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平成12年(ネ)第5926号 損害賠償、営業行為差止等請求控訴事件(原審・
東京地方裁判所平成10年(ワ)第4447号、同年(ワ)第13585号)(平成1
3年5月9日口頭弁論終結)
          判          決
       控訴人         A
       控訴人         B
       控訴人         株式会社レイテック
       3名訴訟代理人弁護士  三 浦   修
       被控訴人        株式会社千代田テクノル
       訴訟代理人弁護士    篠 田 暉 三
       同           野 原   泰
          主          文
      本件控訴をいずれも棄却する。
      控訴費用は控訴人らの負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人ら
 (1) 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
 (2) 被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。
 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
 2 被控訴人
   主文と同旨
第2 事案の概要
   本件は、被控訴人が、控訴人らに対し、控訴人A及び同Bが被控訴人に在職
中被控訴人の営業秘密である顧客情報を不正に取得し、同業の被控訴人会社を設立
した上、控訴人らがこれを利用して営業活動をしている行為は、不正競争防止法2
条1項4号又は5号所定の不正競争行為に該当する旨主張して、営業行為の差止め
等及び損害賠償を求めている事案である。
   原審は、差止め等請求の全部と損害賠償請求の一部を認容したため、控訴人
らが不服を申し立てた。
   当事者間に争いのない事実等、争点及びこれに関する当事者の主張は、次の
とおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二事案の概要」の
とおりであるから、これを引用する。
 1 原判決の訂正
 原判決10頁1行目の「本件顧客情報に記載された」を「本件顧客情報であ
る」に、12頁1行目の「被告」を「控訴人会社」に、それぞれ改める。
 2 控訴人らの主張
 (1) 控訴人Bが、Cに指示して同控訴人の個人所有のパソコンに本件顧客情報
を複写させたことはない。すなわち、原審における控訴人B本人の供述のとおり、
当該複写が行われたとされる平成9年3月13日当時、被控訴人の社屋内には、控
訴人Bの個人所有のパソコンは存在しなかった。この点について、原判決は、原審
証人Cの証言の信用性のみを認め、原審における控訴人B本人の供述を排斥する
が、原審証人Cは被控訴人に雇用されている者であって中立的な立場にないこと、
同証言を裏付けるというパソコンの操作履歴(甲42)は事後的に変更可能なもの
にすぎないことを看過した認定といわなければならない。
    また、控訴人A及び同Bは、同月30日に異動の辞令を受けるまで退職を
考えていなかったから、同月13日ころに被控訴人の主張するような本件顧客情報
の複写を指示したとは考えられない。
 (2) 控訴人会社がダイレクトメール配布先のデータを作成するに当たっては、
控訴人A及び同Bの長年の営業経験に基づく知識を活用しつつ、顧客の業種ごと
に、インターネットによるデータ検出、電話帳のハローページ、日本放射線技術学
会員名簿その他の各種名簿、病院要覧等に基づいて基礎データを作成した上、デー
タが整理される都度ダイレクトメールを送付したものであり、本件顧客情報を利用
したものではない。このことは、以下の諸点から明らかである。
   ア 原判決は、控訴人会社が送付したダイレクトメールの中には、宛名ラベ
ルの印刷文字に手書きで番地やビル名を加筆したものがあるところ、この加筆部分
とラベルに記載されている町名等とは、控訴人BがCに入力させたデータでは別の
