弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1被告は,原告に対し,1万2000円及びこれに対する平成14
年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する昭和61年6月1
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1請求原因の要旨
本件は,警察庁長官又はその職員が,故意又は過失により「昭和6,
0年10月17日,県警察警察署に暴行罪の被疑事実により検挙さab
れた」旨の誤った原告の前歴情報を記録・保持し,複数回に亘って捜査
機関に回答し,さらに平成12年9月8日の警察署刑事課における供c
述調書において原告が当該前歴の誤りを指摘して訂正を求めたにもかか
わらず,原告が甲弁護士会に人権救済申立てをし,同会が調査照会をし
た平成13年12月まで訂正されないまま放置されたことにより,原告
,,,,は誤った前歴情報に基づき検挙のたびに取調べ・処分を受けかつ
刑事裁判を受けるという人格権・プライバシー権などの人権を侵害され
る損害を被ったとして,原告が被告(国)に対し,国家賠償法1条1項
に基づき,精神的苦痛に対する慰謝料300万円と弁護士費用30万円
の合計330万円の損害賠償及びこれに対する誤った前歴が判明した後
である昭和61年6月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合によ
る遅延損害金の支払を求めた事案である。
2争いのない事実
原告(昭和20年d月f日生の男性)は,平成12年9月8日,g県
警察警察署司法警察員から,原告についての平成12年9月8日付けc
氏名(前歴)照会結果(甲1)に「検挙年月日,昭和60年10月17
日,検挙署名,県警察警察署,罪名,暴行」との記載(以下この犯ab
歴情報を「本件犯歴情報」という)があることを示された上で取調べ。
を受け「これは警察の間違いです。私は昭和60年9月21日に県,a
h警察署で窃盗容疑者として逮捕されていますので,私の事件ではあり
ません」と供述した(甲2。。)
警察庁の管理する警察庁情報管理システムに犯歴情報がデータベース
化されており,原告が昭和61年5月にg県警察本部に窃盗容疑で逮捕
された当時には,そのシステムに本件犯歴情報が登録されていたと推測
されるが本件犯歴情報は誤りであった原告による人権救済申立て甲,。(
3)を受け,平成13年12月,甲弁護士会の調査照会が行われ,その
頃,警察庁情報管理システムから本件犯歴情報が抹消された。
3原告の主張(請求の原因)
(1)国の責任原因
原告は,昭和61年5月にg県警察本部に窃盗容疑で逮捕勾留され,
,。取調べを受けた際に自らの前歴調書を見せられその説明を求められた
その際原告は前歴調書に「昭和60年10月17日,県警察警察署ab
に暴行罪の被疑事実により検挙された」旨の事実無根の記載がなされて
いることに気づいた。原告は,前歴調書の誤りを指摘し,その訂正を申
し入れたが,取調官は無視して取り合わなかった。その後原告は,以後
合計7回の逮捕取調べの都度,その抹消を申し入れたが,結局甲弁護士
会に人権救済申立てをし,同会が調査照会をした平成13年12月まで
抹消されないまま放置された。そして,その間,被告国(警察庁)は,
原告の誤った前歴(本件犯歴情報)を捜査機関に回答し続け,原告は,
この誤った前歴を前提に少なくとも5回有罪判決を受けている。
前歴とは,犯罪歴,すなわち捜査機関によって被疑者として検挙され
た経歴のことをいう。検挙とは,主として捜査機関で用いられる用語で
あり,被疑者の検挙という場合には,被疑者を逮捕し,書類送致し,又
は微罪処分とすることを指す。前歴を管理するのは,中央は警察庁,出
先は,都道府県警察本部(東京都の場合は警視庁。以下同じ。)情報管
理課照会センター(犯歴照会センター)である。被疑者が逮捕されると
都道府県警察本部情報管理課照会センターが警察庁データベースに逮捕
歴情報を発信し,警察庁が全国の情報を一元的に集中管理し,都道府県
警察本部情報管理課照会センターから被疑者の過去の犯歴照会があると
警察庁がオンラインで回答する体制となっている。
そもそも犯歴の有無はセンシティブ情報であり,最も尊重されなけれ
ばならないプライバシーである。誤った前歴情報を記載され続けたこと
