弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人A、同Bに関する部分を破棄する。
     被告人A、同Bを各懲役四月に処する。
     但し、本判決確定の日から各二年間右刑の執行を猶予する。
     検察官の被告人C、同Dに対する本件上告を棄却する。
     被告人Eの本件上告を棄却する。
     第一審の訴訟費用中弁護人羽田野忠文に支給した分の三分の一は、被告
人Aの負担とし、証人F、同G、同H、同I、同Jに支給した分は被告人A、同B
と被告人C、同Dとの連帯負担とし、原審で弁護人水町新三に支給した訴訟費用中
二分の一は、被告人Bの負担とし、当審における訴訟費用中弁護人中村武に支給し
た分は被告人Cの負担とする。
         理    由
 被告人Cの弁護人山本真平の上告趣意について。
 所論は事実誤認、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条所定の上告理由に当ら
ない。また記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 福岡高等検察庁検事長市島成一の上告趣意について。
 原審の認定によれば、本件K丸は、元来被告人等とは全然関係のない別件のL外
八名に対する関税法違反被告事件の証拠物として押収されていたものであるが、M
水産株式会社社長Nにおいて昭和二五年五月一七日大分地方検察庁からこれを一時
借り受け使用中、本件により西南諸島において押収され、その後、昭和二六年九月
二九日右L外八名中の一名Oに対する有罪の判決において同船没収の言渡あり、同
年一二月一四日同判決が確定したので、大分地方検察庁は、右没収の執行として奄
美検察庁に同船の売却処分方を嘱託し、昭和二七年一〇月二九日その換価金二九六、
一八八円を歳入に組み入れ、没収の執行を終了したのである。従つて、本件第一審
判決言渡の昭和二九年六月一四日当時には、右K丸は前示のとおり別件の関係によ
つてすでにその没収の執行を終了していることが明らかであり、本件の関係におい
ては、最早没収に代るべき追徴の言渡をなすべきいわれがないのであるから、所論
のように同船が本件犯行当時の関税法(昭和二三年法律一〇七号により改正された
明治三二年法律六一号)八三条三項のいわゆる「没収スルコト能ハサルトキ」に当
るとして被告人等からその価額に相当する金額を追徴することは許されないものと
解するを相当とする。
 されば、原判決は結局正当であり、論旨は理由がない。論旨引用の福岡高等裁判
所判決(昭和二六年(う)二九五二号、同二七年二月二〇日言渡)は、密輸出入の
犯行の用に供した船舶の没収ができなかつた案件に関するものではあるが、その船
舶の没収が執行されてしまつた場合に関するものではなく、本件に適切でない。
 次に職権をもつて調査するに、原判決の確定した犯罪事実中被告人A、同Bが、
P某等と共謀の上連合国最高司令官の許可を受けないで昭和二六年二月一〇日頃K
丸に乗り組んでa港を出港し、同月中旬頃北緯三〇度以南の徳の島に上陸して密出
国を遂げたとの昭和二五年政令三二五号違反の点は、犯罪後たる昭和二六年一二月
一日以降刑の廃止があつたものとして免訴すべきものであること、当裁判所の判例
(昭和二七年(あ)一五七〇号、同二九年一二月一日大法廷判決、集八巻一二号一
九一一頁)とするところであり、原判決はこの点において破棄しなければ著しく正
義に反する。
 よつて刑訴四一四条、三九六条により被告人Eの本件上告及び検察官の被告人E、
同Dに対する本件上告はいずれもこれを棄却し、刑訴四一一条一号により原判決中
被告人A、同Bに関する部分を破棄し、同四一三条但書により更に判決する。
 原判決の確定した事実中右被告人両名の密出国の所為は、犯罪後の法令により刑
の廃止があつたので刑訴四一四条、四〇四条、三三七条二号により被告人等を免訴
すべきであるが右所為は密輸出の所為と一所為数法にあたるとして起訴されたもの
であるから、主文で特にその言渡をしない。密輸出の所為は、前示本件犯行当時の
関税法七六条一項に該当するから所定刑中懲役刑を選択しその刑期範囲内において
右被告人両名を各懲役四月に処し、刑法二五条により本裁判確定の日より各二年間
右刑の執行を猶予するものとし、刑訴一八一条一項、一八二条を適用し、右被告人
両名および被告人Eをして主文六項記載の如く訴訟費用を負担させ、主文のとおり
判決する。
 この裁判は、密出国の点について裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔の反対意見があ
るほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔の反対意見は、本件密出国の罪については犯罪後
の法令により刑の廃止があつたものでないこと、昭和二七年(あ)一五七〇号、同
二九年一二月一日言渡大法廷判決(集八巻一二号一九一一頁)記載の右両裁判官の
反対意見のとおりである。
 裁判官栗山茂、同岩松三郎、同谷村唯一郎、同本村善太郎は退官につき本件評議
に関与しない。
 検察官 佐藤藤佐、同安平政吉、同神山欣治公判出席。
  昭和三三年四月一六日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己

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