弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えのうち,次の各部分をいずれも却下する。
(1)原告私たちのおおたけを守る会による本件訴えのうち,次の各部分
アAに対して金8348万8299円及びこれに対する平成18年3月2
5日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよと被告に求める
部分
イB,C,D,E,F及びGに対して各自,下記の各金員及びこれに対す
る平成18年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償
を命令せよと被告に求める部分

B金1438万5137円
C金5312万5662円
D金2614万0437円
E金3104万0299円
F金4919万7100円
G金8561万8724円
(2)原告Hによる本件訴え
2(1)被告は,Aに対し,金213万0425円及びこれに対する平成18年3
月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
(2)被告は,Fに対し,金213万0425円及びこれに対する平成18年3
月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償を命令せよ。
3原告私たちのおおたけを守る会のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,これを80分し,その1を被告の負担とし,その39を原告私
たちのおおたけを守る会の負担とし,その余を原告Hの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,Aに対し,金8561万8724円及びこれに対する平成18年3
月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
2被告は,B,C,D,E,F及びGに対し,各自,下記の各金員及びこれに
対する平成18年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償
を命令せよ。

B金1438万5137円
C金5312万5662円
D金2614万0437円
E金3104万0299円
F金5132万7525円
G金8561万8724円
第2事案の概要
本件は,大竹市が廃プラスチック類(以下「廃プラ」という。)の運搬及び
再生処理業務を委託していたI株式会社が,実際には廃プラの再生処理をして
いなかったのに,
1(1)環境整備課長及び環境整備課長補佐兼業務係長において,上記委託契約の
履行を確保するためになすべき必要な検査を重大な過失により怠った
(2)支出命令の専決者である民生部長及び環境整備課長において,故意又は重
大な過失により上記委託契約の履行を確認することなく支出命令を専決した
(3)収入役において,上記委託契約に基づきIが再生処理を履行しているか否
かを確認し当該支出命令に係る債務が確定しているか否かを確認すべきとこ
ろを故意又は重大な過失により怠った
(4)当時の大竹市長において,これらの各義務違反を阻止すべき指揮監督上の
義務を怠った
として,市民団体及びその代表者である原告らが,被告に対し,
2(1)当時の大竹市長個人に対して不法行為に基づく損害金8561万8724
円及びこれに対する不法行為後の日である平成18年3月25日(訴状送達
の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を
請求せよと求め
(2)上記各職員に対して地方自治法243条の2第1項後段に基づく各損害金
及びこれに対する(1)と同様の遅延損害金の賠償を命令せよと求めている事
案である。
なお,本件で問題となる関係各法令の定めは,別紙関係法令一覧のとおり
である(以下,関係各法令の略称は,別紙関係法令一覧の記載による。)。
第3基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)
1当事者等
(1)原告ら(甲1,2,弁論の全趣旨)
原告私たちのおおたけを守る会(以下「原告守る会」という。)は,平成
17年6月29日,「夢、希望、誇りのもてる住み良い大竹市」の実現を目
指して活動することをその目的として設立された団体で,大竹市民を中心と
する会員で構成され,その事務局を大竹市内に置くものとされている。
原告Hは,原告守る会の会長であり,大竹市の住民である。
(2)大竹市の関係各職員
ア元大竹市長A(弁論の全趣旨)
Aは,平成14年6月30日から平成18年6月29日までの間,大竹
市長の役職にあった者である。
イその他の大竹市の関係各職員(甲95,112,113,弁論の全趣
旨)
B,C,D,E及びFは,大竹市において,別紙権限等一覧表記載のと
おりの役職にあった者である。
Gは,平成14年4月1日から平成17年3月31日までの間,大竹市
環境整備課(平成16年3月31日までは民生部環境整備課)課長補佐兼
業務係長の役職にあった者である。
2大竹市のIに対する委託料の支払等
(1)Iに対する廃プラの再生処理業務の委託(甲3ないし5)
大竹市は,平成14年4月22日,Iに対し,概要,以下の内容で,廃プ
ラの運搬及び再生処理業務を委託した。
ア委託業務の内容,委託業務報告書の提出等
Iは,広島市a区b町のIの再生処理場まで廃プラを運搬し処理する。
Iは,廃プラを必ず商品又は原材料に再生しなければならない。
Iは,毎月7日までに,大竹市に対し,委託業務報告書を提出し,これ
を提出したときは,速やかに委託料請求書を提出する。
イ委託料
大竹市は,Iが委託料請求書を提出した日から30日以内に,Iに対し,
委託料として,1t当たりの再生処理費4万9875円及び1往復当たり
の引取運送費(4t車について6825円,大型車について9450円)
を支払う。
ウ委託期間
平成14年5月1日から平成15年3月31日まで
エその他
(ア)実地調査権
大竹市は,必要があると認めるときはいつでも,Iに対して委託業務
の実施状況等の報告を求め,又は実地調査をすることができる。
(イ)約定解除権
大竹市は,Iがこの契約に違反したとき,委託期間内に委託業務を完
了する見込みがないと認められるとき,又は正当な理由がないのに大竹
市の指示に従わないときは,契約の全部又は一部を解除することができ
る。
大竹市は,平成15年及び平成16年の各4月1日,Iに対し,委託期間
を各同日から翌年の3月31日までとし,上述の契約とほぼ同じ内容で廃プ
ラの運搬及び再生処理業務をそれぞれ委託したが,委託料のうち再生処理費
は,平成15年4月1日から1t当たり4万2000円に,平成16年4月
1日から1t当たり2万8875円にそれぞれ変更された(以下,大竹市の
Iに対する一連の委託を「本件委託契約」という。)。
(2)大竹市のIに対する委託料の支払(甲10ないし32の各1・2,33な
いし41の各1ないし4)
大竹市は,別紙支出等一覧表記載のとおり,Iからの請求書の提出を受け,
Iに対し,支出命令に基づき,合計8561万8724円を再生処理費とし
て支出した(以下,これらの支出命令及び支出をそれぞれ「本件各支出命
令」及び「本件各支出」という。)。
なお,別紙支出等一覧表記載のとおり,これらの支出の予算科目は,平成
16年3月までの搬出分については手数料とされていたが,同年4月からの
搬出分については委託料に変更された。この変更に伴い,本件委託契約の委
託料の支払に先立ち,環境整備課長作成に係る委託業務完了検査調書及びI
作成に係る業務完了通知書の提出も必要とされるようになった。
(3)Iによる廃プラの放置等(甲6,47,86)
Iは,平成14年5月から平成16年12月までの間,大竹市の不燃物処
理場から合計約2210tの廃プラを搬出していたが,他の自治体等から再
生処理を委託されていた廃プラと併せて合計約8127tを広島市a区のI
本社敷地内他3箇所に放置しており,これらの廃プラのうち約75tしか再
生処理していなかった。
その後,I代表取締役社長Jは,平成13年5月上旬ころから平成15年
11月4日ころまでの間,大竹市と同様に再生処理を委託していた財団法人
Kから,委託料の名目で約6000万円をだまし取っていたとして,平成1
7年12月8日,懲役4年に処する旨の判決の宣告を受け,この判決は,控
訴棄却判決により,平成18年5月26日,確定した。Iは既に経営が破綻
しており,大竹市が本件委託契約に基づきIに対して支払った委託料の返還
を請求しても,その回収が事実上できない状態にある。
3本件監査請求と本件訴え提起
(1)本件監査請求(甲42,43の1・2)
原告守る会は,平成17年12月28日,大竹市の監査委員に対し,本件
委託契約に基づき廃プラを再生処理していないIに合計9646万2153
円の委託料を支払ったのは違法不当であるとして,大竹市長個人,支出手続
担当者及び委託業務完了検査調書作成職員から大竹市へ,委託料相当額の金
銭を返還させることを大竹市長に勧告するよう求める監査請求をした(以下
「本件監査請求」という。)。この住民監査請求書の請求人の欄には「私た
ちのおおたけを守る会会長H」と記載されていた。
これに対し,大竹市の監査委員は,平成18年2月15日,本件監査請求
は適法であるが,Iに支払われた委託料に相当する額の金銭を大竹市長個人,
支出手続担当者及び委託業務完了検査調書作成職員から大竹市に返還させる
措置は行わない旨の結果を通知した。この通知の名宛人の欄には「私たちの
おおたけを守る会会長H様」と記載されていた。
(2)本件訴え提起(甲114,顕著な事実)
原告守る会は,平成18年2月22日,原告H等会員19名が参加する中,
平成17年度の定期総会を開催し,この定期総会の場で,本件監査請求の結
果を受け,住民訴訟を提起することが全員一致で決議された。
かかる決議を受け,原告守る会及び原告Hは,平成18年3月10日,本
件訴えを提起した。
第4争点及び争点についての当事者の主張
1争点
(1)訴訟要件について
ア原告守る会に当事者能力及び原告適格が認められるか。
イ本件訴えに先立ち原告Hが監査請求をしたと認められるか。
ウ本件監査請求が地方自治法242条2項の要件を充たしているか。
(ア)本件監査請求のうち,平成16年12月搬出分の支出命令及び支出に
係る怠る事実を除く部分が,地方自治法242条2項本文所定の期間
(以下「監査請求期間」という。)を徒過しているか。
(イ)本件監査請求のうち,平成16年12月搬出分の支出命令及び支出に
係る怠る事実を除く部分が監査請求期間を徒過してされたことについて,
地方自治法242条2項ただし書の「正当な理由」があるか。
(2)実体的要件について
ア環境整備課長ないし環境整備課長補佐兼業務係長において,重大な過失
により,地方自治法234条の2第1項の監督又は検査をすべき義務ない
し廃棄物処理法6条の2第2項,同法施行令4条9号ロ及び同法施行規則
1条の8に基づく一般廃棄物の再生の実施の状況の確認を1年に1回以上
実地に行う義務を怠ったか。
イ民生部長ないし環境整備課長において,重大な過失により本件各支出命
令の専決に先立ち本件委託契約の履行の確認をすべき義務を怠ったか。
ウ収入役において,重大な過失により本件各支出に係る地方自治法232
条の4第2項の確認をすべき義務を怠ったか。
エA元大竹市長において,アないしウの職員の義務懈怠を阻止すべき指揮監
督上の義務を怠ったか。
2争点についての原告らの主張
(1)訴訟要件について
ア原告守る会に当事者能力及び原告適格があること(争点(1)アに対し)
