弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
一 原判決主文第一項を次のとおり変更する。
 第一審判決を次のとおり変更する。
 1 上告人は、被上告人らに対し、各一八九〇万六二四五円及びこれに対する平
成九年五月一二日から各支払済み まで年五分の割合による金員を支払え。
 2 被上告人らのその余の請求をいずれも棄却する。
 二 訴訟の総費用は、これを三分し、その二を上告人の、その余を被上告人らの
負担とする。
         理    由
 上告代理人中田祐児、同島尾大次の上告受理申立て理由について
 一 本件は、交通事故により死亡した被害者の相続人である被上告人らが、被害
者は恩給法の一部を改正する法律(昭和二八年法律第一五五号)附則一〇条に基づ
くいわゆる軍人恩給としての扶助料(以下「扶助料」という。)及び戦没者等の妻
に対する特別給付金支給法(以下「支給法」という。)に基づく特別給付金(以下
「特別給付金」という。)を受給していたから、被害者が生存していればその平均
余命期間に受給することができた右扶助料等が被害者の逸失利益に当たるとして、
自動車損害賠償保障法三条に基づき、上告人に対して、右逸失利益及びその他の損
害につき賠償を求める事件である。
 二 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人は、平成九年五月一二日、自動二輪車を運転中、バランスを崩して転
倒し、同車を滑走させてF(以下「亡F」という。)にこれを衝突させた。亡Fは、
跳ね飛ばされて道路脇の用水路に転落し、同日、右肺損傷、右血気胸により死亡し
た。
 2 亡Fは大正九年九月一〇日生まれであり(本件事故時七六歳)、同人の夫G
は第二次大戦に出征して戦死した。被上告人らは、亡Fの子で同人の相続人である。
 3 亡Fは、本件事故当時、Gの遺族として扶助料(公務扶助料)年額一九〇万
八八〇〇円の支給を受けていた。
 4 また、亡Fは、特別給付金として、平成五年一一月一日発行に係る額面一八
〇万円の国債(平成一五年一〇月三一日までに、額面金額を均等償還二〇回払の方
法で、九万円ずつ毎年四月三〇日及び一〇月三一日に償還されるもの)の交付を受
けた。
 5 本件事故によって、亡Fに生じた損害は、扶助料と特別給付金に係るものを
除き、(一)家事労働分の逸失利益として九五〇万七五一八円、(二)得べかりし
通算老齢年金として二七〇万四九七三円、(三)慰謝料として二〇〇〇万円、(四)
葬儀関係費用として一二〇万円の合計三三四一万二四九一円である。
 6 被上告人らは、弁護士費用相当額として各二二〇万円の損害を被った。
 三 原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断して、亡Fが平均余命期
間中に受給することのできた扶助料及び特別給付金は同人の逸失利益に当たるとし
て、その現在額として扶助料については一一四三万三三五八円、特別給付金につい
ては三〇万七三〇〇円を同人の損害額とした。
 1 亡Fは、本件事故当時七六歳であり、本件事故により、平均余命期間中に受
給することができた扶助料を失った。
 2 亡Fは、死亡しなければ、特別給付金として平成一六年一一月一日に交付さ
れるはずの国債(額面一八〇万円)の交付を受けることができた。右国債の交付を
受けた場合には、平均余命の満了時である平成二一年まで、一年間に一八万円ずつ
合計九〇万円の償還を受けることができたはずであり、本件事故によりこれを受け
ることができなくなった。
 四 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のと
おりである。
 1 恩給法の一部を改正する法律(昭和二八年法律第一五五号)附則一〇条に基
づく扶助料は、旧軍人又は旧準軍人が死亡した場合に、その遺族のうち一定の者に
支給されるものであるところ、成人の子については重度障害の状態にあって生活資
料を得る途がないことが必要とされていること、受給権者の婚姻、養子縁組といっ
た一般的に生活状況の変更を生ずることが予想される事由の発生により受給権が消
滅するとされていることなどからすると、専ら受給権者自身の生計の維持を目的と
した給付という性格を有するものと解される。また、扶助料は、全額国庫負担であ
り、社会保障的性格の強い給付ということができる。加えて、扶助料は、受給権者
の婚姻、養子縁組など本人の意思により決定し得る事由により受給権が消滅すると
されていて、その存続が必ずしも確実なものということもできない。これらの点に
かんがみると、扶助料は、受給権者自身の生存中その生活を安定させる必要を考慮
して支給するものであるから、【要旨】他人の不法行為により死亡した者が生存し
ていたならば将来受給し得たであろう扶助料は、右不法行為による損害としての逸
失利益には当たらないと解するのが相当である。これと異なり、扶助料を逸失利益
と認めた原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。
 2 特別給付金は、公務上の傷病又は勤務関連傷病により死亡した軍人軍属等の
妻であって、公務扶助料等の遺族給付を受ける権利を有する者に対し、昭和三八年
に二〇万円、昭和四八年に六〇万円、昭和五八年に一二〇万円、平成五年に一八〇
万円の特別給付金が、それぞれ一〇年以内に償還すべき国債を交付する方法によっ
て支給されたものである(支給法二条以下)。しかし、それ以降の特別給付金の支
給について支給法は何らの規定も置いていないのであって、戦没者等の妻に対する
援護措置の改善を図るために改めて新たに特別給付金を支給する旨の法改正が行わ
れない限り、平成五年に特別給付金の支給を受けた者であっても、当然に新たな特
別給付金の支給を受ける権利を有するものではない。これと異なり、亡Fが平成一
六年一一月に特別給付金の支給を受ける権利を有することを前提に逸失利益を肯定
した原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。
 3 以上説示したところによれば、本件事故により生じた亡Fの損害は、原審が
二5で認定した合計三三四一万二四九一円であり、被上告人らは、右同額の損害賠
償請求権を法定相続分二分の一の割合に従って取得したものである(各一六七〇万
六二四五円。円未満切捨て。)。被上告人らの請求は、これに原審が二6で認定し
た弁護士費用各二二〇万円を加算した各一八九〇万六二四五円及びこれに対する不
法行為の日である平成九年五月一二日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合
による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失
当として棄却すべきものである。したがって、前記原審の判断の各違法は原判決に
影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、
原判決は破棄を免れず、第一審判決は、右説示に従い変更されるべきであるから、
原判決主文第一項を本判決主文第一項のとおり変更することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷
利廣)

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