弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主   文
1 控訴人の控訴並びに被控訴人の附帯控訴に基づき原判決主文第1項を次のと
おり変更する。
 (1) 被控訴人は控訴人に対し,金37万4229円を支払え。
 (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 控訴人のその余の本件控訴を棄却する。
3 訴訟費用(附帯控訴を含む)は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1
は控訴人の,その余は被控訴人の負担とする。
4 この判決は,第1項(1)に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴の趣旨
 (1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
 (2) 被控訴人は控訴人に対し,金62万3665円を支払え。
 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 附帯控訴の趣旨
 (1) 原判決中,控訴人の請求を金16万2619円を超えて認容した部分を取
り消す。
 (2) (1)にかかる控訴人の請求を棄却する。
 (3) 附帯控訴費用は,控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 控訴人は,被控訴人に対し自動車損害賠償法(以下「自賠法」という。)1
5条に基づき,控訴人の妻が起こした交通事故に関して,その被害者に対して控訴
人が支払った治療費等分の自動車損害賠償責任保険金(以下「自賠責保険金」ある
いは単に「保険金」という。)223万4325円の支払いを請求したが,被控訴
人はこのうち143万8920円の支払いをしたのみでその余の支払いをしなかっ
たことから,控訴人は被控訴人に対し,上記未払分に当たる79万5405円の保
険金の支払いを求める訴えを提起した。原審は,控訴人の請求する保険金請求権
を,自賠法及び同法施行令に基づき,被害者の傷害に基づく損害分と後遺障害に基
づく損害分に区別した上で,傷害分については自賠責保険金限度額まで支払済みで
あるとして,控訴人の請求について,これを一部認容し,被控訴人に17万174
0万円の支払いを命ずる判決をした。本件は,控訴人が敗訴部分の取消しと,当該
部分の支払いを求めて控訴し,被控訴人も敗訴部分の一部取消しを求めて附帯控訴
した事案である。
1 当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争
いのない事実等」という。)
(1) 控訴人と被控訴人との間の自動車損害賠償責任保険契約(以下「自賠責保
険契約」という。)の締結
 控訴人は,被控訴人との間で,平成7年5月14日当時,自賠責保険契約
を締結していた。
(2) 交通事故の発生
 平成7年5月14日午後8時20分ころ,控訴人の妻であるAが控訴人の
所有する小型乗用自動車を運転して,宮城県岩沼市ab丁目c番d号先道路上を進
行中,同道路を横断歩行中のBに上記運転車両を衝突させた(以下「本件交通事
故」という。)。
(3) 損害の発生(甲1,2)
ア Bの入院治療費等(但し,控訴人はこれを後遺障害による損害と主張
し,被控訴人は傷害による損害と主張している。)
    (ア) C病院(平成7年5月14日から同年6月9日まで)
                           109万1467円
      文書費用                      600円
      合計                   109万2067円
    (イ) D病院 平成7年6月9日から同年11月17日まで
                            21万1610円
イ 付添看護料(但し,控訴人はこれを後遺障害による損害と主張し,被控
訴人は傷害による損害と主張している。)
     ア(ア)の27日間の付添看護 1日当たり2000円
                             5万4000円
ウ 入院雑費(但し,控訴人はこれを後遺障害による損害と主張し,被控訴
人は傷害による損害と主張している)
     ア(ア)の27日間及びア(イ)の161日間の合計188日間 
     1日当たり1300円         24万4400円
   エ 入院慰謝料
                               222万円
  オ 後遺症の程度
 記憶力・記銘力の低下,見当識・判断力の低下,病識の欠如等精神活動
を主とする脳機能低下の後遺障害による痴呆症状(等級表2級3号-神経系統の機
能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの)により,労働能力を10
0パーセント喪失し,日常生活につき,随時介護を要する。
   カ 既往障害
     Bは,平成5年1月ころに左頭頂葉後頭部分の脳梗塞に罹患し,本件交
