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平成26年8月28日判決言渡
平成25年(ネ)第10068号損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成24年(ワ)第16694号)
口頭弁論終結日平成26年5月15日
判決
控訴人有限会社マックスアヴェール
控訴人X
上記両名訴訟代理人弁護士町田伸一
被控訴人日本放送協会
訴訟代理人弁護士三村量一
同平津慎副
同梅田康宏
同秀桜子
同吉利果慧
被控訴人株式会社ワグ
訴訟代理人弁護士野間自子
同中島健太郎
主文
1控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1控訴人有限会社マックスアヴェール
原判決中控訴人有限会社マックスアヴェールに関する部分を取り消す。
被控訴人らは,控訴人有限会社マックスアヴェールに対し,連帯して94
3万4790円及びこれに対する平成21年6月12日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
2控訴人X
原判決中控訴人Xに関する部分を取り消す。
被控訴人らは,控訴人Xに対し,連帯して110万円及びこれに対する平
成21年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,控訴人らが,被控訴人日本放送協会(以下「被控訴人NHK」とい
う。)は,被控訴人株式会社ワグ(以下「被控訴人ワグ」という。)従業員を
介して,控訴人らの開催したファッションショーの映像の提供を受け,上記映
像の一部である原判決別紙映像目録記載の映像(以下「本件映像部分」という。)
をそのテレビ番組において放送し,これにより,控訴人有限会社マックスアヴ
ェール(以下「控訴人会社」という。)の著作権(公衆送信権)及び著作隣接
権(放送権)並びに控訴人X(以下「控訴人X」という。)の著作者及び実演
家としての人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し,被控訴人らに対し,著
作権,著作隣接権,著作者人格権及び実演家人格権侵害の共同不法行為責任(被
控訴人ワグについては使用者責任)に基づく損害賠償として,控訴人会社につ
き943万4790円,控訴人Xにつき110万円(附帯請求として,これら
に対する平成21年6月12日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金)の連帯支払を求める事案である。
原判決が控訴人らの請求をいずれも棄却したため,控訴人らがそれぞれ前記
裁判を求めて控訴した。
2前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり原判決を補正
するほかは,原判決「事実及び理由」の第2及び第3記載のとおりであるから,
これを引用する(以下,原判決を引用する場合は,「原告」を「控訴人」と,
「被告」を「被控訴人」と,それぞれ読み替える。)。
原判決5頁2行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「また,上記④及び⑤は舞踊の著作物にも該当する。
なお,美術作品の著作物性の判断は,著作権法2条1項1号に定められ
る要件,特に創作性の要件を中心としてなされるべきである。このことは,
本件における衣服自体やアクセサリー自体だけでなく,その選択及び組合
せについても同様である。したがって,著作物性があるかどうかについて
は,単にそれが人が身に付ける実用目的の作品であり量産品であることや,
それらの組合せであることを理由として否定されるものではなく,作成者
の精神的創作において個性が表れていれば足りるというべきである。また,
メイクアップやヘアスタイル自体や,それらのコーディネートについても
上記要件を充足するかどうかだけを判断すべきである。」
原判決5頁7行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「なお,上記の控訴人Xの思想の内容に照らすと,使用された衣服等につ
いて大量販売が予定されている既製品であるか否かは創作性の判断に影響
を与える事情ではない。」
原判決7頁2行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「なお,ファッションショーにおいては,モデルが着用している衣服等に
観客の注意を引き付ける必要があるため,上記の動作はファッションショ
ーにおいてはあり得ないものであり,この動作に関する着想は,控訴人X
に独創的なものである。」
