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裁判例


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○ 主文
一 被告らは訴外藤岡市に対し、連帯して八〇〇万円及びこれに対する昭和五三年
六月二九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
○ 事実
○ 理由
一 被告Aが昭和五二年八月一一日当時藤岡市長であつた事実、被告Bが同日当時
藤岡市建設部建築課長であつた事実、被告Aは藤岡市長として藤岡市立小野小学校
の校舎建設工事(本件工事)を請負わせるため被告塚本工務店、訴外塚本建設株式
会社、同多野産業株式会社、同多野建設株式会社、同関口広建設株式会社及び同田
畑・神部共同企業体の六業者(指名六業者)を指名して、昭和五二年八月一一日藤
岡市役所内において指名競争入札(本件入札)を執行した事実、本件入札の際被告
Aは入札執行者として、C部長及び被告Bはいずれも被告Aより本件入札の手続執
行の包括委任を受けた入札執行代行者として、それぞれ立会つた事実、本件入札の
結果被告塚本工務店が本件工事を請負代金四億〇七〇〇万円で落札し、藤岡市との
間で本件工事の建設請負契約を締結した事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、本件入札において原告ら主張の違法行為があつたかどうかについて判
断する。
1 いずれも成立に争いのない甲第三号証、同第六、七号証、乙第二号証及び同第
五号証、証人Cの証言並びに被告B本人尋問の結果を総合すれば、次のとおりの事
実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
本件入札は昭和五二年八月一一日午前一〇時から藤岡市役所第一会議室において開
催され、指名六業者の各担当者が出席した。なお、当日は他に藤岡市立美九里東小
学校校舎建設工事、同市立北中学校屋内運動場建設工事、本郷団地第二種公営住宅
建設工事及び企業会館建設工事の各指名競争入札も行われることになつていた。一
般に藤岡市の指名競争入札では最低制限価格を定めており、本件入札についても同
日早朝、被告A、C部長、被告B、藤岡市総務部長、藤岡市教育長及び同次長らが
協議して落札予定価格及び最低制限価格を決定し、予定価格調書を作成した。本件
入札の落札予定価格は四億〇七〇〇万円台であつた。そして、被告A、C部長及び
被告Bはその他の藤岡市の職員とともに前記藤岡市役所第一会議室に臨んだ。
右第一会議室においては被告A、C部長、被告Bその他の藤岡市の職員(以下「執
行者側」という。)と入札希望者とが向かい合つて椅子に座り、執行者側の最前列
に細長いテーブルが置かれ、右テーブルには向つて右から左に被告A、C部長、被
告B、藤岡市建設部建築課のD係長の順に着席していた。本件入札は他の指名競争
入札がすべて終了した後、最後の入札として午前一一時二〇分頃から開始された。
執行者側が本件入札の手続を開始する旨宣告し、第一回目の入札が開始されたが、
その後、C部長が休憩を宣言し、一旦休憩があつた。そして、右休憩が終了した
後、入札が最初からやり直され、別紙入札表のとおり六回の入札が行われた。しか
し、六回目でも落札予定価格に達しなかつたため、執行者側が被告塚本工務店と協
議することについて指名六業者全員の了承を得たうえ、被告塚本工務店の担当者と
協議したところ、被告塚本工務店の担当者が本件工事を四億〇七〇〇万円で請負え
ると答えたので、執行者側は被告塚本工務店に対し第六回目に入札した四億〇九〇
〇万円の入札書を返還し、改めて入札書に四億〇七〇〇万円と記入して提出させ、
同被告が第六回目に四億〇七〇〇万円で落札したことにした。
なお、本件入札の落札予定価格の四億〇七〇〇万円台以下の端数及び最低制限価格
は、証拠上明らかでない。
2 本件入札の経過について、証人Eは次のとおり証言している。
E証人は訴外田畑・神部共同企業体の構成員である訴外田畑建設株式会社の役員と
して本件入札に関係した者である。指名六業者の各担当者は本件入札が行われた昭
和五二年八月一一日午前八時頃から藤岡市内の建設会館に集まり本件入札における
落札者等について話し合いをしたが、本件入札については被告塚本工務店、訴外多
野産業株式会社及び同田畑・神部共同企業体の三業者が落札を希望したため最終的
な調整ができないまま、被告塚本工務店が右三業者の代表者として落札し後日に本
件工事の実際の担当を話し合うことを決め、被告塚本工務店の従業員の訴外Fが指
名六業者の本件入札においてそれぞれ入札すべき価格を書いたメモを作成して指名
六業者の各担当者に配つた。右メモによると被告塚本工務店が第一回に入札する価
格は三億九八〇〇万円位か三億九九〇〇万円位で指名六業者中の最低価格であつ
た。以上の談合をすませたのち、指名六業者の各担当者は藤岡市役所第一会議室に