自体,原告の人格権・プライバシー権の侵害である。また,原告の訂正
要求を放置し,かつ,誤った回答を繰り返し,それを前提とする処分を
受けさせたことも,原告の人格権・プライバシー権などの人権を著しく
侵害するものである。前歴に関する個人情報は,人格権・プライバシー
権に関わるものであって,国に誤った個人情報を保持されることはもち
ろん,さらにその個人情報を誤って利用されることは,そのこと自体が
直ちに,当該個人の人格権・プライバシー権を侵害するものである。
したがって,前歴情報を独占的に収集し,その管理をしている国は,
当該情報に誤りがないように収集・保管し,間違ってもその情報が誤っ
て利用されないようにする高度の義務がある。また,万一その内容に誤
り等があることが判明した場合は,速やかにその内容を訂正し,その誤
った情報が用いられないようにする高度の義務がある。被告国(警察庁
長官又は同庁職員)は,一般市民の前歴の管理者として,原告の前歴情
報に誤りがないように収集・保管し,誤った利用がなされないようにす
る高度の義務,さらに仮に原告の前歴情報に誤りがあった場合には,そ
の内容を速やかに訂正し,誤って用いられないようにする義務を負って
いた。ところが,被告国は,原告の本件犯歴情報が明らかに誤情報であ
るにも関わらず,警察庁職員の故意又は過失により,そのような誤情報
を記録・保持し,かつ,捜査機関からの照会に対し,その誤情報を回答
し続けた。さらに,被告国は,遅くとも平成12年9月8日の警察署c
における供述調書において原告は本件犯歴情報の誤りを根拠を付けて供
述しているにもかかわらず,前歴を管理している警察庁長官ないし同庁
職員の故意又は過失により(仮に,警察庁職員が警察からその旨の連c
絡があったにもかかわらず,その訂正をしなかったというのであれば,
そのこと自体に故意・過失が存することになるし,警察からその旨のc
連絡がなかったとしても,前歴情報を訂正する体制を整備せずに漫然と
放置したこと自体に警察庁長官には重大な過失が認められる,その訂。)
正をせずに放置し,かつ,その誤った前歴情報に基づき,原告に繰り返
し,検挙のたびに取調べ・処分を受けさせ,刑事裁判を受けさせること
になったものである。
したがって,国は,国家賠償法1条1項に基づき,上記公務員の故意
又は過失によって,原告に生じた損害について,その賠償をする義務を
有する。
(2)損害
①慰謝料300万円
原告は,被告国が,自らの誤った前歴情報を保持したこと,その前歴
情報を警察署等複数回に亘って捜査機関に回答したこと,さらにかかc
る誤った前歴情報に基づいて刑事裁判を受けさせたこと,原告が訂正を
求めているにもかかわらず,その訂正を行わなかったことにより,多大
な精神的苦痛を受けた。その精神的苦痛を慰謝するためには,原告が繰
り返しその訂正を求めていたこと,長期間にわたり,その訂正が無視さ
れ,かつ,放置されたこと,その結果,原告は誤情報を前提として,繰
り返し検挙・裁判を受けたことを考慮すれば,慰謝料の金額は,300
万円をくだらない。
②弁護士費用30万円
原告は,本件訴訟を原告代理人らに委任したが,原告の損害・精神的
苦痛の程度のほか,本件訴訟の複雑さ・専門性等に鑑みれば,少なくと
もその弁護士費用のうち30万円が,被告国の不法行為と相当因果関係
のある損害である。
4被告の主張(争点)
(1)警察庁職員の対応に国家賠償法1条1項の違法性は認められな
いこと
本件における警察庁の対応について,国家賠償法1条1項の違法性が
認められる余地はない。よって,被告は原告に対し,同条項に基づく損
害賠償責任を負うことはない。
警察署において被疑者を検挙した場合,当該被疑者に係る犯歴情報の
登録等については,おおむね別添1(犯歴登録フローチャート,別添)
2(犯歴照会フローチャート)のような流れで実施される。その根拠と
なる通達(乙1∼4)は,いずれも現時点のものであるが,昭和60年
10月17日(本件犯歴情報の検挙年月日)から平成13年12月(本
件犯歴情報が削除された時期)にかけても,おおむね同様の仕組みであ
った。
原告は,被告が,誤りである本件犯歴情報を登録,保持し,かつ捜査
機関からの照会に対して回答し続けた点を違法と主張する。しかし,犯
歴情報の登録手続を行うのは,都道府県警察であって,警察庁ではない
から,被告が本件犯歴情報を登録したことを違法とする原告の主張は,
前提を誤るものである。また,犯歴情報照会に対する回答は,原則とし
