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裁判例


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          主    文
   1 原告の請求をいずれも棄却する。
   2 訴訟費用は原告の負担とする。
           事実及び理由
第1 請求
1 被告は,被告個人に対し,金2億7592万7000円及びこれに対する平
成17年3月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
2 被告は,被告個人に対し,金2728万円及びこれに対する平成17年3月
12日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
3 被告は,被告個人に対し,金4億5024万3150円及びこれに対する平
成17年3月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は,高根町外6町村が合併して発足した北杜市の住民である原告が,地方
自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,高根町長であっ
た被告が違法な公金支出をしたことによって同町に損害が発生した旨主張して,北
杜市長である被告に対し,高根町長であった被告個人に対して損害賠償請求するよ
う求めている事案である。
2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は,本件に関する住民監査請求(下記(5)ア)が行われた平成16年12
月13日よりも前から,北杜市に住所を有していた。
イ 山梨県北巨摩郡に属する地方公共団体であった明野村,須玉町,高根町,長
坂町,大泉村,白州町及び武川村(以下「旧7町村」という。)は,平成15年1
0月10日,合併協定書(甲7はその抜粋である。以下「本件合併協定書」とい
う。)に調印し,平成16年11月1日,北杜市となった。
ウ 被告は,平成16年よりも前から,高根町長の職にあったが,上記合併に伴
って平成16年11月28日に実施された北杜市長選挙で当選し,北杜市長に就任
した。
(2) 本件火葬場建設費
 被告は,高根町長として,下記アないしオのとおり,代金合計9億3002万
7000円で,火葬場建設に関する請負契約を締結した(以下,これらの請負契約
を「本件火葬場建設請負契約」といい,同契約の代金を「本件火葬場建設費」とい
う。)(甲3)。
ア 契約日 平成16年10月19日ころ
  相手方 A土木株式会社
  工事内容 北杜市火葬場建設工事(建築主体)
  代金額 5億8590万円
イ 契約日 平成16年10月19日ころ
  相手方 B工業株式会社
  工事内容 北杜市火葬場建設工事(機械設備)
  代金額 1億3881万円
ウ 契約日 平成16年10月19日ころ
  相手方 C電気株式会社(甲府営業所)
  工事内容 北杜市火葬場建設工事(電気設備)
  代金額 1億0888万5000円
エ 契約日 平成16年10月19日ころ
  相手方 株式会社D工業所
  工事内容 北杜市火葬場建設工事(火葬炉設備)
  代金額 7963万2000円
オ 契約日 平成16年10月ころ
  工事内容 北杜市火葬場建設工事(下水道整備工事)
  代金額 1680万円
(3) 財産区への本件繰入金
ア 高根町安都玉財産区は,平成15年度の予算において,歳入として88万円
の繰入れを受けた(甲4の2)。
イ 高根町安都那財産区は,平成15年度の予算において,歳入として2640
万円の繰入れを受けた(以下,この繰入金と上記アの繰入金を併せて「本件繰入
金」という。)(甲4の1)。
(4) 本件各公共工事請負契約
 高根町は,平成16年度入札執行事業(第6回から第9回)として,別紙(省
略)のとおり,合計46件(総額4億5024万3150円)の公共工事に関する
請負契約を締結し,随時,その請負代金を支払った(以下,前記46件の公共工事
に関する請負契約を「本件公共工事請負契約」といい,同契約の請負代金を「本件
公共工事請負代金」という。)。
(5) 住民監査請求
ア 原告は,平成16年12月13日,北杜市監査委員に対し,本件火葬場建設
請負契約とその建設費の支払,本件繰入金及び本件公共工事請負契約とその請負代
金の支払が違法な契約や公金支出であるなどとして,必要な措置を講ずるよう求め
る住民監査請求をした。
イ 北杜市監査委員は,平成17年2月9日,上記各契約と各支払はいずれも違
法,不当であるとは認められないとして,上記住民監査請求を却下し,この監査結
果は,そのころ,原告に到達した。
ウ 原告は,平成17年3月8日,本件訴えを提起した。
3 争点
(1) 本件火葬場建設費の一部(2億7592万7000円)について,違法な契
約締結ないし公金支出があるといえるか。
ア 原告の主張
(ア) 高根町議会は,平成16年6月18日,平成16年度高根町一般会計補正予
算(第2回)として,火葬場建設費6億5410万円を支出する旨議決した。
(イ) 旧7町村は,上記議決に先立つ平成15年10月10日,本件合併協定書に
おいて,「火葬場整備については,合併推進債を活用して平成15年度より建設に
着手し,平成17年4月の供用開始を目標とする。」と合意した(本件合併協定書
36条)。
(ウ) 高根町議会が平成16年6月18日に議決した火葬場建設費6億5410万
