弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実および理由
第1 請求
 1 被告は別紙物件目録1,2記載の土地について別紙登記目録1記載の根抵当
権設定登記の抹消登記手続をせよ。
 2 被告は別紙物件目録3~5記載の土地について別紙登記目録2記載の根抵当
権設定登記の抹消登記手続をせよ。
第2 事案の概要
 本件は,土地の所有者である原告が,その土地の登記簿に記入された根抵当権設
定登記の根抵当権者である被告に対し,そのような根抵当権設定契約を締結したこ
とはないと主張して,所有権に基づく妨害排除請求権を行使してその設定登記の抹
消登記手続を求める事案である。
 1 争いのない事実
 (1) 土地所有
 原告は平成11年以前から別紙物件目録記載の土地を所有している(以下まとめ
て「本件土地」といい,個別に特定するときは「本件土地1」など同目録の番号で
特定する)。
 (2) 根抵当権設定登記
 本件土地1,2には別紙登記目録1記載の根抵当権設定登記が,本件土地3~5
には同登記目録2記載の根抵当権設定登記がされている(以下まとめて「本件登
記」といい,個別に特定するときは「本件登記1」など同目録の番号で特定す
る)。
 (3) 関係者
 原告の息子のAは,本件登記の根抵当権の債務者である2社のうち,B社の代表
取締役であり,C社の経営にも関与している。
 2 主な争点ー根抵当権設定契約締結の有無
 (1) 被告の主張
 原告は,被告との間で,本件土地1,2については平成11年12月21日に本
件登記1の登記内容どおりの根抵当権設定契約を締結し,本件土地3~5について
は平成12年8月2日に本件登記2の登記内容どおりの根抵当権設定契約を締結し
た。
 本件登記の登記手続はこれらの契約に基づいて行われた。
 (2) 原告の主張
 原告は,B社やC社が被告から借金をするについて,本件土地に根抵当権を設定
することを承諾したことは一度もない。B社やC社が被告から借金することすらだ
れからもきかされていなかった。
 借用証書(乙1の1,5の1,10の1,14の1),返済方法変更願(乙2,
3,6,7,11,12,15,16)の各連帯保証人欄,根抵当権設定契約証書
(乙23,24)の各根抵当権設定者欄には原告の実印が押捺されているが,Aも
しくはその妻のDが原告に無断で持ち出した印鑑が盗用されたのであり,原告名義
の署名もAかDが偽造した。 
第3 争点に対する判断
 1 契約証書と登記手続
 (1) 被告は,その主張する各根抵当権設定契約の成立根拠として,下記の契約証
書を証拠として提出する。いずれの契約証書にもその根抵当権設定者欄には原告名
義の署名押印がある。
 i 本件登記1に関する根抵当権設定契約(以下「本件契約1」という)について
被告宛ての平成11年12月21日付けの根抵当権設定契約証書(乙23)
 ii 本件登記2に関する根抵当権設定契約(以下「本件契約2」という)につい

被告宛ての平成12年8月2日付けの根抵当権設定契約証書(乙24)
 上記各契約証書の記載内容によれば,原告は被告のために,本件土地1,2につ
き本件登記1と同じ内容の,本件土地3~5につき本件登記2と同じ内容の根抵当
権を設定するものとされている。
 そして,証拠(甲1ないし5,乙23,24,27,32,証人E)によれば,
平成11年12月21日,乙23の契約証書を原因証書として本件登記1の登記申
請がされ,平成12年8月2日,乙24の契約証書を原因証書として本件登記2の
登記申請がされ,これに基づき本件登記1,2がされたことを認めることができ
る。
 
