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平成16年(ワ)第9540号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成17年7月19日 
           判       決
     原      告     大日本印刷株式会社
     訴訟代理人弁護士     椙山敬士
同            吉田正夫
同            赤尾太郎
同            市川穣
同            松田美和
訴訟代理人弁理士     牛久健司
補佐人弁理士    井上正
同            高城貞晶
同            金山聡
同            後藤直樹
     被      告     凸版印刷株式会社
     訴訟代理人弁護士     竹田稔
同            川田篤
同            服部誠
訴訟代理人弁理士     小栗久典
同            高橋詔男
同            青山正和
同            柳井則子
補佐人弁理士    志賀正武
同            船山武
 主       文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
           事実及び理由
第1 請求
1 被告は,別紙リアプロジェクションテレビ目録記載のリアプロジェクション
スクリーンを製造し,販売し,又は譲渡等の申出をしてはならない。
 2 被告は,別紙ウェブページ目録記載のウェブページを削除せよ。
3 被告は,別紙リアプロジェクションテレビ目録記載のリアプロジェクション
スクリーンを廃棄せよ。
4 被告は,原告に対し,金6億3041万6666円及びこれに対する平成1
6年5月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,透過形スクリーンの発明に係る特許権を有する原告が,被告の製造
販売する別紙リアプロジェクションテレビ目録記載のリアプロジェクションスクリ
ーン(以下「本件スクリーン」という。)が原告の特許発明の技術的範囲に属し,
その製造販売が原告の特許権を侵害するものであると主張して,被告に対し,特許
法100条1項に基づき,本件スクリーンの製造販売等の差止めを,同条2項に基
づき,本件スクリーンの宣伝広告に係るウェブページの削除及び本件スクリーンの
廃棄を求めるとともに,民法709条,特許法102条3項に基づき,損害賠償金
6億3041万6666円及びこれに対する遅延損害金(不法行為の後の日である
平成16年5月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によるもの。)を
求めた事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,後記各証拠及び弁論の全趣旨に
より認められる。)
(1)原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,その出願を「本件出
願」という。)に基づく特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
       発明の名称  透過形スクリーン
       特許番号   第2599945号
       出願日    昭和62年12月29日
       登録日    平成9年1月29日
  (2)本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許
請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1記載の特許発
明を「本件発明」という。なお,発明の数は1である。)。
    「【請求項1】観察側に配置される光拡散作用をもつ光拡散性基板と,前
記光拡散性基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつフレネルレンズ基
板とからなる透過形スクリーンにおいて,前記フレネルレンズ基板が紫外線硬化樹
脂により成形されており,前記光拡散性基板に紫外線吸収作用をもたせたことを特
徴とする透過形スクリーン。」
 (3)本件発明を構成要件に分説すれば,次のとおりである(以下,各要件を
「構成要件A1」のように表記する。)。
    A1 観察側に配置される光拡散作用をもつ光拡散性基板と,
     2 前記光拡散性基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつ
フレネルレンズ基板と 
     3 からなる透過形スクリーンにおいて,
    B  前記フレネルレンズ基板が紫外線硬化樹脂により成形されており,
    C  前記光拡散性基板に紫外線吸収作用をもたせたこと
    D  を特徴とする透過形スクリーン。
  (4)被告は,平成16年6月9日,本件特許につき無効審判を請求し,被請求
人である原告は,その審理の過程において訂正請求をした(甲30。以下「本件訂
正」という。)。特許庁は,平成17年4月19日,本件訂正を認め,本件特許を
無効とする旨の審決をした(乙48)。これに対し,原告は,平成17年5月24
日,同審決の取消訴訟を提起した(弁論の全趣旨)。
    上記審決が確定した場合には,本件訂正により,本件特許の特許請求の範
囲の請求項1の記載は,次のとおりとなる。
    「フレネルレンズ基板より観察側に配置され光拡散作用をもつレンチキュ
ラーレンズ基板と,前記レンチキュラーレンズ基板より光源側に配置されフレネル
レンズ形状をもつフレネルレンズ基板とからなるプロジェクションTV用透過形ス
クリーンにおいて,前記フレネルレンズ基板が紫外線硬化樹脂により成形されてお
り,前記レンチキュラーレンズ基板に紫外線吸収作用をもたせたことを特徴とする
プロジェクションTV用透過形スクリーン。」
(5)被告は,現在,別紙部品番号目録1,4,5,7,8,10及び11記載
のフレネルレンズシート及びレンチキュラーレンズシートを製造し,同目録2,
3,6及び9記載のフレネルレンズシート及びレンチキュラーレンズシートを,少
なくとも過去において製造販売していた。
 2 本件の争点
  (1)被告は,別紙物件目録記載のフレネルレンズシート及びレンチキュラーレ
ンズシートをそれぞれ単体として製造販売しているのか,それとも,両レンズシー
トを組み合わせたリアプロジェクションスクリーンとして製造販売しているのか
(争点1)。
  (2)本件スクリーンの構成は,本件発明の技術的範囲に属するか(争点2)。
  (3)本件特許は無効とされるべきものか(争点3)。  
  (4)原告の損害額はいくらか(争点4)。
 3 争点に関する当事者の主張
  (1)争点1(被告は,別紙物件目録記載のフレネルレンズシート及びレンチキ
ュラーレンズシートをそれぞれ単体として製造販売しているのか,それとも,両レ
ンズシートを組み合わせたリアプロジェクションスクリーンとして製造販売してい
るのか。)について
   ア 原告の主張
被告は,別紙物件目録記載のフレネルレンズシート及びレンチキュラー
レンズシートを組み合わせてリアプロジェクションスクリーンを製造販売してい
る。
     被告は,フレネルレンズシート及びレンチキュラーレンズシートを単体
として製造販売しているものであって,リアプロジェクションスクリーンとして製
造販売しているものではないと主張する。しかし,フレネルレンズシートとレンチ
キュラーレンズシートとは,一対一体のものとしてリアプロジェクションテレビに
おいて用いられるものであって,被告の前記主張は,単なる形式論にすぎない。
     すなわち,リアプロジェクションテレビの開発に当たっては,テレビメ
ーカーから被告に対して提示されるシステム仕様に適合するようにスクリーンが設
計され,同スクリーンを構成するフレネルレンズシート及びレンチキュラーレンズ
シートも,前記仕様に合わせて開発される。サンプルの製作,提出,評価及び認定
においても,フレネルレンズシートとレンチキュラーレンズシートとは,一対一体
のものとして扱われ,両レンズシートに付与される部品番号も,新規に製作される
場合には連番で付される。製品の受注,製造及び納入における両レンズシートの枚
数も,不良品等の関係で完全には一致しないものの,ほぼ同数である。ホームペー
ジによる被告の宣伝広告においても,両レンズシートを合わせた「FCスクリー
ン」の名称による宣伝広告が行われている。
     このように一対一体のものとしてテレビに組み込まれることが予定され
ているフレネルレンズシート及びレンチキュラーレンズシートが製造されれば,そ
の後の工程は,接着テープを用いて両レンズシートを貼り合わせるか,あるいは,
貼り合わせないままテレビに組み込むだけであるから,両レンズシートの製造をも
って,リアプロジェクションスクリーンの製造も完了したというべきである(した
がって,両レンズシートが外国に輸出された後でテレビに組み込まれる場合でも,
リアプロジェクションスクリーンの製造販売は,日本国内で完結している。)。
 イ 被告の反論
     被告は,平成14年から翌15年にかけて,フレネルレンズシートとレ
ンチキュラーレンズシートとを組み合わせたリアプロジェクションスクリーンを販
売したことがあるが,それ以降は,両レンズシートをそれぞれ単体として製造販売
しており,リアプロジェクションスクリーンとしては製造販売していない。
     原告は,フレネルレンズシートとレンチキュラーレンズシートとは一対
