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平成25年12月25日判決言渡
平成24年(行ウ)第777号建築確認処分取消等請求事件
主文
1①本件各訴えのうち本判決の「事実及び理由」第1の1(1)記載の
処分の取消しを求める部分及び②原告Aの本件訴えのうち本判決の
「事実及び理由」第1の2記載の各処分の取消しを求める部分を,い
ずれも却下する。
2本件各訴えのその余の部分に係る原告らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告BがC株式会社(以下「C」という。)に対してした以下の各処分をい
ずれも取り消す。
(1)平成23年7月28日付けの建築基準法(以下「法」という。)6条の2
第1項に基づく確認の処分(確認番号・HPA-11-02757-1号。
以下「本件確認処分1」という。)
(2)平成24年3月21日付けの法6条の2第1項に基づく確認の処分(確認
番号・HPA-11-02757-2号。以下「本件確認処分2」とい
う。)
2東京都知事がCに対して平成23年6月13日付けでした以下の各処分をい
ずれも取り消す。
(1)法48条6項ただし書の規定に基づく第二種住居地域内において同法別表
第2(へ)項4号に掲げる建築物を建築することの許可(22都市建指建第
1871号。以下「本件許可処分1」という。)
(2)法52条14項の規定に基づく建築物の容積率をその許可の範囲内におい
て同条1項5号の規定による限度を超えるものとすることの許可(22都市
建指建第2106号。以下「本件許可処分2」という。)
第2事案の概要等
1事案の要旨
(1)ア法77条の21第1項の指定確認検査機関(以下「指定確認検査機関」
という。)である被告Bは,Cに対し,①平成23年7月28日付けで,
新築しようとする別紙2(建築物等に関する事項1)記載の建築物の計画
(以下,下記②の計画の変更の前後を問わず,この計画を総称して「本件
建築計画」といい,本件建築計画に係る建築物を「本件マンション」とい
う。)について,同法6条の2第1項に基づく確認の処分(本件確認処分
1)をし,②平成24年3月21日付けで,別紙3(建築物等に関する事
項2)記載のとおり変更がされた本件建築計画について,同項に基づく確
認の処分(本件確認処分2)をした。
イ法所定の特定行政庁である東京都知事は,前記アの各処分に先立って,
Cに対し,平成23年6月13日付けで,①法48条6項ただし書の規定
に基づく第二種住居地域内において同法別表第2(へ)項4号に掲げる建
築物を建築することの許可(本件許可処分1)及び②同法52条14項の
規定に基づく建築物の容積率をその許可の範囲内において同条1項5号の
規定による限度を超えるものとすることの許可(本件許可処分2)をした。
(2)本件は,本件マンションの近隣にマンションの住戸を所有し,そこに居住
する原告らが,①本件確認処分1及び2には,○ア建築基準法施行令(以下
「施行令」という。)119条違反,○イ施行令120条違反,○ウ東京都建築
安全条例(昭和28年東京都条例第74号。以下「安全条例」という。)8
条1項違反,○エ安全条例28条及び19条違反並びに○オ平成17年消防庁告
示第2号(特定共同住宅等の位置,構造及び設備を定める件。以下「本件告
示」という。)の第4の2号違反の違法があり,また,○カ後記②及び③のよ
うな本件許可処分1及び2の違法性が本件確認処分1及び2にも承継される
などと主張して,本件確認処分1及び2の各取消しを求めるほか,②本件マ
ンションについては,北側の1階から27階までの部分に床面積の合計が3
00㎡を超えるエレベーター式(つり上げ式)自動車車庫(以下「本件車
庫」という。)が設置されるものとされ,法48条6項本文により第二種住
居地域内においては建築してはならないものとされている法別表第2(へ)
項4号に掲げる建築物に当たるところ,法48条6項ただし書の規定にいう
「第二種住居地域における住居の環境を害するおそれがない」ものではない
から,本件許可処分1は違法なものであるなどと主張して,本件許可処分1
の取消しを求めるとともに,③本件マンションの容積率は,法52条1項5
号の規定による限度を超えるものとされているところ,本件マンションにつ
いては,「同一敷地内の建築物の機械室…の床面積の合計の建築物の延べ面
積に対する割合が著しく大きい」(同条14項1号)とはいえず,また,落
下物のおそれなどの安全上の支障もあるから,本件許可処分2は違法なもの
であるなどと主張して,本件許可処分2の取消しを求める事案である。
2関係法令等の定め
別紙4(関係法令等の定め)に記載したとおりである(同別紙で定める略称
等は,以下においても用いることとする。)。
3前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,当事者に
おいて争うことを明らかにしない事実である。以下「前提事実」という。)
(1)当事者等
ア原告Dは,別紙5(物件目録1)記載の建物を所有してそこに居住する
者であり,原告Aは,別紙6(物件目録2)記載の建物を所有してそこに
居住する者である(甲11の1・2,弁論の全趣旨)。なお,これらの建
物に係る1棟の建物(以下「原告ら居住マンション」という。)とその西
側に建築するものとされている本件マンションの位置関係は,別紙7のと
おりである(甲3)。
イ被告Bは,指定確認検査機関である。
(2)本件建築計画の概要等
本件確認処分1に係る本件建築計画(当初の本件建築計画)の概要は別紙
2(建築物等に関する事項1)に,本件確認処分2に係る本件建築計画(変
更後の本件建築計画)の概要は別紙3(建築物等に関する事項2)に,それ
ぞれ記載したとおりである。
そして,変更の前後を通じて,本件建築計画における本件マンションの住
戸数は585戸とされており,また,4基の機械式駐車場からる本件車庫
の駐車台数は320台(なお,本件車庫以外に,車いす用の平面駐車場とし
て1台分,来客用として7台分,カーシェアリング用として2台分,荷さば
き用として2台分及び管理用として1台分の合計13台分の駐車場が計画さ
れている。)とされている(甲8の1・2,甲9,乙13,丙12)。
(3)本件許可処分1及び2
ア江東区は,平成23年2月18日,Cからの本件許可処分1に係る申請
書を受理し,同申請書は,同月21日,被告東京都に回付された(乙10
の1)。
イ江東区は,平成23年3月29日,Cからの本件許可処分2に係る申請
書を受理し,同申請書は,同日,被告東京都に回付された(乙10の2)。
ウ東京都知事は,①法48条15項所定の公告を経た上で,平成23年3
月17日,本件許可処分1についての公開による意見の聴取(同条14項
本文)を行い,②また,本件許可処分1及び2につき,○ア同年5月23日,
東京都建築審査会の同意(同項本文,法52条15項,44条2項)を得
るとともに,○イ同年6月2日,本件マンションの所在地を管轄する東京消
防庁深川消防署長の同意(法93条1項)を得た(乙10の1~乙12,
弁論の全趣旨)。
エ東京都知事は,平成23年6月13日,Cに対し,本件許可処分1及び
2をした。
本件マンションは,北側の1階から27階までの部分に本件車庫を設置
するものとされていることから(甲4の1・2,甲8の1・2,甲9,乙
2,丙12),法別表第2(へ)項4号に掲げる建築物に該当し,第二種
住居地域内においては原則として建築してはならないものであるが(法4
8条6項本文),本件許可処分1は,本件マンションが同項ただし書の規
定に該当するものとして,その建築を許可したものである。
また,本件マンションは,容積率(611.71%)が高層住居誘導地
区に関する都市計画において定められた容積率の数値である599.1
3%(乙13)を超過している点において法52条1項5号に適合しない
ものであるが,本件許可処分2は,本件マンションが同条14項1号の規
定に該当するものとして,その建築を許可したものである。
(4)本件確認処分1及び2
ア①Cは,被告Bに対し,平成23年7月20日,別紙2(建築物等に関
する事項1)に係る本件建築計画につき法6条の2第1項の規定による確
認の申請をし(甲1の1),②被告Bは,Cに対し,同月28日,上記①
の本件建築計画につき本件確認処分1をした。
イ①Cは,被告Bに対し,平成24年3月13日,別紙3(建築物等に関
する事項2)に係る本件建築計画(変更後の本件建築計画)につき法6条
の2第1項の規定による確認の申請をし(甲1の2,丙12),②被告B
は,Cに対し,同月21日,上記①の本件建築計画につき本件確認処分2
をした。
(5)審査請求(乙1,丙2,弁論の全趣旨)
ア原告ら外2名は,東京都建築審査会に対し,平成23年9月22日付け
で,本件確認処分1についての審査請求をした。
イ原告Dは,東京都建築審査会に対し,平成23年10月4日付けで,本
件許可処分1及び2についての審査請求をした。なお,原告Aは,上記各
処分について,同審査会に対する審査請求はしていない。
ウ原告ら外2名は,東京都建築審査会に対し,平成24年6月13日付け
で,本件確認処分2についての審査請求をした。
エ東京都建築審査会は,前記ア~ウの各審査請求を併合して審理した上,
平成24年11月26日,前記アの審査請求を却下し,前記イ及びウの各
審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(6)本件各訴えの提起
原告らは,平成24年11月13日,本件各訴えを提起した(当裁判所に
顕著な事実)。
4争点
(1)本件各訴えのうち本件確認処分1の取消しを求める部分の訴えの利益(争
点1)
(2)原告Aにおいて審査請求に対する裁決を経ずに本件許可処分1及び2の取
消しの訴えを提起することが許されるか否か(争点2)
(3)本件許可処分1の適法性(争点3)
(4)本件許可処分2の適法性(争点4)
(5)原告らが自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として本件確認処分
1及び2の各取消しを求めているか否か(争点5)
(6)本件確認処分1及び2の適法性(争点6)
5争点に関する当事者の主張の要点
別紙8(争点に関する当事者の主張の要点)に記載したとおりである(同別
紙で定める略称等は,以下においても用いることとする。)。
第3当裁判所の判断
1本件各訴えのうち本件確認処分1の取消しを求める部分の訴えの利益(争点
1)について
(1)法6条1項前段は,建築主は,一定の建築物を建築しようとする場合にお
いては,当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定に適合する
ものであることについて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け,
確認済証の交付を受けなければならない旨を定めるところ,これは,建築物
の建築の工事に着手する前に当該建築物の計画が建築基準関係規定に適合す
るものであることについて建築主事による公権的な判断を受けさせることに
より,建築基準関係規定に違反する建築物が出現することを未然に防止する
ことを目的とするものと解される。
そして,同項後段は,当該確認を受けた建築物の計画の変更をして,建築
物を建築しようとする場合も,当初の建築物の計画についての確認を受ける
場合と同様とする旨を定めるところ,その文理及び上記に述べた建築物の建
築に関する確認の制度の趣旨に照らせば,同項後段は,建築物の計画の変更
の場合において,当初の建築物の計画についてされた確認の効力が存続する
ことを前提に変更をした計画の部分についてのみ建築主事の確認を受ければ
足りるとしたものではなく,当該部分を含む新たな建築物の計画について,
改めて,その全体が建築基準関係規定に適合するものであることについての
建築主事による公権的な判断を受けることを求めた規定であると解するのが
相当である。
以上に述べたところからすれば,確認を受けた建築物の計画の変更をして
当該変更後の計画について建築主事による確認がされたときには,当初の建
築物の計画についてされた確認の処分の効力は,将来に向かって消滅するも
のと解するのが相当であり(東京高裁平成19年判決の判示もこのような趣
旨を述べたものと解される。),このことは,それを受けたときには同項の
規定による確認とみなされる指定確認検査機関による建築物の計画の確認
(法6条の2第1項)についても同様であると解される。
(2)これを本件についてみるに,新築に係る本件マンションの計画(本件建築
計画)については,本件確認処分1がされた後に変更がされて本件確認処分
2がされたことは,前提事実(4)のとおりであるから,本件確認処分1につ
いては,その後に変更後の計画についての確認(本件確認処分2)がされた
ことによって,その効力は消滅したものというのが相当である。そして,こ
の場合においてもなお本件確認処分1の取消しによって回復すべき法律上の
利益が原告らにつき存在すると認めるに足りる証拠ないし事情はない。
したがって,本件各訴えのうち本件確認処分1の取消しを求める部分につ
いては,訴えの利益が失われたものというべきであるから,いずれも不適法
であり,その余の争点について判断するまでもなく,却下を免れないものと
いうべきである。以上と異なる原告らの主張は,採用することができない。
2原告Aにおいて審査請求に対する裁決を経ずに本件許可処分1及び2の取消
しの訴えを提起することが許されるか否か(争点2)について
(1)前提事実(5)イのとおり,原告Aは,本件許可処分1及び2についての審
査請求をしていない。そこで,原告Aの本件訴えのうち上記各処分の取消し
を求める部分につき行政事件訴訟法8条2項各号のいずれかに規定する事由
があるか否かが問題となる。
(2)アこの点,原告らは,原告Aの本件訴えのうち本件許可処分1及び2の取
消しを求める部分については,①本件許可処分1及び2については,原告
Dがした審査請求において実質的な判断が十分にされており,原告Aとの
関係で重ねて行政庁にこれらの当否について反省する機会を与える意味は
なく,また,原告Aについても東京都建築審査会において正式に回答等を
しているともいえるから,行政事件訴訟法8条2項3号に該当する,②原
告Dの審査請求には1年1か月以上を要しており,判例では工事が完了し
た場合には建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるとされている
ことからすると,原告Aにおいて審査請求を行い,それに対する判断を待
った上で訴えを提起したのでは権利救済上間に合わないから,同項2号に
該当するなどと主張する。
イしかし,①処分の取消しの訴えの原告自身が審査請求をしていない場合
においては,第三者が当該処分において当該原告の主張と同一の理由に基
づいて当該処分についての審査請求をしていたとしても,当該第三者が当
該原告と当該処分に対して一体的な利害関係を有し,実質的に見れば当該
第三者のした審査請求が同時に当該原告のための審査請求でもあるといえ
るような特段の事情がない限り,当該原告の上記訴えについて,審査請求
を経たのと同視して,これを適法な訴えと解することはできないというべ
きところ(前掲最高裁昭和61年6月10日第三小法廷判決参照),原告
Aと原告Dは,同じ一棟の建物(原告ら居住マンション)に存する別個の
建物(居室)を所有し,そこに居住しているにすぎない者であって,両者
の間に特別な身分関係等があることは何らうかがわれず,原告Dによる本
件許可処分1及び2についての審査請求ないし取消しの訴えにおいてこれ
らの処分が取り消されたとした場合に原告Aが何らかの利益を受けること
があったとしても,それは事実上のもの又は反射的なものにとどまるもの
というべきであるから,原告Aの本件訴えのうち上記各処分に関する部分
については,上記特段の事情があるとはいえず,原告らの前記ア①の主張
は,採用することができない。②また,原告Dは,適法に上記各処分につ
いての審査請求をしているところ,原告Aは,これと前後して,原告Dら
とともに本件確認処分1及び2についての審査請求をしており,これらの
審査請求の代理人は同一の者(本件各訴えの原告ら訴訟代理人の1人であ
る柴田亮子弁護士,E建築士)が務めていたこと(前提事実(5)ア~ウ,
乙1,丙2,弁論の全趣旨)や,審査請求をした日から3か月を経過して
も裁決がないときには,裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起するこ
とができること(行政事件訴訟法8条2項1号)に照らせば,原告らの前
記ア②の主張も,採用することができない。その他,一件記録を検討して
も,原告Aの本件訴えのうち上記各処分の取消しを求める部分につき,同
項各号のいずれかに規定する事由があるものとは認められない。
(3)以上のとおりであるから,その余の争点について判断するまでもなく,原
告Aの本件訴えのうち本件許可処分1及び2の取消しを求める部分について
は,不適法であり,却下を免れないものというべきである。
3本件許可処分1の適法性(争点3)について
(1)本件マンションに災害時の危険がある旨の原告らの主張について
ア原告らは,東日本大震災等の際に「タワーパーキング」や「立体駐車
場」において車両の落下等の事故が生じた事例を挙げ,また,「パーキン
グ」の事故は,火事を引き起こす確率が高く,大きな事故となりやすいな
どとし,居住空間と一体となっている本件車庫で事故が生じた場合には大
きな事故になり得る危険性を否定することができないなどとして,本件マ
ンションには法48条6項ただし書にいう「第二種住居地域における住居
の環境を害するおそれ」がある旨主張する。
しかし,前提事実,証拠(甲8の1・2,甲9,甲14,甲15,乙1,
丙2,丙12)及び弁論の全趣旨によれば,①本件マンションは,その基
礎の部分に免震装置を設置した免震構造を採用しており,層間変形角につ
いては,法令上容認されているよりも更に抑えられていること,②本件車
庫については,国土交通省関東地方整備局長により駐車場法施行令15条
の規定による認定がされていること(なお,原告らは,駐車場法の目的に
照らせば,上記認定は駐車場の安全性を担保するものではないなどと主張
するが,同施行令第2章第1節に規定する路外駐車場の構造及び設備の基
準に関する規定の内容に照らせば,上記認定を受けた駐車場については,
安全性についても一定の担保がされているものというべきである。),③
本件許可処分1については,法93条1項による東京消防庁深川消防署長
の同意がされていること,④東京都知事(被告東京都の担当者)において
は,上記処分に先立ち,本件車庫と同様のF社製タワー型のエレベーター
方式の自動車車庫では,東日本大震災においても,入庫している車両の落
下事故は起きていないとの報告を受けた上で上記処分をしたものであるこ
とが認められる一方,⑤証拠(甲12の1~3,甲13,甲19,甲20
の1・2,甲21)によっても,原告らが指摘する事故が生じた「タワー
パーキング」や「立体駐車場」の具体的な構造等(免震機構を備えていた
か,F社製タワー型のエレベーター方式の自動車車庫と同等のものである
か等)は明らかでなく,⑥「パーキング」の事故は,火事を引き起こす確
率が高く,大きな事故となりやすいとの点についても,一般論の主張にと
どまることに照らせば,仮に,原告らが主張するように,東京都知事にお
いて,法48条6項ただし書に規定する「第二種住居地域における住居の
環境を害するおそれがない」との要件を判断する際に,災害時における本
件マンションの安全性までも審査しなければならないものとしても,本件
マンションにつき「第二種住居地域における住居の環境を害するおそれが
ない」(法48条6項ただし書)とした東京都知事の判断をもって,その
裁量権の範囲から逸脱したものであるということはできないものというべ
きである。
イ原告らは,本件許可処分1に係る東京都建築審査会における審理(甲1
5)の際に,地震の際等に自動車が落下するおそれ等についての委員から
の質問に対し,被告東京都の担当者が,F社製自動車車庫に限らず,広く
立体駐車場の危険性を否定する趣旨の回答をしたことを前提として,同審
査会は,誤った事実を前提に「第二種住居地域における住居の環境を害す
るおそれ」がないと判断したものであり,上記処分には,手続上の瑕疵が
あるなどと主張する。
しかし,上記の質疑が本件許可処分1に関してされたものであることや,
原告らが指摘する部分に続く被告東京都の担当者の説明の内容にも鑑みれ
ば,同担当者においては,本件車庫と同様のF社製タワー型のエレベータ
ー方式の自動車車庫につき,東日本大震災においても入庫車の落下事故が
発生していないとの報告を受けている旨を回答したものであることが明ら
かであって(甲15),原告らの上記主張は,その前提を欠くものという
べきである。
(2)本件マンションが周辺の交通に悪影響を及ぼす旨の原告らの主張について
ア証拠(甲16,乙1,乙2,乙14,丙2)及び弁論の全趣旨によれば,
東京都知事においては,本件交通検討調査を基礎とし,また,警視庁交通
部交通規制課から,本件マンションに設置される本件車庫等について,現
状においては交通安全上の支障はないものと認められる旨の意見を得た上
で,周辺の交通に与える影響という観点から見ても,本件マンションにつ
き法48条6項ただし書にいう「第二種住居地域における住居の環境を害
するおそれ」がないと判断したものであることが認められる。
イ(ア)そして,本件交通検討調査(乙2,乙14)は,平成22年9月17
日(金曜日)及び同月19日(日曜日)のいずれも午前7時から午後7
時までの間,本件マンションの計画地の周辺において,自動車交通量調
査,渋滞状況調査,歩行者交通量調査,信号現示調査及び道路状況調査
(道路幅員,交通規制等の調査)を行った上で(なお,自動車交通量調
査,渋滞状況調査及び歩行者交通量調査が行われた地点は別紙9〔交通
実態調査地点位置図〕のとおりであり,また,信号現示調査は,自動車
交通量調査が行われた地点〔信号設置交差点のみ〕において行われたも
のである。),交通計画マニュアル(甲38はその一部)及び「平成2
0年度東京都市圏パーソントリップ調査」(東京都市圏交通計画協議
会)に基づいて本件マンション建築後の交通量を予測し,評価をしたも
のであり,そこでは,①ピーク時(一番増加交通量の多い1時間)にお
いて,本件マンションの敷地北側の出入口から出庫しα交差点方面へ向
かう自動車増加交通量は,平日で1時間当たり9台,休日で1時間当た
り10台と予測され,現況と本件マンションが建築された後の交差点需
要率の変化は,平日が0.515から0.520への増加,休日が0.