 (2) 原告は上記各契約証書の原告作成部分は偽造であると主張するので,その成
否が問題となる。
 もっとも,上記各契約証書の原告名下の印影が原告の実印によるものであること
は当事者間に争いがない。したがって,反証のないかぎり,これらの証書の原告作
成部分は真正に成立したと推定される。そこで,以下においては,この点について
の原告による反証が成功しているかどうかという観点から検討を進める。
 2 客観的事実
 (1) B社とC社(甲6,7,9)
 B社は,原告の息子のAが平成2年頃に買収した土木建設等を業とする株式会社
であり,Aが代表取締役としてその経営にあたってきた。
 Aは,平成7年頃,B社のグループ会社として,運送業を行う株式会社C社を立
ち上げ,知人のFが代表取締役となったが,Aもその経営に関与してきた。
 B社は,平成14年12月,2回目の手形不渡りを出して事実上倒産したが,C
社はB社以外からの受注により運送会社としての営業を継続している。
 (2) 本件土地(甲1ないし5,乙35,36,原告)
 本件土地は県道に面した一団の土地であり,原告の自宅のすぐ近くにある。
 本件土地1,2,5は,原告が平成8年3月11日に買った土地であり,本件土
地3,4は,原告が相続により取得した土地である。いずれの土地の地目もかつて
は畑であり,本件土地3~5はいまでも畑のままだが,本件土地1,2は,平成1
1年11月20日に原告が手続をして地目を雑種地に変更している。
 本件土地の不動産登記簿の乙区欄によると,別紙登記事項一覧表のとおり,担保
権の設定,抹消がされている。
 
