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裁判例


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       主   文
被申立人の申立人に対する昭和四四年一〇月一六日付退去強制令書に基づく執行
は、送還に限り、本案判決確定にいたるまで停止する。
訴訟費用は被申立人の負担とする。
       理   由
一 申立の趣旨および理由
別紙(一)記載のとおり。
二 被申立人の意見
別紙(二)記載のとおり。
三 当裁判所の判断
 本件疎明によれば、申立人は米国籍を有し、ネブラスカ・ウエスリアン大学在学
中、いつたん州兵となつたが、その後兵役の登録にあたり兵役につくことを忌避
し、その代替的義務として三年間キリスト教宣教師たる活動を選択し、昭和三六年
一〇月一〇日日本に入国し、青山学院等においてキリスト教の宣教に従事していた
が、仏教特に禅に関心を抱くようになり、キリスト教宣教師としての義務を果した
後、昭和四〇年八月禅宗に改宗し、僧籍にはいつてAと名のり、昭和四一年四月か
ら一年間永平寺において雲水の修業をなし、駒沢大学大学院仏教学科において身元
引受人であるBに師事して昭和四五年一月までに「現代中国における仏教」なる修
士論文を提出することとなつており、同年三月同大学院卒業後、さらに禅寺におい
て修業をかさねたうえ、将来は米国において禅の布教に生涯を捧げようとしている
ものであるが、前叙のごとく昭和三六年一〇月一〇日宣教師として日本に入国以
来、約八回にわたり期間の更新を受けて適法に本邦に在留してきたが、昭和四四年
六月一二日文化大革命以後における中国仏教の実情を視察するため、再入国の許可
申請が容れられないままで、中国に向けて出国し、同年七月二日ごろ再び長崎港に
帰来し、交渉の結果、同月七日付で、政治活動を行なつたという理由で在留期間を
六〇日と限定されて上陸を認められ、同年八月六日付で在留期間更新許可の申請を
なしたところ、これが不許可となり、該不許可処分の取消訴訟(昭和四四年(行
ウ)第一八二号)を当裁判所に提起し、同年九月一一日東京入国管理事務所入国警
備官の調査のための呼出に応じて指定の時刻に出頭したところ、収容令書により同
事務所収容場に収容された、これに対し収容令書発付処分取消訴訟(昭和四四年
(行ウ)第一九四号)を提起し、同年九月二〇日当裁判所の決定により同収容令書
に基づく、収容は停止されて放免されたものの、同年一〇月九日付で申立人がさき
にした法務大臣に対する異議の申出が棄却され、同月一六日右裁決の告知を受ける
とともに、本件退去強制令書に基づき収容されるにいたつたことが、一応認められ
る。
 以上の事実によれば、本件退去強制令書の発付の適法であることが疑いを容れる
余地のないほど明白であるとはいいがたく、この点については、さらに、慎重な審
理を要するところであつて、本案につき理由がないものとみえる場合にあたらない
というべきであるので、申立人が本件退去強制令書に基づいて送還されることとな
れば、回復の困難な損害を被るおそれがあり、これを避けるため緊急の必要がある
ものと認め、右送還を停止することとする。
 申立人は、本件退去強制令書に基づく収容の停止をも求めているが、退去強制令
書の発付の違法であることが明白であるとはいい難く、また特段の事情の認められ
ない本件においては、被収容者の収容につき一定の者に対し仮放免の申請権が与え
られている(出入国管理令五四条一項参照)ことにかんがみ、予め収容自体の停止
を認める緊急の必要はないものというべきである。
 よつて、申立人の本件申立ては、退去強制令書に基づく送還の停止を求める限度
においてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九
条、九二条を適用して、主文のとおり決定する。
(昭和四四年一〇月一八日東京地方裁判所決定)
別紙(一)
行政処分執行停止決定申請
