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平成30年1月31日判決言渡
平成29年(ネ)第10043号特許権侵害差止等請求承継参加申立控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成28年(ワ)第37954号)
口頭弁論終結日平成29年11月14日
判決
控訴人(一審原告)ロヴィガイズ
インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士根本浩
中野亮介
同補佐人弁理士佐藤睦
伊藤健太郎
被控訴人東芝映像ソリューション株式会社
同訴訟代理人弁護士鮫島正洋
和田祐造
高橋正憲
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事実及び理由
用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決に従う。原判
決中の「別紙」を「原判決別紙」と読み替える。
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,被告物件を製造し,輸入し,販売し,又は販売の申出をしては
ならない。
3被控訴人は,被告物件を廃棄せよ。
4被控訴人は,控訴人に対し,6億5880万円及びこれに対する平成26年
4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の経緯等
(1)本件は,発明の名称を「デジタル格納部を備えた電子番組ガイド」とする
本件特許権を有する控訴人が,一審脱退被告の地位を承継した被控訴人に対し,被
告物件を販売等する行為が本件特許権を侵害する旨主張して,特許法100条1項
及び2項に基づき,被告物件の製造等の差止め及び廃棄を求めるとともに,不法行
為による損害賠償請求として,同法102条3項に基づいて計算した損害賠償金6
億5880万円及びこれに対する上記不法行為(特許権侵害)の開始日である平成
26年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める事案である。
(2)原審は,被告物件は構成要件C及びDを充足しないと判断して,控訴人の
請求をいずれも棄却した。
(3)控訴人は,原判決を不服として控訴した。
2前提事実
本件の前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠により認められる事実)
は,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1に記載のとおりである。
3争点
本件の争点は,原判決「事実及び理由」欄の第2の2に記載のとおりである。
4争点に関する当事者の主張
本件の争点に関する当事者の主張は,下記(1)のとおり原判決を補正し,下記(2)
及び(3)のとおり当審における控訴人の補充主張とそれに対する被控訴人の主張を加
えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2の3に記載のとおりである。
(1)原判決の補正
ア原判決7頁4行目に「本件特許に係る明細書(以下,単に『明細書』と
いう。)」とあるのを「本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下,『本件明細
書』という。)」と改める。
イ原判決8頁6行目,8頁7行目,9頁7行目,10頁16行目,16頁
6行目,27頁25行目,28頁9行目,29頁3行目,31頁14行目,35頁
7行目,35頁14行目,35頁18行目,36頁1行目,36頁2行目~3行目,
36頁8行目に「明細書」とあるのをそれぞれ「本件明細書」と改める。
ウ原判決26頁16行目に「出願当初の明細書」とあるのを「本件特許の
願書に最初に添付した明細書及び図面」と改める。
エ原判決34頁2行目,34頁9行目,34頁25行目に「明細書」とあ
るのをそれぞれ「当初明細書」と改める。
オ原判決30頁9行目に「出願時の常識」とあるのを「出願時の技術常識」
と改める。
(2)当審における控訴人の補充主張
ア構成要件Cの充足性について
(ア)構成要件Cは,以下のとおり,「双方向テレビ番組ガイド」を用いて,
「デジタル格納デバイス」に複数の番組をデジタル的に格納する「手段」を備えて
いれば,充足することになるのであって,「デジタル格納デバイス」自体を必須の構
成要素として規定するものではない。
そして,被告物件は,録画先としては,外付けのUSBハードディスクやレグザ
リンク対応の東芝レコーダーを被告物件に接続することによって番組を上記ハード
ディスク等に録画することが可能であるから,「該ユーザテレビ機器(22)に含ま
れる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段」
を備えていることは明らかである。
a構成要件Cは,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる「該デジタ
ル格納デバイス(31)に番組をデジタル的に格納(録画)する手段」を規定して
いるのであって,「デジタル格納デバイス」そのものを構成として規定しているわけ
ではない。これは,あえて「デジタル格納デバイス・・・に格納する手段」として,
「デジタル格納デバイス」とは別の構成として「格納する手段」を規定している点
からも明らかである。
