弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一 被申請人が、昭和四四年一〇月四日付の告示をもつて申請人等に対してなした
「同月六日より当分の間、東京教育大学構内えの入構証を持たない入構を午後三時
から午後四時三〇分(ただし、土曜日は午前一一時から午前一二時)までとする」
旨の処分の効力は、申請人Aを除くその余の申請人等が別表(一)記載の各授業を
受けるため入構する場合に関する限り、当裁判所昭和四四年(行ウ)第二一二号事
件の判決の確定に至るまで、これを停止する。
二 申請人Aの本件申請およびその余の申請人等のその余の申請部分を却下する。
三 申請費用は被申請人の負担とする。
       理   由
一、申請人等の本件申請の趣旨および理由は、別紙(一)ないし(四)のとおりで
あり、被申請人の意見は別紙(五)のとおりである。
二、疎明によれば申請人らは、いずれも東京教育大学文学部の学生であるが、同学
部が学園紛争のため、中絶していた授業を昭和四四年一〇月一日再開したので、こ
れを受けるため、右同日から登校していたところ、被申請人は同月四日申請人等を
含む学生一般に対し主文第一項掲記の処分をなすとともに、学生が大学構内に入る
には一定の入構許可申請手続を経由して入構証を得ることを必要とする措置を講じ
たこと、そして右入構許可は、事実上文学部教官のうち学園紛争の解決につき被申
請人の方針を支持する三八名が同年六月から実施していた授業を受けることをその
担当教官に申出た者のみに付与されるに止まり、また、かようにして付与された入
構証を右三八名以外の文学部教官が行う授業を受けるために利用することができな
いこと、申請人Aを除くその余の申請人等はそれぞれ別表(一)ないし(三)記載
の授業を受けることを希望しているものであるが、入構手続が右のような実情にあ
るため、右処分の日以降前記三八名以外の教官による別表(一)記載の授業を受け
るため入構することができないこと、これから推しても、被申請人の右処分が存続
する限り右掲の申請人等はこれにより卒業または進級に必要な科目の履修が不可能
となることが認められるから、右申請人等は右処分により回復困難な損害を蒙るお
それがあるというべきであつて、右損害を避けるため、右処分の効力を停止すべき
緊急の必要があると考えられる。
 しかし、別表(二)記載の授業については前記三八名の教官が担当することは疎
明上、明らかであるから、これを受けるためには被申請人の定めた前記手続により
入構証を得て入構すれば足り、また別表(三)記載の授業が文学部の再開にかかる
授業中に存在することを認むべき疎明はない。したがつて、以上の授業を受けるこ
とができないため損害を受けるおそれがあることを前提とする申請人等の主張は採
用することができない。
 そしてまた、申請人等が授業を受ける以外の目的で入構することができないこと
により回復困難な損害を蒙るおそれのあることを認めるに足る疎明はない。申請人
Aについては、本件処分により回復困難な損害を蒙るおそれのあることを認めるに
足る疎明はない。
三、被申請人は、文学部教授会が被申請人の学園正常化に関する方針を過半数で全
面的に了承し、その結果、文学部教官全員による統一的な講義の実施が可能とな
り、また学生の入構検問に文学部教授会の協力が得られる見透しが付いたと主張
し、疎明によれば、文学部教授会と被申請人ならびに全学的審議機関たる評議会と
の間に大学内の統一的な授業の再開および入構手続等をめぐつて学園正常化に関す
る協議が進められ、ある程度の歩み寄りがみられたことを認め得ないではないが、
右両者間には今なお学生の入構手続に関し根本的な見解の対立が存在し、にわかに
氷解しがたい事情にあることの疎明もあるから、右のような事情の存在だけでは本
件処分の効力を停止すべき緊急の必要性を否定することはできない。
四、以上の理由により、本件申請は、申請人Aを除くその余の申請人等の別表
(一)記載の各授業を受けるため入構する場合につき本件処分の効力の停止を求め
る限度で理由があるものとしてこれを認容し、申請人Aの申請およびその余の申請