(ア)原告守る会に当事者能力があること
原告守る会は,名称,目的,会員の要件,役員の構成,活動の内容,
運営の方法,財政,会計監査等を明確に定めた規約を有している上,そ
の設立後,実際に会合を開催し,大竹市c地区への大型商業施設誘致に
対する反対運動を行ったり,活動内容を報告するニュース紙を戸別配布
したりなどしているもので,本件訴えについても,その決議を経て提起
しているのであるから,原告守る会が,権利能力なき社団として当事者
能力を有していることは明らかである。
(イ)原告守る会に原告適格があること
そもそも権利能力なき社団であっても,地方自治法242条の2第1
項の「住民」に該当し得る。
原告守る会は,その規約上,大竹市内に事務所を置くとされ,実際に
大竹市d町e丁目f番g号にその事務所が置かれている。また,原告守
る会は,その会員を大竹市の住民に限定している上,実際に大竹市の住
民以外の会員はおらず,「住民」でない者が原告守る会を利用し住民訴
訟を提起していることはない。たとえ大竹市の住民以外の会員がいたと
しても,原告守る会は「住民」でない者がこれを利用して住民訴訟を提
起できるような状態にない。
したがって,原告守る会については,大竹市の「住民」として,本件
訴えの原告適格が認められるものである。
イ本件訴えに先立ち原告Hが監査請求をしたこと(争点(1)イに対し)
原告Hは,原告守る会の代表者として,また原告守る会の会長という肩
書きのある一個人として本件監査請求をする趣旨で,住民監査請求書の請
求人欄に「私たちのおおたけを守る会会長H」と記載しているから,原
告Hも,本件訴えに先立ち,本件監査請求をしたといえるものである。
ウ本件監査請求のうち平成16年12月搬出分の支出命令及び支出に係る
怠る事実を除く部分が適法であること(争点(1)ウに対し)
(ア)本件監査請求は,いずれの怠る事実との関係においても監査請求期間
を徒過していないこと
本件監査請求は,大竹市の元民生部長ないし元環境整備課長が,本件
委託契約に係る地方自治法234条1項の監督又は検査をすべき義務を
怠り,また,本件各支出命令の専決に先立ち本件委託契約の履行の確認
をすべき義務を怠ったこと,大竹市の元収入役が本件各支出に係る同法
232条の4第2項の確認をすべき義務を怠ったこと,及び元大竹市長
がこれらの義務懈怠を阻止すべき指揮監督上の義務を怠ったことに基づ
き,大竹市がこれらの者に対して有する損害賠償請求権の行使を怠って
いるとしてその行使を請求したものであるが,以下のとおり,本件監査
請求は,いずれの怠る事実との関係においても監査請求期間を徒過して
いない。
a本件監査請求については,いずれの怠る事実との関係においても,
損害賠償請求権を行使することができるようになった日を基準として
監査請求期間を適用すべきこと
大竹市は,平成17年4月末まで,Iが放置している未処理の廃プ
ラを原材料と認識し適切に再生処理できると判断しており,Iが本件
委託契約に違反しているとの認識はなかった。その後,広島市が立入
検査をした結果,Iによる再生処理が見込めなくなり,廃プラを排出
していた大竹市を含む自治体等がこれを共同で処理することになった
ものである。
そうすると,大竹市においては,平成17年4月末日までは,前記
損害賠償請求権を行使することができなかったものというべく,本件
監査請求については,同日を基準として監査請求期間を適用すべきで
あるから,同日から1年以内の同年12月28日になされた本件監査
請求は,いずれの怠る事実との関係においても,監査請求期間を徒過
していないものである。
b本件監査請求については,いずれの怠る事実との関係においても,
一連の怠る事実が終わった日を基準として監査請求期間を適用すべき
こと
本件委託契約は,Iとの間で締結されたものが更新された一連の契
約であるから,本件監査請求のうち上記監督又は検査,履行の確認及
び指揮監督上の義務を怠る事実に係る部分については,本件委託契約
が事実上終了した平成17年1月末日を基準として監査請求期間を適
用すべきである。また,特定の事項に対して反復継続的に支出がされ
ている場合は,一連の支出が全て終了した日をもってそれらの終わっ
た日と解すべきで,本件各支出は,一連の本件委託契約に基づく反復
継続的な支出であるから,本件監査請求のうち本件各支出に係る確認
を怠る事実に係る部分については,最終の支出日である平成17年1
月28日を基準として監査請求期間を適用すべきである。
そうすると,平成17年1月末日ないし同月28日から1年以内の
同年12月28日になされた本件監査請求は,いずれの怠る事実との
関係においても,監査請求期間を徒過していない(なお,仮に,本件
委託契約が一連の契約であるとは認められないとしても,平成16年
4月1日に締結された契約に係る部分の限度では上述の理が妥当する
から,本件監査請求は,少なくとも平成16年4月から同年12月の
各搬出分の支出命令及び支出に係る怠る事実の部分については,監査
請求期間を徒過していないものである。)。
(イ)本件監査請求のうち平成16年12月搬出分の支出命令及び支出に係
る怠る事実を除く部分が監査請求期間を徒過していることについて「正
当な理由」があること
大竹市議会は,平成16年12月22日にIによる未処理の廃プラの
放置が新聞報道されて以降,大竹市長及び大竹市職員に対する調査及び
責任追及をしており,原告らはその推移を見守っていた。その後,Aは,
平成17年11月16日,大竹市議会決算委員会に対し,「*廃プラス
チックの原因」と題する文書を出したが,その内容は,大竹市長及び大
竹市職員の責任には全く触れていないものであった。
大竹市長及び大竹市職員の責任を追及する最適の機関は,市民により
選出された議員で構成される大竹市議会であり,その大竹市議会による
責任追及が進められているときは,その推移を見守るのも当然の対応で
あったが,原告らは,上記文書が提出された後,大竹市議会での責任追
及に限界を感じ,その約1か月半後の同年12月28日に本件監査請求
をしたのである。そうすると,本件監査請求のうち平成16年12月搬
出分の支出命令及び支出に係る怠る事実を除く部分が監査請求期間を徒
過していることについては,地方自治法242条2項ただし書にいう
「正当な理由」があるものというべきである。
(2)実体的要件について
ア環境整備課長ないし環境整備課長補佐兼業務係長が,重大な過失により,
地方自治法234条の2第1項の監督又は検査をすべき義務ないし一般廃
棄物の再生の実施の状況を確認すべき義務を怠ったこと(争点(2)アに対
し)
(ア)環境整備課長ないし環境整備課長補佐兼業務係長は,地方自治法23
4条の2第1項に基づき,本件委託契約の適正な履行を確保するため又
はその受ける給付の完了の確認をするため必要な監督又は検査をしなけ
ればならず,また,大竹市が本件委託契約によって1年以上継続して廃
プラの運搬及び再生処理をIに委託していた以上,廃棄物処理法6条の
2第2項,同法施行令4条9号ロ及び同法施行規則1条の8に基づき,
1年に1回以上は当該委託に係る再生の実施の状況を実地に確認すべき
義務を負っていた。
そうであるのに,環境整備課長であったE及びF並びに環境整備課長
補佐兼業務係長であったGは,かかる義務を重大な過失によって怠り,
Iが未処理の廃プラを野積みの状態で放置していることが平成16年1
2月22日の新聞報道で判明した後の同月27日まで1度も実地確認を
しなかった上,F及びGは,実地確認をしていないのに,同年4月以降,
本件委託契約に係る「委託業務について検査し、契約書のとおり相違な
く完了したことを認める。」旨を記載した虚偽の委託業務完了検査調書
を作成し,同年12月27日の実地確認によりIが未処理の廃プラを野
積みで放置していると認識した後の同月31日にも,上述のような委託
業務完了検査調書を作成した。
かかるE,F及びGの重大な過失による義務の懈怠がなければ,本件
各支出が避けられたことは明らかであり,本件各支出に係る再生処理費
相当の損害は発生しなかったものであるから,E,F及びGは,大竹市
に対し,それぞれが環境整備課長ないし環境整備課長補佐兼業務係長の
役職にあった期間に係る損害を賠償する責任を負う。
(イ)被告は,後記3(2)アのとおり,大竹市から搬入された廃プラを特定し
て確認することはできず,また,Iが本社所在地の再生処理場以外の場
所に廃プラを保管していたことを秘匿していたため,実地確認した他の
自治体等も実態を把握できなかったとして,Iの本社の再生処理場を実
地確認していても,廃プラが放置されていたことを把握できなかったと
主張する。しかし,特定して確認できないなどというのであれば,大竹
市以外の自治体等からも廃プラの再生処理を受託している業者に委託で
きないこととなる上,大竹市は,廃プラの放置が発覚した後の関係自治
体等との会議で,廃プラが大竹市から搬入されたものか否かを判別でき
ると回答している。また,他の自治体等は実地確認したといっても,廃
プラが最終的に再生処理されているか否かまでは確認していないし,I
に搬入された廃プラ約8127tのうち再生処理されたものは約75t
で,Iによる本社所在地付近への廃プラの放置は平成11年6月ころに
始まり,平成12年には住民から苦情が再三申し立てられる状態にあっ
たものである。そうすると,大竹市が定期的にI本社所在地の再生処理
場を実地確認し,廃プラの再生処理の状況を確認していれば,Iが廃プ
ラの再生処理を怠っていたことは容易に判明し,他にも廃プラの保管場
所があることも容易に推認できたはずである。さらに,Iは,平成10
年ころから運転資金が極めて不足し,平成11年6月には2回目の不渡
りを出し,和議を申し立てていた上,平成12年6月の時点で4億60
00万円余りの負債を抱えていたもので,大竹市が本件委託契約を締結
ないし更新する際,Iの財政的基礎を確認していれば,Iの再生処理の
能力に問題があることも把握できたものである。
また,被告は,後記3(2)アのとおり,廃棄物処理法施行令4条9号イ
に基づく通知をしていた先の広島市から問題点の指摘がなかったことを
根拠に,Iが適切に廃プラを処理していると大竹市が信頼するのもやむ
を得なかったなどと主張するが,再生の実施の状況を実地に確認してい
れば本件各支出が避けられたことは上記のとおりであり,平成16年1
2月の新聞報道で廃プラの放置が明らかとなるまで,I本社をはじめと
した施設を一度も訪れず,再生の実施の状況を実地に確認していない環
境整備課長らが免責されるものではない。
イ民生部長ないし環境整備課長が,重大な過失により,本件各支出命令の
専決に先立つ履行の確認の義務を怠ったこと(争点(2)イに対し)
(ア)民生部長ないし環境整備課長は,支出命令の専決をするに当たっては,
当該専決に係る支出が法令又は予算に違反していないこと及び支出負担
行為に係る相手方の義務が履行され債務が確定していることを確認すべ
き義務を負っている。
そうであるのに,民生部長であったC及びD並びに環境整備課長であ
ったE及びFは,かかる義務を重大な過失によって怠り,本件各支出命
令のうち平成14年5月分から平成16年3月分までの各搬出分に係る
部分につき,I作成の業務完了通知書及び環境整備課長作成の委託業務
完了検査調書から本件委託契約が履行されているかを確認しないまま,
I作成の請求書のみに従い専決をしており,Fに至っては,本件各支出
命令のうち平成16年4月分からの各搬出分に係る部分につき,前記ア
(ア)のような虚偽の委託業務完了検査調書を自ら作成し,上述の確認を
しないで,専決をしている。
このようなC,D,E及びFの重大な過失による義務の懈怠がなけれ
ば,本件各支出が避けられたことは明らかであり,本件各支出に係る再