一体のものであるから,リアプロジェクションスクリーンとしての製造販売を否認
する被告の主張は単なる形式論にすぎないと主張する。しかし,被告は,実質的に
みても,フレネルレンズシートとレンチキュラーレンズシートをそれぞれ単体とし
て製造販売しているものである。
     すなわち,両レンズシートは,必ずしも一対一体として開発されるもの
ではなく,特定のフレネルレンズシートとの組合せを考慮せず,単独でレンチキュ
ラーレンズシートが開発される例も多数あり,単独で開発され,製造販売される数
は,被告が販売するレンチキュラーレンズシート全体の約50%にも及ぶ。両レン
ズシートが同時に開発され,部品番号として連番が付される場合でも,販売先企業
の都合によりレンズシートの組合せが変更され,連番が付されていないレンズシー
トや,他社の製造するレンズシートと組み合わされることがあり得るのであり,被
告は,被告の製造販売したレンズシートが実際にどのように組み合わされているの
か,知ることができないのである。
     また,両レンズシートを組み合わせる工程は,高度な技術力や特別な作
業環境等を要するものであり,同工程を経なければリアプロジェクションスクリー
ンとしての機能を有することにはならないのであるから,両レンズシートがそれぞ
れ製造されただけでは,リアプロジェクションスクリーンの製造が完了したとはい
えない。特に,日本サムスン株式会社に販売されるレンズシートは,前記の組合せ
工程を経ずに,単体のまま外国へ輸出されているから,本件発明の構成要件の一部
が第三者によって外国で行われているものであり,本件特許権の侵害が日本国内で
されたとは評価することができない。
  (2)争点2(本件スクリーンの構成は,本件発明の技術的範囲に属するか。)
について
   ア 原告の主張
     本件スクリーンは,本件発明の構成要件をいずれも充足し,本件発明の
作用効果を奏するから,本件発明の技術的範囲に属する。
    a) 本件発明の構成要件を充足することについて
     ① 本件スクリーンの構成は,別紙物件目録に記載のとおりであり,次
に述べるとおり,本件発明の構成要件をいずれも充足する。
      (i)本件スクリーンは,観察側に配置される光拡散作用をもつレンチ
キュラーレンズシートと,同レンズシートより光源側に配置されフレネルレンズ形
状を有するフレネルレンズシートとからなる透過形スクリーンであるから,構成要
件A1ないし3を充足する。
      (ii)前記フレネルレンズシートは,紫外線硬化樹脂により構成され,
前記レンチキュラーレンズシートには紫外線吸収剤が含まれており,本件スクリー
ンはかかる特徴を有する透過形スクリーンであるから,構成要件BないしDを充足
する。
      (iii)なお,本件特許の特許請求の範囲の請求項1につき本件訂正を認
める審決が確定した場合でも,本件訂正は,「光拡散性基板」を「レンチキュラー
レンズ基板」に,「透過形スクリーン」を「プロジェクションTV用透過形スクリ
ーン」にそれぞれ減縮し,レンチキュラーレンズ基板が「フレネルレンズ基板よ
り」観察側に配置されるとしたものにすぎないから,本件訂正がされた後の特許請
求の範囲を前提としても,本件スクリーンは本件発明の構成要件を充足するもので
ある。
 ② 被告は,構成要件Bの「紫外線硬化樹脂」とは,長時間使用すると
紫外線により劣化する性質を有する紫外線硬化樹脂を指すとした上で,この「劣
化」とは,リアプロジェクションテレビの使用上許容し得る限度を超える場合,す
なわち,黄色度(YI値)が5.0を超える場合をいうと主張する。
       しかし,そもそも,構成要件Bの「紫外線硬化樹脂」につき,被告
主張のような限定解釈をすべき理由はない。
       仮に,「紫外線硬化樹脂」を,長時間使用すると紫外線により劣化
する性質を有する紫外線硬化樹脂を指すと解釈するとしても,リアプロジェクショ
ンテレビのスクリーン市場において,黄色度の上限値なるものは存在せず,黄色度
が5.0を超えない限りフレネルレンズシートは劣化していないと解する根拠はな
い。前記解釈における「劣化」とは,紫外線を受ける時間の経過に伴って黄変が進
行していくことを意味するにすぎない。
       しかるに,本件スクリーンの一部(別紙リアプロジェクションテレ
ビ目録のNo.17,LGElectronicsInc.製造のリアプロジェクションテレビ型番R
N-52SZ30Hに用いられているリアプロジェクションスクリーン。以下同
じ。)について,原告が実施した耐光性促進試験(甲8,35)の結果によれば,
フレネルレンズシート単体を試料として,紫外線を一定時間照射した場合に,時間
の経過に伴って黄変が進行しており,このことからすれば,本件スクリーンのフレ
ネルレンズシートは,紫外線により劣化する性質を有するものである。
被告は,本件スクリーンのフレネルレンズシートは,長時間使用し
ても紫外線による劣化を生じさせない構成となっていると主張する。しかし,①同
レンズシートに含有されている光開始剤ダロキュア1173は,黄変が比較的少な
いというだけで,黄変しないわけではなく,むしろ,ダロキュア1173自体の分
解生成物が紫外線を吸収して活性化し,光酸化サイクルを開始させる契機の一つと
なっていること,②同レンズシートに光安定剤であるヒンダードアミン類が含まれ
ているとしても,光酸化サイクルがいったん開始されると,光酸化サイクルの繰返
しによってラジカルの発生が加速度的に増加する結果,ヒンダードアミン類ではラ
ジカルを捕捉しきれなくなること,③同レンズシートの樹脂原料として,芳香族系
でないジイソシアネートであるヘキサメチレンジイソシアネートが使用されている
としても,樹脂組成物中には芳香族系化合物であるo-フェニルフェノールが含ま
れており,同化合物によりウレタン基の変化が生じ,黄変する可能性もあることに
照らせば,本件スクリーンのフレネルレンズシートは,長時間使用しても紫外線に
よる劣化を生じさせない構成であるとはいえない。
     ③ 被告は,構成要件Cの「前記光拡散性基板に紫外線吸収作用をもた
せたこと」とは,光拡散性基板にフレネルレンズ基板の劣化を防止するための紫外
線吸収作用をもたせたことを意味するものと限定的に解釈すべきであると主張す
る。
       しかし,フレネルレンズ基板の劣化防止は,本件発明の作用効果で
あって,発明の構成をなすものではないから,被告主張のように限定的に解釈する
べきではない。構成要件Cの該当性を判断するに当たって,被告がいかなる主観的
意図ないし動機からレンチキュラーレンズシートに紫外線吸収作用をもたせたかは
問題とされるべきではなく,本件スクリーンのレンチキュラーレンズシートが紫外
線吸収作用を有している以上は,構成要件Cを充足するというべきである。
     ④ 被告は,本件出願経過や公知技術を参酌すれば,構成要件B及びC
は限定的に解釈されるべきであると主張する。
       しかし,原告作成の平成8年5月29日付け意見書(乙24)の記
載は,構成要件B及びCを限定的に解釈する根拠とはならないし,また,公知技術
の参酌によっても,本件発明の進歩性が否定されることはない(後記(3)イ)から,
構成要件B及びCを限定的に解釈する必要はない。
    b) 本件発明の作用効果を奏することについて
本件スクリーンの一部について原告が実施した耐光性促進試験(甲
8,35)の結果によれば,前記スクリーンをそのまま試料とした場合,及び,同
スクリーンのフレネルレンズシートを紫外線吸収作用を有するレンチキュラーレン
ズシートと合わせた場合には,400時間にわたってキセノンアーク灯により紫外
線を照射してもほとんど黄変しなかったのに対し,同スクリーンのフレネルレンズ
シートのみを試料とした場合,及び,同フレネルレンズシートと紫外線吸収作用を
有しないレンチキュラーレンズシートとを合わせた場合には,20時間の紫外線照
射で黄変し,その後も時間の経過に伴って黄変が進行した。これらに照らせば,本
件スクリーンは,レンチキュラーレンズシートに紫外線吸収作用をもたせたことに
よって,フレネルレンズシートの黄変劣化を防止しているから,本件発明の作用効
果を奏するものである。
      被告は,原告実施の前記試験について,フレネルレンズシートのう
ち,凹凸の起伏が大きく屈折性の高い部位を試料としたために,正しい黄色度が測
定されていないと主張する。しかし,フレネルレンズシートは,その性質上,平
滑・平行でないものであり,被告が主張するような「両面が平滑で,かつ平行」と
の条件を充たす試料を用いて試験を実施することは,原理的に不可能である。ま
た,被告が試料とすべきであると主張する「比較的平滑な中心部」の測定範囲は直
径12㎜であり,そのうち平滑・平行な部分の直径はわずか0.118㎜にすぎな
いから,同部位をもって,縦670㎜,横1178㎜という大きさを有する本件ス
クリーンを代表させることは適当でない。本件スクリーンにおいては,紫外線硬化
樹脂層の厚さや,レンズ表面の形状の相違から,中心部に比べてその周辺の主要部
のほうが,黄変の程度が著しくなるから,中心部だけでなく周辺主要部も含むフレ
ネルレンズシート全体を測定の対象とすべきである。原告が実施した試験(甲3
5)は,フレネルレンズシートの中心部から100㎜ごとに,600㎜の位置まで
を測定の対象としたものであり,相当である。さらに,試料の採取部位や測定角度
を一定にするなどの条件下で,同一部位を同一方法で測定した結果を比較したり,
経時的な変化を把握する限りにおいて,意味のある測定を実施することが可能であ
るのであり,原告実施の前記試験は,このような意味を有するものとして実施され
たものである。
 イ 被告の反論
   本件スクリーンは,本件発明の構成要件B,C及びDを充足せず,ま
