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平成27年10月1日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(ワ)第10039号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成27年7月15日
判決
原告積水化成品工業株式会社
原告株式会社積水化成品四国
原告上田製函株式会社
上記3名訴訟代理人弁護士上原健嗣
同上原理子
同訴訟復代理人弁護士竹内直久
同中村さやか
被告株式会社コーセイ
同訴訟代理人弁護士若本修一
同訴訟代理人弁理士豊栖康司
主文
1被告は,別紙物件目録記載の物件を製造,販売してはならない。
2被告は,第1項記載の物件を廃棄せよ。
3被告は,原告積水化成品工業株式会社に対し,18万2197円及
びこれに対する平成25年10月5日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
4被告は,原告上田製函株式会社に対し,18万2197円及びこれ
に対する平成25年10月5日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
5被告は,原告株式会社積水化成品四国に対し,352万5662
円及びこれに対する平成25年10月5日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
6原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
7訴訟費用は,原告積水化成品工業株式会社及び原告上田製函株式
会社と被告との間に生じた費用については,これを10分し,その
3を原告積水化成品工業株式会社及び原告上田製函株式会社の負担
とし,その余を被告の負担とし,原告株式会社積水化成品四国と被
告との間に生じた費用については,これを10分し,その7を原告
株式会社積水化成品四国の負担とし,その余を被告の負担とする。
8この判決は,第3項ないし第5項に限り,仮に執行することがで
きる。
事実及び理由
第1請求
1主文1項同旨
2主文2項同旨
3被告は,原告積水化成品工業株式会社及び原告上田製函株式会社に対し,そ
れぞれ25万2513円,原告株式会社積水化成品四国に対し,1212万0
646円,並びに,各金員に対する平成25年10月5日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,発明の名称を「発泡合成樹脂容器」とする特許権を共有する原告ら
が,被告による被告製品の製造・販売が特許権の侵害に当たると主張して,被
告に対し,特許法100条1項に基づき被告製品の製造及び販売の差止め,同
条2項に基づき被告製品の廃棄を求めるとともに,平成24年9月19日から
平成25年1月15日までの特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求とし
て,当該特許発明を実施していない原告積水化成品工業株式会社(以下「原告
積水化成品」という。)及び原告上田製函株式会社(以下「原告上田製函」と
いう。)は,特許法102条3項により,実施料相当額のうち各持分3分の1
に相当する25万2513円,当該特許発明を実施する原告株式会社積水化成
品四国(以下「原告積水化成品四国」という。)は,特許法102条2項によ
り推定される損害額から他の原告ら請求の実施料相当額合計50万5026円
を控除した1212万0646円,並びに,各請求損害金に対する訴状送達の
日の翌日から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を求めた事案である。なお,被告に対する訴状送達の日は,平成25年10月
4日である。
2前提事実(争いのない事実及び証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められ
る事実)
(1)当事者
ア原告積水化成品は,発泡プラスチック,その他のプラスチック製品など
に関連する製品の製造,加工,売買,輸入及び輸出などを目的とする株式
会社である。
イ原告積水化成品四国は,家庭用並びに工業用発泡プラスチック及びこれ
らの成形材料の製造・販売,梱包資材等の製造・販売,漁業用の各種資材
等の売買等を目的とする株式会社である。
ウ原告上田製函は,発泡合成樹脂製品の製造販売,荒物・什器・その他の
産業機械器具卸売業を目的とする株式会社である。
エ被告は,各種発泡スチロール(合成樹脂)の製造,成型及び販売,包装
資材の製造,加工,販売などを目的とする株式会社である。
(2)原告らの特許権
原告らは,以下の特許(以下「本件特許」という。また,その特許出願の
願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。本件特許の請求
項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」,
請求項3に係る発明を「本件発明3」といい,これらを合わせて「本件発
明」ということがある。)に係る特許権を持分3分の1ずつで共有している。
特許番号特許第4739988号
登録日平成23年5月13日
発明の名称発泡合成樹脂容器
特許請求の範囲
【請求項1】
「略四角形をなす底板部と該底板部の周縁から立設された側壁部とから
なり,底面周縁に,該底面を平面上に置いた時に接地しない底上げ部が
設けられている発泡合成樹脂容器において,
前記底面周縁のうち,少なくとも底板部の対向する2辺の中央部又は
中央近傍部に,該底面を平面上に置いた時に接地する荷重受け底面延長
部が設けられたことを特徴とする発泡合成樹脂容器。」
【請求項2】
「前記底板部が略長方形をなし,底板部の長辺側2辺の中央部又は中央
近傍部に,前記荷重受け底面延長部が設けられたことを特徴とする請求
項1に記載の発泡合成樹脂容器。」
【請求項3】
「前記荷重受け底面部の長さが底板部の長辺長さに対し1/10~1/
2の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の発泡合成樹脂容
器。」
(3)本件発明1の構成要件の分説
本件発明1の構成要件は,次のとおり,分説することができる。
A略四角形をなす底板部と
B該底板部の周縁から立設された側壁部とからなり,
C底面周縁に,該底面を平面上に置いた時に接地しない底上げ部が設けら
れている
D発泡合成樹脂容器において,
E前記底面周縁のうち,少なくとも底板部の対向する2辺の中央部又は中
央近傍部に,該底面を平面上に置いた時に接地する荷重受け底面延長部が
設けられたことを特徴とする
F発泡合成樹脂容器。
(4)本件発明2の構成要件は,次のとおり,分説することができる。
G前記底板部が略長方形をなし,
H底板部の長辺側2辺の中央部又は中央近傍部に,前記荷重受け底面延長
部が設けられたことを特徴とする
I請求項1に記載の発泡合成樹脂容器。
(5)本件発明3の構成要件は,次のとおり分説することができる。
J前記荷重受け底面部の長さが底板部の長辺長さに対し1/10~1/2
の範囲内であることを特徴とする
K請求項2に記載の発泡合成樹脂容器。
(6)本件発明1,2,3の作用効果(本件明細書【0023】)
「本発明の発泡合成樹脂容器は,略四角形をなす底板部と該底板部の周縁か
ら立設された側壁部とからなり,底面周縁に,該底面を平面上に置いた時に
接地しない底上げ部が設けられている発泡合成樹脂容器,又は略四角形をな
す底板部と該底板部の周縁から立設された側壁部とからなり,底面周縁に,
該底面を平面上に置いた時に接地しない底上げ部が設けられている発泡合成
樹脂製の容器本体と,該容器本体の開口に着脱可能に装着される前記底板部
と略同形状をなす発泡合成樹脂製の蓋とからなる発泡合成樹脂容器において,
前記底面周縁のうち,少なくとも底板部の対向する2辺の中央部又は中央近
傍部に,該底面を平面上に置いた時に接地する荷重受け底面延長部を設けた
構成としたので,容器内に食品や氷片などを収容し,これを多段積みした際
に,最下段の容器は,底上げ部以外の底面と,荷重受け底面延長部とが接地
することで,荷重負荷時に変形し易い側壁部中央部分の変形が緩和され,容
器の耐圧縮強度を高めることができ,この容器に内容物や氷を詰めて多段積
みした場合の最下段の容器などのように,大きな荷重が加わった場合に,従
来品に比べて容器や蓋に割れが発生し難くなる。
本発明の発泡合成樹脂容器は,前記の通り,大きな荷重が加わった場合に,
従来品に比べて割れが発生し難いものなので,容器内の気密性が保持され,
保冷性が向上する。
本発明の発泡合成樹脂容器は,前記の通り,大きな荷重が加わった場合に,
従来品に比べて割れが発生し難いものなので,多段積みした容器の荷崩れを
防止できる。
本発明の発泡合成樹脂容器は,容器の底に荷重受け底面延長部を設けた構
成なので,発泡合成樹脂容器以外の部材を用いることなく,容器の耐圧縮強
度を高め得るので,コストを上げることなく,容器の強度を向上させること
ができる。」
(7)被告製品の製造販売
被告は,遅くとも平成24年9月又は10月頃から,別紙物件目録記載の
物件(以下「被告製品」という。)を,業として製造販売した。
(8)被告製品の形状は,別紙物件目録記載のとおりであり,その構成は,おお
むね,以下のとおりである(甲3)。
a略長方形の底板部を有し,その長辺は495ミリメートル,短辺は29
5ミリメートルの長さである。
b該底板部の周縁には,高さ150ミリメートルの側壁部が立設されてい
る。
c底面周縁には,底板部からの高さ4ミリメートルの底上げ部が設けられ,
該底上げ部は,該底面を平面上に置いた時に接地しない。
d発泡合成樹脂容器である。
e底面周縁のうち,底板部の対向する長辺の中央部に,底面を平面上に置
いた時に接地する荷重受け底面延長部(25ミリメートル×95ミリメ
ートル)が設けられている。
f発泡合成樹脂容器である。
g略長方形をなした底板部(長辺495ミリメートル×短辺295ミリ
メートル)を有している。
h底板部の長辺側2辺の中央部に,荷重受け底面延長部(25ミリメート
ル×95ミリメートル)が設けられている。
i前記aないしfの発泡合成樹脂容器である。
j前記荷重受け底面延長部の長さが95ミリメートルであり,底板部の長
辺長さ495ミリメートルに対し,1/10~1/2の範囲内である。
k前記aないしiの構成からなる発泡合成樹脂容器。
(9)被告製品の構成と本件発明の構成要件との対比
被告製品のaないしkの構成は,それぞれ本件発明の構成要件AないしK
を充足する。したがって,被告製品は,本件発明1ないし3の技術的範囲に
属する。
