弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人は,控訴人に対し,1億2000万円を支払え。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文第1項と同じ。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は,魚つき保安林に指定されている森林を所有する控訴人が,保安林の指定
によってその使用収益が妨げられ,損失を被ったと主張して,被控訴人に対し,平
成11年法律第87号による改正前の森林法35条に基づき,損失補償を求めた
が,原審においてこれを棄却されたため,控訴をした事案である。
2 原判決の引用
 森林法の定め,前提となる事実,当事者双方の主張及び争点は,次項において当
審における控訴人の主張を追加するほか,原判決の当該欄記載のとおりであるか
ら,ここにこれを引用する。
3 当審における控訴人の主張
 憲法29条3項は,「私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひ
ることができる」と規定し,公共のために用いることと正当な補償とを分離してい
るのであるから,控訴人に対し,本件土地を建物の敷地として賃貸することができ
ないことによる損失の補償が行われるべきである。本件土地は,控訴人から,法務
省が検事の休養施設として購入した後,それが不可能となったので,控訴人が買い
戻したものであり,この経緯から明らかなとおり,建物の建築が十分可能な土地で
ある。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人の本訴請求は,理由がなく,棄却すべきものと判断する。
その理由は,次項の判断を追加するほか,原判決の理由説示と同じであるから,こ
こにこれを引用する。
2 控訴人の主張は,要するに,本件土地は建物の敷地として利用可能な土地であ
るにもかかわらず,本件森林が魚つき保安林に指定されているため,樹木の伐採及
び土地の形質の変更が禁止され,ひいて建物の敷地として利用することができない
から,これによる損失が補償されるべきであるというものである。
 しかしながら,本件森林は,大正11年6月1日に魚附保安林として指定され,
法の施行により,魚つき保安林の指定と見なされたものであり控訴人が本件森林を
取得したのは,指定の約50年後の昭和44年12月17日であるから,控訴人の
主張する損失は,本件
森林が保安林として指定される前の用途と連続性を有する森林の利用行為を制限さ
れたことによる損失でないことは明らかである。
 また,本件土地を建物の敷地として利用するためには,本件森林に係る保安林の
指定が解除されるか,又は本件土地上の立木を伐採し,本件土地の形質を変更する
行為につき県知事の許可を得ることが必要であるが(法26条,27条,34条1
項及び2項参照),かつて,本件森林につき保安林の指定の解除,立木の伐採及び
土地の形質変更の許可がなかったことは弁論の全趣旨から明らかであり,上記1に
認定の事情の下においては,控訴人が申請しても,控訴人主張の過去10年間にお
いて上記の解除又は許可がされる可能性がなかったというべきである。
 そして,上記1のとおり,本件森林に係る保安林の指定は,魚介類の棲息・繁殖
環境の保全,周辺海域における漁業環境の保護等の公益上の目的達成のために必要
であり,かつ,これによる立木の伐採,形質変更等の制限はその目的達成に必要な
範囲内の制限に止まるものということができる。
 したがって,本件の保安林の指定による使用・収益の制限は,本件土地の使用収
益権に内在する制限の範囲内に止まるものであり,控訴人に対し,財産権に内在す
る一般的制限を超えた特別の犠牲を強いるものということができないから,控訴人
は,法35条又は憲法29条3項に基づき,本件土地を賃貸することができないこ
とによる損失の補償を請求することができないというべきである。そして,このこ
とは,本件土地の形質が建物の建築に適するものであるかどうかに関わらないもの
ということができる。
3 よって,控訴人の本訴請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当である
から,本件控訴を棄却することとし,控訴費用の負担につき,行政事件訴訟法7
条,民事訴訟法67条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官 細川清
裁判官 大段亨
裁判官 伊藤正晴

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