243から0.247への増加であり,いずれも,物理的に交差点の改
良が必要かどうかの基準値(0.9が目安とされる)を超過せず,各レ
ーン(車線)における開発後交通量も,交通容量(現在の信号青時間で
通過可能な交通量)を超過しない(混雑度1.0未満)との予測が示さ
れており,②また,本件車庫を含む本件マンションの敷地内の駐車施設
の処理能力について,本件マンションの住戸数を本件建築計画における
585戸よりも多い600戸とし,4基が計画されている本件車庫の機
械式駐車場のうち3基が稼働しているものと仮定して検証がされ,ピー
ク時の来館車両台数(平日につき1時間当たり21台,休日につき1時
間当たり24台)が駐車場の平均処理能力(1時間当たり42台)を下
回り,敷地外に入庫待ちの車両は発生せず,ピーク時の来館車両間隔
(平日につき170秒に1台,休日につき150秒に1台)が駐車場内
所要時間(1台当たり60秒)を上回り,敷地外に入庫待ち車両の滞留
が発生しないとの結果が示されているものであって,本件交通検討調査
において用いられている評価の手法それ自体に格別不合理な点はない。
(イ)この点,原告らは,本件交通検討調査の内容に関連して,①原告ら居
住マンションと本件マンションが隣接していること等からすれば,住民
の居住スタイルはほぼ同様であるというべきところ,原告交通調査に照
らせば,本件交通検討調査における休日のピーク時の車両の出入庫台数
は,実際とはかけ離れた数字であり,平日のピーク時の本件駐車場の車
両の出入庫台数についても,本件マンションから都内に向かうルートを
とることができるのは北側出入口のみであることを考えれば,出入庫が
北側出入口に集中することは明らかである,②原告交通調査において示
されているα交差点周辺の交通量に本件マンションの北側出入口から出
庫する車両が加わると,同交差点の周辺環境が劇的に変化することは明
らかである上,本件マンション北側道路の歩道は通学路となっており,
上記のような状況から生ずる渋滞が,学童の通学への支障や事故の発生
率の増加という形で,学童の安全かつ円滑な通学に影響することは必至
である,③本件交通検討調査では,α交差点の交差点需要率を導くに当
たり,実際の当該交差点サイクル長,有効青時間をどのように設定した
のかが不明であり,現況交通状況の予測が計算されている点についても,
常時同じでない信号サイクルと12時間断面交通量との整合性をどのよ
うに図ったのか等に疑問がある,④本件マンションの西側の車両出入口
が面するのは幹線道路(晴海通り)であり,当該出入口が設けられれば,
晴海通りの交通に支障が生じ,また,晴海通りの交通状況によってはそ
こからの出入りがしにくい状態となり,北側出入口に車両の出入庫が集
中するおそれがあり,交通計画マニュアルにも,「原則として幹線道に
直接入口を設けないこと」との記載があるなどと主張する。
しかし,上記①の原告らの主張については,本件マンションの入居者
の行動様式等に関しては,その年齢,家族構成,職業等の要因によって
様々なものが想定し得るのであって,原告ら指摘の事情によっても,原
告ら居住マンションと本件マンションの住民の居住スタイルがほぼ同様
であるとの想定をしなければ当然に不合理であるとか,平日のピーク時
に本件マンションの住民の車両がこぞって原告らのいう「都心」に向か
い,車両の出入庫が北側出入口のみに集中するとの想定をしなければ当
然に不合理であるものと断ずるには足りず,本件交通検討調査における
前記(ア)①のような自動車増加交通量の予測が明白に不合理であるとは
いえない。また,上記②の原告らの主張については,原告交通調査の結
果によっても,1回の信号の変化で当該信号により交通整理がされてい
るα交差点を通過することができない車両が生じたのは,1時間30分
(上記主張に係る原告交通調査は,平日である平成25年5月22日の
午前6時40分から午前8時10分に行われたものであるところ〔甲2
9〕,本件交通検討調査の際の平日の当該信号のサイクル長〔120秒。
乙14〕を前提にすれば,その間の信号の変化は合計45回となる。)
の間に5回にとどまっていたこと(甲29)や,本件交通検討調査にお
ける前記(ア)①のような自動車増加交通量の予測に鑑みれば,にわかに
は採用することができない。さらに,上記③の原告らの主張については,
証拠(乙14)によれば,本件交通検討調査では,α交差点の交差点需
要率を導くに当たり,前記(ア)の信号現示調査の際の同交差点のサイク
ル長及び有効青時間(乙14の15頁)を用いたものであることが明ら
かであり,本件マンションが完成した後の交通量の予測自体,種々の不
確定要素に左右される可能性のある程度幅のあるものであると言わざる
を得ないことからすれば,上記のような信号のサイクル長等を用いて予
測を行ったことが不合理であるとは断じ難いものというべきである。そ
して,上記④の原告らの主張については,原告ら引用の交通計画マニュ
アルの記載(甲38)は,幹線道路に面してマンションの出入口を設け
ることを全く認めない趣旨のものではないことが明らかである上,上記
①の原告らの主張に関して述べたところからすれば,具体的な根拠に基
づかない一般的な可能性を述べる以上のものではないものというべきで
ある。
そして,その他,本件において提出されている全ての証拠を検討して
も,本件交通検討調査の内容が明らかに不合理なものであるとは認め難
いものというべきである。
ウ以上述べたところからすれば,前記アのような東京都知事の判断をもっ
て,その裁量権の範囲から逸脱したものとは認め難いものというべきであ
る。
(3)小括
以上の次第であって,本件許可処分1が違法である旨をいう原告らの主張
は採用することができず,また,本件において提出されている全ての証拠を
検討しても,本件許可処分1の適法性を疑わせるに足りるような事情は見当
たらない。したがって,本件許可処分1は,適法なものというべきである。
4本件許可処分2の適法性(争点4)について
(1)法52条14項1号にいう「同一敷地内の建築物の機械室その他これに類
する部分…の床面積の合計の建築物の延べ面積に対する割合が著しく大きい
場合」について
法52条14項が,同項1号に該当する建築物で,特定行政庁が交通上,
安全上,防火上及び衛生上支障がないと認めて許可したものの容積率につき,
上記許可の範囲内において,同条1項から9項までの規定による限度を超え
るものとすることができるものとしているのは,環境負荷の低減等の公益的
な要請に照らして必要な設備等の設置を促進するとの趣旨を含むものと解さ
れるから,同項1号にいう「同一敷地内の建築物の機械室その他これに類す
る部分…の床面積の合計の建築物の延べ面積に対する割合が著しく大きい場
合」には,建築物に一般的に設けられるものではないが,その設置を促進す
る必要性の高い機械室等を建築物に設置する場合が含まれるものというべき
である(国交省運用もこれと同趣旨の見解に立つものである。)。
そして,本件マンションには,給湯器認定要綱2条1号に定める「CO2
を冷媒とするヒートポンプ機能を有する電気給湯器」に該当するものとして
「家庭用高効率給湯器」に認定されている電気給湯器が設置されることが計
画されており(電気給湯器設置部分の床面積の合計は956.61㎡。乙5
~7,弁論の全趣旨),上記のような機能を有する電気給湯器は,現状にお
いては,建築物に一般的に設けられるものとはいえない(だからこそ,被告
東京都において,家庭用高効率給湯器の普及促進を図ることを目的として,
給湯器認定要綱を定めることが必要とされた〔給湯器認定要綱1条参照〕も
のと考えられる。)から,本件マンションについては,法52条14項1号
にいう「同一敷地内の建築物の機械室その他これに類する部分…の床面積の
合計の建築物の延べ面積に対する割合が著しく大きい場合」に該当するもの
というべきである。
(2)法52条14項にいう「交通上,安全上,防火上及び衛生上支障がない」
ことについて
ア原告らは,①本件許可処分2による容積率の緩和により,晴海通りから
6.4mしか離れないところに高さ150m長さ50mもの外壁の計画が
可能となり,200戸を超えるベランダ付きの住戸が晴海通りに面するこ
ととなって,晴海通りへの落下物の危険性が増大した,②本件マンション
のバルコニー床面から二段手すりまでの高さは1150mm,二段手すり
上部からトップレールまでの距離は高さ200mm,横方向に250mm
しかなく,この高さでは,小学生の身長であれば容易に手すりに手を掛け
てその上に身を乗り出すことができ,何らかの原因で物を落としてしまう
危険性が高く,子どもの落下の危険性も高まったなどとして,本件許可処
分2は,「交通上,安全上,防火上及び衛生上支障がない」との許可要件
を欠く違法なものというべきであるなどと主張する。
イしかし,①本件において提出されている全ての証拠を検討しても,本件
許可処分2により本件マンションの容積率が緩和されたことに伴って,本
件許可処分2がされなかった場合と比較して,本件マンションからの落下
物の危険性が,原告らの法律上の利益に具体的に影響するほど増加したも
のとは認めるに足りないから,原告らの上記①の主張は,その前提を欠く
ものというべきであり,②原告らの上記②の主張についても,本件マンシ
ョンのバルコニーの二段手すりの下段の手すりの高さ(1150mm)や
その構造等(乙9)をもって,人の転落等の防止といった目的に照らして
不合理なものであるとはいい難く,一般的な可能性の主張の域を出るもの
ではないものというべきであって,いずれも採用し難いものというほかな
い。
そして,本件において提出されている全ての証拠を検討しても,本件マ
ンションについて「交通上,安全上,防火上及び衛生上支障がない」もの
として本件許可処分2をした東京都知事の判断をもって,裁量権の範囲か
ら逸脱するものであると評価すべき事情はうかがわれない。
(3)小括
以上のとおりであるから,争点4に関する原告らの主張が「自己の法律上
の利益に関係のない違法」を理由として本件許可処分2の取消しを求めるも
の(行政事件訴訟法10条1項)であるか否かや,原告らが主張する事項が
法52条14項1号の許可に関して審査されるべき事項に当たるか否かはと
りあえずおくとしても,本件許可処分2は適法なものというべきである。
5本件確認処分2の適法性(争点6のうち本件において検討することを要する
部分)について
(1)本件確認処分2の固有の違法事由の主張について
ア施行令119条違反の主張について
施行令119条は,速やかな避難を実現するために廊下の幅の最低限の
基準を定めるものであり,同条が本件マンションのような建築物の両側に
居室がある廊下についてその他の廊下より広い1.6mの幅を要するもの
としているのは,廊下の両側に住戸が並んでいる場合に生ずる通行量の負
荷等の増大を考慮したものと考えられる。
そして,証拠(甲3,甲4の1・1,甲6,丙9)及び弁論の全趣旨に
よれば,本件マンションの3階から43階までにおいては,南から北に向
かって「80K」タイプ,「80I」タイプ及び「90A」タイプの各居
室が並び,これらの居室の東側に南北に走る幅員1.3mの廊下が設けら
れ,当該廊下は,「90A」タイプの居室の出入口よりも北側で東側に向
かって90cm折れ曲がり,その突き当たりが「90A」タイプの居室の
東側に位置する「90E」タイプの居室につながっており,「80K」タ
イプ及び「80I」タイプの各居室の前の廊下の東側は吹抜け部分ないし
エレベーターホール等につながる廊下となっているものと認められ,この
ような上記廊下の構造及び既に述べた施行令119条の趣旨に照らすと,
上記廊下は「両側に居室がある廊下」には該当しないものと認めるのが相
当である。そうすると,上記廊下については,1.2mの幅があれば同条
に適合するものということができるところ,その幅は,既に述べたとおり
1.3mであるから,上記廊下は,同条に適合するものというべきである。
この点,原告らは,①当該廊下の「東側に折れ曲がった」部分は,ドア
の開閉に必要な部分であって,不特定多数の人の通行が予定される共用廊
下とはいい難い,②南から北に延びる廊下の突き当たりにはバルコニーの
出入口が計画されており,災害時にはバルコニーから屋内へ多くの避難者
が押し寄せることも想定されるなどと主張する。しかし,既に述べたよう
な上記廊下の構造等に照らせば,原告ら指摘の部分も共用廊下であるとい
うことを妨げないものというべきである(原告らの論ずるところに従えば,
「80K」タイプ,「80I」タイプ及び「90A」タイプの各居室東側
の廊下のうち,これらの居室のドアの開閉に必要な部分も共用廊下でない
といわなければ一貫しないことになるが,そのような考え方が失当である
ことは明らかである。)から,原告らの上記①の主張は採用することがで
きず,また,上記②の主張については,施行令119条の規定する要件と
は直接関係のない事情をいうものであることが明らかであって,やはり採
用することができないものというべきである。
イ施行令120条違反の主張について
(ア)施行令120条は,建築物の避難階以外の上層階や地階においては,
その階に設けられた避難階又は地上に通ずる直通階段から各居室の最も
遠い部分までの歩行距離が一定の範囲内にないと,非常時に速やかに避
難することができないことから,直通階段(その付室やバルコニーにつ
いても,避難上安全な空間としての機能を有するものであるから,直通
階段に含まれるものと解される。)から各居室の最も遠い部分までの歩
行距離の上限を定めたものと解されるところ,特殊建築物等の避難に関
する技術的基準の1つを成すという同条の性質に照らせば,同条の定め
る歩行距離は,各居室の具体的な使用状況等によって左右されないもの
というべきであるから,上記の歩行距離は,各居室の最も遠い部分まで
の最短距離を指し,居室内の家具等の存在は考慮する必要がないものと
解するのが相当である。
(イ)施行令120条1項の表の(二)及び同条2項本文によれば,本件マン
ションの3階部分については,居室から直通階段までの歩行距離は60
mを超えてはならないところ,原告らは,本件集会室には家具の配置が
予定されていることからすれば,そこから直通階段までの歩行距離はそ
のことを考慮して算定すべきであるなどとして,本件集会室から直通階
段までの歩行距離は60mを超えると主張するが,前記(ア)において述
べたところからすれば,原告らの上記主張は,その前提を欠くものとい
うべきである。そして,前記(ア)において述べたところ及び証拠(甲4
の2,乙1,丙2,丙12)によれば,本件マンション3階の本件集会
室から直通階段までの歩行距離は60mを超えるものではないと認めら
れる。
(ウ)また,建築基準法施行令120条1項の表の(二)及び同条2項ただし
書によれば,本件マンションの43階部分については,居室から直通階
段までの歩行距離は50mを超えてはならないところ,証拠(甲4の2,
甲6,乙1,丙2,丙9,丙12)及び弁論の全趣旨によれば,43階
部分の居室から直通階段までの歩行距離は50m以内であるものと認め
られる。
原告らは,43階部分の避難経路について,直通階段まで50m以内
となるように避難経路の計算をすると,廊下の手すりから20cm程度
のところ(なお,被告Bの主張における「廊下の壁から30cm程度の
ところ」もこれと同趣旨をいうものと解される。)を歩行する必要があ
るが,その部分は人が現実的に通行不可能であり,本件マンションの4