て,照会があった場合,警察庁情報管理システムにおいて管理されてい
る情報から自動的に引き出されるものである。そうすると,この点の違
法を問題とする原告の主張は,被告が,誤った情報である本件犯歴情報
,,を保持していたことの違法性を前提とするものであって結局のところ
本件においては,被告が,警察庁情報管理システムに登録された本件犯
歴情報を削除することなくそのまま保持していたことが問題となる。し
かし,警察庁職員は,本件犯歴情報が誤りであることを認識する立場に
はない。犯歴情報の登録の場面において,警察庁は,登録された結果と
しての犯歴情報自体を確認することはできても,当該犯歴情報の正誤に
ついて確認することはできない。そうすると,警察庁は,本件犯歴情報
が誤りであることを認識する立場にないのであるから,これを削除すべ
き義務を負うことはなく,したがって,国家賠償法1条1項の違法性が
認められる余地はない。
原告は,遅くとも平成12年9月8日の警察署刑事課における供述c
,,調書において原告が本件犯歴情報の誤りを供述したことを前提に仮に
警察庁職員が警察からその旨の連絡があったにもかかわらず,その訂c
正をしなかったというのであれば,そのこと自体に故意・過失が存する
と主張するが,警察庁職員が警察署職員から上記原告の供述内容を聞c
,,かされたとする具体的な根拠も存在しないことから原告の上記主張は
前提事実を欠くものであり,失当である。
犯歴情報として登録された事項を削除する体制に何らの不備もない。
原告は,警察からその旨の連絡がなかったとしても,前歴情報を訂正c
する体制を整備せずに漫然と放置したこと自体に警察庁長官には重大な
過失が認められるとも主張する。しかしながら,犯歴情報として登録さ
れた事項を削除する場合の手続が平成12年当時定められており(乙3
・第2の1,第3の1(1,これに基づく運用がされていたのである))
から,その体制が整備されていなかったとする原告の主張は,前提を欠
くものといわざるを得ない。
犯歴情報の管理については,警察庁において,犯歴情報が登録された
警察庁情報管理システムの管理を行い,各都道府県警察において,犯歴
情報の内容についての登録,削除等の手続を行うこととされている。こ
れは,警察法において,中央の警察行政機関(警察庁)は,国家的又は
全国的な見地から国がつかさどり,統轄し,又は調整すべき事項を所掌
し,そのために必要な特定の事項について都道府県に一定の関与を行う
ものである一方(警察庁の所掌事務については,警察法17条,5条2
項,3項参照,都道府県警察は,警察職務の執行を行う機関とされて)
いる(その責務については,警察法36条,2条参照。警察制度研究会
編「全訂版警察法解説」東京法令出版72頁参照)ことによるものであ
る。そして,警察庁は,全国的に調整が必要な警察庁情報管理システム
の管理を行い,一方,個々の犯歴情報の内容については,実際に犯罪の
捜査等に当たる都道府県警察が登録,削除等を行うことにしており,こ
れは,それぞれの機関の具体的な職責の違いからして当然のことといえ
る。よって,警察庁において犯歴情報の管理体制に不備があったとされ
ることもない。
(2)仮に原告の主張する損害賠償請求権があるとしても時効消滅し
ていること
本件犯歴情報は,平成13年12月において既に削除されていること
から,翌月である平成14年1月以降において,仮に原告が,刑事事件
で取調べ,検察官の処分ないし刑事裁判等を受けているとしても,そこ
では,本件犯歴情報は前提とされていないのであるから,もはやそれに
よる原告の精神的損害は発生していない。そうすると,万が一,被告が
原告に対して国家賠償法1条項に基づく損害賠償責任を負うことがあ1
るとしても,それは,遅くとも平成13年12月31日までに発生して
いたことになる。ところで,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求
権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年
間行使しないときは,時効によって消滅する(国家賠償法4条,民法7
24条前段。これを本件についてみると,原告は,平成13年3月7)
,,,日の時点で本件犯歴情報について甲弁護士会人権擁護委員会に対し
人権救済申立てをするなどしていたというのであるから,同年12月3