生処理費相当の損害は発生しなかったものであるから,C,D,E及び
Fは,大竹市に対し,本件各支出命令のうちそれぞれが専決をした部分
に係る損害を賠償する責任を負う。
(イ)被告は,後記3(2)イのとおり,廃プラの再生処理のためには相当の期
間が必要であるし,廃プラの再生処理の完了を現地で毎月確認すること
は事務的に困難であるとして,毎月の本件各支出命令を専決する際に廃
プラの再生処理の完了までを確認すべき義務はないと主張する。しかし,
本件委託契約に係る委託業務の内容は,廃プラをIが搬出することだけ
でなく,Iが廃プラを商品又は原材料に再生することまでで,この廃プ
ラの再生処理の対価として再生処理費が支払われるものである。また,
廃プラの再生処理のために相当の期間が必要であったとしても,当該月
に再生処理が完了した廃プラ量を毎月の委託料の支出時期に確認するこ
とは可能であり,大竹市役所からI本社までの距離も約48.5kmで,
現地で毎月確認することが困難なものではない。廃棄物処理法6条1項,
6条の2第1項等の法意に照らし,一般廃棄物の最終処分が完了するま
での適正な処理を市町村が確保すべきことは明らかであるから,民生部
長ないし環境整備課長においては,毎月本件各支出命令を専決する際に,
本件委託契約の履行の確認として,廃プラの再生処理の完了まで確認す
べき義務を負うものである。
また,被告は,後記3(2)イのとおり,本件各支出命令のうち平成16
年12月搬出分に係る部分の専決について,廃プラは原材料で,適切な
処理が見込めるものであるから,Iに事業を継続させて早期に廃プラの
再生を完了させるため委託料の支出を行うのが適当であるとの共通認識
が他の自治体等との間で形成されていたことからなされたもので,違法
とはいえないというが,この共通認識なるものは,責任を免れたい関係
自治体等の希望的観測にすぎない。
ウ収入役が,重大な過失により,本件各支出に係る確認の義務を怠ったこ
と(争点(2)ウに対し)
収入役は,地方自治法232条の4第2項に基づき,支出命令を受けた
場合においても,当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと
及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認すべき義務を
負っている。
そうであるのに,収入役であったB及びCは,この義務を重大な過失に
よって怠り,平成14年5月分から平成16年3月分までの各搬出分に係
る部分の本件各支出命令につき,I作成の業務完了通知書及び環境整備課
長作成の委託業務完了検査調書がないのに,本件委託契約の履行が完了し
債務が確定していることを確認しないまま,上記部分の本件各支出をして
いる。
このようなB及びCの重大な過失による義務の懈怠がなければ,本件各
支出が避けられたことは明らかであり,本件各支出に係る再生処理費相当
の損害は発生しなかったものであるから,B及びCは,大竹市に対し,そ
れぞれがした本件各支出に係る損害を賠償する責任を負う。
エ元大竹市長が各職員の義務懈怠を阻止すべき指揮監督上の義務を怠った
こと(争点(2)エに対し)
市長は,地方自治法138条の2,154条等に基づき,契約の適正な
履行を確保するなどのために必要な監督又は検査を補助職員が怠ることを
阻止すべき指揮監督上の義務を負うとともに,支出命令を専決させた補助
職員の財務会計上の違法な行為を阻止すべき指揮監督上の義務を負う。
元大竹市長のAは,平成14年5月分から平成16年3月分までの各搬
出分に係る部分の本件各支出命令及び本件各支出につき,I作成の業務完
了通知書及び環境整備課長作成の委託業務完了検査調書がない以上,前記
ア(ア)のE,F及びGの義務の懈怠を容易に知ることができたし,また,平
成16年4月分からの各搬出分に係る部分の本件各支出命令及び本件各支
出につき,廃棄物処理法6条の2第2項,同法施行令4条9号ロ及び同法
施行規則1条の8が義務付けている,委託に係る再生の実施の状況を実地
に確認したことの報告書が提出されていない以上,前記ア(ア)のFの義務の
懈怠を容易に知ることができたもので,平成16年12月搬出分に係る本
件各支出命令及び本件各支出については,Iが未処理の廃プラを野積みし
ていることが平成16年12月22日の新聞報道で判明し,排出元自治体
の責任が問われることさえ認識していたものである。
そうであるのに,Aは,上述した指揮監督上の義務を怠り,前記ア(ア)の
E,F及びGの義務の懈怠を阻止せず,また,前記イ(ア)のC,D,E及び
Fの義務の懈怠や違法な本件各支出命令を阻止せず,これらを放置してき
た。かかるAの指揮監督上の義務の懈怠がなければ,本件各支出が避けら
れたことは明らかであり,本件各支出に係る再生処理費相当の損害は発生
しなかったものであるから,Aは,大竹市に対し,本件各支出命令ないし
本件各支出に係る損害を賠償する責任を負う。
3争点についての被告の主張
(1)訴訟要件について
ア原告守る会に当事者能力及び原告適格がないこと(争点(1)アに対し)
(ア)原告守る会に当事者能力がないこと
原告守る会は,その規約上,総会の招集手続,定足数といった団体と
しての主要な点が確定しておらず,総会の決議方法に係る定めの有無及
び内容も不明である。また,本件訴えの提起に先立ち,予め定められた
方法に従って決議が行われたのか,総会自体が開催されたのかも明らか
ではない。したがって,原告守る会は,権利能力なき社団として当事者
能力が認められるものではない。
(イ)原告守る会に原告適格がないこと
原告守る会は,その規約上,会員の資格を大竹市民に限定しておらず,
このような団体が地方自治法242条の2第1項の「住民」に当たると
すれば,「住民」ではない者が権利能力なき社団を利用して住民訴訟を
提起できることになり,「住民」のみが住民訴訟を提起できるとする同
項の趣旨に反する。そして,大竹市民以外の会員がいないことの具体的
立証がない以上,原告守る会には,本件訴えの原告適格が認められない
ものというべきである。
イ本件訴えに先立ち原告Hが監査請求していないこと(争点(1)イに対し)
原告Hは,本件訴えに先立ち,大竹市監査委員に対し,監査請求してい
ない。
ウ本件監査請求のうち平成16年12月搬出分の支出命令及び支出に係る
怠る事実を除く部分が不適法であること(争点(1)ウに対し)
(ア)本件監査請求のうち平成16年12月搬出分の支出命令及び支出に係
る怠る事実を除く部分については監査請求期間を徒過していること
支出負担行為,支出命令及び支出については,監査請求期間は,それ
ぞれの行為のあった日から各別に計算すべきである。そして,平成16
年12月搬出分を除く各支出命令及び各支出については,それぞれの行
為のあった日から1年が経過した平成17年12月28日に監査請求が
なされているから,本件監査請求のうち,上記各支出命令及び各支出に
係る怠る事実の部分は,監査請求期間を徒過しているものである。
(イ)本件監査請求のうち平成16年12月搬出分の支出命令及び支出に係
る怠る事実を除く部分が監査請求期間を徒過していることについて「正
当な理由」がないこと
地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,特
段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって
調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在
及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求
をしたかどうかによって判断すべきである。
大竹市の住民は,全国紙の読売新聞がIによる未処理の廃プラの放置
について報道した平成16年12月22日には,相当の注意力をもって
調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在
及び内容を知ることができたもので,原告らの主張する前記2(1)ウ(イ)
のような事情は,上記特段の事情に該当しない。
そうすると,本件監査請求のうち平成16年12月搬出分の支出命令
及び支出に係る怠る事実を除く部分については,上記報道の日から約1
年も経過してされており,上述の相当な期間内にされたものではないか
ら,監査請求期間を徒過していることについて「正当な理由」はない。
(2)実体的要件について
ア環境整備課長ないし環境整備課長補佐兼業務係長は,重大な過失により,
地方自治法234条の2第1項の監督又は検査をすべき義務ないし一般廃
棄物の再生の実施の状況を確認すべき義務を怠っていないこと(争点(2)ア
に対し)
Iは,実際に処理施設を保有しこれを稼働させていた上,他の自治体等
もIに廃プラを搬入しており,大竹市から搬入された廃プラを特定して確
認することはできない。また,Iは,本件委託契約の再生場所と指定され
ていた本社の再生処理場以外にも廃プラを保管しており,Iが本社所在地
の再生処理場以外の保管場所を秘匿して本社所在地の再生処理場のみが廃
プラの搬入及び再生場所であると虚偽の説明をしていたこともあり,I本
社を実地調査した他の自治体等においても,その実態を把握することがで
きなかった。そうすると,E,F及びGにおいて,I本社の再生処理場を
実地確認していたとしても,未処理の廃プラが放置されていた実態を把握
することはできなかったもので,原告らの主張に係る義務の前提である結
果回避可能性がなかった。
また,大竹市は,本件委託契約の締結に先立ち,広島市に対し,廃棄物
処理法施行令4条9号イに基づく通知をしており,Iの廃プラの処理に問
題点があれば,広島市から何らかの指摘がなされるべきであったが,広島
市は,平成12年ころから,Iの廃プラの保管につき,近隣住民から苦情
が寄せられていたのに,大竹市に対して何ら問題点を指摘していなかった。
そうすると,Iが適切に廃プラを処理していると大竹市が信頼することも
やむを得ないところであり,原告らの主張に係る過失はなかったものであ
る。
以上のように,環境整備課長ないし環境整備課長補佐兼業務課長におい
て,原告らの主張するような監督又は検査ないし確認の義務を重大な過失
により怠ったとはいえない。
イ民生部長ないし環境整備課長は,重大な過失により,本件各支出命令の
専決に先立つ履行の確認の義務を怠っていないこと(争点(2)イに対し)
Iが搬出した廃プラは相当の期間を経て原材料や商品に再生されるもの
であるが,本件委託契約は,毎月の委託料の支払時期までに廃プラの再生
処理を完了すべき内容となっておらず,また,毎月の委託料の支払時期ま
でに廃プラの再生処理の完了を大竹市から遠く離れた現地で確認すること
は事務的に困難であった。かかる事情からすると,民生部長ないし環境整
備課長においては,本件各支出命令を毎月専決する際,本件委託契約の履
行の確認として,廃プラの再生処理の完了まで確認すべき義務はなく,I
が再生処理するために搬出した廃プラに係る大竹市の計量記録とIが委託
料を請求する際に提出した明細書とを照合すれば足りる。そして,E,C,
D及びFは,このような照合により,本件委託契約の履行を確認した上,
本件各支出命令を専決しているものである。
確かに,本件各支出命令のうち平成16年3月までの搬出分に係る部分
については,委託業務完了検査調書による確認がなされていない。しかし,
このような取扱いは,平成14年度の大竹市の予算編成の段階で,他の類
似した廃棄物の処理に要する費用の支出の予算科目を手数料としていたこ
とにならい,本件委託契約に係る委託料も手数料の予算科目で支出してい