3階部分の居室から直通階段までの歩行距離は,廊下の中心線をもって
算定すべきであるとした上で,本件マンションの43階部分の居室から
直通階段までの距離は50mを超えるなどと主張するが,火災の際の煙
等によって視界が不十分な場合等のことを考えれば,廊下の壁伝いに避
難をすることも十分に想定し得るところであって,原告らの上記主張は,
採用することができない。
(オ)以上のとおりであるから,原告らの本件許可処分2が施行令120条
に違反する旨の主張は,採用することができない。
ウ安全条例8条1項違反の主張について
原告らは,安全条例8条1項は,「避難階における屋内の直通階段から
屋外への出口に至る経路の部分…を,道路まで有効に避難できるように,
屋内の他の部分と耐火構造の壁…で区画しなければならない。」と定める
ところ,1階平面図(甲8の1・2)によれば,「風除室(1)」の東側
壁が耐火構造の壁ではないから,本件確認処分2は同項に違反するもので
あるなどと主張する。
しかし,証拠(甲8の1・2,丙12)及び弁論の全趣旨によれば,原
告らが指摘する1階「風除室(1)」は,同項にいう「避難階における屋内
の直通階段から屋外への出口に至る経路の部分」であるエントランスホー
ルの一部を成すものというべきであるから,原告らの上記主張は,その前
提を欠くものであって,採用することができない。
エ安全条例19条1項及び28条2項違反の主張について
原告らは,本件マンションにおいては,機械式駐車場(本件車庫)の前
面空地(6m×6m)と窓先空地(4m×4m)とが一部重なり合い,兼
用されているところ,両者の兼用は認められないものというべきであるか
ら,本件確認処分2は,安全条例19条及び28条2項に違反する旨を主
張する。
しかし,安全条例における窓先空地に関する規定(同条例19条1項2
号ロ)は,居住環境の悪化の防止及び災害時の避難確保のために設けられ
たものであるところ,前面空地(同条例28条2項)が,自動車を昇降さ
せる設備を設ける自動車車庫等への入庫を待つ自動車が一時的に待機する
ためのスペースであり,大部分の時間は空地の状態であることが想定され
るものと考えられることや,同条例において,自動車を昇降させる設備を
設ける自動車車庫等の前面空地と窓先空地とを兼用させることを禁ずる規
定が特に見当たらないことに照らせば,同条例は,両者を兼用させること
を許容しているものと解するのが相当である。したがって,原告らの上記
主張は,採用することができない。
オ本件告示第4の2号違反の主張について
証拠(丙11,丙13)によれば,本件マンションの吹抜け部分につい
ては,本件告示にいう特定光庭に該当しないものと認められ,この点に関
する原告らの主張は,採用することができない。
(2)本件許可処分1及び2の違法性が本件確認処分2に承継される旨の主張に
ついて
本件許可処分1及び2が適法なものであることは,前記3及び4において
述べたとおりであるから,本件許可処分1及び2の違法性が本件確認処分2
に承継される旨の原告らの主張は,その前提を欠くものであって,採用する
ことができない。
(3)小括
以上のとおりであって,争点6に関する原告らの主張が「自己の法律上の
利益に関係のない違法」を理由として本件確認処分2の取消しを求めるもの
(行政事件訴訟法10条1項)であるか否か(争点5)はとりあえずおくと
しても,本件確認処分2の違法をいう原告らの主張は,いずれも採用するこ
とができず,本件において提出された全ての証拠を検討しても,本件確認処
分2の適法性を左右するに足りる事情は見当たらない。したがって,本件確
認処分2は,適法なものというべきである。
6結論
以上の次第であって,①本件各訴えのうち本件確認処分1の取消しを求める
部分並びに原告Aの本件訴えのうち本件許可処分1及び2の取消しを求める部
分は,いずれも不適法であるから,これらを却下することとし,②本件各訴え
のその余の部分に係る原告らの請求は,いずれも理由がないから,これらを棄
却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官田中一彦
裁判官川嶋知正
(別紙2)
建築物等に関する事項1
1地名地番
東京都江東区α×番6
2住居表示
東京都江東区α×番
3都市計画区域及び準都市計画区域の内外の別等
都市計画区域内(市街化区域)
4防火地域
防火地域
5その他の区域,地域,地区又は街区
高層住居誘導地区,α地区地区計画区域
6道路
幅員:39.93m
敷地と接している部分の長さ:174.46m
7敷地面積
敷地面積:7541.44㎡
用途地域等:第2種住居
法52条1項及び第2項の規定による容積率:400%
法53条1項の規定による建ぺい率:60%
敷地に建築可能な延べ面積を敷地面積で除した数値:599.13%
敷地に建築可能な建築面積を敷地面積で除した数値:80%
8主要用途
共同住宅
9工事種別
新築
10建築面積
建築面積:3457.95㎡
建ぺい率:45.85%
11延べ面積
建築物全体:6万1418.57㎡
地階の住宅の部分:0.00㎡
共同住宅の共用の廊下等の部分:7957.49㎡
自動車車庫等の部分:7329.33㎡
住宅の部分:4万0701.22㎡
延べ面積:4万6131.75㎡
容積率:611.71%
12建築物の数

13建築物の高さ等
最高の高さ:158.90㎡
階数:地上43階,地下0階
構造:鉄筋コンクリート造,一部鉄骨造
法56条7項の規定による特例の適用の有無及び特例の区分:あり(隣地高
さ制限不適用)
14許可・認定等
法48条6項の適用による許可申請:許可通知書・平成23年6月13日2
2都市建指建第1871号(本件許可処分1)
法52条14項の適用による許可申請:許可通知書・平成23年6月13日
22都市建指建第2106号(本件許可処分2)
α地区地区計画:平成11年11月15日
法68条の26第1項の規定に基づく認定:認定書・平成23年7月12日
国住指第292号
15工事着手予定年月日
平成23年7月29日
16工事完了予定年月日
平成26年3月31日
17特定行程工事終了予定年月日(特定行程)
第1回:平成24年2月15日(基礎配筋完了予定日)
第2回:平成24年6月1日(2階床梁配筋完了予定日)
以上
(別紙3)
建築物等に関する事項2
1地名地番
別紙2記載1のとおり。
2住居表示
別紙2記載2のとおり。
3都市計画区域及び準都市計画区域の内外の別等
別紙2記載3のとおり。
4防火地域
別紙2記載4のとおり。
5その他の区域,地域,地区又は街区
別紙2記載5のとおり。
6道路
別紙2記載6のとおり。
7敷地面積
別紙2記載7のとおり。
8主要用途
別紙2記載8のとおり。
9工事種別
別紙2記載9のとおり。
10建築面積
別紙2記載10のとおり。
11延べ面積
建築物全体:6万1418.26㎡
地階の住宅の部分:0.00㎡
共同住宅の共用の廊下等の部分:7958.39㎡
自動車車庫等の部分:7328.13㎡
住宅の部分:4万0701.22㎡
延べ面積:4万6131.74㎡
容積率:611.70%
12建築物の数
別紙2記載12のとおり。
13建築物の高さ等
別紙2記載13のとおり。
14許可・認定等
別紙2記載14のとおり。
15工事着手予定年月日
別紙2記載15のとおり。
16工事完了予定年月日
別紙2記載16のとおり。
17特定行程工事終了予定年月日(特定行程)
別紙2記載17のとおり。
18その他必要な事項
1階:SK扉(風除室2付近)防火設備表示の追記
3階:プラン変更(スタジオ→蓄電池室へ変更,自家用電気室の面積変更),
茶室防火区画表示の追記
3階:プラン変更等に伴う面積の変更
以上
(別紙4)
関係法令等の定め
1法の定め
(1)建築物の建築等に関する申請及び確認
法6条1項は,①建築主は,同項1号から3号までに掲げる建築物を建築
しようとする場合(増築しようとする場合においては,建築物が増築後にお
いて上記各号に掲げる規模のものとなる場合を含む。)等においては,当該
工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定(法並びにこれに基づく
命令及び条例の規定〔以下「建築基準法令の規定」という。〕その他建築物
の敷地,構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の
規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることに
ついて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け,確認済証の交付を
受けなければならない(前段)旨及び②当該確認を受けた建築物の計画の変
更(国土交通省令で定める軽微な変更を除く。)をして,同項1号から3号
までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合におい
ては,建築物が増築後において上記各号に掲げる規模のものとなる場合を含
む。)等も同様とする(後段)旨をそれぞれ定めるとともに,③同項3号に
おいて,木造以外の建築物で二以上の階数を有し,又は延べ面積が200㎡
を超えるものを掲げている。
(2)国土交通大臣等の指定を受けた者による確認
法6条の2第1項は,法6条1項各号に掲げる建築物の計画(同条3項各
号のいずれかに該当するものを除く。)が建築基準関係規定に適合するもの
であることについて,法77条の18から77条の21までの規定の定める
ところにより国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者の確認を受け,国
土交通省令で定めるところにより確認済証の交付を受けたときは,当該確認
は法6条1項の規定による確認と,当該確認済証は同項の確認済証とみなす
旨を定めている。
(3)用途地域等
法48条6項は,①第二種住居地域内においては,法別表第2(へ)項に
掲げる建築物は建築してはならない(本文)が,②特定行政庁が第二種住居
地域における住居の環境を害するおそれがないと認め,又は公益上やむを得
ないと認めて許可した場合においては,この限りでない(ただし書)旨を定
めている。
そして,同別表第2(へ)項4号は,自動車車庫で床面積の合計が300
㎡を超えるもの又は3階以上の部分にあるもの(建築物に附属するもので政
令で定めるもの又は都市計画として決定されたものを除く。)を掲げている。
(4)容積率
ア法52条1項本文は,建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合(以下
「容積率」という。)は,次の各号に掲げる区分に従い,当該各号に定め
る数値以下でなければならない(本文)が,当該建築物が同項5号に掲げ
る建築物である場合において,同条3項の規定により建築物の延べ面積の
算定に当たりその床面積が当該建築物の延べ面積に算入されない部分を有
するときは,当該部分の床面積を含む当該建築物の容積率は,当該建築物
がある第一種住居地域,第二種住居地域,準住居地域,近隣商業地域又は
準工業地域に関する都市計画において定められた同条1項2号に定める数
値の1.5倍以下でなければならない(ただし書)旨を定めている。
2号第一種中高層住居専用地域若しくは第二種中高層住居専用地域内
の建築物又は第一種住居地域,第二種住居地域,準住居地域,近隣
商業地域若しくは準工業地域内の建築物(法52条1項5号に掲げ
る建築物を除く。)10分の10,10の15,10分の20,
10分の30,10分の40又は10分の50のうち当該地域に関
する都市計画において定められたもの
5号高層住居誘導地区内の建築物であって,その住宅の用途に供する
部分の床面積の合計がその延べ面積の3分の2以上であるもの(当
該高層住居誘導地区に関する都市計画において建築物の敷地面積の
最低限度が定められたときは,その敷地面積が当該最低限度以上の
ものに限る。)当該建築物がある第一種住居地域,第二種住居地
域,準住居地域,近隣商業地域又は準工業地域に関する都市計画に
おいて定められた法52条1項2号に定める数値から,その1.5
倍以下で当該建築物の住宅の用途に供する部分の床面積の合計のそ
の延べ面積に対する割合に応じて政令で定める方法により算出した
数値までの範囲内で,当該高層住居誘導地区に関する都市計画にお
いて定められたもの
その余の号(省略)
イ法52条8項は,①その全部又は一部を住宅の用途に供する建築物であ
って同項各号に掲げる条件に該当するものについては,当該建築物がある
地域に関する都市計画において定められた同条1項2号又は3号に定める
数値の1.5倍以下で当該建築物の住宅の用途に供する部分の床面積の合
計のその延べ面積に対する割合に応じて政令で定める方法により算出した
数値(特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内に
あって,当該都市計画において定められた数値から当該算出した数値まで
の範囲内で特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て別に定めた数
値)を同項2号又は3号に定める数値とみなして,同項及び同条3項から
7項までの規定を適用する(本文)が,②当該建築物が同条3項の規定に
より建築物の延べ面積の算定に当たりその床面積が当該建築物の延べ面積
に算入されない部分を有するときは,当該部分の床面積を含む当該建築物
の容積率は,当該建築物がある地域に関する都市計画において定められた
同条1項2号又は3号に定める数値の1.5倍以下でなければならない
(ただし書)旨を定めている。
1号第一種住居地域,第二種住居地域,準住居地域,近隣商業地域若
しくは準工業地域(高層住居誘導地区及び特定行政庁が都道府県都
市計画審議会の議を経て指定する区域を除く。)又は商業地域(特
定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域を除
く。)内にあること。
2号その敷地内に政令で定める規模以上の空地(道路に接して有効な
部分が政令で定める規模以上であるものに限る。)を有し,かつ,
その敷地面積が政令で定める規模以上であること。
ウ法52条14項は,同項各号のいずれかに該当する建築物で,特定行政
庁が交通上,安全上,防火上及び衛生上支障がないと認めて許可したもの
の容積率は,同条1項から9項までの規定にかかわらず,その許可の範囲
内において,これらの規定による限度を超えるものとすることができる旨
を定めている。
1号同一敷地内の建築物の機械室その他これに類する部分(以下「機
械室等」という。)の床面積の合計の建築物の延べ面積に対する割
合が著しく大きい場合におけるその敷地内の建築物
2号その敷地の周囲に広い公園,広場,道路その他の空地を有する建
築物
(5)指定確認検査機関
ア法77条の18第1項は,法6条の2第1項(法87条1項,87条の
2又は88条1項若しくは2項において準用する場合を含む。以下法77
条の18第1項において同じ。)等の規定による指定は,法6条の2第1
項の規定による確認等(以下「確認検査」という。)の業務を行おうとす
る者の申請により行う旨を定めている。
イ法77条の21第1項は,国土交通大臣又は都道府県知事は,前記アの
指定をしたときは,指定を受けた者(指定確認検査機関)の名称及び住所,