原判決8頁26行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「記載の①ないし⑦は著作物であるので,モデルが,前記及び
記載のとおり,ヘアメイクや衣類を着用等しながら,ポーズや動作を取
ることは著作物を演じることに該当する。」
原判決9頁5行目の「演出したものであり,」を,「演出したものである。
よって,控訴人Xは,少なくとも振り付けの実演(著作権法2条1項3号)
を演出している(同法2条1項4号)。また,本件ファッションショーは,
全体として,「これらに類する行為で,著作物を演じないが芸能的な性質を
有するもの」(同法2条1項3号)といえ,実演に該当する。したがって,
控訴人Xは,上記の振り付けないしは」と改める。
原判決9頁24行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「なお,公衆送信権侵害が成立するためには,公衆送信されているものが著
作物であれば足り,公衆送信が当該著作物の創作的表現を感得できる態様で
行われる必要はない。
仮に,公衆送信権侵害が成立するために,公衆送信が当該著作物の創作的
表現を感得できる態様で行われる必要があるとしても,放送における映像の
場面の時間がおよそ1秒あれば,視聴者はその人物が既知の者であれば誰で
あるかを見分け,未知の者であっても,その容貌や着衣や髪型等の特徴を見
て取ることが可能であり,2秒ないし9秒あれば十分可能であって,これは
撮影場所が暗くても異ならない。したがって,本件映像部分の放送は,公衆
送信が当該著作物の創作的表現を感得できる態様で行われているものとい
える。」
原判決10頁21行目末尾に,次のとおり加える。
「使用された衣装等も,もともとパーティシーンにおいて着用することも当
然の前提としている既製品であり,上記衣装等を本件ファッションショーに
使用することが控訴人X独自の着想であるともいえない。」
原判決11頁8行目から同頁9行目にかけての「ものはいえない」を「も
のとはいえない」と改める。
原判決11頁9行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「また,背景写真の選択と配列については,特段の特徴は見られず,創作
性はないし,本件映像部分から背景映像における背景写真の選択と配列の
具体的内容を看取することは困難である。」
原判決11頁15行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「また,背景映像についても,控訴人Xは,背景映像に使用された写真の
著作権を主張し得る主体ではない。」
原判決11頁16行目冒頭から同頁22行目末尾までを次のとおり改める。
「イ控訴人らは,モデルのポーズと動作の振り付けが著作物であることを
前提に控訴人Xが実演を演出したとして実演家の権利を取得した旨主張
するが,モデルのポーズと動作の振り付けに著作物性は認められないか
ら,「著作物を・・・演ずること」には該当しない。
また,控訴人らは,本件ファッションショーは著作権法2条1項3号
の「これらに類する行為で,著作物を演じないが芸能的な性質を有する
もの」であるので,実演に該当する旨主張する。しかし,実演家に著作
隣接権が認められる根拠は,著作物の創作活動に準じたある種の創作的
な活動が行われる点に求められるから,そのような創作的要素すら認め
られない場合には,「これらに類する行為で,著作物を演じないが芸能
的な性質を有するもの」としての実演にも該当しないと解される。そし
て,本件ファッションショーにおけるモデルのポーズと動作の振り付け
は,ファッションショーにおけるパフォーマンスとしては極めてありふ
れたものであって何らの特徴を有するものでもないから,上記の意味で
の創作的要素すらない。
さらに,実演に該当するためには,著作物又は著作物に該当しないが
芸能的な性質を有するものを「演ずる」ことが必要であるところ,本件
ファッションショーにおいては,モデルのポーズと動作の振り付け以外
には,何らの行為も存在しないから,本件ファッションショー全体につ
いての一連の行為を著作物の実演「に類する行為」と観念することもで
きない。
仮に本件ファッションショーにおいて実演が存在するとしても,控訴
人らの主張は,控訴人Xが自ら直接実演を行ったのではなく,モデルに
よる実演を「演出」(著作権法2条1項4号)したというものである。
しかし,控訴人Xがモデルに対して具体的にどのような内容の振り付け
をしたのか,また,具体的にどのような形でモデルによる実演を演出し
たのかについて,控訴人らは全く明らかにしていないから,控訴人Xは,
「実演そのものを行っていると同一の評価ができる者」とか,「実演家
