弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差戻す。
         理    由
 上告代理人弁護士中内英夫の上告理由第一点について。
 原判決は、「本件係争土地については、さきに本訴当事者間における名古屋地方
裁判所昭和二四年(ワ)八〇四号事件として所有権取得登記の無効を理由とするそ
の抹消手続を求める訴が繋属し確定判決があつた」との当事者間に争なき事実と、
原判決挙示の証拠により認定した「右確定判決は、その理由において本件土地の所
有権が本件被上告人(当該事件の原告)にあることを確認し、本件上告人(当該事
件の被告)が該土地につき檀に贈与名義を以てなした所有権移転登記を無効と認め
本件被上告人主張にかかる物権的請求権としての登記請求権を認容すべきものたる
ことを説示し、その主文においては、所有権の確認の点には触れることなく、ただ
本件上告人に対し本件被上告人のために右贈与を原因とする所有権移転登記の抹消
登記手続を命ずるに過ぎなかつた」との事実に立脚して、「裁判所が判決の理由に
おいて所有権の存在を確認し、これを前提として登記請求権の存在を認定した場合
には所有権の確認と登記請求権の認定とは不可分の関係にあり、仮令当事者におい
て、訴状の請求の趣旨に所有権の確認を求めず、従つて判決においても所有権確認
の主文がなくても、登記請求権と共に所有権も訴訟物となつていると解するのが相
当である。蓋し当該訴訟の原告が所有権に基ずき登記手続を訴求する場合には、請
求の趣旨において所有権の確認を求めると否とに拘らず、その訴訟全体の趣旨とし
ては、先ず所有権の確認を求め、而してその所有権に基づく物権的請求権としての
登記請求権を主張していると解すべきであり、当該訴訟の被告も又裁判所も所有権
の存否に付最も重点をおいて審理して来たのであるから所有権は表面的な訴訟物で
ある登記請求権と表裏一体を為し、不可分の関係にあるというべきであるからであ
る」旨説示して、前記登記手続請求事件の確定判決の主文において登記請求権が確
定された以上その裏面の訴訟物たる本件土地の所有権についても本件当事者間に既
判力あるものと認めたのである。
 しかしながら民訴一九九条一項によれば「確定判決ハ主文ニ包含スルモノニ限リ
既判カヲ有ス」るのである。いわゆる判決の主文とは本案判決についていうならば、
裁判所が当事者によつて訴訟物として主張された法律関係の存否に関してなした判
断の結論そのものを外形上他の記載殊に理由の記載から独立分離して簡明にしかも
完全に掲記するものをいうのである(同一九一条一項参照)。法律がかかる形態に
おける主文を判決の必要的記載事項とした所以のものは、右一九九条等の規定と相
俟つてその判決書を一見して訴訟物たる法律関係につき、如何なる裁判がなされた
かを明確にし、これによつてその判決が既判力等如何なる効力を如何なる範囲にお
いて有するかを一見明瞭ならしめようとしたに外ならないのであるから、判決の既
判力は主文に包含される訴訟物とされた法律関係の存否に関する判断の結論そのも
ののみについて生ずるのであり、その前提たるに過ぎないものは大前提たる法規の
解釈、適用は勿論、小前提たる法律事実に関する認定、その他一切の間接判断中に
包含されるに止まるものは、たといそれが法律関係の存否に関するものであつても
同条第二項のような特別の規定ある場合を除き既判力を有するものではない。そし
て如何なる法律関係が訴訟物として主張されているかは、原告が訴を提起するに当
り請求の趣旨において明確にすべきところである。すなわち訴訟物の如何は一に訴
を提起する原告の意思に基づいて定まるのであり、相手方たる被告の答弁又は裁判
所の審判の如何により左右されるものではない。しかもかかる原告の意思は請求の
趣旨で明確にされなければならないのであつて、もとより黙示的表示でも足り、ま
た請求原因の記載と相俟つて明確にされるのでも足るであろうけれど、請求の趣旨
で明確にされない限り、ただ請求原因中においてその訴求するが如き内容の判決を
受く得べき必須の前提として一定の法律関係を主張しただけでは、かかる法律関係
を訴訟物とする意思が表明されたものということはできない。けだし、法律が請求
の趣旨をその原因の外に訴状の必要的記載要件として規定した所以のものは請求原
因中で陳述される法律関係は必ずしも一個とは限らないこと、また一個の権利につ
いても必ずしもその全部の満足を得んとして主張されるわけでもなく、更に同一法
律関係についても確認判決の外給付若くは形成の判決を求め得る場合もあること等
に鑑み、これによつて如何なる法律関係を訴訟物として、如何なる範囲で、如何な
る判決を求めるかを明確にせんとしたのであり(同二二四条一項参照)、それは判
決で主文をその理由から分離して掲記すべきことを規定したのに対応するものであ
るから、かかる形式的要件を定めた法規は厳正に解釈され適用されなければならな
いのであつて妄りにこれを緩和しその形式的規整を乱し、これがために既判力を生
ずべき場合、その範囲等を不明確ならしめることは許されないからである。それ故、
もし原告がかかる前提問題たる法律関係の存否についても既判力を得んと欲するな
らば、単に請求原因として主張するに止まらず、その請求の趣旨において訴訟物と
してこれを主張しなければならないのである。このことは民訴二三四条が「裁判ヵ
訴訟ノ進行中ニ争ト為リタル法律関係ノ成立又ハ不成立ニ繋ル」場合に中間確認の
訴を提起し得べきこと及びその方法等を特に規定したことに徴しても容易に了解し
得るであろう。
 果して然りとすれば、所有権に基づく物上請求権による訴において、原告がその
基本たる所有権をも訴訟物たらしめんとする意思をその請求の趣旨で黙示的に表明
し、裁判所も亦主文において黙示的にその存否について裁判をしている場合、その
判決が当該所有権の存否につき既判力を有すべきことは勿論であるが、原判決が前
説示の如く判示して前掲登記請求事件の確定判決に、請求の趣旨にも又主文にも何
等表明されていない本件土地の所有権の存在についてまで既判力のあるものとした
ことは失当であり破棄を免れない。論旨は理由がある。
 よつて、爾余の上告理由に対し判断するまでもなく民訴四〇七条一項前段に従い、
裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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