た,本件発明の作用効果も奏しない。
  a) 本件発明の構成要件を充足しないことについて
   ① 本件明細書の記載,本件出願の経過及び公知技術を参酌すれば,本
件発明の技術思想は,次のとおりである。
     本件明細書の記載によれば,フレネルレンズ基板の成形に用いられ
る紫外線硬化樹脂には,紫外線による重合反応を開始させるための増感剤等が含有
されているため,スクリーンを長時間使用すると,外光に含まれる紫外線によりフ
レネルレンズ基板が劣化してしまうという技術的課題があり,かかる課題を解決す
るために,光拡散性基板にフレネルレンズ基板の劣化を防止するための紫外線吸収
作用をもたせたのが本件発明である。
     本件出願の経過においても,原告は,平成8年4月2日付け拒絶理
由通知に対する同年5月29日付け意見書(乙24)によって,フレネルレンズ基
板の紫外線による劣化を防止するために,同基板とは別体の光拡散性基板に紫外線
吸収作用をもたせるという技術思想を強調している。
     また,公知技術の参酌という観点からも,本件発明の構成は単なる
先行技術の組合せにすぎず,その組合せは極めて容易である(後記(3)ア)から,本
件発明に特許性を認めるとするならば,フレネルレンズ基板の紫外線による劣化を
防止するために,同基板とは別体の光拡散性基板に紫外線吸収作用をもたせるとい
う技術思想についてのみ,特許性を肯定できるものである。
② 本件発明の構成要件を解釈するに当たっては,上記のような本件発
明の技術思想をふまえ,同思想に基づかない製品が本件発明の構成要件を充足する
こととならないよう,限定的に解釈すべきである。
     したがって,構成要件Bの「紫外線硬化樹脂」とは,長時間使用す
ると紫外線により劣化する性質を有する紫外線硬化樹脂をいい,構成要件Cの「前
記光拡散性基板に紫外線吸収作用をもたせたこと」とは,光拡散性基板にフレネル
レンズ基板の劣化を防止するための紫外線吸収作用をもたせたことをいうものと解
すべきである。そして,前記「長時間」とは,リアプロジェクションテレビの製品
寿命期間に相当する8年ないし10年をいい,前記「劣化」とは,リアプロジェク
ションテレビを使用する上で許容される限度を超える場合,すなわち,黄色度(Y
I値)が5.0を超える場合をいうものと解すべきである(黄色度5.0という値
は,文献(特開平7-207086号公報,特開2001-343633号公報及
び「光硬化性樹脂を応用したプラスチックメガネレンズ」工業材料35巻5号)
上,長時間の使用を経ても何ら支障なく使用できるとされた例に基づいて導き出さ
れた客観的な数値である。)。
   ③ しかるに,本件スクリーンの構成は,別紙「物件目録についての被
告の主張」に記載のとおりであり,次に述べるとおり,本件発明の構成要件B,C
及びDを充足しない。
    (i)本件スクリーンのフレネルレンズシートを構成する紫外線硬化樹
脂は,長時間使用しても黄変劣化を生じない物質により組成されている。
      すなわち,本件スクリーンのフレネルレンズシートには,①無黄
変タイプの光開始剤であるダロキュア1173,②紫外線硬化樹脂の主成分である
光重合性プレポリマーの劣化過程で生成する活性なラジカルを安定化させる光安定
剤であるヒンダードアミン類が用いられているほか,③樹脂組成物であるウレタン
アクリレートオリゴマーの原料として,同オリゴマーに含まれるウレタン基を着色
性のキノンイミド構造に変化させる芳香族系のジイソシアネートではなく,脂肪族
系のジイソシアネートであるヘキサメチレンジイソシアネートが用いられている。
これらの構成により,本件スクリーンのフレネルレンズシートは,長時間使用して
も紫外線による劣化を生じさせないものとなっている。
      なお,本件スクリーンのフレネルレンズシートには,樹脂組成物
中に芳香族系の化合物が含まれているが,同化合物はジイソシアネートではなく,
ウレタン基の変化を生じさせないものである。また,同レンズシートには,樹脂組
成物中のモノマー成分として,高屈折率の物質であるビフェニルオキシエチルアク
リレートが含まれているが,同物質はハロゲン原子を有しない化合物であり,黄変
性のないものである。
    (ii)本件スクリーンと同等の構造を有するスクリーン(別紙リアプロ
ジェクションテレビ目録のうちLGElectronicsInc.製造のリアプロジェクションテ
レビに用いられるリアプロジェクションスクリーンと同等の構成を有するもの。以
下同じ。)について,被告が実施した耐光性促進試験の結果(乙1)によれば,同
スクリーンのフレネルレンズシートと紫外線吸収作用を有しないレンチキュラーレ
ンズシートとを合わせた場合,フレネルレンズシートの黄色度は,紫外線照射を開
始して200時間を経過した時点で,1.5にすぎず,「劣化」というにはほど遠
い値である。また,フレネルレンズシートと合わせるレンチキュラーレンズシート
が紫外線吸収作用を有する場合と有しない場合とを比較すると,紫外線を照射した
後のフレネルレンズシートの黄色度はほぼ同じであり,このことからも,本件スク
リーンのフレネルレンズシートの黄色度は,レンチキュラーレンズシートが紫外線
吸収作用を有するか否かによって影響を受けないものである。
      さらに,前記試験で紫外線照射された検体につき,黄色度による
評価に代えて,①目視による比較,②人間の視覚において色の差を認識できるかど
うかに関する指標である「色差」による比較,③マイクロソフト社策定のカラーモ
ニター規格による比較をしても,同様の結論が導かれる。
  (iii)本件スクリーンのレンチキュラーレンズシートに紫外線吸収作
用をもたせたのは,フレネルレンズシートの紫外線による劣化を防止することを目
的としたものではなく,レンチキュラーレンズシート内に設けられたブラックスト
ライプ(遮光層)の製造に用いられる紫外線反応性樹脂が紫外線により劣化するの
を防止することを目的としたものである。
      (iv)以上によれば,本件スクリーンのフレネルレンズシートは,長時
間使用すると紫外線により劣化する性質を有する紫外線硬化樹脂により構成される
ものではないから,構成要件Bを充足せず,また,本件スクリーンのレンチキュラ
ーレンズシートに紫外線吸収作用をもたせたのは,フレネルレンズシートの劣化を
防止するためではなく,レンチキュラーレンズシート自体の劣化を防止するための
ものであるから,構成要件Cを充足せず,したがって,構成要件AないしCの特徴
を有する透過形スクリーンとはいえないから,構成要件Dも充足しないものであ
る。
  b) 本件発明の作用効果を奏しないことについて
    前記a)のとおり,本件スクリーンにおいてレンチキュラーレンズシー
トに紫外線吸収作用をもたせたのは,レンチキュラーレンズシート自体の劣化を防
止する目的によるものであり,同スクリーンにおけるフレネルレンズシートは,紫
外線による劣化を生じさせない紫外線硬化樹脂を用いているため,レンチキュラー
レンズシートに紫外線吸収作用をもたせなくても黄色劣化を生じない。したがっ
て,本件スクリーンは,レンチキュラーレンズシートに紫外線吸収作用をもたせた
ことにより,フレネルレンズシートの劣化が防止されるとの本件発明の作用効果を
奏しない。
    原告は,本件スクリーンの一部について原告が実施した耐光性促進試
験(甲8,35)の結果に基づき,本件スクリーンは本件発明の作用効果を奏する
と主張する。しかし,原告の実施した前記試験は,その実施方法において著しく適
切性を欠き,重大な誤りを有するものである。すなわち,原告が先に実施した試験
(甲8)では,フレネルレンズシートの中心部から250㎜~300㎜及び300
㎜~350㎜の部位を試料としているが,同部位は,中心部とは異なり,凹凸の起
伏が大きく屈折性の高い部位であり,正しい黄色度が測定できない。そのため,前
記試験の結果は,紫外線を照射する前のフレネルレンズシートの黄色度が異常に高
い数値となっている上,紫外線を照射して200時間経過した時点の数値について
も,各試料間に大きなばらつきが生じている。また,原告が追加的に実施した試験
(甲35)は,周辺主要部を試料とする点で上記と同様の問題を有するだけでな
く,非レンズ面から測定光を入射させているという点で,一層不適切な方法によっ
ている。
    原告は,フレネルレンズシートの比較的平滑な中心部は,面積が小さ
すぎるため,同部位の測定結果をもってフレネルレンズシート全体を代表させるこ
とは適当でないと主張する。しかし,前記中心部を試料とした黄色度の測定は十分
に実施可能であり,また,中心部とその周辺の主要部とで黄色度がほとんど異なら
ないことは,目視による観察によっても明らかであるから,中心部を測定すること
によってフレネルレンズシート全体の黄変劣化の有無を知ることは可能である。
  (3)争点3(本件特許は無効とされるべきものか。)について
   ア 被告の主張
     本件発明は,次に述べる各刊行物に記載された公知の発明に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特
許を受けることができず,特許無効審判により無効にされるべきものである。した
がって,同法104条の3第1項により,原告の本件特許権の行使は許されない。
    a) 本件発明と主引例との対比
      特開昭61-164807号公報(乙25。以下「引用文献1」とい
う。)の[従来の技術]の項及び第2図(別紙「引用文献1図面」参照)には,透
過形ビデオプロジェクターのスクリーンとして,光拡散物質から成るレンチキュラ
ーレンズを観察側に,フレネルレンズを光源側に配置する構成が記載されており,