指定の区分,業務区域並びに確認検査の業務を行う事務所の所在地を公示
しなければならない旨を定めている。
(6)許可又は確認に関する消防長等の同意等
法93条1項本文は,特定行政庁,建築主事又は指定確認検査機関は,法
の規定による許可又は確認をする場合においては,当該許可又は確認に係る
建築物の工事施工地又は所在地を管轄する消防長(消防本部を置かない市町
村にあっては,市町村長。以下同じ。)又は消防署長の同意を得なければ、
当該許可又は確認をすることができない旨を定めている。
(7)不服申立て
法94条1項は,建築基準法令の規定による特定行政庁,建築主事若しく
は建築監視員又は指定確認検査機関の処分又はこれに係る不作為に不服があ
る者は,行政不服審査法3条2項に規定する処分庁又は不作為庁が,特定行
政庁,建築主事又は建築監視員である場合にあっては当該市町村又は都道府
県の建築審査会に,指定確認検査機関である場合にあって当該処分又は不作
為に係る建築物又は工作物について法6条1項(法87条1項,87条の2
又は88条1項若しくは2項において準用する場合を含む。)の規定による
確認をする権限を有する建築主事が置かれた市町村又は都道府県の建築審査
会に対して審査請求をすることができる旨を定めている。
(8)審査請求と訴訟との関係
法96条は,法94条1項に規定する処分の取消しの訴えは,当該処分に
ついての審査請求に対する建築審査会の裁決を経た後でなければ,提起する
ことができない旨を定めている。
2施行令の定め
(1)廊下の幅
施行令119条は,廊下の幅はそれぞれ次の表に掲げる数値以上としなけ
ればならない旨を定めている。
廊下の配置/廊下の用途両側に居室がある廊
下における場合
その他の廊下にお
ける場合
小学校,中学校,高等学校又は中
等教育学校における児童用又は生
徒用のもの
2.3m1.8m
病院における患者用のもの,共同
住宅の住戸若しくは住室の床面積
の合計が100㎡を超える階にお
ける共用のもの又は三室以下の専
用のものを除き居室の床面積の合
計が200㎡(地階にあっては1
00㎡)を超える階におけるもの
1.6m1.2m
(2)直通階段の設置
ア施行令120条1項は,建築物の避難階以外の階(地下街におけるもの
を除く。)においては,避難階又は地上に通ずる直通階段(傾斜路を含む。
以下同じ。)を居室の各部分からその一に至る歩行距離が次の表の数値以
下となるように設けなければならない旨を定めている。
構造/居室の種類主要構造部が準耐火
構造であるか又は不
燃材料で造られてい
る場合
左欄に掲げる場合
以外の場合
(一)施行令116条の2第130m30m
項1号に該当する窓その
他の開口部を有しない居
室又は法別表第1(い)
欄(四)項に掲げる用途
に供する特殊建築物の主
たる用途に供する居室
(二)法別表第1(い)欄(二)
項に掲げる用途に供する
特殊建築物の主たる用途
に供する居室
50m30m
(三)(一)又は(二)に掲げ
る居室以外の居室
50m40m
イ施行令120条2項は,主要構造部が準耐火構造であるか又は不燃材料
で造られている建築物の居室で,当該居室及びこれから地上に通ずる主た
る廊下,階段その他の通路の壁(床面からの高さが1.2m以下の部分を
除く。)及び天井(天井のない場合においては,屋根)の室内に面する部
分(回り縁,窓台その他これらに類する部分を除く。)の仕上げを準不燃
材料でしたものについては,同条1項の表の数値に10を加えた数値を同
項の表の数値とするが(本文),15階以上の階の居室については,この
限りでない(ただし書)旨を定めている。
(3)第二種住居地域内に建築することができる附属自動車車庫
施行令130条の8は,法別表第2(へ)項4号(法87条2項又は3項
において法48条6項の規定を準用する場合を含む。)の規定により政令で
定める建築物に附属する自動車車庫は,施行令130条の8各号に掲げるも
のとする旨を定めている。
1号床面積の合計に同一敷地内にある建築物に附属する自動車車庫の用
途に供する工作物の築造面積を加えた値が当該敷地内にある建築物
(自動車車庫の用途に供する部分を除く。)の延べ面積の合計を超え
ないもの(3階以上の部分を自動車車庫の用途に供するものを除
く。)
2号(省略)
3安全条例(甲17)の定め
(1)直通階段からの避難経路
安全条例8条1項は,法又は安全条例の規定により主要構造部を耐火構造
としなければならない建築物で,地階又は3階以上の階に居室を有するもの
は,避難階における屋内の直通階段から屋外への出口に至る経路の部分(管
理事務室,守衛室その他当該建築物を管理する者が常時勤務する室〔こんろ
その他火を使用する設備又は器具を設けないものに限る。〕及び屋外の直通
階段から屋内を経て屋外への出口に至る経路のうち屋内の部分を含む。以下
同項において同じ。)を,道路まで有効に避難できるように,屋内の他の部
分と耐火構造の壁又は法2条9号の2ロに定める防火設備で施行令112条
14項2号に定めるもので区画しなければならない(本文)が,安全条例8
条1項各号に該当する建築物の部分については,この限りでない(ただし
書)旨を定めている。
1号直通階段で施行令112条9項ただし書に規定する建築物の部分に
該当するもの
2号避難階における屋内の直通階段から屋外への出口に至る経路の部分
で,スプリンクラー設備,水噴霧消火設備,泡消火設備その他これら
に類するもので自動式のもの及び施行令126条の3の規定に適合す
る排煙設備を設け,その部分の壁及び天井(天井のない場合において
は,屋根)の室内に面する部分(回り縁,窓台その他これらに類する
部分を除く。)の仕上げを準不燃材料でし,かつ,避難上支障がない
もの
(2)共同住宅等の居室
安全条例19条1項は,共同住宅の住戸若しくは住室の居住の用に供する
居室のうち一以上,寄宿舎の寝室又は下宿の宿泊室は,同項各号に定めると
ころによらなければならない旨を定めている。
2号次のイ又はロの窓を設けること。
イ道路に直接面する窓
ロ窓先空地(通路その他の避難上有効な空地又は特別避難階段若し
くは地上に通ずる幅員90cm以上の専用の屋外階段に避難上有効
に連絡する下階の屋上部分で,住戸等の床面積の合計に応じて,次
の表に定める幅員以上のものをいう。以下同じ。)に直接面する窓
住戸等の床面積の合計幅員
100㎡以下のもの1.5m
100㎡を超え,300㎡以下のもの2m
300㎡を超え,500㎡以下のもの3m
500㎡を超えるもの4m
この表において,住戸等の床面積の合計の欄の数値は,耐火建築物
にあっては,この表の数値の2倍とする。
1号及び3号(省略)
(3)敷地から道路への自動車の出入口
安全条例27条は,自動車車庫等の用途に供する建築物の敷地には,自動
車の出入口を同条各号に掲げる道路のいずれかに面して設けてはならない
(本文)が,交通の安全上支障がない場合は,同条5号を除き,この限りで
ない(ただし書)旨を定めている。
1号道路の交差点若しくは曲がり角,横断歩道又は横断歩道橋(地下横
断歩道を含む。)の昇降口から5m以内の道路
2号勾配が8分の1を超える道路
3号道路上に設ける電車停留場,安全地帯,橋詰め又は踏切から10m
以内の道路
4号児童公園,幼稚園,小学校,特別支援学校,児童福祉施設,老人ホ
ームその他これらに類するものの出入口から20m以内の道路
5号1号から4号までに掲げるもののほか,東京都知事が交通上支障が
あると認めて指定した道路
(4)前面空地
ア安全条例28条1項は,自動車車庫等の敷地からの自動車の出入口は,
道路との境界線から2m後退した自動車の車路の中心線において,道路の
中心線に直角に向かって,左右それぞれ60度以上前面道路の通行の見通
しができる空地又は空間を有しなければならない(本文)が,交通の安全
上支障がない場合は,この限りでない(ただし書)旨を定めている。
イ安全条例28条2項は,自動車を昇降させる設備を設ける自動車車庫等
における当該設備の出入口は,奥行き及び幅員がそれぞれ6m以上(長さ
が5m以下の自動車用の設備にあっては,それぞれ5.5m以上とす
る。)の空地又はこれに代わる車路に面して設けなければならない旨を定
めている。
4消防法等の定め
(1)消防法17条1項は,学校,病院,工場,事業場,興行場,百貨店,旅館,
飲食店,地下街,複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるも
のの関係者は,政令で定める消防の用に供する設備,消防用水及び消火活動
上必要な施設(以下「消防用設備等」という。)について消火,避難その他
の消防の活動のために必要とされる性能を有するように,政令で定める技術
上の基準に従って,設置し,及び維持しなければならない旨を定めている。
(2)消防法施行令29条の4第1項は,消防法17条1項の関係者は,消防法
施行法第2章第3節第2款から第6款まで(10条から29条の3まで)の
規定により設置し,及び維持しなければならない同項に規定する消防用設備
等(以下「通常用いられる消防用設備等」という。)に代えて,総務省令で
定めるところにより消防長又は消防署長が,その防火安全性能(火災の拡大
を初期に抑制する性能,火災時に安全に避難することを支援する性能又は消
防隊による活動を支援する性能をいう。以下同じ。)が当該通常用いられる
消防用設備等の防火安全性能と同等以上であると認める消防の用に供する設
備,消防用水又は消火活動上必要な施設(以下「必要とされる防火安全性能
を有する消防の用に供する設備等」という。)を用いることができる旨を定
めている。
(3)特定共同住宅等における必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供
する設備等に関する省令(平成17年総務省令第40号。以下「本件省令」
という。)2条1号は,特定共同住宅等とは,消防法施行令別表第1(五)
項ロに掲げる防火対象物及び同表(十六)項イに掲げる防火対象物(同表
(五)項ロ並びに(六)項ロ及びハに掲げる防火対象物〔同表(六)項ロ及
びハに掲げる防火対象物にあっては,有料老人ホーム等に限る。以下同
じ。〕の用途以外の用途に供される部分が存せず,かつ,同表(六)項ロ及
びハに掲げる防火対象物の用途に供する各独立部分〔構造上区分された数個
の部分の各部分で独立して住居その他の用途に供されることができるものを
いう。以下同じ。〕の床面積がいずれも100㎡以下であるものに限る。)
であって,火災の発生又は延焼のおそれが少ないものとして,その位置,構
造及び設備について消防庁長官が定める基準に適合するものをいう旨を定め
ている。
5本件告示(甲18)の定め
(1)趣旨
本件告示第1は,同告示は,本件省令2条1号に規定する特定共同住宅等
の位置,構造及び設備を定めるものとする旨を定めている。
(2)用語の意義
ア本件告示第2の1号は,特定共同住宅等とは,本件省令2条1号に規定
する特定共同住宅等をいう旨を定めている。
イ本件告示第2の6号は,光庭とは,主として採光又は通風のために設け
られる空間であって,その周囲を特定共同住宅等の壁その他これに類する
ものによって囲まれ,かつ,その上部が吹抜きとなっているものをいう旨
を定めている。
ウ本件告示第2の7号は,避難光庭とは,光庭のうち,火災時に避難経路
として使用することができる廊下又は階段室等が,当該光庭に面して設け
られているものをいう旨を定めている。
エ本件告示第2の8号は,特定光庭とは,光庭のうち,本件告示第4の1
号に定めるところにより,当該光庭を介して他の住戸等へ延焼する危険性
が高いものであることについて確かめられたものをいう旨を定めている。
(3)特定光庭の基準等
ア本件告示第4の1号は,特定光庭は,次の(一)又は(二)に掲げる基準に
適合しない光庭をいうものとする旨を定めている。
(一)光庭に面する一の住戸等で火災が発生した場合において,当該火
災が発生した住戸等(以下「火災住戸等」という。)の全ての開口
部から噴出する火炎等の輻射熱により,当該火災住戸等以外の住戸
等の光庭に面する開口部が受ける熱量が10kw/㎡未満であるこ
と。
(二)光庭が避難光庭に該当する場合においては,当該避難光庭は,次
のイ及びロに定めるところによるものであること。
イ火災住戸等(避難光庭に面するものに限る。以下同じ。)の全
ての開口部から噴出する火炎等の輻射熱により当該避難光庭に面
する廊下及び階段室等を経由して避難する者が受ける熱量が3k
w/㎡未満であること。
ロ避難光庭にあっては次の(イ)及び(ロ)に定めるところによること。
(イ)避難光庭の高さを当該避難光庭の幅で除した値が2.5未満
であること。
(ロ)(イ)により求めた値が2.5以上の場合にあっては,火災住
戸等の全ての開口部から噴出する煙層の温度が4ケルビン以上
上昇しないこと。
イ本件告示第4の2号は,特定共同住宅等に特定光庭が存する場合にあっ
ては,当該光庭に面する開口部及び当該光庭に面する特定共同住宅等の住
戸等に設ける給湯湯沸設備等(対象火気設備等の位置,構造及び管理並び
に対象火気器具等の取扱いに関する条例の制定に関する基準を定める省令
〔平成14年総務省令第24号〕3条10号に規定する給湯湯沸設備及び
同条2号に規定するふろがまをいう。以下同じ。)は,次の(一)から(三)
までに定める基準に適合するものであることを要する旨を定めている。
(一)廊下又は階段室等が特定光庭に面して設けられている場合において,
当該特定光庭に面して設ける開口部は,次のイ及びロに定めるところ
によること。
イ特定光庭に面する一の開口部の面積が2㎡以下であり,かつ,一
の住戸等の開口部の面積の合計が4㎡以下であること。ただし,当
該開口部が設けられている住戸等に共同住宅用スプリンクラー設備
が設けられている場合にあっては,この限りでない。
ロ特定光庭の下端に設けられた開口部が,常時外気に開放され,か
つ,当該開口部の有効断面積の合計が,特定光庭の水平投影面積の
50分の1以上であること。
(二)特定光庭((一)に定めるものを除く。)に面する開口部にあって
は,次のイからニまでに定めるところによること。
イ開口部には,防火設備であるはめごろし戸が設けられていること。
ただし,次の(イ)又は(ロ)に定める特定光庭に面する住戸等の開口部
((ロ)の特定光庭に面するものにあっては,4階以下の階に存する
ものに限る。)に防火設備である防火戸を設ける場合にあっては,
この限りでない。
(イ)特定光庭に面して階段(平成14年消防庁告示第7号に適合す
る屋内避難階段等の部分に限る。)が設けられている当該特定光

(ロ)その下端に常時外気に開放された開口部(当該開口部の有効断
面積が1㎡以上のものに限る。)が存する特定光庭
ロ異なる住戸等の開口部の相互間の水平距離は,次の(イ)又は(ロ)に
定めるところによること。ただし,住戸等の開口部の上端から上方
に垂直距離1.5m(当該開口部に防火設備であるはめごろし戸が
設けられている場合にあっては,0.9m)以上の範囲にある他の
住戸等の開口部については,この限りでない
(イ)同一の壁面に設けられるもの(当該開口部相互間の壁面に0.
5m以上突出したひさし等で防火上有効に遮られている場合を除
く。)にあっては,0.9m以上
(ロ)異なる壁面に設けられるものにあっては,2.4m(当該開口
部に防火設備であるはめごろし戸が設けられている場合にあって
は,2m)以上
ハ異なる住戸等の開口部の相互間の垂直距離は,1.5m(当該開
口部に防火設備であるはめごろし戸が設けられている場合は,0.