フィールドに属するとのデータの共通性を一つの根拠として、不正競争行為の認定
をする。しかし、被控訴人の主張するような秘密情報の盗用が行われたとすれば、
被控訴人のデータとすべて同じラベルが作成されているはずであるのに、このよう
な手書きのラベルは3件(*株式会社、*クリニック、*医院)しかなく、これをもっ
て被控訴人の顧客情報と控訴人会社のダイレクトメールとのデータの共通性をいう
ことはできない。かえって、被控訴人の作成した顧客目録記載の名称と控訴人会社
のダイレクトメールの送付先の名称とを比較すると、「株式会社」を「(株)」と
しているもの、「医療法人」等の肩書きを省略しているものなど一致しない名称が
多数存在する。
   イ また、原判決は、控訴人らがインターネットによりデータを入手したと
するダイレクトメールの送付先の一部(*株式会社、*株式会社、*株式会社、*株式
会社)は、当該ダイレクトメールの送付当時、いまだホームページを開設していな
かったことも指摘するが、控訴人らは、これらのデータの入手方法についての資料
を既に廃棄していたため、正確なデータの入手方法を特定することができずに誤解
を生むような主張となったにすぎない。実際には、上記のとおり、営業経験上獲得
した知識に基づいて、電話帳等により確認して得たデータである。原判決の指摘す
る上記の点は、原審における控訴人A本人の供述の信用性に影響を及ぼすものでは
ない。
   ウ 被控訴人の主張立証に係る控訴人会社によるダイレクトメールの送付先
と、被控訴人の作成した原判決別紙顧客目録とを照合すると、顧客目録の連続する
事業所番号のうち断続的に1、2社を選定してダイレクトメールを送付したとの結
果となっている(乙24)。仮に、控訴人会社が盗用に係る顧客情報を利用してダ
イレクトメールを送付したのであれば、このような結果とならないはずである。
   エ さらに、原判決は、控訴人会社のダイレクトメールの送付先には被控訴
人の顧客が多く含まれていること、その送付時期も契約更新時期に集中しているこ
と、料金前払い等の有利な条件で契約を締結することのできる可能性がある顧客の
占める割合が高いことも指摘するが、控訴人A及び同Cが長年にわたって被控訴人
の営業の仕事に携わり、被控訴人の営業先、契約周期、契約先の種別ごとの支払方
法等を熟知しており、業界における孤立を避けるためにあえて被控訴人の得意先を
選別してダイレクトメールを送付したことからすると、原判決の指摘する上記諸点
は、当然のことにすぎず、不正競争行為を推認させるものではない。
 3 被控訴人の主張
 (1) 控訴人らは、原審証人Cの証言の信用性を論難するが、同証言を裏付ける
パソコンの操作履歴(甲42)を含めて、何ら作為を疑わせるところはない。ま
た、控訴人らは、控訴人A及び同Bは平成9年3月30日の異動の辞令を受けるま
で退職を考えていなかった旨主張するが、遅くとも同月上旬には当該異動について
口頭で本人に伝えられていた。
 (2) 控訴人らは、ダイレクトメールの送付先のデータの作成に当たっては控訴
人A及び同Bの長年にわたる営業経験に基づく知識を活用した旨主張するが、被控
訴人の顧客は、事業所数で1万4000か所以上に及んでおり、個別の顧客の正確
な情報を知っていることはあり得ない。例えば、ダイレクトメールの宛名ラベルに
手書きで加筆された部分には、「*工場品質保証課」(甲47の2)とか「*ビル2
F」(甲47の3)等の記載があるが、このような情報は被控訴人の顧客情報によ
らない限り加筆することはできないはずである。
    また、控訴人らは、ダイレクトメールの宛名ラベルの手書きによる加筆が
3件しかないことを前提とした主張をするが、本訴において被控訴人が当該3件の
事例を提出したのは、たまたま当該ダイレクトメールを受け取った顧客がこれを提
供してくれたから入手することができたものにすぎず、この3件以外に同様のラベ
ルの記載がなかったわけではない。
第3 当裁判所の判断
   当裁判所も、被控訴人の控訴人らに対する請求は、原判決が認容した限度で
理由があると判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決