(10)原告らの実施状況
前記のとおり,本件特許権は原告ら3名の共有であるが,そのうち原告積
水化成品四国のみが本件発明を実施している(弁論の全趣旨)。
3争点
(1)無効論1
ア公開実用新案公報(公開実用平成3-66834)(乙1。以下「乙1
文献」といい,乙1文献に係る発明を「乙1考案」という。)に基づく
本件発明1,2の新規性の欠如(争点1-ア)
イ乙1文献,「公開特許公報(特開2005-350080)」(乙
2。以下「乙2文献」といい,乙2文献に係る発明を「乙2発明」と
いう。)及び「公開実用新案公報(実願昭55-89049号(公開
実用昭和57-11729))」(乙3。以下「乙3文献」といい,
乙3文献に係る考案を「乙3考案」という。)による本件発明1,2
の進歩性の欠如(争点1-イ)
(2)無効論2
ア英国特許出願公開明細書(GB2342088A)(乙23。以下
「乙23文献」といい,乙23文献に係る発明を「乙23発明」とい
う。)に基づく本件発明1の新規性の欠如(争点2-ア)
イ乙23文献による本件発明1の進歩性の欠如(争点2-イ)
ウ乙1文献を主引例,乙23文献を副引例とすることによる本件発明
1の進歩性の欠如(争点2-ウ)
エ乙23文献に基づく本件発明2の新規性の欠如,乙23文献による
本件発明2の進歩性の欠如(争点2-エ)
(3)無効論3(本件発明3の進歩性の欠如)
(4)損害
4争点に関する当事者の主張
(1)無効論1
(被告の主張)
ア争点1-ア(乙1文献に基づく本件発明1,2の新規性の欠如)
(ア)乙1文献中,「実用新案登録請求の範囲」には,「被収納部を収納し
た容器本体に蓋をして多段に重ねるようにした容器であって,上段の容
器本体の下部に設けた凸部が下段の蓋を設けた切欠き部を介して,下段
の容器本体の凹部に嵌合するようにしたことを特徴とする容器」と記載
されており,この記載からすれば,乙1考案は,次の構成を備えている。
a,g容器本体(11)は,長方形状の底板部と
b底板部の周縁から立設された側壁部とを備えており,
c容器本体(11)の底面の周縁には,底面を平面上に置
いたときに接地しない底上げ部が設けられている。
e,h底面の周縁のうち,底面部の対向する長辺側の2辺の中
央近傍に,底面を平面上に置いた時に接地する容器凸部1
1aが設けられている。
なお,容器の材質(d,f,i)については明記されていない。
(イ)乙1考案を本件発明1,2と対比すると,乙1考案の構成a,b,c,
e,g,hは,本件発明1,2の構成要件A,B,C,E,G,Hと一致
する。
また,乙1文献には,容器の材質が発泡合成樹脂であることは明記さ
れていないが,これは,公知材料(乙2文献,乙3文献参照)の中から
の選択にすぎず,当業者が容易になし得ることであり,相違点と評価し
えるものではない。
したがって,本件発明1,2は,乙1考案と実質的に同一であり,新
規性を欠く。
イ争点1-イ(乙1文献,乙2文献及び乙3文献による本件発明1,2の
進歩性の欠如)
上記主張からすると,本件発明1,2は,少なくとも,乙1文献,乙
2文献及び乙3文献に基づき当業者が容易に想到できたものであるから,
進歩性を欠く。
ウ原告らの主張に対する反論
(ア)原告ら主張の相違点1について
a乙1考案の課題が容器を積み重ねて搬送する際の上段の容器本体及
び蓋の滑り落ちの防止にあるのであれば,容器本体の下部に設けた凸
部は長辺のどこにあってもよく,これを長辺の「中央部又は中央近傍
部」以外の位置に設けなければならないとする理由はない。そうする
と,乙1考案の構成要件(e,h)には,底面部の対向する2辺の中央
近傍に容器凸部11aが設けられていることが開示されているといえ,
本件発明における要件Eを充足する。よって,両者には実質的な同一
性が認められるといえる。
b本件明細書の図5(実施例3)を実測すると,荷重受け底面延長部
は,長辺の中心から約27%の位置にあるのに対して,乙1文献記載
の第1図(乙1)を実測すると,容器凸部11aは,長辺の中心から
約37%の位置にあり,長辺の端部側より中心側に近づけて設けられ
ているといえる。したがって,乙1考案の構成要件e,hにおいても,
底面部の対向する2辺の中央近傍に容器凸部11aが設けられている
ことが開示されているといえ,本件発明における構成要件Eを充足す
ることになり,両者には実質的に同一性が認められる。
(イ)原告ら主張の相違点2について
乙1文献は,容器の材質を特定していないところ,蓋の滑り落ちは,
容器全般で生じる課題であることからすれば,あらゆる材質の容器を対
象にしたものと捉えられ,「発泡合成樹脂容器」も当然に含まれるとい
える。
本件発明は,その請求項において食品輸送箱に限定されておらず,内
容物も特定していない。乙1文献も,電子部品の収納に限定しておらず,
食品や氷などの収納にも適用されるものである。しかるに,原告は,乙
1文献に開示される容器があたかも電子部品に限定されるかのような主
張をしており失当である。
そもそも「発泡合成樹脂」は,容器の材質としてごく一般的であり,
このような公知材料に特定したことで進歩性が認められないことは明白
である。
(原告らの主張)
ア争点1-ア(本件発明1,2の新規性の欠如)について
乙1考案の構成e,hは,「底面の周縁のうち,底面部の対向する長辺
側の2辺偏端部(図面においては左端部)から1/3未満の位置に,底面
を平面上に置いた時に接地する容器凸部11aが設けられている」と解す
べきである。本件発明1,2における「中央近傍部」とは,文言上,少な
くとも両端よりも中央に寄った部分,すなわち両端から3分の1未満を除
く部分と解すべきであるから,乙1考案の容器凸部11a「中央近傍部」
に設けられているとは認められない。
これを前提に,乙1考案と本件発明1,2とを対比すると,本件発明と
乙1考案との相違点は,本件発明では,「少なくとも底板部の対向する2
辺の中央部又は中央近傍部」あるいは「長辺側2辺の中央部又は中央近傍
部」に底面延長部を設けるとして底面延長部の位置が「中央部又は中央近
傍」と特定されているのに対し,乙1文献にはその特定がないこと(相違
点1),本件発明においては,容器の材質が発泡合成樹脂と特定されてい
るのに対し,乙1文献にはその特定がないこと(相違点2)の2点である。
したがって,本件発明1,2に新規性の欠如はない。
イ争点1-イ(乙1文献,乙2文献及び乙3文献による本件発明1,2
の進歩性の欠如)について
(ア)相違点1について
a本件発明の技術分野は,「鮮魚,青果物等の食品輸送箱などと
して使用される発泡合成樹脂に関する」もの(【0001】甲1)で
あり,その解決しようとする課題は,「合成樹脂製の容器本体と蓋と
からなる発泡合成樹脂容器の機械強度,特に耐圧縮強度を高め」るこ
とである(【0011】(甲2))。そして,その目的を達成するた
めに,「少なくとも底板部の対向する2辺の中央部又は中央近傍部」
あるいは「長辺側2辺の中央部又は中央近傍部」に「荷重受け底面延
長部」を設けたものである。
他方,乙1考案は,「ダイオード等の電子部品の製造工程で完成品
である電子部品またはその中間部品や構成素材の保管や搬送に使用す
る箱型容器の改良に関する」ものであり,その解決しようとする課題
は,容器を積み重ねて搬送する際の上段の容器本体及び蓋の滑り落ち
の防止である。そして,そのために,多段に重ねた容器の上段の容器
本体の下部に設けた凸部が,下段の蓋に切欠き部を介して,下段の容
器本体の凹部に嵌合するように構成されているのである。
このように,本件発明と乙1考案とは,利用分野も解決すべき課題
も異なるものであり,乙1考案の課題の解決には,「上段の容器本体
の下部に設けた凸部」が,「下段の容器本体の凹部」に,「下段の蓋
に設けた切欠き部を介して」,「嵌合するように構成」することをも
って足りるのであり,容器の機械強度を高めるという本件発明の課題
とは明らかに異なる乙1考案の課題に照らしてみても,「容器本体の
下部に設けた凸部」を辺の「中央部又は中央近傍部」に設ける必要性
は見いだせない。
したがって,本件発明1,2は,乙1考案と実質的に同一であると
いうことはできない。
b前記aのとおり,本件発明における「底面延長部」と乙1考案にお
ける「容器本体の下部に設けた凸部」とでは,その目的,意図が全く
異なるものであり,乙1文献には,少なくとも「底板部の対向する2
辺の中央部又は中央近傍部」あるいは「長辺側2辺の中央部又は中央
近傍部」に底面延長部を設けるということについては,開示も示唆も
認められない。
また,乙2文献,乙3文献には,底面延長部の位置の特定について
の記載も示唆もないのであるから,乙1文献に,乙2文献,乙3文献
のいずれを組み合わせても,本件発明の構成要件e,hを満たすもの
ではない。
よって,当業者が,相違点1に係る構成を容易に想到することがで
きたものとはいえない。
(イ)相違点2について
a本件発明では,容器の材質について「発泡合成樹脂容器」とされ
ているところ,これは,鮮魚や青果物,氷等の食品輸送箱として用
いられるもので,気密性の保持による保冷あるいは保温の効果を備
えた容器である。
一方,乙1文献には,材質の明記はなされていないが,これがダイ
オード等の電子部品の保管や搬送に用いる容器であり,気密性の保持
による保冷あるいは保温の効果を備える必要がないことは明らかであ
るから,「発泡合成樹脂容器」を想定したものではないことは明らか
である。
よって,ダイオード等の電子部品の保管や搬送に用いる容器である
乙1考案に対して,乙2文献や乙3文献に開示されている「発泡合成
樹脂容器」を利用して本件発明の構成に至る動機付けがあるとは認め
られない。
bまた,乙2発明の「発泡合成樹脂容器」は,野菜,キノコ,果物な
どの生鮮食品を収納して積段可能で予冷処理が可能な予冷用発泡容器
であり,乙2文献の記載内容からしても,ダイオード等の電子部品の
保管や搬送に用いる容器である乙1考案に対して,これを利用して本
件発明の構成に至る動機付けがあるとは認められない。
乙3考案の「容器」は,果物,野菜,鮮魚などの輸送用容器として
積段可能な「ポリスチレン系樹脂発泡容器」であって,容器の側壁と
底板とが交差する稜部の亀裂やひび割れを発生させないことを課題と
するものであるところ,ダイオード等の電子部品の保管や搬送に用い
る容器であり,容器の積み重ねの際の容器本体や蓋の滑り落ちの防止
を課題とする乙1考案に対して,「ポリスチレン系樹脂発泡容器」等
の「発泡合成樹脂容器」を利用して本件発明の構成に至る動機付けが
あるとは認められない。
(ウ)以上より,本件発明1,2が,乙1文献,乙2文献及び乙3文献に基
づき容易に想到できたということはできない。
(2)無効論2
(被告の主張)
ア争点2-ア(乙23文献に基づく本件発明1の新規性の欠如)
(ア)乙23発明の内容は次のとおりである。