人等のその余の申請部分を理由がないものとして、これを却下することとし、申請
費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して主文のとおり決
定する。
 (なお付言すると、本決定は、もとよりこれによつて実質的に本案訴訟の対象と
なつている入構制限の適否等を判断するものでないばかりでなく、今後、東京教育
大学が本決定の趣旨とするところに牴触しない限度において新たな入構手続を定め
ることをもなんら妨げるものではない。)
(裁判官 駒田駿太郎 小木曾競 山下薫)
別表(一)
<略>
別表(二)、(三)省略
別紙(一)
執行停止申請
       申請の趣旨
 被申請人が、昭和四四年一〇月四日、申請人らに対してなした、同月六日より当
分の間、東京教育大学構内えの入構を午後三時から午後四時三〇分(ただし土曜日
は午前一一時から午前一二時)までの間に制限する旨の処分の効力を停止する。
との決定を求める。
       申請の理由
一、行政処分の存在
(一) 申請人らはいずれも東京教育大学文学部学生であり、授業の聴講その他の
目的のため、同大学大塚地区構内の施設の利用権を有するものである。
 同大学大塚地区構内においては、通称E館において、昭和四四年九月一六日以
来、文学部教授会の計画、実施にかゝる授業が開構されている。
 また、同地区構内へ通ずる正門内には、昭和四四年二月二八日以来被申請人によ
り、いわゆる検問体制が施かれているが、申請人らは、右授業開講以来、検問所に
おいて自らの氏名および学生証番号を記載することにより、構内に入り、授業を聴
講するなど、施設を利用することを得た。
(二) しかるところ本年一〇月四日被申請人は、申請の趣旨記載の処分により、
申請人らの右地区構内への入構を制限する挙に出たものである。すなわち右処分に
より入構の条件としてその呈示を求められている「入構証」なるものは、「文学部
授業実施委員会」を自称する一部教官の行なう「授業」の聴講を申出た文学部学生
に対してのみ、被申請人によつて交付される証明書であつて、申請人らの如く、右
一部教官の行なう「授業」の聴講を希望しない学生に交付されることはない。
 従つて本件処分は文学部教授会の計画・実施する授業のみを聴講する希望を有す
る者に対して、その聴講のため右地区構内に入構することを制限することを目的と
しているものである。
(三) 申請人らは文学部教授会の実施する授業を聴講するため、代表者を互選し
て本年一〇月六日午前一〇時二五分ごろ入構を申出たところ前記処分にもとづきこ
れを拒否された。
 被申請人はあらかじめ警視庁機動隊を構内に導入して前記入構制限処分の効果を
事実上も維持している。
 (前記処分と同時に被申請人は、「受講のための手続を希望する文学部の検問教
官と相談して下さい」との勧奨をもあわせて行なつているので、申請人らは右代表
者を通じて「文学部検問教官」に「相談」を試みたところ、「相談」の内容は、結
局・前記「文学部授業実施委員会」の行なう「授業」を受講するための手続の教示
であり、文学部教授会が実施する授業の聴講のために入構手続を聞くものではなか
つた。)
二、本件処分の背景をなす紛争の経過
 被申請人によるこのような申請人らの受講権の侵害、したがつて、また、文学部
教授会の授業計画・実施の権限の侵犯は、以下に略述するような、長年にわたる被
申請人の非民主的大学管理・運営の一環である。
(一) 東京教育大学のいわゆる筑波移転問題について
 東京教育大学の将来計画に関連して、大学を筑波に移転するとの問題が評議会で
検討されている事実が昭和三八年九月三日の文学部教授会に学長から、はじめて報
告されて以来、同教授会は慎重にこの問題を検討して来た。
 すなわち、同教授会においては、当初から「空間の広さが学術体制をよくすると
は言えない。他とのコミユニケーシヨンが失われ、学問の質的低下をきたす」「教
職員・学生の生活には不利である」「これほど重大な問題は早急に決定すべきでは
ない」との意見が多数を占め、「ただちに移転の態度を決定する」との提案は否決
された。