たため,大竹市財務会計事務取扱要領において,委託業務完了検査調書に
よる確認が不要とされていたことによるものにすぎない。本件各支出命令
のうち平成16年4月からの搬出分に係る部分については,本件委託契約
の実態に即した予算科目とする方がより適当であるとして,大竹市財務会
計事務取扱要領において委託業務完了検査調書による確認が必要とされる,
委託料の予算科目で処理することとなり,その後は委託業務完了検査調書
が作成されているし,その内容もFが大竹市の計量記録とIから提出され
る明細書を確認した結果に基づくもので,虚偽のものではない。
Fは,Iによる未処理の廃プラの放置が新聞報道等で採り上げられた後
にも,本件各支出命令のうち平成16年12月搬出分に係る部分を専決し
ている。この専決は,平成17年1月25日に大竹市が事情を確認した際,
既に処理工程にある廃プラは廃棄物として取り扱わないことを広島市の担
当者と協議した旨をJから説明されたことに加え,他の自治体等との間で
も,廃プラは廃棄物と性質を異にするに至った原材料であり,おって適切
な処理が見込めるものであるから,Iに事業を継続させて早期に廃プラの
再生を完了させるためにも,委託料の支払を行うのが適当であるとの共通
認識が形成されていたこともあって,なされたものであり,現に他の自治
体等もこのような判断に基づく支出をしているものであるから,Fの上記
専決が違法であるとはいえない。
以上のように,民生部長ないし環境整備課長において,本件委託契約の
履行を確認すべき義務を重大な過失により怠ったとはいえない。
ウ収入役は,重大な過失により,本件各支出に係る確認の義務を怠ってい
ないこと(争点(2)ウ)
収入役において,毎月の本件各支出をする際,本件委託契約に係る債務
が確定していることの確認としては,廃プラの再生処理の完了まで確認す
べき義務はなく,Iが再生処理するために搬出した廃プラに係る大竹市の
計量記録と,Iが委託料を請求する際に提出した明細書とを照合すれば足
りることは,前記イと同様である。そして,B及びCは,かかる照合を行
い,本件委託契約に係る債務が確定していることを確認した上,本件各支
出をしたものであるから,本件委託契約に係る債務が確定していることを
確認すべき義務を重大な過失により怠ったとはいえない。
エ元大竹市長は各職員の義務懈怠を阻止すべき指揮監督上の義務を怠って
いないこと(争点(2)エ)
前記2(2)エの原告の主張は,否認ないし争う。
第5当裁判所の判断
1認定事実
基礎となる事実(前記第3の1(1),2,3(2)),証拠(甲1ないし3,7
の1ないし6・9・11,9,10ないし32の各1・2,33ないし41の
各1・4,47,48,52,56ないし84,96ないし110,114,
証人F)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)Iによる廃プラの放置等(前記第3の2(3),甲9,47,48,52,
56ないし71,75,79,80,83,84)
Iは,平成6年4月に廃プラのリサイクル事業を開始し,平成8年4月以
降は複数の自治体から廃プラの回収及び再生処理を受託し,当初はその再生
処理を行っていた。しかし,Iは,平成10年には従業員から借金しなけれ
ばならないような深刻な運転資金不足に陥り,平成11年6月には2回目の
不渡りを出して,そのころに和議を申請し,平成12年6月時点の負債総額
は約4億6000万円となっていた。
Iは,このような状況の下,再生した製品の販路を開拓できなかったこと
等により,平成10年ころから,廃プラをそのまま又は破砕して容積を減ら
し,広島市a区b町にある本社工場,敷地等に放置するようになった。Iは,
その後も廃プラの回収及び再生処理を受託し続け,平成11年3月ころから
は,広島市h区iの倉庫やその敷地にも廃プラを放置するようになった。i
地区の住民は,平成12年11月以降,広島市に対し,Iによる廃プラの大
量放置について,小バエが発生しているなどの苦情を度々申し入れており,
広島市は,かかる苦情に応じ,廃プラの放置を是正するようIに指導したり
現地調査したりしたが,Iは,廃プラは原材料であるとして指導を受け入れ
なかった。
Iは,その後も廃プラの再生処理をほとんど行わなかった一方,平成13
年度以降は,人件費等を賄うため,廃プラの再生処理の委託料の名目で財団
法人Kから金銭をだまし取り続けていた。
(2)本件委託契約に基づく再生処理の状況の確認等(前記第3の2(1),(2),
甲3,7の2・4・6・9・11,9,10ないし32の各1・2,33な
いし41の各1・4,75,76,82,83,証人F)
大竹市は,平成14年4月22日,Iとの間で,本件委託契約を締結した。
この際,大竹市は,廃プラの再生の場所となる広島市に対し,廃棄物処理法
6条の2第2項,同法施行令4条9号イに基づく通知をしたが,Iによる廃
プラの放置について,広島市から情報提供はなかった。
大竹市は,Iからの請求書に記載された廃プラの処理量が,廃プラを搬出
する車両の搬出前後の重量差で計測した搬出量と同じか否かを確認し,本件
各支出命令及び本件各支出を行っていた。しかし,搬出された廃プラが実際
に商品又は原材料に再生処理されているか否かの確認はされておらず,また,
後記(3)のとおり,廃プラの放置が顕在化するまでは,環境整備課長以下の
各職員にその必要性すら認識されていなかったこともあり,廃棄物処理法6
条の2第2項,同法施行令4条9号ロ,同法施行規則1条の8で要求されて
いる,実地による再生の実施状況の確認も行われていなかった。
他方,環境省担当課長は,平成16年8月5日,各都道府県に対し,廃棄
物処理法施行令4条の基準が遵守されていないこと又は一般廃棄物の処理を
委託した市町村による受託者への指導監督が不十分であることにより,一般
廃棄物が適正に処理されず,生活環境保全上問題となる事案が散見されると
して,一般廃棄物の処理責任を十分果たすよう管下市町村に指導することを
依頼する旨の文書を発していた。
(3)廃プラ放置問題の顕在化(甲9,75,76,79,83,84)
Iは,平成16年2月からは広島市a区j町kの倉庫にも廃プラを放置す
るようになり,その倉庫も満杯となった後の同年9月からは広島市a区j町
lの借地にも廃プラを放置していた。l地区の住民は,同年10月,広島市
に対し,Iの廃プラの大量放置につき,小バエが発生しているなどの苦情を
申し入れており,広島市は,その苦情に応じて現地調査をしていた。また,
同年12月13日の広島市議会においては,広島市j町lの廃プラの放置に
関する質問も行われていた。
このような中,Iは,同月15日,関係自治会に対し,広島市a区j町l
の廃プラのすべてを平成17年3月31日までに撤去する旨の誓約書を提出
するなどしていたが,平成16年12月22日には,読売新聞において,大
竹市等から搬出された大量の廃プラが再生処理されずに広島市a区j町の資
材置場に平成16年9月ころから放置されており,大竹市等は法令に定めら
れた年1回の実地検査を怠るなど再生処理の状況を確認していなかったこと
が報道されるに至った。
(4)その後の関係自治体等の対応等
ア第1回関係者会議(甲9,75,76,79)
平成16年12月22日,広島県,広島市及び廃プラの搬出元の担当者
が集まり,今後の対応を協議する関係者会議が行われ,大竹市の担当者と
してF,G他1名が参加した。この関係者会議では,廃プラの放置に対す
る苦情が平成12年11月からあったこと,広島市が口頭指導するもIが
応じなかったこと等が報告され,今後の対応としては,Iに放置している
廃プラを処理させる方向で進めることが確認された。
この関係者会議が行われたことについては,平成16年12月23日,
前日の記事とほぼ同じ内容の記載とともに,読売新聞で報道された。
イ大竹市職員による第1回目の視察等(甲9,72,76,証人F)
大竹市環境整備課のG他2名は,平成16年12月27日,廃プラの処
理・保管状況を視察するため,Iの本社へ赴いた。その際,応対に出たI
のLからは,廃プラの処理状況につき,廃プラの一次破砕は1日当たり4
t行っており,一次破砕された廃プラを熱処理等により原材料とする作業
は1日当たり3t行うことができるが,今は行っていないとの説明があり,
廃プラの保管状況については,本社工場に100t,lに300t,kに
500t及びiに1800tの合計2700tを保管しているが,そのう
ち一次破砕前である未処理の廃プラは,lに保管中のものの半分,kに保
管中のものの3分の1,iに保管中のものの7割であるとの説明があり,
また,自治体から搬入した廃プラは処理しても原材料として売れず,リサ
イクルして売ってもあまり利益がないとも述べた。このような話を受け,
Gらは,Lに対し,保管中の廃プラ全体の処理計画を大竹市に提出するこ
と及びJが大竹市へ事情説明に来ることを指示した。
その後,Gらは,l,k及びiの廃プラの保管状況を視察し,iに莫大
な量の廃プラが野積みされていること,iの廃プラは袋が破れて中身が出
ていたこと,大竹市の指定ゴミ袋のマークが付いているものもあること等
を確認した。Gらは,I本社工場も視察し,一次破砕された廃プラを原材
料とする整形機の稼動状況について,平成16年9月までは稼動していた
との説明を受けたが,実際はそれ以前から稼動が停止していると認識した。
Gらは,この視察の結果をFに報告し,Fは,その結果を助役に報告し
た。また,大竹市は,同月28日,Lから廃プラの処理計画書を受け取っ
たが,その際,廃プラ放置の状況が改善されるまでは搬出を保留する方針
を告げ,その後の廃プラの再生処理は,他の業者に委託することとした。
ウ第2回関係者会議(甲9,76,79)
平成17年1月14日,第2回関係者会議が行われ,大竹市からはF他
2名が出席した。この会議において,Fらは,前日Iへ電話した際,同月
4日からIが廃プラの破砕処理をしており,同月20日からリサイクルを
再開するとの説明があった旨を報告した。その後,Iの放置している廃プ
ラについて,それが廃棄物であるとする広島市とそれが原材料であるとす
る廃プラの搬出元自治体との間で議論が交わされたが,最終的には,大竹
市他排出元が同月20日以降にIへ抜き打ち確認に赴くこととなった。
エF等による現地視察(甲73,77,79)
大竹市のF他2名は,平成17年1月25日,他の排出元自治体の各担
当者とともに,I本社を抜き打ちで訪問した。その際,本社工場では,廃
プラを直接二次破砕機に投入して溶融する作業が行われていたが,Lから
は,廃プラが分別されていないので二次破砕・熱溶融しても原材料として
は売れないこと,売るためには製品にするしかないが,製品化は中断して
いること,製品化できるのはベンチだけであるが,買い手がいないこと,
ベンチを製作したのは平成16年7月が最後であること等の説明がなされ
た。改めて廃プラの処理計画を平成17年1月31日までに提出するよう
指示したFらは,廃プラの保管状況を視察し,本社工場にあった大竹市指
定のゴミ袋がなくなっていたことを確認したが,l及びiの廃プラの量に
は変化が見られなかった。
オ第3回関係者会議(甲9,77ないし79)
平成17年1月26日,第3回の関係者会議が行われ,大竹市の担当者
としてF他1名が出席し,Fらが前日の視察の結果を報告した。この関係
者会議においては,広島県及び広島市から,不完全な再生処理に委託料を
支払ってきたのは問題である,廃プラ搬入量とIの処理能力とを調査すれ
ば未処理のものがあるとわかったはずである,処理を終えたのを確認して
から支払うべきであるとの指摘がなされた。また,今後の方針として,I
