弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     一 原判決を次のとおり変更する。
     1 本籍山梨県富士吉田市ab番地亡A(昭和四八年三月二七日死亡)
と控訴人Bとの間の親子関係が存在しないことを確認する。
     2 被控訴人らの控訴人C及び控訴人Bとの間の親子関係が存在しない
ことの確認を求める訴はいずれも却下する。
     二 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人B
の、その余を被控訴人らの各負担とする。
         事    実
 控訴人ら訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟
費用は、第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴
人ら訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほかは、原判
決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
 (控訴人らの主張)
 原判決四枚目表一行目の「被告Bが」の次に「A、控訴人Cとの間に約三〇年に
わたつて継続してきた親子としての法的関係が一挙にくつがえされることになり、
控訴人Bが」を加える。
 (被控訴人らの主張)
 1 控訴人らの右主張は争う。
 2 被控訴人らが控訴人らの間の親子関係不存在確認を求めるのは、亡Aと控訴
人Bとの間の親子関係を戸籍上抹消するについて必要とするからである。すなわ
ち、嫡出親子関係不存在確認の訴は父母及び子の三者間に合一にのみ確定すべき必
要的共同訴訟であり、したがつて、父母及び子の全員が当事者にならなければなら
ないところ、父母の内一方が死亡している場合は生存する父又は母と子が当事者と
なるべきものだからである。本件においては、戸籍上の父Aが死亡しているので、
同人と控訴人Bとの間の親子関係がないことの確認を求めるためには、戸籍上の母
である控訴人Cと控訴人Bの双方を相手方とする必要がある。
 (証拠の関係)(省略)
         理    由
 一 被控訴人らの本訴請求の趣旨は、「控訴人Bは控訴人Cと亡Aとの間の子で
ないことを確認する。」というにあり、また、被控訴人らが本訴により控訴人らの
間の親子関係不存在の確認を求める利益は、「亡Aと控訴人Bとの間の親子関係を
戸籍上抹消するについて必要なためである。けだし、嫡出親子関係不存在確認の訴
は父母及び子の三者間に合一にのみ確定すべき必要的な共同訴訟であり、したがつ
て、父母及び子の全員が当事者にならなければならないところ、父母の内一方が死
亡している場合は生存する父又は母と子が当事者となるべきものだからである。本
件においては、戸籍上の父Aが死亡しているので、同人と控訴人Bとの間の親子関
係がないことの確認を求めるためには、戸籍上の母である控訴人Cと控訴人Bの双
方を相手方とする必要があるからである。」というにある。すなわち、被控訴人ら
が、本訴で必要としているのは、亡Aと控訴人Bとの間の父子関係の不存在確認で
あつて、控訴人らの間の母子関係不存在確認は、嫡出親子関係不存在確認の訴を提
起する必要上、付加したにすぎないことが明らかである。そこで、かような場合に
おいて、被控訴人らは、控訴人らの間の母子関係不存在確認の結果をもたらす嫡出
親子関係不存在確認の訴を提起することが許されるかどうかについて検討する。
 1 被控訴人らは、亡Aと控訴人Bとの間の父子関係不存在確認の訴を提起する
には、嫡出親子関係不存在<要旨>確認の訴の形態をとるべきものであるとの前提で
本訴を提起している。しかしながら、嫡出親子関係不存在確認の訴は、子が
父母の間の嫡出子であるかどうかという法律関係が訴訟物であるところ、かような
訴の形態は、旧民法下においては、家の制度の中核をなす家督相続の問題があり、
そのために嫡出子、庶子、私生子の区別があり、その相続の順位について詳細な定
めがあつたから、嫡出性の有無の確認の必要があつたのであるが、現行民法におい
ては、嫡出子と非嫡出子との区別はあるものの、それが争われるのは、相続分の割
合に関してのみであり、そのほかには、嫡出親子関係の存否確認の必要性は殆んど
考えられないのである。したがつて、現行法のもとにおいては、右例示のような特
別の事情がある場合は別として、父子関係、母子関係を合一にのみ確定すべき嫡出
親子関係存否確認の訴訟形態はすでに普遍性を失つているというべきである。もつ
とも、現在においても、戸籍上父母を同一にする子相互間の訴訟について、嫡出親
子関係存否確認の訴訟形式がとられているが、これは、父子関係及び母子関係の存
否確認がともに必要である場合、従来から行われてきた嫡出親子関係存否確認訴訟
の形式を便宜踏襲してきたとみるのが相当であり、右訴訟の実質は、父子関係及び
母子関係両者の併合訴訟であると善解するのが相当である。(したがつて、請求の
趣旨は、「某は、父、母の間の子でないことを確認する。」という表現よりも正確
には、「某は、父及び母のそれぞれの子でないことを確認する。」とすべきもので
ある。)。もし、このような解釈をとらずに、被控訴人ら主張の如く、嫡出子出生
届のなされている子と父母との関係は、常に合一にのみ確定すべきものであるとす