 3 関係者の供述
 (1) 被告の職員の証言(乙32,証人E)
 被告の職員でB社,C社に対する貸付けを担当したというEは次のとおり証言す
る。
 ア Eは,平成11年,12年当時,被告甲府支店で審査係を担当しており,B
社,C社に対する貸付けに関して審査をしたことがある。そのときにEが通常の業
務の過程で作成した記録が残っている(乙25,26,33ないし36)。
 イ 上記の各記録によると,Eは,本件契約1に関しては,平成11年12月1
5日に電話で原告の担保提供意思を確認しており,本件契約2に関しては,平成1
2年7月17日にB社の事務所を訪問して原告に面会し,その担保提供意思を確認
している。
 ウ Eの現在の記憶も上記の各記録のとおりであり,原告と実際に面談したのも
まちがいない。
 (2) Aの証言(甲6,証人A)
 原告の息子のAは次のように証言する。
 ア B社はもともと借金体質だった。
 イ 被告から融資を受ける際,審査係のEと話をし,担保の提供を求められたた
め,原告に無断で本件土地に根抵当権を設定することにした。無断でしたのは,原
告は借金がきらいであり,頼んでも断られることがわかっていたからである。
 ウ A夫婦は原告夫婦と同居しており,各契約証書に押捺された原告の実印はA
が勝手に持ち出した。印鑑登録カードも勝手に持ち出し,原告の印鑑登録証明書を
入手した。本件契約1,2の各契約証書(乙23,24)については,Aがその持
ち出した実印を妻のDに渡し,Dが根抵当権設定者欄に原告名義の署名押印をし
た。
 エ このような経緯なので,原告は,被告のB社,C社に対する融資についてま
ったく知らないはずである。平成4年6月13日付けで被告に差し入れられた返済
方法変更願4通(乙3,7,12,16)の各連帯保証人欄にある原告名義の署名
は原告自身の署名によく似ているが,これはAが原告の署名に似せて偽造したので
ある。
 (3) Dの証言(甲9,証人D)
 Aの妻のDは,Aと同じく,本件契約1,2の各契約証書(乙23,24)の根
抵当権設定者欄に原告名義の署名をしたのは自分であると証言するほか,おおむね
Aと同様の証言をする。
 (4) 原告の供述(甲8,原告)
 原告は次のように供述する。
 ア 原告は,平成15年秋頃まで,B社が被告から融資を受けていたことすら知
らなかった。本件登記のことを知ったのは平成16年の春から6月頃にかけてであ
る。
 イ 原告は,AがB社を経営していたことは知っていたが,その経営状況はまっ
たく知らなかった。
 ウ AやDから,本件土地を含めた原告所有の不動産を,B社が金融機関から借
入れをするための担保として使わせてほしいと言われたことはない。本件契約1,
2に関する各契約証書(乙23,24)にある根抵当権設定者欄の原告名義の署名
は,いずれも原告の字ではない。
 エ 原告の実印や印鑑登録カードは自宅に置いていたが,その保管場所は気にし
ていなかった。
 オ 被告職員のEから保証意思や担保提供意思の確認をされたことはない。
 4 検討
 被告職員のEの証言は,その通常の業務の過程で本人が作成した記録に基づくも
のであるし,その証言内容にも,記録内容にも,不自然なところはないことからす
ると,その証言は十分信用に値すると判断することができる。
 これに対し,Aと原告の供述には次のとおりいくつもの不自然な点を指摘するこ
とができる。
 第1に,Aは最初から原告に無断で原告を保証人や物上保証人にして借金を重ね
たことになるが,B社が当初から経営困難というわけでもなかったのだから,保証
人や物上保証人になってほしければまず同居の父親で資産を有する原告に頼むのが
自然である。いきなり最初から偽造工作をしなければならない理由が理解できな
い。実際,原告は,昭和52年には本件土地3,4を担保にしてG農協から金を借
りたことがあり(別紙登記事項一覧表参照),借金や担保提供に無縁の人物とはい
えないのである。Aと原告の供述する偽造の経緯は不自然というほかない。
 第2に,被告との間の契約関係書類のうち,平成14年6月13日付け返済方法
変更願4通(乙3,7,12,16)の各連帯保証人欄にある原告名義の署名は,
原告が自分自身の署名であると認める署名(乙19ないし22にあるもの)ときわ
めてよく似ている。Aは,これらの署名は原告自身の署名に似せて偽造したのだと
いうけれども,Aの証言によりその自筆であると認められるA名義の署名(乙1の
1,2ないし4,5の1,6,10の1,11ないし13,14の1,15の各連
帯保証人欄にあるもの)をこれらの署名と比べてみると,その特徴には一見して顕
著な違いがある。いくら似せて書いたとしても,このように似せることができると
はとうてい思われないし,各書面の状態をみても,そのような偽造が行われた痕跡
はない。したがって
,上記平成14年6月13日付け返済方法変更願4通にある原告名義の署名は,原
告自身が書いたのだと認めざるをえない。この事実は,Aと原告の供述するところ
とは根本的に矛盾し,その信用性を強く疑わせる。
 第3に,本件土地の不動産登記簿の乙区欄の記載が別紙登記事項一覧表のとおり
であることはすでに述べたとおりであり,本件土地には,本件登記がされる前に,
甲府信用金庫を抵当権者ないし根抵当権者とする設定登記がされ,抹消されてい
る。一方,本件土地1,2,5は,原告が平成8年に買ったものであり,相続によ
って取得した本件土地3,4についても,昭和52年に原告を債務者とする根抵当
権が設定されている。本件土地1,2についての地目変更手続を原告自身がしたこ
ともすでに述べたとおりである。これらのことからすると,原告には不動産取引の
経験があり,登記済証や実印の重要性は十分知っていたと認められる。Aと原告
は,甲府信用金庫のための抵当権ないし根抵当権設定登記も被告のための根抵当権
設定登記もAが勝手にし
たというのであるが,このように不動産取引の経験がある原告が,自宅のすぐ近く
にありその一部については平成11年に自分で地目変更手続までしている本件土地
について,何回にもわたって担保提供されていることにまったく気づかなかったと
は想定しがたい。
 第4に,DはおおむねAの証言にそった証言をするものの,細かい点,具体的な
点になると,記憶がないなどと述べて証言を避けており,その証言内容はきわめて
あいまいである。DはAの妻であり,現在においてもA,原告と利益を同じくする
立場にある。したがって,もしAと原告の述べるところが真実であるならば,D
は,本来,それにそった内容をより具体的に証言できるはずである。それができな
いというのは,Aと原告の供述の信用性を大きく失わせるものといわなければなら
ない。
 以上の検討によると,Eの証言は信用できる一方,Aと原告の供述には信用性が
ないといわざるをえないから,結局,原告による反証は成功していない。したがっ
て,本件契約1,2に関する契約証書(乙23,24)は,推定どおり,原告の意
思に基づき真正に成立したものと認められる。
 5 結論
 本件契約1,2に関する契約証書(乙23,24)はいずれも真正に成立したと
認められ,かつ,これらを原因証書として本件登記が行われているから,本件登記
は本件契約1,2に基づく。被告には登記保持権原があるので,原告の請求はすべ
て理由がない。
 
   甲府地方裁判所民事部
 裁判官  倉 地 康 弘
(別紙)物件目録(省略)
(別紙)登記目録(省略)
(別紙)登記事項一覧表(省略)

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