が倒産すれば委託元に対して廃プラを持ち帰るよう広島市が文書を出すが,
当面はIが廃プラを再生処理するよう搬出元自治体が指導し広島市がバッ
クアップするとの方針が確認された。
しかし,Jは,第3回関係者会議の後の同日午後,広島市役所を訪れ,
平成17年1月31日までに廃プラ処理計画は提出できないなどと言い出
し,これを受け,大竹市は,廃プラ処理計画の提出期限を同年2月7日に
延期したが,廃プラ処理計画が提出されたのは同日に電話で督促をした後
の同月9日になってからであった。
カ委託元自治体による廃プラ処理への移行等(甲7の1ないし5,9,7
4,78ないし81)
その後に数回行われた関係者会議においても,Iに放置している廃プラ
を再生処理させる方向で話がされたが,平成17年4月になっても,廃プ
ラ再生処理は遅々として進まず,同月20日以降は,廃プラが野積みされ
ている状況,排出元自治体の実地検査の懈怠等が新聞紙及びテレビで何度
も報道されるようになり,同月26日に大竹市環境整備課職員3名がI本
社を視察した際も,廃プラの再生処理は進んでいなかった。
このような状況の下,同月28日の第7回の関係者会議において,広島
市から,Iによる廃プラ再生処理を見守るのは同月末で打ち切るとの方針
が述べられた。これに対し,大竹市は,廃プラは原材料であるなどと主張
したが,結局以後は委託元自治体が放置されている廃プラを処理するとの
方向で話が進められることになった。
(5)原告守る会の組織,運営等(前記第3の1(1),3(2),甲1,2,96な
いし110,114)
ア原告守る会は,平成17年6月29日,「夢、希望、誇りのもてる住み
良い大竹市」の実現を目指して活動することをその目的として設立された
団体である。(前記第3の1(1),甲1)
イ原告守る会は,その規約上,大竹市民を中心とする会員で構成し,その
事務局を大竹市内に置くものとされている。実際,原告守る会に大竹市民
以外の会員はおらず,また,その事務所は大竹市d町e丁目f番g号に置
かれている。(前記第3の1(1),甲1,2,弁論の全趣旨)
ウ原告守る会は,その規約上,会長1名,副会長2名,事務局長2名,会
計1名,会計監査1名,顧問及び世話人各若干名の役員を置くこととされ
ており,実際,この規約に沿った役員が置かれている。(甲1,2,弁論
の全趣旨)
エ原告守る会の運営は,必要に応じて役員の招集により開かれる総会及び
役員会で行われ,その出席者の過半数により決議が成立することとされて
いる。実際,原告守る会の定期総会は,原告Hの招集により複数回開かれ
ており,本件訴訟も,平成18年2月22日に開かれた平成17年度定期
総会において,参加した原告H等会員19名の全員一致で,提起すること
が決議されたものである。(前記第3の3(2),甲1,96,114,弁
論の全趣旨)
オ原告守る会は,その規約上,その目的を実現するため,大竹市の問題を
論議し,改善策を検討・提言したり,ニュースを発行したりなどの活動を
行うものとされている。実際,原告守る会は,本件監査請求及び本件訴え
の提起のほか,c地区の再開発計画の説明会へ出席したり約2000名の
署名を集めて市議会に提出したりして,その再開発計画の不当性を訴える
活動を行っており,また,本件監査請求,本件訴え,c地区再開発計画,
大願寺山事業等の大竹市の問題について掲載したニュースを不定期に発行
するなどの活動を行っている。(甲1,97ないし110,114,弁論
の全趣旨)
カ原告守る会の財政は,その規約上,寄付金等で賄うこととされており,
その会計年度は1月1日から12月31日までとされている。実際,原告
守る会は,その発行しているニュースで寄付金を募っており,また,定期
総会で,会計報告並びに予算及び決算の承認が行われている。(甲96,
97,102,104ないし107,114)
2原告守る会の当事者能力及び原告適格の有無(争点(1)ア)について
(1)原告守る会の当事者能力の有無について
民事訴訟法29条にいう「法人でない社団」に当たるというためには,団
体としての組織を備え,多数決の原則が行われ,構成員の変更にかかわらず
団体そのものが存続し,その組織において代表の方法,総会の運営,財産の
管理その他団体としての主要な点が確定していなければならない。これらの
うち,財産的側面についていえば,必ずしも固定資産ないし基本的財産を有
することは不可欠の要件ではなく,そのような資産を有していなくても,団
体として,内部的に運営され,対外的に活動するのに必要な収入を得る仕組
みが確保され,かつ,その収支を管理する体制が備わっているなど,他の諸
事情と併せ,総合的に観察して,同条にいう「法人でない社団」として当事
者能力が認められる場合があるというべきである。(最高裁昭和35年第
1029号同39年10月15日第一小法廷判決・民集18巻8号1671
頁,最高裁昭和41年第40号同42年10月19日第一小法廷判決・民
集21巻8号2078頁,最高裁平成13年第1697号同14年6月7
日第二小法廷判決・民集56巻5号899頁参照)
原告守る会は,前記1(5)ウないしオのとおり,その規約に基づき,会長以
下の各役員を設置し,会長が招集した定期総会で過半数により決議された方
針に従い本件訴えの提起等の諸活動をしているし,定期総会の招集並びに本
件監査請求及び本件訴えの提起の経緯等からすると,会長が原告守る会を代
表する方法も確立しているものと認められる。また,原告守る会は,前記1
(5)カのとおり,各会員と別個に,寄付金等の収入を得る仕組みを確保し,か
つ,その収支を管理する体制を備えているものである。このような原告守る
会の実態は,上述のような「法人でない社団」に該当するものと優に認めら
れ,当事者能力を有するものである。
(2)原告守る会の原告適格の有無について
地方自治法242条の2第1項各号の訴え(以下「住民訴訟」という。)
を提起できるのは普通地方公共団体の住民であり,市町村の区域内に住所を
有する者は,当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とされている
(同法10条1項)から,いわゆる権利能力なき社団でも,当該普通地方公
共団体の区域内に住所を有するものと認められる限りは,住民訴訟の原告適
格を肯定することができるものである。
また,住民訴訟は,普通地方公共団体の執行機関又は職員による地方自治
法242条1項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実が究極的には当
該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害するものであるところか
ら,これを防止するため,地方自治の本旨に基づく住民参政の一環として,
住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え,もって地方財
務行政の適正な運営を確保することを目的としたものである(最高裁昭和5
1年(行ツ)第120号同53年3月30日第一小法廷判決・民集32巻2
号485頁,最高裁昭和58年(行ツ)第132号同61年2月27日第一
小法廷判決・民集40巻1号88頁,最高裁昭和61年(行ツ)第133号
平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。
このような住民訴訟の制度が設けられた趣旨からすると,少なくとも,地方
公共団体内に事務所又は事業所を有し,代表者又は管理者の定めがある代表
者又は管理人の定めがあり,かつ,収益事業を行なう権利能力なき社団につ
いては,法人と同様に地方税の納税義務者とされている(地方税法12条,
24条6項,1項3号,294条8項,1項3号)以上,住民訴訟の原告適
格を肯定すべきである。また,普通地方公共団体の住民が個人として住民訴
訟を提起することの負担を考慮すると,住民訴訟の制度を実質的に機能させ
るべく,当該住民が権利能力なき社団を組織し住民訴訟を提起することので
きる方途を認めることこそが,上述した趣旨に沿うものといえる。
そうすると,権利能力なき社団についても,事務所,事業所等の所在地と
して住所を有するものと認められる普通地方公共団体の住民でない者が中心
となって,住民訴訟を提起する目的で組織されたものであるといった特段の
事情のない限りは,当該普通地方公共団体の住民として,住民訴訟の原告適
格を有するものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,原告守る会は,前記1(5)ア及びオのとおり,
住み良い大竹市の実現を目的として本件訴え以外に様々な活動をしている上,
前記1(5)イのとおり,その事務所を大竹市内に置き,大竹市民だけをその会
員としているものである。したがって,原告守る会については,上述のよう
な特段の事情は認められず,本件訴えの原告適格が認められるものである。
3本件訴えのうちGに対して賠償命令をせよと求める部分の適法性について
地方自治法243条の2第1項各号の行為をする権限に属する事務を直接補
助する職員については,普通地方公共団体の規則で指定したものに限り,同法
243条の2第3項の賠償命令の対象となるものとされている。そして,同法
242条の2第1項4号ただし書の訴えに係る請求は,賠償命令の対象となる
者に対して賠償命令をすることを求めるものであることを要するから,その訴
えは,普通地方公共団体の規則で指定された上記各職員に対して賠償命令をす
ることを求めるものであることが必要である。
この点,Gは,大竹市環境整備課長補佐兼業務係長として,別紙権限等一覧
表記載の環境整備課長の権限に属する事務を直接補助する職員である(前記
第3の1(2)イ)が,本件全証拠によっても,大竹市の規則で,この役職の者が
賠償命令の対象となることが指定されているとは認められない。
したがって,本件訴えのうちGに対して賠償命令をせよと求める部分は,請
求として適格性を欠き,不適法である。
4本件訴えに先立つ原告Hの監査請求の有無(争点(1)イ)について
監査請求をした者が誰であるかは,監査請求書(地方自治法施行令172条
1項,同法施行規則13条,別記職員措置請求書様式)の請求人欄のみならず,
請求の要旨欄を含む監査請求書の記載を客観的合理的に解釈して特定すべきで
ある。
本件監査請求に係る住民監査請求書(甲43の1・2)は,その請求人欄に
「私たちのおおたけを守る会会長H」と記載されているが,その他に監査請
求をしている者を示すような記載はうかがわれない。このような記載を客観的
合理的に解釈すれば,本件監査請求をした者は,会長を原告Hとする原告守る
会であると特定される。
そうすると,原告Hが個人として,地方自治法242条1項所定の請求をし
たとは認められないから,本件訴えは,原告Hとの関係においては,不適法で
ある。
5本件監査請求の適法性(争点(1)ウ)について
(1)監査請求期間の徒過の有無(争点(1)ウ(ア))について
ア本件監査請求を文字どおり解釈した場合
(ア)本件監査請求は,住民監査請求書(甲43の1・2)の記載どおりに
解釈すると,前記第3の3(1)のとおり,Iが本件委託契約に基づく廃
プラの再生処理をしていないのに,大竹市がIに対して委託料を支払っ
たことが違法・不当であるとして,委託料相当額の金銭を大竹市長個人,
支出手続担当者及び委託業務完了検査調書作成職員から大竹市に返還さ
せることを求めるものである。
上記委託料の支払に係る支出は,地方自治法242条1項に列挙され
た財務会計上の行為(以下,単に「財務会計上の行為」という。)のう
ち「公金の支出」に当たるものである。これに対し,上記委託料の支払
