弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告か昭和四八年一二月二六日付で原告の昭和四六年一一月一五日から昭和四
七年九月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正及びこれに伴う過少申告
加算税の賦課決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二 被告
主文と同旨の判決
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は不動産の売買及び仲介斡旋等を業とする青色申告法人であるが、原告の
昭和四六年一一月一五日から昭和四七年九月三〇日までの事業年度(以下「本件事
業年度」という。)の法人税について原告がした確定申告及び修正申告、修正申告
に対して被告がした過少申告加算税の賦課決定並びに、更正(以下「本件更正」と
いう。)及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定(以下「本件決定」という。)
の経緯は別表一記載のとおりである。
2 しかしながら、本件更正には原告の所得金額を過大に認定した違法があり、従
つてこれを前提とした本件決定も違法である。
よつて、原告は本件更正及び本件決定の取消しを求める。
二 原告の請求原因に対する被告の認否及び主張
1 原告の請求原因に対する認否
請求原因1の事実は認めるが、同2は争う。
2 被告の主張
(一) 原告の本件事業年度の所得金額は別表二記載のとおり八〇一二万三三二三
円である。
(二) 過大役員退職金の損金不算入について
(1) 原告は昭和四七年八月二五目に退職した取締役A、同B、同C及び監査役
Dに対する退職金各一五〇〇万円を未払金として本件事業年度の損金の額に算入し
た。
(2) しかしながら、右のうちAについては六〇万円、Cについては三〇万円、
B及びDについては各四五万円を超える部分合計五八二〇万円は、法人税法第三六
条及び同法施行令第七二条に規定する過大な役員退職給与に当たるというべきであ
る。すなわち、
法人税法第三六条によれば、法人が退職した役員に対して損金経理により支給した
退職給与の額のうち、不相当に高額な部分の額は所得の金額の計算上損金の額に算
入されないこととされているが、この場合の「不相当に高額な部分の金額」とは、
同法施行令第七二条の規定により、その退職給与の額が当該役員の業務従事期間、
退職事情、同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員退職金の支
給状況等に照らし相当であると認められる金額を超える部分をいうものとされてい
るから、原告の支給した役員退職金が過大であるかどうかについては、原告と同種
の事業を営み、かつ、同程度の事業規模を有する法人の役員退職金の支給事例を抽
出して、これら役員退職金の額が当該役員の退職時における報酬月額に勤続年数を
乗じた金額にいかなる倍率(以下この倍率を「功績倍率」という。)を乗じたもの
であるかを求め、この功績倍率を基準として判断するのが前記法令の規定の趣旨か
らみて合理的というべきである。
そこで、被告が原告と同じ下谷税務署管内並びに原告と同種の事業を営む法人の比
較的多い麹町、神田、京橋及び豊島の各税務署管内の同業種法人で資本金額が五〇
〇〇万円以下の六〇四法人について調査したところ、その事業規模等が比較的類似
する法人で昭和四六年一一月一五日から同四七年一二月三一日までの期間に役員退
職金を支給していた法人(以下「比較法人」という。)は七法人で、その支給対象
となつた役員は一三名であつて、その退職給与の支給状況及び功績倍率等は別表三
記載のとおりである。これによれば、功績倍率の平均は一・九、最高は三・〇であ
り、右数値は本件更正当時の全上場一六〇三社の実態調査の結果から算出される功
績倍率の平均が社長三・〇、専務二・四、常務二・二平取締役一・八、監査役一・
六であるところからみて相当な基準といえるものである。
そこで、原告に最も有利となる比較法人の功績倍率の最高値である三・〇をもつて
相当とし、この倍率に基づき前記退職役員に対する退職給与の相当額を算出すると
別表四記載のとおりAについては六〇万円、B及びDについては各四五万円、Cに
ついては三〇万円、合計一八〇万円となる。
従つて、各退職役員に支払われた退職金の合計額六〇〇〇万円のうち、右一八〇万
円を超える五八二〇万円は過大な役員退職給与に当たるというべきである。
(三) 本件更正及び本件決定の適法性
原告の本件事業年度の所得金額は前記(一)記載のとおり八〇一二万三三二三円で
あるところ、本件更正は右金額の範囲内であるから適法であり、これを前提として
された本件決定も適法である。
三 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 被告の主張に対する認否
被告の主張(一)のうち、原告が申告した所得金額は認めるが、その余は争う。
同(二)(1)の事実は認める。