円(上記(ア))は,本件合併協定書による合意を前提とするものである。そして,本
件合併協定書30条は,本件合併協定書による合意を変更する場合には,旧7町村
の調整に委ねなければならない旨定め,かつ,同36条は,火葬場整備については
合併推進債を活用する旨定めている。そうすると,旧7町村は,火葬場整備につい
て,合併推進債を活用し,かつ,予算総額を6億5410万円とする旨定めたとい
うべきであるから,この額を変更するには,旧7町村又は北杜市議会の議決を経る
必要があるというべきである。
(エ) しかるに,被告は,平成16年10月,上記2(2)のとおり,高根町長とし
て,旧7市町村議会の議決を経ることなく,北杜市火葬場建設工事請負契約を代金
合計9億3002万7000円で締結し,かつ,現在まで北杜市議会の議決を得て
いない(しかも,上記2(2)オの契約については,高根町議会の議決も得ずに契約し
ている。)。したがって,本件火葬場建設費のうち,実際の契約額である9億30
02万7000円と高根町議会が平成16年6月8日に議決した6億5410万円
の差額である2億7592万7000円については,予算外又は目的外契約であ
り,違法な契約ないし公金支出であるといえる。
(オ) なお,高根町議会は,平成16年6月,上記6億5410万円の他に,4億
8090万円を限度額とする債務負担行為を議決したが,この議決は,本件合併協
定書による合意に反し,かつ,高根町を除く旧7町村及び北杜市議会の議決を経て
いないから,上記の結論に変わりはない。
イ 被告の主張
(ア) 上記ア(ア),(イ)の事実は認める。同(ウ)ないし(オ)の主張は争う。
(イ) 高根町議会は,平成16年6月18日,平成16年度高根町一般会計補正予
算(第2回)の中で,火葬場建設関係として,6億5410万円(第4款6目15
節工事請負費)を議決し,また,債務負担行為として4億8090万円を議決し
た。
 そして,高根町長(被告)は,上記議決の範囲内で,本件火葬場建設請負契約
を締結し,かつ,契約金額が5000万円を超える契約については,法96条1項
5号及び「議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分の範囲を定める条
例」(昭和39年3月31日条例第45号(乙1)。以下「本件条例」という。)
2条によって議会の議決が要求されていることから,各契約の締結に先立ち,議会
の議決を得た。したがって,本件火葬場建設請負契約の締結とその建設費の支払が
違法となることはない。
(ウ) また,本件合併協定書は,本件火葬場建設請負契約の締結よりも前に旧7町
村によって平成15年10月10日に作成され,しかも原告の指摘する同36条
は,「火葬場整備については,合併促進債を活用して平成15年度より建設に着手
し,平成17年4月の供用開始を目標とする。」と定めるのみであり,上記6億5
410万円が旧7町村の議決(協議)を経た不変事項であるとの原告の主張は,そ
の前提を欠くものであって主張自体失当である。
(2) 本件繰入金が違法な公金支出であるといえるか。
ア 原告の主張
(ア) 高根町長(被告)は,平成16年度の高根町の一般会計から,本件繰入金を
支出した。
(イ) 法294条2項は,財産区の財産又は公の施設に関して特に要する経費は財
産区の負担とする旨規定するから,上記各繰入れは,違法な公金支出であるといえ
る。
イ 被告の主張
(ア) 上記ア(ア)の事実は否認する。同(イ)の主張は争う。
(イ) 安都玉財産区及び安都那財産区への本件繰入金は,高根町安都玉財産区財政
調整基金の設置管理及び処分に関する条例(乙2)及び高根町安都那財産区財政調
整基金の設置管理及び処分に関する条例(乙3)に基づき,各財産区の財政調整基
金から繰り入れたものであって,何ら違法な公金支出ではない。
(3) 本件公共工事請負契約の締結が違法であるといえるか。
ア 原告の主張
(ア) 高根町長(被告)は,本件公共工事請負契約の締結について,高根町又は北
杜市議会の議決を得なかった。
(イ) したがって,本件公共工事請負契約の締結は違法であり,その代金4億50
24万3150円の支出は,違法な公金支出であるといえる。
(ウ) 被告は,法96条1項5号及び本件条例2条によって,金額5000万円未
満の契約については高根町議会の議決は不要である旨主張する。しかしながら,前
記各規定を形式的に適用すれば,公共工事を意図的に分割することによって,議会
の議決を要求する法96条1項5号の制限を潜脱することができるから,単に,契
約金額が5000万円未満であるからといって,常に議会の議決が必要ないとはい
えないと解すべきである。
 そして,本件公共工事請負契約についても,① 平成16年度入札執行事業
(第6回)のうち,公共下水道事業中央処理区管渠布設工事が,五町田第7工区,
同第9工区,同第12工区,同第11工区,同第10工区の5つの工事に分割さ
れ,② 同事業のうち,地震対策緊急整備事業耐震性貯水槽設置工事が,東井出,
村山北割,五町田,清里及び浅川地区の5つの工事に分割され,③ 平成16年度
入札執行事業(第8回)のうち,公共下水道事業が,中央処理区舗装復旧工事(打
乙地区),清里南部処理区管渠布設工事(清里南部第1工区),中央処理区舗装復
旧工事(東井出1工区)及び中央処理区舗装復旧工事(前田地区)の4つの工事に
分割されている。
 したがって,仮に5000万円未満の契約については議会の議決を経る必要が
ないとしても,本件公共工事請負契約の締結すべてが適法であったとはいえない。