通事故当時,等級表12級12号(局部に頑固な神経症状を残す)に該当する程度
の既往障害があった。
   キ 将来の介護料
                          1060万6680円
   ク 逸失利益
                          1272万9748円
   ケ 後遺障害慰謝料                  1930万円
   コ 医療法人C病院附属老人保健施設E
    (平成7年11月17日から平成8年2月20日まで)
                            16万2619円
   サ 弁護士費用                      41万円
   シ 過失相殺
     Bの過失                    55パーセント
  (4) 控訴人のBに対する支払い
   ア 平成8年2月20日までに支払った分
    (ア) 上記(3)ア(ア)のC病院分  109万1467円
    (イ) 上記(3)ア(イ)のD病院分    21万1610円
    (ウ) 上記(3)コのE分        16万2619円
    以上合計                   146万5696円
   イ 平成11年1月13日
    (ア) 後記前訴確定判決によって,控訴人の負担すべき傷害分にかかる損
 害と認定された45万6587円から被控訴人の負担すべきものと認 定された
10万7933円を控除した残金
                            34万8654円
    (イ) 上記(ア)の金額に対する平成9年1月21日から平成11年1月1
 3日までの年5分の割合による遅延損害金
                             3万4531円
    (ウ) 後記前訴確定判決によって控訴人の負担すべき損害と認定された元
 金合計456万0360円(傷害分45万6587円及び後遺障害分 410万
3773円)に対する平成7年5月14日から平成9年1月 20日までの遅延損
害金 
                            38万5444円
 内訳
 (a) 上記(ア)の傷害分の損害金残金34万8654円に対する上記期
間の年5分の割合による遅延損害金       2万9470円
 (b) 後記確定確定判決により被控訴人負担分とされた10万7933
円の傷害分の損害金に対する上記期間の年5分の割合による遅延損害金
                               9121円
 (c) 後記前訴確定判決により被控訴人負担分とされた410万377
3円の後遺障害分の損害金に対する上記期間の年5分の割合による遅延損害金
                            34万6853円
     以上合計                   76万8629円
  (5) 被控訴人のB及び控訴人に対する支払い
   ア 被控訴人からBに対する支払い
    (ア) 平成8年4月ころまでに             1529万円
      但し,後遺障害分として支払い
    (イ) 平成11年2月3日までに         463万9800円
      但し,後記前訴確定判決によって被控訴人の負担すべきと認定された
元金合計421万1706円(傷害分10万7933円,後遺障害分410万37
73円)及びこれに対する平成9年1月21日から平成11年2月3日まで(但
し,平成11年1月31日分を除く。)の遅延損害金42万8094円の合計とし
て(乙1)
   イ 被控訴人から控訴人に対する支払い
    (ア) 平成7年10月11日           109万2067円
      但し,(3)ア(ア)のBの損害に対して,(4)ア(ア)のとおり控訴人が支
払った金額と文書料600円
    (イ) 平成11年4月12日            34万6853円
      但し,後記前訴確定判決によって被控訴人が負担すべきとされた後遺
障害分の損害金410万3773円に対する平成7年5月14日から平成9年1月
20日までの遅延損害金
(6) Bの控訴人及び被控訴人に対する損害賠償請求訴訟
 Bは,控訴人に対し自賠法3条,Aに対し民法709条,被控訴人に対し
自賠法16条に基づき損害賠償請求訴訟を提起し,その控訴審(仙台高等裁判所平
成10年(ネ)第357号)は,平成10年12月25日,控訴人についてはBに対
し,456万0360円及びこれに対する平成7年5月14日から支払済みまで年
5分の割合による金員の支払いを,被控訴人についてはBに対し,421万170
6円(傷害分として10万7933円,後遺障害分として410万3773円)及
びこれに対する平成9年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員の支
払いを命ずる判決を言い渡し,同判決は確定した(以下「前訴確定判決」とい
う。)。
(7) 自賠責保険金限度額
 Bに生じた損害について,自賠責保険金限度額は,傷害による損害につい
ては自賠法施行令2条1項2号イにより120万円,後遺障害による損害について