a,g容器本体1は,長方形状の底板部1dと
b底板部1dの周縁から立設された側壁部1a,1a’,1
b,1b’とを備えている。
c容器本体1の底面の周縁には,底面を平面上に置いたとき
に接地しない底上げ部が設けられている。
eh底面の周縁のうち,底面部の対向する短辺側の2辺の中央に,
当該底面を平面上に置いた時に接地する荷重受け底面延長部
(突部18)が設けられている。
e’h底面の周縁のうち,底面部の対向する長辺側の中央及び両
端に,底面を平面上に置いた時に接地する突起15(乙24
の訳語では突部15。以下同じ。)が設けられている。
d,f,i容器本体1及び蓋12は,発泡スチロール製である。
(イ)乙23発明において,突部18及び突起15は接地する。
a突部18が接地することは,乙23文献の図6の底面図の他,図
4の断面図(図1のB-B線断面図)に開示されている。
b突起15が接地するものであることは,乙23文献の図4(上面
において,突起15を嵌合させる窪み11の下方が容器本体の底面
の位置と一致する),図5,図7及び図8に開示されている。特に
図5では,カバー部13の下面16と同様の形状に形成された容器
本体において,突起15が容器本体1の底板部1dと同じ高さまで
延伸されていることが明示されている。
また,仮に突起15が接地せず,突起15の高さが下面16(図
5)よりも高い位置にあるとすれば,容器本体1を平面上に置いた
際に底面が浮いてしまうことになるが,そうすると,多段に積層さ
れた本体容器の荷重を側壁1aだけで支持することになり,その強
度に問題が生じる。
c原告らが主張するとおり,乙23文献の図2の両下端は,外面1
dから底上げされた状態に図示されているが,これは図2の切断位
置を示す図1における手書きのA-A線の位置が不正確なためであ
ると考えられる。
d乙23文献には,原告らが主張するような仕切り板4の上端が上
側の容器を支持する構造を備えているとの直接的な記述はない。ま
た,仕切り板4の上端が,上側の容器本体1の底面の位置まで延長
され,その結果,容器本体1の荷重を支持しているというのであれ
ば,同様に図示された突起15も容器本体1の荷重を受けているも
のと解釈することが相当である。
(ウ)乙23発明と本件発明1を対比すると,乙23発明は,本件発明1の
構成AないしFを,構成a,b,c,d,e(突部18が短辺側の荷重
受け底面延長部に相当する。),f,あるいはa,b,c,d,e’
(底面に接地する長辺側の突起15が荷重受け底面延長部に相当す
る。),fとして,すべて開示しており,両者は実質的に同一である。
したがって,本件発明1は,新規性が欠如している。
イ争点2-イ(乙23文献による本件発明1の進歩性の欠如)
アでの主張から,本件発明1は,新規性又は進歩性が欠如している
ウ争点2-ウ(乙1文献を主引例,乙23文献を副引例とすることによる
本件発明1の進歩性の欠如)
乙1文献を主引例,乙23文献を副引例とする組み合わせにより,本件
発明1は進歩性を有しない。
乙1考案に関する原告主張の相違点1(底面延長部の位置の特定),相
違点2(容器材質の特定)のいずれも,乙23文献に開示がある。
乙1考案と乙23発明は,収納される物品を特定しない容器という共通
の技術分野に属し,また複数の容器の積み上げ可能な構成を実現する目的
でなされたという課題の共通性も有している。
さらに,このような容器の積み上げに際しては,下方に位置する容器の
強度を高めることが求められることは必定であり,容器の強度を向上させ
ることは,容器の種類を問わず,容器の分野における周知かつ共通の課題
であると言える。
そして,乙1文献と乙23文献の組み合わせを阻害するような特段の事
情は存在しない。
したがって,乙1文献に乙23文献を適用することに動機付けは認めら
れ,本件発明1の進歩性は否定される。
エ争点2-エ(乙23文献に基づく本件発明2の新規性の欠如,乙23文
献による本件発明2の進歩性の欠如)
(ア)Hに相当する構成を,e’h(長辺側の突起15)と捉えた場合,
突起15は,底面部の長辺側の中央に設けられているので,乙23発明
のhは請求項2のHを充足する。
したがって,本件発明2の構成G,H,Iは,g,h,iとして,全
て乙23文献に開示されており,本件発明2の新規性,進歩性は否定さ
れる。
(イ)Eに相当する構成を,eh(短辺側の突部18(荷重受け底面延長
部))と捉えた場合
a新規性について
乙23発明の構成eh(短辺側の突部18(荷重受け底面延長
部))に着目した場合,この荷重受け底面延長部は,底板部の短辺側
に設けられているので,本件発明2の荷重受け底面延長部(20)が長辺
側に設けられていることと一見相違する。
しかし,荷重受け底面延長部が長辺側に設けられているか,短辺側
に設けられているか,すなわち,乙23発明の構成において,長方形
状の容器を横長とするか縦長とするかは,容器に収納する内容物の大
きさや形状,あるいは数や詰め方の配置に応じて適宜選択する設計事
項にすぎない。
したがって,乙23文献において図示されていないものの,荷重受
け底面延長部を長辺側に設ける構成は,実質的に開示されているとい
える。よって,本件発明2は,乙23文献によって新規性が否定され
る。
b進歩性について
aで述べた容器の形状の選択は,そもそも当業者においては容器の
用途等に応じて日常的に行われる設計事項にすぎない。
乙23発明の構成において,短辺側に形成された荷重受け底面延長
部(突部18)と,長辺側に設けられた突起15とは,接地する面積
が異なること以外に差がないので,これらを入れ替えたり,突起15
の幅を広くしたりすることに格別の困難性もない。
加えて,本件発明2は,格別の作用効果を奏するものでない。
すなわち,本件発明2は,本件発明1に比し,「底板部(12)が略長
方形」で,「底板部(12)の長辺側」に荷重受け底面延長部(20)を設け
たことを限定したものであるが,本件明細書自体が,底板部(12)を長
方形の短辺側2辺に荷重受け底面延長部を設けても作用効果を奏する
ことを認めている(甲2【0059】)。
言い換えると,乙23文献で開示される,短辺側に荷重受け底面延
長部を設ける構成でも,容器の強度を向上させる効果が得られること
を原告ら自身が認めているのであるから,本件発明2に格別の作用効
果があると主張することはできない。
したがって,乙23発明の構成において,荷重受け底面延長部を長
辺側に設けることに何ら困難性はなく,乙23文献から本件発明2の
構成を想起することは容易であったということができる。
よって,本件発明2の進歩性も否定される。
(原告らの主張)
ア争点2-ア(乙23文献に基づく本件発明1の新規性の欠如)について
(ア)構成ehの認定について
乙23発明は,構成「e’’」「h’」として,「底面の周縁のうち,
底面部の対向する短辺側の2辺の中央部に,該底面を平面上に置いたと
きに接地する荷重を受けない底面延長部(突部18)が設けられてい
る。」と認定するのが相当である。
突部18は,容器本体を持ち上げようとする作業者が手をかけるため
の突部であって(乙24の4頁2行ないし6行)荷重を受ける部分では
ない。乙23には,突部18について,①「蓋12は,2つの対向する
側壁14に,延伸された突部を備える」,②「突部18は窪み17に適
切に嵌合されるよう,ほぼ同じ長さを有する」,③「ただ,窪み17を
18よりも深くすることで,蓋が定位置にある際に容器を持ち上げよう
とする作業者の指を挿入可能な十分なスペースが確保される」と記載さ
れている。これによれば,突部18は,窪み17との関係で形成される
ものであり,その高さやカバー部13の下面16と同じ高さにする必要
はないし,その技術的意味付けも何ら記載されていない。また,乙23
文献の図1,2に示すように,実生の苗等の収容物は,仕切り板4と長
辺側の側壁1a’のみによって支持されていることがわかり,特に図2
から,この収容物を支持する仕切り板4と長辺側の側壁1a’を下方に
延長した部分は,平面上に接地する底板部位に位置し,外周フランジ1
4上に位置しないため,この底板部位で十分荷重を支えられる。そのた
め,容器本体1の短辺側の側壁1b,1b’にはほとんど荷重はかから
ない。よって,突部18に相当する部位は,その側壁1b,1b’の破損
等を防ぐための部位ではなく,荷重受け底面延長部には相当しない。
(イ)構成e’hの認定について
乙23発明は,構成「e’’’」「h’」として,「底面の周縁のう
ち,底面部の対向する長辺側の中央及び両端に半円状の突起(突起1
5)が設けられており,該底面を平面上に置いたときに突起が平面に接
地するか否かは不明であるが,接地する場合には,半円状の突起の接地
部分は線となる。」と認定するのが相当である。
乙23文献には,①「カバー部13の2つの対向する辺に,突起15
がフランジ14に形成される」,②「突起15は,容器本体1の対応す
る窪み11に嵌合されるように,間隔をおいて形成される。」,③「図
5に最もよく示されるように,突起15はカバー部13の下面16とほ
ぼ同じ高さまで延伸されている。」,④「使用時には,周囲フランジ1
4の下面14aは,側壁1a,1a’,1b,1b’の上面1cに接し,突起
15は,側壁1a,1a’の窪み11に係合される。」,⑤「突起15及
び窪み11は任意であり,蓋12が容器本体1上に容易に置かれること
を可能にする。」(乙24の3頁)と記載されている。
まず,③から明らかなように,突起15の高さ位置は定型的に決まっ
たものではなく,下面16と異なる位置であってもよいのであり,その
場合,突起15は接地しない。また,①,②,④から明らかなように,
そもそも突起15は,側壁に設けた窪み11に係合させることを意図し
て形成された部位であるから,窪み11との関係で突起15の形状や大
きさが決定されるのであり,突起15の高さをカバー部13の下面16
とほぼ同じ高さにする必要はないし,その技術的な意味付けは何ら記載
されていない。また,平面上への接地は何ら意図されておらず,荷重を
受ける部分でもない。
乙23文献の記載からすると,容器本体は,その内部に仕切り板4が
設けられており,その上端が上側の容器を支えるために,仕切り板4を
通じて直接底板に荷重がかかる構造となっている。また,乙23文献の
図2から,容器本体1の長辺側の側壁1a,1a’の下方は,平面上に置
けば接地する位置にあり,この長辺側の側壁1a,1a’にかかる荷重は,
底板にそのまま伝わる構造になっている。つまり,突起15は,面上に
荷重を受ける構成になっているものではなく,容器本体に対応する窪み
1に嵌合される突起でしかない。
よって,容器本体1を平面上に置いた場合に,突起15が接地するか
否かは明らかではなく,仮に,接地するとしても,その接地部分は線と