申請の趣旨
 申請人に対する被申請人の昭和四四年一〇月一六日付退去強制令書発付処分に基
く執行は、東京地方裁判所昭和四四年(行ウ)第二一六号退去強制令書発付処分取
消請求事件の判決確定に至るまでこれを停止する。
申請費用は被申請人の負担とする。
との裁判を求める。
申請の理由
第一、(行政処分の存在)
一、(申請人の地位、経歴及びわが国における生活等)
 申請人は一九三九年アメリカ合衆国ネブラスカ州に出生し、ネブラスカ・ウエス
リアン大学在学中、良心的徴兵拒否者として兵役義務に就くことを拒否したが、そ
のみかえりの奉仕として、国外におけるキリスト教の宣教師たる活動を選択して、
昭和三六年一〇月キリスト教伝導の目的で来日した。
 その後申請人は、日本キリスト教団に所属し、青山学院大学で英語の教授をしな
がらキリスト教布教活動をつづけたが、次第に禅に興味を持つようになり、禅寺で
坐禅の修業をつみ、昭和四〇年八月「得度」の儀式を行つて剃髪、僧衣の身とな
り、Aと名のり、昭和四一年四月から一年間福井県の大本山永平寺において雲水の
修業をつとめた。
 さらに昭和四二年四月には駒沢大学大学院仏教学科に入学し、C教授の指尊の下
で仏教を研究するとともに、断食托鉢するなど仏徒としての修業も続けて現在に至
つている。
 なお、昭和四五年一月までに現在とりまとめ中の修士論文「現代中国における仏
教」を提出し、同年三月右大学院を卒業したその暁には四月から七月まで永平寺時
代の師D師(現在は福井県霊泉寺住職)の指導・監督のもとに百日間の”首僧”と
しての修業を行い、”立身”を遂げ、始めて曹洞宗僧侶の資格を得るに至る予定で
ある。
 そのうえは明年八月頃までにわが国を出国し、米国において禅の布教に生涯を捧
げる所存である。
二、(在留資格と従来の在留期間更新)
 申請人は昭和三六年入国時においては、宗教活動を行うために派遣された者とし
ての在留資格を有していたが、その後仏教研究、大学院就学に及び、出入国管理令
(以下単に令)第四条第一項第一六号、特定の在留資格及びその在留期間を定める
省令第一項第三号により、いわゆる「四―一―一六―三」として特別の在留資格を
有するに至つた。
 在留期間は従前一八〇日と定められており、例外なく更新許可をうけていたとこ
ろ、昭和四四年三月二四日付更新申請に対し、同年五月一九日法務大臣は突如これ
を九〇日に短縮し、あわせて同年四月四日付でなした再入国申請に対して違法にも
不許可処分をなした。
 そのため申請人が予定どおり同年六月一二日出国し、中国におもむき中国領域か
ら戻つて来た六月二七日頃、長崎入国管理事務所は、再入国の手続をしないので、
やむなく申請人は在留目的については、従前と同様仏教研究と大学院修学の必要を
記載して入国(上陸)許可申請をなしたところ、法務大臣は同年七月七日付で在留
期間は従前同様「四―一―一六―三」在留期間は同日より九月五日までの六〇日間
と定め、令第一二条第一項第三号にもとずき許可した。
三、(在留期間更新不許可処分と本件退去強制令書の発布)
 申請人は前記のとおり駒沢大学大学院における学問の研究を続け、さらに僧侶と
して修業を果す必要があり、その事情は全く中国渡航前と変わらないので、昭和四
四年八月六日付で法務大臣に対し仏教研究と大学院での学習継続の必要を記載して
在留期間の更新を許可するよう令第二一条、同法施行規則第二〇条に則り申請した
ところ、法務大臣は何ら理由を付さないまま不許可処分とした旨同月二三日付で申
請人に通知した。
 そこで申請人は、同年九月三日法務大臣に対し、右不許可処分の取消を求めて東
京地方裁判所に訴を提起し、右事件は現に民事第三部に係属中である(同庁昭和四
四年(行ウ)第一八二号)。
 しかるに、法務大臣および被申請人をはじめとする東京入国管理事務所入国管理
官憲は、右訴に対する裁判所の判断を待つことなく、在留期限と主張する九月五日
を過ぎるや直ちに原告に対する退去強制手続を開始し、同年一〇月一六日には、法