は同条項2号ヘ,自賠法施行令別表及び同条2項により2366万円である(但
し,後遺障害等級表2級の保険金額から既往後遺障害12級の保険金額を控除した
額。)。
(8) 原審の判断
  原審は,控訴人が請求した79万5405円(但し,Bに対する既払額合
計223万4325円から,被控訴人から支払を受けた143万8920円を控除
した残金)のうち,下記金額の範囲で原告の請求を認容した。
   ア 後遺障害損害としてE入所分の16万2619円(同金額が後遺傷害分
の損害金であることについては当事者間に争いがない)
   イ 控訴人が平成11年1月13日に支払った76万8629円のうち,前
訴確定判決により被控訴人負担分とされた10万7933円の傷害分の損害金につ
いての平成7年5月14日から平成9年1月20日までの年5分の割合による遅延
損害金9121円
2 争点
(1) 損害の内訳(傷害分と後遺障害分について)にかかる主張立証責任の所在
(2) 被控訴人が控訴人に対し,自賠法15条に基づき支払うべき金額
(3) 被控訴人は控訴人に対し,遅延損害金9121円の支払義務があるか。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(損害の内訳(傷害分と後遺障害分について)にかかる主張立証
責任の所在)について
ア 控訴人の主張
 自賠法は,15条において被保険者は自己の支払いの限度において保険
金を請求できると規定し,具体的な保険金額の定めを政令に委ね(自賠法13
条),同法施行令2条において自賠責保険金を死亡,傷害及び後遺障害に区別し,
各々その限度額を定めている。
 また,自賠責保険金支払いの実務では,被保険者は,自賠責保険金請求
をするに際し,領収証等の支払いを証する書面を添付しているものの,傷害部分と
後遺障害部分を区別することまで要求されておらず,その区別は,自動車損害賠償
責任保険(以下「自賠責保険」という。)の保険者である保険会社(以下「自賠責
保険会社」という。)から委託を受けた自動車保険料率算定会の出先機関である自
賠責保険調査事務所が行い,同事務所の査定に基づいて保険金が支払われている。
 このように基本法である自賠法で,損害について区別が行われず,細部
を定める政令により損害の区別と限度額が決められ,かつ実際の区別の認定は,自
賠責保険会社側で行っているという法令及び実務上の構造からすれば,自賠責保険
会社側である被控訴人に傷害分と後遺障害分を区別して主張立証する責任があると
解すべきである。
イ 被控訴人の主張
 原告の主張は否認ないし争う。
(2) 争点(2)(被控訴人が控訴人に対し,自賠法15条に基づき支払うべき金
額)について
ア 控訴人の主張
 そもそも,本件交通事故により発生した脳挫傷にかかる治療費について
は,傷害と後遺障害の損害を区別することは不可能ないしは著しく困難であり,こ
のような場合には自賠責保険金の限度額は,傷害と後遺障害に対する自賠責保険金
の限度額の合計額とすべきである。そうすると,本件の保険金支払額としていまだ
349万1280円の支払枠がある(傷害部分120万円と後遺障害部分2366
万円の合計2486万円から既払保険金額2136万8720円を控除した額)か
ら,被控訴人は控訴人に対し,79万5405円の支払義務がある。
 また,傷害と後遺障害が区別されるとしても,Bの脳挫傷は,受傷と同
時に後遺障害が発生したとも評価できるものであり,被控訴人が控訴人に対し平成
7年10月11日に支払った109万2067円(C病院の医療費等)は後遺障害
としての損害というべきである。また,Bの症状に照らせば,C病院からD病院へ
転院した平成7年6月9日には後遺障害が確定しており,少なくとも,それ以降の
治療費は後遺障害としての損害と認定されるべきである。
イ 被控訴人の主張
 自賠責保険金の支払いは,傷害と後遺障害の損害に区別されており,本
件交通事故での傷害部分の限度額は120万円,後遺障害部分の限度額は2366
万円である。自賠責保険の保険金額は,自賠法及び同法施行令により定められ,自
賠責保険会社は,自賠責保険調査事務所が自賠責保険損害査定要綱(以下「査定要
綱」という。)に基づいて調査認定した限度額に拘束され,この限度額を超えて,
自賠責保険会社が支払いをすることは,自賠法15条,16条のいずれの請求にお
いても不可能である。
(3) 争点(3)(被控訴人は控訴人に対し,遅延損害金9121円の支払義務が
あるか。)について
ア 被控訴人の主張
 遅延損害金9121円は,傷害による損害10万7933円を元本と
し,これに対する本件交通事故日である平成7年5月14日から平成9年1月20
日までの遅延損害金であるが,被控訴人は,すでに自賠責保険金として傷害分の限
度額120万円を支払済みであり,この遅延損害金は,加害者たる控訴人が負担す
べきものである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 被害者が自賠法16条1項に基づき自賠責保険会社に対して損害賠償の支
払いを直接請求する場合と,被保険者が自賠法15条に基づき自賠責保険会社に対
