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       主   文
 被告が昭和五三年一一月九日付けでした原告を戒告するとの懲戒処分は、無効で
あることを確認する。
 訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
(原告)
 主文と同旨。
(被告)
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張事実
(請求原因)
一 原告は、帯広電報電話局(以下、「帯広局」という。)に勤務する被告の従業
員である。
二 被告は、昭和五三年一一月一四日原告に対し、原告を同月九日付けで懲倣処分
として戒告する旨の処分をした。
その理由は、
1 昭和五三年九月一三日以降、頚骨腕症候群総合精密検診の受診について再三に
わたり指示したにもかかわらずこれを拒否し、
2 昭和五三年一〇月九日午後三時一五分ころ、無断で職場交渉室に立ち入り、通
信終了後直ちに勤務に復すべきところ、これを怠つた
とし、これらは、日本電信電話公社職員就業規則(以下、「就業規則」という。)
五九条三号及び一八号の該当し、その職員としてはなはだ不都合であるというので
ある。
三 しかし、本件処分は、次の理由により無効である。
1 処分事由の不存在
(一) 受診命令拒否について
(1) 事実経過
ア 原告は、昭和四五年四月に被告に採用されて以来、電話交換の職務に従事して
きた。ところが、昭和四九年ころから肩こり、腕の痛み等を覚え、昭和四九年七月
被告の指定病院である帯広市の川上整形外科医院で受診したところ、頚骨腕症候群
と診断され、以後、電話交換職から机上勤務に変わり、同医院に通院して治療を受
けてきたが、昭和五〇年九月原告の頚骨腕症候群は疾病と認定された。
イ 原告は、昭和五三年九月一三日帯広局のa運輸部長から、同年一〇月五日から
二週間札幌逓信病院に入院して、頚骨腕症候群総合精密検診を受けるよう指示され
たが、検診の必要性や目的に疑問があり、検診項目も知らされず、医師選択の自由
を認めない平の受診命令は不当であると信じてこれに従わなかつた。原告は、昭和
五三年一〇月二一日帯広局のb労務厚生課長に検診項目を尋ねるとともに検診項目
を知らせてくれれば自分の選んだ病院で検診を受ける旨告げたところ、同課長は札
幌逓信病院に問い合わせてあとで連絡する旨答えたが、その後も検診項目を知らさ
れないまま、昭和五三年一〇月二七日a運輸部長から、同年一一月九日から二週間
札幌逓信病院に入院して総合精密検診を受けるよう命令された。しかし、原告は、
検診の目的ないし必要性につき疑問が解決されないので、不当な命令と信じてこれ
に従わなかつた。
(2) 本件業務命令の違法性
 労働安全衛生法六六条五項但書は労働者の医師選択の自由を規定しているとこ
ろ、この医師選択の自由は、同条所定の健康診断の場合に限らず、本件のような労
働災害、職業病の治ゆ判定等の目的のために行われる検診にも適用ないし準用され
ると解すべきである。本件業務命令は、札幌逓信病院のみを指定し、検診項目も告
知しなかつたのであるから、原告の医師選択の自由を否定するもので違法、無効で
ある。したがつて、原告は、本件業務命令に従う義務はない。
(二) 職場離脱について
 原告は、昭和五三年一〇月九日前記川上整形外科医院に通院するため、同日午後
零時五〇分ころ職場を出て午後三時五分ころから帯広局に戻つたが、当時、原告に
は、午後三時から一五分間の休憩時間が与えられていた。そして、当日午後三時こ
ろから局舎三階の職場交渉室で本件総合精密検診の受診命令を含む業務命令の問題
で、労使間の団体交渉が行われると聞いていたので、原告は同日午後三時一〇分こ
ろ他の組合員らとともに傍聴のため職場交渉室に立ち入つたところ、団体交渉当事
者の全国電気通信労働組合(以下、「全電通労組」という。)帯広分会の分会長か
ら退室するよう指示され、二・三分後には同室前の廊下に出て、同所で他の組合員
らとともに分会長と傍聴の可否について話し合いをしていたら午後三時一五分ころ
になつたので、自分に与えられた休憩時間内に職場に戻るべく局舎二階の事務室に
戻つた。その時刻は、午後三時一五・六分であつた。したがつて、原告には職場離
脱の事実はない。
2 日本電信電話公社法違反
 前年度の勤務期間中に戒告処分を受けたことのある職員の定期昇給は四分の一の
割合に相当する額だけ昇給標準額を減じて行われる旨を定めた被告の就業規則七六
条四穂三号の規定により、原告は、昭和五四年四月一日実施された定期昇給におい
て、昇給標準額三五〇〇分の四分の一に相当する八七五円荘減額された。右の昇給
標準額の減額は、減給処分と同一の実質を有するものであるところ、右減額の効果
は原告が被告の従業員の地位にいる間継続するものであるから、右昇給標準額の減
額を伴う本件処分は、減給処分は一月以上一年以下の間俸給の一〇分の一以下を減
ずる旨定めた日本電信電話公社法三三条四項に違反し、無効である。
3 懲戒権の濫用
 仮に、右1、2の主張が理由のないものであるとしても、以下の事情を考慮する
ときは、前記処分事由をもつてした本件処分は、重きに失し、懲戒権の濫用である
から、無効である。
(一) 原告が本件業務命令を拒否したのは、検診の実施機関として指定された札
幌逓信病院に対して不信をもつていたからであり、医師選択の自由を保障した労働
安全衛生法六六条五項但書の趣旨から考えて、具体的な検診項目を告知されなかつ
た原告がこれを拒否したのは無理からぬことである。
(二) 帯広局においては、従来から五分ないし一〇分間程度の職場離脱あるいは
職務放棄は黙認され、あるいは口頭による注意ですまされていたし、当時の原告の
担当職務は、電話番号簿の番号訂正等の事務であつて、忙しい職場ではなかつた。
(三) 原告は、本件処分に付されたことを理由に、昭和五四年四月一日実施され
た定期昇給において、昇給標準額三五〇〇円の四分の一に相当する八七五円を減額
されたが、右減額の効果は原告が被告の従業員としての地位にある間継続するもの
であるから、本件処分により原告が被る不利益は甚大である。
(請求原因に対する認否)
一 請求原因一項及び二項の事実は認める。
二 同三項の1の(一)のアの事実は認める。
 同項の1の(一)のイの事実中、a運用部長が昭和五三年九月一三日原告に対し
て本件総合精密検診を受診するよう指示したこと、原告がこの指示に従わなかつた
こと、原告が同年一〇月二一日b労務厚生課長に検診項目を尋ねるとともに検診項
目を知られてくれれば自分の選んだ病院で検診を受ける旨告げたこと、同年一〇月
二七日a運用部長が原告に対し、再度本件総合精密検診を受診するよう命令したこ
と及び原告がこれに従わなかつたことは認めるが、その余の事実は否認する。
 同項の1の(一)の(2)の主張は争う。
三 同項の1の(二)の事実中、原告が昭和五三年一〇月九日午後零時五〇分ころ
川上整形外科医院に通信するため、職場を出たこと、当時原告が午後三時から一五
分間の休憩時間を与えられていたこと、当日午後三時ころから局舎三階の職場交渉
室で本件総合精密検診の受診命令の問題で労使間の団体交渉が行われたこと、原告
らが職場交渉室に立ち入つたこと及び帯広分会の分会長が原告らに対し、退室する
よう指示したことは認めるが、その余の事実は否認する。
四 同項の2の原告が昭和五四年四月一日実施された定期昇給において、前年度の
勤務期間中に戒告処分を受けたことのある職員の定期昇給は四分の一の割合に相当
する額だけ昇給標準額を減じて行われる旨を定めた就業規則七六条四項三号の規定
により、昇給標準額三五〇〇円の四分の一に相当する八七五円を減額された事実は
認めるが、本件処分が日本電信電話公社法に違反するとの主張は争う。
五 同項の3の本件処分が懲戒権の濫用であるとの主張はすべて争い、(二)の事
実のうち帯広局においては、従来から五分ないし一〇分間程度の職場離脱あるいは
職務放棄が黙認され、口頭注意ですまされていたとの事実は否認し、当時の原告の
担当職務内容は認める。また、(三)の事実中、原告が昭和五四年四月一日の定期
昇給において、昇給標準額の四分の一に相当する八七五円を減額されたことは認め
る。
(被告の主張)
一 本件懲戒処分に至る経過及びその事由
 原告は、以下に述べる非違行為をなしたことにより、戒告処分に付されたもので
ある。
1 (業務命令の拒否)
(一) 総合精密検診実施に至る背景
(1) 被告の北海道における頚骨腕症候群のり患者は、昭和四五年ころから電話
交換職を中心として発生し、昭和五〇年三月末には約二二〇名を数えた。その後、
新規発症の漸減と治ゆ等によつて昭和五三年六月末のり患者は約一五〇名に減少し
た。
 原告の所属する帯広局については、昭和四七年に二名の発症をみて以来、昭和四
九年の一一月末には約三〇名に及んだ。その後、昭和五三年六月末には新規発症の
減少及び治ゆ等により二〇名に減少したものの、そのほとんどが発症後四年有余を
経過している長期り患者であるという実態にあつた。
(2) この間被告は、本症はいまだ医学的に十分解明されていないことから、そ
の究明に鋭意務めるとともに、一刻も早い疾病の根絶と早期回復のため諸施策を講
じることとし、関東逓信病院の専門医を中心に頚骨腕症候群に関するプロジェク
ト・チームを編成し、本疾病の専門医学的な原因究明に努めるとともに、特に労使
間で予防措置及び早期回復のための種々の具体策をとりきめ、実施してきた。
 すなわち、予防対策としては①頚骨腕症候群に関する健康診断(新規採用時及び
定期健康診断時)の実施、②予防体操の指導奨励、③あんま器、ベルト・マツサー
ジ器等の保健、治療器具及び運動具の配備、④職員の希望を尊重して交換室等にじ
ゆうたんを敷く等職場環境の整備改善、⑤被服の改善(夏服長袖等の貸与)、⑥交
換用送受器(ヘツドホーン)の改良を実施し、また、り患者対策としては、①指定
病院の設定、②勤務時間内の通院に便宜を図る措置、③はり、きゆう等施術料の一
部被告負担、④指定病院への診断書取得のための交通費及び診断書料の被告負担、
⑤休職中の賃金及び病気休暇期間に関する優遇措置、⑥り患者の配置換、職種転換