臨んた。そして、本件入札が最初に開始された際、指名六業者の各担当者は入札書
に右メモの価格を入札価格として記入し、右入札書を四つ折にして封筒に入れ、第
一回の入札としてその封筒を執行者の前のテーブルの上に置いて提出した。指名六
業者の各担当者が全員入札書を入れた封筒を提出した後、D係長が六通の封筒から
入札書を一枚ずつ取り出して広げ、自分の前のテーブルの上に順次重ねて置いた。
その間、被告BはD係長の隣からD係長の手許の各入札書の入札価格を見ていた。
そして、D係長が重ねた六枚の入札書をまとめて二つに折り、それを六通の封筒の
上に乗せて被告Bに手渡した。すると、被告Bは右入札書の束をそのまま片手に持
ち、指名六業者の各担当者に対して「間違いじやねえか。間違いじやねえか。」と
言い、その際、E証人の方に向つて入札書を持つていない方の手を下げ落札価格が
安すぎるとの素振りをした。そこで、E証人は同人の後ろに着席していた被告塚本
工務店の社長である訴外Gに対し「安いから取りに行け。」と言うと、訴外Gは直
ちに立ち上がり、被告Aに向つて「すいません。間違つているかもしれないか
ら。」と言つて、被告Bのもとへ行つた。被告Bは訴外Gに対し指名六業者の全部
の入札書を渡し、訴外Gは返還を受けた入札書を指名六業者の各担当者に返した。
次に、C部長が五分間の休憩を宣言した。休憩になると、指名六業者の各担当者は
会場の第一会議室から退出して同じ一階のロビーに集合し落札価格について相談し
た結果、落札価格が安すぎたらしいからもつと高くすべきだということになつた。
前記訴外Fと被告塚本工務店のH専務があらためて指名六業者がそれぞれ入札すべ
き価格を書いたメモを作成し直して指名六業者の各担当者に配つた。そして、右休
憩が終了した後、入札が第一回からやり直され、指名六業者の各担当者は右作成し
直されたメモに従つて入札をした。
3 一方、本件入札の経過について、証人Eの証言に反する次のとおりの証拠があ
る。
(一) 証人Iは訴外多野産業株式会社の専務取締役であるが、指名六業者が本件
入札について談合した事実がない旨の証言をしている。
(二) 証人Jは訴外多野産業株式会社の営業課長であるが、指名六業者が本件入
札について談合した事実がなく、訴外多野産業株式会社の担当者は本件入札が最初
に開始された際には入札書を提出する前に休憩になつてしまい、休憩中も会場であ
る第一会議室から退出したことも入札書の入札価格を書き直したこともない旨証言
している。
(三) 証人Cは本件入札が最初に開始された際指名六業者の担当者が全員入札書
を入れた封筒を提出した後D係長が六通の封筒から入札書を一枚ずつ取り出して四
つ折のまま被告Bの前のテーブルの上に置いているとき被告Bが「間違いないです
か。」と二回言つたが、入札書の入札価格を見たり変な素振りをしたことはなく、
訴外出畑・神部共同企業体の代表者の訴外Kが 「見直させて下さい。」と言つた
ので、C部長が休憩を宣言した旨証言している。
(四) 被告B本人尋問の結果及び前記乙第五号証では本件入札が最初に開始され
た際指名六業者の担当者が全員入札書を入れた封筒を提出した後被告Bが六通の封
筒から入札書を取り出しているとき「間違いありませんね。」と一、二回言つた
が、そのとき取り出された入札書が四つ折のままか一部広げてあつたかははつきり
せず、訴外Eに対し入札価格が安すぎるとの素振りをしたことはないとなつてい
る。
4 さて、本件入札の経過についての証人Eの証言と右証言に反する前記3項記載
の各証拠を比べると、証人Eの証言が具体的で詳細であるのに対し、右証言に反す
る前記各証拠は記憶していないとの供述部分が多いなどいずれも曖昧である。ま
た、証人Eの証言は同証人にとつても不利益な事実を内容とするものである。従つ
て、証人Eの証言は信用すべきものであり、右証言を採用して右証言のとおりの事
実(前記2項記載の事実)を認定する。そして、右証言に反する前記各証拠はいず
れも信用できず、甲第七、八号証中の右証言に反する記載部分も信用できないし、
他に右証言に反する証拠はない。
ただ、本件入札が最初に開始された際被告塚本工務店が入札した価格は、証人Eの
証言では三億九八〇〇万円位か三億九九〇〇万円位となつていて確定していない
が、証人Lは右入札価格は三億九九〇〇万円であつた旨証言しており、両証言を合
わせ考えると、右入札価格は三億九九〇〇万円である事実を認めることができる。
5 右に認定した本件入札の経過によると、本件入札において被告塚本工務店が第
一回目に入札した入札書の入札価格は三億九九〇〇万円であつたのに、それを四億
三〇〇〇万円にした入札書と引換えており、右入札書の引換えは地方自治法施行令
一六七条の一三、一六七条の八第二項に反し違法である。そして、訴外藤岡市は被
告塚本工務店との間で本件工事の建設請負契約を三億九九〇〇万円で締結できたに
もかかわらず、右入札書の引換えの結果、四億〇七〇〇万円で締結したのであるか
ら、その差額の八〇〇万円の損害を受けたものであるといわなければならない。