務大臣は申請人の異議の申出を棄却するとともに、被申請人は申請人に対し、本件
退去強制令書を発付し、即日収容するに至つた。
 尚、申請人は同年九月一一日、東京入国管理事務所入国警備官の出頭要求に対
し、同事務所に出頭したところ、被申請人は同日付で収容令書を発付し、入国警備
官は、右令書に基き申請人を直ちに収容したので、申請人は同月一三日右収容令書
発付処分の取消を求めて東京地方裁判所に訴を提起するとともに(昭和四四年(行
ウ)第一九四号)、右令書による執行の停止決定を申立てたところ(昭和四四年
(行ク)第五六号)、同月二〇日東京地方裁判所民事第二部は、右収容令書による
収容を停止する旨の決定をなし、申請人はようやく自由の身を回復したばかりであ
つた。
第二、(本件退去強制令書発布処分の違法性)
 本件退去強制令書発布の根拠として、被申請人は在留資格の喪失を主張するが、
後述のとおり申請人は従来から有する在留資格に基づき在留期間の更新請求を適法
になしたものであり、以下詳述のとおり法務大臣のなした更新不許可処分自体が違
法であつて、申請人の在留資格は何ら失われていないのである。
(一) 令第二一条は「本邦に在留する外国人は、現に有する在留資格の変更をす
ることなく、在留期間の更新をうけることができ………(第一項)………。法務大
臣は………更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可
することができる(第三項)」と規定している。
 これにつき更新を許可するもしないも全く法務大臣の自由裁量に属するとの主張
があるかも知れないがこの見解は誤りである。
 すなわち、入国(上陸)許可によつて、当該外国人は本邦内において生活の本拠
を置き、諸権利、諸自由を享受しうる権能を与えられるのに至るのであるから、こ
の利益を失わしめるには客観的に合理的と判断された事由が存しなければならな
い。勿論入国許可申請の際短期間をもつて在留が終了する旨在留目的が記載され、
かつこのことが何人にも明らかである場合は原則として更新を不許可としても違法
ではなかろう。例えば一時的観光客や特定の講演演奏等のためにのみ入国した外国
人などの場合である。
 しかし、これに反し入国の目的、資格から或程度長期に及ぶ滞在が予定され、客
観的にもそれが認められる場合には入国審査官が上陸の際決定した在留期間の到来
によつて、ただちに本邦に在留する資格を失い、退去強制をうけるものとは解され
ない。
 一般に免許、許可等の処分に期限が附されている場合において、その期限の到来
によつて当然に右処分が失効すると解するのは妥当ではなく、免許、許可の目的、
性質に照らしてその附された期限が不相応に短期である場合には、その期限は処分
権者に免許等を受けた者がその目的に沿い、条件どおり行為しているかどうかを確
認し、あるいは条件等の変更をなす必要があるかどうかを考慮するための機会を与
えた趣旨であると解すべきである。
 したがつて期限の到来前に適法な更新申請がなされており、状況に著しい変化が
ある等客観的に明白な合理的事由がない限り、期限の到来によつて従来の在留資格
が直ちに失効するものではない。(東京地方裁判所民事第二部昭和四三年八月九日
決定、判例時報五二六号二一頁参照)
(二)、ところで申請人は、第一の記載のとおり、少くも昭和四五年三月末まで大
学院学生として論文提出、修士号取得のため研究をつづけ、講義に出席する必要が
あり、かつ卒業後七月末までは首僧としての百日の勤行を果す必要がある。(ちな
みに得度後五年以内にこの勤行を了しなければ僧侶の資格を得ることはできな
い)。
 この事情はここ数年の更新時、さらには昭和四四年六月中国より帰日の際の入国
(上陸)申請時といささかも変化して居らず、前記更新申請にあたつても、この事
由は申請書に記載して明らかにしている。
 それ故かかる状況を充分に知悉しながら、あえて更新申請に対し不許可処分をな
した法務大臣の行為は違法であり、前述の通り原告の在留資格は適法に存続してい