等の実施、⑦被告の設置する病院(逓信病院)におけるり患者受入れ体制の充実強
化等の諸施策を採用し、実施してきている。
 北海道においても、右に加えて疲労感及び緊張感の緩和対策等を講じてきた結
果、り患者は年々減少し、前述のとおり、昭和五三年六月末には約一五〇名となつ
たが、そのうち発症後三年以上経過しても、なお治ゆに至らないり患者が約八〇パ
ーセントを占めている現状にあつた。
(3) そこで被告は、健康管理医及び札幌逓信病院の専門医の意見を参酌しなが
ら鋭意検討を行つてきたが、一方、全電通労組北海道地方本部(以下、「道地本」
という。)においても組合員の健康の維持と確保の観点から被告に対し、具体的な
施策を検討するよう要求し、種々論議を重ねてきた結果、昭和五三年七月一四日長
期り患者の総合精密検診の実施について、労働協約(五三北地記第三八号)を締結
するに至つたものである。
 右協約は、発症後長期間にわたつて治療を受けているにもかかわらず、なお治ゆ
に至らない長期り患者が多数いることに加え、本症がいまだ医学的に十分究明され
ていないため、これら長期り患者について他に疾病要因が存在することも考えられ
ることから、整形外科はもとより、内科、精神神経科、皮膚科、眼科及び耳鼻咽喉
科のほか症状によつては他科の検診をも含めた総合検診を行うことにより、疾病要
因を追究し、その結果によつて治療及び正しい療養の指導を行い、早期に健康回復
を図ることを目的としており、受診の対象者、実施方法、実施期間を次のとおり定
めている。
○ 対象者
(ア) 発症後三年以上経過している者で、かつ病状が軽快していない者。
(イ) 右(ア)以外で健康管理医が必要と認めた者。
○ 実施方法
(ア) 札幌逓信病院に入院させて関係各科の検診を行う。
(イ) 検診期間は、二週間程度とする。
(ウ) 実施人員は、一回四名程度とする。
(エ) 実施にあたつては、入院時点における健康調査を行う。
(オ) 対象者の選定は健康管理医が行う。
○ 実施期間
 昭和五三年八月中旬(予定)からとする。
(4) 右協約で総合精密検診の実施病院を札幌逓信病院と定めた理由は次のとお
りである。
 すなわち、前記の必要性から検診料及び検診項目が多岐にわたるので、これらの
専門科を有する総合病院でなければならないこと、各専門科医の所見を総合し、疾
病要因の究明を図り、有効な施策を見出すための検討体制が確立されていること、
更に長期間にわたるベツトの確保、多数のり患者を計画的に受診させる必要がある
という物理的諸制約等の条件を満たすことが本件総合精密検診実施の必須の要件で
あつた。しかして職域病院としての札幌逓信病院は、これら諸条件を十分に満たす
ものであり、なお加うるに当該病院を利用することによつて、①各科専門医に対し
ても頚骨腕症候群の実態と総合精密検診の趣旨を伝え、容易に理解を得ることが可
能であること、②職員の健康管理にもたずさわつており、健康管理医との意思疎通
が容易であつて、検診後の指導面に生かされること、③職域病院の立場で各主治医
に対し、職員の健康管理上の協力要請も容易であること、④頚骨腕症候群の業務災
害認定に当つての精密検診と治療を実施してきている実績があること等総合精密検
診の趣旨が十分かなえられるということから労使間で合意をみたものであり、これ
らのことを他の総合病院に望むことは、到底不可能である。
 なお、右病院における総合精密検診は、昭和五三年八月から実施され、昭和五四
年二月末現在で一八名が受診している。
(二) 被告における職員の健康管理について
 被告においては、職員の健康管理一般について、労働安全衛生法等関係法令に基
づき衛生教育、疾病の予防、り患者の早期発見、ならびに早期回復、保健指導、衛
生環境の整備等、職員の健康管理を適正に実施し、もつて業務の円滑な運営に資す
ることを目的として健康管理規程(昭和四三年九月二四日総裁達第八四号)を定
め、職員の健康管理にあたつて職員の疾病状況に対応した有効な施策を講ずること
(二条一項)を規定する一方、職員は常に自己の健康の保持増進に努め健康管理従
事者の指示を守らなければならない(二条二項・四条)と職員の遵守すべき義務を
明記しているところである。
 そして、職員の疾病の予防、保健指導を行うとともに、り患者の早期発見等を行
うため、労働安全衛生法一三条所定の産業医として健康管理医を配置し、更に高度
な医療技術のもとに、疾病の早期回復を図り、併せて職員の健康管理に適した疾病
の早期発見、早期治療を行う病院として、北海道では札幌逓信病院を設置してい
る。
 職員の健康診断の実施については、労働安全衛生法六六条に定めるもののほか、
成人病対策として人間ドツク及び胃集団検診等を実施しているうえ、健康診断等の
結果により健康管理医が必要と認めたときは更に精密な検診を行うこととしている
(健康管理規程二四条)。
 右検診の結果に基づき、健康管理医は、管理が必要であると認められる個々の職
員に対して「要管理者」として病状に応じて「療養」(入院又は自宅で療養させ
る。)、「勤務軽減」(病状に応じて勤務軽減させる。)、「要注意」(療養又は
勤務軽減の措置を行うまでに至らないが、宿直・宿明服務、時間外労働、宿泊出張
及び過激な運動を伴う業務はさせない。)、「準健康」(通常の勤務の中で健康状
態の観察を行う。)の各指導区分に従い個別に管理し(健康管理規程二六条)適切
な健康管理指導を講じているものである。
(三) 原告の健康管理状況等
(1) 原告は、昭和四九年七月五日川上整形外科医院において頚骨腕症候群と診
断されると同時に、被告の健康管理規程に定める指導区分の「療養」となり、休養
加療を行つた結果、症状が軽快し、同年九月五日から「要注意」として職場に復帰
した。
 しかし、原告の症状は旬日を経ずして、同年九月一六日から「勤務軽減」(六時
間勤務)、同年一一月五日から「療養」、同年一二月五日「勤務軽減」(四時間勤
務)を経て、昭和五〇年二月一六日再度「要注意」となり、ほぼ平常勤務に復し現
在に至つている。
 このように被告は、原告の病状に応じた適切な健康管理指導を講ずる一方、昭和
四九年九月五日、原告の健康状態を考慮し、従来の電話交換作業から軽易な机上作
業に担務替えを行うとともに、同年九月二八日、原告から提出された本疾病の業務
災害認定申請に対して、札幌逓信病院において、整形外科の精密検診を行い、その
結果等に基づき、昭和五〇年九月三日付けで「業務上」に認定し、各種補償を行つ
ているところである。
(2) これまでにおける原告の治療状況は、川上整形外科医院において多いとき
で月二〇回程度、本件非違行為当時は月一二、三回通院治療を受けているほか、昭
和五二年四月から吉田治療院(帯広市所在)において多いときで月九回、最近では
月二、三回「あんま、マツサージ」を受けているが、これらの通信治療に要する時
間は「療養」「勤務軽減」の指導区分にあつたときを除いては、ほとんど勤務時間
帯の中で措置してきた。
(3) 右に述べたように原告は発症以来、整形外科を中心とした治療行為を継続
してきているが、昭和五〇年二月以降症状の改善がみられず、このままの状態では
更に回復が遅れること、このように長期間の治療行為にもかかわらず、なお治ゆに
至らないことから、他に疾病要因が存在することも考えられること、更には、被告
としては、原告を「業務上」に認定し、各種の補償を行つていることからもこのよ
うな状態を放置することはできず、こうした事情から健康管理医が本件の総合精密
検診受診の必要性を認めたため、被告が受診を指示したものである。
(四) 受診命令拒否の事実等
(1) 被告の帯広局a運用部長は、昭和五三年九月一三日原告に対し、「一〇月
五日から一八日まで札幌逓信病院において総合精密検診を受診すること」を口頭で
指示するとともに、実施期間・場所・検診科名及び入院にあたつての注意事項等を
記載した書面を手交した。原告は右指示の際、「友人の結婚式がある。」「検診に
行く際病気になつたらどうなるのか。」という趣旨の発言をして、受診に消極的な
態度を示した。
 同年一〇月二日午後四時半ころ、同運用部長が原告に対し受診に要する交通費等
の経費を支給したところ、「まだ分会執行部と話がついていないので行かれませ
ん。」と受診を拒否する意向の発言をしたが、経費は受領した。
 同日午後五時半ころ、全電通労組帯広分会のc書記長が、「総合精密検診につい
て分会の説明では納得できないと言つているから、本人及び頚骨腕症候群り患者代
表を連れてきたので説明してやつてほしい。」として原告ほか一名を帯同し、同局
b労務厚生課長席にきた。同課長は、前記総合精密検診の目的、実施の必要性、実
施病院を札幌逓信病院とした理由等について説明し、更に原告の納得のいくまで検
診の必要性について説明する意向を示したが、原告は「私たちが頚骨腕症候群り患
者になつたのは被告の会理化によるものである。」と発言し、結局、「分会執行部
との話し会いが終つていない。」として退席した。
(2) 被告としては、検診日が目前であることから、これら原告の態度を危惧
し、翌一〇月三日a運用部長から原告に対して受診方の業務命令を発したが、原告
は翌一〇月四日、d第二電話運用課副課長に対し「行かなくなりましたので、お返
しします。」と交通費等の支給経費を返戻し、受診を拒否してきたものである。
(3) 被告は総合精密検診の趣旨及び原告の健康回復を配慮し、再度受診の機会
を与え、翻意を促すべく、一〇月二七日a運用部長から総合精密検診の必要性等に
ついて説明を行うとともに、一一月九日から同月二二日まで札幌逓信病院におい
て、総合精密検診を受診するよう、再度業務命令を発し、その際原告に対して前回
行つた受診命令を拒否した理由について質したが、「拒否した理由は分会に言つた
あります。」と明確にしないまま、一〇月三〇日同運用部長に対し「札幌逓信病院
は信頼できない。」との理由でこれを拒否したものである。
(五) 原告の本件業務命令拒否事由の不存在について
(1) 原告は、本件業務命令は、医師選択の自由を否定するもので、違法・無効
である旨主張する。
 労働安全衛生法は、六六条五項において、労働者について事業者が行う健康診断
の受診義務を定める一方、同項但書において、労働者が事業者の指定する医師等の