なり,面を構成するものではないことから,突起15は,荷重受け底面
延長部ということはできない。
なお,発泡合成樹脂容器には,底面の一部が接地しない容器も存在す
るし,乙23文献で例示された植物を収容する限り,底面の一部が浮い
たからといって,容器の強度に問題が生じるとは考えられない。
(ウ)以上のとおり,乙23発明には本件発明1の「荷重受け底面延長
部」に相当する部位はなく,本件発明とは構成が異なることから,乙
23発明は本件発明1とは相違する。したがって,本件発明1は乙2
3文献に記載された発明ではなく,新規性は否定されない。
イ争点2-イ(乙23文献による本件発明1の進歩性の欠如)について
乙23文献記載の容器本体の構造やその収容物等を総合的に勘案すれば,
積層した際に容器本体1の側壁1a,1a’,1b,1b’の破損を防止
するといった課題がなく,本件発明1の「荷重受け底面延長部」を設ける
動機付けがない。そのため,乙23文献から当業者が本件発明1を容易に
想到することができたとはいえない。
ウ争点2-ウ(乙1文献を主引例,乙23文献を副引例とすることによ
る本件発明1の進歩性の欠如)について
乙1文献及び乙23文献に基づいて,当業者が本件発明1を容易に発明
することができたとはいえない。
乙1文献に乙23文献を組み合わせたとしても,本件発明1の荷重受け
底面延長部を設ける動機付けがないことから,本件発明1を容易に想到す
ることができたとはいえない。
エ争点2-エ(乙23文献に基づく本件発明2の新規性の欠如,乙23文
献による本件発明2の進歩性の欠如)について
(ア)争点2-アで記載したとおり,乙23発明には,「荷重受け底面延長
部」に相当する部位がなく,本件発明2とは構成が異なることから,e
h,e’hいずれに着目した場合でも,本件発明2は,乙23文献に記
載された発明ではなく,その新規性は否定されない。
また,積層すれば3000Nを超える荷重がかかり,その破損が問題
になる本件発明2と異なり,乙23発明には,積層した際に,容器本体
の側壁の破損を防止するといった課題がなく,「荷重受け底面延長部」
を設ける動機付けがない。よって,「荷重受け底面延長部」についての
記載も示唆もない乙23文献に記載された発明から,当業者が本件発明
2を容易に想到することはできない。
(イ)突部18の位置は,容器を積層した場合の取っ手の位置になるところ,
通常,取っ手は,容器を持ち上げる際の重量バランス等を考慮し,短辺
側に設けるものである。あえて長辺側に設けるとすれば,その必要性が
認められるときに限られるのであり,その場合,収容物の種類,形状,
重量等に応じ,また,持ち運び時のバランスも考慮して位置を工夫しな
ければならないのである。したがって,突部18の位置を,長辺側とす
るか短辺側とするかは,設計事項にすぎないという被告の主張は失当で
ある。
(3)無効論3(本件発明3の進歩性の欠如)
(被告の主張)
構成要件Jにおける「1/10~1/2」との数値範囲の技術的意義につ
いて,本件明細書【0027】には,「この荷重受け底面延長部20の長さ
は,底板部12の長辺長さに対し1/10~1/2の範囲内であることが好
ましい。この荷重受け底面延長部20の長さが底板部12の長辺長さの1/
2を超えると,多段積みしたときに容器がずれて容器が荷崩れしやすくなる
おそれが生じ好ましくない。また荷重受け底面延長部20の長さが底板部1
2の長辺長さの1/10未満であると,多段積みした容器の耐圧縮強度を高
められないおそれが生じ好ましくない」と記載されている。
しかし,その具体的理由が明らかではなく,臨界的意義の根拠は不明であ
る。前記数値範囲に関する記載は,単に荷重受け底面延長部20が長すぎる
と容器がずれやすくなり,短すぎると荷重を受ける効果が弱くなるという,
ごく当たり前のことを述べているにすぎず,技術的意義を有するものではな
い。このように,本件発明3の数値限定に技術的意義は見いだせず,このよ
うな限定によって新たな特許性が認められるものではない。よって,本件発
明1,2に特許性が認められない限り,本件発明3の特許性も認められない。
(原告らの主張)
荷重受け底面延長部の長さと容器のずれやすさの関係,及び,荷重受け底
面延長部の長さと荷重を受ける効果の関係は,本件特許の発明者が発明した
事項であり,「ごく当たり前のこと」などではない。
「特許実用新案審査基準第Ⅱ部特許要件第2章新規性,進歩性」(2
0頁)の基準からすれば,臨界的意義が要求されるのは,本件発明3と引用
発明である乙23発明の相違点が,数値限定の有無のみで,課題が共通する
場合に当たる場合である。
しかし,前記のとおり,本件発明3の課題と,乙23発明の課題は明らか
に相違するものであり,数値限定以外の相違がある上,技術的課題も異にし
ているから,本件発明3について臨界的意義が要求される場合に当たらない。
本件発明3は,底面延長部の長さを底板部の長辺長さに対する割合という
全く新規なパラメータを創出し,容器を多段積みした際に生じる問題である
容器のずれ,容器の耐圧縮強度,についてのバランスをパラメータで規定し
たものであり,技術的意義は存在する。
なお,乙23発明の突起15は,被告の主張どおり半円状の円弧が接地す
るとしても,設置部分は線であるため,線の幅方向長さは0となって,本件
発明3でいう「1/10ないし1/2」の範囲外となる。また,乙1考案の
容器凸部11aの長さ割合についても,0.067程度であるため,本件発明3
でいう1/10ないし1/2の範囲外となる。
(4)争点4(損害)
(原告らの主張)
ア被告製品の売上金額
(ア)被告製品の販売期間
被告製品の販売期間は,被告が改良した金型を使用して製造を開始し
た平成24年9月19日から,同金型をDAISEN株式会社へ送付し
た平成25年1月15日までとすべきである。
(イ)被告製品の販売個数及び単価
販売個数につき,被告は,被告主張の4社に対する請求書(乙4ない
し7)及び売掛台帳(乙8ないし11)の記載に基づいて主張するが,
商品台帳(乙12ないし17)及び製品別売上台帳(乙40ないし4
3)に基づき,別紙集計表の「原告らの主張」欄のとおりと認めるべき
である。
なお,被告は,「K200-N」については,上記販売期間中も,被
告製品と金型改造前の旧製品を同じ商品番号で並行して販売しており,
商品台帳等における同商品番号の記載には旧製品も含まれていると主張
するが,その事実を認める的確な証拠は提出されていない。
イ売上から控除すべき経費
被告製品の販売による利益額は,本体1個の単価から,原材料費,包装
袋代及び運搬費を控除して計算するのが相当である。燃料費を控除すべき
との被告の主張は争う。
(ア)原材料費(単価)
平成24年分38.1円
平成25年1月分40.1円
(イ)包装袋代(単価)2.75円
(ウ)印刷ラベルは,1製品当たり5円と推認するのが相当である。
(エ)金型代について
旧金型から新金型への改造に要した費用が48万円であることは争わ
ない。特許法102条2項にいう侵害行為によって受けた利益とは,い
わゆる限界利益と解すべきところ,金型の改造に要した費用は,生産量
に比例しない固定費であって変動経費ではないから,控除すべきではな
い。
仮に金型改造費用を控除するとしても,全額を控除すべきではなく,
減価償却期間を考慮すべきである。
(オ)運搬費(単価)0.28円
被告は,自社トラックを所有しているため,運搬費として必要な直接
経費は,軽油代のみであり,製品1個当たり0.28円とするのが相当
である。
ウ以上を前提に計算すると,被告製品販売による利益額は合計1262万
5672円となる。
エ原告積水化成品及び原告上田製函は,いずれも本件発明を自ら実施して
いないので,特許法102条3項に基づき,実施料相当額のうち持分3分
の1に相当する25万2513円を損害として請求する。
なお,本件発明の実施料率は,6%とするのが相当である。
(計算式)12625672×6%÷3=252513
オ原告積水化成品四国は,本件発明を実施しているので,特許法102条
2項に基づき,前記ウの金額から,特許権の共有者である他の原告らの損
害額合計50万5026円を控除した1212万0646円を損害として
請求する。
(被告の主張)
ア被告製品の売上金額
(ア)被告製品の販売期間
被告製品の販売期間は平成24年10月1日から平成25年1月11
日までである。被告は,DAISEN株式会社に依頼して改良した金型
が平成24年9月18日に到着した後,商品テストを行い,これを顧客
に持参して旧製品との切替えを交渉し,了承を得てから被告製品の販売
を開始したものであり,製造したその日から販売を開始することなどで
きない。
また,被告は,原告らから警告を受け,遅くとも平成24年12月末
には製品の製造を中止し,平成25年1月12日以降は被告製品を販売
していない。
(イ)被告製品の販売個数及び単価
被告製品は,特定の4社に対してのみ販売していたから,販売個数は,
それら4社に対する請求書(乙4ないし7)及び売掛台帳(乙8ないし
11)によるべきであり,それによれば,別紙集計表の「被告の主張」
欄のとおりとなる。
原告は商品台帳(乙12ないし17)及び製品別売上台帳(乙40な
いし43)によるべきと主張するが,被告は,上記販売期間中,同じ商
品番号で被告製品と旧製品を並行して販売しており,それら台帳には旧
製品を含めて記載されているから,被告製品の販売個数を示すものでは
ない。
イ売上から控除すべき経費
会計上の変動費に当たらなくても,侵害製品に直接関連する経費はその
製造販売のために必要であるから,控除の対象とすべきである。
(ア)原材料費(単価)
平成24年10月ないし12月38円
平成25年1月40.4円
(イ)包装費(単価)
2.75円
(ウ)印刷ラベル(単価)6.2円
(エ)金型(単価)4.2円
(計算式)48万円÷11万3854個(被告主張の全販売個数)
(オ)運搬費(単価)44.3円
(計算式)504万円÷11万3854個
(カ)ガス代(単価)
平成24年10月14.4円
平成24年11月24.5円
平成24年12月14.8円
平成25年1月15.4円
(キ)電気代(単価)
平成24年10月4.6円
平成24年11月7.5円
平成24年12月3.9円
平成25年1月4.7円
ウRM-6については,いずれも変動経費が販売単価を上回り,限界利益
はゼロとなる。
K-200ムジのうち,販売単価を141円とする1780個について
は,限界利益は,製品1個当たり26.85円である。販売単価を105
円とする38130個については,変動経費が販売単価を上回り,限界利
益はゼロとなる。
K-200ラベックスのうち,販売単価を141円とする2070個に
ついては,限界利益は,製品1個当たり26.85円である。販売単価を
125円とする1870個については,製品1個当たりの限界利益は10.
