弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人飯島豊の上告趣意第一点について。
 論旨は、原審において、被告人の私選弁護人Bが公判期日に唯一回出頭しなかつ
たというだけの理由によつて直ちに国選弁護人を選任して公判を開廷進行し、次回
の公判期日には被告人にもB弁護人にも通知することなく、国選弁護人出頭の上判
決宣告をしたことが明らかであるとし、このことを前提として、原判決は憲法一一
条、一三条、三七条三項等に違反すると主張する。
 しかし記録を調べてみると、右の主張事実は甚だしく真実に反している。記録に
基き原審における公判の経過並びに期日の通知の状況を摘記すると次のとおりであ
る。(なお原審における被告人の私選弁護人はC及びBの両名であつて、右両名連
名を以て量刑不当の主張を内容とする控訴趣意書が昭和二八年四月四日に提出され
ている。)
 原審裁判所は、
 一、第一回公判期日を昭和二八年五月二〇日午前一〇時と指定、右期日の召喚状
を被告人Aに(四月一四日)、右期日の通知状をB弁護人(右同日)及びC弁護人
に(同月一五日)に送達した。
 二、しかし第一回公判期日に被告人A及びB、C両弁護人各不出頭のため、公判
期日を同年五月二七日午前一〇時に変更、右期日の召喚状を被告人に(同月二二日)、
右期日の通知状をB弁護人(同日)及びC弁護人に(同月二三日)送達した。
 三、しかるに右五月二七日の第二回公判期日にも被告人及びB、C両弁護人不出
頭のため、公判期日を更らに同年六月二四日午前一〇時に変更、右期日の召喚状を
被告人に、通知状を両弁護人に送達した(いずれも五月二九日)。
 四、ところが右六月二四日の第三回公判期日にもまた被告人及び両弁護人各不出
頭であつたので、同日選任された国選弁護人Dが出頭して、控訴趣意書記載のとお
り弁論した。そこで裁判所は判決宣告期日を同年六月二九日午前一〇時と指定、右
期日の召喚状及び通知状をそれぞれ被告人及び私選両弁護人に送達した(同月二六
日)。
 五、しかし右六月二九日の第四回公判期日にも被告人及び私選両弁護人は各不出
頭、D国選弁護人出頭の上、判決が宣告されたのである。
 なお以上の各公判期日を通じて、被告人A及びB、C両弁護人からは一回も不出
頭の届書、延期または変更の申請書も提出されていない。
 右のような原審における手続の経過に鑑み、且つ私選弁護人から提出された控訴
趣意書は単に量刑の不当を主張するのみであることを考え合わせてみると、原審の
措置は何等非難さるべきいわれがない。所論違憲の主張はその前提を欠き採用する
ことができない。同第二点について。
 論旨は原判決が憲法二九条に違反すると主張する。なるほど原審は、「当審の国
選弁護人に支給した訴訟費用は被告人の負担とする」との判決をしているけれども、
記録上国選弁護人Dに報酬等を支給した形跡は認められず、被告人に負担させるべ
き費用は存在しない。従つて判決中右の部分は空文に帰したと同様である。それ故、
被告人が現実に訴訟費用を徴収されることを前提として違憲を主張する論旨は、そ
の前提を失い採用することができない。
 同第三点について。
 論旨は、原判決が憲法三八条三項に違反する旨を主張する。しかし第一審判決は、
所論のように被告人の自白のみを唯一の証拠として犯罪事実を認定したのではなく、
相被告人Eの司法警察員に対する供述調書及び被告人Fの被害届をも証拠として併
せ掲げている。そうしてこれ等のものは被告人の自白の真実性を保障するに十分な
補強証拠である。従つて所論違憲の主張はその前提を欠くものであつて採用するこ
とができない。
 被告人Eの弁護人富岡誠の上告趣意は、量刑不当の主張に帰し、適法な上告理由
とならない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三〇年七月一九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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