診断を受けることを希望しない場合は、他の医師等の健康診断を受けて、これに代
えることができる趣旨の規定を置き、いわゆる医師選択の自由を定めている。
 しかし、本件の総合精密検診については、左に述べる理由により同法六六条五項
但書の適用ないし準用の余地はないものである。
 すなわち、同法は労働基準法と相まつて、労働災害防止のための「最低基準」を
定める法律にほかならず(労働安全衛生法一条、労働基準法一条一項、四二条)い
わゆる定期健康診断、新規採用時の診断等(労働安全衛生法六六条一項、労働安全
衛生規則四三条ないし四六条)あるいは有害な業務等の健康診断(労働安全衛生法
六六条二項、同法施行令二二条、有機容済中毒予防規則二九条等)についての実施
すべき事項を規定しているにすぎないものである。被告が行うこれら健康診断の実
施にあたつては、労働安全衛生法六六条五項が当然適用されるのはもちろんであ
り、実際上も同法六六条五項の趣旨にのつとつて運用されているものである。
 しかし、本件の総合精密検診は、右の未だ頚骨腕症候群にり患していない健康な
労働者が、その健康を維持するための最低基準として設けられた一般検診と異な
り、名称こそは検診ではあるが、同法の趣旨、目的を更に超え、積極的に頚骨腕症
候群り患者の早期健康回復を図ることを目的として、被告が行う今後の健康管理上
の措置及び治療の指針を得るために行うもの、すなわち、被告において疾病にかか
つた労働者を迅速かつ公正に保護するため、適正な労働条件の確保等を図り、もつ
て労働者の福祉の増進に寄与する(労働者災害補償保険一条参照)との意味合いを
も有するもので、むしろ労働者災害補償保険法の趣旨を実現するための前提として
の措置というべきものである。この点において既に労働安全衛生法六六条五項但書
の規定が適用される余地はないと解すべきである。更に、本件総合精密検診につい
ては、被告にとつては法的拘束力をもつ労働協約上の義務の履行(労働基準法二条
二項)の意味も合わせ持つもので、加えて前記一の1の(一)の(4)でも述べた
とおり、本件のごとき総合精密検診を実施するには、札幌逓信病院以外には他に適
当な機関が存在しないこと等の事情があり、前記但書がこのような場合まで予想さ
れたものでないことは明らかであつて、本件総合精密検診に労働安全衛生法六六条
五項但書が適用ないし準用されるべきであるとの原告の主張は失当である。
(2) 原告は、被告において検診項目を告知しなかつたことも、本件受診命令拒
否の理由とするが、かかる主張は、既に述べた本件総合精密検診の目的・性質と相
容れないものであり相当でない。
 すなわち、本件総合精密検診は、前記のとおり各科の専門医が種々の角度から、
り患者を検診し、その所見をもとに各科医師相互の緊密な連携を図ることによつ
て、疾病の要因を追究しようとするものであり、更には、その結果に基づき今後の
治療及び正して療養指導を行おうとするものである。
 そのため、個々の専門分野なおける具体的検診項目については、り患者個々の症
状によつて異なるため、当初よりこれを予想することは困難で、り患者の症状に応
じあくまで医師の判断に委ねられる性質のものというべきである。
 従つて、被告が原告に告知しうるのは、検診を予定する検診科名に止まるものと
いうべきであり(検診科名については、既に原告に対し告知済みである。)、より
具体的な検診項目を告知することは、被告に対し、不可能を強いるものというべき
であるし、告知の必要もない。
2 (職務の放棄)
(一) 原告に対する休憩時間付与
 被告は、電話交換職として採用した原告が、頚骨腕症候群にり患したため、昭和
四九年九月机作業に担務の変更をさせたものであるが、休憩時間の取扱いについて
は、交換作業に従事する職員に適用されるものを準用する取扱いをしてきた。
 そして交換作業に従事する職員に対する休憩時間の付与については作業の特殊
性・疲労度等を勘案して、分断して与えることとし、具体的な休憩時間の付与位置
は、休憩時間付与計画表により、予め一定期間間定められているところである。
 なお、昭和五〇年二月以降、本件非違行為時までの原告に対する休憩時間の付与
は、左のとおりである。
<04067-001>
(二) 職務放棄の事実
(1) 昭和五三年一〇月九日、帯広局において、前記の総合精密検診にかかる業
務命令の発出について、団体交渉が午後三時から同局三階会議室で開催されていた
が、その際午後三時一五分ころ、原告を含む一〇名前後の女子職員(原告を除いて
は、勤務時間外ないし年次休暇を取得した者である。)が、交渉に不当な圧力をか
ける意図のもとに、右会議室に無断で入室してきた。
 交渉中の被告側交渉委員は、直ちにかかる事態について組合側に抗議したとこ
ろ、e帯広分会長は、原告らを速やかに退室させ、会議室前廊下で、原告らと話し
合いを行つた。一方同じころ、事態収拾のため休憩に入りたいとの組合側の申し入
れを受け、被告側交渉委員は退席した。
 元来被告における団体交渉方式は、公共企業体等労働関係法第一一条の定めに基
づき、労使間で労働協約として締結されたものであり、団体交渉とは一定のルール
に則り、労使それぞれを代表する交渉委員によつて労使間の諸問題について十分話
し合い、組合の理解と協力を求めることを目的とする場であるといえる。
 しかるに原告らの行為は、こうした正常な団体交渉ルールに則り行われていた団
体交渉を中断させたのみならず、再開不能に至らしめたものであり、まさに業務の
正常な運営を阻害した行為と評価しうるものである。
 (2) 当日、原告は、川上整形外科医院で治療を受けるため、午後零時五〇分
に離席しているが、前記休憩付与時間内に帰局しているのであれば、午後三時一五
分には直ちに自席に戻り勤務すべきにもかかわらず、前記交渉の場に立ち入るなど
して、実際に勤務に復したのは午後三時二五分であり、この間約一〇分間にわたつ
て職務放棄をしたものである。
(三) なお、原告は従来から短時間の職場離脱は黙認ないし口頭注意ですまされ
てきた旨主張する。
 従来、勤務時間に違反する行為については、被告が現認した場合、その時間が短
時間で、その行為の原因となる事由、動機に単なる過失や緊急避難的要素が認めら
れた場合においては、自戒を求めると同時に再度かかる行為のないよう必要な注意
を与えてきたところである。しかるに、本件原告の行為自体正常な団体交渉に対し
不当な圧力をかける意図のもとに敢行されたもので、現に原告らの行為により団体
交渉の中断が余儀なくされたものであつて、そのこと自体に非違性があるのみなら
ず、動機においても団体交渉を傍聴しようとする以上、相当の時間を要することは
自明であり、そこには、職務放棄についての明確な故意性が存し看過できない非違
行為というべきである。
 また、原告の担当職務が電話番号簿補正等軽作業であり時間的に忙しくないとし
て、職務放棄が容認されるべきかの主張に至つては、むしろ被告としては、原告の
健康管理上の観点から、かかる軽作業に従事させているものであつて、職務専念義
務を軽減もしくは、免除する意図に出たものではないのは自明の理であつて、原告
のいうところのものは、業務の繁閑度と職務専念義務という、本来別個の範ちゆう
の問題を混同する誤りをおかしているものというべきである。
二 本件懲戒処分の正当性
1 以上の原告の行為のうち、昭和五三年九月一三日以降総合精密検診の受診につ
いて、再三にわたり指示したにもかかわらず、これを拒否した行為は、就業規則五
九条三号の「上長の命令に服さないとき」に該当し、また、昭和五三年一〇月九日
午後三時一五分ころ無断で職場交渉室に立ち入り、通信終了後直ちに勤務に復すべ
きところ、これを怠つたことは、就業規則五条一項の「職員はみだりに…………直
属上長の承認を受けないで執務場所を離れ…………てはならない。」に該当し、結
局就業規則五九条一八号に違反するものである。
 そして右のうち、受診命令拒否行為については、その事情として、就業規則一六
五条「職員は心身の故障により療養・勤務軽減等の措置を受けたときは、……所属
長……の指示に従い健康の回復につとめなければならない」との規定、健康管理規
程四条「職員等は、健康管理従事者の指旨もしくは指導を受けたときは、これを誠
実に守らなければならない」及び同規程三一条「要管理者は健康管理従事者の指示
に従い、自己の健康の回復に努めなければならない。」等の規定に違反するのみな
らず、本来労働者が誠実にその義務を履行しなければならない(労働基準法二条二
項)前記労働協約に反する行為でもあり、かかる協約を実現する意味を有すべくし
て発せられた再三の義務命令に反して、何ら正当な理由なくなされた原告の本件受
診命令拒否行為が、被告における職場の秩序を乱すものであり、ひいては業務の正
常な運営を阻害するものであることは明らかで、このことをもつてしても優に戒告
処分を相当とするものというべきである。更に原告は、療養に専念し、それが終了
した場合には直ちに勤務に復すべきであるのに、これを怠つて職場交渉に不当な圧
力をかけるべく集団で押しかけて職場の秩序を乱しているものであり、これらの行
為を併せて日本電信電話公社法三三条に基づき戒告処分としているものである。
2 懲戒権者の裁量について
 いうまでもなく、職員をして懲戒事由に相当する行為があつた場合に、懲戒権者
は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響
等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択す
る処分が他の公務員及び社会に与える影響等諸般の事情を考慮し懲戒処分をすべき
かどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定するこ
とができるものと考えられるのであるが、その判断は右のような広範な事情を総合
的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指
揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待す