85円である。
エ仮に,被告が被告製品の製造販売によって利益を得たとしても,原告ら
には損害が生じていない。K-200Nに関して,森松水産冷凍株式会社
(以下「森松水産」という。)以外の3社は,これまで原告らと取引がな
かったことから,被告による製品販売により,原告らの取引の機会が奪わ
れたとは考えられない。
また,RM-6についても,被告は,森松水産に販売していた旧製品を
そのまま被告製品に換えただけで,被告製品だからといって受注が増えた
わけではなかった。したがって,原告らにとっても,森松水産への取引機
会が奪われたとは考えられない。
オ実施料率6%は高率にすぎ,取引実態にそぐわない。
第3当裁判所の判断
1争点1(本件発明1,2の無効論1)について
(1)乙1文献に基づく本件発明1,2の新規性の欠如(争点1-ア)について
ア平成3年6月28日に公開された公開実用新案公報である乙1文献に
は,次の記載があると認められる。
(ア)特許請求の範囲
被収納部を収納した容器本体に蓋をして多段に重ねるようにした容
器であって,上段の容器本体の下部に設けた凸部が下段の蓋に設けた
切欠き部を介して,下段の容器本体の凹部に嵌合するようにしたこと
を特徴とする容器
(イ)産業上の利用分野
ダイオード等の電子部品の製造工程で完成品である電子部品又はそ
の中間部品の構成素材の保管や搬送に使用する箱型容器の改良に関す
るものである。
(ウ)考案が解決しようとする課題
(従来技術である)容器4は,積み重ねて搬送する際,長手方向に
スライド式に移動する蓋3の上に容器本体2が載っているため,上段
の容器本体2及び蓋3が滑り落ちるという欠点があった。
(エ)実施例
第1図及び第2図では,容器本体11の底部周縁に底面を平面上に
置いた時に設置しない底上げ部が設けられており,底上げ部の対向す
る2辺の長辺側に接地する凸部11aが設けられ,容器本体11の上
縁の対向する2辺の長辺側の凸部11aと同じ位置に凹部11bが設
けられ,蓋には凸部11aと対向する位置に切欠き部が設けられてい
る。
また,この考案による容器13に収納される被収納物は,電子部品
1に限られることなく,どのようなものであってもよい。
(オ)効果
この考案は,以上のように,容器を積み重ねた時に容器本体に設け
た凸部と凹部を蓋に設けた切欠き部を介して嵌合させることにより,
搬送時の容器の重ねズレ及びズレによる転倒を防止でき,また多段重
ねの最上段の容器は蓋が自由にスライドし開閉できるため,最上段の
容器本体から順次,被収納物の供給あるいは取出しができる効果があ
る。
イ以上の乙1文献の記載によれば,乙1考案の構成は,次のとおり認め
られる。
a,g長方形状の底板部と
b底板部の周縁から立設された側壁部とを備え,
c底面の周縁には,底面を平面上に置いたときに接地しな
い底上げ部が設けられている。
d,f容器において
e,h底面の周縁のうち,底板部の対向する長辺側の2辺に,
底面を平面上に置いた時に接地する凸部が設けられている。
ウそして,本件発明1,2と乙1考案とを対比すると,乙1考案のa,
b,c,gは,本件発明1,2の構成要件A,B,C,Gと一致すると
認められるが,次の2点で相違すると認められる。
①本件発明1,2では,容器の材質が発泡合成樹脂容器とされてい
る(構成要件D,F)のに対し,乙1考案では,容器の材質が発泡
合成樹脂と特定されていないこと(相違点1)。
②本件発明1,2では,接地する荷重受け底面延長部が,底板部の
(長辺側)2辺の中央部又は中央近傍部に設けられている(構成要
件E,H)のに対し,乙1考案では,接地する凸部が,対向する
(長辺側)2辺の中央部又は中央近傍とは特定されない位置に設け
られていること(相違点2)。
エこれに対し,被告は,上記相違点1について,乙1文献では全ての材
質を対象としているから,相違点ではないと主張する。
しかし,乙1文献で容器の材質が特定されていないからといって,乙
1文献において容器の材質を発泡合成樹脂容器とすることが具体的に開
示されているわけではないから,被告のこの主張は失当である。
オまた,被告は,上記相違点2について,乙1考案の凸部は本件発明1,
2の荷重受け底面延長部に相当し,乙1文献の第2図では,凸部が底板
部の対向する長辺側の2辺の中央近傍部に設けられることが開示されて
いるとして,相違点でないと主張する。
(ア)そこでまず,本件発明1,2において,対向する(長辺側)2辺の
中央部又は中央近傍部に荷重受け底面延長部が設けられることの意義
について検討するに,本件明細書には,次の記載があることが認めら
れる。
a背景技術
(従来の発泡合成樹脂容器では)容器本体1の底面は,この容器
本体1を平面上に置いた際に接地する底面主部と,その周縁部に設
けられた接地しない底上げ部5とからなっている。さらに,蓋7の
上面側には,容器本体1の前記底面形状に対応した凹凸が設けられ,
この発泡合成樹脂容器1を多段積みした場合に,上側の発泡合成樹
脂容器1の底面の凹凸に嵌合してスタック性を向上できるようにな
っている。(【0003】)
この種の発泡合成樹脂容器は,鮮魚等の魚介類,青果物等の食品
輸送箱などとして使用される。特に鮮魚等の魚介類を収容する場合,
容器本体1内に鮮魚等の魚介類を入れ,保冷用の氷片を一杯に詰め,
蓋7を装着し,図9に示すように,これを多段積みにする場合が多
い。従来の発泡合成樹脂容器を多段に積み重ねた場合,図10に示
すように,容器本体1の底面周縁に設けたスタック用の底上げ部5
と,他の接地している底面部分との間に僅かな空間が生まれる。こ
の時,容器本体1に大きな積載荷重がかかると,底上げ部5が傾斜
し,これが原因となって容器本体1の側壁部3及び蓋7の側壁が容
器外側に膨出し,図10に示すように,底上げ部5近傍,側壁部5
の中央部分,蓋7の周縁部分等にクラック9や割れを生じてしまい,
容器の積載強度を低下させる原因の一つとなっていた。また,この
変形は,図11に示すように,長辺側中央部が他部に比べて著しい
傾向にある。(【0004】)
b発明が解決しようとする課題
本発明は,前記事情に鑑みてなされ,合成樹脂製の容器本体と蓋
とからなる発泡合成樹脂容器の機械強度,特に耐圧縮強度を高めた
発泡合成樹脂容器の提供を目的とする。(【0011】)
c発明の効果
(本件発明1,2の発泡合成樹脂容器は)容器内に食品や氷片な
どを収容し,これを多段積みした際に,最下段の容器は,底上げ部
以外の底面と,荷重受け底面延長部とが接地することで,荷重負荷
時に変形し易い側壁部中央部分の変形が緩和され,容器の耐圧縮強
度を高めることができ,この容器に内容物や氷を詰めて多段積みし
た場合の最下段の容器などのように,大きな荷重が加わった場合に,
従来品に比べて容器や蓋に割れが発生し難くなる。(【002
3】)
d発明を実施するための最良の形態
図5及び図6には,第3の実施形態として,荷重受け底面延長部
20を,長辺中央を挟んでその近傍の2箇所(合計4箇所)に設け
た構成が記載されている。(【0049】)
(イ)以上の本件明細書の記載からすれば,本件発明1,2は,底面周縁
に設けたスタック用の底上げ部を有する発泡合成樹脂容器を多段に積
み重ねた場合に,大きな積載荷重がかかることにより,最下段等の容
器本体の側壁部等が容器外側に膨出して変形し,特にその変形は長辺
側中央部に著しい傾向があり,そのためにクラックや割れが生じると
いう課題があったものを,底面周縁の(長辺側の)対向する2辺の
「中央部又は中央近傍部」に「荷重受け底面延長部」を設け,これが
接地することにより,荷重負荷時に変形しやすい側壁部中央部分の変
形が緩和され,容器の耐圧縮強度を高めたものであると認められる。
このような本件発明1,2の技術的意義からすると,「荷重受け底
面延長部」とは,底上げ部を有する底面周縁に設けられた接地する部
位で,荷重を受けて側壁部の変形を緩和する機能を有するものであり,
「中央近傍部」とは,そのような荷重受け底面延長部を「中央部」に
設けるのに準じる程度に側壁部中央部分の変形が緩和される部位を意
味すると解するのが相当である。
(ウ)他方,前記認定に係る乙1文献の記載からすると,乙1考案の凸部
は,底上げ部を有する底面周縁に設けられた接地する部位であり,構
造上,荷重を受けているものではある。しかし,その主たる機能は,
蓋の切欠き部を介して容器上縁の凹部と嵌合することにより,搬送時
の容器のずれを防止する点にあり,乙1文献において容器の材質とし
て撓みやすい発泡合成樹脂を具体的に開示しているわけではないこと
から,側壁部の変形を緩和する機能を有するとは認められない。
また,乙1文献の第2図における凸部は,被告の主張によれば,長
辺の中心から37%の位置にあるというのであり,本件発明1,2に
おいて同じ位置に荷重受け底面延長部が設けられた場合でも,中央部
に準じる程度に側壁部中央部分の変形が緩和されるとは認められない
から,乙1文献において,凸部が本件発明にいう中央近傍部に設けら
れているとは認められない。この点について,被告は,本件明細書に
おける実施例3を指摘するが,実施例3では,荷重受け延長部が中央
部を挟む両側に設けられており,それにより中央部に準じる程度に側
壁部中央部分の変形が緩和されると考えられることから,実施例3の
記載をもって上記認定は左右されない。
したがって,乙1考案は,「荷重受け延長部」を「中央部又は中央
近傍部」に設けたものとはいえず,上記相違点に関する被告の上記主
張は理由がない。
カまた,被告は,上記相違点2について,乙1文献は,凸部の位置を特
定しておらず,その接地位置を中央部又は中央近傍部とすることも許容
しているのであるから,凸部の設置位置は相違点ではないと主張するが,
乙1文献で凸部の位置が特定されていないからといって,その位置が
「中央部又は中央近傍部」であることが具体的に開示されているわけで
はないから,被告の上記主張は失当である。
キ以上によれば,本件発明1,2が乙1文献に基づいて新規性の欠如に
より無効とされるべきものであるとは認められない。
(2)乙1文献,乙2文献,乙3文献による本件発明1,2の進歩性の欠如
(争点1-イ)について
ア被告は,上記相違点1について,乙1考案において,容器の材質を発
泡合成樹脂とすることは,乙2文献及び乙3文献に示されているとおり
設計事項であり,上記相違点2についても,凸部の位置をどこにするか
は設計事項であるから,いずれの相違点についても乙1文献のみから容
易に想到可能であると主張する。
しかし,本件発明1,2は,合成発泡樹脂容器において,容器を多段に
積み重ねたときに最下段等の容器に大きな積載荷重がかかり,容器の側壁
が外側に膨出して変形し,クラックや割れが生じるという課題を解決する
ことを目的としているところ,この課題は,容器の材質が撓みやすい合成
発泡樹脂である場合に特有のものである。そして,本件発明1,2は,そ
のような課題が生じる場合に,接地する荷重受け底面延長部を,荷重負荷
時に変形しやすい対向する(長辺側)2辺の中央部又は中央部近傍に設け
ることにより,解決したものである。このことからすると,上記相違点1
及び相違点2に係る本件発明1,2の構成は,両者があいまって一体とし
て本件発明1,2の課題解決と作用効果を基礎づけているものであるとい
える。他方,乙1文献にはこのような発泡合成樹脂容器に特有の課題を示
唆する記載はなく,また,乙1考案の凸部について,容器側壁の変形を緩
和するとの作用を示唆する記載もない。そうすると,仮に乙1考案におい
て,容器の材質を内容物等に応じて適宜選択すること(乙2,乙3),及
び凸部の位置を搬送時の滑り落ち防止の観点から適宜の位置にすること自