b原判決は,構成要件Lが「を備えた,システム」と規定しているこ
とにも殊更に言及しているが,本件発明がシステムの発明であることは,デジタル
格納部を必須の構成とすることを何ら根拠付けるものではない。
構成要件Aが規定するとおり,本件発明は,「ユーザテレビ機器上で動作する双方
向テレビ番組ガイドシステム」に関する発明であり,「ユーザテレビ機器」を構成要
件として含むものではない。また,「ユーザテレビ機器上で動作する」という文言か
らも明らかなように,本件発明の「双方向テレビ番組ガイドシステム」とは,ユー
ザテレビ機器というハードウェア上で動作し,一定の機能を実現するソフトウェア
を含む概念であると解される。
したがって,構成要件Cの「該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組を
デジタル的に格納する手段」という記載も,本件発明がシステムに関する発明であ
ることを理由に,「デジタル格納デバイス」自体を構成として規定していると解する
必然性はない。
c原判決がその解釈の根拠として挙げる本件明細書の記載(【0001】,
【0004】~【0006】,【図1】)も,何ら「デジタル格納デバイス」自体を構
成として含むことを説明又は示唆するものではない。
例えば,原判決は,「本発明の目的は,デジタル格納部を備えた双方向テレビ番組
ガイドを提供することである。」(【0005】)との記載を指摘するが,本件発明を,
デジタル格納部を含むユーザテレビ機器上で動作する双方向テレビ番組ガイドシス
テムの発明として把握しても(デジタル格納部をハードとして含むことは要件とし
ない),本件発明が上記目的を達成するためのものであることと何ら矛盾しない。
また,原判決は,本件発明による例示的システムを示す【図1】が,「ユーザテレ
ビ機器(22)」等を含んでいることを指摘するが,「ユーザテレビ機器上」で動作
する双方向テレビ番組ガイドシステムを示す図に,「ユーザテレビ機器」等のハード
ウェアの記載があるのは当然であり,この記載を根拠として,「ユーザテレビ機器」
に含まれる「デジタル格納デバイス」自体が構成として含まれていなければならな
いとはいえない。
d本件明細書の【図2】及び【0016】によると,「デジタル格納デ
バイス31は,セットトップボックス28内に内蔵されるか,または出力ポートお
よび適切なインターフェースを介してセットトップボックス28に接続された外部
デバイスであり得る。」と説明されており,本件発明には,「デジタル格納デバイス」
が「ユーザテレビ機器」に外部インターフェースを介して接続されるような構成も
当然に含むように説明されている。
また,本件明細書の【図3】及び【0080】には,デジタル格納デバイス49
がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッピーディスク又は録画可能な光ディスク)
である場合について説明されている。
このように,本件発明の「ユーザテレビ機器(22)」の構成には,「デジタル格
納デバイス」が「出力ポートおよび適切なインターフェースを介して」接続される
「外部デバイス」である構成や,「リムーバブル録画媒体(例えば,フロッピーディ
スクまたは録画可能な光ディスク)」であるような構成が含まれているのであるから,
本件発明のシステムは,「デジタル格納デバイス」を構成要件として含むものではな
い。
e本件明細書によると,本件発明の目的は,「双方向テレビ番組ガイド
システム」とデジタル格納部を備えたユーザテレビ機器により,従来の双方向番組
ガイドシステムにより提供されたものよりも高度な機能を提供することを可能とす
る「デジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイド」を提供することにある(【0
005】,【0006】)。
この「高度な機能」とは,具体的には,従来型のアナログ格納デバイス(典型的
にはビデオカセットレコーダ)が提供し得ない「デジタル格納デバイス内の・・・
録画済み番組と関連付けられた情報を格納する能力」により「番組情報への簡便な
アクセスを提供する」ものである(【0004】,【0009】)。
これによると,録画された番組と対応する番組データとが対応付けられて,デジ
タル的に格納されている点にこそ本件発明の本質的部分があるといえるのであって,
このような本質に鑑みても,デジタル格納デバイスをハードとして備えていること
が本件発明の要件であることは導かれない。
f被控訴人は,控訴人の解釈は,構成要件Cの「該ユーザテレビ機器
(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的
に格納する手段と,」の構成をハードウェアとソフトウェアの2種類を含む解釈を行
うものであり,権利の外縁が著しく不明確であって,明確性要件違反となるもので
あると主張するが,構成要件Cの番組を外付けハードディスクのようなデジタル格
納デバイスに保存・録画するための「手段」として機能する構成として,ハードウ
ェアのみならず,ソフトウェアも含まれ得ることは,当業者にとって技術常識に属
する事柄であり(乙6・図1~23,乙7・図1~14,乙20・図1~27,乙
21・図1~22,乙22・図1~22),これらを含む意味で「手段」という用語
を用いたとしても,権利の外縁が著しく不明確となるものではない。
(イ)仮に,構成要件Cにつき,デジタル格納デバイスを必須の構成として
規定したものと解釈した場合であっても,以下のとおり,被控訴人による被告物件
