弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人中山淳太郎の上告趣意について。
 論旨は原判決の事実誤認を主張するものであつて、刑訴四〇五条の適法の上告理
由に当らない。
 同被告人の弁護人原定夫の上告趣意について。
 論旨は単なる法令の違反及び事実の誤認を主張するものであつて刑訴四〇五条の
適法の上告理由に当らない。(第一審判決の判示事実によれば被告人Aは同Bと詐
欺をすることを共謀した上、Bにおいて寸検表と題する書面に虚偽の記載をしてこ
れを会社係員Cに提出報告し、同人をして山林全部の立木実数は二四九六本位であ
るのを三四五三本位あるものと誤信させたのであり、このとき詐欺罪の着手があつ
たものと解されるのであるから、所論のごとき法令違反は存しない。)
 被告人Bの弁護人山崎季治の上告趣意について。
 論旨は高等裁判所の判例違反を主張するけれども、この判例は本件には適切でな
く、要するに原判決の法令違反を主張するに帰するから適法の上告理由にあたらな
い。(本件起訴状によれば検察官は被告人Bに対する訴因を背任とし、罰条として
刑法二四七条を掲げたけれども、第一審第一回公判において、同被告人に対する訴
因を詐欺、罰条を刑法二四六条とそれぞれ変更し、その後第一審第二回公判におい
て更に右の訴因罰条を起訴状のとおりに変更することを請求し、弁護人はこれにつ
いて被告人Bの所為は詐欺であつても背任ではないと異議を述べたが、第一審は検
察官の右変更請求を許しその請求のとおり訴因と罰条が変更されたことは記録上明
らかである。そして第一審判決は背任の事実を認定し、これに対して背任罪の規定
を適用しているのであるが、他人の委託によりその事務を処理する者が、その事務
処理上任務に背き本人に対し欺岡行為を行い同人を錯誤に陥れ、よつて財物を交付
せしめた場合には詐欺罪を構成し、たとい背任罪の成立要件を具備する場合でも別
に背任罪を構成するものではないと解すべきであるから、第一審判決が本件起訴状
に基いて背任の事案を認定しこれに対して背任罪の規定を適用してもそれは詐欺の
事実が確定されているものといわねばならない。従つて第一審判決は詐欺の事実を
認定しながら背任の法条を適用した誤があるものといわねばならないから原審が第
一審判決を破棄した上適条の誤を正したのは正当であり、右のような場合には訴因
の変更を必要とするもではない。)
 なお本件については刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和二八年五月八日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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