「事実及び理由」欄の「第三当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用す
る。
 1 原判決の訂正
 (1) 原判決33頁末行の「MOS」を「『MOS』と呼ばれる被控訴人の基幹
電算システム(以下「MOS」という。)」に、同42頁8行目及び10行目の
「担当部所」を「担当部署」に、同46頁3行目の「事業所(合計二五七九か
所)」及び52頁末行の「約二六〇〇か所の事業所」を「別表二記載の事業所を含
む多数の事業所」にそれぞれ改め、同30頁2行目及び43頁8行目の「同C」並
びに49頁10行目、50頁5行目及び末行の「証人C」の次に「(一、二回)」
を加える。
 (2) 原判決55頁8行目~56頁5行目を下記のとおり改める。
    このような再契約の拒否又は単価の値引きないし契約周期の変更が、個別
の契約先である顧客のどのような意向に基づいて、どのような経緯でされたのかを
逐一明らかにするだけの的確な証拠はないが、これらの被控訴人の顧客に対して
は、概ねその契約が満了する1か月半ないし半月前に、控訴人会社から控訴人会社
とのガラス線量計モニタリングサービス契約を勧誘するダイレクトメールの送付が
あったことは前示のとおりである上、証拠(甲15の1~8、甲34、44)によ
れば、当該ダイレクトメールは、被控訴人の料金表と対比させて「ローコスト」を
積極的に宣伝する内容のものであったことが認められる。加えて、証拠(甲34、
44、45、原審証人D、同E)によれば、被控訴人の営業内容は、放射線利用事
業者の事業主が、放射線業務従事者の個人線量当量の測定を法令上義務付けられて
いることに伴い、放射線を取り扱う作業者及び放射線に被曝する可能性のある業務
に携わる作業者の受けた放射線量を測定するサービスを提供するというものである
こと、当該測定サービス業務に関する全国シェアは、被控訴人が約55パーセン
ト、これに長瀬ランダウァ株式会社ほかを加えた計4社で約98パーセントのシェ
アを占めるという極端な寡占状態にある業態であったところに、控訴人会社が新規
参入したものであることが認められる。そうすると、被控訴人の上記測定サービス
業務は、全国各地の特定顧客層の大半を対象とし、かつ、景気の影響等による需要
や価格の変動が生じにくい特殊な性格のものであったということができ、実際に
も、上記の減収が生じた平成9年10月~12月当時、控訴人会社以外の同業他社
から特に積極的な顧客の獲得競争が行われたとか、被控訴人のサービスの単価の引
下げを求める顧客からの圧力が特に強まっていたなどの事情は一切うかがわれない
にもかかわらず、控訴人会社からのダイレクトメールの送付を受けた被控訴人の顧
客において、被控訴人との契約を中止したり、要求により被控訴人が値引きに応じ
た事業所が続出したことは前示のとおりである。
    以上の事実に証拠(甲34、37の1)を総合すると、被控訴人の顧客の
中には、自らの放射線部門の廃止など控訴人らと関係のない事情によって再契約の
拒否等をしたような事業所が含まれている余地は否定することができないとして
も、被控訴人に生じた上記減収の主な原因は控訴人らの前記不正競争行為にあった
といわざるを得ないのであり、当該不正競争行為との間に相当因果関係がある被控
訴人の損害は、250万円を下らないものと認めるのが相当である。
 2 控訴人らの当審における主張に対する判断
 (1) 控訴人らは、控訴人BがCに指示して同控訴人の個人所有のパソコンに本
件顧客情報を複写させたことはない旨主張するが、本件顧客情報を控訴人Bの指示
に基づいて同人の個人所有のパソコンに複写した旨を明確かつ具体的に証言する原
審証人Cの証言(1、2回)が信用するに足りるものであることは、原判決の判示
するとおり(49頁10行目~50頁9行目)であって、控訴人らの主張するよう
に、単に同証人が被控訴人に雇用されている立場にあり、また、パソコンの操作履
歴(甲42)を改ざんすることが一般論として可能であるというだけで、その証言
の信用性を否定することはできないというべきである。控訴人らが当審において提
出した乙29、30はこの点の判断を何ら左右するものではなく、他の上記証言の
信用性を疑わせるような事情は見いだせない。