この構成は,本件発明の構成要件A1ないし3及びDと一致する。同文献の[従来
の技術]の項には,フレネルレンズは紫外線硬化樹脂を使用して成形されることが
記載されており,この構成は,本件発明の構成要件Bと一致する。また,同文献の
[従来の技術]の項には,レンチキュラーレンズが光拡散性物質を混練して成形さ
れることが記載されており,この構成は,本件発明の構成要件Cの光拡散性基板に
対応するものの,同文献には,レンチキュラーレンズに紫外線吸収作用をもたせる
という記載はない(以下,引用文献1の[従来の技術]の項及び第2図に記載され
た上記発明を「引用発明1」という。)。
      したがって,引用文献1には,本件発明の構成要件A1ないし3,B
及びDと同じ構成が記載されており,また,構成要件Cに対応するレンチキュラー
レンズも記載されている。したがって,本件発明と引用発明1との相違点は,レン
チキュラーレンズに紫外線吸収作用をもたせるか否かの点のみである。
      なお,特開昭61-219610号公報(乙26)及び特開昭61-
219611号公報(乙27)にも,引用文献1の上記記載と同様の記載があり,
引用発明1と同様の発明が開示されている。
    b) 他の引用例における記載
      特開昭51-51346号公報(乙28。以下「引用文献2」とい
う。)には,スクリーン等に用いる光拡散部材に紫外線吸収剤を添加すること(以
下「引用発明2」という。)が記載されている。
      特開昭51-89419号公報(乙29。以下「引用文献3」とい
う。)には,後面投影型スクリーンに関して,拡散板に含有されるワックスあるい
は結晶性ポリマーの経時性を改良する目的で紫外線吸収剤を添加すること(以下
「引用発明3」という。)が記載されている。
      特開昭58-33429号公報(乙30。以下「引用文献4」とい
う。)には,レンチキュラーレンズを含むプラスチックレンズに関して,耐候性の
改良を目的として,透明性基材の表面に紫外線吸収剤を添加すること(以下「引用
発明4」という。)が記載されている。
    c) 容易推考性
      発明の進歩性の判断において問題とされるべきは,主引例を出発点と
して,これと本件発明との構成上の相違点を克服して同発明に至ることが当業者に
とって容易であったかどうかということにある。そして,引用発明1に引用発明2
等を適用して本件発明に至る動機ないし課題が,引用例の中に見いだせるか否かは
問題となり得るものの,本件発明と異なった動機ないし課題から,本件発明と同一
の構成に至る場合もあるから,引用発明1に引用発明2等を適用して本件発明に至
る動機ないし課題が,本件発明のものと同一か否かは問題とはなり得ない(東京高
裁平成15年2月27日判決及び特許庁審査基準第Ⅱ部第2章16頁21~23行
参照)。本件発明と引用例との間に技術的課題の共通性がある場合は,引用例から
本件発明に至る動機付けがあるということがいえるというだけのことであって,両
者間に技術的課題の共通性がないというだけで直ちに引用例から本件発明に至る動
機付けが否定されるものではない。例えば,主引例と関連する技術分野に置換ある
いは付加可能な技術手段があるときは,当業者が,主引例にこの技術手段を適用
し,本件発明に導かれることの有力な根拠となるのである(特許庁審査基準第Ⅱ部
第2章15頁)。
      引用発明1と本件発明との相違点は,レンチキュラーレンズに紫外線
吸収作用をもたせるか否かである。そして,引用文献2ないし4には,前記レンチ
キュラーレンズと置換し,あるいは,これに付加することが可能な技術手段が開示
されているのであるから,引用発明1のフレネルレンズの紫外線による劣化を防ぐ
ため,あるいは,レンチキュラーレンズ自体の紫外線による劣化を防ぐために,引
用発明1に引用発明2ないし4を適用し,引用発明1のレンチキュラーレンズに紫
外線吸収作用をもたせることは,次に述べるとおり,当業者にとって容易に想到で
きる事項である。
① 引用発明2ないし4の属する技術分野についてみると,引用発明2
は,引用発明1と同じビデオプロジェクターに関するものであり,引用発明3は,
ビデオプロジェクターの上位概念に当たる画像ディスプレイの分野における後面投
影型スクリーンに関するもので,引用発明1と深い関連性を有する技術分野に属す
るものであり,引用発明4は,引用発明1と同じフレネルレンズ,レンチキュラー
レンズなどのプラスチックレンズの分野に関するものであるから,いずれも,引用
発明1とは技術分野が同一であるか,あるいは,極めて関連性の深い技術分野に属
するものである。
       引用発明2は,光拡散部材に関するものであるが,光拡散部材とし
てレンチキュラーレンズは周知であって,当業者にとって,引用発明2の光拡散部
材にレンチキュラーレンズが含まれることは自明である。また,引用文献3及び4
には,紫外線吸収剤を含有するレンチキュラーレンズが明確に示されている。
     ② 紫外線硬化樹脂により成形されたフレネルレンズが紫外線により劣
化しやすいという技術的課題は,特開昭53-45345号公報(以下「乙31公
報」という。)及び特開昭58-89609号公報(以下「乙32公報」とい
う。)にみられるとおり,本件出願時において当業者に自明であった。
       引用発明1のレンチキュラーレンズに代えて,引用発明2ないし4
のように紫外線吸収作用をもたせたレンチキュラーレンズを採用すれば,外光中の
紫外線がフレネルレンズに到達する前に,観察側に配置されたレンチキュラーレン
ズによって吸収され,フレネルレンズの劣化を防止できることは,当業者において
予測可能な効果である。
       したがって,引用発明1のフレネルレンズの紫外線による劣化を防
ぐため,同発明のレンチキュラーレンズを引用発明2ないし4のように紫外線吸収
作用をもたせたレンチキュラーレンズに置換することは,当業者が容易に想到でき
ることである。
     ③ 仮に,本件発明と同一の技術的課題を動機として,引用発明1に基
づき本件発明に至ることが容易とはいえないとしても,引用発明1のレンチキュラ
ーレンズの紫外線による劣化を防止するという別の技術的課題を解決するために,
引用発明1に引用発明2ないし4を適用し,引用発明1のレンチキュラーレンズに
紫外線吸収作用をもたせることは,当業者が容易に想到できることである。
     ④ 原告は,引用発明1から本件発明に想到することを阻害する事由が
あるとして,引用発明1のレンチキュラーレンズは紫外線透過性を有するものでな
ければならないから,同レンズに紫外線吸収作用をもたせることはできない,と主
張する。
       しかし,被告は,本訴訟において,引用文献1の[従来の技術]の
項及び第2図に記載されている構成のスクリーンを引用発明1としているのであ
り,同発明を構成するフレネルレンズとレンチキュラーレンズは,引用文献1の第
1図(別紙「引用文献1図面」参照。)に示されるレンチキュラーレンズが,同レ
ンズを透過した紫外線でフレネルレンズの紫外線硬化性樹脂を硬化させるという製
造上の制約を有するため紫外線透過性を有するものであるとしても,引用発明1の
レンチキュラーレンズは,そのような製造上の制約がなく,それぞれ別体のものと
して製造されるものであるから,引用発明1のレンチキュラーレンズに紫外線透過
性をもたせる必要はなく,これに紫外線吸収作用をもたせることは,何ら妨げられ
ないのである。
 また,引用文献1の第1図で記載されたレンチキュラーレンズが
「従来方法であらかじめ製作しておいた」(乙25・2頁右下欄4~5行)もので
あるとの記載があるからといって,引用文献1に従来技術として示されている第2
図のレンチキュラーレンズの物性までがこれと同じであるとすることはできない。
このことは,引用発明1のレンチキュラーレンズとフレネルレンズが全く別の工程
で製造されること(乙25・1頁右下欄10行~2頁左上欄17行)から明らかで
あって,フレネルレンズが紫外線硬化性樹脂で成形されるものであるからといっ
て,レンチキュラーレンズが紫外線透過性である必要は全くないのである。なお,
本件出願時,別体のフレネルレンズとレンチキュラーレンズとを組み合わせた透過
形スクリーンが周知であったこと(乙44,45),フレネルレンズ及びレンチキ
ュラーレンズの製造方法としては,種々の方法が知られていたこと(乙46)に照
らせば,別々に製造されたフレネルレンズとレンチキュラーレンズとを組み合わせ
て透過形スクリーンを成すことは,本件出願前に周知であったといえるのであり,
引用発明1のスクリーンも,別体のフレネルレンズとレンチキュラーレンズとを組
み合わせて成したものであることが明らかである。
       また,引用発明1のレンチキュラーレンズの材料として引用文献1
に記載されているアクリル樹脂が,透明性の高いものであるからといって,これに
紫外線吸収剤を添加することが妨げられるものではなく,むしろ,アクリル樹脂板
に紫外線吸収剤を添加することは,適宜行われていることである(乙42参照)。
       したがって,引用発明1のレンチキュラーレンズに,引用発明2な
いし4を適用して紫外線吸収作用をもたせることについて,何ら阻害要因はない。
     ⑤ 原告は,引用発明2ないし4の光拡散部材等は単体で使用されるも
のであって,他のレンズと組み合わせることは想定されていないと主張する。しか
し,引用文献2ないし4には,光拡散部材等が他のレンズ等と組み合わせて用いら
れることについて否定的な記載は一切ない。むしろ,引用文献3の第4図には,二
つの機能を有するレンズが組み合わせて使用されることが示唆されているのであ
る。
 イ 原告の反論
   本件発明は,当業者が引用発明1に引用発明2ないし4を適用すること