ることができないものといわなければならない。それ故、公務員につき、国家公務
員法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行
うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべき
である(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決)。
 したがつて、裁量権行使の濫用があるといえる場合は、処分が全く事実上の根拠
に基づかないと認められる場合であるか、若しくは社会観念上著しく妥当を欠いた
もの(最高裁判所昭和三二年五月一〇日第二小法廷判決)、換言すれば、「常識で
判断してあまりにも無茶なことが明らかな場合」(園部逸夫、行政法演習Ⅱ「公務
員関係の性質」一四〇頁)に限られる。
3 本件各行為の違法性について
 ところで本件処分の事由となつた原告の行為のうち、一の1の業務命令拒否につ
いては、何らの正当な理由なくその健康を保持して労務を誠実に提供すべき義務を
懈怠しているばかりでなく、就業規則一六五条、健康管理規程四条、同三一条等に
違反し、しかも原告の翻意を慮つて二度にわたつて発せられた業務命令に対し敢え
て拒否の態度に出たものであつて、企業の秩序を著しく乱したものであり、かつま
た本件受診命令は労働協約にもとづくものであるから、これを拒否することは労使
秩序の根幹をゆるがすものであり、ひいては企業秩序の根幹にかかわる問題として
その違法性には重大なものがあるといわなければならずこれのみをとつても優に戒
告以上の処分に相当するものである。
 また、一の2の職務放棄についても、その背景としての態様は単なる過失による
遅刻、遅参などとは明白に異なり、不当な意図の下に多衆を頼んで団体交渉という
労使秩序、企業秩序の最も基本的なルールを破壊する行為であつて極めて悪質なも
のがあるとともに、その後の原告の対応においても右職務放棄の事実が明白である
にも拘らず、何ら反省の色もみせず、不誠実な態度に終始しており、これまた違法
性の強い行為であると言わざるを得ない。
 因みに、授乳時間であるのにもかかわらず、原告とともに会議室に押入つた訴外
fについては特例的に勤務が免除されている時間を目的外に使用したとして帯広局
長より厳重注意処分がなされている。
4 過去の処分歴について
 原告は昭和五二年九月八日、「健康管理(C管理)下にあり勤務の免除(出張、
宿泊、超勤)を受けながら、昭和五二年六月二三日から昭和五二年七月六日までの
一四日間(勤務日は一〇日間)の訪中団に参加のための年次休暇の申し出があり被
告は当該職員の健康管理上好ましくないと判断し所属課長および庶務課長が参加中
止を再三勧告、説得したにもかかわらず、また、健康管理医の指示を無視し訪中団
に参加し行動した。」として、就業規則、健康管理規程等の違反、健康回復専念義
務違反を理由に帯広局長による厳重口頭注意処分に付されている。
5 本件処分の相当性について
 以上のとおり、本件各非違行為の違法性については大なるものがあるとともに、
右過去の処分歴をも勘案して本件処分をなしたものであるところ、就業規則六〇条
によれば、懲戒処分としては、(1)免職、(2)停職、(3)減給、(4)戒告
の四種類があるところ、本件処分はこれらのうちの最も軽い戒告処分であつて、こ
れをもつて「常識で判断してあまりにも無茶なことが明らかな場合」などと評し得
ないことは明らかで、原告に対する本件懲戒戒告処分は懲戒権者の正当な裁量権の
行使であつたといわなければならない。
(被告の主張に対する認否)
一 被告の主張一の1の(1)のうち、(1)、(2)の事実は認め、(3)
(4)の事実は知らない。ただし、昭和四九年一一月末のり患者は三六名であつ
た。また、被告と道地本との間で被告主張のの労働協約が締結されたことは認め
る。
二 同一の1の(二)の事実は認める。
三 同一の1の(三)のうち(1)、(2)の事実は認めるが、(3)の事実は知
らない。
四 同一の1の(四)の(1)ないし(3)の事実は認める。
五 同一の1の(五)の(1)、(2)の主張は争う。
六 同一の2の(一)の事実は認める。
七 同一の2の(二)の(1)、(2)のうち、昭和五三年一〇月九日午後三時か
ら帯広局において、被告主張の団体交渉が開催されたこと、原告を含む一〇名前後
の女子職員が会議室に入室したこと及びe分会長が原告らを速やかに退室させ、同
室前廊下で原告ら女子職員と話し合いを行つたこと、並びに当日原告が川上整形外
科医院で治療を受けるため午後零時五〇分に離席したことは認めるが、その余は否
認する。
八 同一の2の(三)の主張は争う。
九 同二の1ないし5のうち、4の事実は認めるが、その余の主張はすべて争う。
(原告の反論)
一 本件業務命令拒否について
1 本件業務命令が有効であるか否かを判断するには、次の三点の検討が必要であ
る。
(一) 本件総合精密検診の目的、必要性
(二) 本件総合精密検診の受診を強制(命令)できるか否か。
(三) 強制できるとした場合、医師選択の自由の保障が及ぶか否か。
2 被告は(一)の点につき本症がいまだ医学的に十分究明されていないため、長
期り患者について他に疾病要因が存在することも考えられることから、総合精密検
診を行うことにより疾病要因を追究し、その結果によつて治療及び正して療養の指
導を行い、早期に健康回復を図ることを目的としていると主張する。
 しかし、被告のいう「疾病要因の追究」の意味が不明確である。たしかに、頚骨
腕症候群の発生機序等は医学的に十分解明されていないが、例えば電話交換手であ
つた原告のように上肢を過度に使用する労働者が、作業量、作業環境によつては本
症にり患することがあるのは公知のことであり、国においても労災の認定をしてい
るのである。
 疾病要因の追究が、本症と同様の症状を伴う他の疾病の有無を診断(鑑別診断)
するというのであれば、原告については、それが無いことは労災認定時に証明され
ており、その後の累次の定期健康診断でも確認されているから、その必要はない。
 それ以上に、どのような検査をすれば、どのような疾病要因が判明するかは、被
告も認めているように、本症がいまだ医学的に十分解明されていない以上、何も分
からない筈である。すなわち、総合精密検診とはいうものの、単に「いろいろ検査
してみれば、何か分るかも知れない」という程度の検診なのである。結局、本件検
診は、何ら疾病要因の追究には役立たず、り患者本人の健康回復を直接の目的とし
たものとは認め難く、せいぜい本症の一般的医学的究明のためのデータ集めの意味
しか持たない。
3 本件総合精密検診の意味、目的が右のようなものであるとすれば、り患者に対
しその受診を強制することが許されないのは当然である。
 仮に、本件総合精密検診が疾病要因の追究に役立ちうるとしても、検診項目を告
知しない受診命令は無効である。受診命令は、各種検査の受忍義務の設定であるか
ら、受忍義務の内容をなす検査項目、検査方法を具体的に告知しなければ命令とし
て成立しえない。検診科目を告知しただけでは不十分である。
 被告は、具体的検診項目については、り患者個々の疾状によつて異なるため、当
初よりこれを予想することは困難であると主張するが、一般的に行われている医学
的検査(問診を含め)をする以上、検診科目別に第一次検査、第二次検査というよ
うに順序をつけてでも検査項目、検査方法は事前に告知できる筈である。検診期間
を二週間としているのも、検査項目、検査方法を概括的にせよ予定してのことであ
ろう。検診は治療ではない。り患者個々の症状によつて異なる部分があるとして
も、検査項目を全く告知できないとは考えられない。
 受診命令は、(形式的には各種検査の受忍命令であるという点で、また実質的に
も、り患者の住居地から離れた病院に二週間入院させ(生活態様の中断、変更を来
す。)、またX線照射や血液を採取されるなど肉体的侵しゆうを伴う各種検査を受
けるという点で、り患者にとつては不利益処分たる側面があることを看過すべきで
はない。
 受診命令を受ける者にとつて、検診項目を告知されなければ、何をされるか不安
で、検診を受ける気持になりにくいのは自然である。
4 本件総合精密検診は、前記のように一面、健康診断の実質をもつ。
 労働安全衛生法六六条五項但書に規定する医師選択の自由の保障は、本件のよう
な検診にも当然及ぶと解すべきである。同条項の立法趣旨は、企業内病院のような
事業者の指定する医師による診断は、とかく労働者に不利に、事業者寄りの判定と
なる傾向があるので、これを防止するため労働者が受診義務を負う健康診断の場合
には、事業者に医師の指定を許さないとする原則を宣明したものである。したがつ
て、本件受診命令は札幌逓信病院のみを指定し、原告の医師選択の自由を否定して
いる点でも、無効である。この理は、本件検診の実施が労働協約で定められたとし
ても、それは同法六六条五項但書に違反するから無効である。
 被告は、種々の理由をあげて本件検診を他の総合病院に望むことは不可能である
と主張するが、被告のあげる理由は札幌逓信病院が検診するのに適しており、被告
にとつて好都合であるというに過ぎず、他の病院で実施することが不可能な検診内
容とは考えられない。
5 以上いずれにしても、本件業務命令違反は懲戒事由としては成立しない。
二 職場離脱について
 1 職場離脱についての原告の主張は、前記のとおり、職場離脱の事実はなく、
仮に数分ないし一〇分程度の職場離脱があつたとしても、懲戒処分をもつてのぞむ
程の非難に値する行為ではないというのである。理由を以下に補足する。
2 原告らが当日団体交渉の行われている部屋に入つたのは傍聴のためであつて、
被告のいうように交渉に不当な圧力をかける意図ではなかつた。
3 従来から帯広局においては、団体交渉は組合員に公開され、すべて傍聴が許さ
れる慣行が確立していた。傍聴者の途中の入退室も自由であつた。
4 原告らは当日平穏に入室し、平穏に傍聴しようとしたのであつて、原告を含め
傍聴者は誰も発言していないし、圧力をかける言動もしていない。原告らが交渉室
に居た時間も一分間位である。
5 団体交渉が中断したのは、当事者の組合役能と被告側交渉委員らが、従来の慣