を指図して自らの主体性のもとに実演を行わせている者,つまり実演を
行っているのと同じ状態にある者」とはいえない。
したがって,控訴人X(及び控訴人会社)が「実演を・・・演出する
者」として実演家の権利を取得したとはいえない。」
原判決11頁22行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
著作権侵害・実演家としての権利の侵害の判断基準について
公衆送信権侵害が成立するためには,公衆送信された内容(本件では,
本件番組又は本件映像部分)において既存の著作物(本件では,本件フ
ァッションショー)の創作的表現を直接感得できることが必要となるも
のというべきである。そして,前記(控訴人らの主張)①,及
び,⑦のうちの背景映像について,これらに創作性が認められるとして
も,本件映像部分からはその創作的表現を直接感得できないので,公衆
送信権侵害は成立しない。
また,仮に控訴人X(及び控訴人会社)が実演家の権利を有するとし
ても,本件映像部分の放送について実演家の権利の侵害が認められるた
めには,本件映像部分において,控訴人Xの実演を感得できることが必
要であると解される。そして,本件では,本件映像部分からは控訴人X
の何らの行為(実演)も感得できないから,本件映像部分の放送につい
て実演家の権利の侵害は成立しない。」
原判決11頁24行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「本件ファッションショー及び本件映像部分で用いられたものは,いずれ
もありふれた表現であり,著作物性が認められない。また,本件映像部分
からは,本件ファッションショーの創作的表現を感得することはできな
い。」
第3当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人NHKが本件映像部分を放送することは,控訴人会社
の著作権(公衆送信権・著作権法23条1項),控訴人Xの著作者人格権(氏名
表示権・同法19条1項),控訴人会社の放送権(同法92条1項)又は控訴
人Xの実演家としての氏名表示権(同法90条の2第1項)を侵害するもので
はないので,控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおりである。
1著作隣接権及び著作者人格権侵害の成否)
著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感
情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に
属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しており,当該作品
等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作
物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若
しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がない
ものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない。
そして,当該作品等が「創作的」に表現されたものであるというためには,
厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要する
ものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要
するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成
者の個性が表現されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはで
きないというべきである。
イまた,著作権侵害を主張するためには,当該作品等の全体において上記
意味における表現上の創作性があるのみでは足りず,侵害を主張する部分
に思想又は感情の創作的表現があり,当該部分が著作物性を有することが
必要となる。
本件において,控訴人らは,本件映像部分の放送により,本件ファッシ
ョンショーの①個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング,②着
用する衣服の選択及び相互のコーディネート,③装着させるアクセサリー
の選択及び相互のコーディネート,④舞台上の一定の位置で決めるポーズ
の振り付け,⑤舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け,⑥これ
