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平成19年11月21日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(ワ)第22533号契約金返還等本訴請求事件
平成19年(ワ)第4215号契約金返還等反訴請求事件
口頭弁論終結日平成19年9月14日
判決
東京都新宿区〈以下略〉
本訴原告(反訴被告)甲
同訴訟代理人弁護士西尾則雄
京都市〈以下略〉
本訴被告(反訴原告)乙
主文
1本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対して,金2
00万円及びこれに対する平成18年9月1日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
2本訴被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,本訴反訴を通じ,これを本訴被告(反訴原告)の負
担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1本訴
主文第1項と同旨
2反訴
本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)に対し,金615万円及び
これに対する平成18年10月12日から支払済みまで年6分の割合による金
員を支払え。
第2事案の概要
本件本訴は,本訴被告(反訴原告,以下「被告」という。)のした発明につ
いて特許を受ける権利の譲渡を受けた本訴原告(反訴被告,以下「原告」とい
う。)が,後日,当該発明には新規性がなく,特許を受けることができないこ
とが判明したことから,原告と被告との間で,原告が上記譲渡の対価として被
告に支払った200万円の返還の合意をしたと主張して,同合意に基づき,被
告に対して200万円(及び遅延損害金として,弁済期の翌日又は弁済期の経
過後である平成18年9月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による
金員)を請求している事案であり,これに対して,被告が,上記合意は原告の
強迫によりしたものであるから,同合意を取り消す旨の意思表示をしたと主張
している。
本件反訴は,被告が,原告に対し,①原告との間で締結したコンサルタント
契約に基づき,未払コンサルタント料300万円,②被告が原告から既に受領
したコンサルタント料の一部を,後日,原告に返還したが,同返還は原告の強
迫によるものとして,上記の返還したコンサルタント料15万円,及び③上記
の特許を受ける権利を譲渡した対価のうちの未払分300万円(並びに遅延損
害金として,平成18年10月12日から支払済みまで商事法定利率年6分の
割合の金員)を請求している(③の請求は,第6回弁論準備手続期日に追加さ
れたものである。以下,この訴えの追加的変更を「本件反訴訴えの変更」とい
う。)事案であり,これに対し,原告は,本件反訴訴えの変更は,著しく訴訟
手続を遅滞させることになるから許されない旨異議を述べるとともに,被告の
反訴請求をいずれも争っている。
1争いのない事実等(証拠により認定した事実は,当該証拠番号を末尾に摘示
する。)
()被告は,アルミニウム陽極酸化処理に関する技術である「Mライト」1
(以下「被告技術」という。)の研究に従事し,被告技術について多数の特
許出願をしており,第三者との間で,当該特許権について実施許諾契約を締
結したり,被告技術の提供に関する契約を締結するなどして収入を得ている
(甲2,乙17,19,弁論の全趣旨)。
()原告は,平成16年7月ころ,丙(以下「丙」という。)の紹介により,2
被告と知り合った(なお,原告は,「丁」に代えて,「戊」という名も用い
ることがある。)。
原告は,平成16年11月13日,被告との間で,被告の特許出願中の発
明(出願番号2004−82391,以下「391発明」という。)の応用
技術である発明についての特許を受ける権利を譲り受けることなどを内容と
する契約(以下「本件譲渡契約」といい,本件譲渡契約の対象となった発明
を「本件発明」という。)を締結して(甲6,乙24),同日,被告に対し,
上記代金として200万円を交付した(本件譲渡契約の代金額については争
いがある。)。
その後,平成17年2月,原告は,被告技術を利用して事業を行うための
会社として,株式会社ザ・グルメ(以下「グルメ」という。)を設立し,さ
らに,同年5月ころ,原告又はグルメは,被告との間で,原告又はグルメが
被告に対して,毎月20万円の支払をすること等を内容とする契約(以下
「本件コンサルタント契約」という。)を,口頭により締結し,同契約に基
づき,被告に対して,同年6月1日及び同月30日に,それぞれ20万円が