,。1日の時点において損害及び加害者を知っていたことは明らかである
そうすると,仮に被告が原告に対し,何らかの損害賠償責任を負うとし
ても,本訴が提起された平成21年10月20日の時点では,既に消滅
時効期間である3年(民法724条前段)が経過していることから,原
告の被告に対する損害賠償請求権は時効により消滅している。被告は,
上記時効を援用する。
第3裁判所の判断
1要約
当裁判所は,犯歴情報の管理は,警察庁の通達に基づき,警察庁の職
務として行われている行政事務であり,本件犯歴情報を誤ってデータベ
ースに登録した県警察の職員の過失による行為は,通達に基づき警察a
庁の事務を補助するために行われた行為であるから,誤った犯歴の登録
について警察庁職員が全く関知していなかったとしても,警察庁の行政
事務を補助させている以上,警察庁の職員の職務上の過失による違法行
為と評価されるべきものと判断する。
被告の消滅時効の抗弁は,原告が加害者を知ったとは認められないか
ら採用することができない。
本件犯歴情報が誤って登録されて利用され,これによって原告が人格
権を侵害されたことによる損害は,慰謝料1万円,弁護士費用2000
。,円の合計1万2000円が相当であると認める遅延損害金の起算日は
最終の違法行為の後である平成14年1月1日とするのが相当である。
2被告国(警察庁)の責任について
(1)認定事実
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
警察庁は,都道府県警察において検挙した者に係る犯罪経歴に関する
事項(以下「犯歴」という)について「犯歴A登録原票及び犯歴A登。,
」(。「」。)録補助票の作成要領別紙のとおり以下作成要領という乙4
を定めて都道府県警察に通達している。警察庁は,作成要領に基づき登
録される犯歴について,これを「犯歴Aファイル」という名称のデータ
ベースとして「警察庁情報管理システム(警察庁が設置した電子計算,」
機,端末装置及びこれらを接続するデータ伝送回線並びにこれらの用に
。)供するプログラムを情報の管理を行うために組み合わせたものをいう
により一元的に管理している(乙1。)
犯歴Aファイル等のデータベースのファイル(これらを関係ファイル
という)を作成し,利用することにより,関係ファイルを利用するこ。
とを「個人照会業務」といい,警察庁は,個人照会業務の実施要領につ
いて「警察庁情報管理システムによる個人照会業務実施要領(別紙の,」
とおり。以下「実施要領」という。乙2「警察庁情報管理システムに),
よる個人照会業務実施細則(別紙のとおり。以下「実施細則」という。
乙3)を定めて都道府県警察に通達している。
作成要領,実施要領及び実施細則など上記各通達の内容は,昭和60
年10月17日本件犯歴情報の検挙年月日)から平成13年12月(本(
件犯歴情報が削除された時期)にかけても現在とほぼ同じである。
,,,,個人照会業務については実施要領第4により警察庁管区警察局
都道府県警察本部にそれぞれの運用責任者を置き,警察庁刑事局刑事企
画課長が警察庁における運用体制の責任者として,個人照会業務の適正
かつ円滑な実施のための指導及び調整業務を行い,府県警察本部の運用
責任者は,警察庁運用責任者及び管区運用責任者との連絡を密にし,個
人照会業務の適正かつ円滑な運用を行うものとされている。
犯歴Aファイルへの犯歴情報の登録及び登録された事項の削除は,実
施細則第2,第3に従い,原則として,都道府県警察本部に設置された
照会センター(以下「照会センター」という)が,警察庁情報管理シ。
ステムに接続された端末装置に入力し,これにより警察庁情報管理シス
テムの犯歴Aファイルが変更されることによって行われる。
都道府県警察の職員が行う犯歴情報照会は,実施要領第3の5・6,
第7,実施細則第6ないし第10に従い,警察職員が各警察本部の照会
センターに犯歴情報の照会を行い,照会センターの端末操作担当者が,
端末装置を用いて犯歴Aファイルの利用に必要な事項を警察庁情報管理
システムに入力し,これを受けて警察庁情報管理システムが処理した情
報が,照会センターに設置された端末装置の表示装置に表示され又は印
字装置若しくは外部記録媒体に出力され,照会センターの端末操作担当
者が,端末装置の表示装置に表示されるなどした警察庁情報管理システ
ムからの回答に基づき,照会を行った警察職員に対して回答することに
よってなされている。
(2)検討