るものと解すべきであるから、本件退去強制令書発布処分は、令二四条各号に定め
る要件を欠き明らかに違法である。
第三、(執行停止の必要性)
 申請人は現に身柄を拘束され、東京入国管理事務所の収容所に収容されている。
相手方はいつ何時でも申請人を強制送還することができる訳である。
 しかしながら、前述した如く申請人は、本件退去強制令書発布の前提となつた在
留期間更新不許可処分については、これが違法であるとして訴を提起中である上
に、本件退去強制令書発布処分をも違法として、これが取消の訴を本日付で東京地
方裁判所に提起したばかりである。
 それ故、本件退去強制令書にもとづき強制送還を強行されるに及んでは、右二つ
の訴訟において司法裁判所の判断をうけることができず、申請人は回復しがたい損
害をこうむること明白である。
 更に人身の拘束は人間にとつて最大の苦痛であるが、収容所における収容も又そ
の例外ではない。
 すなわち、被収容者処遇規則(昭和二二年一〇月三〇日外務省令二一号)によれ
ば、収容所等の構造及び設備は、被収容者の逃亡奪還又は通謀等を防止するため堅
固にして且つ看守に便利なようにしなければならないとされ(六条一項)、容疑者
等が日常生活に必要でないと認められる物品は領置することとし(八条)物品の購
入も許可制であり(八条の二)、容疑者等の指紋および写真を強制的にとることに
し(一〇条)、逃亡などの虞れがあるときは戒具を使用することができ(一二
条)、被収容者の衣類、日用品も厳しく限定されており(一九条の二)、糧食も非
常に低額なものに制限され(一九条の五)、面会も許可制で時間場所の指定があり
(二四条)、物品の授受も同様許可制である上、信書の秘密もなく検閲されること
となつている(二六条)。
 収容所の状態の悪いことはよく知られるところであるが、右の如く法的にみても
被収容者は、人身の自由のすべてにわたつて極度の制限をうけているのであつて、
それは刑事上の勾留と実質的に変るところはないのである。
 このような状態での収容・拘束による苦痛ははかり知れないばかりでなく、後に
確定判決によつて本件処分が取消されても、既に収容を続行してしまえばその損害
の回復は不可能である。(このような場合金銭による賠償はほとんど無意味であ
る)
 しかも申請人は前述のとおり、駒沢大学大学院仏教学科で仏教の勉学に励んでい
るのであり、かつ仏教習得の一環として托鉢修行をもなしているのであるから収容
の継続は、その勉学及び各種活動に回復し難い損害を与えることとなるのである。
(収容についての執行停止決定事例、札幌地裁昭和四二年七月一六日行民集一八巻
七号九一五頁、札幌高裁昭和四二年九月二五日前同巻八・九号一二一一頁、東京地
裁昭和四二年九月二六日前同号一二四〇頁)
 よつて申請人は本件退去強制令書発付処分の取消を求めて本訴を東京地方裁判所
に提起するとともに、本件退去強制令書にもとづく執行停止を求めて本申立に及ん
だ次第である。
疎明方法(省略)
別紙(二)
意見書
意見の趣旨
 本件申請を却下する。
 申請費用は申請人らの負担とする
との裁判を求める。
       理   由
第一、本件退去強制令書発付処分に至るまでの経緯
一、申請人は、一九三九年一一月一日アメリカ合衆国ネブラスカ州において出生
し、昭和三六年一〇月一一日キリスト教布教の目的で来日、日本キリスト教団に所
属する宣教師として青山学院大学で英語の教師をしながら、キリスト教布教活動を
続けた。その後昭和四一年四月から一年間福井県の大本山永平寺において雲水の修
業をし、昭和四二年四月駒沢大学大学院修士課程(仏教専攻)に入学し、日本名を
Aと名乗つているものである。
二、申請人は昭和三六年一〇月一一日在留資格四―一―一〇(宗教活動者)を付与
され本邦に入国し、同三九年三月一七日いつたん出国、同月二七日再び在留資格四
―一―一〇を付与され入国し在留中、仏教研究のため昭和四〇年一二月七日在留資
格四―一―一六―三、在留期間を一八〇日に変更許可された。その後六回にわたり