れば、母子関係について確定の利益がない場合にも、その有無について審理、判断
しなければならないことになり、この場合、故なく第三者をして母子関係の存否と
いう重大な法律関係に容喙させることになり、著しく不合理な結果を招来すること
になろう。
 このようにみてくると、本件においては、亡Aと控訴人Bとの間の父子関係不存
在が確認され、その関係の戸籍訂正がなされれば足りることが被控訴人らの主張に
照らして明らかである。さらに、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成した
と認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証によれば、被控訴人らと控
訴人らとの間の戸籍上の身分関係は、被控訴人らが亡Aとその先妻亡Dの子、控訴
人Cが亡Aの後妻、控訴人Bが亡Aと後妻である控訴人Cの子となつていることが
認められるから、被控訴人らと控訴人らとの間の身分関係は姻族とされているにす
ぎず、したがつて、両者の法律関係は、扶助、扶養について、法定の特別の事情が
ある場合においてのみ、それらの義務を負担することが予想されるに止まり(民法
第七三〇条、第八七七条二項参照)、しかも本件においては、右特別の事情のある
ことについては、何らの証拠がない。
 してみれば、被控訴人らは、単に控訴人らと親族というだけで、控訴人らの間の
母子関係の存否確定について法律上直接の利害関係を有するとはいえないから、確
認の利益がないというべきである。
 2 次に、被控訴人らは、控訴人Bの戸籍上の父であるAが死亡しているから、
戸籍上の母である控訴人Cを当事者に加える必要があると主張する。
 しかし、嫡出親子関係存否確認訴訟の実質は、父子関係及び母子関係の併合形態
であり、しかも本件において、控訴人らの間の母子関係の存否について、確認の利
益がないこと前記のとおりである以上、本件は亡Aと控訴人Bとの間の父子関係の
不存在確認訴訟のみについて審理判断すべきことになるところ、かような場合にお
いて、人訴法第二条二項を類推適用するときには、生存する控訴人Bを相手方とし
て同人と亡Aとの間の父子関係の不存在確認をすることができるものと解するのが
相当であり、したがつて、控訴人Cを当事者に加える必要はないというべきであ
る。この点に関する被控訴人らの主張は採用することができない。
 3 以上によれば、被控訴人らの本訴請求は、控訴人Bと亡Aとの間の父子関係
不存在確認については訴の利益があるが、控訴人らの間の母子関係不存在確認の訴
については利益がないというべきである。
 二 そこで、進んで、右父子関係の存否について判断するのに、その方式及び趣
旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき
甲第一号証、第二、第三号証の各一、二、原審における控訴人C本人尋問の結果
(第一回)及び弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人Bは、亡Aの子でないのに、虚
偽の出生届により同人の子として戸籍の記載がなされたことが認められ、これに反
する証拠はない。
 三 控訴人らは控訴人Bについてなされた出生届は亡A及び控訴人Cと控訴人B
との間の養子縁組届とみなされるべきであると主張するが、前頭甲第一号証によれ
ば、右出生届は昭和一七年一一月二一日亡Aによつてなされたと認められるとこ
ろ、右届出施行当時の民法八四七条、七七五条によれば、養子縁組は法定の届出に
よつて法律上効力を生ずべき要式行為であり、嫡出子出生届をもつて養子縁組届と
みなすことは許されないと解すべきである(最高裁判所昭和五〇年四月八日第三小
法廷判決、民集二九巻四号四〇一頁参照)から、右主張は採用することができな
い。
 四 次に、控訴人らは本訴請求が権利の濫用であつて許されないと主張するの
で、この点について判断するのに、控訴人Bが昭和一七年以来、約三〇有余年に亘
り、亡Aの子として戸籍に記載されていたのに、本訴によりその法的地位を一挙に
失うことは、まことに同情を禁じえないものがある。しかし、さればといつて、戸
籍上亡Aを父とする被控訴人らにおいて、同じく亡Aの子として戸籍上記載されて
いる控訴人Bに対して親子関係がないことの確認を求める道を閉すことは真実に合
致した戸籍訂正をし、かつ真実の身分関係を明らかにする身分法上の権利の放棄を
強いることになるから、到底許されないことというべきである。
 そして、控訴人らの主張する権利濫用に関する事実及び本件記録に顕われた一切
の事情を参酌してみても、被控訴人らの控訴人Bに対する本訴請求をもつて権利の
濫用と認めることはできないというべきである。
 五 以上によれば、被控訴人らの本訴請求は、これを亡Aと控訴人Bとの間の父
子関係及び控訴人らの間の母子関係の各不存在確認訴訟とみて前者については正当
としてこれを認容することとし、後者については訴の利益を欠くものとしてこれを
却下することとする。よつて、原判決を右の判断の趣旨に従つて変更することと
し、訴訟費用の負担について、民訴法第九六条、第八九条、第九三条を適用して、
主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 鈴木重信 裁判官 糟谷忠男)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