ら化粧,衣服,アクセサリー,ポーズ及び動作のコーディネート,⑦モデ
ルの出演順序及び背景に流される映像に係る著作権が侵害された旨主張す
るものであるから,上記①~⑦の各要素のうち,本件映像部分に表れてい
るものについて,侵害を主張する趣旨であると解される。したがって,上
記①~⑦の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,著作
物性が認められることが必要となる。
ウもっとも,本件ファッションショーにおいて用いられた衣服やアクセサ
リーは,主として,大量生産されるファストファッションのブランドのも
のであり(甲1ないし13,丙1,弁論の全趣旨),これらは,その性質
上,実用に供される目的で製作されたものであることが明らかである。そ
して,控訴人らも,本件ファッションショーにつき,シティとリゾートの
パーティースタイル(都会的な女性のドレスアップコーディネートと,リ
ゾートラグジュアリーパーティースタイル)をコンセプトとしたものであ
るなどと主張しており,本件ファッションショーが上記の各場面における
実用を想定したファッションに関するショーであることがうかがえること
に照らすと,上記の化粧,髪型,衣服及びアクセサリーを組み合わせたも
のである前記イ記載の①,②,③及び⑥(⑥については,ポーズ及び動作
の部分を除く。)は,美的創作物に該当するとしても,芸術作品等と同様
の展示等を目的としたものではなく,あくまで,実用に供されることを目
的としたものであると認められる。
そして,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されてい
る美的創作物(いわゆる応用美術)が美術の著作物に該当するかどうかに
ついては,著作権法上,美術工芸品が美術の著作物に含まれることは明ら
かである(著作権法2条2項)ものの,美術工芸品等の鑑賞を目的とする
もの以外の応用美術に関しては,著作権法上,明文の規定が存在せず,著
作物として保護されるか否かが著作権法の文言上明らかではない。
この点は専ら解釈に委ねられるものと解されるところ,応用美術に関す
るこれまでの多数の下級審裁判例の存在とタイプフェイスに関する最高裁
の判例(
決・民集54巻7号2481頁)によれば,まず,上記著作権法2条2項
は,単なる例示規定であると解すべきであり,そして,一品制作の美術工
芸品と量産される美術工芸品との間に客観的に見た場合の差異は存しない
のであるから,著作権法2条1項1号の定義規定からすれば,量産される
美術工芸品であっても,全体が美的鑑賞目的のために制作されるものであ
れば,美術の著作物として保護されると解すべきである。また,著作権法
2条1項1号の上記定義規定からすれば,実用目的の応用美術であっても,
実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備え
ている部分を把握できるものについては,上記2条1項1号に含まれるこ
とが明らかな「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」
と客観的に同一なものとみることができるのであるから,当該部分を上記
2条1項1号の美術の著作物として保護すべきであると解すべきである。
他方,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,
美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができな
いものについては,上記2条1項1号に含まれる「思想又は感情を創作的
に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることはで
きないのであるから,これは同号における著作物として保護されないと解
すべきである。
エ以上を前提に,まず,公衆送信権及び著作者としての氏名表示権の侵害
の成否について検討する。
公衆送信権(著作権法23条1項),氏名表示権(同法19条1項)侵害
の成否
ア②着用する衣服の選択及び相互のコーディネート,③装着させるアクセ
サリーの選択及び相互のコーディネートについて
本件映像部分の各場面におけるモデルの衣服,アクセサリー等は原判
決別紙映像目録添付の各写真のとおりであり,①「Iline1着目」
として黒のレース素材のトップス,豹柄のスカート,黒のベルト,紫色
の輪状の耳飾り及び黒のヘッドドレスの組み合わせが,②「Anna2
着目」として白地に黒の水玉模様のワンピースに黒のベルト,パールネ
ックレス,ピンクと黒のヘッドドレスの組み合わせが,③「Anna1
着目」として緑色のワンピース,銀色の腕輪,黒のヘッドドレスの組み