によって容易に発明をすることができたものではなく,特許法29条2項に該当す
るものではないから,特許無効審判により無効にされるべきものには当たらない。
   すなわち,引用文献1には,本件発明の構成要件A1ないし3,B及び
Dに対応する構成が記載されているものの,引用発明1に引用発明2ないし4を適
用して本件発明に至ることは,当業者にとって容易とはいえないのである。
  a) 容易推考性の判断方法について
    発明の進歩性を判断するに当たっては,本件発明が存在せず,その内
容がわからないという前提の下に,主引例の構成を出発点として,本件発明の構成
に導かれることが当業者にとって容易であるか,その構成及び効果に予測性がある
かについて判断すべきである。被告が主張するように,主引例と本件発明との構成
上の相違点を克服できるか否かという観点から検討することは,本件発明の構成が
既に認識されていることを前提とするものであり,本件発明の評価を誤る危険性が
あるから,妥当ではない。
    被告は,引用例と本件発明との技術的課題の共通性は,本件発明に至
る動機付けがあるとすることができる一つのケースにすぎないと主張する。しか
し,特許発明と同一の構成を有する先行技術が存在しない場合には,引用例におけ
る技術的課題や,引用例がどのような方向を目指した技術であるのかを考慮せざる
を得ない。なぜなら,技術は,目的及び効果を包摂するものであり,技術的課題の
把握がなければ,当該技術思想を的確に把握することはできず,その構成を意図的
に採用することもできないからである。
    したがって,進歩性の有無を判断するに当たっては,引用例が本件発
明と共通する技術的課題を意識しているかどうか,引用例における技術思想の展開
が本件発明と同一の方向性にあるかどうか,引用文献の中に本件発明と矛盾する記
載がないかどうかについて,検討する必要がある。
  b) 引用発明1に引用発明2ないし4を適用して本件発明の構成に至るこ
とが当業者にとって容易とはいえない理由は,次のとおりである。
   ① 本件発明の技術的課題は,光拡散性基板が観察側に,フレネルレン
ズ基板が光源側に配置されている透過形スクリーンにおいて,フレネルレンズ基板
が紫外線硬化樹脂により成形され,その重合反応を開始させるための増感剤等が含
有されているために,外光に含まれる紫外線によりフレネルレンズ基板が劣化して
しまうという技術的課題に着目し,長時間使用してもフレネルレンズ基板が劣化し
ない透過形スクリーンを提供するものである。すなわち,本件発明は,外光に含ま
れる紫外線によってフレネルレンズ基板が劣化するのを防止するために,フレネル
レンズ基板にではなく,同基板よりも観察側に配置される光拡散性基板に紫外線吸
収作用をもたせたところに,その特徴がある(これに対し,内部の光源からの光に
含まれている紫外線は,光源のレンズ系により吸収されるため,同紫外線がフレネ
ルレンズ基板に与える影響は,問題とする必要がない。)。
     本件発明のこのような特徴的構成は,フレネルレンズ基板と光拡散
性基板とにより構成されている2枚型の透過形スクリーンであるからこそ成り立つ
ものである。すなわち,1枚で構成されるスクリーンの経時性を改良するために,
それ自体に紫外線吸収剤を添加するという考え方から脱皮して,2枚構成のスクリ
ーンの構造的特徴を積極的に活用し,フレネルレンズ基板を紫外線から保護するた
めに,観察側に配置された光拡散性基板に紫外線吸収作用をもたせるという思考へ
飛躍したところに,本件発明の特徴的な技術思想が存在するのである。
   ② 引用文献1には,上記のような技術的課題は記載も示唆もされてい
ないばかりか,本件発明とは両立し得ない内容が記載されている。
    (i)引用文献1には,外光に含まれる紫外線によるフレネルレンズ基
板の劣化を防止するという技術的課題が記載されていないばかりか,フレネルレン
ズにおける一般的な紫外線対策という技術的課題すら示唆されていない。
    (ii)引用文献1の第1図のスクリーンの製造方法は,レンチキュラー
レンズのレンズ面を,フレネルレンズ用金型のレンズ面に対向させ,その間に紫外
線硬化樹脂を注入し,前記レンチキュラーレンズを通して紫外線を照射して,紫外
線硬化樹脂を硬化させ,脱型するものである。紫外線をレンチキュラーレンズを通
して照射する以上,レンチキュラーレンズは紫外線透過性を有するものでなければ
ならないから,前記第1図のスクリーンにおいては,レンチキュラーレンズに紫外
線吸収作用をもたせることはできない。被告の主張する引用発明1は,引用文献1
の[従来の技術]の項及び第2図に示されたスクリーンであるが,同文献の第1図
に示されたレンチキュラーレンズは,「従来方法であらかじめ製作しておいた」
(乙25・2頁右下欄4~5行)ものであり,引用発明1のレンチキュラーレンズ
と前記第1図のレンチキュラーレンズは同じものであるから,第1図のレンチキュ
ラーレンズに紫外線吸収作用をもたせることができない以上,引用発明1のレンチ
キュラーレンズにも紫外線吸収作用をもたせることはできない。
      また,引用文献1では,引用発明1のレンチキュラーレンズの製
造方法について,「アクリル樹脂のような透明性と熱可塑性のある樹脂にシリカ,
アルミナ,粘度,ガラス粉等の光拡散性物質5を混練し,・・・成形される」(乙
25・1頁右欄2段)と記載されており,このようにして製造された引用発明1の
レンチキュラーレンズは,紫外線透過性を有するものである。
      したがって,引用発明1は,レンチキュラーレンズに紫外線吸収
作用をもたせるという本件発明の構成に至るのを阻害する構成を備えているもので
ある。
    (iii)そもそも,引用文献1は,従来技術における画質の低下等の問
題を解決するため,2枚構成のスクリーンを否定し,1枚構成のスクリーンを提唱
したものである。しかるに,被告は,この否定された従来技術である2枚構成のス
クリーンを引用発明1とし,これに別の引用例(引用発明2ないし4)を適用して
容易想到性ありとしているものであり,このような容易想到性の判断方法は誤りで
ある。
   ③ 被告は,引用発明1のレンチキュラーレンズに代えて,引用発明2
ないし4のような紫外線吸収作用を有するレンチキュラーレンズを採用すること
は,当業者にとって容易に想到し得る事項であると主張する。しかし,引用発明2
ないし4のいずれによっても,引用発明1と組み合わせて本件発明の構成に至るこ
とは,当業者にとって容易ではない。
    (i)引用発明2の構成は,スクリーン等に用いられる光拡散部材に関
して,内部の光源からの紫外線等の影響による光拡散部材の劣化を防止するための
ものであり,外光に含まれる紫外線による劣化を防止するという技術的課題は,引
用文献2には示唆されていない。
      また,引用発明2は,劣化防止の対象とされている光拡散部材そ
れ自体に紫外線吸収剤を添加するものであり,本件発明のように,フレネルレンズ
基板の劣化を防止するために,別体である光拡散性基板に紫外線吸収作用をもたせ
るという技術思想は,引用文献2には開示されていない。
 そもそも,引用発明2の光拡散部材は,単体でスクリーンとして
使用されるものであり,引用文献2には他のレンズと組み合わせて用いることの示
唆はないから,引用発明1のような2枚構成のスクリーンの一部であるレンチキュ
ラーレンズと置き換える動機付けは存在しない。
      したがって,引用発明1と引用発明2とを組み合わせて本件発明
の構成に至ることは,当業者にとって容易ではない。
    (ii)引用発明3に係る後面投影型スクリーンは,マイクロフィルムリ
ーダのような小型機器のスクリーンとして用いられるものであって,本件発明に係
る大型プロジェクションテレビ用の透過形スクリーンとは,利用分野が異なってい
る。
      また,引用発明3のスクリーンは,他のレンズ等と組み合わせて
使用することが全く想定されておらず,同発明は,スクリーンに含有されたワック
スあるいは結晶性ポリマーの経時性を改良する目的で,スクリーン自体に紫外線吸
収剤を添加するものであるから,本件発明のように,別体のレンズ等の劣化を防止
するために紫外線吸収作用をもたせたものではない。すなわち,引用発明3は,ワ
ックス系スクリーン(シート状ワックスを光拡散層として用いたスクリーン)ある
いは結晶性ポリマー系スクリーン(シート状結晶性高分子材料を光拡散層として用
いたスクリーン)のすぐれた光学的特性が損なわれることなく,光再分布特性を制
御することのできるスクリーンを提供するため,上記スクリーンとマイクロ光学素
子系スクリーンとを直接組み合わせて単一の構造としたものであり,二つ以上の構
造を塗布なり接着なりで一体化することを避けたものである。
      したがって,引用発明1と引用発明3とを組み合わせて本件発明
の構成に至ることは,当業者にとって容易ではない。
    (iii)引用文献4は,透明性基材表面に,反応性モノマー及び/又は
反応性オリゴマーを含む組成物を用いて反応性塗膜層を形成するというプラスチッ
クレンズの製造方法に関して,前記組成物に紫外線吸収剤を混合することを開示す
るにとどまる。
      また,引用発明4のプラスチックレンズも,単体で用いられるも
のであって,他のレンズ等と組み合わせて使用することは想定されておらず,別体
のレンズ等の劣化を防止するために紫外線吸収作用をもたせたものではないこと
は,引用発明2及び3の場合と同様である。
        したがって,引用発明1と引用発明4とを組み合わせて本件発明
の構成に至ることは,当業者にとって容易ではない。
   ④ 被告は,引用発明1と引用発明2ないし4とを組み合わせて本件発