行を無視して、理由なく当日の団体交渉を非公開とし、原告らの退室を迫つたから
である。中断の責任は原告らにはない。
6 原告らが当日の団体交渉を傍聴しようとしたのは、議題が頚骨腕症候群り患者
に対する総合精密検診受診の業務命令についてであつて、特に関心が深い問題であ
つたからである。
7 原告は自分の休憩時間の範囲内(午後三時一五分まで)だけ傍聴し、詳細は後
刻他の傍聴者らに尋ねるつもりでいた。
8 被告が事実無根ないしは取るに足りない職場離脱を懲戒処分事由としたのは、
受診命令違反が瓶戒事由として成立しないことを考慮して、支えとしてつけ加えた
ものである。
第三 証拠(省略)
       理   由
第一 請求原因一項(身分関係)及び二項(本件処分の存在)については、当事者
間に争いがない。
第二 処分事由の存否について
一 頸肩腕症候群長期り患者に対する総合精密検診実施に至る経緯
1 被告の主張一の1の(一)の(1)、(2)の北海道における被告従業員の頸
肩腕症候群の発生状況及びこれに対する被告の対応の模様の各事実については、当
事者間に争いがない。
2 いずれも成立に争いのない甲第五号証、第七号証、第二二号証、乙第六号証、
第七号証の一、二、第一五証ないし三二二号証、第二六号証、第三五号証、原本の
存在及び成立に争いのない乙第一三号証、証人eの証言により真正に成立したと認
められる乙第三四号証並びに証人g及び同eの各証言を総合すると次の各事実が認
められる。すなわち、(一) 右争いのない経過のとおり被告における頸肩腕症候
群のり患者数は減少したが、いまだ治ゆしていないり患者のうち発症後三年以上を
経過しても治ゆしていない者の占める割合が大きく(北海道においては七五パーセ
ントを占める。)、このことは全国的規模で問題となり、全国の健康管理医の研修
会や全国電気通信局保健課長会議などにおいても、これら長期り患者についての対
策の必要性が議論された。北海道においては、昭和五二年の春闘において道地本は
北海道電気通信局長に対し、頸肩腕症候群のり患者の早期回復を図る立場から、本
症の発生原因追究とその解消策、り患者に対する回復のための手だてと企業責任の
あり方についての今後に向けての基本姿勢を具体的に明示するよう要求した。これ
に対し、北海道電気通信局長は、頸肩腕症候群の発生原因等については、関東逓信
病院のプロジエクト・チームをはじめ、関係各方面の専門医等が医学的な検討を重
ねて追究しているところで、いまだ解明されていないけれども、被告は電話交換職
に本症が多発していることを重視し、この根絶を基本に予防策、治療に専念できる
特別措置及び職場環境の改善等については全公社的に対処してきたところである、
今後ともこのような基本姿勢に立つて予防体操の定着化を図るとともに全職員を対
象とした基礎体力づくりを行うこと、健康管理従事者とり患者とのコミユニケーシ
ヨンを深め、早期回復の意欲を更に高めること、長期り患者を対象に入院治療を行
うことなど専門医の意見を徴しながら、被告としてでき得る諸対策について積極的
に取り組む考えである旨の回答をし、団体交渉においてもこれらの対策についての
議論がされた。
 そして、被告は、昭和五三年三月札幌市において北海道内の健康管理医、札幌逓
信病院健康管理科部長、整形外科部長及び精神神経科部長を集めて健康管理医の打
ち合せ会を開催して議論したが、本症の発症原因についていまだ医学的に十分な解
明がされていない現状においてその早期回復を図るためには、単に整形外科のみな
らず、内科、精神神経科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、産婦人科、更には個々の症
状に応じて他の科を含めた人間ドツク的な検診が必要であるとの意見が強く出され
た。また、そのころ行われた被告と道地本との話し合いにおいても、道地本から人
間ドツク的な検診が必要である旨の意見が強く出された。
 このような経緯を反映して、道地本は、昭和五三年七月一九日から二一日まで函
館市で開催される第三〇回定期全道大会に提案する同年の活動方針案に頸肩腕症候
群対策を盛り込み、その中で頸肩腕症候群り患者のうち長期にわたつている者(原
則として三年以上)を対象に総合精密検診を実施し、医学的立場から療養のあり方
を含めて具体的指導を徹底させるとの方針を明らかにし、右の活動方針案を掲載し
た議案集を作成して昭和五三年六月一五日付けの機関紙「全電通北海道」の号外と
して下部機関に配布した。右議案集は同月下旬には帯広局の各職場にも配布され、
各職場での討議を経て分会の意見がまとめられ、更に分会の上部機関である釧路支
部の意見に集約されて定期全道大会に至つたが、その過程において、右の頸肩腕症
候群対策についての方針案に対し、否定的な意見は出なかつた。
(二) 被告(北海道電気通信局長)と道地本は、前記定期全道大会に先立つ昭和
五三年七月一四日の団体交渉において、頸肩腕症候群の長期り患者に対する総合精
密検診を行うものとすることで合意し、頸肩腕症候群長期り患者等の総合精密検診
の実施についてという標題の被告の主張一の1の(一)の(3)掲記の協約を締結
した。
 そして、第三〇回定期全道大会において、前記活動方針案が満場一致で決定され
た(昭和五五年七月一四日右協約が締結されたことは当事者間に争いがない。)。
(三) 道地本は、右協約締結に至る交渉の経緯について、各支部長、各分会長宛
の「頸肩腕症候群(職業病)のとりくみについて」と題する昭和五三年四月一八日
付け文書(全電北第二六号)を配布して、長期療養者(健康管理対象)に対して
は、通信病院の整備拡充(リハビリを中心とした整備が進行中)などを考慮しなが
ら、精密検診を中心として療養のあり方について抜本的な対応をすべく交渉中であ
るので、別途具体策が決まり次第指導することとするので承知されたいとの指示を
していたが、右協約締結の前日である昭和五三年七月一三日釧路支部に対し、前記
の要領で頸肩腕症候群長期り患者の総合精密検診を行うこととなつた旨連絡した。
同支部執行委員長は、右連絡を受け、即日各分会長に伝達し、これを受けた帯広分
会は、昭和五三年七月三一日発行の広報紙「全電通おびひろ」に右の要領で頸肩腕
症候群長期り患者の総合精密検診を行うこととなつた旨の記事を掲載して組合員に
周知させた。
(四) 被告は、右協約に基づき左記の要領により総合精密検診を行うことを決定
し、昭和五三年八月七日北海道電気通信局職員部長名で帯広局長を含む各機関長等
に対しその旨を通達した。
 記
1 目的
 頸肩腕症候群長期り患者等の総合精密検診を行つて疾病要因を追究し、その結果
によつて治療及び正しい療養等の指導を行い、早期健康回復を図る。
2 対象者
(1) 発症後三年を経過している者で、かつ病状の回復が認められない者とす
る。
(2) 前(1)以外で健康管理医が必要と認めたものとする。
3 実施方法
(1) 実施医療機関等
 札幌逓信病院とし、整形外科を中心として関係科の検診を行う。具体的には整形
外科、内科、精神科、皮膚科、眼科及び耳鼻咽喉科とするが、症状に応じて他科の
検診も行う。
(2) 検診期間
 二週間程度とし、入院させて行う。
(3) 実施人員
 一回四名程度とする。
(4) 健康調査の実施
 受検者の問診に代えて調査票(別途作成送付)による健康調査を行う。
 なお、本調査票は、あらかじめ受検者が記入し、受検時に整形外科部長に提出す
ること。
(5) 実施時間
 昭和五三年八月中旬からとする。
4 対象者の選定
 健康管理医が行う。
 以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
二 被告の健康管理体制及び原告の健康管理状況
1 被告が被告の主張一の1の(二)のとおり、職員の健康管理につき、健康管理
規定を設けた上職員の健康診断を行い、検診の結果管理が必要な職員に対して健康
管理指導を行つていること並びに原告が頸肩腕症候群と診断されて被告の健康管理
指導を受ける一方、業務災害の認定を受けたこと、その治療状況が被告の主張一の
1の(三)の(1)、(2)のとおりであることはいずれも当事者間に争いがな
い。
2 そして、前掲甲第七号証、いずれも成立について争いのない甲第一八号証、乙
第八号証の一ないし三、証人g、同a、同e、同hの各証言によると、被告(北海
道電気通信局長)は、昭和五三年九月一二日前記協約に基づく第四回目の総合精密
検診を同年一〇月五日から一八日までの間行うこととし、その対象者を釧路健康管
理所の健康管理医の意見に基づき、帯広局の原告及び訴外iと決定し、同年九月一
四日付け文日付け文書で帯広局長にその旨通知したこと、帯広局においては、これ
に先立ち、同年八月一八日釧路健康管理所から帯広局としては、第一回目の対象者
として原告及び訴外iが選定された旨の電話連絡を受けていたこと、そこでa運用
部長は、同年八月二一日分会に対し、同年一〇月五日から一八日まで札幌逓信病院
で右両名の総合精密検診を行う旨説明し、この説明を受けて分会のc書記長は、同
年八月二一日右両名にその旨通知したことが認められ、右認定に反する証拠はな
い。
三 原告の業務命令不服従
 前掲甲第七号証、証人eの証言により真正に成立したと認められる甲第一一号
証、第二四号証、成立について争いのない乙第一〇号証、証人a、同e、同hの各
証言及び原告本人尋問の結果を総合すると、次の各事実が認められる。
1 原告がc書記長から本件総合精密検診の対象者に選定されたとの連絡を受けて
から、帯広局内において原告を中心とする頸肩腕症候群り患者グループ(以下「り
患者グループ」という。)から、本件総合精密検診に対する疑問が提起され、その
ため昭和五三年八月三一日分会執行部としてe分会長及びc書記長らが出席して約
二〇名のり患者グループと話し合つた。その際、り患者グループから、本件総合精
密検診はその目的が不明確であること、疾病要因が他に転嫁されて業務上災害認定
解除になるおそれがあること、札幌逓信病院は信頼できないことなどが指摘され
た。分会長らは、これに対し本件総合精密検診に関する協約が道地本の段階で締結
されたものであることから、上部機関と協議して回答する旨答えたが、話し合いに