 その後、他学部との意見調整など紆余曲折を経たのち、昭和四二年四月に至つて
次のような態度を決定した。
 すなわちそれは「従来文学部は、学問研究の水準と教育の効果とを向上させると
いう見地から、文学部の筑波移転を希望せず、従つて本学の移転決定を強行するこ
とに反対してきたのであるが、他の部局に同じく学問研究の水準と教育の効果とを
向上させるという見地から筑波移転に賛成する意向があることを考慮し、この重大
な段階に、相互に部局の独自性を尊重しつつ全学的調整をはかるためには、筑波に
土地確保を希望する部局のためには本学の名においてこれを行なうが、逆に筑波に
土地を希望しない部局のためにもやはり、本学の名において大塚地区保有の明確な
保証をとりつけるという方法を考慮しよう」というものである。
 このように移転問題は大学の運命にかゝわる重大な問題であるとの認識の下に、
各部局間の納得が得られるまで慎重に審議を重ねるべきであるとする文学部の主張
を無視した大学当局は、昭和四二年六月一〇日の評議会において、文部大臣に対
し、筑波移転の意向を表明することを決定し、同月一九日この決定にもとづく態度
表明を行なつた。
 その後学長が依然として文学部教授会の意向を無視し、昭和四二年、四三年の二
回にわたり、筑波移転のための「調査費」を文部省に要求するに及んで、文学部教
授会のみならず、大多数の学生の怒りを呼ぶところとなり、昭和四三年六月、全学
的争議状態が発生した。
(二) いわゆる「B専決体制」の確立
 学生の筑波移転反対運動の中には当時の学生自治会執行部の多数派を構成した全
学斗メンバーによつて提唱された全学バリケード封鎖戦術に拠るものがあつたが、
被申請人は、このようなバリケード封鎖戦術を奇貨として、機動隊導入により、そ
の「解決」をはかろうとし、本年二月二七日、非常事態における学長専決の必要性
に名を借りてこれを実行し、以来機動隊の実力を背景としたロツクアウト下のいわ
ゆる「B専決体制」を施いたものである。
 この前後における全学教官の学生に対する態度・方針は被申請人の方針とは異
り、昭和四三年一一月二八日、同年一二月一七日の各評議会においてくりかえし確
認された如く、あくまでも全学的集会等の形式による話合いで解決をはかるという
ものであつた。事実右ロツクアウト直前の評議会において、理学部教授会提案の形
でロツクアウトと同趣旨の措置をとつて紛争を「解決」せよとの提案は否決され、
またロツクアウト直後には全学教官有志二四五名の抗議声明が発せられてもいるの
である。
 このように、ごうごうたる非難の中に誕生した「B専決体制」は、その後、検問
体制への協力を条件とする授業再開を理学部、教育学部に押しつけ、また文学部教
授中の検問体制協力派三八名を組識して「文学部授業実施委員会」なる名称のもと
に「授業」を開講させた。後者について被申請人は、文学部学生の父兄に対して、
これを単位の与えられる正規の授業として取扱うとの意向を表明した書簡を送るな
ど、文学部教授会の教育課程編成権に介入しつつ、これを推進したのである。
(三) 文学部教授会の授業再開方針
 評議会は本年七月二四日、千数百の機動隊員によつて学生の意見表明の機会が奪
い去られた中で、筑波移転の方針を更に具体化する決定を下し、また、八月三日国
会は、史上例を見ない暴挙により大学運営臨時措置法を強行採決した。
 「B専決体制」は、ほかならぬ大学運営臨時措置法に政府与党が托した期待を、
立法をまたずに実現してゆくものであつたが、右のような情勢の変化にともない、
文学部教授会は、従来のように、このような「B専決体制」に対する抗議の意思を
も込めた、「ロツクアウト下において授業はしない」という方針を変更し、授業再
開の方向で「B専決体制」を解消させることに意思を統一した。
 そして申請人らを含む文学部全学生、大学院生に対し、本年九月三日以降、「新
しい研究・教育の創造確立のために」授業再開への支持を呼びかけ、同月一六日よ
り、授業を再開することを通知し、これを実施するに至つたわけである。
(四) 学生の動向
 一方、申請人ら文学部学生の大多数も、同じく、「B専決体制」の一層の強化を