明の構成に至ることが当業者にとって容易であったことの根拠として,紫外線硬化
樹脂により成形されたフレネルレンズを紫外線から保護し劣化を防止しなければな
らないという技術的課題が当業者にとって自明であったと主張し,乙31及び乙3
2公報を提出する。
     しかし,乙31及び乙32公報は,光硬化触媒により硬化した樹脂
組成物は耐光性が劣り,長時間光に曝露されると劣化するという,一般的な耐光性
を問題としているのに対して,本件発明の技術的課題は,フレネルレンズ基板と光
拡散性基板とにより構成された透過形スクリーンにおいて,紫外線硬化樹脂により
成形されたフレネルレンズ基板が,外光に含まれる紫外線により劣化するという,
透過形スクリーンに特有の問題であって,かかる問題が乙31及び乙32公報に示
唆されているとはいえない。
     しかも,乙31及び乙32公報においては,光硬化性樹脂組成物の
劣化を防止するための手段として,同組成物に紫外線吸収剤を添加すると,その紫
外線硬化速度が著しく抑制されてしまうため,紫外線吸収剤を添加せずに,黄変防
止効果を有する別の化合物を含有させ(乙31公報),あるいは,重合開始剤を含
まない構成とする(乙32公報)ことにより問題を解決しているのであるから,引
用発明1に引用発明2ないし4を組み合わせる動機付けにはならない。
   ⑤ 被告は,引用発明1のレンチキュラーレンズの紫外線による劣化を
防止するという,本件発明の技術的課題とは別の課題を解決するために,引用発明
1に引用発明2ないし4を適用して本件発明の構成に至ることが容易であるとも主
張する。
     しかし,技術は目的及び効果を包摂するものであり,技術的課題の
把握がなければ,当該技術思想を的確に把握することはできず,その構成を意図的
に採用することもできないから,レンチキュラーレンズの劣化防止という,本件発
明の技術的課題とは別の課題を解決するために,本件発明の構成とたまたま一致す
る結果となるにすぎない場合には,本件発明の技術思想に想到したとはいえず,フ
レネルレンズ基板の劣化防止という本件発明の作用効果は,予期されざるものとな
ってしまうから,かかる場合には容易想到性を肯定すべきではない。
     仮に,本件発明の技術的課題とは別の課題に基づく容易想到性を肯
定する余地が一般論としてはあるとしても,引用文献1には,引用発明1のレンチ
キュラーレンズの劣化を防止するという技術的課題は全く示唆されていない。ま
た,2枚構成のスクリーンである引用発明1に対して,単体として用いられる引用
発明2ないし4を適用することは困難であるから,結局,引用発明1に引用発明2
ないし4を適用して本件発明の構成に至ることは,当業者にとって容易であるとは
いえない。
  (4)争点4(原告の損害額はいくらか。)について
   ア 原告の主張
     被告による本件スクリーンの製造販売数は,平成14年において10万
枚,平成15年において30万枚,平成16年において50万枚であり,その販売
価格は,平均すると1枚当たり1万1125円である。また,本件発明の実施に対
し受けるべき実施料は,売上高に対して10%の割合によるべきである。
     したがって,平成14年から平成16年4月までの被告の製造販売行為
により,原告が被った損害額は,次の算式のとおり,6億3041万6666円で
ある。
      (10万+30万+50万×4/12)×1万1125円×0.1
      =6億3041万6666円
 イ 被告の反論
原告の主張はいずれも争う。
第3 当裁判所の判断
   本件においては,事案の内容にかんがみ,まず,争点3(本件特許は無効と
されるべきものか。)について判断する。
 1 本件発明と引用発明1との一致点及び相違点
  (1)引用文献1には,発明の詳細な説明の[従来の技術]の項に次の記載があ
り,また,第2図について「従来のビデオプロジエクター用スクリーンを示す分解
断面図」との説明が付されている(乙25)。
   ア「〔従来の技術〕
 一般的な透過形ビデオプロジェクターのスクリーンは第2図に示される
ように構成され,図において,1は光源,2は光源1よりの光線を平行にするため
のフレネルレンズ,3はそのレンズ面,4は視角を広くするためのレンチキュラー
レンズ,5はレンチキュラーレンズ4を構成する光拡散性物質を示している。」
(1頁左欄18行~右欄5行)
   イ「このようなスクリーン10の製造方法について説明すると,レンチキュ
ラーレンズ4は,先ず,アクリル樹脂のような透明性と熱可塑性のある樹脂にシリ
カ,アルミナ,粘度,ガラス粉等の光拡散性物質5を混練し,金型を使用した加熱
プレス法,ベルトプレス成形法等によつて成形される。」(1頁右欄10行~15
行)
   ウ「次に,フレネルレンズ2の製造方法であるが,最も一般的な方法として
は,熱可塑性のアクリル樹脂等を加熱プレスして製造する方法である。この方法は
フレネルレンズ用金型を加熱した後,・・・透明なアクリル板を金型に挿入して加
圧成形を行ない,定時間経過後金型温度が約70℃前後まで冷却した時点で脱型す
るものであった。しかし,この冷却については・・・徐冷が必要で・・・金型の専
有時間が長く,生産性が悪いという欠点があつた。更に,加熱プレスによる・・・
冷却時の樹脂の収縮に起因する脱型不良・・・が生ずるという問題が多発してい
た。そこで,加熱収縮あるいは徐冷等の問題点を解決する方法として紫外線硬化性
樹脂を使用して成型する方法が提案されている。」(1頁右欄末行~2頁左上欄1
7行)
エ「このようなことから,第2図に示されるスクリーン10において,従
来,個々のレンズの角度がすべて異なつて同心円上にあるフレネルレンズ2は効率
のよい紫外線硬化方式で,またレンチキュラーレンズ4は比較的レンズ形状が簡単
(かまぼこ状の凸レンズで全て同一のパターン)であるためベルトプレス成形法に
よつて製造され,これらフレネルレンズ2とレンチキュラーレンズ4は第2図の状
態で密着させてビデオプロジェクターに組み込まれた。」(2頁右上欄7行~16
行)
  (2)上記認定をふまえ,本件発明と引用発明1との一致点,相違点を認定すれ
ば,次のとおりである。
    引用文献1の[従来の技術]の項及び第2図には,紫外線硬化樹脂により
成形されたフレネルレンズと,アクリル樹脂にシリカ,アルミナ等の光拡散物質を
添加した樹脂をプレス成形して得られた光拡散基板としてのレンチキュラーレンズ
とを,レンチキュラーレンズが観察側に,フレネルレンズが光源側になるように組
み合わせて成る透過形スクリーンが記載されている。引用発明1のこの構成は,本
件発明の構成要件A1「観察側に配置される光拡散作用をもつ光拡散性基板」,A
2「前記光拡散性基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつフレネルレ
ンズ基板」,A3「透過形スクリーン」とB「前記フレネルレンズ基板が紫外線硬
化樹脂により成形されており」及びD「透過形スクリーン」と一致する。
    本件発明と引用発明1との相違点は,本件発明においては光拡散性基板に
紫外線吸収作用をもたせている(構成要件C)のに対し,引用発明1のレンチキュ
ラーレンズは紫外線吸収作用を有していない点にある。
2 相違点についての判断
 本件発明と引用発明1との上記相違点を踏まえて,当業者が,本件出願時に
おいて,引用発明1を出発点として,本件発明の構成に想到することが容易である
か否かについて判断する。
(1)引用文献2には,次の記載がある(乙28)。
 ア「2.特許請求の範囲
     屈折率の異なる少なくとも二種の高分子から成る光拡散部材に添加剤と
して,帯電防止剤,紫外線吸収剤,酸化防止剤の少なくとも一種を含む事を特徴と
する光拡散部材」
   イ「3.発明の詳細な説明
     本発明はスクリーン,照明機器,装飾器具等に用いる光拡散部材の改良
に関するものである。
     従来,光拡散部材としては光拡散性のある顔料やガラスビーズ,マイク
ロカプセル,炭酸カルシウム,二酸化硅素等をビヒクル中に分散させて透明又は半
透明のプラスチックシート等の基板に塗布等の手段で光拡散層を形成したもの,或
いは前記ビヒクル中に分散させたものを透明又は半透明の樹脂と混合均一化した
後,固化してシート又は板状としたもの,更に別には結晶性高分子材料中に生成す
る結晶粒子の光拡散性を利用したもの等が知られている。
     而乍ら,前述の光拡散部材を,例えばスクリーン等に用いた場
合,・・・長時間の使用によつて紫外線や熱線等による劣化が生じて甚だ不便な場
合が少なくない。・・・
     ・・・紫外線や熱線等に関しては,光拡散部材の光を拡散するという機
能を十二分に発揮させる為に通常光源との併用が避けられないが,該光源は,蛍光
燈,ハロゲンランプが一般的に常用されているので紫外線や熱線の影響を受け,即
ちこれ等紫外線,熱線は空気中の酸素と結びついて光拡散部材の表面を劣化し,ク
ラックの発生或いは着色されて外観を損ねたり,機械的性質及び電気的性質を低下
させるので極めて不都合である。
     本発明は斯様な点に鑑み,通常の使用に於いて本来の優れた光拡散性を
失うことなく・・・紫外線や熱線に対して耐性を示し,従って表面にクラックが発
生せず,着色もされない優れた光拡散部材を提供する事を目的とするものであ
る。」(1頁左欄9行~2頁右上欄5行)
   ウ「実施例1
     ・・・以上のように酸化防止剤,紫外線吸収剤を入れたものは劣化によ
る透過率の低下が無添加のものに較べて少なく,その効果が認められた。」(3頁
左下欄14行~4頁左上欄12行)
  (2)上記認定のとおり,引用文献2には,光拡散性のある顔料やガラスビー
ズ,マイクロカプセル,炭酸カルシウム,二酸化硅素等をビヒクル中に分散させて