に係る支出命令,同法234条の2第1項の監督又は検査,並びに上記
支出,支出命令及び監督又は検査に対する長の指揮監督が財務会計上の
行為に当たるか否かについては,同法242条1項の文言からは明らか
ではない。しかし,監査請求の制度は,住民訴訟の前置手続として,ま
ず監査委員に住民の請求に係る財務会計上の行為又は怠る事実について
監査の機会を与え,当該行為又は怠る事実の違法、不当を当該普通地方
公共団体の自治的,内部的処理によって予防,是正させることを目的と
するものである(最高裁昭和57年(行ツ)第164号同62年2月2
0日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁,最高裁平成10年(行
ツ)第68号同年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号203
9頁参照)。このような趣旨にかんがみると,財務会計上の行為の意義
については,同項に列挙された行為及びそれを行う過程で地方自治法上
必要とされている行為と解すべきであり,上記支出命令,監督又は検査
及び長の指揮監督は,同項所定の「公金の支出」又は「契約…の履行」
を行う過程で地方自治法上必要とされているものとして,財務会計上の
行為に当たると解するのが相当である。
そうすると,本件監査請求は,上記委託料の支払に係る支出命令,支
出,地方自治法234条の2第1項の監督又は検査及びこれらに対する
長の指揮監督を財務会計上の行為とし,それらの違法・不当を是正する
ことを請求するものというべきである。
(イ)支出負担行為,支出命令及び支出に係る監査請求期間は,それぞれの
行為が相互に関連しており全体としてみなければその違法性,不当性を
判断することができないといった特段の事情がある場合でない限り,各
財務会計上の行為のあった日から各別に計算すべきであり(最高裁平成
11年(行ヒ)第131号同14年7月16日第三小法廷判決・民集5
6巻6号1339頁参照),この理は,これらの財務会計上の行為に係
る地方自治法234条の2第1項の監督又は検査及びこれらに対する長
の指揮監督の監査請求期間についても,妥当するものである。
本件監査請求に係る各支出命令及び各支出は,毎年度の支出負担行為
である本件委託契約に基づくものではあるが,この支出負担行為並びに
各支出命令及び各支出を全体としてみなくても,個別に各支出命令及び
各支出の違法性,不当性を判断することができるものであるし,これら
の財務会計上の行為に係る地方自治法234条の2第1項の監督又は検
査及びこれらに対する長の指揮監督についても,同様である。
したがって,上記特段の事情は認められず,本件監査請求の監査請求
期間は,各々の財務会計上の行為の日から各別に計算すべきである。
(ウ)本件監査請求に係る支出命令及び支出はそれぞれ別紙支出等一覧表記
載の日に行われており,地方自治法234条の2第1項の監督又は検査
は,支出命令に先立ち行われるべきであるから,別紙支出等一覧表記載
の支出命令の日までに行われると認めるのが相当である。そして,これ
らに対する長の指揮監督は,それぞれそのころに行われるべきものであ
るから,別紙支出等一覧表記載の日にそれぞれ行われているものと認め
るべきである。
そして,本件監査請求が行われたのは平成17年12月28日である
から,本件監査請求のうち監査請求期間を徒過していない部分は,平成
16年12月搬出分に係る支出命令,支出及び地方自治法234条の2
第1項の監督又は検査並びにこれらに対する長の指揮監督の違法ないし
不当を対象とするものだけということになる。
イ本件監査請求の対象を,財務会計上の行為が違法であることに基づいて
発生する損害賠償請求権を行使しないことが違法,不当であるとの財産の
管理を怠る事実と解した場合
(ア)普通地方公共団体の住民が当該普通地方公共団体の長その他の財務会
計職員の財務会計上の行為を違法,不当であるとしてその是正措置を求
める監査請求をした場合には,特段の事情が認められない限り,その監
査請求は当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上
の請求権を当該普通地方公共団体において行使しないことが違法,不当
であるという財産の管理を怠る事実についての監査請求をもその対象と
して含むものと解するのが相当である(最高裁昭和57年(行ツ)第1
64号同62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁参
照)。
本件監査請求を住民監査請求書の記載どおりに解釈すると,前記ア(ア)
のとおり,財務会計上の行為を違法ないし不当であるとしてその是正を
請求するものとなるが,その対象としては,財務会計上の行為が違法,
無効であることに基づいて発生する損害賠償請求権を行使しないことが
違法ないし不当であるという財産の管理を怠る事実をも含むものと解す
べきである。
(イ)もっとも,普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実が
あるとして地方自治法242条1項の規定による住民監査請求があった
場合に,その監査請求が,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計
職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無
効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財
産の管理を怠る事実としているものであるときは,当該監査請求につい
ては,その怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又
は終わった日を基準として同条2項の規定を適用すべきものと解するの
が相当である(最高裁昭和57年(行ツ)第164号同62年2月20
日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁参照)。
そうすると,本件監査請求がその対象として前記(ア)のような財産の
管理を怠る事実をも含むものであると解しても,その監査請求期間は,
損害賠償請求権の発生を基礎付ける違法な支出命令,支出及び地方自治
法234条の2第1項の監督又は検査並びにこれらに対する長の指揮監
督がなされるべき日を基準として判断すべきであって,それらの日は,
前記ア(ウ)とおり,それぞれ別紙支出等一覧表記載の日となるから,結局,
本件監査請求のうち監査請求期間を徒過していない部分は,平成16年
12月搬出分に係る支出命令,支出及び地方自治法234条の2第1項
の監督又は検査並びにこれらに対する長の指揮監督が違法であることに
基づいて発生する損害賠償請求権を行使しないことをもって財産の管理
を怠る事実としている部分に限られることとなる。
(ウ)aこれに対し,原告守る会は,前記1(4)のような事実経過からして,
平成17年4月末日までは大竹市が本件監査請求に係る損害賠償請求
権を行使することはできなかったから,同日を基準に本件監査請求の
監査請求期間を適用すべき旨主張する(前記第4の2(1)ウ(ア)a)。
確かに,財務会計上の行為が違法,無効であることに基づいて発生
する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする
住民監査請求において,上記請求権が上記財務会計上の行為のされた
時点においてはいまだ発生しておらず,又はこれを行使することがで
きない場合には,上記実体法上の請求権が発生し,これを行使するこ
とができることになった日を基準として地方自治法242条2項の規
定を適用すべきである(最高裁平成6年(行ツ)第206号同9年1
月28日第三小法廷判決・民集51巻1号287頁参照)。
しかし,地方自治法242条2項本文は,普通地方公共団体の執行
機関・職員の財務会計上の行為は,たとえそれが違法・不当なもので
あつたとしても,いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得
るとしておくことが法的安定性を損ない好ましくないとして,監査請
求の期間を定めたものである(最高裁昭和62年(行ツ)第76号同
63年4月22日第二小法廷判決・集民154号57頁,最高裁平成
10年(行ツ)第69号,第70号同14年9月12日第一小法廷判
決・民集56巻7号1481頁参照)から,財務会計上の行為のされ
た時点において,それが違法,無効であることに基づいて発生する実
体法上の請求権を行使することができないといえるためには,行使す
ることが事実上困難であるだけでは足りないものというべきである。
前記1(1),(3)及び(4)アのとおり,Iによる廃プラの放置は,本件
委託契約の締結前から行われていた上,その状況は,平成16年2月
ころから急激に悪化し,第1回関係者会議が行われた同年12月22
日の時点では,大竹市においても,本件監査請求に係る財務会計上の
行為(平成16年12月搬出分に係るものを除く。)が違法不当であ
ることを十分に把握していたものである。そうすると,遅くとも同日
時点においては,本件監査請求に係る損害賠償請求権が既に発生して
おり,かつ,これを行使することができたものといえ,本件監査請求
(平成16年12月搬出分に係るものを除く。)は,同日を基準とし
ても監査請求期間を徒過していることになる。原告守る会の主張する
ような事情は,大竹市を含む関係自治体が,甘い見通しに基づき大量
放置されている廃プラをIに再生処理させようと考えていたため,大
竹市としては,損害賠償請求権を行使することが事実上困難であった
ことをいうにすぎない。
b原告守る会は,本件委託契約は一連の契約であり,それに基づく反
復継続的な支出が監査請求の対象となっている以上,本件監査請求の
うち,地方自治法234条の2第1項の監督又は検査及び長の指揮監
督を対象とする部分については,本件委託契約が事実上終了した平成
17年1月末日を基準として監査請求期間を適用すべきであり,本件
各支出に係る支出命令及び支出を対象とする部分については,最終支
出日である平成17年1月28日を基準として監査請求期間を適用す
べきであるとも主張する(前記第4の2(1)ウ(ア)b)。
しかし,地方自治法234条の2第1項の監督又は検査及び長の指
揮監督を含め,複数の財務会計上の行為に係る監査請求期間について
は,前記ア(イ)のような特段の事情がある場合でない限り,各財務会計
上の行為のあった日から各別に起算すべきである以上,それが違法で
あることに基づいて発生する損害賠償請求権を行使しないことをもっ
て財産の管理を怠る事実についても,かかる特段の事情がある場合で
ない限り,各怠る事実に係る請求権の発生原因たる各財務会計上の行
為のあった日又は終わった日を基準として監査請求期間を適用すべき
である。
そして,本件において,上記特段の事情が認められないことは前記
ア(イ)のとおりであるから,原告守る会の主張は採用できない。
ウまとめ
したがって,本件監査請求のうち監査請求期間を徒過していないのは,
平成16年12月搬出分の支出命令,支出,地方自治法234条の2第1
項の監督又は検査及びこれらに対する指揮監督に係る部分となる。
(2)「正当な理由」(地方自治法242条2項ただし書)の有無(争点(1)ウ
(イ))について
普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的
にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為の存在又は内容を知