同(二)(2)のうち、法人税法第三六条及び同法施行令第七二条の規定の内容が
被告主張のとおりであること、原告の各退職役員の原告の業務に従事した期間及び
最終報酬月額が別表四のとおりであることは認めるが、比較法人の退職給与の支給
状況及び功績倍率が別表三のとおりであること、本件更正当時の全上場一六〇三社
の功績倍率の平均が被告主張の数値であることは知らず、その余は争う。
同(三)の主張は争う。
2 原告の反論
(一) A、B、C及びDは、原告の代表取締役Eとともに、原告の設立前から約
五年間にわたつて、得意先の開拓、広告方法の研究等の準備活動に奔走、尽力した
のみならず、原告設立後も原告の営業活動等に貢献した。その結果原告は、別表五
記載のとおり、設立後直ちに大きな収益をあげることができたのである。そこで、
原告は各退職役員の右のような貢献を考慮し、原告の役員退職金規定に則り、昭和
四七年八月二五日開催の臨時株主総会の決議に基づいて、各退職役員に対して一五
〇〇万円の退職金を支給したのであつて、その金額は相当であるというべきであ
る。
(二) 役員退職給与の相当性を判断するにあたり、被告主張のように同業種、類
似規模の法人について算出した功績倍率を用いることは一般に是認されていないの
みならず、仮に同業種、類似現模の法人の退職役員について算出した功績倍率を用
いるとしても、原告のように設立後間もない法人の場合は役員の貢献の度合は未知
であつて、それを報酬中に折り込むことは不可能であるから、退職金額の算定にあ
たつてはこの点を考慮すべきであるし、また、退職役員の法人設立前の準備活動の
結果法人設立後直ちに大きな収益をあげた場合には、右準備活動も退職金額の算定
にあたつて考慮すべきであるから、原告と同様に設立の日の属する事業年度におい
て多額の利益をあげた法人の功績倍率と比較するのでなければならない。
四 原告の反論に対する被告の認否及び再反論
1 原告の反論に対する被告の認否
原告の反論(一)のうち、各退職役員が原告主張のような準備活動をしたこと及び
同人らが原告設立後原告の営業活動等に貢献したことは知らず、各退職役員に対す
る退職金が原告の役員退職金規定に則り株主総会決議に基づき支給されたとの点は
争う。
2  被告の再反論
(一) 原告の反論(一)に対して
(1) 原告が本件事業年度において売買した土地に関して原告の代表取締役らが
不動産業者らと最初に接触した時期は、一番早いものでさえ昭和四五年九月であ
り、その余のものについてはいずれも原告設立日以後であるのだから、原告設立前
の各退職役員の準備活動をもつて退職金額の算出根拠とする原告の主張はその前提
において失当である。
(2) また、一般に役員退職金はその役員の職務執行に対する報酬の後払的な性
格と過去の功労に対する報償としての賞与的な性格とを併有するとみられるとこ
ろ、右のうち損金算入が認められるのは報酬の後払的な性格を有する部分だけであ
るというべきである。けだし、損金経理をした役員退職金のうち適正な額が法人の
所得の計算上損金の額に算入されるのは、役員退職金の中に報酬(原則として損金
算入、法人税法第三四条参照)の後払的な性格のものが含まれているためであり、
役員退職金の賞与的な性格の部分は法人税法上役員賞与(原則として損金不算入、
法人税法第三五条参照)と同じ取扱いをし、その損金算入を認めるべきではないか
らである。
ところで、原告においては、報酬の後払いとしては最大限原告と各退職役員との間
に雇用ないし委任の関係が生じた昭和四六年一一月一五日(原告設立の日)まで遡
及して賃金の支払不足額を考慮すれば足りるのであつて、原告の設立前の期間につ
いては各退職役員に対して原告は何ら報酬を支払うべき義務が存在しないのである
から、その期間に対応する退職金を支払わなければならないいわれはないのであ
る。
従つて、仮に退職役員が原告設立前に原告にとつて有益な行動をし、原告がその貢
献も考慮に入れて退職金額を算定したというのであれば、その部分は賞与的な性格
を有するものとして損金の額に算入すべきではない。
(二) 原告の反論(二)に対して
(1) そもそも功績倍率とは最終報酬月額と勤続年数以外の退職金算定に影響を
及ぼす一切の事情の総合評価と考えるべきものであり、それは退職役員の法人に対
する功績の度合を係数化したものであつて、当該退職役員の収益に対する貢献の度
合は、本来既に報酬月額中に折り込まれているのであるから、功績倍率に係数化さ
れる功績の度合とは、役員報酬に包含されていることを考慮してなおかつ退職金算
定に当たつて考慮される功績の度合であり、法人の資本金、総資産価額、売上金
額、公表利益金額など営業規模及び経営成績などの不確定な要素を総合したものと
いうべきであるから設立一期目において多額の利益をあげた法人と比較しなければ
ならないとする原告の主張はそれ自体失当であるのみならず、退職金額は最終報酬
月額と勤続年数とに高い相関関係があることは従業員の退職金規定等がこれらを退
職金額の算定基準として用いている例が多いことによつても明らかであり、このこ
とは役員の退職金額を算定する場合にも適合するものであるから、原告と同様に設