合わせが,④「Izabella2着目」として黒のワンピースと黒の
ヘッドドレスの組み合わせが,⑤「Tamra2着目」として黒の毛皮
のコート,紫色のトップス,黒のスカート,紫色のバッグ,ヘッドドレ
スの組み合わせがなされていることが認められる。
しかし,着用する衣服の選択及び相互のコーディネート及び装着させ
るアクセサリーの選択及び相互のコーディネートは,その美的要素(外
観や見栄えの良さ)について,他の者から見られることが想定されるも
のであるとしても,本件映像部分の各場面におけるモデルの衣服・アク
セサリー等はそのほとんどがファストファッションである「Forev
er21」製作のものを使用しただけであり,控訴人らのデザインに係
リゾートのパーティ等の場面において実用されることを想定するもので
あり,それ全体が美的鑑賞を目的とするものではなく,また,実用目的
のための構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えた
部分を把握できるものでもない。
以上によれば,着用する衣服の選択及び相互のコーディネート及び装
着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネートについて著作物
性は認められない。
イ①個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリングについて
本件映像部分の各場面におけるモデルの化粧及び髪型は,原判決別紙
映像目録添付の各写真のとおりであり,「Iline1着目」は下ろし
た髪全体を後ろに流した髪型,「Anna1着目」及び「Anna2着
目」は緩やかにカールを付けた髪を下ろした髪型,「Izabella
2着目」は耳上の髪をまとめ,耳下の髪にカールを付けて下ろした髪型,
「Tamra2着目」は全体に強めにカールを付けて下ろした髪型であ
り,また,いずれのモデルにも,アイシャドーやアイライン,口紅等を
用いて華やかな化粧が施されているものということができる。
しかし,控訴人らの主張を前提とすると,上記化粧及び髪型は,控訴
人Xが,「企画・指示書」(甲4ないし12)に記載された事項や写真
(甲14ないし16)をヘアメイク担当者に示し,ヘアメイク担当者が
髪型や化粧を施し,その上で控訴人Xが修正したものであるというので
あるから,そもそも控訴人Xが上記化粧及び髪型の創作の主体になり得
るのかどうかも判然としない。
また,仮に控訴人Xが上記化粧及び髪型の創作の主体であるとしても,
上記化粧及び髪型について,その美的要素(外観や見栄えの良さ)は,
他の者から見られることが想定されるものではあるものの,
定のとおり,シティやリゾートのパーティ等の場面において実用される
衣服やアクセサリーとのコーディネートを想定する実用的なものであり,
それ全体が美的鑑賞を目的とするものではなく,また,実用目的のため
の構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えた部分を
把握できるものでもないから,美術の著作物に当たるともいえない。
以上によれば,個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリングに
つき,控訴人Xが著作者であるとは認められないか,又は著作物性が認
められない。
ウ④舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け,⑤舞台上の一定の位
置で衣服を脱ぐ動作の振り付けについて
本件映像部分において,「Iline1着目」では,モデルが手を前
後に大きく振りながら歩き,立ち止まって両手を腰に当てた上で,腰を
向かって左,右(向かって左,右を指す。以下同じ。)の順にゆっくり
振る様子は映っ
ておらず,腰をひねる様子も,その一部が映っているにとどまる。)が,
「Anna2着目」では,モデルがゆっくりと前方に歩く様子が,「A
いてモデルが腕を下ろして揺らしながら歩き,やや斜め前方を向いて立
ち止まって,左右に向きを変えながら肩と下ろした腕を揺らす様子が,
「Izabella2着目」では,モデルが左手に持った紙袋から右手
で中身を出し,左手に移し替えた上,右の手の平を広げて耳に当て,さ
らに,体の横で両手の平を上に向けて観客をあおるようなそぶりをした
上,左手に持っていた物を右手で投げる様子が,「Tamra2着目」
では,モデルが両手を腰の高い位置に当てて歩き,立ち止まって体をひ
ねった後,後ろを向き,歩きながら毛皮のコートを脱ぐ様子が映ってい
ることが認められる。
各モデルの上記ポーズ又は動作は,そもそも応用美術の問題ではなく,
ファッションショーにおけるポーズ又は動作が著作物として保護される