出席したり患者は、その回答があるまでは受診しない旨の意思統一を行つた。
2 その後被告の帯広局a運用部長が原告に総合精密検診を受診するよう指示した
こと、これに対する原告の対応、その後に原告に対し受診方の業務命令が発せられ
たが原告が受診を拒否したこと等は被告の主張一の1の(四)の(1)ないし
(3)のとおりで、この点については当事者間に争いがない。その点を詳説すれば
次のとおりである。
3 分会執行部は、原告が本件総合精密検診の受診を拒否し、業務命令に服従しな
かつたことを重視し、道地本に対して役員の派遣を要請した。道地本は、同年一〇
月一一日から一三日まで執行委員長らを帯広局に派遣し、り患者グループと話し合
いを行つた。り患者グループは、① 本症の発生原因がいまだ不明であるというの
はおかしい、② 総合精密検診の目的が不明確である、③ 札幌逓信病院は信頼で
きない、④ 整形外科以外の科についての総合精密検診の必要性があるか、⑤ 検
診の結果、本人に不利益が生じた場合の対処方法はどうか、⑥ 原因が他に転嫁さ
れるのではないかなどの問題を指摘した。これに対し道地本は、① 本症が職場か
ら発生したことは明らかであり、したがつて、本件総合精密検診を職業病に対する
取組の一環として位置づけているが、症状的に個々の違いがあり、その要因として
多様な原因が考えられるところから「発生原因がいまだ不明」としているものであ
ること、② 総合精密検診の目的は、協約に明らかであるとおり、症病要因を追求
し、その結果によつて治療及び正しい療養の指導を行い、早期健康回復を図ること
にあること、③ 札幌逓信病院は、被告が設置し、その運営をしている病院である
が、医者と患者との立場では正常な医療機関であり、治療において組合員と管理
者、企業内の者と企業外の者とで差別があるとは考えられないこと、④ 従来の治
療体制でも完治し、快方に向つている人も多くいるのに、長期にわたつて症状が軽
快していない者がいるとすれば、本人の不安を除去し、更にはより良い治療方法を
見い出し、効果的な治療を行う必要があるため総合精密検診の必要性があること、
⑤ 検診結果は、これにより本人に不利益れにより本人に不利益ものではないこ
と、⑥ 総合精密検診の目的からすれば、本症が他の病気に転化されることはない
ことなどを内容とする道地本の見解を示してその立場を説明したが、結局り患者グ
ループの納得を得るには至らなかつた。
4 原告は、昭和五三年一〇月二一日b労務厚生課長に対し、自分の選んだ病院で
検診を受けるので具体的な検診項目を教えてほしい旨尋ねた。同課長は、a運用部
長に報告するとともに、北海道電気通信局に照会したところ、総合精密検診に行つ
て医師と対応してみなければ個々の項目はわからない旨の回答を得たので、照会結
果も同部長に報告した。
5 a運用部長は、業務命令に服従しないということが非常に重要なことであるこ
とから、原告に対し再度受診の機会を与えようと考え、昭和五三年一〇月二七日原
告に対し、一一月九日から総合精密検診を受診するよう業務命令を発した。これに
対し、原告が右命令に対する態度を留保したので、同部長は一〇月三〇日までに諾
否の返事をするよう求めた。
 原告は、同年一〇月三〇日り患者グループの代表者訴外jと共に同部長の許に行
き、先ず、検診項目を尋ねたところ、同部長は、先にb労務厚生課長から報告のあ
つたとおり、総合精密検診に行つて医師と対応してみなければ個々の項目はわから
ない旨答えた。これに対し、原告は、同部長に対し、札幌逓信病院は信頼できない
から総合精密検診は受診しない旨述べて前記業務命令に服従することを拒否した。
 以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
四 業務命令の無効の主張について
 原告は、本件総合精密検診の実施場所を札幌逓信病院として発せられた本件業務
命令は労働者に使用者の指定した医師の健康診断を受けることを拒否する権利、す
なわち医師選択の自由を保障した労働安全衛生法六六条五項但書に違反するから無
効であり、また、受診を命じるに当たつて、具体的な検診項目も明示しなかつたか
ら、この点からも右業務命令は無効である旨主張するので以下この点について検討
する。
1 被告と道地本の間で合意された本件総合精密検診実施についての協約がその実
施場所を札幌逓信病院と定めていることは当事者間に争いがないところ、証人gの
証言によると、実施場所を札幌逓信病院と定めた理由は、被告が本件総合精密検診
は検査すべき科目が多いことから、これらの専門家のいる病院であることが必要で
あること、検査をする各専門家の所見を総合して疾病要因の究明を図るとともに今
後の有効な施策が見い出されるような検討態勢が確立できる必要があること、長期
間にわたつてベツドの確保が可能であること、本件の検診が計画的に実施できるこ
となどが要求されるところ、札幌逓信病院は右の各要求に応えられるものであるこ
とに加えて、北海道における被告の職域病院としてのセンター的役割を果している
ものであり、職域病院としての立場から各主治医に対して精密検診に協力を要請し
易いこと、札幌逓信病院の各医師は、職員の健康管理を行つていて日常各健康管理
医との意思の疎通が十分図られるし、検診結果に基づく指導も生かされること、頸
肩腕症候群に関する業務上災害の認定のための検診は札幌逓信病院が行つていて、
本症診療の実情が豊富であることなどから、札幌逓信病院を本件総合精密検診の実
施場所とするのが最良であると考えたほか、道地本からも札幌逓信病院以外にはな
いとの意見が表明されたため、札幌逓信病院に決定されたことが認められる。
2 ところで、労働安全衛生法は、昭和四七年六月七日従来労働基準法の第五章
「安全衛生」の抽象的規定をもとに労働省令に委ねてきたその細目を内容として独
立の法律として公布されたものであるが、その第七章において労働者の健康管理に
ついて規定し、健康診断については、事業者は労働者に対し、労働省令で定めると
ころにより、医師による健康診断を行わなければならないと規定している(六六条
一項)。これを受けて労働安全衛生規則(昭和四七年労働省令第三二号)四三条、
四四条は、事業者は常時使用する労働者を雇い入れるとき(雇い入れ時の健康診
断)及び常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に健康診断(定期
健康診断)を行わなければならない旨定めるほか、その四五条ないし四八条におい
て、労働安全衛生法六六条二項ないし三項の定めに対応する特別の健康診断を行わ
なければならない旨規定している。同法の趣旨が労働基準法と相まつて、労働災害
の防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安
全と健康を確保するとともに、快適な作業環境の形成を促進することを目的として
いること並びに事業者が、病者を就業させると当該労働者の健康が害され、他の労
働者に対する悪影響もあることを考慮して、右各健康診断の結果により、労働者の
健康を保持するため必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して就業
場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずるほか、作業環境測定の
実施、施設又は設備の設置又は整備その他の適切な措置を講じなければならないと
し(同法六六条七項)、更には伝染病等の疾病にかかつた労働者については、その
就業を禁止しなければならないこととしている(同法六八条、同規則六一条)こと
を考えると、同法が右の各健康診断の義務を定めたのは、労働者の職種、業務内
容、就労場所、労働時間等の労働条件を定めるに当たつては、当該労働者の健康保
持の必要も考慮してこれを定める必要があることから、その前提となる身体的条件
についての判断を医師の立場からの専門的所見に委ねることにより労働者を保護し
ようとする趣旨であると解するのが相当である。
 そして、同法は、右の事業者の健康診断を行う義務に対応して、労働者に対して
もこれに協力すべき義務を負わせることとし、六六条五項において、労働者は事業
者が行う右各健康診断を受けなければならない旨定めているのであるが、労働者に
対し常に事業者の指定する医師による健康診断を受けなければならないものとする
ときは、事業者に指定された医師が事業者の意を受けて恣意をもつて診断をする虞
がないとはいえないから、このような場合にまで当該医師の行う健康診断を受ける
義務があるとすると労働者の被る不利益が大きく、その保護に欠けることとなるの
で、同項但書は、労働者が事業者の指定した医師の行う健康診断を受けることを希
望しない場合には、他の医師の行う右健康診断に相当する健康診断を受け、その結
果を証明する書面を事業者に提出したときに限りその義務を免れることができると
しているのである。
 以上のように労働安全衛生法は、必ずしも事業者の指定した医師によることを必
要としないが、労働者に同法に定める健康診断に応ずべき義務を原則として課して
いるのである。
3 本件総合精密検診は、前認定のとおり疾病要因を追究し、その結果によつて治
療及び正しい療養の指導を行い、早期健康回復を図ることを目的として労使間の協
約に基づいて実施されるものであるから労働安全衛生法六六条一項ないし四項所定
の健康診断とはその目的を異にするものと解される。したがつて、同法の条項を根
拠にして原告に受診の義務を認めることはできない。
 しかし、頸肩腕症候群対策、り患者対策として被告の講じた措置が万全であつた
かどうかはともかく、前記のとおり被告としては一応の措置を講じ、その結果り患
者数の減少をみているし、長期り患者である原告に対しても、長期にわたつて労働
軽減等の措置を講じていることも当事者間に争いのないところであつて(その詳細
は被告の主張一の1の(一)の(1)、(2)及び一の1の(三)の(1)、
(2)のとおりである。)、これらの事情を考慮すると、被告が疾病要因を追求
し、その結果によつて治療及び正しい療養の指導を行い、早期健康回復を図ること