体は,それぞれが設計事項であるとしても,容器の材質が特定されておら
ず,凸部の作用効果として搬送時の滑り落ち防止が記載されているにすぎ
ない乙1文献に基づき,多数の可能性の中からそれらを一体として組み合
わせて,特段の技術的課題を解決する本件発明1,2に至ることの動機付
けがあるとはいえない。したがって,相違点1及び相違点2が乙1文献か
ら容易に想到し得たということはできない。
イなお,被告は,公知文献として乙2及び乙3を提出するので,これに
ついても検討を加えておくと,次のとおりである。
乙2文献の図1には,「18補強部」が容器底面の周縁のうち底面
部の対向する2辺の中央部付近に設けられているが,図5によれば,同
部は接地していないことから,これが本件発明1,2の「底面延長部」
に相当するとは認められない。したがって,乙2文献は,相違点2に係
る本件発明1,2の構成を示唆するものとはいえない。
乙3考案においては,底面周縁部に,底面を平面上に置いた際に接地
する,本件発明1,2における「底面延長部」に対応する部分を認める
ことはできない(乙3)から,これが相違点2に係る本件発明1,2の
構成について示唆するものとはいえない。
ウしたがって,本件発明1,2が乙1文献,乙2文献,乙3文献に基づ
いて進歩性の欠如により無効とされるべきものであるとは認められない。
2争点2(本件発明1,2の無効論2)について
(1)乙23文献に基づく本件発明1の新規性の欠如(争点2-ア)について
ア平成12年4月5日に頒布された刊行物である乙23文献(訳文が乙
24)には,次のような記載があると認められる(ただし,乙24の訳
文上の用語を統一するなどの修正をした。)。
(ア)本発明は,若い植物又は実生の苗用の容器,特に複数の生きた植物
の搬送用容器に関する。
(イ)本発明の目的は,複数の植物を受容するのに適した容器を提供する
ことにある。
本発明は,仕切り板で分離された第一及び第二仕切区画を画定する
底板と,側壁とを有する,複数の植物用の容器を提供する。
本発明の特徴は,容器本体中の各仕切区画が実際に開いた空間とさ
れている点である。
(ウ)好ましくは,容器は,前記容器本体と係合可能な閉塞部を備える。
閉塞部は,カバー部とこのカバー部を囲むように窪ませた周辺フラン
ジを形成した第一面を備えてもよい。閉塞部が容器本体にマウントさ
れる場合,カバー部は,側壁の天面の高さより下で容器本体の側壁内
に適合する。また,周辺フランジの表面は側壁の天面と接する。
(エ)実施例に係る容器の本体は,底板及び対となる対向する側壁1a-1
a’及び1b-1b’を備える,一体に成形された容器本体1を有する。
(オ)実施例においては,容器本体1の側壁1a,1a’上端縁は,蓋の側
壁における対応する突部を受容するように形成された窪み11を設け
るように形成される。
汎用蓋12は,平面状のカバー部13と,このカバー部を囲み,対
応する容器本体1の側壁と合致する大きさに形成された凹状のフラン
ジ14を有する。
カバー部13の二つの対向する辺に,突起15がフランジ14に形
成される。突起15は,容器本体1の対応する窪み11に嵌合される
ように,間隔を置いて形成される。突起15は,カバー部13の下面
16とほぼ同じ高さまで延伸されている。使用時には,周囲フランジ
14の下面14aは,側壁1a,1a’,1b,1b’の上面1cに接し,
突起15は,側壁1a,1a’の窪み11に係合される。したがって,
下面16は,フランジ14と蓋12の下面16の間の窪みの大きさに
応じて容器本体1に延伸される。
突起15及び窪み11は任意であり,蓋12が容器本体1上に容易
に置かれることを可能にする。
(カ)容器本体1は,底板が汎用蓋12のそれと同一な外面1dの形状を
有するように形成される。したがって,複数の容器本体1が部材10
0の積層体を形成することができる。
(キ)側壁1b,1b’は,延伸された窪み17を有する。窪み17は,容器
(又は蓋)が嵌合されて連結された際に,取っ手を形成する。蓋12
は,二つの対向する側壁14に,延伸された突部18を備える。突部
18は,窪み17に適切に嵌合されるよう,ほぼ同じ長さを有する。
ただ,窪み17を突部18よりも深くすることで,蓋が定位置にある
際に容器を持ち上げようとする作業者の指を挿入可能な十分なスペー
スが確保される。
(ク)容器本体と蓋部は,それぞれ好適に一体的に形成される。例えば適
切に安価で軽量でありながら十分な強度を有し,従来技術では必要と
された容器を箱詰めする必要のない発泡スチロール製等である。
(ケ)容器本体を互いの上に積み重ね,各部で上側の容器本体の底面が下
側を閉塞する蓋として機能するように,モジュールが設計される。
(コ)各容器本体のトレイの数は制限されず,任意の便利な数とできる。
(サ)図1,図4及び図7によれば,汎用蓋12のそれと同一な外面dの
形状を有するように形成された容器本体底面の対向する短辺側中央部
に設けられた突部18は,底面と同じ高さとなっており,接地してい
る。
イ被告は,乙23文献において,容器本体底面の対向する長辺側中央部
に設けられた突起15は,接地していると主張する。
確かに,容器本体1は,底板が汎用蓋12のそれと同一な外面1dの
形状を有するように形成される(前記ア(カ))とされ,突起15は,汎用
蓋12のカバー部13の下面16とほぼ同じ高さまで延伸される(前記
ア(オ))とされ,図5では,蓋部における突起15の最下部が下面16と
同一高さに描かれていることからすると,容器本体の底面に設けられる
突起15は接地しているとも思われる。
しかし,乙23の図2は,容器本体の長辺の突起15が設けられた部
分(図1のA-A線)の断面図であるが,そこでは,両端部にある突起
15は接地していない。また,前記ア(オ)のとおり,突起15は,カバー
部13の下面16と「ほぼ」同じ高さまで延伸されるとされるものの,
その機能は,下層の容器本体の側壁周縁に設けられた窪み11と係合す
る点にあり,下面16は,フランジ14と蓋12の下面16の間の窪み
の大きさに応じて容器本体1に延伸されること(前記ア(オ))からすると,
窪み11の最下部と下面16とが同一高さになる必然性は必ずしもない。
これらからすると,乙23文献において,容器本体底面の対向する長辺
側中央部に設けられた突起15が接地していると断定することはできな
い。
この点について,被告は,上記図1のA-A線の位置は誤記であると
主張するが,乙23から直ちにそのように断定することはできない。
ウ上記で認定した乙23文献の記載からすると,そこで開示された乙2
3発明は,次のような構成を備えるものと認められる。
a長方形状の底板1dと
b底板1dの周縁から立設された側壁1a,1a’,1b,1b’
とを備え,
c容器本体1の底面の周縁には,底面を平面上に置いたときに接
地しないフランジ14が設けられている
d発泡スチロール製の容器本体1において
e底面の周縁のうち,底面部の対向する短辺側の2辺の中央に,
当該底面を平面上に置いた時に接地する突部18が設けられてお
り,
e’底面の周縁のうち,底面部の対向する長辺側の中央及び両端に
接地不明な突起15が設けられている
f発泡スチロール製容器
エそして,乙23発明の「底板1d」,「側壁1a,1a’,1b,1
b’」,「フランジ14」,「発泡スチロール製の容器本体1」が,そ
れぞれ,本件発明1,2の「底板部」,「側壁部」,「底上げ部」,
「発泡合成樹脂容器」に相当すると認められる。
また,乙23発明の「突部18」は,本件発明1,2の「荷重受け底面
延長部」に相当すると認められる。
この点について,原告は,突部18は,作業者が手をかけるための突
部であって,窪み17との関係で形成されるものであり,その高さは特
定されていないから,必ずしも下面16と同じである必要はなく,また,
突部18以外の部分のみで荷重を支えるには十分であることなどから,
突部18は荷重受け底面延長部には当たらないと主張する。しかし,前
記ア(サ)のとおり,突部18は接地すると認められ,原告もそのこと自体
は認めているところ,乙23発明における突部18の目的如何にかかわ
らず,合成発泡樹脂容器に設けられた突部18が接地する以上,底面と
同様に荷重を受け,側壁部の変形を緩和する機能を有していることは明
らかであるから,原告らの主張は採用できない。
そうすると,乙23発明は,本件発明1と同一であると認められるか
ら,本件発明1は,乙23文献に基づき新規性の欠如により無効とされ
るべきものである。
(2)乙23文献に基づく本件発明2の新規性の欠如(争点2-エ)について
(1)で述べたところからすると,本件発明2と乙23発明を対比すると,
突部18に着目する場合には,乙23発明の構成のうち,a,b,c,d
e,f,gが,本件発明2の構成要件G,Iと一致すると認められる。
他方,乙23発明の突部18は,底面部の対向する短辺側の2辺に設け
られるものであるから,本件発明2が,荷重受け底面延長部を長辺側の2
辺に設けるとしていること(構成要件H)と相違する。
また,乙23発明において長辺側に設けられる突起15に着目した場合
には,突起15は,前記のとおり接地するか明らかでないものであること
から,これが本件発明2の「荷重受け底面延長部」(構成要件E及びH)
に相当するとは認められない。
したがって,本件発明2が,乙23文献に基づき新規性の欠如により無
効とされるべきものであるとは認められない。
(3)乙23文献に基づく本件発明2の進歩性の欠如(争点2-エ)について
アまず,本件発明2における荷重受け底面延長部に相当するものとして,
乙23発明の突起15に着目した場合について検討するに,前記認定に
係る乙23文献の記載によれば,乙23発明の突起15は,窪み11と
嵌合することにより,容器本体同士又は容器本体と蓋とを容易に結合す
ることを目的とするものであると認められるところ,前記(1)イのとおり,
そもそも,これが接地するか否か及び荷重を受けるか否かは明らかでな
い。そして,乙23文献には,底上げ部が存在する場合に,他の部分に
比べて変形が著しい容器の長辺側中央の耐圧縮強度を高めるという本件
発明2の課題を示唆する記載はなく,同課題が周知の課題であるとも認
められないから,突起15をあえて接地するものとする動機付けがある
とはいえず,このことは,乙1文献の記載を組み合わせても同様である。
イ次に,本件発明2における荷重受け底面延長部に相当するものとして,
乙23発明の突部18に着目した場合について検討するに,前記認定に
係る乙23文献の記載によれば,容器の短辺側に設けられる乙23発明
の突起18は,窪み17にスペースを空けて嵌合することによって,容
器を持ち上げる際の手掛かり部を構成することを目的とするものである
と認められる。そうすると,前記のとおり,乙23文献には本件発明2
の課題を示唆する記載がなく,同課題が周知の課題であるとも認められ
ないことからすると,短辺側に位置する突部18をあえて長辺側中央部
に変更する動機付けがあるとはいえない。また,長辺側中央部には突起
15があることから,突部18を長辺側中央に設けることの阻害事由が
あるともいえる。そして,このことは,乙1文献の記載を組み合わせて
も同様である。
なお,被告は,乙23文献においては,容器本体中のトレイの数は任
意の便利な数とできると記載されていることから,実施例の容器をトレ
イが1本ないし2本のものに変更すれば,突部18が設けられた辺が長
辺側となるから,突部18を長辺側中央部に設けることは設計事項にす
ぎないと主張する。しかし,容器本体中のトレイの数を少なくした場合
に突起15や突部18をどのように設けるかについては乙23文献中に
記載がないことからすると,その場合に突部18を長辺側に設けるとは