の製造,輸入,販売及び販売の申出は,本件発明に対する特許法101条2号所定
の間接侵害行為に該当する。
a被告物件は,録画用ハードディスクが接続されることにより,「デジ
タル格納部」を含む「ユーザテレビ機器」を備えた双方向テレビ番組ガイドシステ
ムを構成することになるから,本件発明の「生産に用いる物」である。
b被告物件と録画用ハードディスクとの接続により構成される「デジ
タル格納部」を含む「ユーザテレビ機器」を備えた双方向テレビ番組ガイドシステ
ムにより,従来の双方向番組ガイドシステムにより提供されたものよりも高度な機
能を提供することを可能とする「デジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイド」
を提供することが可能となり,本件発明の解決しようとする課題が解決されること
から,被告物件は,本件発明の「課題の解決に不可欠なもの」である。
被控訴人は,被告物件は,本件発明の従来技術に見られない特徴的手段である「格
納デバイスを内蔵するテレビ製品」ではないので,「課題の解決に不可欠なもの」に
該当しないと主張するが,本件発明の従来技術に見られない特徴的技術手段は,従
来技術では達成し得なかった高度な機能,すなわち,「該1つ以上のユーザフィール
ドにユーザ情報を入力する機会をユーザに提供する手段」(構成要件K)や番組ガイ
ドを用いて番組リスト項目情報画面において「ユーザフィールド」を表示する手段
(構成要件J)である。被控訴人指摘の本件明細書の記載(【0001】,【0004】
~【0006】)にも,そのテレビ製品にデジタル格納部を内蔵することが必須とは
されていないし,【0004】の「ビデオカセットレコーダ」が「独立型」とされて
いるのも,操作経路が赤外線送受信機のような独立したものであることの指摘であ
り,本件発明において,双方向テレビ番組ガイドシステムが,デジタル格納部を内
蔵することを前提するような記載ではない。
仮に,被控訴人主張のように,本件発明の従来技術には見られない特徴的技術手
段を「格納デバイス内蔵型の双方向テレビ番組ガイドシステム」としたとしても,
そのような構成は,被告物件に録画用ハードディスクを接続することにより直接も
たらされるものであり,被告物件がその構成を特徴付けている特有の構成であるか
ら,やはり,被告物件は,本件発明の「課題の解決に不可欠なもの」である。
c被告物件は,特定の課題解決のために設計,製造された機器である
ことから,「日本国内において広く一般に流通しているもの」には該当しない。
d被控訴人の親会社である株式会社東芝と控訴人の間においては,本
件特許権を含む控訴人の有する特許ポートフォリオに関するライセンス契約を締結
し,平成26年3月31日に契約期間が満了するまで,上記ライセンス契約を維持
してきたから,被控訴人は,上記ライセンス契約の期間満了後も,本件発明が「特
許発明であること」及び被告物件が本件発明の「実施に用いられることを知」って
いる。
eなお,この間接侵害の主張は,その主張の根拠とする新たな証拠を
提出するものではなく,既に提出済みの証拠に基づき判断可能なものであることか
ら,この攻撃防御方法の提出は「訴訟の完結を遅延させる」もの(民訴法157条
1項)ではない。
イ構成要件Dの充足性について
(ア)原判決が禁反言の原則を適用する根拠とした本件特許の出願人(ユナ
イテッド社)が特許庁に提出した平成21年8月19日受付の回答書(以下,「本件
回答書」という。乙14)における説明(以下,「本件説明」という。)は,本件発
明に進歩性があることを説明するために,引用文献3(乙20)に記載された発明
(乙20発明)と本件発明の特徴との違いについて説明したものである。
そして,乙20発明は,テレビ番組の録画予約を容易に行うために,新聞のテレ
ビ欄やテレビ雑誌等に代わり,予め番組情報を記録媒体に記録させておき,番組の
予約の際に,当該記録媒体中の番組情報を表示させ,表示された番組情報に基づい
て番組録画の予約を設定する点に特徴がある(乙20・【請求項3】,【0011】,
【0012】,【0168】等)。このように,乙20発明における番組情報は,本件
発明の番組データのように,適宜格納されることは想定されておらず,録画は,こ
れに先立って既に媒体に格納済みの番組情報を読み出し,これを利用して行われる。
これに対し,本件発明の番組データには,番組の予約のための情報のように番組
の格納前に格納される情報に限らず,格納された番組に対応する情報も含まれ,格
納された番組に対応する番組データの格納は,番組を格納したことに応答して行わ
れる。本件発明では,番組の格納が始まってからその格納が終了した後までの間に
おいて,対応する番組データが格納される場合も含まれるものであり,そのような
発明の特徴を達成する前提として,番組の格納は,番組データの格納の前に行われ
ることになる。
このように,本件回答書の内容,引用文献3(乙20)の記載内容,本件発明の
内容(甲3)を踏まえると,本件説明は,本件発明の構成が,番組データの格納が
終了した後でなければ,番組の格納が開始しないような構成とは異なることを主張
したにすぎず,それ以外の構成を本件発明の内容から排除するような説明は行って
いないのであって,本件発明における番組の格納と番組データの先後関係が,番組
の録画完了後に別途番組データが格納される場合に限定されることを説明したもの
ではない。
したがって,本件特許の出願人の地位を承継した控訴人が,構成要件Dの「該複