防ぐためには、教授会と学生との合意による授業の再開を要求し、正常に帰した状
況の中で、学生の諸権利の拡張をはかることが、この段階における最も適切な方針
であると判断するに至り、本年一〇月一日臨時学生大会において圧倒的多数でこの
方針を確立した。
 文学部学生の中で、依然として、いかなる意味でも授業の再開に反対し、再度の
全学バリケード封鎖を主張する者は、わずか三〇名前後の勢力を擁するのみ、とな
つた。
(五) 被申請人が文学部授業再開を拒む理由
 このように「B専決体制」がその発足にあたつて、自らの大義名分とした「大学
の秩序維持」、「そのための検問体制の維持」は、いまや、まつたく理由のない主
張となつた。仮に、わずか数十名の学生が、バリケードの再現をくわだてても、こ
れを学生、教職員みずからが、阻止する条件は具つているし、文学部教授会は、現
実の危険の発生に対して、その他の適切な措置をとることについては異論をとなえ
ていない。
 それにもかかわらず、被申請人は文学部教授会に対して、「教官全員による検問
の実施」、「妨害の有無についての判断権は学長にある」などの条件を固執してお
り、このような条件を文学部授業会が承諾しない限り、その計画・実施する授業を
正規のものと認定しないとの態度を示しているのである。
 上述のような状況に照すならば、被申請人の文学部教授会に対する真意は、結局
同教授会が「B専決体制」に対して維持してきた態度を自己批判し、その立場を放
棄することを求めるものと解する他はない。そして、文学部教授会に対して、この
ような精神的屈服を求めることは、不可能を強いることであるから、文学部学生に
とつて、本件処分を維持することが被申請人の判断において必要なしと認められる
時期は、無限のかなたへ遠のいているとさえ言うことができるのである。
三、本件処分の違法性
 本件処分は、被申請人が、文学部学生約一〇六〇名中、申請人らを含む約九〇〇
名の学生に対して、昭和四四年一〇月六日より当分の間、大学構内への立入りを午
後三時から午後四時三〇分(ただし土曜日は午前一一時から午前一二時)までの間
に制限するというものである。
 同月四日付の被申請人名義の「入構について」の掲示によれば、「入構証を持た
ない学生の入構」を右の時間に制限する旨の記載となつているが、被申請人は文学
部教授、助教授専任講師一〇三名中三八名の教授、助教授(「文学部授業実施委員
会」)が学部教授会の議にもとづかないで実施している授業を受講する旨を誓約し
ない限り、その学生の入構を許可しない旨を明らかにし、文学部教授会の議にもと
づき正規に実施している授業を受講しようとする申請人ら約九〇〇名の学生に対
し、入構証を交付することを拒否している。したがつて本件処分は実質的には、被
申請人の右の意向に添わない申請人ら約九〇〇名の学生に対する入構制限であると
いわねばならない。午後三時から午後四時半(土曜日は午前一一時から午前一二
時)までの間の入構を認めてはいるが、これは、すでに述べたように、その間に、
学生に身分証明書の交付等の事務手続や、教官との面会を行わせようとの趣旨であ
つて、右の時間においても、文学部教授会の議にもとづく授業の受講は認められて
いない。因みに、九月一六日には右の授業の受講のため入構した学生約五、六〇人
が、大学当局の指示をうけた機動隊によつて学外に排除されるという事例がある。
 しかしながら、学部における教育課程の編成ないし、その管理は、大学自治(学
部自治)の趣旨にしたがい東京教育大学学則一四条により教授会の権限に属せしめ
られているのであり、被申請人は、文学部教授会の議にもとづく授業の受講を正規
の授業と認めないとする権限をなんら有するものではなく、いわんや、その受講を
妨害するために学生らの入構時間に大巾な制限を加え、かようにして学生の教育を
うける権利(憲法二六条)を大学当局自らが侵害するが如きは、大学施設の管理権
の甚だしい乱用であつて、これを適法と認める余地は全くないものといわねばなら
ない。
四、緊急性の存在
 前記のように文学部教授会は、昭和四四年九月一六日以後のオリエンテーシヨン