前記認定事実によれば,警察庁は,警察庁に構築された情報管理シス
テムである警察庁情報管理システムを用いて,犯歴を一元的に管理する
データベースである犯歴Aファイルを管理していること,そして,犯歴
データベースに登録すべき犯歴登録事項の作成要領,犯歴データベース
への犯歴の登録・照会の手続実施要領及び実施細則を全国一律に定め,
都道府県警察に通達し,これら通達に定められた手続を都道府県警察が
順守し,その適正かつ円滑な運用が図られるように都道府県警察を指導
していることが認められる。
そうであるとすれば,犯歴のデータベースを管理し,これに犯歴を登
録し,全国の都道府県警察職員からの照会に回答する事務は,警察行政
の調整に関する事務であり,警察庁が,警察法2条,5条2項22号,
,。17条に基づきつかさどっている事務であると認めるのが相当である
すなわち,犯歴を全国一元的なデータベースとして管理する目的は,電
子計算機を用いた一元的な情報管理の効率性を生かすことにあるのみな
らず,犯罪が往々にして都道府県警察の管轄(都道府県の区域,警察法
36条2項)を越えて広域的に行われるため,都道府県警察が警察の責
務である犯罪の捜査(警察法2条)を行うにあたっては,当該犯罪の捜
査にあたる都道府県警察の管轄区域以外で行われた犯歴についても把握
する必要があるからであると考えられる。したがって,犯歴を全国一元
的に管理するという犯歴管理の行政事務の特性は,このような犯歴情報
管理の性質ないし目的から必然的に導かれる本質的なものであり,犯歴
情報管理は,その性質上,全国一律に行われるべき警察行政の調整に関
する事務に属し,その行政主体は,これをつかさどる警察庁(国)以外
にはありえないと考えられるのである。
たしかに被告の主張するように,外形的には,警察庁は,犯歴が登録
されるデータベースを警察庁情報管理システムにおいて保存管理してい
るのみであり,犯歴の登録や抹消などの情報の変更や照会に関する事務
は,都道府県警察本部の照会センターの端末操作担当者が,端末装置を
用いて直接データベースにアクセスすることによって行っているという
見方もできなくはない。しかし,都道府県警察本部の照会センターがデ
ータベースに直接アクセスして登録や照会をするのは,前記のとおり,
警察庁の通達に基づいて権限を与えられ,その権限の範囲内でアクセス
しているにすぎないのである。そうであるとすれば,都道府県警察本部
の照会センターなどの警察職員が行う犯歴情報の登録・照会に関する事
務は,それが当該都道府県で行われた犯罪の捜査に関連する事務である
という面では,都道府県警察の事務としての側面も有するが,他方で,
警察庁から与えられた権限に基づき,警察庁の行うべき犯歴情報データ
ベースの管理に関する事務を補助している側面をも有するものと評価で
きるのである。
そして,国家賠償法1条1項の解釈に当たっては,国の公権力の行使
にあたる公務員が,その職務を行うについて,第三者に職務を補助させ
た場合には,その第三者の行為も含めて,国の公権力の行使にあたる公
務員が行った職務行為と評価するのが相当であり,また,その第三者に
故意又は過失があったときは,職務を補助させた国の公権力の行使にあ
たる公務員の故意又は過失があったものと評価するのが相当である。
前記第2の2の争いのない事実及び上記認定事実によれば,本件犯歴
,,情報は警察庁通達に基づき県警察の職員が登録したものと推認できa
犯歴が事実無根の誤ったものであり,原告は誤った犯歴情報を登録され
るという損害を被ったのであるから,その登録をした県警察の職員にa
は過失があったと認められる。県警察の職員が過失により本件犯歴情a
報を警察庁情報管理システムに登録したことは,通達を発出して都道府
県警察の職員に犯歴情報の登録を補助させていた警察庁の職員について
も,過失によってこれを登録させたものと評価されることになる。した
がって,本件犯歴情報を警察庁情報管理システムに登録したことについ
て,国の公権力の行使にあたる公務員が,その職務を行うについて,過
失によって,誤った犯歴情報を登録されるという損害を違法に原告に加
えたものと認められる(この損害の評価について,後記4において検討
する。この判断は,県警察の職員の過失による行為が,事柄の性質。)a
上当然に警察庁の職員の過失による行為と評価されることによるもので
あるから,本件犯歴情報が登録されたことを,警察庁の特定の職員が現