9m)以上(同一壁面上の当該開口部相互間の壁面に0.5m以上
突出したひさし等で防火上有効に遮られている場合を除く。)であ
ること。ただし,同一の壁面に設けられる場合にあっては,当該開
口部の側端から水平方向に0.9m,異なる壁面に設けられる場合
にあっては,当該開口部の側端から2.4m(当該開口部に防火設
備であるはめごろし戸が設けられている場合にあっては,2m)以
上の範囲にある他の住戸等の開口部については,この限りでない。
ニ一の開口部の面積が1㎡以下であり,かつ,一の住戸等の一の階
の開口部の面積の合計が2㎡以下であること。
(三)特定光庭に面して給湯湯沸設備等を設ける場合は,次に定めるとこ
ろによること。
イ平成14年消防庁告示第7号に適合する屋内避難階段等の部分が
存する特定光庭に限り設置することができること。
ロ防火上有効な措置が講じられたものであること。
6「建築基準法第52条第14項第1号の規定に基づく東京都容積率の許可に
関する取扱基準」(平成16年3月4日付け東京都15都市建市第282号。
乙4。以下「本件取扱基準」という。)の定め
(1)本件取扱基準のⅡの2は,法52条14項1号の許可の対象となる建築物
又はその部分は次の各号に掲げるものとする旨を定めている。
(1)号機械室,変電施設その他これらに類する施設を有するもの
(2)号(省略)
(2)本件取扱基準のⅡの3は,法52条14項1号の許可の対象となる施設は
次の各号に掲げるものとする旨を定めている。
(1)号本件取扱基準のⅡの2(1)号に掲げる建築物に設けられる次の①
から⑯までのいずれかに該当する施設その他これらに類するもの
①~⑭(省略)
⑮東京都家庭用高効率給湯器認定要綱(平成21年11月10
日・21環都計第387号。乙6。以下「給湯器認定要綱」とい
う。)に基づき認定された機器
⑯(省略)
(2)号(省略)
7給湯器認定要綱の定め
給湯器認定要綱2条1号は,同要綱が対象とする家庭用高効率給湯器として,
「CO2を冷媒とするヒートポンプ機能を有する電気給湯器」を掲げている。
8駐車場法等の定め
(1)駐車場法11条は,路外駐車場で自動車の駐車の用に供する部分の面積が
500㎡以上であるものの構造及び設備は,法(建築基準法)その他の法令
の規定の適用がある場合においてはそれらの法令の規定によるほか,政令で
定める技術的基準によらなければならない旨を定めている。
(2)駐車場法施行令15条は,同施行令第2章第1節の規定(路外駐車場の構
造及び設備の基準に関する規定)は,その予想しない特殊の装置を用いる路
外駐車場については,国土交通大臣がその装置が同節の規定による構造又は
設備と同等以上の効力があると認める場合においては,適用しない旨を定め
ている。
(3)駐車場法施行令19条は,同施行令に規定する国土交通大臣の権限は,国
土交通省令で定めるところにより,その全部又は一部を地方整備局長又は北
海道開発局長に委任することができる旨を定めている。
以上
(別紙5)
物件目録1
1一棟の建物の表示
所在江東区α×番地3
建物の名称G
構造鉄筋コンクリート・鉄骨造陸屋根地下2階付45階建
床面積1階1636.88㎡
2階1560.33㎡
3階1228.34㎡
4階~15階いずれも1236.00㎡
16階~21階いずれも1237.28㎡
22階1297.71㎡
23階1238.96㎡
24階1297.71㎡
25階1271.49㎡
26階1257.42㎡
27階~35階いずれも1242.75㎡
36階~38階いずれも1302.20㎡
39階~45階いずれも1300.57㎡
地下1階1235.99㎡
地下2階1529.05㎡
2敷地権の目的である土地の表示
土地の符号1
所在及び地番江東区α×番3
地目宅地
地積2万0710.48㎡
3専有部分の建物の表示
家屋番号α×番3の2の4107
建物の名称H
種類居宅
構造鉄筋コンクリート造1階建
床面積41階部分107.64㎡
4敷地権の表示
土地の符号1
敷地権の種類所有権
敷地権の割合1000万分の1万0064
以上
(別紙6)
物件目録2
1一棟の建物の表示
別紙6(物件目録1)記載1のとおり。
2敷地権の目的である土地の表示
別紙6(物件目録1)記載2のとおり。
3専有部分の建物の表示
家屋番号α×番3の2の2904
建物の名称I
種類居宅
構造鉄筋コンクリート造1階建
床面積29階部分107.71㎡
4敷地権の表示
土地の符号1
敷地権の種類所有権
敷地権の割合1000万分の1万0070
以上
(別紙8)
争点に関する当事者の主張の要点
第1本件各訴えのうち本件確認処分1の取消しを求める部分の訴えの利益(争点
1)について
1原告らの主張の要点
法6条1項前段に規定する確認の処分(以下,この処分及びこれに相当する
法6条の2第1項に規定する確認の処分を総称して「建築確認処分」ともい
う。)は,「当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定に適合す
るものであること」を公的に確認する行為にすぎず,これは,法6条1項後段
に規定する確認の処分(以下,この処分及びこれに相当する法6条の2第1項
に規定する確認の処分を総称して「変更確認処分」ともいう。)についても同
様である(被告Bが引用する東京高等裁判所平成19年8月29日判決・判例
地方自治302号77頁〔丙1。以下「東京高裁平成19年判決」という。〕
も同様の判示をしている。)。建築確認処分及び変更確認処分は,工事に着手
する要件にすぎず,法6条1項からは,変更確認処分に当初の建築確認処分を
取り消す効果があるとは読めない。加えて,被告Bが主張するように,変更確
認処分が「変更に係る建築物の建築計画の全体について」の確認であり,当初
の建築確認が取り消されることになるとすると,取消しの遡及効から,途中ま
で進んだ工事の着工前に確認が下りていないこととなり,同項に反する結果と
なる。建築確認処分及び変更確認処分が工事着手の要件であるとすれば,建築
確認処分は,当初の建築プランでの工事に着手できることを,変更確認処分は,
変更後の建築プランでの工事に着手できることを,それぞれ公に確認したもの
にすぎず,変更確認処分がされた後であっても,建築確認処分に従った当初の
建築プランでの工事をすることは可能であるものというべきであって,建築確
認処分の取消しの訴えの利益は消滅するものではない。
2被告Bの主張の要点
東京高裁平成19年判決は,ある建築計画について建築確認処分がされた後
に変更確認処分がされた場合につき,法の構造を踏まえた上で,「建築確認変
更処分は,当初の建築確認処分が有効であることを前提として,変更に係る部
分についてのみ,これが建築基準関係規定等に適合することを確認するもので
はなく,変更に係る部分以外の部分を含む変更後の建築計画の全体につき,改
めて建築基準法令の規定等に適合するか否かを判断し,適合すると判断した場
合には既にされた建築確認処分を変更する処分であると解されるから,建築確
認変更処分がされると,これにより既存の建築確認処分は取り消され,その効
力は消滅することになると解するのが相当である。」と判示し,当初の建築確
認処分の取消訴訟につき訴えの利益はないものと判断した。本件においても,
本件確認処分1は,その後に本件確認処分2がされたことによって失効してい
るから,本件各訴えのうち本件確認処分1の取消しを求める部分には,訴えの
利益がないものというべきである。
第2原告Aにおいて審査請求に対する裁決を経ずに本件許可処分1及び2の取消
しの訴えを提起することが許されるか否か(争点2)について
1原告らの主張の要点
(1)行政事件訴訟法8条1項について
行政事件訴訟法は,いわゆる訴願前置主義を採用した行政事件訴訟特例法
(以下「旧行訴特例法」という。)がかえって国民の救済を阻む結果を招い
た経緯に鑑み,法令によって審査請求等の手続が進められている場合でも,
国民が行政庁への審査請求を求めるか,裁判所への出訴を選ぶか,あるいは
双方の手続を同時に行うかを,その自由な選択に委ねることにした。ただ,
建築確認申請などのように大量的,反覆的に行われる処分で,その処分が画
一的になされるものについては,直ちに裁判所に出訴するよりも行政庁の審
査手続に服させて実質的,個別的な審査をする方が妥当な場合があるため,
例外として同法8条1項ただし書が設けられているのである。その目的は,
行政不服審査法1条1項に明記してあるとおり,「簡易迅速な手続による国
民の権利利益の救済を図るとともに,行政の適正な運営を確保する」にあり,
換言すれば,旧行訴特例法の訴願前置主義と同様,「裁判所に出訴する前に
当該行政処分の当否について一応行政庁をして反省を促し,処分の匡正の機
会を与える」ことにある。
(2)行政事件訴訟法8条2項3号について
原告Aは,本件許可処分1及び2につき,東京都建築審査会に対して審査
請求をしていないが,原告Dは審査請求をしており,原告Aが改めて審査請
求を提起したとしても,その争点に関しては,前提事実も法的争点も原告D
の場合と変わらないので,同審査会において既にされた審査請求棄却との判
断(前提事実(5)エ)がされるであろうことは明白である。原告Dによる審
査請求についての書面審理,口頭審理,裁決における判断でも,原告らの主
張する争点については実質的な判断が十分にされているから,重ねて行政庁
をして当該処分の当否について反省する機会を与える意味はない。また,原
告Aに対しては,既に同審査会において正式に回答等をしているともいえ,
改めて審査請求をしても救済の実を期待することはできないので,匡正の機
会を与える意味もない。そうすると,原告Aに対して形式的に審査前置主義
を貫くことは,実質的には前述の簡易迅速な手続による国民の権利利益の救
済を図るという訴願前置主義の趣旨にもとるものとなるから,本件の場合,
原告Aには,行政事件訴訟法8条2項3号にいう「裁決を経ないことにつき
正当な理由」があるものというべきである。
(3)行政事件訴訟法8条2項2号について
審査請求がされてから1か月以内に裁決がされるべきである(法94条2
項)であるにもかかわらず,原告Dが東京都建築審査会に本件確認処分1及
び2についての審査請求をしてから裁決まで1年1か月以上が経過している。
このことに鑑みると,前提事実も法的争点も変わらないとはいえ,原告Aが
新たに審査請求をするとなると,更に同程度の期間を要することにもなりか
ねない。他方,建築確認処分においては,工事が完了した場合における建築
確認の取消しを求める訴えの利益は失われるというのが判例であり(最高裁
昭和58年(行ツ)第35号同59年10月26日第二小法廷判決・民集3
8巻10号1169頁),建築物の工事期間が審査請求期間や訴訟の審理期
間に比べると比較的短期間であることを考えると,当事者の主張する争点に
関して何ら実質的な変更がないにもかかわらず,再度審査請求を行わなけれ
ばならないとすれば,違法な確認処分について,工事完成前に司法判断を受
ける機会が奪われることとなる。原告Aに,一方的に行政事件訴訟法8条及
び法96条に基づき手続のやり直しを求めることは,司法救済の道を実質的
に奪うものであり到底許されない。また,再度の審査請求を経る間にも,建
築は進み,既成事実が形成され仮に取り消されても原状回復が困難になるこ
とに鑑みると,再度建築審査会へ不服を申し立て,その判断を待った上で訴
えを提起しているのでは実質的には司法による救済が得られない結果となる。
以上より,原告Aが,再度審査請求をしてそれに対する判断を待った上で
訴えを提起したのでは権利救済上間に合わず,著しい損害を被るおそれがあ
るものというべきであるから,原告Aについては,行政事件訴訟法8条2項
2号にいう「緊急の必要があるとき」に当たるものというべきである。
2被告東京都の主張の要点
(1)建築基準法令の規定による特定行政庁の処分の取消しの訴えは,当該処分
についての審査請求に対する建築審査会の裁決を経た後でなければ提起する
ことができない(法96条)。しかし,原告Aは,東京都知事が処分行政庁
として法の規定に基づいて行った本件許可処分1及び2について,東京都建
築審査会に対して審査請求をしておらず,その裁決を経ていない。したがっ
て,原告Aの本件訴えのうち上記各処分の取消しを求める部分は,不適法な
ものというべきである。
(2)原告らは,原告Aが本件許可処分1及び2について審査請求を経ていない
ことにつき,①原告らの主張する争点については,原告Dの審査請求におい
て実質的な判断が十分にされており,行政事件訴訟法8条2項3号に該当す
る,②原告Dの審査請求には1年1か月以上を要しており,判例では工事が
完了した場合には建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるとされて
いることからすると,原告Aにおいて審査請求を行い,それに対する判断を
待った上で訴えを提起したのでは権利救済上間に合わないことから,同項2
号に該当するなどと主張する。
しかし,第三者が審査請求を経ていたとしても,訴えを提起した者自身が
審査請求を経ていなければ,審査請求前置の要件が満たされたとはいえない
(最高裁昭和58年(行ツ)第75号同61年6月10日第三小法廷判決・
裁判集民事148号159頁参照)から,原告らの上記①の主張は失当であ
る。また,審査請求をした日から3か月を経過しても裁決がないときには,
裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起できるのであるから(同条2項1
号),建築確認に対する審査請求を行っても裁決が遅延することが予想され
るとしても,著しい損害を避けるための緊急の必要があるとはいえず,原告
らの上記②の主張も失当である。
第3本件許可処分1の適法性(争点3)について
1被告東京都の主張の要点
(1)本件許可処分1の適法性
ア手続的要件の充足
前提事実(3)ウのとおり,本件許可処分1においては,法令上必要とな
る手続が履践されており,手続的要件を充足している。
イ実体的要件の充足
東京都知事が,本件マンションについて「第二種住居地域における住居
の環境を害するおそれがない」(法48条6項ただし書)と認めた理由は,
以下のとおりである。なお,東京都知事が,本件車庫について,警視庁交
通部交通規制課に対して,交通安全上の支障の有無に関する意見照会をし
たところ,「出庫警報装置設置等の安全対策を図ることとしており,現状
においては交通安全上の支障はないものと認められる。」との回答を得て
いる(甲16)。
(ア)出入口の位置
本件マンションは,敷地からの自動車の出入口を,西側に位置する幅
員39.93mの都道(都道(304)主要地方道日比谷豊洲埠頭東雲
町線〔通称晴海通り〕)及び北側に位置する幅員16.0mの区道(区
道江561号)にそれぞれ1か所計画している(甲1の1・7枚目)。
西側の出入口については,敷地北西に位置するα交差点の横断歩道から
約10m,西側の出入口の南に位置するバス停から10m以上離隔し,
北側の出入口については,α交差点の横断歩道から約20m離隔してお
り,交通安全上支障のない計画となっている(乙2・29頁)。
(イ)周辺交通への影響
本件マンションに本件車庫を設置することによる周辺交通に与える影
響については,本件車庫設置前後のα交差点における交差点需要率(交
差点における混雑状況を表す指標であり,この値が0.9を上回ると交
差点の改良が必要な混雑状態とされる目安となる。)の比較が行われて
いる。その結果によれば,現況からの交差点需要率の増加はわずかであ
り(平日:0.515から0.520への0.005増,休日:0.2
43から0.247への0.004増),α交差点に対する負荷が軽微
であることから,本件車庫の設置が周辺交通に与える影響は軽微である
(乙2・24頁~28頁)。
なお,本件マンションの建築に当たって建築主が行った交通検討調査
の結果(以下「本件交通検討調査」という。)は乙14のとおりであり,
乙2は,建築主が,これに基づいて,東京都建築審査会への説明資料と
して作成し,東京都知事に提出したものである。本件交通検討調査は,
建築主において周辺の交通実態調査を実施した上で,「大規模開発地区
関連交通計画マニュアル改訂版平成19年3月」(国土交通省都
市・地域整備局都市計画課都市交通調査室。以下「交通計画マニュア
ル」という。)及び「平成20年度東京都市圏パーソントリップ調査」
(東京都市圏交通計画協議会)に基づいて本件マンション建築後の交通
量を予測し,評価を行ったものである(乙2・24頁)。そこでは,ピ
ーク時(一番増加交通量の多い1時間)における本件マンションの敷地
北側の出入口から出庫しα交差点方面へ向かう自動車増加交通量は,平
日で1時間当たり9台,休日で1時間当たり10台と予測され(乙2・
26頁「北側出入り口利用台数」の「OUT」),交差点需要率は物理
的に交差点の改良が必要かどうかの基準値(0.9が目安)を超過せず,
各レーン(車線)における開発後交通量も交通容量を超過しない結果
(混雑度1.0未満)とされており(乙2・25頁),この評価に特段
不合理な点はない。
(ウ)駐車場処理能力
本件車庫の駐車施設処理能力については,ピーク時来館車両台数(平
日:1時間に21台,休日:1時間に24台)が駐車場平均処理能力
