弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人井手諦一郎上告趣意一点ついて。
 原判決に署名した判事が森静雄、高原太郎及び吉田信孝であること並びに原判決
言渡し期日の公判調書には高原太郎、大曲壮次郎及び吉田信孝の判事が列席した旨
記載されていることは所論のとおりである。しかし判決は口頭弁論に基いて為すべ
きもので、その言渡は単に告知方法たるにとどまるものであるから判決の基礎とな
つた所論口頭弁論に関与した前記判事が判決に署名したのは当然である。また旧刑
訴第三五四条によれば判決の宣告を為す場合は判事の更迭があつたときでも公判手
続を更新することを要するものではない。従つて、所論原審第四回公判において、
従来審理に関与しなかつた判事大曲壮次郎が前記口頭弁論に関与した判事の為した
本件判決の言渡に関与したのは正当であつて原判決言渡しの期日の公判調書には何
等の違法も存しない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 しかし、犯行の動機がどうであるとか、共同正犯の被告人相互の間においていづ
れが主犯的立場にあつたかというようなことがらは、もともと、罪となるべき事実
でないことはいうまでもないところであつて、これらのことがらは結局刑の量定の
資料となるにすぎないものであるから、どの程度にこれ等のことがらについて審理
をするかは事実承審官の適当な裁量に委せられているところであつて、所論の点の
審理についての原裁判所の裁量が実験則に反したと認められる事実は全記録を通し
てこれを発見することができないのであるから、たとい、被告人のがわから見てた
だ主観的に原審のした審理にはこれ等の点について不十分であると思われるからと
いつて、原判決をもつて違法のものということはできない。
 所論は結局事実審たる原裁判所の裁量権に属する事実の認定乃至刑の量定を非難
するにとどまるから上告適法の理由とはならない。
 被告人の上告趣意について。
 論旨は結局犯行の動機、情況を縷述し、被告人が被害者夫妻を脅迫したという判
示事実を否認し、第一審相被告人Aを原審において取調べなかつたのは違法でると
主張し、刑の減軽を求めるというに帰する。しかし原判決の判示事実の認定は原判
決挙示の証拠に照してこれを肯認するに足り、その間反経験則その他の違法はない。
そして被告人は原審において第一審相被告人Aに対する取調べを請求していないの
であり又どの程度証人を訊問するかは事実審たる原裁判所の裁量権に属するところ
であるから、原審が第一審相被告人Aを取調べなかつたからといつて違法ではない。
次に刑の量定は事実審たる原裁判所の裁量権に属するところであるから、被告人の
立場から見てただ主観的に原判決の刑が重すぎると思われても、原判決を違法とい
うことはできない。所論のいづれの点も上告適法の理由とはならない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文とおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 小幡勇三郎関与
  昭和二四年八月一八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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