数の番組をデジタル的に格納したことに応答して,・・・番組データを・・・格納す
る」との記載につき,番組データが番組の録画と同時に格納されることも意味して
おり,番組の録画完了後に別途番組データが格納されることのみを意味するもので
はないと主張することは,本件説明と何ら矛盾するものではないから,禁反言の原
則に反しない。
(イ)構成要件Dの「該複数の番組をデジタル的に格納したことに応答し
て・・・該デジタル格納デバイス(31)に複数の番組データをデジタル的に格納
する」とは,本件明細書(甲3)の記載を参酌すると,番組の格納に対応して,複
数の番組データが格納されていれば,番組データが番組の録画と同時に又は一部が
並行して格納されるような場合も含むものと解されるのであって,特段,番組の録
画完了後に別途番組データが格納されることのみを意味するものではない。
そして,被告物件においては,個々の番組を受信した際に個々の番組データも受
信されているのであるから,その番組の受信に応答してその番組データもデジタル
的に格納されているといえ,被告物件は,構成要件Dの「該複数の番組をデジタル
的に格納したことに応答して,・・・格納する」を充足する。
被控訴人は,上記解釈は本件明細書に根拠がないと主張するが,【0096】及び
【図17】には,番組の録画前に,録画予定画面により録画予定の番組のデータを
見ることが可能であることが記載されており,この記載は,番組の録画前に番組デ
ータが格納され得ることを示している。また,【0097】,【0098】及び【図1
7】には,番組データが番組の録画と同時に又は一部が並行して格納され得ること
が記載されており,この記載は,番組の録画中に番組データが格納され得ることを
示している。
以上に加え,本件発明は,従来の独立型のアナログ格納デバイス(典型的にはビ
デオカセットレコーダ)が提供し得ない「デジタル格納デバイス内の・・・録画済
み番組と関連付けられた情報を格納する能力」により「番組情報への簡便なアクセ
スを提供する」ものであることから(【0004】,【0009】),録画された番組と
対応する番組データとが,対応付けられてデジタル的に格納されていることにこそ
意味があるのであって,このような本件発明の目的やその解決手段との関係では,
番組の録画とその番組の番組データのデジタル的な格納の時期を厳密に限定するこ
とに何ら意義はない。したがって,上記解釈によると,本件発明の「応答」に関す
る技術的意義が不明になるというものではない。
(ウ)仮に,構成要件Dの「該複数の番組をデジタル的に格納したことに応
答して・・・該デジタル格納デバイス(31)に複数の番組データをデジタル的に
格納する」との記載が,「番組データが格納される前に番組が格納される」ことを規
定したものであると解釈した場合であっても,以下のとおり,被告物件においては,
「番組データが格納される前に番組が格納(録画)される」という先後関係がある
から,構成要件Dを充足する。
すなわち,被告物件においては,録画リストの番組一覧の表において,番組の録
画完了後に,番組の録画時間及び未再生の番組であることを示す「NEW」のアイ
コンが表示される(甲26~29)。番組の「継続時間」や,番組の「視聴の有無」
を示す情報は,本件発明の「番組データ」に該当する(甲3・【請求項24】,【00
47】,【0034】,【0040】,【図6】,【図7b】)から,被告物件においては,
「継続時間」及び「視聴の有無」といった番組データは,その格納完了前に番組の
格納(録画)が完了されるとの先後関係がある。
被控訴人は,「NEW」アイコンは,テレビ本体において,録画リスト生成に際し
て,未再生か否かを判断して表示され,番組が格納される外付けUSBハードディ
スクに格納されないので,構成要件Dの「該デジタル格納デバイス(31)に・・・
番組データを・・・格納する」を充足しないと主張するが,「NEW」アイコンの表
示がされる録画リストは,被告物件に外付けのUSBハードディスクを接続した状
態でのみ表示され,被告物件には外付けのUSBハードディスク以外に,番組の格
納を可能とするデバイスは存在しないから,「NEW」アイコンを付与するか否かの
前提となっている,録画された番組の「視聴の有無」に関する情報は,被告物件に
接続された外付けのUSBハードディスクに保存されていると考えるのが合理的で
ある。また,構成要件Dにおいては,番組データの格納先のみが関係し,視聴の有
無の判断を行うデバイスは何ら関係しない。
被控訴人は,被告物件では,「NEW」アイコンは,テレビ本体において,録画リ
スト生成に際して,未再生か否かを判断して表示されるものであり,番組の録画完
了に「応答して」格納されるものではないから,構成要件Dの「番組をデジタル的
に格納したことに応答して,・・・番組データを・・・格納する」を充足しないと主
張するが,被告物件では,番組の録画中は,録画中を示すアイコンが録画リスト画
面中に示され,「NEW」アイコンは,番組の録画完了後にのみ表示されることから
すると(甲26,27),「NEW」アイコンの付与にかかる番組の「視聴の有無」
にかかる番組データは,番組録画完了後に格納されていることは明らかである。
被控訴人は,被告物件では,「NEW」アイコンは,ユーザによる何らの操作も必
要とせずに,未再生の番組に自動的に付与されるから,「NEW」アイコンの格納は,
構成要件Dの「双方向テレビ番組ガイドを用いて,・・・番組データを・・・格納す
る」を充足しないと主張するが,「NEW」アイコンの付与は,電子番組表等を用い