(1時間に42台)を下回り,敷地外に入庫待ちが発生しないことや,
ピーク時来館車両間隔(平日:170秒に1台,休日:150秒に1
台)が駐車場内所要時間(1台当たり60秒)を上回り,敷地外に滞留
が発生しないことが検証されている(乙2・27頁)。
(エ)周辺環境への影響
本件車庫は,周囲を無開口の外壁で覆う構造とされており,入庫に際
しては,自動車のエンジンを停止させて機械により自動車車庫内部に駐
車配置させるため,自走式の自動車車庫と比較して,周囲に対する騒音
や排気ガスが減少するとともに,夜間走行時におけるライトグレア(視
界に光を受けることによって生じる視界不良)が軽減されることになる。
(オ)景観への配慮
本件車庫の外壁については,外観が無機質なものにならないようにす
るため住戸部分と同様にバルコニーを配置するなど,良好な景観形成に
向けた配慮が行われている。
ウ小括
以上のとおり,本件許可処分1は,手続的要件及び実体的要件をいずれ
も満たしており,適法なものである。
(2)原告らの主張について
ア災害時の危険性の主張について
(ア)法48条6項ただし書にいう「住居の環境を害するおそれ」について
a原告らは,本件車庫には地震が発生した際に事故が生ずる危険性が
あるとして「住居の環境を害するおそれ」がある旨主張する。
しかし,建築物の地震に対する安全性については,建築確認の手続
において審査される事項であって,法48条6項ただし書への該当性
の判断に当たって審査の対象となるものではない。すなわち,法は,
地震や火災等の災害時の危険性に対しては,法20条において建築物
の構造耐力を規定して地震等に対する建築物の安全を確保し,また,
法35条において建築物の避難施設,消火設備,非常用の照明装置及
び進入口等を規定して建築物が避難上及び消火上支障がないようにす
ること等を確保しているところ,これらの規定は,地震や火災等の災
害が場所を限定して発生するものではないため,全国で一律に適用さ
れ,許可によりその適用を除外する規定はない。他方,法48条は,
用途地域ごとに建築物の用途を規制し,都市計画における土地利用計
画の実現を図るとともに,市街地の環境を保全するための規定であり,
同条6項の規定は,都市計画法において「主として住居の環境を保護
するため定める地域」とされる第二種住居地域のみに適用される。し
たがって,法48条6項ただし書に定める「第二種住居地域における
住居の環境を害するおそれがない」との許可要件の該当性は,地震や
火災などの災害時といった特定の場合でなく,当該建築物が日常的に
使用される場合に及ぶ影響から判断するのが適当である。例えば,法
52条14項が「安全上…支障がない」と規定して,その文言上明確
に安全性を許可の要件としているのとは異なり,法48条6項ただし
書が,住居の「環境」を害するおそれがないことを許可の要件として
いることからも,同条項が住居の「安全性」を害するおそれがないこ
とを許可の要件とするものではないことは明らかである。
b東京都知事は,本件許可処分1を行う際に,本件車庫が駐車場法施
行令15条に基づく認定を取得し駐車場法に定める技術的基準が確保
されていること,東日本大震災においても本件車庫と同様のF株式会
社(以下「F社」という。)製のタワー型エレベーター方式の自動車
車庫においては入庫車の落下事故が発生していないこと,本件マンシ
ョンが基礎部分に免震装置を設置し地震による建築物への揺れを減少
させる免震構造を採用していることといった安全性についても任意に
確認している。
原告らは,駐車場法施行令15条の規定に基づく認定は都市機能の
維持や周辺交通の円滑化を担保するものにすぎず,当該認定をもって
当該駐車場の安全性は何ら担保されるものではないとも主張するが,
これまで述べたところに照らし,上記主張は,その前提において失当
である。
(イ)手続上の瑕疵の主張について
原告らは,東京都建築審査会は,被告東京都の担当者が回答した誤っ
た事実を前提として「住居の環境を害するおそれ」はないと判断したも
のであるから,本件許可処分1には手続的瑕疵があると主張するが,前
記(ア)で述べたところからすれば,建築物の安全性に関する上記担当者
の回答は,本件許可処分1の適法性に関係しない。また,上記担当者は,
「今回の計画のようなタワー型の自動車車庫」(甲15),すなわち本
件車庫と同様のF社製タワー型のエレベーター方式の自動車車庫におい
ては,東日本大震災においても入庫車の落下事故が発生していないとの
報告を受けていることを述べたのであって(この点については,本件マ
ンションの設計者を通じてF社へ調査を依頼し,同設計者を通じて報告
があったものである。),何ら誤った回答はしていない。
イ周辺の交通への悪影響の主張について
a原告らは,原告ら居住マンションと本件マンションとが隣接している
ことから,住民の生活スタイルもほぼ同様になると仮定し,原告らが行
ったとする原告ら居住マンションにおける自動車車庫の利用実態の調査
結果(甲29の第1。甲29に係る調査を以下「原告交通調査」とい
う。)に基づき,本件車庫の利用実態もこれと同様になるとの前提に立
った上で,①本件マンションの晴海通り側の出入口から出ても都心とは
反対側にしか向かうことができないことから,平日の朝の通勤時間帯に
は,北側出入口からの出庫が集中することにより,北側出入り口の周辺
に一時的に自動車が集中し,交通渋滞が発生することが予想され,②ま
た,北側出入口からα交差点まで絶えず4台以上の車両が連なり,北側
出入口が出入口として用を足さないことともなり得ると主張するなどし
て,被告が本件車庫の設置が周辺交通に与える影響は軽微であると判断
したことを非難する。
しかし,マンション住民の生活スタイルは,年齢構成,家族構成,職
業など様々な要因で異なるものであるから,上記の仮定自体根拠のない
ものである上,本件マンションの南西に近接する台場方面にもオフィス
施設は多数立地しており,また,品川区,江戸川区及び浦安市方面など
に向かう場合には,本件マンションの敷地西側の出入口から出庫するこ
とも想定されるのであって,平日の朝の通勤時間帯には本件マンション
北側の出入口からの出庫が集中するとの仮定にも根拠がない。
b原告らは,原告交通調査に基づき,平日の午前6時40分から午前8
時10分までの1時間30分の間に5回にわたり1回の信号の変化では
信号を通過できない車両があったとする。
しかし,原告交通調査によっても,1回の信号の変化で信号を通過で
きない車両があったとされる回数は1時間30分の間における合計45
回の信号の変化のうち5回にすぎず,本件交通検討調査に係る交通量予
測では,本件マンション北側の出入口を出庫するピーク時1時間当たり
自動車台数が9台(平均約6~7分に1台)であることからすると,仮
に1回の信号の変化では信号を通過できない車両がある場合と本件マン
ションからの出庫が重なったとしても,次の信号の変化では信号を通過
できるのであり,北側区道の交通に与える影響は軽微である。
c原告らは,本件マンションの敷地の北側区道が通学路であるため,本
件建築物の自動車車庫から出庫する自動車により学童の通学への支障や
事故発生率が増加すると主張する。
しかし,自動車による歩行者に対する安全性の確保は運転者の責任に
おいてなされるべきものであり,本件車庫が設置されることで事故発生
率が増加するとの原告らの主張には根拠がないが,本件マンションでは,
敷地北側と西側に自動車の出入口を計画し,西側の出入口については敷
地北西に位置するα交差点の横断歩道から約10m,西側の出入口の南
に位置するバス停から10m以上離隔し,北側の出入口についてはα交
差点の横断歩道から約20m離隔しており,安全条例27条の規定を満
たすとともに,同条例28条1項に規定されている道路を通行する歩行
者や自動車を確認できる空地を確保し,さらに,出庫警報装置等の安全
対策を図ることとしており(甲16,乙2・29頁),歩行者への安全
性の確保にも配慮した計画となっている。
2原告らの主張の要点
以下のとおり,本件マンションは,法48条6項ただし書の規定にいう「第
二種住居地域における住居の環境を害するおそれがない」ものではない。
(1)本件マンションに災害時の危険性があること
ア被告東京都は,建築物の地震に対する安全性は,建築確認において審査
される事項(法20条)であって,法46条6項ただし書の許可の際に審
査される事項ではない旨主張する。
しかし,世界保険機構(WHO)は,「居住環境の4つの理念」として,
安全性,保健性,利便性及び快適性を挙げており(甲25),国土交通省
の「平成20年度住生活総合調査(速報)」においても,安全性は,最も
重要と思うものとされており(甲26),東京大学空間情報科学研究セン
ターの教授も,住環境の1つのファクターとして安全性(生命や財産が災
害から安全に守られていること)を挙げている(甲27)。また,建築確
認は,法令に適合する建築物であるか否かを審査するものであるのに対し,
法48条6項ただし書の許可は,法令違反に限らず,かつ第二種住居地域
内の建築が認められないものの安全性を審査するものであって,審査基準
も審査対象も異なる(法20条〔構造耐力〕は,建築物自体の構造上の安
全性に関する規定であって,第二種住居地域内に建築を認めた場合の安全
性を審査する法48条6項とは異なる)上,同項には,地震に対する安全
性を除外する文言はない。以上からすれば,同項ただし書の規定にいう
「住居の環境を害するおそれ」には,住居の安全性も含まれ,同規定に基
づく許可の際には,住居の安全性も審査の対象となるものというべきであ
る。
イ(ア)東日本大震災の際に,震度5程度の揺れであった「β」のタワーパー
キングにおいて車両が落下する等の事故が生じており,東京都新宿区内
に所在する立体駐車場においてもパレットごと車両が転落する事故が生
じていたものであり(甲12の1~3,甲19。甲21のとおり,同震
災の際には,他にもタワーパーキングの事故が報告されている。),全
国で,同震災の際に機械式駐車装置に落下事故を含む中規模以上の被害
が生じたのは758件にのぼり,大規模被害に限っても64件に及んだ
ものとされている(甲13)。また,福岡西方沖地震の際にも,福岡市
内の6か所の立体駐車場から車が転落する事故が起きており,落ちて壊
れた車からガソリンが漏れていた事例もあって,爆発の危険性も指摘さ
れている(甲20)。さらに,パーキングの事故は,火事を引き起こす
確率が高く,大きな事故となりやすい。
(イ)被告東京都は,本件車庫が駐車場法施行令15条の規定に基づく認定
を受けた自動車車庫であることを確認していることをもって,その安全
性に問題がないと主張するが,駐車場法の目的(同法1条)に照らせば,
上記認定は,都市機能の維持及び周辺交通の円滑化を担保するものにす
ぎず,駐車場の安全性を担保するものではない。本件許可処分1が東日
本大震災の直後にされたものであるという特殊性に鑑みれば,その安全
性の認定に際しては格別の配慮が必要であったというべきであり,上記
認定のみをもって,本件車庫が安全であるとはいえない。本件車庫が本
件マンションに組み込まれ,居住空間と一体となっていることからして
も,その安全性については,慎重な検討が必要である。
(ウ)以上からすれば,居住空間と一体となっている本件車庫でひとたび事
故が生じた場合には,大きな事故になり得る危険性を否定することがで
きず,本件マンションについては,「住居の環境を害するおそれ」があ
るというべきであるから,本件許可処分1は,その要件を欠く違法なも
のである。
ウ本件許可処分1に係る東京都建築審査会における審理の際には,同審査
会の委員から,地震の際等に自動車が落下するおそれ等につき質問がされ
たのに対し,被告の担当者が,「今回の計画のようなタワー型の自動車車
庫」において,阪神淡路大震災,東日本大震災をはじめとする全国で発生
した地震の際の落下事故というのは報告がなかった旨回答している(甲1
5)。被告東京都は,上記担当者の回答につき,F社製タワー型のエレベ
ーター方式の自動車車庫について事故が発生していないとの報告を同社よ
り受けた上でのものである旨を主張するが,上記質疑の内容からすれば,
上記の回答がF社製自動車車庫に限らず,広く立体駐車場の危険性を否定
する趣旨のものであったことは明らかである。東京都建築審査会は,地震
の際に立体駐車場に大きな事故があったこと(前記イ(ア))の報告を受け
ずに,誤った事実を前提に「住居の環境を害するおそれ」がないと判断し
たものであり(上記審理の当時において,前記「β」の事故は報道されて
おり,また,国土交通省に問合せをすれば,東日本大震災で多くの立体駐
車場の被害が生じた事実も容易に確認できたはずである。),本件許可処
分1には,手続上の瑕疵がある。本件許可処分1が東日本大震災という未
曾有の災害が起きた後にされたという特殊事情にも鑑みれば,東京都知事
において,本件許可処分1に際して充分な安全審査をしたとは到底いうこ
とはできず,東京都知事の判断は合理性を欠き,裁量権の範囲から逸脱す
るものというべきである。
(2)本件マンションが周辺の交通に悪影響を及ぼすこと
ア(ア)原告交通調査(甲29)の第1は,原告ら居住マンションの駐車場に
ついて,休日及び平日のそれぞれのピーク時と考えられる時間に出入庫
する車両台数を調査したものであるところ,上記マンションと本件マン
ションが隣接していることからすると,住民の居住スタイルはほぼ同様
であると考えるのが自然であり,原告交通調査は,本件マンションの建
築による周辺交通への影響を具体的に想定するものである(被告東京都
は,上記両マンションの居住者の生活スタイルをほぼ同一のものと仮定
することに根拠はないと主張するが,両者が隣接しており,いずれも居
住個数が数百で多くの駐車場を備えるという前提に立つ以上,上記のよ
うな想定をすることは合理的なものというべきである。)。
そして,原告交通調査を前提とすれば,休日夕方のピーク時の本件車
庫の車両の出入庫台数は34.2台/時となり,被告東京都がよって立
つ本件交通検討調査の24台/時(北側出入口12台/時,晴海通り出
入口12台/時)は,実際とはかけ離れた数字といわざるを得ない。
また,原告交通調査を前提とすれば,平日朝のピーク時の本件車庫の
車両の出入庫台数は23.7台/時となり,単純計算をすれば被告東京
都がよって立つ本件交通検討調査の22台/時(北側出入口11台/時,
晴海通り出入口11台/時)に近い数値となるが,本件マンションから
都内に向かうルートをとることができるのは北側出入口のみであること
を考えれば,出入庫が北側出入口に集中することは明らかであり,周辺
交通に影響がないとは断定できない。
(イ)原告交通調査の第2によれば,本件マンションの北側出入口に面した
道路からα交差点に向かう車両については,15分間に何度も4ないし
5台が信号待ちをしており,平日の午前6時40分から午前8時10分
までの1時間30分の間に5回にわたり1回の信号の変化では信号を通
過できない車両があったところ,本件マンションが完成すれば,これに
北側出入口から出庫する車両が加わることになるから,α交差点の周辺
環境が劇的に変化することは明らかである。
(ウ)本件マンション北側道路の歩道は通学路となっており,原告交通調査
によれば,平日の午前7時45分から8時までの間に約140人の学童
が通行したところ,前記(イ)のような状況から生ずる渋滞が,学童の通
学への支障や事故の発生率の増加という形で,学童の安全かつ円滑な通
学に影響することは必至である。
イ本件マンションの西側の車両出入口が面するのは幹線道路である晴海通
りであり,そのような出入口が設けられれば,晴海通りそのものの交通に
支障が生ずるおそれがあり,また,晴海通りの交通状況によってはそこか
らの出入りがしにくい状態となり,北側出入口にますます車両の出入庫が
集中するおそれもある。被告東京都が交通量を予測するに当たり使用した
交通計画マニュアルにも,出入口につき「原則として幹線道に直接入口を
設けないこと」との記載がある(甲38)。
ウ本件交通検討調査(乙2)については,α交差点の交差点需要率「0.
520」を導くに当たり,実際のα交差点サイクル長,有効青時間をどの
ように設定したのか等不明であり,現況交通状況として,平日12時間断
面交通量,休日12時間断面交通量及びピーク時自動車増加交通量の予測
が計算されている点についても,常時同じでない信号サイクルと12時間
断面交通量との整合性をどのように図ったのかや,設計交通量の算定の仕
方(乙2の数値からは設計交通量〔台/日〕を導くことができない)に疑
問を挟まざるを得ない。
エ以上の点からすれば,本件マンションが周辺の交通に悪影響を及ぼすも
のであることは明らかである。
第4本件許可処分2の適法性(争点4)について
1被告東京都の主張の要点
(1)本件許可処分2の適法性
ア手続的要件の充足
前提事実(3)ウのとおり,本件許可処分2においては,法令上必要とな
る手続が履践されており,手続的要件を充足している。
イ実体的要件の充足
(ア)法52条14項1号該当性
本件マンションの電気給湯器設置部分の床面積の合計は,956.6
1㎡であり,延べ面積(61,418.85㎡)に対する割合は約1.