在留期間更新を許可された後、七回目の期間更新申請に対し、昭和四四年五月一九
日在留期間を九〇日として許可されたが、申請人が同年四月四日付でなした中国大
陸向け再入国許可申請については、法務大臣はこれを不許可とした。
三、しかるに、申請人は、同年六月一二日長崎港から中国大陸向け出国したが、同
月二〇日ころ中国大陸沿岸海上において中国官憲から入国を拒否されたため、同年
六月二四日長崎港に入港し、同月二五日同港において仏教研究継続のためとの入国
目的で上陸申請したが、福岡入国管理事務所長崎港出張所入国審査官は、申請人が
有効な入国査証を所持しないところから、出入国管理令(以下令という)。七条一
項一号に規定する上陸のための条件に適合していないものと認め、同日、同所特別
審理官に引き渡し、特別審理官が同日申請人につき口頭審理を行つた結果、申請人
が令七条一項一号に規定する上陸のための条件に適合していないと認定し、その旨
申請人に通知したところ、申請人は同月二六日右認定に異議があるとして法務大臣
に対し異議の申出を行ない、法務大臣は同年七月二日付で異議の申出は理由がない
が出国準備のためとして令一二条一項三号に基づき上陸特別許可(在留資格四―一
―一六―三在留期間六〇日)を与え、同月七日長崎港出張所入国審査官は申請人の
所持する旅券に右上陸特別許可の証印をした。
 なお、同審査官は右証印に際し申請人に対し本件許可は出国準備のためであるか
ら許可期間内に必ず出国するよう口頭で告知している。
四、申請人は、昭和四四年八月六日、仏教研究と大学院での学習継続のためという
理由で在留期間更新許可申請をなしたが、法務大臣は、同月二一日前記上陸特別許
可の経緯から、右申請を不許可と決定し同月二三日申請人にその旨通知した。申請
人は、同年九月三日法務大臣に対し右不許可処分取消請求の訴訟を東京地方裁判所
に提起し、同所民事第三部に係属しているものである。
五、東京入国管理事務所入国警備官は、申請人が申請人に認められた在留期限であ
る昭和四四年九月五日を経過したのち不法に本邦に残留しているところから同月一
一日同所主任審査官の発付した収容令書に基づき、同所に申請人を収容したのち直
ちに令二四条四号ロ該当容疑で違反調査を行ない翌一二日申請人を同所入国審査官
に引き渡した。
 次いで同月一二日同所入国審査官は、入国警備官より引渡しを受けた申請人につ
き直ちに審査を行なおうとしたところ、申請人が収容直後より拒食を始めたため同
月一五日より一六日の二日間にわたり申請人を東京都港区<以下略>所在の東洋病
院に入院させ、医師の診断を受けさせるのやむなきに至つたので、その診察の結果
を待つて同月一九日第一回審査を行ない、翌二〇日引続いて第二回審査を行なつた
のち、申請人に対し令二四条四号ロに該当する者として認定した。ところが申請人
から、口頭審理の請求があつたので、同所特別審理官は同月二四日および二九日の
二回にわたり口頭審理を行ない、同月二九日入国審査官の認定に誤りがない旨判定
した。そこで、申請人は法務大臣に異議の申出を行なつたが、法務大臣は同年一〇
月九日申請人の異議の申出は理由がないと裁決した。よつて東京入国管理事務所主
任審査官は、同月一六日申請人に異議の申出は理由がない旨の裁決があつたことを
告げ、退去強制令書を発付し同日入国警備官が退去強制令書を執行して申請人を東
京入国管理事務所に収容したのち、同日、申請人を横浜入国者収容所へ移送した。
第二、本件申請は執行停止の要件を欠くものである。
一、本件は本案について理由のないことが明らかである。
(一)、申請人は令二四条四号ロに該当する。
(1) 在留期間更新許可は、令二一条三項により明らかなように法務大臣は、当
該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由
があるときに限りなされるものであつて、申請があれば簡単に許されるというもの
でなくその許否の処分は法務大臣の自由裁量に委ねられ同令には許可されなかつた