を目的として、本件の総合精密検診を実施するについて、原告において特に加重な
負担を伴うものでない限り、これに協力すべき信義則上の義務があると認めて不当
とも考えられない。しかるところ本件総合精密検診の実施については、労使間の協
約が存することは前記のとおりであつて、本件総合精密検診の実施が右労働協約の
実行たる側面をも有することは明白であるところ、右協約締結に至る前認定の経緯
のほか、原告が長期にわたつて受けた労務軽減等の措置の内容等に照らすと、二週
間にわたり札幌逓信病院に入院して受診すべきことをもつて直ちに原告に加重な負
担を強いるものということはできない。
 なお、原告は、本件総合精密検診の目的は専ら頸肩腕症候群と同様の症状を呈す
る他の症病の有無を判断する鑑別診断を行うことにあると主張するが、そもそも業
務災害の認定を受け、各種の補償を受けている場合に、鑑別診断を行うことは本来
許されていることであつて、そうだとすると被告が検診結果をそのような目的に使
用しないと明言しているのであるから、本件総合精密検診が原告主張の鑑別診断の
実質を有するものということはできないと認めて相当である。
 以上の点からすると、札幌逓信病院を実施場所とする総合精密検診は相当の合理
性があり、かつ労働協約の実行たる面も存するので、それが原告に加重な負担を強
いるものでない限り、原告においてこれに応ずべき義務を認めても不当ではない。
4 しかるに、被告が原告に対し、本件総合精密検診の具体的検診項目を明示しな
かつたことは被告において自認するところ、被告は、本件総合精密検診の目的から
考えると、個々の専門分野における具体的検診項目は、り患者個々の症状によつて
異なるから、当初からこれを予想するのは困難で、り患者の症状に応じて医師の判
断に委ねられるべきであつて、検診科名のみでなく、より具体的な検診項目を告知
することは被告に不可能を強いるものである旨主張する。
 しかし、具体的な検診項目は個々のり患者の症状に応じ、医師の判断に委ねられ
るのが相当といい得るとしても、被告の右主張は、にわかにこれを首肯できない。
すなわち、原本の存在及び成立について争いのない乙第四号証によると、被告の頸
肩腕症候群プロジエクト・チームは、り患者について筋電図検査、血液検査、尿検
査、脳波検査、レントゲン検査、その他の各種検査を駆使して、病態生理を中心と
して専門医学的究明を試み、その結果を昭和五一年四月一五日に被告に報告してい
ることが認められるのであつて、このことのみからしても、少くとも標準的な検診
項目は被告において充分認識していたものと推認できる。のみならず、原告が対象
者として選ばれた本件総合精密検診は、前認定のとおり、実施要領に基づいて実施
される第四回目の検診であつて、右要領によれば一回四名程度の検診を行うことと
されているから、原告より以前に約一〇名程度が受診しているものと推認され、検
診の実績もないわけではないのであるから、検診科名のみではなく具体的な検診項
目を告知することが被告に不可能を強いるものであるとの被告主張は首肯し難いも
のといわなければならない。このことは成立に争いのない乙第三七号証により認め
られる次の事実、すなわち、昭和五五年八月八日に成立した全電通労組(中央)と
被告との協約においては、具体的検診項目はり患者の症状等に応じて専門医が判断
するものであり、画一的に定められるものではないとしながら、標準的に考えられ
る検診項目を整形外科、内科、神経科、眼科、耳鼻咽喉科、その他の科の検診区分
に分けた上、合計一八にわたる検診項目を掲げていることからも窺うことができる
のである。
そして、本件総合精密検診は、全国に先きがけて北海道において実施されるもので
あり、しかもその初期の段階のものであつて、帯広局においては初めてその対象者
に選ばれたというものであるから、原告においても本件総合精密検診の実施に至る
経緯については、これを予知していたとは認められるものの、現に自分がその対象
者になつてみれば、二週間も入院して具体的にどのような検診・検査を行うのかが
判らないというのでは、危惧・不安の念を抱くのは当然である。したがつて、本件
総合精密検診がレントゲン線照射や採血などの肉体的侵しゆう、苦痛を伴うもので
あることが抽象的、一般的には判つていたのであるから、本件検診に協力すべき義
務が信義則上認められるものであるにすぎない以上、抽象的、一般的ではあるにせ
よ、当時判つていた範囲内でこれら肉体的侵しゆう、苦痛を伴うものであることを
告知あるいは説明するのでなければ、業務命令としてその受診を命じ、これを強制
することはできないといわなければならない。
 これを本件についてみるに、被告が原告に対して業務命令として本件総合精密検
診の受診を命じるに当たり、検診項目を告知しなかつたことは被告の自認するとこ
ろであるが、被告としては、本件検診が全国でも最初の試みであることに思いを致
し、原告の不安や危惧を解消して検診が円滑に実施されるよう努力すべきであつた
と考えられる。ところが、被告は、具体的検診項目については、抽象的、一般的に
考えられるものについてさえ告知せず、しかも、二回目の業務命令を発する前に
は、原告から現実に検診項目を教えて欲しい旨の要求があつたのに、これに応じな
いまま業務命令を発したものである。
 本件総合精密検診は前記のとおりり患者の早期健康回復を図ることを目的とする
ものであるから、この検診についても医師選択の自由が存するとの原告の主張につ
いては、当裁判所は疑問なしとしないのであるが、その点はともかく、右のように
被告において原告の要求にもかかわらず、検診項目を明らかにしなかつた一事をも
つて、その受診を命じる本件業務命令は無効と断じざるを得ない。
5 以上のとおり、本件業務命令は無効であるから、これに従わなかつた原告の行
為を理由として、原告を懲戒処分に付することはできない。
三 原告の職務放棄
 前掲甲第七号証、成立について争いのない乙第二八号証の一、二、証人eの実言
により真正に成立したと認められる甲第一〇号証、証人aの証言により真正に成立
したと認められる乙第一一号証の一ないし五、証人a及び同eの各証言によると、
帯広分会は、昭和五三年一〇月三日原告に対して本件業務命令が発せられたことに
ついて対応策を検討したが、本件総合精密検診は労使の協約に基づいて実施される
ものであるから、これの受診を命ずる業務命令の撤回を求めることは組合の立場と
は相容れないものであるため、同日釧路支部に対して状況を報告するとともに対応
策についての指示を求め、その指示に基づきa運用部長に対し業務命令発出の根拠
を質したところ、同部長は地方交渉で労使が合意した協約を履行するためのもので
ある旨答えたこと、分会は、同日夜分会委員会を開催中であつたところから急遽こ
の問題について討議し、最終的には執行部にその対応を一任することになり、委員
会終了後執行部担当者が原告に架電して業務命令に従うよう説得したが、原告は検
診には疑問があり、職場からの疑問点が解明されていない等の理由を挙げて受診を
拒否する旨答えたこと、分会執行部は、同年一〇月六日本件総合精密検診が労使確
認事項であるという立場に立ちつつも、業務命令発出という形にまで発展したこと
を重視してその究明を図るべく、被告に対し同年一〇月九日に団体交渉を開催する
よう申し入れるとともに以上の経過を「全電通おびひろ」に掲載して同年一〇月六
日組合員に配布したこと、分会が要求した団体交渉は同年一〇月九日午後三時から
帯広局局舎三階の会議室で開催されることになつたが、分会執行部は、運用部を中
心とする職場から公開による団体交渉とするよう要求があつたので当日午前中被告
と交渉したが被告がこれを拒否したため、当日の団体交渉は非公開で行う旨運用部
のk分会委員を通じてり患者グループに伝えたこと、団体交渉は、午後三時から三
階の会議室で開かれ、被告側から局次長及びa運用部長ほか三名が、分会側からe
分会長ほか八名がそれぞれ交渉委員として出席したこと、団体交渉の席上被告が原
告に対する業務命令発出についての説明をしていたところ、午後三時一五分ころ原
告ら一二名の女子職員が団体交渉を傍聴するため会議室に入つて来てそのうち何人
かは奥に置いてあつた椅子を持ち出して座ろうとしたこと、被告の交渉委員である
b労務厚生課長が分会側交渉委員に抗議したところ、e分会長らが立ち上り非公開
の団体交渉であるから室外へ退去するよう指示したこと、しかし、女子職員の中か
ら公開すべきである旨の発言等があり室内は騒然としたこと、e分会長はとつさに
公開、非公開の判断ができなかつたことから、室外で話をしようと考えて原告らと
室外へ出てl執行委員とともに原告らと話し合つたが、団体交渉は公開が原則か非
公開が原則かの問題となつたため、いつたん会議室に戻つて協約集を持参して再び
廊下に出て協約の趣旨について説明をしたこと、e分会長は、いつたん会議室へ戻
つた際、c書記長に対し休憩を取るよう指示したこと、c書記長は、被告の説明が
終了した午後三時二〇分被告に休憩を取るよう申し入れ、交渉が中断したこと、e
分会長は、公開か非公開かの問答が長引きそうな状況にあつたことから、たまたま
釧路支部の副委員長と副調交部長が局舎一階の分会書記局に居合わせたので、書記
局まで行つて右二名に応援を求め、右二名とともに会議室前廊下に戻つたこと、そ
こで釧路支部副委員長及び副調交部長から直ちに自席に戻るように指導がされたが
原告らはこれに応ぜず、更に長引く状況であつたことから、e分会長はこれら女子
職員の服務の取扱いが心配となつて原告らに服務の関係を尋ねたところ、女子職員
の中から年休で来たとの発言もあつたが、原告はその場を離れ二階の自席に戻つて
行つたこと、原告が自席に戻り職務に服したのは午後三時二五分であつたことの各
事実が認められる(原告が昭和五三年一〇月九日被告と分会との間の総合精密検診
についての業務命令発出の問題についての団体交渉が行われていた会議室に他の女
子職員とともに入室したこと、原告がe分会長から他の女子職員とともに室外に出
されたため、同室前廊下で分会長と話し合つた後自席に戻り職務に復帰したこと
は、いずれも当事者間に争いがない。)。
 ところで、原告が会議室へ入室した時刻について、原告本人は午後三時一〇分近