て録画された番組「視聴の有無」に関する情報である番組データの格納に基づきさ
れるものであることから,「双方向テレビ番組ガイド」を用いたものである。
被控訴人は,被告物件では,「NEW」アイコンは,テレビ本体において,録画リ
スト生成に際して,その表示対象部分が未再生か否かを判断し,「NEW」アイコン
の表示を行うもので,その表示は番組との結びつきは一切なく,複数の「NEW」
アイコンがあった場合,これが複数の番組の一つに関連付けられているものではな
いから,構成要件Dの「該複数の番組データのそれぞれは,該複数の番組のうちの
1つに関連付けられている」を充足しないと主張するが,本件発明は,録画された
番組と対応する番組データとが,対応付けられて格納されていることに意味がある
ことを踏まえると,上記文言は,(ハードディスクといったデジタル格納デバイスに
保存された)複数の番組データのそれぞれが,対応する各録画番組に紐付けられて
いるとの内容で理解すべきである。そして,「NEW」アイコンにかかる録画番組の
視聴の有無の番組データは,付与の対象となる録画された番組にそれぞれ関連付け
られている。
被控訴人は,被告物件において,番組データは「個々の番組」の「録画完了前」
に「番組データの受信」に応答して格納されるのであって,「複数の番組」の「格納」
に応答していないから,構成要件Dの「該複数の番組をデジタル的に格納したこと
に応答して・・・複数の番組データを・・・格納する」を充足しないと主張するが,
上記文言は,構成要件Bの録画予約された番組が録画されることに「応答して」番
組データが格納されることを記載しているが,録画予約された「複数の番組」がす
べて録画されない限り,それぞれの番組データが格納されないことを意味するもの
ではない(甲3・【図15】の工程400,【図16】の工程426,【図17】の工
程462,【図19】の工程406,【図21】の工程552,【図22】の工程53
2,【0092】,【0094】,【0097】,【0101】,【0104】,【0105】
等)。
(3)被控訴人の主張
ア構成要件Cの充足性に対し
(ア)a特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲に基づい
て定めなければならないところ(特許法70条1項),構成要件C及びLには,「該
ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納デバイス(31)に該複数の
番組をデジタル的に格納する手段と,」「を備えた,システム。」と記載されている。
「含まれる」との文言は,事後的に包含関係となることを含まないから(乙23),
「ユーザテレビ機器(22)」とは,当初からその内部にデジタル格納デバイスを構
成要素の一部分として備えているものをいう。そうすると,ユーザテレビ機器の中
にデジタル格納デバイスに番組を格納する手段を備えていなければならず,本件発
明に係る「システム」がこれを備えると自然に解釈できる。
原判決引用の本件明細書の記載を参酌しても(特許法70条2項),上記解釈と整
合的に解釈できる。
b控訴人は,「ユーザテレビ機器上で動作する」という文言からも明ら
かなように,本件発明の「双方向テレビ番組ガイドシステム」は,ユーザテレビ機
器というハードウェア上で動作し,一定の機能を実現するソフトウェアを含む概念
であるとして,本件発明に係る「システム」が,「デジタル格納デバイス」をハード
として備える必要がないなどと主張する。
しかし,控訴人の解釈は,構成要件Cの「該ユーザテレビ機器(22)に含まれ
る該デジタル格納デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,」
との構成にハードウェアとソフトウェアの2種類の態様を含む解釈を行うものであ
り,ハードウェアの場合には,物として存在する記録媒体を示し,ソフトウェアの
場合には,機能的な指示を与えるCPU等を示すものとなり,権利の外縁が著しく
不明確になるから,明確性要件違反となるものである。
(イ)a控訴人は,被控訴人による被告物件の製造,輸入,販売及び販売の
申出は,本件発明に対する特許法101条2号所定の間接侵害行為に該当すると主
張するが,被控訴人は,原審答弁書において,被告物件が外付け用録画用USBハ
ードディスクを備えないから構成要件Cは非充足である旨主張し,この争点は,原
審の当初から両者の間で継続的に議論を繰り返し,審理が十分に尽くされたもので
ある。このように,控訴人は,原審の当初から間接侵害の主張をする機会があった
にもかかわらず,あえてしなかったのであるから,控訴審段階における間接侵害の
主張は,「故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」に
該当し,これを審理することで「訴訟の完結を遅延させることとなる」から,却下
されるべきである(民訴法157条1項)。
b本件明細書(甲3)の記載(【0001】,【0004】~【0006】)
によると,本件発明は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納部を備え
ることを目的としているものと認められる。そうすると,本件発明は,従来技術の
独立型の格納デバイスの問題点を解決する方法として,従来技術に見られない特徴
的手段として,格納デバイス内蔵型の双方向テレビ番組ガイドシステムを提供する
ものというべきである。
