。
また,前提事実(2)(別紙原告商品の販売状況一覧)のとおり,原告
商品の販売数量は合計12万7373個(被告会社が原告商品を取り扱
っていた平成22年4月まででは合計7万7627個)であるのに対し
て,そのうち被告会社宛てが5万6029個であり,被告会社宛ての占
める割合は約44%であって,被告会社が原告商品を販売する卸売り会
社の中核的存在であったものである。以上に加え,上記(1)のとおり,
原告は,ティーアイエスに取扱いを中止されると原告商品の販売ができ
なくなったのである。
以上のような原告の販売力を考慮すると,他に,インターネット販売
などの方法も存在し得ることなどを考慮しても,被告商品の販売数量の
50%については,原告が販売することができないとする事情があった
と認めるのが相当である。
(イ)これに対し,被告らは,乙17号証に示すように,被告商品の販売
当時,市場には原告商品を模倣した競合商品は相当多数存在した旨主張
する。
確かに,乙17号証の1の商品については,平成22年6月に発売さ
れ,その大きさ(全長69.9mm,最大径20mm)からみて,被告
商品の競合商品であったと認められるが,その販売数量等を認めるに足
りる証拠はない。また,乙17号証の2~5の商品については,発売時
期を認めるに足りる証拠がなく,時期的にみて競合品であるかは判然と
しない。このように,一部競合商品の存在は認められるものの,その販
売数量等の詳細は不明であるから,原告が販売することができないとす
る事情に当たるとまではいえない。
(ウ)したがって,不正競争防止法5条1項ただし書により,2920万
6198円から50%を減額するのが相当である。
ウ以上のとおり,不正競争防止法5条1項に基づく損害額は1460万3
099円(=2920万6198円×0.5)である。
(3)さらに,不正競争防止法5条2項に基づく損害について検討する。
ア証拠(乙13)によれば,被告商品の1個当たりの販売額は,ドン・キ
ホーテ販売分につき482円,ティーアイエス販売分につき336円であ
ることが認められる(乙13のティーアイエス販売分の売上金額及び数量
からみると336円を上回るとも考えられるが,ここでは原告の主張に従
い336円とする。)。
また,証拠(乙16の1~4)によれば,被告会社は,有限会社オーク
ションテレビから被告商品を13万4455個仕入れ,その総額は272
6万7300円(1円未満切捨て)であること(乙16の4の前金として
30%支払のものは100%で計算した。)が認められるから,その仕入
単価は1個当たり202.79円となる(上記仕入数量は被告商品の譲渡
数量と合致しないが,他に証拠がないので上記仕入数量に基づいて仕入単
価を計算した。)。
被告らは,変動経費として被告商品の仕入額以外の費目を主張も立証も
しないから,変動経費としては,上記仕入単価に近似する原告主張額であ
る202.98円と認めるのが相当である。
イそうすると,被告商品1個当たりの利益の額は,ドン・キホーテ販売分
につき279.02円(=482円-202.98円),ティーアイエス
販売分につき133.02円(=336円-202.98円)である。
そして,①ドン・キホーテ販売分の1個当たりの利益の額279.02
円に,その譲渡数量8万9370個を乗じると,2493万6017円
(1円未満切捨て)となり,②ティーアイエス販売分の1個当たりの利益
の額133.02円に,その譲渡数量5万1254個を乗じると,681
万7807円となるから,上記①と②を合計すると,被告会社の利益の額
は3175万3824円となる。
ウもっとも,推定覆滅事情として,上記(2)の事情と同様に,50%の減
額を認めるのが相当であるから,不正競争防止法5条2項に基づく損害額
は1587万6912円(=3175万3824円×0.5)と認められ
る。
(4)以上のとおり,不正競争防止法5条1項に基づく損害額は1460万3
099円であり,同条2項に基づく損害額は1587万6912円であるが,
原告は,これらの損害額が選択的であるとするから,弁護士費用相当額を除
く損害額として1587万6912円が認められる。
そして,本件事案の内容,経過,認容金額等に鑑みると,被告らが負担す
べき弁護士費用相当額としては,160万円が相当である。
(5)以上を合計すると,原告の損害額は1747万6912円である。
6まとめ
原告の請求は,被告らに対し,不正競争防止法4条及び不法行為に基づく損
害賠償請求として,連帯して1747万6912円及びこれに対する不法行為
の日の後である平成24年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(被告商品の販売期間は平
成24年2月までである〔乙13,弁論の全趣旨〕。)。
他方,原告の不正競争防止法3条に基づく差止・廃棄請求は,原告商品の発
売(平成21年12月)から3年が経過しているから理由がない(同法19条
1項5号イ)。
7結論
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
大須賀滋
裁判官
小川雅敏
裁判官
西村康夫

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