    また、控訴人らは、控訴人A及び同Bは、平成9年3月30日に異動の辞
令を受けるまで退職を考えていなかったから、同月13日ころに被控訴人の主張す
るような本件顧客情報の複写を指示したとは考えられない旨主張するが、甲51に
よれば、控訴人A及び同Bは、同月上旬には、被控訴人の常務取締役本部長Eか
ら、上記異動の件を口頭で伝えられていたことが認められるところであり、控訴人
らの上記主張は採用することができない。
 (2) 次に、控訴人らは、ダイレクトメールの送付に当たって本件顧客情報は利
用していない旨主張し、その根拠についてるる述べるが、まず、当該送付先が顧客
目録記載の連続する事業所番号の断続的な一部にすぎない旨主張する点について
は、被控訴人としては控訴人会社によるダイレクトメールの送付先の事業所から連
絡がない限りこれを知り得ないのであるから、被控訴人が把握して集計した送付先
(甲18~25(枝番を含む。)参照)と顧客目録とを照合して、重複の程度をう
んぬんすること自体、そもそも意味が乏しいといわざるを得ない上、控訴人らにお
いて、本件顧客情報を利用しつつ、営業上有利な事業所を選択してダイレクトメー
ルを送付したことが強く推認されること(原判決46頁7行目~47頁5行目参
照)に照らせば、被控訴人が把握して集計したダイレクトメールの送付先と顧客目
録との重複が部分的、断片的にすぎないとしても、上記認定を何ら左右するものと
はいえない。
    次に、控訴人らは、本件顧客情報と控訴人会社のダイレクトメールとのデ
ータの共通性を示すものとして指摘された手書きのラベルは3件しかない旨主張す
るが、これも、たまたま被控訴人が入手して本訴において証拠(甲47の1~3)
として提出されたものが3件であったというにすぎないから、前記認定を左右する
ものでない。かえって、例えば、甲47の1と甲48の1を対比すれば明らかなよ
うに、被控訴人会社が*医院に送付したダイレクトメールの宛名ラベルに印刷された
住所である「*郡*町大字*字*」との記載は、Cが控訴人Bの個人パソコンに複写し
た本件顧客情報のデータの「フィールド10」の情報と完全に一致し、上記宛名ラ
ベルで手書きにより加筆された「808-1」との番地の記載は、本件顧客情報の
データの上では別のフィールドの情報として分類されていたことが明らかであり、
このような符合が偶然の一致であるとは考え難い。しかも、控訴人らは、これらの
情報は電話帳等から得た旨主張するが、平成9年当時のNTT電話帳において、上
記*医院の住所は単に「*808-1」と記載されているにすぎず(甲52の2)、
上記のような宛名ラベルの情報が、本件顧客情報以外からどのように入手可能であ
ったのかについては、何ら合理的な主張立証がない。同様のことは、*株式会社及び
*クリニックに対して送付されたダイレクトメールの宛名ラベルの記載においても妥
当するものである(甲47の2、3、甲48の2、3)。そうすると、控訴人会社
が送付したダイレクトメールの宛名ラベルの一部が手書きにより加筆されたものは
3件しか証拠として提出されていないとしても、被控訴人の有していた本件顧客情
報と控訴人会社がダイレクトメールに利用した情報とのデータの特異な共通性を推
認させるに足りるものというべきである。
    上記のほか、控訴人らの主張するところは、前記認定を何ら左右するもの
ではない。
 3 結論
   以上のとおり、被控訴人の控訴人らに対する請求は、原判決が認容した限度
で理由があるから、原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
   よって、本件控訴をいずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき民事
訴訟法67条1項本文、61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決す
る。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 長  沢  幸  男
    裁判官 宮  坂  昌  利

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