からといつて不服申立を認める旨の規定もなく、他に不服申立の途はない(行政不
服審査法四条一項一〇号参照)のであるから、在留期間の満了する日までに在留期
間の更新が許可されない以上その後の残留は当然不法となるものと解すべきであ
る。そして外国人の入国及び在留の許否はもつぱら当該国家の自由裁量により決定
し得るものであつて、特別の条約の存しない限り、国家は外国人の入国又は在留を
許可する義務を負うものでないというのが国際慣習上認められた原則で、わが国の
出入国管理令の各規定にもこの原則が反映されているのであつて、外国人には自己
を在留させると国家に対し要求する権利はないのである。
 従つて、右に述べたことから明らかなように令二一条が外国人に対し在留期間の
更新の申請をすることができると規定しているからといつても、同令は外国人に対
し在留期間延長を権利として付与したものでなく、法務大臣の自由裁量によつて恩
恵的に在留期間の延長が許されるものであるから、右申請をした外国人は単に更新
があり得るという事実上の期待を持つにすぎない(昭和四三年四月九日大阪高等裁
判所第二刑事部判決参照)のである。
 ところで、前述のとおり申請人が昭和四四年八月六日東京入国管理事務所に出頭
してなした在留期間更新許可申請は同月二三日法務大臣より不許可と決定され同日
申請人に通知されたものであり、申請人はその所持する旅券に記載された在留期間
である昭和四四年九月五日までは適法な在留といえるが申請人は同日を超えて残留
しているものであり令二四条四号ロに該当することは明らかである。
(2) 法務大臣のなした在留期間更新申請不許可処分には違法はない。
 申請人は、「少くも昭和四五年三月末までは大学院学生として論文提出、修士号
取得のため研究を続け講義に出席する必要があり、かつ、卒業後七月末までは首僧
としての百日の勤行を果す必要がある(ちなみに得度後五年以内にこの勤行を了し
なければ僧侶の資格を得ることはできない)。この事情はここ数年の更新時、さら
には昭和四四年六月中国より帰日の際の入国(上陸)申請時といささかも変化して
おらず、前記更新申請にあたつても、この事由は申請書に記載して明らかにしてい
る。それ故かかる状況を充分に知悉しながらあえて更新許可申請に対し不許可処分
をなした法務大臣の行為は違法である」と主張する。
 しかし仮りに申請人が右に述べるような意図をもつて本邦に在留する目的であつ
たとしても、申請人は昭和四四年六月一二日長崎港より本邦外の地域に赴く意図を
もつて入国審査官からその所持する旅券に出国の証印を受けて出国したことによつ
て申請人がそれまで有していた本邦における在留資格ならびにそれに伴う在留期間
をすべて放棄してしまつたものである。
 そして、申請人は、昭和四四年六月二五日長崎港において新たな入国手続により
上陸の申請をしたが、前記第一の三において詳述したとおり、法務大臣は令一二条
一項三号に基き同年七月二日付で出国準備のために特に恩恵的な措置として申請人
に対し、上陸特別許可(在留資格四―一―一六―三在留期間六〇日)を与え、申請
人は同月七日その所持する旅券に右上陸特別許可の証印を受けたのである。
 申請人は、上陸特別許可は仏教研究継続のためという入国目的を示してなされた
上陸許可申請に対応するものであるから、その入国目的についての許可が与えられ
たものと解しているようであるが、申請人に対する上陸特別許可は申請人の上陸申
請にかかる入国目的を認めて在留資格を決定してなされたものではない。すなわ
ち、申請人の上陸申請における入国(旅行)目的は、前記のとおり駒沢大学大学院
での勉学の継続及び仏教の研究にあり、同目的による上陸申請にあたつては令四条
一項六号(教育機関で教育を受けようとする者)に該当するものとして令六条一項
により当然有効な査証を所持しなければならず、かつ、令七条一項二号に基き令四
条一項六号に該当するものとしての法務大臣の交付する証明書を所持しなくてはな
らないものであるが、申請人は有効な査証および証明書を所持していなかつたので