かどうかとの問題である。しかし,これらのポーズ又は動作は,ファッ
ションショーにおけるモデルのポーズ又は動作として特段目新しいもの
ではないというべきであり,上記ポーズ又は動作において,作成者の個
性が表現として表れているものとは認められない。したがって,これら
のポーズ又は動作の振り付けに著作物性は認められない。また,同様の
理由で,これを舞踊の著作物と解することもできない。
控訴人らは,上記ポーズ又は動作の特徴的な点として,モデルが紙袋
を持ったり,右の手の平を広げて耳に当てる行為や,両手の平を上に向
けて観客をあおるようなそぶりを指摘する。しかし,控訴人らの主張に
よれば,これらの動作は,本件ファッションショーの中でギフトを与え,
スポンサーであるメイベリンがサンプリングを行えるようにするための
もので,観客のスクリーミングを誘うなどの目的でなされたというので
ある(原審における2012年12月21日付け原告ら第2準備書面1
6頁ないし17頁)。そして,上記目的のための表現として上記ポーズや
動作をすること自体は特段目新しいものとはいえない。
また,控訴人らは,ファッションショーにおいて上記のような動作等
をさせることが控訴人Xに独創的なものである旨主張する。しかし,仮
にファッションショーにおいて上記のような動作をさせることが目新し
いものであったとしても,それ自体は思想又は感情の創作的表現である
とはいえず,上記動作等に著作物性が認められることの根拠となるもの
ではない。
よって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
エ⑥化粧,衣服,アクセサリー,ポーズ及び動作のコーディネートについ

①ないし⑤の点につき,控訴人Xが著作者であると認め
られないか,又は著作物性が認められないことは前記アないしウ認定のと
おりであるところ,これらの各要素が組み合わされることにより,作成者
の個性の表出というべきような新たな印象が生み出されているものとは認
められないから,前記①ないし⑤の点の組み合わせに著作物性を認めるこ
とはできない。
オ⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像について
証拠(甲2)によれば,本件ファッションショーには合計8名のモデ
ルが,それぞれ2着ないし3着(合計20通り)の衣装を身に着けて出
演したものであることが認められる。
上記出演順序は,モデルの着替え時間やギフト配布のタイミング等の
便宜的な要素を考慮して決定されたものであるとされるところ,上記出
演順序が,ドレスの順序(モノトーンの次は明るい色彩に,その次はシ
ックに,その後は再びカラフルに等)も考慮して決定されたものである
とされることを考慮しても,上記出演順序に,思想又は感情が創作的に
表現されているものとは認められない。
序の1番目,2番目,11番目,1番目,14番目,13番目に各対応
していることが認められるのであって,本件映像部分は,本件ファッシ
ョンショーの映像を順不同に流したものであることが認められる。そう
すると,仮に上記出演順序に創作性が認められるとしても,本件映像部
分において,上記創作性を感得できる態様で公衆送信が行われているも
のとは認められない。
背景映像について
控訴人らは,本件ファッションショーの背景映像は,「City」や
「Resort」を印象付けるものとして,モデルや衣装に合わせて場
原判決
㉓,)に甲21号証の写真54が,場面
(同目録添付写真⑬)に甲21号証の写真32がはっきりと映って
いる旨主張する。
原判決別紙映像目録添付写真⑤)における背景映
像は,甲21号証の写真21とは明らかに異なるものであり,上記場面
に同写真が映っているものとは認められない。
原判
決別紙映像目録添付写真⑬)には甲21号証の写真
,)には甲21号証の写真54が
映っていることがうかがわれる。
しかし,甲第21号証の各写真につき,原審における控訴人ら代理人
作成の2013年5月17日付け「原告ら証拠説明書(甲14~21)」
においては作成者不明とされており,他に撮影者に関する主張もなく,
撮影者すら判然としないものというほかない。しかも,本件全証拠によ
っても,控訴人らに上記各写真の著作権が帰属する根拠も判然としない。
この点,被控訴人NHK作成の控訴答弁書9頁ないし10頁には,平成
25年5月17日の原審第5回弁論準備手続において,控訴人ら訴訟代
理人が,本件ファッションショーで背景映像として使用された写真は,
控訴人Xがカメラマンに撮影させた旨陳述したとの記載がある。しかし,
上記証拠説明書の記載に照らすと,上記陳述の内容が正確なものである
かどうかについては疑問が残るというほかないし,仮に上記陳述に係る
事実を前提としたとしても,上記カメラマンが上記各写真の著作者であ