して保険金を請求する場合は,その法的性格を異にするものの,自賠責保険会社に
対し自動車事故によって発生した損害の填補を求める点で同一であるところ,自賠
法16条1項に基づく直接請求においては,治療費等の積極損害,後遺障害による
逸失利益などの消極損害及び慰謝料を区別して主張することが請求の特定要素とし
て必要と解される(このことは,交通事故の被害者が加害者に対し,不法行為に基
づいて訴えを提起した場合にも同様であり,請求の特定要素として,積極損害,消
極損害及び慰謝料を区別して主張立証を行う必要がある。)が,これは被保険者が
自賠法15条に基づいて保険金を請求する場合においても異ならないと解するのが
相当であり,傷害と後遺障害の損害を区別する後遺障害の発生時期(症状固定日)
についても加害者側がその主張立証責任を負うものと解すべきである。
(2) これに対し,控訴人は法令上の構造や自賠責保険金支払実務を根拠に,自
賠法施行令2条所定の後遺障害と傷害の区別の主張立証責任は,被控訴人側にある
と主張する。
 しかしながら,法令の規定の仕方は主張立証責任の分配を決める一要素に
過ぎないところ,自賠法15条の規定は,加害者が自賠責保険会社に対し,自己の
支払いの限度で自賠責保険金の支払いを請求できると規定するに止まるものであ
り,また同法13条及び同法施行令2条の規定は,自賠責保険金は損害の種別(死
亡,傷害,後遺障害)に応じてその限度額を決定するというものであって,いずれ
の規定からも,傷害及び後遺障害の区別やその具体的な適用の主張立証責任を自賠
責保険会社に負わせたものと解することはできない。また自賠責保険金実務におい
ては,査定要綱等に基づき,自賠責保険調査事務所が具体的な損害額等を統一かつ
画一的に算出し,これに基づいて自賠責保険会社から自賠責保険金の支払いがなさ
れているのが実情であるが,これは大量に発生する自動車事故を公正かつ迅速に処
理していくための定型的処理方法に過ぎず,これをもって主張立証責任の所在が被
控訴人側にあると基礎付けることはできない。よって,控訴人の上記主張は採用で
きない。
2 争点(2)について
(1) 控訴人の主張について
  控訴人は,本件交通事故により発生した脳挫傷の治療費については,傷害
分と後遺障害分を区別することは不可能ないしは著しく困難であり,このような場
合には自賠責保険金の限度額は,傷害と後遺障害に対する自賠責保険金の限度額の
合計額とすべきである旨主張する。
  しかしながら,自賠法及び同法施行令2条が,死亡,傷害及び後遺障害に
区別して,各々自賠責保険金の限度額を定めていることに照らせば,その区別を前
提とした限度額に制約されることは明らかである。なぜなら,自賠責保険は自動車
保有者が加入することを義務づけられた政府管掌の保険であり,保険料も比較的低
額に抑えられていることもあって保険金額の上限が定められているものであり,各
保険金限度額を超えた損害については任意保険による填補と加害者自らが負担する
のが妥当であるし,また,そのように解さなければ,傷害及び後遺障害を区別した
上で支払限度額に応じた運用がなされている自賠責保険実務に混乱が生じることは
容易に想定され,ひいては強制加入を原則とする自賠責保険の制度そのものを揺る
がしかねないと解されるからである。
  また,控訴人が指摘する肉体の切断や抜歯等の後遺障害の発生が客観的に
確実なものについても,後遺障害と傷害は区別されるものであり,受傷後の外科,
歯科の治療等は,後遺障害の認定がなされていても,傷害による損害と認定するの
が相当である(この場合は,後遺障害と傷害の治療が併存することになる。)か
ら,すべての自動車事故による自賠責保険金の支払いは,自賠法及び同法施行令2
条に従った運用がなされる必要があり,控訴人の指摘は当たらないというべきであ
る。
(2) 後遺障害の発生時期について
ア 前記のとおり,傷害と後遺障害の区別はなされるべきであるから,以
下,本件において具体的にいつの時点でBに後遺障害が発生したかを検討する。
 後遺障害とは,傷病が事後の治療によってもそれ以上回復しない場合,
すなわち症状固定をしていることをいい,症状固定とは,傷病に対して行われる医
学上一般に承認された治療方法をもってしても,その効果が期待し得ない状態であ
って,かつ残存する症状が自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に
達したときをいう。そして,後遺障害(症状固定日)の認定にあたっては,診療に
携わった医師の判断や,事故によって受傷したときに,後遺障害が残ることが客観
的に明らかな症状の場合(前記(1)の原告の指摘する肉体の切断や抜歯等の場合)を
はじめ個々具体的な被害者の症状や治療経過を総合的に勘案して行うべきものと解
される(もとより,自賠責保険の後遺障害にかかる認定基準やその具体的な認定
は,裁判所が症状固定日や後遺障害の等級を認定する際の参考となるものである
が,裁判所をも拘束する基準でないことは明らかである。)。
 したがって,本件交通事故により発生したBの脳挫傷という後遺障害