期間を経て同年一〇月一日より授業を全面的に実施する計画をたて申請人らに通告
したが、右授業計画は、来春卒業予定者については、昭和四五年三月三一日をもつ
て大学設置基準に定めるところの卒業に必要な最低の単位数を覆修できるように一
〇月一日より一二月三〇日まで前期授業を行い、昭和四五年一月五日より同年三月
三〇日まで後期授業を行うというものである。
 通常大学卒業者の就職は、四月一日付で行われるのであつて、年度途中で採用す
る職種はきわめてまれであるところから、来春卒業予定者は昭和四五年三月三一日
までに、大学卒業資格を得られないことになると、来年度就職する可能性を失い、
一年間さらに大学に在籍して昭和四六年度に就職しなければならないということに
なる。前記授業計画は学生にかかる重大な不利益を負わせないように、冬期休暇も
通常よりはるかに少ない五日間に縮減し、さらに祭日を含めて三九時間の補講の時
間を予定してようやく前記大学設置基準に合する授業日数を確保しうるのである
が、右授業日程は、被申請人の本件処分によつて当分の間これを実施できないこと
になれば、学生は回復しがたい重大な損害を被ることになる。
 又仮りに前記手続に従つて入構証の交付をうけて、いわゆる「文学部授業実施委
員会」の講義をうけるとしても右「委員会」に属する教官が限定されているため、
西洋史、独文、仏文、社会学の授業は行われておらず、それらの単位を選択した者
は単位を取得できず、従つて卒業できないことになる。
 申請人らのうち、坂井他七名は来春の卒業を予定し、現在就職先をさがしている
が、来年三月三一日をもつて卒業資格を得られない場合、さらに一年在籍するだけ
の経済的余裕もないので、申請人らは大学を中途、退学するなり、年度途中で採用
する職種をみつけるなりして通常本学を卒業した者よりもはるかに不利益な条件で
就職しなければならず回復しがたい重大な損害を被ることになる。
 又来春卒業予定以外の学年の者についても同様に、四月一日から新学年に進級す
るのが社会常識であり、特段に単位取得予定が後れると、ひいては次年度に修得す
る単位がその年度内でとることができないということも予想される。前記授業計画
では、これらの者について、昭和四五年四月三〇日をもつて単位が取得できるよ
う、卒業予定者と同様に前記を一〇月一日より一二月三〇日まで、後期を一月五日
より四月三〇日までとしているが、四月三〇日という予定も一一月三日等の祭日を
も使つて一四時間の補講を行うことによつてようやく大学設置基準に定める授業日
数を確保している。
 申請人らのうちC他一〇名は、この授業計画に従つて受講することを希望してい
るのであるが、前記卒業予定者の場合と同様に、直ちに授業が行なわれないと回復
し難い重大な損害を被るおそれがある。
 よつて本申立に及んだものである。
別紙(二)
執行停止申請理由補充書
 記
一、文学部における授業編成、管理の権限
 東京教育大学学則第一四条は「教授会は、次の事項を審議する」として、そのイ
に「学科課程に関する事項」を掲げている(疎第三一号証参照)。また学則第二一
条別添第1表4は「専門教育科目(各学部の定めるところによる)」と規定してい
る(疎第三一号証参照)。右によれば、専門教育科目の授業編成・管理の権限が各
学部教授会に専属するものであることは明らかである。
 なお細説すれば、東京教育大における授業科目は、学則第二〇条により、(1)
一般教育科目、(2)外語科目、(3)保健体育科目、(4)専門教育科目およ
び、(5)教職科目の五科目に分かれており、右のうち(1)、(2)、(3)
は、学則第一五条の定める一般教育委員会において授業編成を行ない、(5)の教
職科目については、教育学部が主となりその他の学部と調整の上決定している。そ
して(4)の専門教育科目については、前記のように各学部教授会の専権事項と定
められているのである。
 なお東京教育大学においては、昭和二四年四月一日学則施行以来今日に至るま
で、学部教授会が決定した授業編成を、学長その他の機関において、これを変更し
たり、変更を求めた例は一回もない。
二、文学部教授会の審議に基く授業編成によるのでなければ、申請人らの所定期日