支払われた(乙16。なお,本件コンサルタント契約の当事者が原告である
か,又はグルメであるかの点,及び本件契約の具体的な内容については争い
がある。)。
原告は,平成18年4月24日,被告及び丙との間で,本件譲渡契約に基
づき原告が被告に交付した200万円を,被告及び丙が,連帯して,原告に
対し,同年5月から8月まで分割して,返還する旨の合意(以下「本件返還
合意」という。甲1)をし,その際,被告は,本件返還合意の内容を記載し
た「弁済予定」と題する書面(甲1,以下「本件返還合意書」という。)に
署名をしたが,上記金員の支払はされていない。
被告は,本件コンサルタント契約に基づいて原告から受領した金銭の返還
として,平成18年6月1日に10万円,同月13日に5万円を,それぞれ
原告に交付した。
()本件特許出願の出願経過3
本件発明について,平成16年11月17日,発明者を,原告,丙及び被
告とし,出願人を原告及び丙とする特許出願がされた(特願2004−33
3780。以下「本件特許出願」という。)が,平成18年11月7日,拒
絶理由通知が発送され,平成19年3月12日,拒絶査定がされ,その後,
同拒絶査定が確定した(甲4,5の2,7,弁論の全趣旨)。
2争点
()本訴について1
本件返還合意を強迫を理由に取り消すことができるか
()反訴について2
ア本件コンサルタント契約に基づく未払コンサルタント料の請求の可否
イ被告が,原告に対して,平成18年6月1日及び同月13日に支払った
金員の返還請求の可否
ウ本件反訴訴えの変更の可否
エ本件譲渡契約に基づく未払譲渡代金の請求の可否
3当事者の主張
()争点()(本件返還合意を強迫を理由に取り消すことができるか)につい11

(被告)
本件返還合意の意思表示は,原告の強迫によりしたものであり,被告は,
平成19年4月12日の第2回弁論準備手続期日において,本件返還合意を
取り消す旨の意思表示をした。
すなわち,被告は,平成18年4月24日午後6時30分ころ,東京駅地
下の飲食店「オレンジロード」において,丙と食事をしていたところ,原告
が来店し,同店内で,被告及び丙に対し,怒った口調で,本件譲渡契約に基
づいて原告が被告に支払った200万円の返還の要求をし,被告らを強迫し
た。その際,丙から,店の外に,原告が連れてきた暴力団風の男が10人く
らい集まっていると聞かされた。このような状況で,丙において,本件返還
合意書を作成し,被告に対して,署名をするよう求めたので,被告は,本件
返還合意書に署名をしたのである。
(原告)
被告の主張は争う。
原告は,被告との間で,本件譲渡契約を締結して,同契約に基づき,被告
に対して200万円を交付したが,その後,原告の事業に関して協力を得て
いる三井物産株式会社(以下「三井物産」という。)から,本件発明は新規
性が欠如しており,特許を受けることはできない旨の報告を受けたので,平
成18年4月24日に,上記オレンジロードにおいて,被告にそのことを問
い質したところ,被告は,これを認めた上で,上記200万円を原告に返還
する旨合意したのである。
()争点()ア(本件コンサルタント契約に基づく未払コンサルタント料の請22
求の可否)について
(被告)
ア被告は,平成17年5月ころ,原告との間で,本件コンサルタント契約
を締結したが,本件コンサルタント契約の内容は,被告が,原告に対し,
技術指導,技術説明,資料収集,資料提供をして,原告の製品開発等に協
力し,その対価として,原告から,毎月20万円の支払を受けるというも
のである。
被告は,原告から,本件コンサルタント契約に基づき,平成17年5月
分及び同年6月分のコンサルタント料として,合計40万円の支払を受け
たが,その後,原告が,本件コンサルタント契約を解除した平成18年1
0月の前月分まで15か月分のコンサルタント料の支払を受けていない。
なお,被告は,本件コンサルタント契約期間中は,原告から技術の質問を
受けた時はいつでも答えられるように,日頃から資料を収集し,自ら技術
を磨いて勉強をし,また,マレーシアまで行って技術説明をしたりした。
イ原告は,本件コンサルタント契約の当事者は,原告ではなく,グルメで
あると主張するが,この主張は,原告が個人としての支払義務の追及を逃
れるためにしているのであって,真実は,原告が本件コンサルタント契約
の当事者である。本件コンサルタント契約の平成17年6月分のコンサル
タント料は,原告個人名義で入金され,また,原告がコンサルタント料の
返金を強制した際に指定した口座は,原告個人名義である。
ウしたがって,被告は,原告に対して,本件コンサルタント契約に基づき,
平成17年7月分から平成18年9月分までの15か月分のコンサルタン
ト料の合計300万円とこれに対する弁済期の経過した後である平成18
年10月12日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損