立一期目において多額の利益をあげた法人と比較しなければならないという理由は
なく、原告と同業種、類似規模の法人と比較すれば足りるのである。
(2) また、原告は功績倍率の比較にあたつては各退職役員の原告設立前の準備
活動も考慮すべき旨主張するが、法人設立前の個人の行為がその法人にとつて有益
であつたがため何らかの報償を考慮する必要があるというのであれば、それは就任
時の報酬に反映させるか、あるいはその行為に起因して特段の収益をあげた時期に
賞与の支給をもつて報いるのが通常であり、退職時期の明らかでない遠い将来にこ
れを考慮しようとするのは社会情勢の変化が激しい現代の社会通念にはなじまない
ところであつて、そのように法人設立前の個人の行為を考慮して役員退職金を支給
する例は認められないから、原告の右主張は失当である。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 請求原因1の事実及び原告が昭和四七年八月二五日に退職したA、B、C及び
Dに対する退職給与各一五〇〇万円を未払金として本件事業年度の損金の額に算入
したことについては当事者間に争いがない。
二 そこで、右退職給与金額の相当性について検討する。
1 まず、被告は原告と同業種、類似規模の法人について得られた功績倍率を基準
として退職給与金額の相当性を判断すべき旨主張するのに対し、原告は右方法は適
切でない旨主張するので、この点について検討する。
法人税法第三六条は、法人がその退職した役員に対して支給する退職給与の額のう
ち損金経理をした金額で不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は所得
の金額の計算上損金の額に算入しない旨規定し、これをうけて同法施行令第七二条
は、右損金の額に算入しない金額は、法人がその退職した役員に対して支給した退
職給与の額が、当該役員のその法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その
法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給
与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当である
と認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額とする旨規定してい
るが、右各規定の趣旨は、役員に対する退職給与が利益処分たる性格をもつことが
多いため、一定の基準以下の部分は必要経費としてその損金算入を認めるが、一定
の基準を超える部分は利益処分としてその損金算入を認めないというところにある
と解されるところ、成立に争いのない乙第一号証によれば、株式会社政経研究所が
昭和四七年六月二〇日現在で全上場会社一六〇三社及び非上場会社一〇一社を調査
したところ、何らかの形で役員退職給与金額の計算の基準を有しているものが六八
二社、そのうち右基準を明示したものが二六五社あつたが、左二六五社のうち一六
七社が退任時の最終報酬月額を基礎として退職金を算出する方式をとつており、さ
らに、そのうち一五四社が最終報酬月額と在任期間の積に一定の数値を乗じて退職
給与金額を算出する方式をとつていることが認められるのであるから、退職給与金
額の損金算入の可否、すなわちその相当性の判断にあたつて原告と同業種、類似規
模の法人を抽出し、その功績倍率を基準とすることは、前記法令の規定の趣旨に合
致し合理的であるというべきである。
2 原告が不動産の売買及び仲介斡旋等を業としていたことは当事者間に争いがな
く、成立に争いのない乙第一四号証によれば、原告の本件事業年度末の資本金が五
〇〇万円であること、被告所部係官が麹町、神田、下谷、京橋及び豊島の各税務署
管内において、原告と同業種の不動産業(建売業、土地売買業)を営み、役員退職
の日を含む事業年度末の資本金が五〇〇〇万円以下の法人について昭和四六年一一
月から昭和四七年一二月までの間の役員に対する退職給与の支給状況を調査したと
ころ、役員に対して退職給与の支給があつた法人は調査件数六〇四法人のうち七法
人で、支給を受けた役員は一三人であつて、その支給状況及び最終報酬月額、勤続
年数(六か月以上切上げ)、功績倍率(小数点第二位四捨五入)は別表三記載のと
おりであり、功績倍率の平均は一・九、最低は〇・九、最高は三・〇であることが
認められる。
右認定の事実によれば、右比較法人の選定基準は不十分のきらいがないではない
(事業規模が類似する法人を抽出するには資本金額だけではなく総資産額、売上金
額等も選定の基準とするのが望ましい。)が、前掲乙第一四号証によれば、抽出さ
れた七法人の期末総資産額及び売上金額を原告のそれと比較すると前者は〇・六倍
(A社)ないし一〇・八倍(G社)、後者は〇・四倍(F社)ないし一一・八倍
(G社)であつて、ばらつきが大きいものの、これらの金額と功績倍率の大小との
間には顕著な相関関係は見出し難いのであり、従つて少くとも右比較法人の功績倍