得た光拡散部材に,紫外線による劣化を防ぐために,紫外線吸収剤を添加すること
が記載されている。すなわち,引用文献2には,光拡散部材を長時間使用すること
により,光源からの紫外線によって劣化が生じるという技術的課題があったこと,
及び,この技術的課題を解決するため,光拡散部材に紫外線吸収剤を添加すること
により,光拡散部材は,無添加のものに比べて,劣化による透過率の低下が少ない
ことが記載されているのであり,光拡散部材の紫外線による劣化を防止するため
に,光拡散部材に紫外線吸収作用をもたせること(引用発明2)は,本件出願時に
おいて公知であったと認められる。
 したがって,当業者が,本件出願時において,引用発明を見れば,
引用発明1のレンチキュラーレンズの紫外線による劣化を防止するとの技術的課題
を当然に認識し,これを解決するために,引用発明1に引用発明2を適用して,レ
ンチキュラーレンズに紫外線吸収剤を添加し,紫外線吸収作用をもたせ,本件発明
と同一の構成に想到することは,容易なことであるということができる。
 レンチキュラーレンズの紫外線による劣化を防止するという上記の技術的
課題は,フレネルレンズの紫外線による劣化を防止するとの本件発明の技術的課題
とは異なる課題である。しかし,本件発明の技術的課題とは別の課題を解決するた
めに,引用例から本件発明と同一の構成に想到する場合であっても,引用例の中
に,本件発明と同一の構成に至る動機付けとなり得る技術的課題が見いだされ,同
課題の解決のために引用例から本件発明と同一の構成に想到することが容易である
と認められる場合には,容易想到性は肯定されるべきである。
 引用発明1のスクリーンにおいて,観察側に配置されたレンチキュラーレ
ンズに紫外線吸収作用をもたせることは,フレネルレンズの紫外線による劣化を防
止するとともに,レンチキュラーレンズそれ自体の紫外線による劣化の防止という
効果を自ずと生じさせるのであり,引用発明1について,フレネルレンズの劣化防
止と,レンチキュラーレンズの劣化防止とのいずれを主観的に意図するかにかかわ
らず,そのレンチキュラーレンズに紫外線吸収作用をもたせれば,客観的にはレン
チキュラーレンズとフレネルレンズのいずれにも劣化防止の効果が生じるのであ
る。したがって,フレネルレンズの劣化防止と,レンチキュラーレンズの劣化防止
のいずれを主観的に意図して,レンチキュラーレンズに紫外線吸収作用をもたせた
かということは,かかる課題を意図する者の主観的な認識にすぎないのであって,
その主観的な認識・動機は,発明の構成と不可分に結びついている発明の客観的な
課題ないし作用効果の一部のみを認識し,意図したにすぎないものであるから,引
用例と本件発明とでその主観的な意図が異なるからといって,本件発明の進歩性を
肯定することはできないのである。
(3)これに対して,原告は,本件発明の技術的課題は,外光に含まれ
る紫外線によりフレネルレンズ基板が劣化するのを防止することにあり,同課題は
引用文献1及び2には示唆されていないとした上で,技術は目的及び効果を包摂す
るものであり,技術的課題の把握がなければ,当該技術思想を的確に把握すること
はできず,その構成を意図的に採用することもできないから,レンチキュラーレン
ズの劣化防止という本件発明の技術的課題とは別の課題を解決するために,本件発
明の構成とたまたま一致する結果となるにすぎない場合には,本件発明の技術思想
に想到したとはいえず,フレネルレンズ基板の劣化防止という本件発明の作用効果
は,予期されざるものとなってしまうから,かかる場合には容易想到性を肯定すべ
きではない,と主張する。
 しかし,原告のこの主張は,出願人の主観的な認識としての,発明の目
的,効果と,客観的な発明の目的,効果とを混同する議論であり,採用することが
できない。当業者が異なる技術的課題により,引用例から本件発明と同じ構成を容
易に想到し得る場合においては,出願人が認識した技術的課題が当業者が容易に認
識する技術的課題と異なるとしても,そのことにより,進歩性を肯定する理由がな
いことは明らかである。なお,出願人が認識した技術的課題が異なることにより,
出願人が当該発明の作用効果として,当業者が予想し得ない顕著な作用効果を奏す
ることを発見したなどの例外的な場合は,そのような顕著な作用効果を奏すること
を発見したことを理由として進歩性を認めることがあり得るとしても,この場合で
も,出願人が主観的に認識していた技術的課題を当業者が引用例から容易に認識す
ることができなかったかどうかは,進歩性の判断において考慮すべき要素とはなり
得ないのである。引用文献1及び2に,本件発明の技術的課題が記載されていなく
とも,引用文献2に示されている技術的課題により,引用発明1に引用発明2を適
用して本件発明と同一の構成に想到することが,本件出願時の当業者にとって容易
であれば,本件発明の進歩性を否定すべきであることは上記のとおりである。
 そして,紫外線硬化樹脂の主成分である光重合性プレポリマーの代表例で
あるポリウレタンアクリレートは,紫外線に対して鋭敏で光劣化を受けやすい性質
を有することから,紫外線硬化樹脂による組成物は耐光性に劣り,長時間光にさら
されると黄変を呈したりひび割れたりするなどの劣化を生じることは,本件出願
時,当業者にとって周知であったと認められる(甲22,乙16,17,31,3
2)。したがって,引用発明1のスクリーンにおいて,観察側に配置されたレンチ
キュラーレンズに紫外線吸収作用をもたせた結果,紫外線硬化樹脂により成形され
たフレネルレンズの紫外線による劣化が生じることを防止するとの効果が生じるこ
とは,当業者が予測し得ない効果であるということはできず,これを予想外の顕著
な効果であるとみることはできない。
原告は,本件出願時に当業者に周知であった技術的課題は,光硬化触媒に
より硬化した樹脂組成物は耐光性が劣り,長時間光に暴露されると劣化するとい
う,一般的な耐光性にすぎず,フレネルレンズと光拡散性基板とにより構成された
透過型スクリーンにおいて,外光に含まれる紫外線によるフレネルレンズの劣化を
防止するという,本件発明の技術的課題は,自明であったとはいえないとも主張す
る。
    しかし,引用発明1のスクリーンにおいて,外光に含まれる紫外線により
フレネルレンズが劣化することが,技術的課題として明らかであるかどうかは,こ
れと異なる技術的課題により本件発明の構成に至ることが容易であることは前記の
とおりでるから,本件発明の進歩性の判断において論ずる必要のないことである。
(4)原告は,引用発明1の第1図に示されたレンチキュラーレンズは,同レン
ズを通して紫外線を照射して,フレネルレンズの紫外線硬化樹脂を硬化させるもの
であるから,紫外線透過性を有するものでなければならず,レンチキュラーレンズ
に紫外線吸収作用をもたせるという本件発明の構成に至ることを阻害する事由があ
る旨主張する。
    しかし,前記認定のとおり,引用発明1は,引用文献1の[従来の技術]
の項及び第2図に示されたスクリーンである。同スクリーンは,フレネルレンズと
レンチキュラーレンズとが別体構造となっており,レンチキュラーレンズはプレス
成形法によって,フレネルレンズは紫外線硬化方式によって,それぞれ製造された
ものが組み合わされているのであるから,レンチキュラーレンズに紫外線吸収作用
をもたせても,フレネルレンズの紫外線硬化速度を抑制するなどの支障が生じるこ
とはなく,レンチキュラーレンズに紫外線吸収作用をもたせるという本件発明の構
成に至ることを阻害する事由はない。
    原告は,引用発明1は,引用文献1の[従来の技術]の項及び第2図に示
されたスクリーンであるが,同文献の第1図に示されたレンチキュラーレンズは,
「従来方法であらかじめ製作しておいた」(乙25・2頁右下欄4~5行)もので
あり,引用発明1のレンチキュラーレンズと前記第1図のレンチキュラーレンズは
同じものであるから,第1図のレンチキュラーレンズに紫外線吸収作用をもたせる
ことができない以上,引用発明1のレンチキュラーレンズにも紫外線吸収作用をも
たせることはできない,と主張する。
    しかし,引用文献1において,前記第1図のレンチキュラーレンズが「従
来方法であらかじめ製作しておいた」(乙25・2頁右下欄4~5行)とされてい
るのは,従来方式で製造されたレンチキュラーレンズの一つを用いてなされた発明
が前記第1図のスクリーンであることを示すものにすぎず,この記載から,引用文
献1の[従来の技術]の項に記載された引用発明1のレンチキュラーレンズの構造
や物性が規定されることにはならない。すなわち,引用発明1のレンチキュラーレ
ンズとフレネルレンズが,全く別の方法で製造されるものであることは,引用文献
1に明記されており(乙25・1頁右下欄10行~2頁左上欄17行),また,本
件出願時に,レンチキュラーレンズ及びフレネルレンズの製造法として種々の方法
が知られていたこと(乙46),及び,別体のフレネルレンズとレンチキュラーレ
ンズとを組み合わせた透過形スクリーンが周知であったこと(乙44,45)から
すれば,引用文献1の[従来の技術]の項に記載された引用発明1のレンチキュラ
ーレンズは,紫外線透過性を有するものに限られるものである必要はないのであ
る。
 また,原告は,引用発明1のレンチキュラーレンズの製造方法は,「アク
リル樹脂のような透明性と熱可塑性のある樹脂にシリカ,アルミナ,粘度,ガラス
粉等の光拡散性物質5を混練し・・・成形される。」(乙25・1頁右欄12~1
5行)ものであるから,引用発明1のレンチキュラーレンズは,紫外線透過性を有
する,と主張する。しかし,特開昭55-113561号公報には,アクリル系合
成樹脂により成形されたレンチキュラーレンズについて,紫外線吸収剤を添加する