限らないから,突部18を長辺側中央部に設けることは設計事項にすぎ
ないとはいえない。
ウ以上からすると,本件発明2が,乙23発明に基づいて容易に想到し
得たものとは認められない。
(4)以上によれば,本件発明1は,乙23文献に基づいて特許無効審判で無効
とされるべきものであるが,本件発明2はそうではない。そして,そうであ
る以上,本件発明2の従属項である本件発明3も,乙23文献に基づいて特
許無効審判で無効とされるべきものではない(争点(3))。
したがって,被告製品の製造販売等は,本件特許権を侵害するものである
と認められる。
3争点4(損害)について
(1)前提事実(10)記載のとおり,本件特許権は原告ら3名が共有しているが,
そのうち原告積水化成品四国のみが本件発明を実施しており,原告積水化成
品及び原告上田製函は本件発明を実施していない。そして,本件で,原告積
水化成品及び原告上田製函は,特許法102条3項による実施料相当額を損
害額として賠償請求し,原告積水化成品四国は,同条2項による損害額から
原告積水化成品及び原告上田製函が受けるべき実施料相当額を控除した額を
損害額として賠償請求している。
この場合,原告積水化成品及び原告上田製函は,本件発明を実施していな
いが,侵害行為によって損害が生じたことは明らかであるから,被告に対し
て,特許法102条3項による損害の賠償を,その持分割合の限度で請求す
ることができると解される。
他方,原告積水化成品四国は,持分権に基づいて本件発明の全部を実施す
ることができる(特許法73条2項)ものの,本件発明の価値全体を単独で
支配し得るわけではない。そして,被告が本件特許権の侵害行為によって得
た利益は,原告積水化成品四国の持分権だけでなく,原告積水化成品及び原
告上田製函の持分権を侵害することによっても得られたものである。そうす
ると,特許法102条2項による原告積水化成品四国の損害額の推定は,原
告積水化成品及び原告上田製函に生じた損害額(実施料相当額の逸失利益)
の限度で一部覆滅されると解するのが相当であるから,原告らが主張すると
おり,原告積水化成品四国の損害額は,特許法102条2項の額から,同条
3項による原告積水化成品及び原告上田製函に生じた損害額を控除して算定
することとするのが相当である。
(2)そこでまず,本件における特許法102条2項の被告の利益の額について
検討するに,ここにいう「利益の額」とは,侵害者が侵害行為を行うことに
よって追加的に得た利益を意味し,侵害品の売上額から,侵害品の製造販売
のために追加的に必要となった費用を控除することにより算定するのが相当
であり,具体的には,変動費のほか,侵害品の製造販売に追加的に必要にな
ったと認められる限り,固定費も控除するのが相当である。
(3)被告製品の売上金額
ア証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア)被告は,既存の金型(以下「旧金型」という。)に改造を加え,被告製
品製造に使用する新金型を作製することをDAISEN株式会社に依頼
した。そして,これを受けた同社が,旧金型に改造を加えた上,平成2
4年9月15日に新金型を出荷し,被告は,同月18日に同金型を受領
した(甲13,乙18,弁論の全趣旨)。
(イ)被告は,新金型を使用して,平成24年9月19日に被告製品の製造
を開始した(乙21の1)。
(ウ)被告は,原告らからの警告を受け,新金型に再度改造して元の形状
に戻すため,平成25年1月15日,同金型をDAISEN株式会社
に対して発送し,同社は,同月21日,再改造後の金型を被告に納品
した(甲13,弁論の全趣旨)。
イまず,被告製品の販売期間について検討する。
この点について,原告らは,被告が新金型を使用して製造を開始したそ
の日から,被告製品の販売が行われたことを前提とし,同日が販売期間の
始期であるとの主張をするが,製造開始時期と販売開始時期との間には時
間差があるのが通常であり,本件においてこれと異なると認めるに足りる
証拠はない。
そして,新金型による試作及び顧客との打合せを経て,販売を開始した
との被告の主張は合理的であるというべきであり,それらについて,被告
が主張する販売開始時期の前日である9月末日まで期間を要したこともあ
ながち不合理とはいえないから,販売開始は,平成24年10月1日とす
べきである。
他方,被告製品の販売終了時期について,被告は,平成24年12月末
に製造を中止したことから,遅くとも平成25年1月11日には販売を中
止したと主張する。しかし,再改造のために金型を発送したのが同月15
日であることからすると,平成24年12月末に製造を中止してから金型
を送付するのに2週間程度要したことになるが,これを直ちに合理的期間
であるとはいい難いから,製造中止時期は,被告の主張よりも後であった
と考えられる。そして,製造中止後も在庫品の販売は継続されるものであ
り,被告の主張によっても,被告製品の製造中止日と販売中止日とでは,
販売中止日が後であったとされているところ,再改造後の金型が被告に納
品されたのが平成25年1月21日で,再改造後の金型による製品の販売
が開始された時期はそれより後であり,それまでは被告製品の販売が続け
られたと考えられることからすると,被告が被告製品の販売を終了した時
期は,同月末頃であったと考えるのが合理的である。もっとも,本件で原
告は,同月15日までの期間に係る損害の賠償を請求しているにとどまる
から,本件では,同日までの損害額を算定すべきこととなる。
ウ次に,被告製品の販売個数について検討する。
(ア)まず,被告製品のうち,平成24年10月から同年12月の間のRM
-6の販売個数については,別紙集計表のとおり,当事者間に争いがな
い。
(イ)次に,同期間のK-200N(ただし,K-200N(本体)を除
く。)について検討するに,それらの販売個数については,被告が提
出した4社向けの請求書(乙4ないし7)及び売掛台帳(乙8ないし
11)と,商品台帳(乙12ないし17)及び製品別売上台帳(乙4
0ないし43)との間では,別紙集計表のとおり,この期間の販売個
数が大きく異なっている。
この点について,被告は,商品台帳等には,被告製品と並行して同
一商品番号で販売していた旧製品も含まれていると主張し,被告代表
者の陳述書(乙48)にもその旨の記載がある。
しかし,事業者が形状の異なる製品を扱う場合には,製造管理,販
売管理,納品管理及び在庫管理等の観点から,商品番号を区分するの
が一般的な取扱いであると考えられ,時期が重複しないのであればま
だしも,少なくとも同一の時期に,旧製品と被告製品とを同一の商品
番号で管理して並行的に製造販売していたとは,特段の事情のない限
り考え難いことである。このことに加え,上記請求書及び売掛台帳が
被告の取引先のうち4社に対するもののみで,他は開示されていない
こと,被告が上記期間に旧製品の製造販売もしていたことを裏付ける
客観的証拠もないことを併せ考慮すると,上記期間のK-200N
(ただし,K-200N(本体)を除く。)の販売個数は,商品台帳
(乙12ないし17)及び製品別売上台帳(乙40ないし43)によ
り認定するのが相当である。
また,被告は,K-200N(セット)シール付きについては,
「ムジ」と「ラベ」の中に含まれていると主張する。しかし,K-2
00N(セット)(被告がいう「ムジ」)及びK-200N(セッ
ト)ラベックス(被告がいう「ラベ」)については,上記期間の商品
台帳と製品別売上台帳との数量記載が一致しており,その上で,製品
別売上台帳では,K-200N(セット)シール付きが別商品として
管理されていることからすると,同製品が「ムジ」と「ラベ」の中に
含まれているとは考え難く,被告の主張は採用できない。
したがって,まず,K-200N(ただし,K-200N(本体)
を除く。)の平成24年10月1日から同年12月31日までの期間
の販売個数については,原告の主張のとおりと認められる。
(ウ)次に,RM-6及びK-200N(ただし,K-200N(本体)
を除く。)の平成25年1月の販売個数については,商品台帳と製品
別売上台帳との間でも差異がある。
しかし,前記のとおり平成24年10月から同年12月の期間につい
ては,RM-6についてもK-200N(ただし,K-200N(本
体)を除く。)についても,両台帳の間で数量記載が一致していること
からすると,両台帳の数量記載に本来的に食い違いがあるとは考え難い。
そうすると,両台帳間の平成25年1月分の差異は,商品台帳の出力期
間が平成25年1月11日まで(RM-6ムジ[乙12])又は同月1
5日まで(RM-6ラベックス[乙13],K-200N(セット)
[乙15]及びK-200N(セット)ラベックス[乙16])である
のに対し,製品別売上台帳の対象期間が同月31日までである(乙4
3)ことによると考えるのが合理的であるから,基本的に商品台帳の記
載に基づき,同月15日までの販売個数を認定することとするのが相当
である。
このように考えると,まず,商品台帳に平成25年1月15日までの
出力結果があるRM-6ラベックス,K-200N(セット)及びK-
200N(セット)ラベックス(乙13,15及び16)については,
同月分の販売個数をそのとおり認定するのが相当である。
また,同月11日までの出力結果しか存しないRM-6ムジ(乙1
2)については,同月31日までの製品別売上台帳上の販売個数(12
6個)について,同月12日から31日までを対象とする日割計算によ
り,25個(126×4/20)と認めるのが相当である。
また,そもそも商品台帳が提出されていないK-200N(セット)
シール付きについては,製品別売上台帳上の販売個数(280個)につ
いて,1月の1か月間(ただし同月1日から3日までを除く。)の日割
計算により,120個(280×12/28)と認めるのが相当である。
(エ)最後に,K-200N(本体)については,平成24年11月及び同
年12月の商品台帳(乙17)には記載があるが,製品別売上台帳(乙
41及び42)には記載がない。
しかし,それ以外の被告製品については,前記のとおり同期間の両台
帳の数量記載が一致しており,その上で,商品台帳においてK-200
N(本体)がそれ以外の被告製品と区分して管理されていることからす
ると,商品台帳における同製品の数量記載が,他の被告製品の記載と重
複しているとは考え難い。
したがって,K-200N(本体)については,商品台帳に基づき,
原告ら主張のとおりの販売個数と認めるのが相当である。
エ以上によれば,前記認定の期間における被告製品の販売個数は,次のと
おり,合計13万4211個と認められる。
(ア)「RM-6ムジ」計1215個
平成24年10月分490個(乙40,乙12)
11月分280個(乙41,乙12)
12月分420個(乙42,乙12)
平成25年1月分25個(乙43)
(イ)「RM-6ラベックス」計6万4232個
平成24年10月分6384個(乙40,乙13の2)
11月分20062個(乙41,乙13の2)
12月分34888個(乙42,乙13の2,3)
平成25年1月分2898個(乙13の4)
(ウ)「K-200N(セット)」5万8285個
平成24年10月分8349個(乙40,乙15の2)
11月分13616個(乙41,乙15の2,3,4)
12月分28110個(乙42,乙15の4,5)
平成25年1月分8210個(乙15の6)
(エ)「K200N(セット)ラベックス」計6799個
平成24年10月分532個(乙40,乙16の2)
11月分712個(乙41,乙16の2)
12月分4991個(乙42,乙16の2,3)