ることができなかった場合には,地方自治法242条2項ただし書の正当な
理由の有無は,特段の事情のない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当
の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び
内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたか
どうかによって判断すべきである(最高裁平成10年(行ツ)第69号,第
70号同14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号1481頁参
照)。
本件各支出命令及び本件各支出は大竹市の通常の事務として継続的に行わ
れているものであるから,大竹市の一般住民においては,容易にその存在及
び内容を認識できる上,本件委託契約に基づく廃プラの再生処理が行われて
いないこと及び大竹市の職員がその状況を確認していないことさえ覚知でき
れば,その外形から本件監査請求に係る各財務会計上の行為の存在及び内容
を実質的に知ることができるといえる。そして,平成16年12月22日付
けの読売新聞では,大竹市等から搬出された大量の廃プラが再生処理されず
に同年9月ころから放置されており,大竹市等が法令で定められた年1回の
実地検査を怠るなど再生処理の状況を確認していなかったと報道され,同年
12月23日付けの読売新聞においても,同じ内容が報道されている(前記
1(3)及び(4)ア)。全国紙である読売新聞(顕著な事実)に掲載されたこれ
らの報道を大竹市の一般住民において閲読することは容易であるから,遅く
ともこれらの報道がされた日ころには,大竹市の一般住民において,相当の
注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に,そ
の対象とする各財務会計上の行為の存在及び内容を知ることができたという
べきである。そうであるのに,本件監査請求は,そのころから約1年も後れ
た平成17年12月28日になされており,原告守る会が上述の相当な期間
内に監査請求をしたということはできないことは明らかであるから,本件監
査請求に地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるとい
うことはできない。大竹市議会が,大竹市長及び大竹市職員に対して調査及
び責任追及していたことは確かである(甲88ないし93)が,そのことは
本件監査請求と何らかかわりがないから,原告守る会がその推移を見守って
いたことをもって,上記判断が覆されるものではない。
(3)まとめ
したがって,本件監査請求のうち,監査請求期間を徒過していない適法な
部分は,平成16年12月搬出分の支出命令,支出,地方自治法234条の
2第1項の監督又は検査及びこれらに対する指揮監督に係る部分だけであり,
その余の部分については,監査請求期間を徒過している上,同法242条2
項ただし書の正当な理由もないから,不適法となる(なお,大竹市の監査委
員は,本件監査請求が全て適法であったことを前提にこれを受理し,監査を
行っているが,そのことにより,上記不適法部分に係る本件監査請求及び本
件訴えが適法となるものではない(最高裁昭和62年(行ツ)第76号同6
3年4月22日第二小法廷判決・集民154号57頁参照)。)
6環境整備課長Fの,重大な過失による,地方自治法234条の2第1項の監
督又は検査をすべき義務ないし一般廃棄物の再生の実施の状況を確認すべき義
務の懈怠の有無(争点(2)ア),及び,重大な過失による,本件各支出命令の専
決に先立つ履行の確認の義務懈怠の有無(争点(2)イ)について
(1)本件各支出命令は,廃プラの搬出量とIからの請求書に記載された廃プラ
の処理量と同じか否かを確認しただけで行われており,平成16年12月2
7日にGらがI本社を視察するまで,大竹市の職員が,本件委託契約に基づ
く廃プラの再生処理の状況を確認するため,I本社へ視察に赴いたことは全
くなく,本件各支出の予算科目の変更に伴って委託業務完了検査調書及びI
作成の業務完了通知書が必要となった後も,その状態に変わりがなかったこ
とは,前記第3の2(2)及び第5の1(2)のとおりである。このような状態が,
地方自治法234条の2第1項の監督又は検査をすべき義務ないし本件各支
出命令の専決に先立つ履行の確認の義務を十分に尽くすものではないことは
明らかであり,かかる義務の懈怠が問題となりかねないことについては,都
道府県が環境省担当課長からの文書を受けて平成16年8月5日以降に市町
村への指導を行う中で憂慮されていたものと推察される(前記1(2))。
このような状況の下,平成16年12月22日にはIによる廃プラの大量
放置及び大竹市等が再生処理の状況を確認していなかったことを問題とする
報道がなされており(前記1(3)),その後,Gらが,同月27日にIを視
察した際には,放置されている廃プラの大部分が再生処理されていないこと
を実際に把握するとともに,廃プラを原材料としてもリサイクルしても売れ
ないとの説明をLから受け,廃プラを原材料とする作業も行われていない旨
を認識している(前記1(4)イ)もので,この報告を受けたFとしてみれば,
Iに委託した廃プラの再生処理がほとんど行われておらず,直ちに廃プラの
再生処理を再開できる見込みが乏しいことを十分に認識できたものである。
そうであるからこそ,大竹市はIへの廃プラの搬出を中止している(前記1
(4)イ)のであろうが,F自身も,平成17年1月25日にI本社を抜き打ち
で訪問した際,Lから,廃プラを処理しても原材料としては売れず,ベンチ
として製品化しても売れる見込みがなく,その製品化作業自体も相当長期間
中断していることの説明を受け,同月20日からリサイクルを再開するとし
た同月13日の説明すら守られていないことを認識し,また,本社工場に大
竹市指定のゴミ袋が見当たらなくなってはいたものの,l及びiに放置され
ている廃プラの量に変化がみられないことを実際に確認しているものである
(前記1(4)ウ,エ)。同月26日の第3回関係者会議では,大量放置されて
いる廃プラをIに処理させる方針が確認されているが,現実が上述のとおり
であった以上,かかる方針が実現可能性を欠くものであったことは明白であ
ったし,大竹市等の従前の対応が問題であったとの指摘もなされている上,
同日午後には,Iから廃プラ処理計画を期限内に提出できない旨の申出が広
島市にあり,そのことは大竹市としても把握していたはずである(前記1
(4)オ)。
このように,本件委託契約に基づく廃プラの再生処理について,地方自治
法234条の2第1項の監督又は検査をすべき義務ないし本件各支出命令の
専決に先立つ履行の確認の義務が十分に尽くされておらず,また,そのこと
に対する憂慮すら示されていた中,Fは,部下からの報告及び自らの視察に
より,実際は本件委託契約に基づく廃プラの再生処理がほとんど行われてお
らず,それが行われる見込みも極めて乏しいことを十分に認識しながら,問
題があるとの指摘さえされていた従前の方法で,平成16年12月搬出分に
係る支出命令を漫然と行ったものであるから,同月搬出分に係る支出命令及
び支出に関し,Fは,重大な過失により,同項の監督又は検査をすべき義務
及び支出命令の専決に先立ち履行状況を確認すべき義務を怠ったものという
のが相当である(なお,その経緯に問題なしとはしないが,平成16年12
月27日にはGらによるI本社の査察が行われているから,平成16年度の
廃プラの搬出については,一般廃棄物の再生の実施の状況の確認を1年に1
回以上実地に行う義務(廃棄物処理法6条の2第2項,同法施行令4条9号
ロ及び同法施行規則1条の8)を怠ったとまではいえない。)。
(2)被告は,大竹市から搬入された廃プラを特定して確認することはできず,
I本社を実地確認した他の自治体等も廃プラ放置の実態を把握できていなか
ったし,本件委託契約締結時に広島市へ通知したのにIについての問題点が
指摘されなかった以上,適切に廃プラの再生処理が行われていると信頼する
のもやむを得ないなどと主張する(前記第4の3(2)ア)。しかし,本件委託
契約締結時に広島市へ通知しており,その際に何ら指摘がなかったからとい
って,Fが前記(1)の義務を免れられないことは明らかであるし,個々的に
廃プラの搬出元を特定しなくても再生処理の状況を確認することは十分に可
能である上,Iが廃プラを継続的に放置していた状況の下で,平成16年1
2月27日及び平成17年1月25日の各査察時には,I本社等に大量の廃
プラが放置され,その再生処理の見込みが立たないことを把握できたもので
あるから,上述のような被告の主張をもって,前記判断は覆されない。
また,被告は,平成16年12月搬出分に係る支出命令の専決も,Iに廃
プラの再生処理を行わせるためとの共通認識ができていたためであると主張
する(前記第4の3(2)イ)。しかし,Fにおいては,平成16年12月27
日及び平成17年1月25日の各査察の結果としてI本社等に大量の廃プラ
が放置され,その再生処理の見込みが立たないことを把握しており,Iに廃
プラの再生処理を行わせることが非現実的であることを十二分に認識してい
たはずであるから,上述のような被告の主張は採用できない。
7元大竹市長の,各職員の義務懈怠を阻止すべき指揮監督上の義務懈怠の有無
(争点(2)エ)について
専決を任された補助職員が長の権限に属する当該財務会計上の行為を専決に
より処理した場合は,長は,その補助職員が財務会計上の違法行為をすること
を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失によりその補助職員が
財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,普通地方公共
団体に対し,その補助職員がした財務会計上の違法行為により当該普通地方公
共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高
裁平成2年(行ツ)第137号同3年12月20日第二小法廷判決・民集45
巻9号1455頁,最高裁平成4年(行ツ)第156号同9年4月2日大法廷
判決・民集51巻4号1673頁,最高裁平成12年(行ヒ)第193号同1
5年7月11日第二小法廷判決・集民210号231頁参照)。
この点,Aは,平成16年12月搬出分の委託料の支出命令をFに専決させ
ていたものであるが,平成16年12月22日にはIによる廃プラの大量放置
及び大竹市等がIの再生処理の状況を確認していなかったことが報道されてい
た(前記1(3))上,I本社等を査察した結果の報告も受け(甲72,73),
実際は本件委託契約に基づく廃プラの再生処理がほとんど行われておらず,そ
れが行われる見込みも極めて乏しいことも認識できたもので,Aは,安易に上
記支出命令の専決がなされないよう,直接又は助役等を通じてFを指揮監督す
べき義務を負っていたものである。そうであるのに,Aは,この義務を怠り,
平成16年12月搬出分の委託料の支出命令を阻止しなかったというのである
から,かかる義務懈怠により大竹市が被った損害につき,賠償責任を負うもの
と解するのが相当である。
8損害額等について
前記6及び7のF及びAの各義務違反がなければ,平成16年12月搬出分
に係る再生処理費213万0425円はIに支払われなかったはずであるから,
この額が大竹市の被った損害額となる。
そして,上記各義務違反は大竹市に対する共同不法行為を構成するから,F