(症状固定日)の認定にあたっても,本件交通事故によって発生する後遺障害の発
生の客観的予測性をはじめ,診療に携わった医師の判断やその後のBの症状,治療
経過などを総合的に勘案して行うべきである。
イ 甲6号証(自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書)によれば,Bの後
遺障害の症状固定日は平成7年10月中旬と記載されていることが認められる。し
かしながら,証拠(甲16,17)によれば,C病院の担当医師は平成7年6月6
日,入院中のBに対し退院を勧めたが,B本人の希望もあって介護施設であるEに
対し同所での療養を申込んだこと(甲16の27頁),しかしながら,同所入所者
が一杯であったことから,転院先としてD病院を勧め(甲16の25頁),これに
基づいて,Bは同月9日から同年11月17日までD病院に入院したこと,さらに
D病院での同年7月8日と同年10月7日の心理検査所見や医師の診断内容にはほ
とんど変化がないことが認められる(甲17の5,6,10及び11頁)。
  以上のとおり,Bの担当医師は平成7年6月6日の時点でBに対し退院
を勧めたり,介護施設であるEでの療養を申し込んでいること,またD病院での担
当医師の診断内容にほとんど変化がないこと並びに脳挫傷という受傷の性質に照ら
せば,Bの後遺障害は,D病院に転院した平成7年6月9日の時点で,その症状が
固定したものと認めるのが相当である。以上からすれば,平成7年6月9日のD病
院への転院は,E同様介護を目的としたものと認めるのが相当であり,そうすると
同病院での治療費等は,介護費用として後遺障害による損害と認めるのが相当であ
る。
 そうすると,争いのない事実等(3)記載のBについて生じた損害のうち,
傷害分の損害は,同(3)ア(ア)(C病院治療費及び文書費用),イ(付添
 看護費用),ウ(入院雑費 但し,うち27日間×1300円=3万51
00円の範囲),エ(入院慰謝料222万円)であり,その余は,後遺障害分の損
害であると認めるのが相当である。
(3) Bの損害額は,別紙計算表のとおり傷害によるものが合計340万116
7円,後遺障害によるものが合計4321万9957円となる。そして,これにつ
きその55パーセントをBの過失として過失相殺により減じ,これにさらに弁護士
費用として41万円(傷害分が4万円,後遺障害分が37万円)を加えると,Bの
損害額の合計は,傷害によるものが157万0525円,後遺障害によるものが1
981万8980円となる(合計額は2138万9505円)。
(4) 控訴人が被控訴人に対して請求できる自賠責保険金額について
 ア Bについて生じた損害について,被控訴人が負担すべき自賠責保険限度
額が,傷害については自賠責法施行令2条1項2号イにより120万円,後遺障害
による損害については,同条項2号ヘ,別表及び同条2項により2366万円(但
し,後遺障害等級表2級の保険金額から既往後遺障害12級の保険金額を控除した
額)に制限されることについては争いのない事実等(7)に既述したとおりである。
   イ(ア) 傷害分の損害についての控訴人の支払い
  (a) C病院  109万1467円
     (b) 前訴確定判決によって,控訴人の負担すべき傷害分の損害と認定さ
れた45万6587円から被控訴人の負担すべきものと認定された10万7933
円を控除した残金        34万8654円
     (c) 上記(b)に対する平成9年1月21日から平成11年1月13日ま
での年5分の割合による遅延損害金        3万4531円
     (d) 前訴確定判決によって控訴人の負担すべき損害と認定されたうち上
記(b)の34万8654円に対する平成7年5月14日から平成9年1月20日まで
の遅延損害金           2万9470円
     (e) 前訴確定判決により被控訴人負担分とされた傷害分の損害金10万
7933円に対する平成7年5月14日から平成9年1月20日までの遅延損害金
                   9121円
      以上合計                 151万3243円
(イ) 傷害損害についての被控訴人の支払い
 (a) C病院分                109万2067円
 (b) 前訴確定判決による傷害分の損害の被控訴人負担部分 
                        10万7933円
  以上合計                     120万円
(ウ) 以上によれば,被控訴人は,自賠法による傷害分の損害について,
 既に保険金支払限度額まで支払済みであるので,これを超える控訴人 の支払分
については保険金支払義務を負わない。
ウ(ア) 後遺障害損害についての控訴人の支払い
  (a) D病院分    21万1610円
  (b) E分      16万2619円
  (c) 前訴確定判決により被控訴人負担分とされた410万3773円の
後遺障害分の損害金に対する平成7年5月14日から平成9年1月20日までの年
5分の割合による遅延損害金
                            34万6853円