ことが記載されているのである(乙42・特許請求の範囲1),7)項及び3頁左上欄
15行)から,引用発明1のレンチキュラーレンズがアクリル樹脂により成形され
ることは,同レンズに紫外線吸収作用をもたせることの妨げとはならないことは明
らかである。
 なお,原告は,引用文献1は,従来技術における画質の低下等の問題を解
決するため,2枚構成のスクリーンを否定し,1枚構成のスクリーンを提唱したも
のであるのに,被告は,この否定された従来技術である2枚構成のスクリーンを引
用発明1とし,これに別の引用例(引用発明2ないし4)を適用して容易想到性あ
りとしているものであり,このような容易想到性の判断方法は誤りである,と主張
する。しかし,引用文献1に記載された発明の中に,従来技術として記載された発
明は,公知の発明の一つであるから,これを主引例とした上で,他の引用例に記載
された周知の技術的課題から他の引用例に記載された発明を適用し,本件発明の容
易想到性を判断するとの判断方法に何ら誤りはない。
(5)原告は,引用発明2の光拡散部材は,単体でスクリーンとして使用される
ものであり,引用文献2には他のレンズと組み合わせて用いることの示唆はないか
ら,引用発明1のような2枚構成のスクリーンの一部であるレンチキュラーレンズ
と置き換える動機付けは存在しないと主張する。
    しかし,前記認定のとおり,引用発明2の光拡散部材は,「スクリーン,
照明機器,装飾器具等に用いる」ものであり,これをスクリーンとして用いる場合
に,光拡散部材を単体で用いるのか,他の部材と組み合わせて用いるのかというこ
とについては,引用文献2には何ら記載されておらず,少なくとも引用文献2に
は,引用発明2の光拡散部材を他の部材と組み合わせて用いることについて否定的
な記載は見当たらない。そして,引用発明1に開示されている光拡散部材であるレ
ンチキュラーレンズをフレネルレンズと組み合わせた構成は,前記のとおり周知の
ものであるから,引用発明1のレンチキュラーレンズに引用発明2を適用して紫外
線吸収剤を添加することは,当業者が容易に想到できることである。
 3 以上の認定判断は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1について本件訂正
を認める審決が確定した場合にも,何らの実質的な変更を生じるものではない。な
ぜなら,前記前提となる事実のとおり,本件訂正は,「光拡散性基板」を「レンチ
キュラーレンズ基板」に,「透過形スクリーン」を「プロジェクションTV用透過
形スクリーン」にそれぞれ減縮するとともに,レンチキュラーレンズ基板につき
「フレネルレンズ基板より」観察側に配置されるとの限定を付したものにすぎず,
これについての進歩性の有無の判断は,本件訂正前の特許請求の範囲を前提とした
前記認定判断と異なるものではないからである。
 なお,原告は,口頭弁論終結後の平成17年8月5日に本件特許について訂
正審判請求を行ったことを理由として,弁論再開の申立てをしている。当裁判所
は,この申立てについても慎重に検討したが,同訂正審判請求については,訂正要
件が認められないか,あるいは,訂正後の本件発明の進歩性が認められないと判断
される蓋然性が高いものと考えられるため,口頭弁論を再開する必要はないものと
認める。
 4 結論
   以上のとおり,本件特許は無効とされるべきものであるから,原告の本訴請
求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
   よって,主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第46部
         裁判長裁判官      設  樂  隆  一
            裁判官  杉  浦  正  典
            裁判官  荒  井  章  光
(別  紙)
リアプロジェクションテレビ目録
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ただし,資料3にマーキングされた部分。
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ただし,資料4にマーキングされた部分。
資料1資料2資料3
資料4
部品番号目録
(別 紙)
          物件目録
第1 図面の説明
第1図は,本件スクリーンをリアプロジェクションテレビに取り付けた状態を示
す。
第2a図及び第2b図は,本件スクリーンを構成するレンチキュラーレンズシー
ト及びフレネルレンズシートの中央横断面をそれぞれ拡大して模式的に示すもので
ある。
第2 符号の説明
1:本件スクリーン
2:TVセットボックス
4:ミラー
11:レンチキュラーレンズシート
11a:樹脂板
11b:レンチキュラーレンズ部
11c:ブラックストライプ
12:フレネルレンズシート
12a:樹脂板
12b:フレネルレンズ部
31:投射レンズ
32:光源部
第3 本件スクリーンの構成
A’ 本件スクリーン1は,レンチキュラーレンズシート11とフレネルレンズシート
12とから構成され,リアプロジェクションテレビのスクリーンとして用いられるも
のである。
すなわち,第1図に示すように,本件スクリーン1は,リアプロジェクションテ
レビのTVセットボックス2の前面開口に取り付けられるものであり,本件スクリー
ン1を取り付けた状態において,リアプロジェクションテレビは,TVセットボック
ス2内に収納された光源部32からの映像光を投射レンズ31によりミラー4を経て本件
スクリーン1に投影するものである。リアプロジェクションテレビの観察者は,本件
スクリーン1を透過した映像光を見る。TVセットボックス2に取り付けられたとき
に,レンチキュラーレンズシート11とフレネルレンズシート12は,各レンズ部(11b
と12b)が互いに向き合うように,レンチキュラーレンズシート11を外側に,フレネ
ルレンズシート12を内側にして配置される。
第2a図と第2b図は,それぞれレンチキュラーレンズシート11とフレネルレ
ンズシート12を示すものである。
レンチキュラーレンズシート11は,ブラックストライプ11cを有し,かつ微粒子
が混入された樹脂板11aと,鉛直方向にのびる多数の細かい略半楕円柱状レンズが並
列に設けられたレンチキュラーレンズ部11bとから構成される。
フレネルレンズシート12は,樹脂板12aに,フレネルレンズ部12bがフレネルレ
ンズ形状に成形されたものである。
B’フレネルレンズシート12のフレネルレンズ部12bは,ウレタンアクリレート系
の樹脂により成形されており,かつダロキュア1173が含まれている。
C’レンチキュラーレンズシート11の樹脂板11aには,Tinuvin234が含まれてお
り,かつレンチキュラーレンズシート11の光透過率は380nmの波長では3%以下であ
り,それより短波長側の波長ではさらに減少する。
D’以上の特徴を有する透過形スクリーンである。
第1図
(別 紙)
         物件目録についての被告の主張
第1 本件スクリーンの構成
   本件スクリーンは,以下のとおりの構成を有する透過形スクリーンである。

 Aa’1 観察側に配置される光拡散作用をもつレンチキュラーレンズシート
2と,
a’2前記レンチキュラーレンズシート2より光源側に配置されフレネルレ
ンズ形状をもつフレネルレンズシート9と
a’3 からなる透過形スクリーン1において,
B’ 前記フレネルレンズシート9は,
 b’1基板11と該基板11の観察側に設けられたフレネルレンズ部10とからな
り,
 b’2前記基板11は光拡散剤を含むMMA(メチルメタクリレート)とスチ
レンの共重合体により構成され,
 b’3前記フレネルレンズ部10は,原料となるジイソシアネートとしてHD
I(ヘキサメチレンジイソシアネート)を用いたウレタンアクリレートオリゴマー
と,光重合性モノマーである1,6-ヘキサンジオールジアクリレートと,光開始
剤であるダロキュア1173と,光安定剤であるヒンダードアミン類とを含有し,
増感剤は含有しない樹脂組成物を紫外線で硬化させた紫外線硬化樹脂で構成され,
かつ,当該紫外線硬化樹脂は,キセノン・ウェザーメータによる耐光性促進試
験(JISK-7350-2)において,後記紫外線吸収剤を含まないレンチキュラーレンズ
シート2と組み合わせた状態でキセノンランプで200時間暴露してもフレネルレンズ
シート9の黄色度が5.0を超えないものであり,
C’ 前記レンチキュラーレンズシート2は,
c’1観察側が,後記紫外線反応性樹脂6が紫外線により黄色することを防止
するためのベンゾトリアゾールにより組成される紫外線吸収剤と,光拡散剤とを含
む,MMA(メチルメタクリレート)とスチレンの共重合体により構成された基板3で
あり,その内側に,
c’2粘着剤4を設け,さらにその内側に,
c’3一定の間隔をおいた複数の遮光縞からなるブラックストライプ5を配置
し,さらにその内側に,
c’4紫外線により黄色化する紫外線反応性樹脂6,次いで,
c’5PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム7を設け,そして最
も内側に,
c’6紫外線硬化性樹脂により成形されたレンチキュラーレンズ部8を設けた
こと
D’ を特徴とする透過形スクリーン1。
第2 図面の説明
   図面1は,本件スクリーンをリアプロジェクションテレビに取り付けた状態
を示す。
図面2は,本件スクリーンを構成するレンチキュラーレンズシートとフレネ
ルレンズシートの中央横断面をそれぞれ拡大して模式的に示したものである。
図面1図面2引用文献1図面

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