までの単位履修は不可能である。
 東京教育大学では、本年四月各学部教授会の審議に基き専門教育科目の授業編成
を行い、「昭和四四年度学科目分担表」を作成したがその後学生のストが続き授業
が行えなかつたので、本年九月二九日文学部教授会の審議に基づき、前記「学科目
分担表」を修正して、一〇月一日以降の授業計画を決定した(疎第四二号証)。右
授業計画は、現在文学部教授会に出席を拒否している三八人の教授たちをも含むも
のとして計画されているのであり、正規の文学部教授会が立案した右授業計画に、
前記の三八人の教授たちが協力しさえすれば、文学部全体として正規の授業が行な
われ来年度卒業生については来年三月末までに、その他の在学生については来年四
月末までに所定の単位の履行を終ることになる。
 これに反し、三八名の教授たちによる授業計画(疎第三六号証)は、文学部教授
会の審議に基くものでないから、本来正規の授業とは認められないものであるばか
りか三八人による授業のみでは、申請人らが明年三月末(来年度卒業生)もしくは
四月末(在学生)までに所定の単位を履行することは不可能である。右の事情を各
申請人らについて詳述すれば、疎第四五号証のとおりである。
 なお、特に裁判所の御注意をいただきたいのは、東京教育大学における履行科目
中には、学則第二七条により必修科目と選択科目の別があり、これらの必修科目を
履修しなければ申請人らは卒業できない定めであるところ、三八人の授業実施委員
会に属する教授たちの担当する授業のみによつては、必修科目のすべてをカバーで
きず、必修科目の大半は、文学部教授会の正規の授業によつてしか履修できないの
である。
三、被申請人の要求する入構手続
(一) 被申請人は本件処分によつて一般的に入構時間を極端な短時間に制限する
とともに、入構証を提示する学生に対しては、右制限時間外の入構を認めることと
している。それではこの入構証を交付されるための諸条件、手続はいかなるもので
あろうか。
(二) 入構証を交付されるためには所定の様式の入構許可願を被申請人宛に提出
しなければならない。しかし入構許可願の用紙をあらかじめ特定の場所に備えつけ
ておくなどの措置は被申請人によつて講じられていないし、すくなくとも学生に対
して知らされてはいない。
 文学部の授業聴講のための入構許可手続についての従来の取扱例は次のとおりで
ある。
(三) 本年六月一〇日頃「文学部授業実施委員会」が「授業」を開始した際、そ
の受講を希望する学生は、責任教官に申出て、教官から入構許可願の用紙をもら
い、これに入構目的を記載し責任教官の印を受けて被申請人に提出して入構証の交
付を受けた。このような手続で入構証を受け、「文学部授業実施委員会」の授業を
聴講してきた学生の数は、約一五〇名弱であり、その後最近にいたるまで増減がな
かつたが、本年九月二七日付で右委員会が残余の全学生に対し一〇月四日を期限と
して受講手続をとるようにとのよびかけ(疏申第八号証)をしたため、これに数名
の学生が応じた事実がある。
 この時の受講手続したがつて入講証交付手続も六月の場合と同様であつた。
(四) 被申請人が提示を要求する入構証とは、右の二度の機会(本年六月および
九月)に交付された入構証でなければならないことは本月六日の求釈明の結果あき
らかになつた。(疏申第三二号証)
 従つて入構証交付は「文学部授業実施委員会」の授業を聴講する学生以外の学生
(申請人らを含む)に対してはその門戸がひらかれていないのである。
四、被申請人と文学部教授会との対立の現状
 文学部は、本月七日深夜におよぶ教授会において多数決により被申請人の提案
(疏申第一三号証)をすべて承諾した。
 この教授会決議によつて、被申請人が入構制限処分を撤回する気運が醸成された
かのように一部新聞等は報じているが、これは事実に反する。
 被申請人の提案は、文学部教授会が計画、実施する授業についての取扱い方につ
いては無関係の提案である。したがつて文学部教授会は前記決議とはかかわりな
く、当初計画した授業をひきつづき実施する方針を変更していないのである。