実に知っていたか否かによって左右されるものではない。
3消滅時効の抗弁について
被告は,原告が,甲弁護士会に人権救済申立てをした平成13年3月
7日の時点では,原告は,損害及び加害者を知っていたとして,国家賠
償法4条によって準用される民法724条前段による3年の消滅時効を
援用する。
しかし,上記人権救済申立ての申立書(甲3)には,原告は「私の,
前歴に,昭和60年10月17日,県警察署に暴行の事犯で検挙とab
記載されている事件について調査していただきたいのです(中略)私。
の犯行でないのに,なぜ,このようなことをされるのか,はげしい怒り
をおぼえます。いったい,この事犯(暴行)をした人間は誰なのか,調
査していただきたいのです(中略)まったく見も知らない人間の犯罪。
を,まったく第三者の前歴をコンピュータに導入するなんて事は,人道
上,絶対に許せない事犯であります。どうか,これらにかかわった人間
に厳しい警告を出して下さい」と記載しているにすぎない。この申立。
書の記載によれば,原告は,この人権救済申立てによって,本件犯歴情
報を登録した者を明らかにすることを甲弁護士会に求めており,加害者
というべき登録した者を知っていたことは窺えない。
このような申立書の記載内容から窺える原告の認識の内容に加え,前
記2のとおり,警察に関する権限は,警察庁(国)と都道府県警察とに
よって分担され,その権限分担の中で犯歴情報を誰がいかなる権限に基
づいてコンピュータに登録するかなどの犯歴情報管理の具体的な方法
は,警察庁通達等を検討して初めて明らかになるものであるという犯歴
管理に関する行政の実情も考慮すれば,上記申立ての時点では,いまだ
原告が,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもと,それが可
能な程度にこれを知ったとは認められない。
したがって,上記人権救済申立ての時点において,原告が「加害者を
知った」とはいえないから,被告の消滅時効の抗弁は,採用できない。
4損害について
(1)認定事実
,(,,第2の2の争いのない事実上記2の認定事実並びに証拠甲12
12)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
原告は,昭和60年10月17日頃,県警察の職員により「昭和6a,
0年10月17日,県警察警察署に暴行罪の被疑事実により検挙さab
れた」旨の事実無根の犯歴(本件犯歴情報)を誤って警察庁情報管理シ
ステムに登録され,平成13年12月にこれが削除されるまで,犯罪の
捜査を受けるたびに,都道府県警察からの犯歴照会に基づき,同システ
ムにより自動的に本件犯歴情報が回答された。もっとも,本件犯歴情報
には,処分結果の登録がない。原告は,本件犯歴情報が登録されていた
昭和60年10月17日から平成13年12月までの間に,以下の①∼
⑤の事犯を含め6回検挙され,誤った情報である本件犯歴情報を含む氏
名(前歴)照会結果が,これらの犯罪の捜査,起訴処分,刑事裁判の資
料として使われ,そのうち①∼⑤の事犯では実刑に処せられた。
①昭和61年5月14日,g県警察捜査1課により窃盗(空巣)で
検挙され,昭和61年9月22日,g簡易裁判所において懲役5か月の
刑に処せられ,刑務所に服役した。i
②昭和62年9月30日,g県警察j警察署により窃盗(空巣)で
検挙され,昭和63年1月22日,g地方裁判所において,盗犯等ノ防
止及処分ニ関スル法律違反(以下「盗犯防止法違反」という。原告が検
挙された盗犯防止法違反の罪は,以下も含めてすべて同法3条の常習累
。),,犯窃盗罪と推認されるの罪により懲役1年8か月の刑に処せられ
k刑務所に服役した。
③平成元年12月2日,l県警察m警察署により盗犯防止法違反で
検挙され,平成元年12月27日,地方裁判所支部において懲役2nm
年6か月の刑に処せられ,刑務所に服役した。o
④平成5年7月19日,県警察警察署により盗犯防止法違反でpq
検挙され,その後,地方裁判所において懲役2年6か月の刑に処せらp
れ,刑務所に服役した。o
⑤平成8年9月26日,県警察警察署により盗犯防止法違反でlr
検挙され,平成9年6月9日,地方裁判所支部において懲役3年のms
刑に処せられ,刑務所に服役した。o
原告は,平成12年9月8日,g県警察警察署により窃盗で検挙さc
れ,同日,同警察署司法警察員の取調べに対し,本件犯歴情報は,警察
の間違いであり,原告の事件ではない旨供述した。