率の最高値を基準として退職給与金額の相当性を判断する限りにおいては右選定基
準の不十分さの故に右判断の合理性が失われるものではない。そして、抽出された
比較法人及び退職役員の数も資料の客観性を担保するに足りるものであるから、右
退職役員の功績倍率の最高三・〇を基準として原告の退職役員に対する退職給与の
相当性を判断することは合理的であるというべきである。
ところで、原告は、原告のように設立直後の法人の場合は役員の貢献の度合が未知
であつて、それを報酬中に折りこむことは不可能であるから退職金額の算定にあた
つてはこの点を考慮すべきであるし、また、退職役員の法人設立前の準備活動の結
果設立直後から大きな収益をあげたような場合は右準備活動も退職金額算定の要素
とすベきであるから、功績倍率の比較にあたつては原告と同様に設立の日の属する
事業年度において多額の利益をあげた法人の功績倍率を採用すべき旨主張する。
しかしながら、前記Aら退職役員の設立前の準備活動によつて原告が設立直後から
多額の利益をあげえたとの原告主張事実を認めるべき的確な証拠は存在しないのみ
ならず、一般に設立直後の法人においては役員の貢献の度合を正確に報酬に反映さ
せることができないため功績倍率が高くなるということを認めるに足る資料は何も
ないし、また、退職役員の法人設立前の準備活動は、通常報酬或いは賞与の金額を
算定する要素とはなりえても退職給与金額算定の要素とはならないのが通常である
と解すべきであるから、前記法令の規定の趣旨に照らし、功績倍率の比較にあたつ
ては右準備活動の有無を考慮する必要はないというべきである。従つて、、原告の
主張は失当である。
そこで、当事者間に争いのない各退職役員の最終報酬月額及び勤続年数(いずれも
一年に満たないが一年に切り上げる。)と前記比較法人の功績倍率の最高三・〇に
基づき退職給与額を算出すると、Aは六〇万円、B及びDは各四五万円、Cは三〇
万円となるから、原告が役員退職給与として損金に計上した六〇〇〇万円のうち右
金額の合計である一八〇万円を超える五八二〇万円は不相当に高額な部分に当たる
というべきである。
3 なお、原告は、退職給与金額は各退職役員の原告設立前の準備活動及び設立後
の営業活動等による貢献に見合う相当な額であると主張するが、右主張は抽象的で
あつて到底前記認定を覆すに足りないから採用できない。
かえつて、原告代表者尋問の結果中には、原告はEが昭和四六年一一月、弟のA、
妻の甥であるD、妻の姪の夫であるB、その他Cらの協力を得て設立したものであ
るが、翌四七年七月末ころに至り、右Aら四名は原告が設立一期目にして相当な利
益をあげ得る見込みであるのを看て取り、Eに対し、独立して事業をやりたい旨及
びそれには自分たちの貢献を考慮して二〇〇〇万円宛払つて貰いたい旨要求するに
至り、結局右四名の退職給与金は各一五〇〇万円と定められたものであるとの趣旨
の部分があり、仮にそのような事情があつたとしてみても、原本の存在及び成立に
争いのない乙第一二号証、第二四号証及び原告代表者尋問の結果によれば、原告を
退職したA、Bらが中心になつて磐光開発株式会社を設立したが、右磐光開発と原
告は昭和四七年八月一〇日付で右磐光開発が原告所有の不動産を原告の契約書を使
用して売却するが、売買代金は全て原告に入金し、原告は右磐光開発に一定の手数
料を支払うほか、右販売に要する広告費及び雑費は原告の負担とするという内容の
土地委託販売契約を締結したことが認められるから、右磐光開発は実質的には原告
の販売部門にすぎないと認めるのが相当である。右認定の事実に、当事者間に争い
のない各退職役員の退職給与金額が最終報酬月額、役員在任期間の相違にかかわら
ず均等であること、しかも右の金額から功績倍率を計算すると七五ないし一五〇と
いう異常な高率であり、また原告の本件事業年度の申告所得金額は二一九二万円余
であるから、右退職給与金の合計額は、退職がなかつたと仮定した場合の原告の本
件事業年度の所得額の実に四分の三にも達しようという高額なものであること、等
をあわせ考えれば、原告の各退職役員に対する退職給与の支給は多分に利益処分た
る性質を有していたと認めるべきであり、前記1で判示した法人税法第三六条、同
法施行令第七二条の趣旨に照らし、右退職給与全額の損金算入を認めることは到底
できないというべきである。
三 当事者間に争いのない原告の本件事業年度の申告所得金額二一九二万三三二三
円に前記二3で判示した役員退職給与の損金不算入額五八二〇万円を加算すると、
原告の本件事業年度の所得金額は八〇一二万三三二三円となる。
従つて、右金額の範囲内でされた本件更正は適法であり、これを前提としてされた
本件決定も適法である。
四 よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、
訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主
文のとおり判決する。
(裁判官 藤田耕三 原 健三郎 北澤 晶)
別表三~五(省略)

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