くであつたと供述し、証人hも午後三時七分か八分であつた旨原告本人の供述に副
う証言をするほか、証人eは午後三時一三分であつた旨証言しており、又、原告本
人は自席に戻つて職務に復したのは午後三時一五分か一六分であつた旨供述する。
 しかし、証人aは、当日被告の交渉委員として団体交渉に出席していた者である
が、原告らが会議室に入つて来たとき壁にかかつている時計を見たところ三時一五
分であつた旨証言するところ、右証言は前掲乙一一号証の一ないし五の同証人を含
む被告側交渉委員五名作成の各現認書の記載と一致してこれに裏付けられており、
これに信を措くことができると考えられる反面、原告本人の供述は「三時一〇分近
かつたと思います。」というものであいまいで、又証人hの右証言も同証人の証言
によると時計で確認したものではないと認められる。
 次に、前掲乙第二八号の一及び証人aの証言によると、原告の上司である第二運
用課長は原告が自席に戻つて職務に復した時刻を午後三時二五分であると確認した
ことが認められるところ、証人eは原告らが会議室に入つて来てから廊下に出るま
で約三分三分位経つており、廊下に出てから原告がその場を離れて自席の方へ戻つ
て行くまで六分ないし七分間経つていた旨証言している。前記のごとき団体交渉が
中止された後の経過からすると、この証言は首肯できるところである。そうする
と、原告が自席に戻つたのは午後三時二五分ころと優に認め得るところであつて、
この認定に反する原告本人尋問の結果等はいずれも措信できない。
 そして、原告が当日午後三時から三時一五分までの間休憩時間を付与されていた
ことは当事者間に争いがないから、原告は、昭和五三年一〇月九日午後三時一五分
休憩時間満了と同時に自席に戻つて職務に復さなければならないのに、午後三時二
五分になつて自席に戻り職務に復したものであつて、その間一〇分間にわたり職場
を離脱して職務を放棄したものであるというべきである。
六 処分事由に該当することについて
1 日本電信電話公社法三三条一項は
 総裁は、職員が左の各号の一に該当するときは、これに対し、懲戒処分として免
職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一 この法律又は公社が定める業務上の規定に違反したとき。
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つたとき。
と規定し、更に成立について争いのない乙第一号証によると就業規則は五条一項に
おいて「職員は、みだりに欠勤し、遅刻し、もしくは早退し、または直属上長の承
認を受けないで、執務場所を離れ、勤務時間を変更し、もしくは職務を交換しては
ならない。」と規定し、五九条は「職員は、次の各号の一に該当する場合は、別に
定めるところにより、懲戒されることがある。」と定め、その一八号において「五
条の規定に違反したとき。」とそれぞれ規定しているほか、六〇条において懲戒処
分の種類を免職、停職、減給、戒告と定め、戒告は、文書をもつて責任を確認し、
将来を戒められるものである旨規定している(六三条)ことが認められる。
2 そして、原告が職務を放棄した行為は、就業規則五九条一八号、五条一項に該
当することが明白である。
第三 本件処分が無効であるとの主張について
一 日本電信電話公社法違反
 原告が昭和五四年四月一日実施された定期昇給において、前年度の勤務期間中に
戒告処分を受けたことがある職員の定期昇給は四分の一の割合に相当する額だけ昇
給標準額を減じて行われる旨を定めた就業規則七六条四項三号の規定により、昇給
標準額三五〇〇円の四分の一に相当する八七五円を減額されたことは当事者間に争
いがない。原告は、右の昇給標準額の減額は、減給処分と同一の実質を有するもの
であるところ、右減額の効果は原告が被告の従業員としての地位にある間継続する
ものであるから、右昇給標準額の減額を伴う本件処分は、減給処分は一月以上一年
以下の間俸給の一〇分の一以下を減ずる旨規定した日本電信電話公社法三三条四項
に違反する旨主張するのであるが、同法三三条は被告にその職員を懲戒処分に付す
る権利を付与しているのであるから、当該職員につき懲戒処分に付されるべき事由
が存し、かつ、その懲戒処分が適法な手続で行われている以上、その懲戒処分が無
効となることはないというべきであつて、このことは就業規則上懲戒処分に付され
た者に対して一定の不利益な取り扱いをすることになつている場合でも何ら異なる
ところはなく、このような場合においては、その不利益取り扱いの是非を争うべき
筋合いであつて、懲戒処分自体の無効を主張することは許されないと解するのが相
当である。原告の主張は理由がない。
二 懲戒権の濫用
1 日本電信電話公社法三三条は、職員に懲戒に付すべき事由(処分事由)がある
ときは職員に対し懲戒処分を行うことができる旨規定しているが、懲戒権者が懲戒
処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするとしていかなる処分を選択すべきか
を決するかについては何ら具体的に定めていない。したがつて懲戒権者は、処分事
由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、
当該職員の右行為の前後における態度、処分歴、選択する処分の軽重等諸般の事情
を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、懲戒処分をするとしていかなる処分を選
択すべきかを決定することができると考えられるが、その判断は、右のような広範
な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から職場の事情に通暁し、
部下職員の指導監督の任に当たる者の裁量に委ねるのでなければ、とうてい適切な
結果を期待することができないものといわなければならない。したがつて、被告の
職員につき、同法に定められた懲戒に付すべき事由がある場合に、懲戒処分を行う
かどうか、懲戒処分を行うとしていかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任さ
れているものと解すべきである。もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得な
いものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処
分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これ
を濫用したと認められる場合でない限り、その裁量の範囲内にあるものとして、違
法とならないものというべきである。
2 これを本件についてみるに、本件処分の理由となる原告の非違行為は、前記認
定のとおり一〇分間にわたり職場を離脱して職務を放棄したというものであるが、
その態様は他の女子職員とともに団体交渉を傍聴するため、団体交渉開催中の会議
室に立ち入り、一部の者においてその公開を要求して室内を騒然とさせ、更に、同
室前において分会長らと公開、非公開をめぐり問答をしていたため、一〇分間にわ
たり職場を離脱したというものである。被告は、原告らの行為は、団体交渉に不当
な圧力をかける意図のもとに、右会議室に入り、団体交渉を中断させたのみなら
ず、再開不能に至らしめたものであり、まさに業務の正常な運営を阻害する行為と
も評価し得るものである旨主張する。しかし、原告らに団体交渉に不当な圧力をか
ける意図があつたと認めるに足りる証拠はなく、団体交渉が中断し、再開されなか
つたのも帯広分会側が休憩を申し入れたことによると認められるのである。もつと
も、右休憩申入れの原因が分会側の原告ら女子職員との対応の必要からであつたこ
とは、前記認定事実から明白であるが、原告が会議室内で団体交渉の公開を要求し
て室内を騒然とさせたとは認められず、一部の者が公開を要求する発言をしたの
も、原告も含めて全員が予め意を通じてしたものではなく、被告の交渉委員である
b労務厚生課長の抗議によりe分会長が室外へ退去するよう指示したことから、い
わば偶発的に起つたものと認めるのが相当であるから、団体交渉の中断、再開不能
の責任を原告に問うことはできない。原告の職務放棄の態様は、右のように不当、
不法な行為に及んだというものではなく、原告は、その六日前に第一回目の業務命
令を受けてその翌日にこれを拒否したものであるが、右団体交渉は、業務命令発出
の問題をめぐつて最初に開催される団体交渉で、しかもこの業務命令に対する原告
の疑問も相当の根拠があつたといえるので業務命令を拒否した当の本人である原告
がこれに関心をも持ち、これを傍聴したいと考えるのは極めて当然で、このことは
原告のために酌むべき事情として考慮しなければならないと考える。そして、証人
aの証言によると、原告とともに会議室へ立ち入つた女子職員のうち、午後三時一
五分から午後四時まで授乳のため勤務を免除されていた訴外fに対しては、特例的
勤務免除の時間を目的外に使用したことにより帯広局長から口頭による厳重注意の
処分をしているに過ぎないと認められること、前説示のとおり、本件処分のもう一
つの理由とされた業務命令拒否の行為については、これを処分の理由とすることは
許されないことなどをも併せて考慮すると、当事者間に争いのない原告の過去の処
分歴(昭和五二年九月八日、帯広局長による厳重口頭注意。)を考慮に容れても、
原告が昭和五四年四月一日の定期昇給において昇給標準額三五〇〇円の四分の一に
相当する八七五円を減額されるとの効果を伴う本件処分は、社会観念上著しく妥当
を欠いたものといわざるを得ず、懲戒権を濫用したものとして、違法たるを免れな
い。本件処分は、無効というべきである。
第四 以上のとおりであるから、本件処分の無効確認を求める原告の本訴請求は理
由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を
適用して主文のとおり判決する。

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