害金の支払を請求する。
(原告)
ア原告は,平成17年5月ころ,被告から,金の無心を受け,被膜を施し
た調理器の実用に向けての勧誘もあったので,やむなく,グルメにおいて,
被告に資金援助をすることにし,その名目として,本件コンサルタント契
約を締結した。本件コンサルタント契約の内容は,単に,グルメが,被告
に毎月20万円の資金援助をするというもので,被告が,グルメに対し,
技術提供等のコンサルタント業務を提供することは,その内容となってい
ない。
ところが,その後,グルメが,被告が発明したと称する被膜を施したフ
ライパンを顧客に販売したところ,ことごとく顧客からクレームを受ける
事態となり,その販売代金を返金することになった。また,平成17年8
月26日,被告とH精機製造株式会社(以下「H精機製造」という。)と
の間で,被告が,H精機製造に対し,被告の特許の実施許諾をすることな
どを内容とする契約が成立し,同契約に基づき,H精機製造から支払を受
けた1000万円について,原告,被告が会長を務める株式会社Mライト
研究所の代表者であったA(以下「A」という。)及び被告間で分けると
いう事前の合意があったにも関わらず,被告は,上記代金受領直後に,原
告との今後の交流を拒んだ。そこで,原告は,同年7月以降,コンサルタ
ント料名目で支払っていた資金援助を止めた。
イしたがって,本件コンサルタント契約は,実体は,グルメから被告への
資金援助のためのものである。
仮に,原告が,本件コンサルタント契約に基づき,被告に対しコンサル
タント料の支払義務を負っていたとしても,本件コンサルタント契約は,
被告が未払金を請求しないことを含めて,明示又は黙示の合意により解約
されたものである。また,被告は,本件コンサルタント契約に基づき,コ
ンサルタント業務を行っていないから,コンサルタント料の支払請求権も
発生しない。
()争点()イ(被告が,原告に対して,平成18年6月1日及び同月1332
日に支払った金員の返還請求の可否)について
(被告)
被告は,本件コンサルタント契約に基づき,原告から受領したコンサルタ
ント料のうち,10万円を平成18年6月1日に,5万円を同月13日に,
それぞれ返還したが,これは返還する必要がないのに,原告から強迫された
ために返還を合意して支払ったのであるから,不当利得に基づく返還請求又
は不法行為に基づく損害賠償請求として,上記合計15万円の返還とこれに
対する弁済期の経過した後である平成18年10月12日から支払済みまで
商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求する(上記主張の
一部は,当裁判所が善解したところによる。)。
(原告)
争う。
()争点()ウ(本件反訴訴えの変更の可否)について42
(原告)
本件反訴訴えの変更の申立ては,著しく訴訟手続を遅滞させることになる
訴えの変更であるから許されない。
(被告)
争う。
()争点()エ(本件譲渡契約に基づく未払譲渡代金の請求の可否)について52
(被告)
本件譲渡契約の譲渡代金は500万円であるが,被告は,原告から,上記
代金として200万円しか受領していないので,被告は,原告に対して,残
金300万円及びこれに対する弁済期の経過した後である平成18年10月
12日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払
を請求をする。
(原告)
争う。
また,本件発明は,特許を受けることはできないものであったのに,被告
は,本件発明が特許を受けることができるものと原告を欺罔して,本件譲渡
契約を締結させた。原告は,平成19年9月14日の第6回弁論準備手続期
日において,詐欺を理由に,本件譲渡契約を取り消す旨の意思表示をした。
第3当裁判所の判断
1事実認定
前記争いのない事実等,証拠(甲1ないし4,5の1及び2,6ないし18,
乙1ないし4,16ないし20,24)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の
各事実が認められ,これを覆すに足る証拠はない。
()被告は,被告技術の研究に従事し,被告技術について多数の特許出願を1
しているが,2件を除いて特許査定を受けておらず(拒絶査定が確定したも
の,審査請求をせずに審査請求期間が徒過したものがある。),特許査定を
受けた2件も,特許料を納付しなかったため,その特許権は既に消滅してい
る。
なお,本件譲渡契約の対象となった本件発明については,原告及び丙が,
出願人となって本件特許出願をしたが,平成18年11月7日,拒絶理由通
知が発送され,平成19年3月12日,拒絶査定がされ,その後,同拒絶査
定が確定した。
()原告は,平成16年7月ころ,丙の紹介により,被告と知り合い,被告2