イ 被告の主張
(ア) 上記ア(ア)の事実は認める。同(イ),(ウ)の主張は争う。
(イ) 高根町の本件条例2条は,金額5000万円未満の契約については高根町議
会の議決は不要である旨定めており,本件公共工事請負契約46件は,いずれも請
負代金が5000万円未満である。
(ウ) したがって,本件公共工事請負契約の締結については,高根町議会の議決は
必要ない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件火葬場建設費の一部(2億7592万7000円)について,
違法な契約締結ないし公金支出があるといえるか。)について
(1) 原告は,本件合併協定書30条,36条を根拠に,本件火葬場建設請負契約
を締結するためには旧7町村議会又は北杜市議会の議決が必要である旨主張する。
しかしながら,本件合併協定書30条は,旧7町村の既存の条例の調整方法につい
て規定しているに過ぎないし,また,同36条の規定の文言からすると,同条項に
原告の主張するような拘束力を認める根拠は見いだし難い。したがって,この点に
関する原告の主張は採用できない。
(2) また,上記前提となる事実,証拠(甲1ないし3)及び弁論の全趣旨による
と,① 高根町議会は,平成16年6月18日,平成16年度高根町一般会計補正
予算(第2回)の中で,火葬場建設費の工事請負費として,6億5410万円を議
決し,また,火葬場建設事業について請負契約を締結するための債務負担行為とし
て4億8090万円を議決したこと,② 高根町長(被告)は,上記議決の合計金
額である11億3500万円の範囲内で本件火葬場建設請負契約を締結したこと,
③ 高根町長は,法96条1項5号及び本件条例2条によって,5000万円を超
える契約を締結する場合には議会の議決を得ることを要求しているため,この制限
に服する契約については,各契約の締結に先立ち,高根町議会の承認を得たことが
認められる。
 そして,上記の本件火葬場建設請負契約の締結に至る経緯からは,同契約の締
結及びその代金の支払が財務会計法規に違反するとは認められない。
(3) 他に,本件火葬場建設費の支払等が財務会計法規に違反して違法となる事実
を認めるに足りる証拠はない。
2 争点(2)(本件繰入金が違法な公金支出であるといえるか。)について
(1) 原告は,法294条2項を論拠に本件繰入金の支出が違法な公金支出となる
旨主張するが,この原告の主張は,原告独自の見解であって,採用することはでき
ない。
(2) また,この点をおくとしても,争点(2)ア(ア)の事実,すなわち,高根町長
(被告)が平成16年度の高根町の一般会計から本件繰入金を支出した事実を認め
るに足りる証拠はない。かえって,証拠(甲4の1,乙2,3)によると,本件繰
入金は,高根町安都玉財産区財政調整基金の設置管理及び処分に関する条例及び高
根町安都那財産区財政調整基金の設置管理及び処分に関する条例に基づき設置され
た財政調整基金から繰り入れられたことが認められる。
(3) この財政調整基金からの繰入れが財務会計法規に違反して違法な公金支出と
なることを認めるに足りる証拠はない。
3 争点(3)(本件公共工事請負契約の締結が違法であるといえるか。)について
(1) 争点(3)ア(ア)の事実,すなわち,高根町長(被告)が本件公共工事請負契約
の締結について高根町又は北杜市議会の議決を得なかった事実は当事者間に争いが
ない。
(2) しかしながら,本件公共工事請負契約の代金は,いずれも5000万円未満
であるところ,高根町の本件条例(乙1)によると,予定価格5000万円未満の
工事に関する請負契約については,議会の承認は必要ないことが認められる。
(3) この点,原告は,本件公共工事請負契約の一部について,意図的に同一事業
を分割することによって,議会の議決を求める法96条1項5号の規定を潜脱した
旨主張する。
 そこで検討するに,法96条1項5号の趣旨は,政令等で定める種類及び金額
の契約を締結することは普通地方公共団体にとって重要な経済行為に当たるもので
あるから,これに関しては住民の利益を保障するとともに,これらの事務の処理が
住民の代表の意思に基づいて適正に行われることを期することにあるものと解され
る。そうすると,長による公共事業に係る工事の実施方法等の決定が当該工事に係
る請負契約の締結につき同号を潜脱する目的でされたものと認められる場合には,
当該長の決定は違法であると解するのが相当である(最高裁第三小法廷平成16年
6月1日判決・裁時1365号4頁参照)。
 しかしながら,本件全証拠を精査しても,本件において,被告が,本件公共工
事請負契約の締結について,法96条1項5号の制限を潜脱する目的で,本件公共
工事請負契約を一つの契約とせず,意図的に分割して別個に入札を行ったと認める
ことはできない。
(4) 他に,本件公共工事請負契約の締結及びその代金の支払が財務会計法規に違
反して違法であることを認めるに足りる証拠はない。
4 結論
 以上によると,原告の請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。よっ
て,主文のとおり判決する。
   甲府地方裁判所民事部
        裁判長裁判官   新  堀  亮  一
           裁判官   倉  地  康  弘
           裁判官   岩  井  一  真

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