弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鶴田常道の上告趣意第一点について。
 第一審判決が所論教唆の事実を認めたのに、原判決がこれと異り共謀の事実を認
めることができると判示したことは所論の通りである。しかし、これは控訴趣意書
第二点の趣旨として、被告人が判示登録原票偽造を決意したことの証拠も、Aに原
票偽造のことを登録係吏員Bに請託すべく依頼したことの証拠もないから被告人が
Aを通じてBに本件犯罪を教唆し若くはこれと共謀しBがこれを実行したものと認
めることは証拠の取捨に関する経験則違反又は重大な事実の誤認であると主張した
のに対し、原判決が第一審判決挙示の証拠により被告人とA及びBとの間に被告人
Cに関する外国人登録原票作成についての意思の連絡のあつたことを肯定した上教
唆でなく共謀の事実関係があると認めただけのことであつて、教唆犯が正犯と共同
正犯の関係に立つとか、教唆と共同正犯とが同一の法律関係にあるという判断を示
したものとは解せられない。従つて原判決は論旨引用の判例に反する違法あるもの
ではない。
 同第二点について。
 所論は原判決の訴訟法違反を主張するに過ぎず刑訴法四〇五条の上告適法の理由
とならない。(第一審判決が被告人が教唆した事実を認めたのに対し、控訴趣意書
は被告人がBを教唆し又は同人と共謀した事実は認めることができない云云と主張
したけれども、原判決は挙示の証拠により共謀による共同正犯を認め控訴を棄却し
たことは所論の通りであるが、証拠上教唆又は共謀の事実なしとの主張に対して原
判決が証拠を示して共謀による共同正犯の事実ありと認め右主張を排したことはと
りも直さず右主張に対する判断を遺脱なく示したものに外ならない。又、第一審判
決が教唆を認めたのに原判決がこれを認めず共謀による共犯を認めたことは事実認
定における少しのくいちがいではあるが、いずれにしても適用せられるべき刑法の
本条は同じであるから、このくいちがいは共同正犯としての起訴にかかる本件にお
いては終局の判断に影響がないから、原判決は違法ではない。)
 同第三点及び同補充上申について。
 所論は違憲をいうけれどもその実質は事実の誤認及び訴訟法則違反の主張に外な
らず上告適法の理由とならない。(所論Bの各供述は一年半乃至二年前の事実に関
するものであること所論の通りであるが、それだけでは経験則上当然曖昧な記憶に
基き無責任になされたものと断定することはできないし、記録上からもかく認めら
れない。従つて原判決が証人A及び被告人の供述を措信せず直接証拠はないけれど
も証人Bの右二つの供述を信用し挙示の他の証拠と相まつて、原判示の通り被告人
とAとBとの間に共謀の事実関係ありと推認したことは採証に関する経験則上絶対
に許されない違法あるものとはいえない。)
 記録を調べても刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同法四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文の通り判決する。
  昭和三〇年一〇月四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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