被告物件は,本件発明の従来技術に見られない特徴的手段である「格納デバイス
を内蔵するテレビ製品」ではないので,「課題の解決に不可欠なもの」に該当しない。
イ構成要件Dの充足性に対し
(ア)本件説明の記載は,補正により追加された「番組を・・・格納したこ
とに応答して・・・番組データを・・・格納する」との構成が,番組の格納が完了
したことに応答して番組データを格納するものであって,この点が,引用文献3(乙
20)には,教示も示唆もされていないことを説明し,かつ,本件発明の特徴であ
ると主張したと読み取るのが自然である。
したがって,本件説明は,本件発明が乙20発明とは異なり,進歩性を有するこ
とを示すことを目的として,本件発明では,乙20発明とは異なり,「番組データが
格納される前に,番組が格納される」旨主張していたものであり,原判決の認定に
誤りはない。
(イ)控訴人は,本件発明では,番組に対応する番組データは,双方向テレ
ビ番組ガイドにより適宜格納されると主張しており,構成要件Dの「番組をデジタ
ル的に格納したことに応答して・・・番組データを・・・格納する」について,①
番組データの格納の後,番組が格納される場合,②番組と番組データの格納が同時
に行われる場合,③番組の格納の後に,番組データの格納が行われる場合のいずれ
をも含むと解釈するようである。
しかし,「した」との用語が「する」という動詞の連用形に「た」を付加した用語
であり,過ぎ去った動作の完了を意味するものであることからすると(乙13),構
成要件Dの「格納した」とは,「格納を完了した」ことを意味するものであり,③の
みならず①②を含むものと解釈することはできない。
また,上記解釈は,本件明細書に根拠がない。
さらに,構成要件Dの「応答」とは,何らかの入力がされたことに応じて出力が
されるものであり(乙10),「番組をデジタル的に格納したこと」が入力であり,
「番組データを・・・格納する」ことが出力であるが,①は,「番組をデジタル的に
格納したこと」という入力がされていないにもかかわらず,番組データの格納がさ
れてしまうから,上記解釈のように①を含むとすると,現実的にあり得ない状況が
規定されていることになり,発明を全く理解することができない。また,②も,録
画は格納開始から格納完了までに所定の時間を要することから,番組のいかなる時
点における格納という入力に応答して,番組データを格納するのかが理解できず,
入出力関係が不明となるから,発明を全く理解することができない。
このように,控訴人の上記解釈は,その根拠が本件明細書に記載がないので,サ
ポート要件違反及び新規事項追加となり,「応答」の技術的意義が理解できないので,
明確性要件違反となってしまうから,採り得ない。
(ウ)控訴人は,被告物件においては,番組の録画完了後に,番組の録画時
間及び未再生の番組であることを示す「NEW」のアイコンが表示されるから,「継
続時間」及び「視聴の有無」といった番組データは,その格納完了前に番組の格納
(録画)が完了されるとの先後関係があると主張するが,以下のとおり,理由がな
い。
a本件明細書(甲3)の記載(【0012】)によると,番組データは,
テレビ番組リスト項目とは明確に区別されて定義されるから,テレビ番組リスト項
目に属する「継続時間」や「視聴の有無」は,番組データに含まれない。
b仮に「視聴の有無」が「番組データ」に該当するとしても,被告物
件では,「NEW」アイコンは,テレビ本体において,録画リスト生成に際して,未
再生か否かを判断して表示され,番組が格納される外付けのUSBハードディスク
に格納されないので,構成要件Dの「該デジタル格納デバイス(31)に・・・番
組データを・・・格納する」を充足しない。
c被告物件では,「NEW」アイコンは,テレビ本体において,録画リ
スト生成に際して,未再生か否かを判断して表示されるものであり,番組の録画完
了に「応答して」格納されるものではないから,構成要件Dの「番組をデジタル的
に格納したことに応答して,・・・番組データを・・・格納する」を充足しない。
d構成要件Dの「双方向テレビ番組ガイド」とは,放送されるテレビ
番組を,電子番組表の画面のユーザ操作による双方向の処理で案内し,これにより
その番組の視聴を可能とするものである。
しかし,被告物件では,「NEW」アイコンは,ユーザによる何らの操作も必要と
せずに,未再生の番組に自動的に付与されるから(甲28,29),「NEW」アイ
コンの格納においては,その際に何ら「電子番組表」や「放送されるテレビ番組を,
電子番組表の画面のユーザ操作による双方向の処理で双方向の処理で案内し,これ
によりその番組の視聴を可能とする」機能を使用することはない。
したがって,「NEW」アイコンの格納は,構成要件Dの「双方向テレビ番組ガイ
ドを用いて,・・・番組データを・・・格納する」を充足しない。
e構成要件Dは,その「該複数の番組」がA,B,Cであり,各々に
対応する「NEW」アイコンがa,b,cであったとすると,a,b,cの全てが
A,B,Cのいずれか一つに関連付いていなければならない。
しかし,被告物件では,「NEW」アイコンは,テレビ本体において,録画リスト
生成に際して,その表示対象部分が未再生か否かを判断し,「NEW」アイコンの表
示を行うもので,その表示は番組との結び付きは一切なく,複数の「NEW」アイ
コンがあった場合,これが複数の番組の一つに関連付けられているものではないか
ら,構成要件Dの「該複数の番組データのそれぞれは,該複数の番組のうちの1つ
に関連付けられている」を充足しない。