55%である。
しかし,国土交通省による技術的助言である「建築基準法第52条第
13項1号の規定の運用について」(平成16年2月27日国住街第3
81号国土交通省住宅局市街地建築課長通知〔乙3〕。以下「国交省運
用」という。)は,法52条13項(現在の14項)1号に係る同項の
許可に当たり,「建築物の機械室その他これに類する部分の床面積の合
計の建築物の延べ面積に対する割合が著しく大きい場合には,建築物に
一般的に設けられるものではないが,その設置を促進する必要性の高い
機械室等を建築物に設置する場合を含むものである。この場合,本許可
の対象については,・・・太陽光発電設備,燃料電池設備,自然冷媒を
用いたヒートポンプ・蓄熱システム等環境負荷の低減等の観点から必要
な設備であって,公共施設に対する負荷の増大のないもの・・・につい
ても,特定行政庁が幅広く本許可の判断の対象とし,積極的に対応する
ことが望ましい。」としている。そして,法52条14項1号の規定に
よる許可処分に関し,被告東京都では,本件取扱基準(乙4)を定めて
おり,そこには,同号の容積率の許可の対象となる施設として,給湯器
認定要綱に基づき認定された機器が掲げられている(本件取扱基準のⅡ
の3(1)号⑮)ところ,本件マンションに設置される予定の電気給湯器
(株式会社J製「K」。乙5)は,給湯器認定要綱2条1号に定める
「CO2を冷媒とするヒートポンプ機能を有する電気給湯器」に該当す
るものとして「家庭用高効率給湯器」に認定されている(乙7)。
したがって,本件マンションに設置される電気給湯器は国交省運用に
いう「環境負荷の低減等の観点から必要な設備であって,公共施設に対
する負荷の増大のないもの」であり,「建築物に一般的に設けられるも
のではないが,その設置を促進する必要性の高い機械室等を建築物に設
置する場合」に当たるから,本件マンションは,法52条14項1号の
建築物に該当する。
(イ)交通上,安全上,防火上及び衛生上支障がないこと(法52条14項
のいわゆる柱書き)
a交通上の支障
本件マンションにおいて電気給湯器を設置する部分は,各住戸部分
であり,電気給湯器の設置によって自動車や歩行者などの交通量の増
加を招くものではないため,周辺の道路への負担が増加することはな
く,交通上の支障はない。
b安全上の支障
本件マンションの敷地には,北側の幅員16.00mの道路(区道
江561号)に沿って,歩行者の安全性,利便性,快適性を考慮した
歩道状空地(乙8の黄色部分)を整備し,歩車分離を行った計画とさ
れており,本件マンション内の各住戸部分に電気給湯器を設置したと
しても災害時の避難等に支障は生じることはなく,安全上の支障はな
い(乙8)。
c防火上の支障
本件マンションは,鉄筋コンクリート造一部鉄骨造の耐火建築物で
あり(法27条1項1号,別表第1の(二)項(ろ)欄,61条参
照),さらに,本件マンションから隣地境界線までの離隔距離を最小
で約9.5m確保するなど(乙8),延焼等への配慮もなされており,
本件マンション内の各住戸部分に電気給湯器を設置したとしてもこれ
らの防火体制に影響が生ずることはなく,防火上の支障はない。
d衛生上の支障
本件マンションは,建ぺい率(建築面積の敷地面積に対する割合)
を45.85%(乙13)と低く抑え,敷地内に多くの空地を確保し
(乙8),通風及び採光等の観点から衛生上問題がない計画とされて
おり,本件マンション内の各住戸部分に電気給湯器を設置したとして
も衛生環境に影響を及ぼすものではなく,衛生上の支障はない。
ウ小括
以上のとおり,本件許可処分2は,手続的要件及び実体的要件をいずれ
も満たしており,適法なものである。
(2)原告らの主張について
ア法52条14項1号は,機械室等の床面積割合が著しく大きい場合に容
積率の緩和を認めるものであることから,機械室等により交通上,安全上,
防火上及び衛生上支障が生じないかを判断すれば足りる。なお,原告らの
主張するように容積率が緩和された後の建築物について支障の有無を判断
するものとしても,前記(1)において述べたことからすれば,本件マンシ
ョンにつき,交通上,安全上,防火上及び衛生上の支障は存しない。
イ(ア)原告らは,本件マンションの晴海通り側のバルコニーからの物の落下
の危険性があるとして安全上支障がある旨主張するが,この主張は,自
己の法律上の利益に関係のない違法(行政事件訴訟法10条1項)を主
張するものである上,バルコニーが満たすべき要件は,建築基準法施行
令126条1項に定められており,その安全性は建築確認の手続におい
て審査される事項であって,法52条14項1号の特定行政庁の許可に
おいて審査する事項ではない。
なお,東京都知事においては,本件許可処分2に際して,本件マンシ
ョンのバルコニーの安全性については,施行令126条1項に規定する
要件を満たす高さ1.35mの手すり壁が設置される計画とされている
ことを任意に確認しており(乙9),バルコニーからの落下物対策につ
いても,建築主から,バルコニーの利用方法について,管理規約に基づ
くバルコニー等使用細則を定め,手すり等へ寝具,敷物,洗濯物等を干
すことの禁止や各種アンテナ,物品等を設置することを禁止するなど,
物の落下,飛散などの事故が発生しないよう居住者に対して注意喚起す
る予定であるとの説明を受けている。
(イ)原告らは,本件許可処分2で容積率が緩和されたことにより,晴海通
りから6.4mしか離れないところに高さ150m長さ50mもの外壁
の計画が可能となり,200戸を超えるベランダ付きの住戸が晴海通り
に面することとなって,晴海通りへの落下物の危険性が増大した旨主張
する。しかし,容積率の制限は建築物の高さを直接制限するものではな
く,建築物の高さと容積率の制限の関係については,同じ容積率の建物
でも,敷地に対して水平投影面積を小さく,つまり,高さ方向に細長い
建物として建築すれば,建築物の高さは高くなるし,敷地に対して水平
投影面積を大きく,つまり,太い建物として建築すれば,建築物の高さ
は低くなるといったように,同じ容積率であっても建築物の建築の仕方
によって様々な形態で建築物が建築され得るのであって,本件許可処分
2がなくても本件マンションと同様の高さ及び長さ(晴海通りに面する
外壁の横幅)の建築物を建築することは可能である。したがって,原告
らが主張するように本件許可処分2がされたことによって晴海通りへの
落下物の危険性が増大したわけではなく,原告らの上記主張は失当であ
る。
(ウ)原告らは,本件マンションのバルコニーの二段手すりについて,子ど
もが足をかけて登ることが容易になり落下の危険性が増大していると主
張するが,二段手すりの下段の手すりの高さは1150mm(1.15
m)であり(乙9),大人でも簡単に足をかけて登れる高さではないし,
ましてや子どもが容易に足をかけて登ってしまう高さでもない。
2原告らの主張の要点
(1)本件建築計画においては,CO2家庭用高効率給湯器の設置が予定されて
いるが,その用に供する建築物の部分が建築物の他の部分から独立している
とはいえず,また,貯蔵タンクユニットとヒートポンプユニットの双方の床
面積の合計は,本件マンションの延べ面積の約1.5%にとどまるから,本
件マンションは,法52条14項1号にいう「同一敷地内の建築物の機械室
…の床面積の合計の建築物の延べ面積に対する割合が著しく大きい場合」に
は当たらない。
(2)ア法52条14項の定める許可に係る「交通上,安全上,防火上及び衛生
上支障がない」との要件は,同項各号に定める「建築物」そのものに係る
ものであるから,電気給湯器の設置の態様いかんにかかわらず,容積率の
上乗せにより建てられた建築物につき交通上,安全上,防火上,衛生上の
支障があれば,同項の許可条件を満たさないものと考えなければならない。
イ本件許可処分2で容積率が緩和されたことにより,晴海通りから6.4
mしか離れないところに高さ150m長さ50mもの外壁の計画が可能と
なり,200戸を超えるベランダ付きの住戸が晴海通りに面することとな
って,晴海通りへの落下物の危険性が増大した(原告らにおいては,本件
許可処分2で容積率が緩和され,バルコニーを有する高層階の住戸が増え
たことによる落下物発生の機会の増加を問題としているものである。)。
そして,本件マンションのバルコニー床面から二段手すりまでの高さは1
150mm,二段手すり上部からトップレールまでの距離は高さ200m
m,横方向に250mmしかなく,この高さでは,小学生の身長であれば
容易に手すりに手を掛けてその上に身を乗り出すことができる,何らかの
原因で物を落としてしまう危険性が高く,子どもの落下の危険性も高まっ
たものであり,その危険性の程度は極めて大きなものである。したがって,
本件許可処分2は,許可要件を欠く違法なものというべきである。
なお,被告東京都は,東京都知事においては,バルコニーからの落下物
対策に関しては,建築主から,バルコニーの利用方法について,管理規約
に基づくバルコニー等使用細則を定め,手すり等へ寝具,敷物,洗濯物等
を干すことの禁止や各種アンテナ,物品等を設置することを禁止するなど,
物の落下,飛散などの事故が発生しないよう居住者に対して注意喚起する
予定であるとの説明を受けている旨主張するが,本件マンションと道路と
の位置関係からして当然のことであって,それをもって物の落下の危険性
が除去されるものではない。
ウ建築確認処分は,建築基準法等の法令に適合する建物であるか否かを審
査するものである一方,法52条14項1号の許可処分は,法令違反にと
どまらず,容積率の緩和により安全上の支障が生じないかを判断するもの
であるから,高層階からの落下物の危険性については,同号の特定行政庁
の許可において審査すべき事項である(原告らにおいては,本件マンショ
ンのバルコニーが,施行令126条1項に規定する要件を満たすか否かを
問題にしているものではない。)。また,容積率に関する法の規定の趣旨
が地震,火災等により建築物に倒壊,炎上等の事態が生じた場合に,その
周辺の建築物やその居住者に重大な被害が及ぶことがないようにする点に
もあることに鑑みれば,本件マンションのバルコニーからの落下物の危険
性は,まさしく原告らにとって,自己の法律上の利益に関係するものとい
うべきであり,行政事件訴訟法10条1項による主張制限の対象となるも
のではない。
第5原告らが自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として本件確認処分1
及び2の各取消しを求めているか否か(争点5)について
1被告Bの主張の要点
(1)行政事件訴訟法10条1項は,「取消訴訟においては,自己の法律上の利
益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない」と定めて
いるところ,ここにいう「自己の法律上の利益に関係のない違法」とは,①
原告の法律上の利益を保護する趣旨で設けられたのではない法規に違反した
違法又は②法規そのものの趣旨においては原告の法律上の利益に関係のある
規定であっても,違反事由として主張される具体的事実に着目しても,それ
が原告の権利利益を侵害しない場合をいうものとされ,これに反する主張を
行っても裁判所はこれを採り上げることができない。
(2)以下のとおり,本件確認処分1及び2の固有の違法事由として原告らが主
張するものは,いずれも原告の法律上の利益とは関係がない違法をいうもの
というべきである。原告らは,本件確認処分1及び2の取消訴訟につき原告
らに原告適格が認められる以上,同項による主張制限を受けないなどと主張
するが,行政処分の適法要件のうち原告適格を基礎付けるものはごく一部で
あって,原告適格が認められるからといって,ありとあらゆる適法要件を争
う主張をすることができるということにはならない。
ア施行令119条違反の主張について
施行令119条の趣旨は,災害時に速やかな避難を実現するため,廊下
の幅を十分に確保することにあり,当該建築物の居住者の保護を目的とし
たものである解される。しかるに,原告らは,本件マンションの居住者で
はなく,単なる近隣住民であるから,同条が保護対象としているものでは
ない。したがって,原告らは,同条に関する主張を行う法律上の利益を有
しておらず,これを主張することは許されない。
なお,原告らの指摘する東京都火災予防条例55条の5の2の規定を考
慮しても,施行令119条は,せいぜい建物の居住者の保護に加えて公益
の実現を目的としたものと評価し得るにとどまり,地域住民を直接保護す
る目的で定められた法規と解することはできないものというべきである
(この点は,施行令120条,安全条例8条1項及び同条例19条につい
ても同様である。)。
イ施行令120条違反の主張について
施行令120条の趣旨は,災害時に居室から速やかに避難するために,
居室から避難階又は地上に通ずる直通階段までの歩行距離を制限すること
にあり,当該建築物の居住者の保護を目的としたものである解される。し
かるに,原告らは,本件マンションの居住者ではなく,単なる近隣住民で
あるから,同条が保護対象としているものではない。したがって,原告ら
は,同条に関する主張を行う法律上の利益を有しておらず,これを主張す
ることは許されない。
ウ安全条例8条1項違反の主張について
安全条例8条の趣旨は,災害時に実効的に避難が可能とするために,避
難階(通常は1階)が火災になった場合につき道路までの安全な避難経路
の確保を図るため,階段室区画の制限に付加して道路までの安全な避難経
路の確保をすることにあり,本件マンションの居住者の保護を目的とした
ものであると解される。しかるに,原告らは,当該建築物の居住者ではな
く,単なる近隣住民であるから,同条が保護対象としているものではない。
したがって,原告らは,同条に関する主張を行う法律上の利益を有してお
らず,これを主張することは許されない。
エ安全条例28条,19条違反の主張について
安全条例28条2項の趣旨は,機械式の立体駐車場について待機時間が
長くなることから待機スペースを確保するものであり,駐車場の利用者の
保護を目的としたものであると解されるし,仮に,原告らが主張するよう
に近隣の道路の通行を保護する趣旨が含まれているとしても,道路の通行
の利益は,広く一般の利益であって,公益を保護するものにすぎないもの
というべきである。また,同条例19条の趣旨は,共同住宅等の居室の居
住環境の悪化を防ぎ,かつ,災害時の避難手段の確保を図ることにあり,
当該建築物の居住者の保護を目的としたものと解される。しかるに,原告
らは,本件マンションの居住者ではなく,単なる近隣住民であるから,こ
れらの条項が保護対象としているものではない。したがって,原告らは,
これらの条項に関する主張を行う法律上の利益を有しておらず,これを主
張することは許されない。
また,本件車庫は,本件マンションの駐車場敷地内にあり,仮にその入
口が安全条例28条2項に違反し,その外側に車両が滞留する事態となっ
たとしても,本件マンションの駐車場敷地外の交通に影響を与えることは
考えられない。したがって,違反事由として主張される具体的事実に着目
すると,それが原告らの権利又は利益を侵害するとはいえないから,原告
らが同項に係る主張をすることは,やはり許されない。
オ本件告示第4の2号違反の主張について
本件告示は,消防法17条1項に基づき定められた消防法施行令29条
の4に基づき定められた特定共同住宅等における必要とされる防火安全性
能を有する消防の用に供する設備等に関する省令(本件省令)により消防
庁が定めた告示である。そして,消防法17条の趣旨は,同条が「学校,
病院,工場,事業場,興行場,百貨店,旅館,飲食店,地下街,複合用途
防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるもの」などの不特定多数の
者が出入りする建築物について特別な消防設備の設置を要求するものであ
り,当該建築物の利用者の保護を目的としたものであると解される。しか
るに,原告らは,本件マンションの居住者でもなければ利用者でもなく,
単なる近隣住民であるから,本件告示の大元の規定である同条1項が保護
対象としているものではない。したがって,原告らは,同条に関する主張
を行う法律上の利益を有していないから,本件告示に関する主張をするこ
とも許されない。
2原告らの主張の要点
(1)行政事件訴訟法9条の「法律上の利益」と同法10条1項の「法律上の利
益」とは,その文言に照らし,同一のものというべきであり,本件確認処分
1及び2の取消訴訟につき原告らに原告適格が認められる以上,同項による
主張制限を受けないものというべきである。
(2)以下のとおり,本件確認処分1及び2の固有の違法事由として原告らが主
張するものは,原告の法律上の利益とは関係がない違法をいうものとはいえ
ない。
ア施行令119条,同令120条,安全条例8条1項及び同条例19条に
ついて
施行令119条,同令120条,安全条例8条1項及び同条例19条が
第一義的には居住者の利益を保護するための規定であることは否定しない
が,火災は,火元の建築物の居住者のみならず,地域の問題である(東京
都火災予防条例55条の5の2参照)。火災の際の居住者の避難の遅れは,
当該建築物の消火の遅れにつながり,近隣への延焼を招いたり,当該建築
物の倒壊を引き起こしたりすることが否定できないし,大規模災害が発生
した時に,地域の一の建築物が避難に関わる法令の規定に違反していると,
そこに消防車等の消防資源が割かれ,他の建築物に消防資源が行き渡らな
い可能性もある。以上からすれば,これらの規定は,当該建築物の近隣住
民の生命・身体といった利益の保護をも目的としているものというべきで
ある。
イ安全条例28条2項について
安全条例28条2項は,立体駐車場の入口付近に車両が滞留することで
交通の障害を生ずることがないようにすることを目的とする規定であって,
その目的は,駐車場の利用者の保護に限らない。車両の滞留により,建築
物の敷地外に待機車両があふれては,近隣住民の交通の妨げになることは
明らかであるから,同条1項が道路と通行する人の身体の安全を図る規定
であるのと同様,同条2項も敷地と接する道路を通行する近隣住民の身体
の安全を図ることをも目的とする規定であるというべきである。
第6本件確認処分1及び2の適法性(争点6)について
1被告Bの主張の要点
(1)本件確認処分1及び2の固有の違法事由の主張について
ア本件マンションが施行令119条に違反するものではないこと
施行令119条は,速やかな避難を実現するために廊下の幅員の最低限
の基準を定めるものであり,同条が両側に居室がある廊下についてその他
の廊下より広い1.6mの幅員を要求しているのは,廊下の両側に住戸が
並んでいる場合に生じる通行量の負荷等の増大を考慮したものと解される。
本件マンションにおいて,「90A」タイプの居室から見て「90E」タ
イプの居室は,南から北に向かった共用廊下が東側に折れ曲がった突き当
たりに位置しており,廊下の片側に居室が並んでいる場合と同等の通行量
の負荷を生じさせるものにとどまるから,当該廊下は「両側に居室がある
廊下」には該当しないものというべきである。そうすると,当該廊下には,
1.2mの幅員があればよいところ,実際には1.3mの幅員があるから,
当該廊下は,施行令119条に違反するものではない。
イ本件マンションが施行令120条に違反するものではないこと
(ア)施行令120条1項の表の(二)及び同条2項ただし書によれば,本件
マンションの3階部分については,居室から避難階段までの距離は60
mを超えてはならないところ,その距離は,避難階段の付室の入口まで
の距離を見ればよく(丙6,7),また,同距離の算定に当たり,居室
内にあっては,家具の配置は無視してよいものと解される(丙8)。こ
の点に関する原告らの主張は,その前提を欠くものであって,失当であ
る。
(イ)建築基準法施行令120条1項(2)及び同条2項によれば,本件マ
ンションの43階部分については,居室から避難階段までの距離は50
mを超えてはならないところ,その距離は,避難階段の付室の入口まで
を見ればよいものと解される(丙6,7)。なお,原告らは,43階の
避難経路について,避難階段まで50m以内となるように避難経路の計
算をすると,廊下の壁から30cm程度のところを歩行する必要がある
が,その部分は人が現実的に通行不可能であるなどと主張するが,廊下
の壁から30cm程度のところを歩くことは通常可能であり,上記主張