から,被告技術についての説明や,被告が多数の特許権を有し,また,多数
の特許出願をしていることを聞き,さらに,当時被告が特許出願(特願20
04−82391。以下「391出願」という。)をしていた391発明及
びその応用技術である本件発明が,その事業化によって多額の収益が見込ま
れる有望な発明であるとの説明を受けたため,上記の各発明を利用して事業
ができ,これにより多額の収益を得ることができるものと考えるようになり,
平成16年11月13日,被告との間で,本件発明についての特許を受ける
権利を,代金500万円で譲り受けることを内容とする本件譲渡契約を締結
し,同日,上記代金の一部である200万円を被告に支払った。
その後,原告は,平成17年2月,被告技術を利用して事業を行うための
会社として,グルメを設立してその代表者に就任し,さらに,同年5月ころ,
原告と被告との間で,被告が,原告に対して,被告技術についての技術指導
や,グルメの製品開発についての協力をし,その対価として,原告が,被告
に対し,毎月20万円のコンサルタント料を支払うという内容の本件コンサ
ルタント契約が締結された。ただし,本件コンサルタント契約締結において
は,契約書は作成されず,また,契約当事者も,原告のみならずグルメも含
まれるか否かが曖昧なままであり,さらに,コンサルタント料の支払時期や
被告が提供すべき業務の具体的な内容についても,明確な取り決めはなされ
なかった。
原告は,本件コンサルタント契約に基づき,被告に対して,平成17年6
月1日及び同月30日に,それぞれ20万円を支払った。なお,上記のコン
サルタント料の支払は,銀行振込の方法によりされたが,同年6月1日の振
込はグルメ名義でされ,同月30日の振込は原告名義でされた。
ところが,その後,グルメが,被告技術を利用して被膜処理を施したフラ
イパン等をレストラン等に販売したところ,そのすべての販売先から,グル
メの施した被膜処理についてのクレームを受け,返金処理等の対応を迫られ
たため,原告は,被告技術を利用してフライパン等に被膜処理をすることの
事業化を諦めることとした。
また,原告は,平成17年7月以降は,被告に対して,コンサルタント料
を支払っておらず,被告も,原告に対して,コンサルタント料の支払を請求
することはなかった。
()原告は,Aと共に,H精機製造に対して,被告技術を売り込み,その結3
果,H精機製造は,被告技術に興味を持ち,平成17年8月25日,被告と
の間で,被告が,H精機製造に対し,被告の有する特許権について通常実施
権を許諾し,また,被告技術についての技術指導をすること,H精機製造が,
被告に対し,頭金として1000万円,実施料として別途協議する額,技術
指導料として月額30万円を支払うこと等を内容とする契約(以下「被告・
H精機製造間契約」という。)を締結した。被告は,同契約に基づき,H精
機製造から,1050万円の支払を受け,上記契約の成約のための協力に対
する対価として,原告に200万円,Aに100万円を支払った。被告・H
精機製造間契約の締結には,三井物産が決済代行人として関与した。
なお,被告・H精機製造間契約においては,対象特許として,「特許番号
第1532837号」,「特許番号第1805359号」,「特願2004
−082391」,「特願2004−248617」との記載があるが,
「特許番号第1532837号」及び「特許番号第1805359号」の特
許権は,被告・H精機製造間契約の締結の時点で既に消滅しており,「特願
2004−082391」及び「特願2004−248617」も,特許査
定がされる見込みはなかった。
()その後,原告は,平成17年12月ころ,三井物産から,被告の有する4
特許権は,すべて特許料の未納により消滅しており,また,被告が出願して
いる特許出願も,特許拒絶査定が確定しているか,又は審査請求がされてい
ないものであり,391出願も審査請求がされておらず特許査定はされない
ものと推測され,本件発明も特許を受けることができないものと推測される
旨を告げられ,その結果,391発明及びその応用技術である本件発明が,
その事業化により多額の収益が見込まれるような有望な発明であるとの被告
の説明が虚偽であったとの認識を得るに至った。
しかし,原告は,三井物産から,原告から被告に対する本件譲渡契約に基
づいて支払った200万円の返還請求は,被告・H精機製造間契約に関する
交渉が終わってからにして欲しいと要望されたため,それまで待つことにし
た。そして,原告は,被告・H精機製造間契約の処理が終わった旨の連絡を
受け,平成18年4月24日,丙に対して,被告と面談する機会を設けるよ
う要求したところ,丙から,同日,飲食店オレンジロードにおいて,被告と
会う予定である旨を聞き及び,同日午後6時30分ないし7時ころ,上記オ
レンジロードで被告及び丙と面談した。原告は,その席で,原告が三井物産