ると解されるところ,控訴人らが上記カメラマンから上記各写真の著作
権の譲渡を受けたことを認めるに足りる証拠もない。
また,控訴人らの主張する写真の選択に何らかの創作性があるものと
も認められない。
そうすると,被控訴人NHKが,上記写真を用いた背景映像を含んだ
本件映像部分を放送した行為は,控訴人らの著作権を侵害するものとは
いえない。
小括
以上によれば,本件ファッションショーのうち,本件映像部分に表れた各
点(①ないし⑦)は,控訴人らが著作権者であるとは認めら
れないか,又は著作物性が認められないものであるから,本件映像部分を放
送することが,控訴人会社の著作権(公衆送信権・著作権法23条1項)又
は控訴人Xの著作者人格権(氏名表示権・同法19条1項)を侵害するもの
とは認められない。
なお,付言するに,本件ファッションショーのうち本件映像部分に表れた
各点(①ないし⑦)につき著作物性が認められないことが上
記認定のとおりであるとしても,本件ファッションショーが撮影され物に固
定されれば,当該映像は映画の著作物として保護されるものと解される。
放送権(著作権法92条1項),実演家としての氏名表示権(同法90条
の2第1項)侵害の成否
ア放送権及び実演家としての氏名表示権侵害が認められるためには,「そ
の実演」を放送し,又は公衆に提供・提示する場合であることを要すると
ころ(著作権法92条1項,90条の2第1項),「実演」とは,「著作
物を,演劇的に演じ,舞い,演奏し,歌い,口演し,朗詠し,又はその他
の方法により演ずること(これらに類する行為で,著作物を演じないが芸
能的な性質を有するものを含む。)」をいうものとされる(同法2条1項
3号)。
イ控訴人らは,モデルのポーズと動作の振り付けの演出が実演に当たる旨
あるから,モデルが上記動作やポーズを取ることは,「著作物を・・・演
ずる」ことに当たらず,「実演」には当たらない。
また,控訴人らは,イ記載の①ないし⑦は著作物であるので,モ
デルが,ヘアメイクや衣類を着用等しながら,ポーズや動作を取ることは
著作物を演じることに該当し,控訴人Xは,これを演出したので実演家の
権利を有する旨主張する。
しかし,上記①ないし⑦の点につき,背景映像に用いられた写真を除い
ていずれも著作物性が認められないことは前記認定のとおりである。ま
た,背景映像に用いられた写真に著作物性が認められるとしても,その展
示が「著作物を・・・演ずる」ことに当たるものではない。したがって,
控訴人らの主張に係るモデルが,ヘアメイクや衣類を着用等しながら,ポ
ーズや動作を取ることが「著作物を・・・演ずる」ものに当たるとはいえ
ない。
よって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
さらに,控訴人らは,本件ファッションショーは,全体として「これら
に類する行為で,著作物を演じないが芸能的な性質を有するもの」(著作
権法2条1項3号)に当たり,実演に該当する旨主張する。
しかし,本件全証拠によっても,本件ファッションショーの本件映像部
分に表れている部分のうち,前記記載の④及び⑤以外に,著作権法2
条1項3号に挙げられた「演劇的に演じ,舞い,演奏し,歌い,口演し,
朗詠し,又はその他の方法により演ずること」やこれらに類する行為に該
当する部分があるものとは認められない。また,本件ファッションショー
のうち本件映像部分に表れていない部分については,その内容自体明らか
ではない。したがって,本件ファッションショーのうち上記④及び⑤以外
の点が,「演劇的に演じ,舞い,演奏し,歌い,口演し,朗詠し,又はそ
の他の方法により演ずること」に「類する行為」に当たるものとはいえな
とったものにすぎず,しかも,その態様もありふれたものにすぎないので
あるから,「これらに類する行為で,著作物を演じないが芸能的な性質を
有するもの」に該当するものということはできない。
よって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
ウ以上によれば,本件ファッションショーの一部である本件映像部分を放
送することが,「その実演」を公衆に提供し,又は放送する場合に当たる
ものとは認められないから,本件映像部分の放送が,控訴人会社の放送権
又は控訴人Xの実演家としての氏名表示権を侵害するものとは認められな
い。
第4結論
以上によれば,原判決の結論は相当であって,本件各控訴はいずれも理由が
ないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官設樂一
裁判官西理香
裁判官神谷厚毅

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