は,失当である。
ウ本件マンションが安全条例8条1項に違反するものではないこと
安全条例8条1項は,「避難階における屋内の直通階段から屋外への出
口に至る経路の部分…を,道路まで有効に避難できるように,屋内の他の
部分と耐火構造の壁…で区画しなければならない。」と定めるところ,原
告らが指摘する風除室の東側の側面は,区画が必要とされる他の部屋では
なく,飽くまでも避難経路部分を一体として形成するエントランスホール
の部分であるから,「他の部分」とはいえず,区画の必要はない。したが
って,この点に関する原告らの主張は,失当である。
エ本件マンションが安全条例19条及び28条に違反するものではないこ

窓先空地に関する規定(安全条例19条1項2号)は,居住環境の悪化
の防止及び災害時の避難確保のために設けられたものであるところ,駐車
場の屋外車路と兼用することが認められており(丙10),入庫を待つ自
動車が一時的に待機するスペースである前面空地(同条例28条)も同様
に考えることができるから,機械式駐車場の前面空地と窓先空地とを兼用
させても,安全条例19条1項2号及び28条2項に違反するものではな
い。
オ本件マンションが本件告示第4の2号に違反するものではないこと
本件マンションの吹抜け部分について,本件告示にいう特定光庭に該当
するかを検証したところ,それに該当しないことが確認されており(丙1
1,13),東京消防庁深川消防署長は,原告らが問題としている点も含
めて,平成24年3月16日に同意をしている(丙12)。したがって,
この点に関する原告らの主張が失当であることは,明らかである。
(2)本件許可処分1及び2の違法性の承継の主張について
ア違法性の承継が認められる要件等
違法性の承継は,取消訴訟の排他的管轄という原則の例外を明文の規定
なく解釈上認める法理である以上,先行する行政行為を取消訴訟の排他的
管轄に服せしめることが実効的権利救済の面から不合理であるといえるこ
とを前提とし,違法性の承継を認めずとも私人の保護に欠けない場合にま
でこれを認めるべき理由はない。そして,違法性の承継を認めた先例にお
いては,先行処分と後行処分が手続的一体性を持っているかどうか及び先
行する処分を利害関係人が争う機会を有していたかどうかが重要な考慮要
素とされている(最高裁平成21年(行ヒ)第145号同年12月17日
第一小法廷判決・民集63巻10号2631頁〔以下「最高裁平成21年
判決」という。〕参照)。
イ本件において違法性の承継が認められるべきでないこと
先行処分を前提として後行処分がされる場合,先行処分の違法性は,そ
の取消訴訟で争うべきものであり,後行処分の適法性は,先行処分の取消
訴訟の判決の拘束力の問題として解決するのが原則であって(行政事件訴
訟法33条1項),先行処分の取消訴訟が実質的に権利保護手続として機
能しないときに,例外的に違法性の承継を認める余地があり得るにすぎな
い。本件においては,本件許可処分1及び2を前提として本件確認処分1
及び2がされているところ,以下のとおり,本件許可処分1及び2の違法
性は,これらの取消訴訟で争えば足りるものであり,これを後行処分であ
る本件確認処分1及び2の取消訴訟において取消事由として争うことを認
める理由はないものというべきである。
a原告らには先行する処分を争う機会があったこと
まず,先行処分について出訴期間内に取消処分を提起する現実的機会
があった場合には,後行処分の取消訴訟において先行する処分の適法性
を争うことを認める必要はなく,違法性の承継は認められない。違法性
の承継が認められるか否かは,先行する行政行為の出訴期間を徒過した
場合において,当該行政行為の法的安定の要請を犠牲にしてもなお,国
民の実効的権利救済の要請を優先すべきかどうかという問題である。そ
れゆえ,先行処分について出訴期間内に取消処分を提起する現実的機会
があった場合には,明文規定のない例外法理である違法性の承継による
手続保障は不要である。このような場合にまで違法性の承継を認めた場
合には,後行処分のみをした行政庁が先行処分の違法性までを争う必要
が生じ,応訴の煩という弊害が生ずるほか,先行処分の違法性を争う機
会があった者が,その機会を怠慢により徒過した場合まで保護されるこ
とになり,過剰な保護を与えるものとなるからである。
本件において,原告Dは本件許可処分1及び2の出訴期間内に,これ
らの取消訴訟を提起しており,先行処分である本件許可処分1及び2を
争う現実的機会があったし,原告Aは,原告Dとともに,同一の弁護士
及び一級建築士を代理人として本件確認処分1及び2につき審査請求を
行なっており,原告Dが本件許可処分1及び2につき審査請求をした際
に,共に審査請求をする現実的機会があった。それゆえ,原告Aが本件
許可処分1及び2の審査請求をしなかったのは,自らの意思決定による
ものであり,このような場合にまで,例外法理による機会の付与は不要
である。
この点,原告らは,最高裁平成21年判決が「仮に周辺住民等が安全
認定の存在を知ったとしても,その者において,安全認定によって直ち
に不利益を受けることはなく,建築確認があった段階で初めて不利益が
現実化すると考えて,その段階までは争訟の提起という手段は執らない
という判断をすることがあながち不合理であるともいえない。」と判示
していることを指摘する。しかし,本件において,原告Dは,現に本件
許可処分1及び2の適法性を争っており,改めて違法性の承継を認める
必要性がなく,また,原告Aは,上記のとおり原告Dと同一の弁護士及
び一級建築士を代理人として審査請求をしていたのであるから,本件許
可処分1及び2により直ちに不利益を受けることはないと考えて係争し
なかったのは合理的な選択であり,上記判決の事案と本件とは,権利保
護の必要性が全く異なるものというべきであって,両者は事案を異にす
るものというべきである。
b最高裁平成21年判決で問題となった安全条例4条と本件で問題とな
っている法48条6項及び52条14項とを同一視することはできない
こと
違法性の承継を認めるかどうかは,つまるところ,先行処分と後行処
分の根拠規定の法令解釈によるものである。
そして,最高裁平成21年判決の事案においては,「平成11年東京
都条例第41号による改正前の本件条例4条3項の下では,同条1項所
定の接道要件を満たしていなくても安全上支障がないかどうかの判断は,
建築確認をする際に建築主事が行うものとされていたが,この改正によ
り,建築確認とは別に知事が安全認定を行うこととされた。これは,平
成10年法律第100号により建築基準法が改正され,建築確認及び検
査の業務を民間機関である指定確認検査機関も行うことができるように
なった」という事情があり,元来,建築確認を争う際に,東京都建築安
全条例4条の安全認定を建築確認の取消訴訟で争うことができたという
事情が考慮されている(当該配慮は,同判決の原判決において極めて色
濃く示されている)。一方,法48条6項の許可処分及び法52条14
項の許可処分については,それぞれ,公聴会(法48条14項),建築
審査会の同意等(法48条14項,52条15項)を要し,また,元来
別個の処分として争うことが予定されていたものである。したがって,
最高裁平成21年判決は,本件とは事案を異にするものであり,本件は,
同判決の射程外である。
ウ本件許可処分1及び2がいずれも適法なものであること
本件許可処分1及び2は適法である(なお,この点については,前記第
3の1及び第4の1の被告東京都の主張を援用する。)から,本件確認処
分1及び2の適法性は明らかである。
2原告らの主張の要点
(1)本件確認処分1及び2の固有の違法事由
ア施行令119条違反
施行令119条は,両側に居室がある廊下の幅員は1.6m以上,その
他の場合は1.2m以上と規定するところ,本件マンションの3から43
階までにおいては,北側の「90E」タイプの居室の玄関が「90A」タ
イプの居室の方向に予定されており,これらの居室は,共用する廊下以外
に動線を持たないため,共用廊下の両側に居室がある場合に当たるから,
廊下の幅員は1.6m以上なければならないのに,当該廊下の幅員は1.
3mほどしかない(甲6)。
被告Bは,「90A」タイプの居室から見て「90E」タイプの居室は,
南から北に向かった共用廊下が東側に折れ曲がった突き当たりに位置する
から,当該廊下は,両側に居室がある廊下に当たらないと主張するが,当
該廊下の「東側に折れ曲がった」部分は,ドアの開閉に必要な90cmほ
どの長さの部分であって,不特定多数の人の通行が予定される共用廊下と
はいい難いから,上記主張は失当である。また,南から北に延びる廊下の
突き当たりにはバルコニーの出入口が計画されており,災害時にはバルコ
ニーから屋内へ多くの避難者が押し寄せることも想定され,それによる通
行量の増大は著しい。以上からすれば,「90E」タイプの居室と「90
A」タイプの居室の面する廊下は,両側に居室がある廊下に当たるものと
いうべきである。
なお,以上述べたところは,「80J」の居室と「90F」の居室との
間の廊下についても同様である。
したがって,本件マンションの4階から43階までの同様の位置に計画
される廊下の幅員は,施行令119条に違反している。
イ施行令120条違反
(ア)本件マンションの3階においては,施行令120条1項の表の(二)及
び同条2項本文の規定により,居室から最寄りの直通階段まで60m以
下であることを要する。いわゆる確認図面(甲4の1)ないし変更図面
(甲4の2)では,本件マンション3階の「集会室」(以下「本件集会
室」という。)の東南角から直通階段までの歩行距離は59.70mと
されているが,上記各規定に「居室の各部分から」とあることからすれ
ば,上記各規定への適合性は,居室内の最もドアから遠い部分からの距
離をもって判断すべきである。そして,同条項の趣旨が,災害時に迅
速・安全な避難経路を確保し,もって居住者の身体,生命の安全を図る
点にあることからすると,入居者が決まらなければどのような使用がさ
れるか見当のつかない居室とは異なり,本件集会室については,甲4の
1に記載されているような家具の設置が予定されていることを考慮した
上で,歩行距離を算定すべきである(甲4の1においても,予定された
家具の配置を前提に歩行距離を算定している。)。そして,本件集会室
において,特別避難階段まで一番遠い部分は,東南角ではなく,その西
側3mほどの部分であるから,本件集会室は,施行令120条に違反す
る。
(イ)本件マンションの43階においては,施行令120条1項の表の(二)
及び同条2項ただし書の規定により,居室から最寄りの直通階段まで5
0m以下であることを要する。甲6からすると,43階の「80H」タ
イプの居室から特別避難階段までの歩行距離は49.90mで,上記の
規制値内のように見えるが,甲6では,共用廊下の手すりより僅か20
㎝ほどの部分を歩行距離の算定に用いているところ,そこを人が歩行す
るのはおよそ不可能であり,災害時にそこの部分を歩行して避難するこ
とは現実的ではない。災害時の居住者の安全性を確保するという上記各
規定の趣旨に鑑みると,多くの人が一度に避難経路につめかける災害時
に,およそ誰も通らない避難経路を想定して歩行距離を算定することは
相当でなく,同条の歩行距離は,廊下の中心線をもって算定するのが合
理的である。本件マンション43階の「80H」タイプの居室から特別
避難階段までの歩行距離を,共用廊下の中心線をもって算定すると,甲
6の数値から60cm程増加し,50mを超えることになるから,同条
に違反することになる。
ウ安全条例8条1項違反
本件マンションは,防火地域内にあり,主要構造部を耐火構造としなけ
ればならない建築物である(法61条)上,階数が3以上,延べ面積が1
00㎡を超える建築物であるので,安全条例8条1項により,「避難階に
おける屋内の直通階段から屋外への出口に至る経路の部分(屋外の直通階
段から屋内を経て屋外への出口に至る経路のうち屋内の部分を含む。)を,
道路まで有効に避難できるように,屋内の他の部分と耐火構造の
壁・・・・で区画」しなければならないところ,1階平面図(甲8の1・
2)を見ると,「風除室(1)」の東側壁は耐火構造の壁ではない。同項
は,火災に際して,避難階が階段から屋内を経て道路まで安全に避難する
ために,火災を一定の範囲内にとどめ,避難経路を確保するための規定で
あるところ,「風除室(1)」内で火災が発生した場合,風除室が防火区
画とされていないために,エントランスホールにまで延焼する可能性があ
り,その結果,エントランスホールからリビングラウンジの出入口,「風
除室(2)」の出入口を経て避難することも不可能となる。
被告Bは,風除室の東側の側面は,区画が必要とされる他の部屋ではな
く,避難経路部分を一体形成するエントランスホールの部分であるから区
画の必要はないと主張するが,上記のとおり,風除室で火災が生じた場合,
エントランスホールからリビングラウンジを通って避難する経路も断たれ
ることになりかねないから,上記主張は,失当である。
したがって,「風除室(1)」の東側の壁が防火区画されていない点は,
安全条例8条1項に違反する。
エ安全条例19条及び28条2項違反
甲8の1・2によれば,本件マンションにおいては,機械式駐車場の前
面空地(6m×6m)と窓先空地(4m×4m)が,一部重なり合い,兼
用されている。窓先空地は,災害時の避難手段の確保のための空地であり,
前面空地は,機械式の立体駐車施設等の乗降口における待機場所の確保の
ための空地であって,その目的が異なることからすれば,両者の兼用は認
められない。具体的に検討しても,機械式の立体駐車場においては,その
機構上,設備の入口に自動車が停車する時間が長くなることから,その前
面空地は,道路(本件においては片側3.5mの道路)の交通の障害を回
避するための自動車の待機スペースであり,そこには自動車が待機してい
ることが想定されるから,避難手段を確保するスペースとはなり得ない。
よって,前面空地と窓先空地との兼用を認めては,窓先空地の趣旨を没却
することにもなりかねないから,前面空地と窓先空地とを兼用する本件マ
ンションは,安全条例19条及び28条2項に違反する違法なものである。
オ本件告示第4の2号違反
本件告示第2の6号にいう光庭(採光のために設ける屋根のない吹き抜
け状の空間)の高さが15mを超える場合,各住戸等の光庭に面する外壁
の距離が当該部分の高さの1/2.5の距離未満の場合は,本件告示にい
う特定光庭とされるところ(本件告示第4の1号(ニ)ロ(イ)),本件マ
ンションの光庭の高さは141.3m(甲9),各住戸の光庭に面する外
壁の最短距離は20.9m(甲6)であるから,本件マンションの吹抜け
部分は,特定光庭に当たる。
特定光庭に面する一の開口部の面積は2㎡以下でなければならず,また,
一の住戸等の開口部の面積の合計が4㎡以下でなければならない(本件告
示第4の2号)ところ,本件マンションの特定光庭に面しては,「80
I」,「80K」,「80F」,「80H」,「80G」,「80C」,
「80D」及び「80E」の各タイプの居室が配置され,これらの居室に
は,特定光庭に面して窓のある居室が計画されており(甲2),開口部の
面積が2㎡以下とは考えられない。特に,「80K」タイプの居室につい
ては,特定光庭に面して大きな引き違い窓が計画されており,上記の定め
を充足しているとは考えられないし,「80K」タイプの居室はもとより,
一の住戸等の開口部の面積の合計が4㎡以下との要件も充足していない。
よって,本件マンションは,本件告示第4の2号に違反する。
(2)本件許可処分1及び2の違法性の承継
ア前記第3の2及び第4の2のとおり,本件許可処分1及び2は,いずれ
も違法なものというべきであるところ,本件確認処分1及び2は,本件許
可処分1及び2の適法性を前提とする行政行為であり,本件許可処分1及
び2と本件確認処分1及び2とは,本件マンションを適法に建築するため
の連続した行政処分であるから,本件許可処分1及び2の違法性は,後続
の行為である本件確認処分1及び2に承継されるものというべきである。
最高裁平成21年判決は,安全認定と建築確認との目的の同一性,両者
が歴史的には同一の判断機関によってされていたこと,判断対象の性質と
判断をする行政庁の能力,安全認定の効果,周辺住民の手続保障の観点か
ら,安全条例4条に基づく安全認定の違法性が建築確認の違法性に承継さ
れる旨を判示したものであるところ,①本件許可処分1及び2と本件確認
処分1及び2は,いずれも,社会に違法な建物が存立することを防ぎ,快
適な住居環境の保護を目的としており,目的の同一性は認められる。②ま
た,歴史的経緯からいうと,法48条6項ただし書,法52条14項の処
分は従前から特定行政庁が行うものとされており,「建築確認機関」(従
前は建築主事であったが,法改正を経た後は指定確認検査機関も含むこと
となった。)とは異なるようにも見えるが,特定行政庁とは,建築主事を
置く地方公共団体及びその長をいうものであるから,建築主事と実質的に
一体といえる。④さらに,判断をする行政庁の能力という点では,法48
条6項ただし書の「住居の環境を害するおそれ」又は「公益上やむを得な
い」という要件や,法52条14項の「交通上,安全上,防火及び衛生上
支障がない」という要件の審査は,地域の実情を認識していない「確認機
関」が,書面審査によりなし得るところではない。④加えて,法48条6
項ただし書の許可処分及び法52条14項の許可処分は,これらを前提に
建築確認の対象とされている建築物の計画につき法令違反の有無を検討す
ることを許すものであるから,建築確認申請手続における一定の地位を与
えるものであり,建築確認処分と結合して初めてその効果を発揮するもの
であって,建築確認処分と結合して初めてその効果を発揮するものである。
⑤周辺住民の手続保障という観点から見ても,周辺住民等は,施工業者が
法89条1項に従い建築確認があった旨の表示をして初めて,法48条6
項ただし書の許可処分及び法52条14項の許可処分がされたことを知る
ことが多いから,これらの適否を争うための手続的保障がこれを争おうと
する者に十分に与えられているとはいえない(仮に,周辺住民等がこれら
の許可処分の存在を知ったとしても,その者において,これらの処分によ
って直ちに不利益を受けることはなく,建築確認処分があった段階で初め
て不利益が現実化すると考えて,その段階までは争訟の提起という手段は
執らないという判断をすることにも合理性があるものというべきであ
る。)。以上の事情を考慮すると,建築確認処分の取消訴訟において,上
記の各許可処分が確認処分の前提となっている場合には,建築確認処分に
上記の各許可処分の違法性が承継されるものというべきである。
イ(ア)被告Bは,先行処分について出訴期間内に取消訴訟を提起する現実的
機会があった場合には,違法性の承継による手続保障は不用であると主
張する。しかし,先行処分について出訴期間内に取消訴訟を提起する現
実的機会があったとしても,先行処分の違法が後行処分の違法性の判断
に大きな影響を与えるものであるとすれば,後行処分の違法性を判断す
るに当たって先行処分の違法性を検討しなければならないはずであり,
その意味で処分の違法性を争う者に,その先行処分の違法事由の主張を
認めるべきは当然である。原告らは,本件では後行処分に瑕疵があるこ
とは明らかであると考えているが,それとは別個の問題として,先行処
分にも違法があるのであれば,その違法が後行処分の違法性に直接の影
響を与える以上,この点を考慮すべきはむしろ当然と考える。原告ら両
名において,この点についての事情には何らの相違はないのであり,ど
ちらについても等しく先行処分に係る違法性の主張を認めるべきである。
(イ)被告Bは,法46条6項の許可処分及び52条14項の許可処分につ
いては,それぞれ公聴会,建築審査会の同意を要するとも主張するが,
公聴会の開催も,同意の手続も,近隣住民に周知されるような法的手続
が用意されているわけではない。これらの手続は,近隣住民への手続保
障として予定されているものではないのであって,この点からしても,
原告らの手続保障を十分ならしめるために、本件の後行処分たる本件確
認処分1及び2の違法性を争うのに,その先行処分たる本件許可処分1
及び2の違法性を原告らが争うことができなければならないものという
べきである。
以上

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