から告げられた事実の確認をするとともに,391発明や本件発明が有望で
あるとの虚偽の事実を説明して200万円を支払わせたことを責めたところ,
被告は,これを認めたため,両者は,本件譲渡契約を解除するに至った。そ
して,原告が,同契約に基づき被告に支払った200万円の返還を求めたと
ころ,被告は,原告に対し,200万円の支払を分割とするとの意向を示し,
原告と被告及び丙との間で,被告及び丙が,連帯して,200万円を同年5
月から8月まで,4回に分割して,支払うことを内容とする本件返還合意が
成立した。原告が,被告及び丙に対して,上記の合意の内容を確認した念書
を作成するよう要求したので,丙は,本件返還合意書の本文を作成し,同書
面に署名をし,さらに,被告も署名をした。本件返還合意書には,本件返還
合意の内容を正確に反映した記載がされている。
また,被告は,本件コンサルタント契約により原告から受領した40万円
のうち,10万円を平成18年6月1日に,5万円を同月13日に,それぞ
れ原告に返還した。なお,上記の金銭の支払は,いずれも原告名義の銀行口
座に振り込む方法でされた。
()被告は,平成18年6月2日,警視庁の中央警察署及び千葉県警察の市5
原警察署に対して,同年4月24日に,原告から恫喝を受け,200万円の
弁済予定の書面にサインをさせられたこと等を記載した被害届を提出した。
2争点()(本件返還合意を強迫を理由に取り消すことができるか)について1
本件返還合意がされたときの状況は,前記1()で認定したとおりであり,4
本件において,上記の際に,原告が,被告に対して,強迫をした事実を認める
に足る証拠が全くないだけではなく,原告から強迫を受けたとの被告の主張は,
怒った口調で金員の返還請求がなされたという以外に,その強迫の態様につい
ての具体的な主張がなく,それ自体信用性に欠けるものといえる。
むしろ,前記1で認定した本件特許出願や被告がこれまでにした特許出願の
経緯(特に,被告が,本件発明の基本発明であると原告に説明した391発明
の特許出願について,審査請求をしなかったこと)からすれば,被告は,本件
発明及び391発明とも,進歩性ないし新規性がなく,したがって,本件特許
出願及び391出願とも,特許査定を受けられないことを認識していたものと
推認される。それにも関わらず,被告は,前記1のとおり,そのことを秘して,
原告との間で,本件発明及び391発明が事業化により多額の利益が見込まれ
る有望な発明であるとして,本件譲渡契約を締結したものであり,原告に,そ
の点を問い質されて,本件譲渡契約に基づいて支払われた200万円の返還が
求められていたことからすれば,被告において,原告からの200万円の要求
を拒み得る立場になく,これに応じざるを得ない状況であったというべきであ
る。
以上より,被告が原告の強迫により,本件返還合意の意思表示をしたとは認
められず,本件返還合意を強迫を理由に取り消すことはできないというべきで
ある。
3争点()ア(本件コンサルタント契約に基づく未払コンサルタント料の請求2
の可否)について
()本件コンサルタント契約の当事者について1
前記1で判示したとおり,原告は,本件コンサルタント契約の当事者であ
り,グルメを原告と共に同契約の当事者と解する余地があるとしても,その
ことにより原告が当事者であることを否定することはできないというべきで
ある。また,被告は,原告から支払われた本件コンサルタント契約のコンサ
ルタント料のうちの一部の返還の趣旨で,原告名義の銀行口座に,合計15
万円を振り込んでいるが,振込先の口座を原告名義のものとしたのは,原告
の指示によるものと推測され,このことから,原告は,本件コンサルタント
契約のコンサルタント料の返還を請求できる主体は原告であり,その前提と
して,本件コンサルタント契約のコンサルタント料を支払った主体も原告で
あると認識していたものと認められる。
そして,原告自身も,訴状,第1準備書面,第3準備書面,請求の減縮の
申立書,第4準備書面及び第5準備書面において,本件コンサルタント契約
が原告と被告との間で締結された旨記載しており,被告から,反訴として,
本件コンサルタント契約の未払コンサルタント料の支払請求を受けた後,初
めて,本件コンサルタント契約の当事者が原告ではなくグルメであると主張
するに至ったものであることも考慮すれば,被告と本件コンサルタント契約
を締結したのは,原告であったと認めるのが相当である。
()未払コンサルタント料の請求の可否について2
前記1で判示したとおり,本件コンサルタント契約は,口頭で締結され,
同契約に基づき被告が提供すべき業務の内容も,被告技術についての技術指
導や,グルメの製品開発についての協力というものであり,その具体的内容
は明確には定められていないこと,実際にも,原告が本件コンサルタント契