f番組データは「個々の番組」の「録画完了前」に「番組データの受
信」に応答して格納されるのであって,「複数の番組」の「格納」に応答していない
から,構成要件Dの「該複数の番組をデジタル的に格納したことに応答して・・・
複数の番組データを・・・格納する」を充足しない。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,被告物件は構成要件Cを充足しないし,被控訴人による被告物件の
製造,輸入,販売及び販売の申出は特許法101条2号所定の間接侵害にも当たら
ないから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の請求を棄却した原判決の結
論は相当であり,本件控訴は棄却すべきものと判断する。
その理由は,下記1のとおり原判決を補正し,下記2のとおり当審における控訴
人の補充主張に対する判断を示すほかは,原判決「事実及び理由」欄の第3に記載
のとおりである。
1原判決の補正
(1)原判決38頁19行目,39頁13行目,40頁14行目~15行目,4
0頁18行目に「明細書」とあるのをそれぞれ「本件明細書」と改める。
(2)原判決「事実及び理由」欄の第3の1(2)(40頁20行~42頁20行)
を削除する。
(3)原判決「事実及び理由」欄の第3の1(3)(42頁21行~23行)を,次
のとおり改める
「(2)小括
以上のとおり,被告物件は,本件発明の構成要件Cを充足しない。」
2当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1)控訴人は,構成要件Cは,「双方向テレビ番組ガイド」を用いて,「デジタ
ル格納デバイス」に複数の番組をデジタル的に格納する「手段」を備えていれば,
充足することになるものであって,「デジタル格納デバイス」自体を必須の構成要素
として規定するものではないと主張するが,本件発明は,デジタル格納部を含むユ
ーザテレビ機器を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに係る発明であるから,
被告物件(液晶テレビ製品)が本件発明の技術的範囲に属するというためには,被
告物件が「番組をデジタル的に格納可能な部分」を含むことが必要であることは,
前記1のとおり補正して引用する原判決が認定説示するとおりである。
すなわち,本件発明に係る特許請求の範囲は,「ユーザテレビ機器(22)上で動
作する双方向テレビ番組ガイドシステムであって」(構成要件A),・・・「双方向テ
レビ番組ガイドを用いて,該ユーザテレビ機器(22)に含まれる該デジタル格納
デバイス(31)に該複数の番組をデジタル的に格納する手段と,」(構成要件C)・・・
「を備えた,システム」(構成要件L)と記載されているから,本件発明の双方向テ
レビ番組ガイドシステムは,ユーザテレビ機器に含まれるデジタル格納デバイスに
番組をデジタル的に格納(録画)する手段という構成を含むものである。
そして,本件明細書には,「本発明は・・・番組および番組に関連する情報用のデ
ジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドシステムに関する。」(【0001】)
として,双方向テレビ番組ガイドシステムが「デジタル格納部を備えた」ものであ
る旨が記載されている。また,従来技術として,「番組ガイド内で選択された番組を
独立型の格納デバイス(典型的にはビデオカセットレコーダ)に格納することを可
能にする双方向番組ガイド」(【0004】)が指摘され,その操作に関し,「ビデオ
カセットレコーダの操作には通常は,ビデオカセットレコーダ内の赤外線受信器に
結合される赤外線送信器を含む操作経路が用いられる。」(【0004】)と記載され
ており,「独立型の格納デバイス」を用いる従来技術について記載されている。その
上で,従来技術の課題として「独立型のアナログ格納デバイスを用いると,デジタ
ル格納デバイスが番組ガイドと関連付けられる場合に実施され得るようなより高度
な機能が不可能になる。」(【0004】)と記載され,これを受けて,本発明の目的
を「デジタル格納部を備えた双方向テレビ番組ガイドを提供すること」(【0005】)
と記載している。以上に加え,「番組ガイドと関連付けられたデジタル格納デバイス
の使用は,独立型のアナログ格納デバイスを用いて行われ得る機能よりも,より高
度な機能をユーザに提供する。」(【0009】)という記載を併せ考慮すると,本件
発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能であった高度な機能をユーザに
提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイスを備え
ることを目的としたものと認められる。
以上によると,被告物件が構成要件Cを充足するというためには,「番組をデジタ
ル的に格納可能な部分」を含むこと(内蔵すること)が必要というべきである。
これに対し,控訴人は,本件明細書の【図2】及び【0016】によると,本件
発明には,「デジタル格納デバイス」が「ユーザテレビ機器」に外部インターフェー
スを介して接続されるような構成も当然に含むように説明されていると主張するが,
控訴人指摘の「デジタル格納デバイス31は,セットトップボックス28内に内蔵
されるか,または出力ポートおよび適切なインターフェースを介してセットトップ
ボックス28に接続された外部デバイスであり得る。」(【0016】)との記載は,