あるから上陸手続にあたつて入国審査官による審査、特別審理官による口頭審理、
法務大臣による異議の申出に対する裁決のいずれの段階においても令七条一項一号
に適合しないと認められたが、法務大臣において令一二条一項三号によつて特に恩
恵的に上陸を許可したものであつて右は決して、申請人の上陸申請を認容してなさ
れたものではない。
 以上のとおり申請人に対する上陸特別許可は、申請人の出国準備のためであり、
右許可による在留期間六〇日は出国準備のためには十分な期間であつて、申請人が
在留期間更新許可申請の理由とする仏教研究と駒沢大学大学院での学習継続のため
という理由をもつてしては、在留期間更新許可申請の許否の決定にあたつて更新を
適当と認めるに足りる相当の理由があるときに該らないものというべきであつて、
法務大臣が申請人に対してなした在留期間更新申請不許可処分にはなんらの違法は
ない。
(二) 本件退去強制令書発付処分には違法はない。
 右に述べたように申請人のなした在留期間更新許可申請に対する法務大臣の不許
可処分は適法有効であり、従つて申請人がその所持する旅券に記載された在留期間
である昭和四四年九月五日をこえて本邦に不法に残留している以上申請人が令二四
条四号ロに該当するとしてなされた本件退去強制令書発付処分には何らの違法はな
く、本件は本案について理由のないことが明らかである。
二、本件は執行停止の要件たる回復しがたい損害を避けるための緊急の必要性を欠
く。
(一) 申請人は訴訟係属中という理由で退去強制令書の執行停止を求めている
が、もともと申請人はわが国において勉学したり、仏教研究を行なうために法務大
臣から上陸特別許可を受けたものでないことは、前記第一の(一)の(2)におい
て詳述したとおりであり、申請人の提起した本件退去強制令書発付処分取消請求訴
訟は本案について理由がないことが明白であり、かつ、前記在留期間更新不許可処
分取消請求訴訟及び退去強制令書発付処分取消請求訴訟にはそれぞれ三名または四
名の訴訟代理人が選任されており、いささかも訴訟遂行に支障はないというべきで
ある。
 また申請人は本邦においてはなんら親族係累もなくその所持品もわずか身の廻り
品のみであるし、その本国であるアメリカ合衆国には、母と妹が在住している家族
状況に鑑み申請人の生活の本拠は明らかにその本国にあると認められる。
 そもそも退去強制事由に該当する者は、令五三条の規定により速やかに国外に送
還されることは当然であつて、申請人がその本国であるアメリカ合衆国に送還され
ても回復しがたい損害を避けるための緊急の必要性は全く認められない。
(二) 本件処分の執行停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある。
 申請人は、前述のように再入国許可を受けないまま出国し、旅券に有効な査証を
受けないで本邦に上陸しようとした者で、そもそも上陸許可を受けることを期待し
えなかつたのであるが、法務大臣によつて出国準備のため恩恵的に上陸特別許可を
与えられたにすぎず、従つて申請人は右六〇日の期間内に本邦から当然出国すべき
であつたのである。それにもかかわらず右の上陸特別許可の目的と異なる勉学ない
しは仏教修行のためとして在留期間の更新申請をしたものであつて、権利として在
留期間の更新を求めうる余地の全くなかつたものである。このような者をすみやか
に国外へ送還することは、わが国の外国人管理上極めて必要な措置であつて、本件
執行停止申請が認容され、右の送還が妨げられることは、外国人の出入国管理の行
政上重大な支障が生ずるものであつて、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれが
あるというべきである。

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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