弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人前堀政幸の上告趣意(後記)第一点について。
 記録に基き第一審公判調書を検討するに、第一審裁判所は、第二回公判において、
本件公訴事実に直接関係のあるA外四名の証人を尋問し、検察官提出の診断書その
他の証拠書類を取調べ、第三回公判において、更にB外一名の証人尋問をなし、検
察官から更に物証並びに書証の提出があつた後、所論証人Cの尋問請求が所論の如
き立証趣旨の下になされたのに対し、第四回公判において右請求を却下しているの
である。ところが第一審裁判所は、その後当事者双方の提出申請にかゝる証拠や証
人の取調をなしたる後、第九回公判において、検察官が、先きに、被告人に有利な
証言をなした、被告人の下僚若しくは上司である、D、E等の供述の証明力を争い、
被告人に暴行の習癖のあることを立証するため、刑訴三二八条に基き、反証として、
C及びFの各検察官に対する供述調書の取調を請求したのに対し、弁護人検察官双
方の所論の如き応酬があつた後、右の如き取調請求は、刑訴三二八条の趣旨に合致
しないものとして、これを却下したところ、検察官は一転して、右C、Fの両名の
証人尋問を、反証としてでなく、被告人に暴行の習癖のあることの情状についての
立証として請求するに至り、これに対し、弁護人の反対意見の開陳があつたが、第
一審裁判所は、その採否を留保したまゝ、被告人尋問をなし、所論の如き問答を重
ねた後、右両証人の尋問請求を情状に関するものとして許容し、その証拠決定に対
する弁護人の異議を斥け、第一〇回公判において、右両証人を尋問し、同人等は被
告人が同人等をかつて被疑者として取調べた際自白を強要して暴行を加えた旨を供
述しているのである。そして弁護人から右証人尋問中になされた所論の如き証拠調
に関する異議の申立に対し、同裁判所は、所論の如く「この証人尋問は被告人の情
状に関する証拠調である。裁判所は要証事実に関する証拠調は既に終了したものと
考えているので被告人の性格に関する立証を許したのであつて弁護人主張の予断を
抱かしめる虞はない」とし、英米法に触れた後、これと異なる我が国の法制下にお
いては、要証事実に関する証拠調の次に随時情状に関する証拠調をすることができ
るから、被告人に不利益なものを先にすると利益なものを先にするとを問わない。
従つて本証人尋問及び弁護人から被告人の善い性格又は利益な情状についての立証
は当然許されるものであるとの見解を表明し、弁護人の右異議の申立を却下してい
るのである。
 以上の経過に徴し、所論の是非を仔細に検討してみても前記の如き第一審裁判所
の措置が所論の如く、予断又は偏見に基く不公平なものであるとは到底認めること
はできない。しかも前記公判の経過に照し明かなる如く、第一審裁判所は、当事者
双方に、要証事実に関する立証を一応尽さしめた後に、検察官の申請にかゝる所論
の証人を、情状に関するものとして尋問しているのであつて、同裁判所も説示する
如く、いわば要証事実に関する証拠調を終了し、量刑に関する諸般の情状を調査す
る手続上の段階において、右の如き証人尋問がなされたということができるのであ
る。そして、所論証人尋問が、被告人に暴行の習癖のあることを立証せんとするに
あつたとしても、それは勿論本件公訴事実の立証の為のものでなく、量刑に関する
情状に関するものと認むベきであり、かゝる証人尋問を、かゝる手続上の段階にお
いて制限すべきいわれはないから、第一審の右の如き公判手続に所論の如き訴訟法
の違反があるということはできない。この点に関する原判決の説示は総て正当であ
る。してみれば所論違憲の主張は、その前提を欠くことゝなるから、論旨は採用す
るを得ないのである。
 同第二点について。
 本論旨は、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、論旨第一点に対し説示
した如く、第一審裁判所には、証人C、Fの尋問申請の採否を巡り、所論の如き予
断偏見に基く不公平な措置があつたとは到底認めることはできないし、従つてまた
この点に関する原判決は正当なのであるが、記録に基き原判決を検討するに、原審
が採証した、証人Aの証言を仔細に調べてみても、被告人から暴行を受けたという
供述部分とその暴行の結果傷を受けたという供述部分とが所論の如く不可分一体を
なすものであつて、傷を受けたという供述を措信しない以上暴行を受けたという供
述もまた当然に措信し得ない関係にあるものと認めることはできない。右A証人の
証言によつて、原判決摘示の本件犯罪事実を認定することは、必ずしも所論の如く
経験則に反するものということはできない。論旨は結局、原審の証拠の取捨判断を
いわれなく非難するに帰するものであつて、採用することができない。
 その他記録を調べても、刑訴四一一条を適用して原判決を破棄するに足る事由を
発見するを得ない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和二八年五月一二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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