「ユーザテレビ機器22の例示的構成を示す」【図2】からも明らかなとおり,「ユ
ーザテレビ機器」の一部を構成する「セットトップボックス」内に内蔵するか,「セ
ットトップボックス」に外付けするかを記載するにとどまり,「ユーザテレビ機器」
に外付けする構成を当然に含むものということはできない。かえって,「ユーザテレ
ビ機器22の例示的構成」において,「オプション」とされている「第2の格納デバ
イス32」(【0014】)については,「第2の格納デバイス32がユーザテレビ機
器22に内蔵されていない場合」(【0017】)との記載が認められるところ,「デ
ジタル格納デバイス」については,これと同旨の記載は見当たらない。
また,控訴人は,本件明細書の【図3】及び【0080】には,デジタル格納デ
バイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッピーディスク又は録画可能な
光ディスク)である場合が説明されていると主張するところ,控訴人指摘の【00
80】には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フロッ
ピーディスクまたは録画可能な光ディスク)である場合」との記載がある。しかし,
本件明細書には,「デジタル格納デバイス49がリムーバブル録画媒体(例えば,フ
ロッピーディスクまたは録画可能な光ディスク)を用いる場合」(【0085】)との
記載もあるほか,「デジタル格納デバイスは,光格納デバイスまたは磁気格納デバイ
ス(例えば,書き込み可能なデジタル映像ディスク,磁気ディスク,もしくはハー
ドドライブまたはランダムアクセスメモリ(RAM)等を用いたデバイス)であり
得る。」(【0008】),「第2の格納デバイス32は,任意の適切な種類のアナログ
またはデジタル番組格納デバイス(例えば,ビデオカセットレコーダ,DVDディ
スクに録画する能力を有するデジタル映像ディスク(DVD)プレーヤ等)であり
得る。」(【0014】),「デジタル格納デバイス31は,書き込み可能な光格納デバ
イス(例えば,記録可能なDVDディスクの処理が可能なDVDプレーヤ),磁気格
納デバイス(例えば,ディスクドライブまたはデジタルテープ),または他の任意の
デジタル格納デバイスであり得る。」(【0015】),「デジタル格納デバイス49に
おいて用いられるリムーバブル格納媒体」(【0082】),「例えばデジタル格納デバ
イス49がフロッピーディスクドライブであり,選択された番組を有するディスク
がドライブ内に無い場合」(【0084】),「デジタル格納デバイス49内のリムーバ
ブルデジタル格納媒体上に格納する」(【0104】)との記載もあり,これらの記載
によると,本件明細書においては,「デジタル格納デバイス」は,「リムーバブル格
納媒体」(フロッピーディスク,DVDディスク等)と区別されるものであり,「リ
ムーバブル格納媒体」を処理することが可能な機器(フロッピーディスクドライブ,
DVDプレーヤ等)を指すことが多いものと認められる。そうすると,控訴人指摘
の【0080】の上記記載から,直ちに本件発明にはデジタル格納デバイスがリム
ーバブル録画媒体である場合が含まれるということはできない。
(2)控訴人は,間接侵害を主張するところ,被告物件である液晶テレビ製品は,
単に放送を受信するだけで,いずれもそれ自体に録画できるメモリー部分(デジタ
ル格納部)を備えておらず,録画先としては,外付けのUSBハードディスクやレ
グザリンク対応の東芝レコーダーとされており,これらを被告物件に接続すること
によって初めて,被告物件で受信した番組を上記ハードディスク等に録画すること
が可能であるから,デジタル格納部を被告物件に内蔵させる余地はない。そうする
と,被告物件は,デジタル格納デバイスを含むユーザテレビ機器を備えた双方向テ
レビガイドシステムの「生産に用いる物」ということができない。
また,前記(1)のとおり,本件発明は,独立型のアナログ格納デバイスでは不可能
であった高度な機能をユーザに提供するために,双方向テレビ番組ガイドシステム
がデジタル格納デバイスを備えることを目的としたものであり,従来技術に見られ
ない特徴的技術手段は,双方向テレビ番組ガイドシステムがデジタル格納デバイス
を備えること,すなわち,これを内蔵することにあるというべきである。そうする
と,被告物件は,デジタル格納デバイスを内蔵するものではないから,本件発明に
よる「課題の解決に不可欠なもの」であるとはいえない。
したがって,被控訴人による被告物件の製造,輸入,販売及び販売の申出は特許
法101条2号所定の間接侵害に当たらない。
これに対する控訴人の主張が理由のないものであることは,既に説示したところ
から明らかである。
なお,被控訴人は,控訴人の間接侵害の主張が時機に後れた攻撃防御方法に当た
る旨を主張するが,控訴理由書において,既に提出済みの証拠に基づき判断可能な
主張をしたものであるから,訴訟の完結を遅延させるものとまではいえず,上記主
張を時機に後れた攻撃防御方法として却下することはしない。
第4結論
以上によると,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由
がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
森岡礼子
裁判官
古庄研

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