(2)検討
以上の認定事実によれば,原告は,昭和60年10月から平成13年
12月まで約16年間,本件犯歴情報が誤って登録され,刑事手続で利
用され,その間に少なくとも,6回検挙され,うち5回は起訴されて実
刑判決を受けていることが認められる。原告は,本件犯歴情報が登録さ
れた直後の昭和61年5月に検挙された上記(1)①の事件の捜査の際
にも取調べにあたった警察官に本件犯歴情報が誤りであることを言った
が全くとりあってもらえなかった旨陳述書(甲12)で述べており,こ
の原告の陳述は,本件犯歴情報が登録されてから15年もたった平成1
2年9月になっても捜査官に対して本件犯歴情報が誤りであることを申
し立てている前記認定事実に照らしても,一応信用することができる。
前記作成要領(別紙)の第2の1によれば,都道府県警察の捜査機関
も,犯歴の登録にあたって役割を果たすことが警察庁通達によって求め
られているから,この通達の趣旨からすれば,被疑者から犯歴の誤りに
ついての申入れを受けた捜査機関は,犯歴情報の正確性を担保するため
に必要な調査をすべき義務があると解するのが相当であり,昭和61年
と平成12年の2度にわたって原告の申入れを受けたg県警察の捜査担
当の警察職員が誤った犯歴の是正のための調査を怠った点も,都道府県
警察の補助のもとで犯歴情報を管理している警察庁職員の過失と評価す
ることができる。
ところで,犯歴(前歴)は,犯歴照会のたびに回答され,刑事事件の
起訴・不起訴の処分,刑事裁判における情状の判断においても重要な資
料となるものであるから,誤った犯歴が16年間登録され,それを利用
されて上記のとおりたびたび捜査,起訴,裁判を受けたことにより,原
告は,本件犯歴情報が起訴処分の決定や裁判の量刑に具体的な影響を及
ぼしたか否かを問うまでもなく,そのこと自体によって人格権を侵害さ
れ,相当程度の精神的苦痛を受けたものと認めることができる。
しかし,原告は,本件犯歴情報が登録される前に,昭和39年6月か
ら昭和60年9月までの間に実に14件もの犯歴(そのうち12件は窃
盗を含む犯歴,甲1)があること,本件犯歴情報には処分結果が含まれ
ていないこと,原告が窃盗ないし常習累犯窃盗の犯罪を繰り返した事実
自体が,刑事手続において重要な事実として評価されることなどを考慮
すれば,本件犯歴情報が,刑事手続において原告に不利益に考慮された
可能性を全く否定することはできないとしても,不利益に考慮された可
能性ないしその程度は,さほど大きいものとはいえないと考えられる。
以上の事情を考慮し,さらに本件犯歴情報は既に抹消されていること
など本件の一切の事情を考慮すれば,本件犯歴情報が誤って登録され,
抹消されるまでの約16年の間,刑事事件の捜査・裁判にたびたび利用
されたことによって,原告が人格権を侵害されたことによる精神的苦痛
に対する慰謝料としては,1万円が相当であると認める。
また,犯歴情報を誤って登録したという本件における国の違法行為の
内容及び性質,本件訴訟の審理経過等に照らし,国の上記違法行為と相
当因果関係のある弁護士費用の損害は,2000円が相当であると認め
る。
遅延損害金の起算日については,昭和60年10月に本件犯歴情報が
登録され,平成13年12月にこれが抹消されるまでの国の継続的な違
法行為による損害を最終の違法行為時点である平成13年12月の時点
において評価したものであるから,最終の違法行為の後である平成14
年1月1日とするのが相当である。
5結論
以上によれば,被告は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,
1万2000円の損害賠償とこれに対する平成14年1月1日から支払
済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があ
る。
原告の請求は,上記限度で理由があるから認容し,その余は理由がな
いから棄却する。なお,訴訟費用については,本件犯歴情報が登録され
てから抹消されるまでの経緯や本件訴訟の経過等に照らし,民事訴訟法
64条ただし書を適用して,全部被告の負担とする。仮執行宣言の申立
ては,相当でないから却下する。
大阪地方裁判所第13民事部
小林久起裁判長裁判官
加藤員祥裁判官
田之脇崇洋裁判官

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