約のコンサルタント料を支払ったのは,最初の2か月分のみであり,平成1
7年7月以降は一切支払っていないこと,被告も,コンサルタント料の支払
がされないことを,本件反訴を提起するまでは,何ら問題としなかったこと
からすると,もともと,契約当事者の意識としては,必ずしも,本件コンサ
ルタント契約に基づくお互いの債務を厳格に履行することを求めるものでは
なかったと解される。そして,前記1で判示したように,被告は,本件譲渡
契約の対象となった本件発明及びその基本発明であるとの説明があった39
1発明が特許を受けることができないこと,並びに被告の有する特許権は,
すべて特許料の未納により消滅しており,また,被告が出願している特許出
願も,特許拒絶査定が確定しているか,又は審査請求がされていないもので
あることを認めた上で,本件譲渡契約に基づき原告から支払われた200万
円を返還することを内容とする本件返還合意をしたものである。しかも,本
件コンサルタント契約における被告の債務は,被告技術についての技術指導
をするというものであり,被告に食器,調理器等に関する技術があること,
及び被告が説明していた被告の特許権が有効であり,特許出願も,近い将来
に,設定登録を受けることができることが前提とされていたことが明らかで
ある。
そうすると,原告被告間で本件譲渡契約が解除され,本件譲渡契約の対価
の返還を合意しながら,本件コンサルタント契約に基づく未払コンサルタン
ト料の支払請求権が存続するものと原告及び被告が認識していたとは,到底
考え難い。このことは,被告が,前記1()で判示したように,本件譲渡契4
約の解除後,受領したコンサルタント料の一部を原告に返還していることか
らも容易に推認される。
したがって,本件返還合意がされた上記の状況においては,原告及び被告
は,本件返還合意の際に,本件コンサルタント契約も合意解約し,平成17
年7月分から本件返還合意がされるまでの間のコンサルタント料についても,
両当事者間において,被告は原告に対して請求し得ないものとの黙示の合意
が成立したものと解するのが相当である。
()したがって,被告の本件コンサルタント契約に基づく未払コンサルタン3
ト料の請求は理由がない。
4争点()イ(被告が,原告に対して,平成18年6月1日及び同月13日に2
支払った金員の返還請求の可否)について
被告は,原告と合意して,本件コンサルタント契約に基づき受領したコンサ
ルタント料のうち,10万円を平成18年6月1日に,5万円を同月13日に
返還したが,この返還の合意は,原告の強迫によるものであるとして,上記の
15万円の返還を請求している。
しかしながら,本件全証拠によっても,原告が被告を強迫した事実を認める
に足りない(前記3のとおり,平成18年4月24日の本件返還合意がされた
際に強迫があったとは認められず,また,その後に,強迫があったとも認めら
れない。)。したがって,被告は,上記金額について,不当利得に基づく返還
請求をすることはできない。
なお,上記のとおり,原告による強迫の事実は認められないのであるから,
原告が上記支払を受けたことについて,原告に不法行為も成立せず,不法行為
に基づく損害賠償請求もすることはできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
5争点()ウ(本件反訴訴えの変更の可否)について2
本件反訴訴えの変更は,第6回弁論準備手続期日においてされたが,同期日
で弁論準備手続は終結し,また,同日開かれた第3回口頭弁論期日において,
弁論が終結しているように,本件反訴訴えの変更がされたときには,既に,両
当事者のすべての主張立証が終了していたところ,本件反訴訴えの変更に係る
請求は,本件譲渡契約の未払代金の請求であり,この請求原因に対する認否及
び抗弁は種々のものが考えられ,原告のそれらの主張の準備のためには相当程
度の時間が必要であること,また,原告の主張によっては,本件訴訟における
従前の争点とは全く異なる点が新たに争点となり,さらに,人証調べが必要と
なる可能性もあること,他面で,被告としては,本件反訴訴えの変更に係る主
張は,反訴を提起した段階で主張し得たものであることを考慮すると,本件反
訴訴えの変更は,訴訟手続を著しく遅滞させるものとして,民訴法143条1
項ただし書により許されないとするのが相当である。
第4結論
以上のとおりであり,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴
請求は理由があり,被告の反訴請求はいずれも理由がないから,主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官清水節
裁判官山田真紀
裁判官佐野信

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