 以上合計                  72万1082円
(イ) 後遺障害損害についての被控訴人の支払い
 (a) Bに対して,平成8年4月ころまでに1529万円,平成11年2
月3日までに410万3773円及びこれに対する平成9年1月21日から支払日
である平成11年2月3日まで(但し,平成11年1月31日分を除く。)の遅延
損害金41万7124円の合計1981万0897円を支払った(乙1)。
 (b) 控訴人に対して上記(ア)(c)の34万6853円を支払った。
 (c) 被控訴人の保険金支払限度額である2366万円から以上(a)(b)の
合計のうち1974万0626円(1529万円+410万3773円+34万6
853円)を控除する(後記3のとおり,被控訴人がBに対し支払った(a)の遅延損
害金41万7124円は被控訴人固有の遅延損害金であり,支払限度額に含まれな
いと解すべきである。)と,その残額は391万9374円となり,この限度で,
被控訴人は控訴人が支払った後遺障害分の損害にかかる保険金を支払う義務があ
る。
 そうすると,控訴人は被控訴人に対し,前記(ア)の合計72万10
82円から既にその支払いを受けた34万6853円を控除した残3
7万4229円について保険金の支払いを請求することができる。
 なお,このうち16万2619円については,原判決においてE分
として認容されているので,当審においては,D病院分の21万1610円が認容
されるべきである。
3 争点(3)について
 前訴確定判決において,控訴人及び被控訴人がBに対し支払義務があると認
定された傷害分の損害10万7933円について,被控訴人に,同金員に対する平
成7年5月14日から平成9年1月20日までの年5分の割合による遅延損害金9
121円の支払義務が存在するか否かについて検討する。
 自賠責保険会社に対する遅延損害金は,被害者ないし加害者から履行の請求
を受けた時から発生し,同金員は保険会社固有の債務に関して発生するものである
から,自賠責保険金支払限度額に含まれないと解すべきであるが,それ以前の被害
者の加害者に対する遅延損害金(交通事故の日から発生する。)については自賠責
保険金支払限度額に含めて算定されると解するのが相当である。
 本件において,上記の遅延損害金は,Bの控訴人に対する遅延損害金である
から,上記遅延損害金は支払限度額に含めて算定すべきであるところ,前記2認定
のとおり,傷害分の損害については既に支払限度額まで支払われていることに照ら
すと,被控訴人は控訴人に対し上記の遅延損害金の支払義務を負わないというべき
である。したがって,原判決において上記金員について被控訴人に支払いを命じた
部分は取り消されるべきである。
 以上によれば,控訴人が被控訴人に対し請求できる自賠責保険金は,37万
4229円であることが認められる。
第4 結論
 よって,原判決中,控訴人の請求について棄却した部分のうち,21万16
10円について棄却した部分は相当でないから,控訴人の控訴に基づきこれを取り
消し,この部分にかかる控訴人の請求を認容し,原判決中,控訴人の請求について
認容した部分のうち,9121円の支払いを命じた部分は相当でないから,被控訴
人の附帯控訴に基づきこれを取り消し,この部分にかかる控訴人の請求を棄却すべ
きであるので,原判決主文第1項を主文第1項のとおり変更することとし,訴訟費
用の負担について民事訴訟法67条2項,64条を,仮執行宣言について同法25
9条1項を各適用して,主文のとおり判決する。
   仙台地方裁判所第二民事部
          裁判長裁判官  伊   藤   紘   基
     裁判官  遠   藤   真   澄
      裁判官  日   置   朋   弘・
(別紙)
 損害額計算表 
ア (ア)C病院+文書  109万2067円   (傷害分)
  (イ)D病院      21万1610円
イ 付添看護費用      5万4000円   (傷害分)
ウ 入院雑費       24万4400円
            (内27日×1300円=3万5100円 傷害分)
エ 入院慰謝料         222万円   (傷害分)
キ 将来介護料    1060万6680円
ク 逸失利益     1272万9748円
ケ 後遺障害慰謝料      1930万円
コ E          16万2619円
(合計)       4662万1124円
             内傷害分   340万1167円
              後遺障害分4321万9957円
過失相殺       2097万9505円
             内傷害分   153万0525円
              後遺障害分1944万8980円
弁護士費用            41万円(内傷害分4万円)
合計         2138万9505円
             内傷害分   157万0525円
              後遺障害分1981万8980円

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