三 以上認定した事実を前提とすると、被告らには次のとおり損害賠償責任があ
り、その責任は不真正連帯債務である。
1 被告Aは本件人札に執行者としち会つており、本件入札が最初に開始されて入
札書の開札を始めた後に被告Bが指名六業者の各担当者に対し「間違いじやねえ
か。間違いじやねえか。」と言い、次いで訴外Gが被告Aに向つて「すいません。
間違つているかもしれないから。」と言つて被告Bのもとへ行つたとき、放置すれ
ば入札書が指名六業者の担当者に戻されて入札書の引換えがされることが予想され
るので直ちに被告Bに対し入札書を戻さずに開札を続行することを命令すべき注意
義務があつたにもかかわらず、被告Bに何の命令もせず放置した重大な過失がある
ので、訴外藤岡市に対し八〇〇万円の損害賠償をする責任がある。
2 被告Bは本件入札において入札書の引換えをさせたので、訴外藤岡市に対し八
〇〇万円の損害賠償をする責任がある。
3 被告塚本工務店は本件入札において入札書の引換えをしたので、訴外藤岡市に
対し八〇〇万円の損害賠償をする責任がある。
四 原告らがいずれも藤岡市の住民である事実、原告らが昭和五三年三月二四日本
件入札における違法な行政行為の是正、行政責任追求及び藤岡市の受けた損害の補
填を求めて地方自治法二四二条に基づき藤岡市監査委員に対し住民監査請求をした
事実、右監査の結果が同年五月二〇日原告らに通知された事実及び右監査の結果は
結局本件入札手続は法でないというものであつた事実は、いずれも当事者間に争い
がない。そして、本件訴訟は同年六月一六日提起されているので、適法な住民訴訟
である。
五 よつて、原告らが訴外藤岡市に代位して被告らに対し連帯して不法行為による
損害賠償金八〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五三年六月二九日
から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を訴外藤岡市に支払うこ
とを求める本訴請求はすべて理由があるので認容し、訴訟費用の負担につき民事訴
訟法八九条、九三条一項但書を適用し、仮執行宣言は相当でないから右申立を却下
して、主文のとおり判決する。
(裁判官 川名秀雄 大島崇志 伊東一廣)
(別紙)
監査の結果
一 違法な入札執行手続きについて
1 入札執行と指名競争入札業者は申し立てのとおりである。
2 B建築課長は、入札者より提出された入札書の開封をはじめた途中において、
当日の入札中最大規模であり間違いがあつてはならないと直感し注意を促がしたこ
とは事実であるが、人札書を開被して入札金額を読み取つた事実は確認できなかつ
た。
3 入札者は、B建築課長の発言により、自社の入札書を確認すべく入札書の返戻
を申し出たことは否定できない。
4 執行者は入札者より入札書の入札金額確認のため、返戻の申し出を是認し、入
札書を大札者全員に返戻して五分間の休憩を宣したことは確認できた。
5 人札者の一部は、休憩を利して入札室(第一会議室)より退出したことは認め
られたが、別室において入札書の書替え及び提出について協議した事実は確認でき
なかつた。
6 執行者は休憩を解いて入札を再開したことは事実である。
7 2から6までの経過は前述のとおりであり、通常競争入札執行にあたつて執ら
れる過程とは認められないが、入札者は、執行者の確認を意としての発言により、
入札書の返戻を申し出たものであり、執行者もこれを許容して行われたもので、入
札者の一方的撤回でなく、地方自治法施行令第一六七条の一三の規定により準用さ
れる同第一六七条の八第二項の規定に違反する行為であるとは解されないものと考
えられる。しかし、このような行為は今後二度と繰り返すことのないよう措置する
よう執行者にその旨通知したものである。
なお、後段に記述されている入札書の最低価格は、株式会社塚本工務店の三億九九
〇〇万円であつたと指摘されているが、執行者及び入札立会人ならびに入札者等を
慎重に監査し、資料の提出を求めたが、確実なる証言及び証拠書類を得るに至らな
かつた。
8 再開された入札は六回行われ、六回目の最低価格で入札した株式会社塚本工務
店代表取締役Gに予定価格以下の四億七〇〇万円で落札となつている。従つて後段
に述べる八〇〇万円を上乗せしたことは認容し得ないものと思料する。
二 違法入札執行による藤岡市の損害について
このことについては、前述の入札執行において契約が行われたことにより監査請求
の要因となつた指名競争入札の違法が確定し、かつ、三億九九〇〇万円が立証され
た場合に八〇〇万円の不当支出による損害が考えられるが、監査を行つた過程にお
いて三億九九〇〇万円の入札書が存在した事実は確認できず従つて藤岡市が八〇〇
万円の損害を蒙つたと断定することは出来得ないと思料する次第である。
以上の結果、本監査請求について理由がないと認める。

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