は地方自治法243条の2第1項後段に基づき,Aは不法行為に基づき,それ
ぞれ上記損害額の賠償責任を負う。
第6結語
よって,本件訴えのうち主文1項記載の各部分はいずれも不適法であるから
これらを却下し,その余の部分に係る原告守る会の請求は主文2項記載の限度
でこれを認容し,原告守る会のその余の請求はこれをいずれも棄却することと
し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法65条1項本文,
64条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
広島地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官野々上友之
裁判官大森直哉
裁判官安木進
(別紙)
関係法令一覧
第1平成18年法律第53号による改正前の地方自治法(以下,単に「地方自治
法」という。)等
1地方自治法
(1)232条の4
ア1項
出納長又は収入役は、普通地方公共団体の長の政令で定めるところによ
る命令がなければ、支出をすることができない。
イ2項
出納長又は収入役は、前項の命令を受けた場合においても、当該支出負
担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る
債務が確定していることを確認したうえでなければ、支出をすることがで
きない。
(2)234条の2第1項
普通地方公共団体が工事若しくは製造その他についての請負契約又は物件
の買入れその他の契約を締結した場合においては、当該普通地方公共団体の
職員は、政令の定めるところにより、契約の適正な履行を確保するため又は
その受ける給付の完了の確認(給付の完了前に代価の一部を支払う必要があ
る場合において行なう工事若しくは製造の既済部分又は物件の既納部分の確
認を含む。)をするため必要な監督又は検査をしなければならない。
(3)242条
ア1項
普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会
若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不
当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履
行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相
当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若
しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以
下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を
添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、
若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当
該普通地方公共団体のこうむつた損害を補塡するために必要な措置を講ず
べきことを請求することができる。
イ2項
前項の規定による請求は、当該行為のあつた日又は終わつた日から一年
を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があ
るときは、この限りでない。
ウ4項
第一項の規定による請求があつた場合においては、監査委員は、監査を
行い、請求に理由がないと認めるときは、理由を付してその旨を書面によ
り請求人に通知するとともに、これを公表し、請求に理由があると認める
ときは、当該普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関又は職員に対
し期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告
の内容を請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない。
(4)242条の2
ア1項
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合に
おいて、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若し
くは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機
関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規
定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しく
は議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置
を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又
は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
一ないし三≪略≫
四当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は
不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は
職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る
事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令
の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求
める請求
イ2項
前項の規定による訴訟は、次の各号に掲げる期間内に提起しなければな
らない。
一監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合は、当該監査の結果
又は当該勧告の内容の通知があつた日から三十日以内
二ないし四≪略≫
ウ3項
前項の期間は、不変期間とする。
(5)243条の2
ア1項
出納長若しくは収入役若しくは出納長若しくは収入役の事務を補助する
職員、資金前渡を受けた職員、占有動産を保管している職員又は物品を使
用している職員が故意又は重大な過失(現金については、故意又は過失)
により、その保管に係る現金、有価証券、物品(基金に属する動産を含
む。)若しくは占有動産又はその使用に係る物品を亡失し、又は損傷した
ときは、これによつて生じた損害を賠償しなければならない。次の各号に
掲げる行為をする権限を有する職員又はその権限に属する事務を直接補助
する職員で普通地方公共団体の規則で指定したものが故意又は重大な過失
により法令の規定に違反して当該行為をしたこと又は怠つたことにより普
通地方公共団体に損害を与えたときも、また同様とする。
一支出負担行為
二第二百三十二条の四第一項の命令又は同条第二項の確認
三支出又は支払
四第二百三十四条の二第一項の監督又は検査
イ2項
前項の場合において、その損害が二人以上の職員の行為によつて生じた
ものであるときは、当該職員は、それぞれの職分に応じ、かつ、当該行為
が当該損害の発生の原因となつた程度に応じて賠償の責めに任ずるものと
する。
ウ3項
普通地方公共団体の長は、第一項の職員が同項に規定する行為によつて
当該普通地方公共団体に損害を与えたと認めるときは、監査委員に対し、
その事実があるかどうかを監査し、賠償責任の有無及び賠償額を決定する
ことを求め、その決定に基づき、期限を定めて賠償を命じなければならな
い。
エ14項
第一項の規定によつて損害を賠償しなければならない場合においては、
同項の職員の賠償責任については、賠償責任に関する民法の規定は、これ
を適用しない。
2地方自治法施行令167条の15
(1)1項
地方自治法第二百三十四条の二第一項の規定による監督は、立会い、指示
その他の方法によつて行わなければならない。
(2)2項
地方自治法第二百三十四条の二第一項の規定による検査は、契約書、仕様
書及び設計書その他の関係書類(当該関係書類に記載すべき事項を記載した
電磁的記録を含む。)に基づいて行わなければならない。
第2廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)等
1廃棄物処理法
(1)6条1項
市町村は、当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関する計画(以下
「一般廃棄物処理計画」という。)を定めなければならない。
(2)6条の2
ア1項
市町村は、一般廃棄物処理計画に従つて、その区域内における一般廃棄
物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、及び
処分(再生することを含む。≪略≫)しなければならない。
イ2項
市町村が行うべき一般廃棄物(特別管理一般廃棄物を除く。以下この項
において同じ。)の収集、運搬及び処分に関する基準(当該基準において
海洋を投入処分の場所とすることができる一般廃棄物を定めた場合におけ
る当該一般廃棄物にあつては、その投入の場所及び方法が海洋汚染及び海
上災害の防止に関する法律(昭和四十五年法律第百三十六号)に基づき定
められた場合におけるその投入の場所及び方法に関する基準を除く。以下
「一般廃棄物処理基準」という。)並びに市町村が一般廃棄物の収集、運
搬又は処分を市町村以外の者に委託する場合の基準は、政令で定める。
2廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(以下「廃棄物処理法施行令」と
いう。)4条
法第六条の二第二項の規定による市町村が一般廃棄物の収集、運搬又は処分
(再生を含む。)を市町村以外の者に委託する場合の基準は、次のとおりとす
る。
一ないし六≪略≫
七一般廃棄物の処分又は再生を委託するときは、市町村において処分又は再
生の場所及び方法を指定すること。
八≪略≫
九第七号の規定に基づき指定された一般廃棄物の処分又は再生の場所(広域
臨海環境整備センター法(昭和五十六年法律第七十六号)第二条第一項に規
定する広域処理場を除く。)が当該処分又は再生を委託した市町村以外の市
町村の区域内にあるときは、次によること。
イ当該処分又は再生の場所がその区域内に含まれる市町村に対し、あらか
じめ、次の事項を通知すること。
(1)処分又は再生の場所の所在地(埋立処分を委託する場合にあつては、
埋立地の所在地、面積及び残余の埋立容量)
(2)受託者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては代表者の氏名
(3)処分又は再生に係る一般廃棄物の種類及び数量並びにその処分又は再
生の方法
(4)処分又は再生を開始する年月日
ロ一般廃棄物の処分又は再生を一年以上にわたり継続して委託するときは、
当該委託に係る処分又は再生の実施の状況を厚生労働省令で定めるところ
により確認すること。
3廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下「廃棄物処理法施行規
則」という。)1条の8
令第四条第九号ロの規定による確認は、一年に一回以上、実地に行うものと
する。

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