平成25年1月分564個(乙16の4)
(オ)「K200N(セット)シール付き」計1280個
平成24年10月分280個(乙40)
11月分360個(乙41)
12月分520個(乙42)
平成25年1月分120個(乙43)
(カ)「K-200N(本体)」計2400個
平成24年11月分800個(乙17)
12月分1600個(乙17)
オ各被告製品の単価は,次のとおり認められる。
(ア)「RM-6ムジ」90円(争いがない)
(イ)「RM-6ラベックス」95円(争いがない)
(ウ)「K-200N(セット)」
平成24年12月分のうち1780個については,141円(争いが
ない)。
それ以外の5万6505個については,その単価の全貌を直接証する
証拠はないが,証拠(乙7の2,乙11の4)では,K-200Nの本
体価格が105円で取引されていることから,これを超えると認めるに
足りる証拠はなく,この限度で認定するのが相当である。
(エ)「K200N(セット)ラベックス」
平成24年12月分のうち2070個については141円(争いがな
い)。
それ以外の4729個については125円(セット価格185円[乙
6の1,2]-蓋の価格60円[乙49])と認めるのが相当である。
(オ)「K200N(セット)シール付き」105円(乙7の2)
原告は,141円と主張するが,これを認めるに足りる証拠はなく,
シール付き商品の価格が,「K200N(セット)」の価格と異なると
認めるに足りる証拠もない。
(カ)「K-200N(本体)」105円(乙7の2)
(4)経費
ア原材料費(単価)平成24年分38円
平成25年1月分40.4円
原材料費の単価のうち,平成24年分について,原告は38.1円,被
告は38円と主張することから,被告主張の限度で認める。
また,平成25年1月分の原材料費の単価を算定する計算式が,253
円×0.16円であることにつき当事者間に争いはないことから,同単価
は,40.4円と認められる。
イ包装費(単価)2.75円
包装費の単価が2.75円であることにつき,当事者間に争いはない。
ウ印刷ラベル(単価)6.2円
印刷ラベルは,個々の製品に貼付されるものであり,変動費に当たるこ
とから,売上高から控除されるべきである。
証拠(乙28,29)及び弁論の趣旨により認定できる印刷ラベルは,
①1巻(1449枚分)当たり4500円のもの,②1巻(1593枚
分)当たり5050円のもの,及び,③1巻(984枚分)当たり650
0円のものの3種類である。ラベル1枚当たりの金額は,①が3.1円,
②が3.1円,③が6.6円である(いずれも小数第2位以下切り捨て)。
そして,弁論の全趣旨によれば,印刷ラベルは1製品当たり2枚貼付す
るのであるから,1製品当たりの印刷ラベル費用は,少なくとも被告が主
張する6.2円を下回ることはないと認められる。
エ金型費用(単価)2.98円
前記のとおり,新金型は,被告製品製造のために,旧金型を改造して作
製されたものと認められるところ,旧金型から新金型への改造に48万円
を要したことについては,当事者間に争いがない。
そして,被告製品を製造するための旧金型改造費は,侵害者製品の製造
に直接必要な個別固定費というべきであり,その後,被告製品の製造中止
に伴い,同金型が再改造に付されたことからすれば,改造に要した48万
円分の価値が,再改造後の金型に残存していると認めるに足りない。よっ
て,48万円全額が経費として控除されるべきである。
被告は,新金型は,旧金型を改造したものではなく,新たに作製したも
のと主張するが,この点に関する被告の主張は変遷しており,証拠(甲1
3)によれば,被告が旧金型を送付した先であるDAISEN株式会社が,
文書送付嘱託に対し,旧金型を改造したことを前提とする回答を行ってい
ることが認められることから,被告の主張を採用することはできない。
前記のとおり,被告が被告製品の販売を開始した時期は,平成24年1
0月1日,終了した時期は平成25年1月末頃であるから,この期間内に
新金型で作製された被告製品数は,次のとおり,合計16万1004個で
ある。
(ア)「RM-6ムジ」計1316個
平成24年10月分490個(乙40,乙12)
11月分280個(乙41,乙12)
12月分420個(乙42,乙12)
平成25年1月分126個(乙43)
(イ)「RM-6ラベックス」計8万2362個
平成24年10月分6384個(乙40,乙13の2)
11月分20062個(乙41,乙13の2)
12月分34888個(乙42,乙13の2,3)
平成25年1月分21028個(乙43)
(ウ)「K-200N(セット)」6万5865個
平成24年10月分8349個(乙40,乙15の2)
11月分13616個(乙41,乙15の2,3,4)
12月分28110個(乙42,乙15の4,5)
平成25年1月分15790個(乙43)
(エ)「K200N(セット)ラベックス」計7621個
平成24年10月分532個(乙40,乙16の2)
11月分712個(乙41,乙16の2)
12月分4991個(乙42,乙16の2,3)
平成25年1月分1386個(乙43)
(オ)「K200N(セット)シール付き」計1440個
平成24年10月分280個(乙40)
11月分360個(乙41)
12月分520個(乙42)
平成25年1月分280個(乙43)
(カ)「K-200N(本体)」計2400個
平成24年11月分800個(乙17)
12月分1600個(乙17)
よって,金型費用についての単価は,2.98円(小数第3位以下切り
捨て)となる。
(計算式)480000÷161004=2.981
オ運搬費(単価)0.28円
運搬費の単価について,被告は,44.3円と主張し,輸送運賃の見積
もり(乙31)を証拠提出した。しかし,同見積もりは,実際に被告が支
払った際に発行されたものではなく,本件紛争後に,被告が業者に依頼し
て作成したものであり,平成25年10月から平成26年1月まで,一律
に各月120万円とされており,見積もりの条件も不明である。
また,被告は自社トラックを保有している(甲10,11,12)にも
かかわらず,これを利用せずに,月120万円という高額な運搬費をかけ
て商品を運搬していることにつき,合理的な説明をしない。したがって,
運搬費について,被告の主張する金額を採用することはできない。
したがって,運搬費の単価については,弁論の全趣旨により,原告ら主
張のとおり0.28円と認めるのが相当である。
カ燃料費(ガス代,電気代)
弁論の全趣旨によれば,被告製品製造のために,燃料費としてガス代,
電気代が必要となるところ,これは,変動費として売上高から控除される
べきものである。
燃料費の単価については,製品の製造に用いられた燃料の代金を,その
月に製造された全ての品目の総重量で除し,その月に製造された特定の品
目1個当たりの重量を乗じて計算するのが合理的である。
証拠によれば,各生産月のガス代及び電気代,並びに,生産総重量は,
次のとおり認められる。
平成24年10月ガス購入代金446万1460円(乙32),電気
購入代金143万5056円(乙36),生産総重量4940
万5100グラム(乙44の1ないし25)
同年11月ガス購入代金468万1230円(乙33),電気購入代
金142万8238円(乙37),生産総重量3048万38
00グラム(乙45の1ないし14)
同年12月ガス購入代金686万2376円(乙34),電気購入代
金183万2989円(乙38),生産総重量7405万96
00グラム(乙46の1ないし26)
平成25年1月ガス購入代金430万6791円(乙35),電気購
入代金131万9741円(乙39),生産総重量4471万
9500グラム(乙47の1ないし21)
また,被告製品1個当たりの重量の平均値が160グラムであることに
つき,当事者間に争いはない。
そうすると,各月の燃料費単価は,平成24年10月分が19円,同年
11月分が32円,同年12月分が18.7円,平成25年1月分が20.
1円となる(いずれも小数第2位以下切り捨て)。
(計算式)
平成24年10月分(4461460+1435056)÷49405100×160=19.09
同年11月分(4681230+1428238)÷30483800×160=32.06
同年12月分(6862376+1832989)÷74059600×160=18.78
平成25年1月分(4306791+1319741)÷44719500×160=20.13
原告は,被告提出の証拠(乙32ないし39)から認定されるガス代及び
電気代が,被告製品の製造以外にも使われた可能性がある旨指摘するが,
これを認めるに足りる的確な証拠はないことから,採用できない。
(5)以上より,被告の利益額は,別紙計算書1のとおり,合計389万005
6円となる。
被告は,被告製品の販売先は,1社を除き,原告らの取引先とは重なり合
わないから,被告の行為により原告らの取引の機会が奪われたとはいえない
などとして,原告らには損害が発生しない旨主張する。
しかし,被告が主張するのは,単に,従前原告らがそれら取引先と取
引がなかったという事実にとどまるところ,その事実のみから,本件発明の
実施品が有する顧客吸引力にもかかわらず,原告らがそれら取引先と取引の
機会を持ち得なかったなどということはできないのであり,本件においては,
他に,原告らが取引の機会を奪われたとはいえないというべき特段の事情も
認められない。
よって,本件事情の下では,特許法102条2項による推定を覆滅するに
は足りず,被告の主張は採用できない。
(6)次に,本件における特許法102条3項の実施料相当額について検討する。
被告製品の性質,販売価格,販売数量,販売期間に加え,同種分野での許
諾例がおおむね3%ないし4%程度であることからすれば,本件発明2の実
施料相当額は販売価格の4%とするのが相当である。
別紙計算書2のとおり,被告製品の売上合計は1366万4790円であ
るから,実施料相当額は,54万6591円である。
(計算式)13664790×0.04=546591.6
(7)以上より,原告積水化成品工業及び原告上田製函が請求可能な実施料相
当額は,それぞれ上記実施料相当額の3分の1に当たる18万2197円
である。
また,前記認定の被告の利益額389万0056円から,これら各原告が
請求可能な実施料相当額合計36万4394円を控除した金額である352
万5662円が,原告積水化成品四国が請求可能な損害である。
(8)被告は,原告らからの警告を受け,被告製品の製造を中止し,被告製品製
造に使用していた金型を再改造したものであるが,前記認定のとおり,被告
製品製造のための金型改造は,48万円程度の費用で,短期間で可能である
こと,及び,本件訴訟における被告の応訴態度等,本件に現れた一切の事情
を考慮すれば,将来において,被告が,被告製品を製造,販売するおそれが
あると認められ,差止めを命ずる必要性が認められる。また,被告は被告製
品を破棄したと主張するが,これを認めるに足りる証拠がない以上,被告製
品の廃棄を命ずる必要性も認められる。
4以上の次第で,その余の争点につき検討するまでもなく,原告らの請求は,
主文の限度で理由があるから,その限度で認めることとし,その余は理由がな
いから棄却することとし,訴訟費用の負担について,民訴法61条,64条1
項本文,65条1項但書きにより,仮執行宣言について,民訴法259条1項
を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
髙松宏之
裁判官
田原美奈子
裁判官
大川潤子

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