 それにもかかわらず被申請人は、検問実施方法についても文学部教授会が被申請
人の方針にしたがう意思を明確にする迄は、本件処分を変更しないとの意思を文学
部教授会に対して通告している。
 被申請人の要求する検問実施方法は、要約すれば誓約書類似の書面を学生に提出
させ、これを保証する趣旨の教官の書面の提出をまつて被申請人の裁量により入構
証を交付するというものであつて、学生相互・教官相互の間に差別的取扱をもち込
むことを不適切と考える文学部教授会の到底承諾しえないところである。文学部教
授会は現在被申請人との間に検問実施方法につき委員会を設けて協議をすすめてい
るが、被申請人は前述の態度をかえていない。
 従つて、本件処分は依然として維持されており、被申請人が任意にこれを撤回す
る可能性はない。
五、結び
 以上に述べたように、申請人ら学生は、卒業するために一定の学科課程の履修が
必要とされているわけであるが、その履修のためには、「文学部授業実施委員会」
に属する三八人の教官が実施している授業を受講するのみでは、その全体をカバー
することは到底できない。申請人ら文学部学生のなかには、残りの学科目の関係
上、右三八人の授業を全く受ける必要がなく、もつぱらそれ以外の教官の授業によ
らなければならないものも少なくない。したがつて、申請人らが本件処分によつ
て、右三八人以外の教官の授業を受講することを妨害することは、申請人らの教育
をうける権利の重大な侵害であり、卒業の時期にも重大な影響を与えるものであ
る。
 のみならず、本件処分による入構時間の大巾な制約によつて、申請人ら学生は、
図書館あるいは東京教育大学生活協同組合経営の書籍、文房具、日用品、理髪、食
堂を利用することにも大きな制約をうけ、生活上の利益をも侵害されている。
 しかるに本件処分は、合理的な根拠ないし必要性を全く欠くものであつて、その
違法たることはきわめて明白である。
別紙(三)
       準備書面
 事案を明瞭にするため次の点を補足して陳述します。
一、申請人らは本件停止申請において大学当局と文学部教授会との主張の対立につ
いて、裁判所に文学部教授会の主張の方が正しい、との判断を求めているのではな
い。
 ただ、申請人らを含む圧倒的多数の学生が授業の受講を希望しており、教授会も
授業実施を希望しているのに、申請人らが授業を受けることができない状態を裁判
所によつて救済してほしいと求めているものである。
二、東京教育大学の場合、三八名の実施した授業と、文学部教授会が従来実施した
授業との双方をともに正規の授業であると認めることによつてのみ、来年三月末も
しくは来年四月末までの課程履修が可能になるのである。
別紙(四)
       反論書
 昭和四四年一〇月八日付被申請人の意見書について左のとおり反論する。
一、大学学長の大学施設管理権について
 大学施設の管理権が、当該大学の学長に存することはいうまでもないところであ
るが、しかしこれは、大学の自治の保障(憲法二三条)の趣旨にもとづき、大学施
設の管理権を大学の自治にゆだねるという趣旨によるものであつて、この権限を大
学以外の機関(たとえば文部大臣)に賦与しない点に主眼がおかれているのであ
る。したがつて、学長は、この権限を大学評議会や教授会の議を経て行使すべきで
あつて(学校教育法五九条)、学長の独断専行を許す趣旨では決してない。
 しかも、各学部の施設に対する管理権は、学部自治の原則により、各学部に帰属
している。教育大学においても、従来学部施設の管理をも含めて、学部に関する事
項は、すべて学部教授会の専決事項とされており、その趣旨は、昭和三七年六月二
一日の評議会決定(疏甲第二四号証)によつて確認されている。
 しかるに、本件処分は、事前に評議会や各学部教授会の審議にかけることなし
に、被申請人が独断専行して行つたものである。
二、大学紛争の現状
 被申請人側は、現在においても、学生側がいつ再封鎖の挙にでるかもわからない
緊迫した状況にあるかの如く論ずるが、しかしそれは事実に反するものであり、現
在の状況を正確に把握したものとは到底いいがたいことは、次に述べるような文学
部の学生大会の推移を概視しただけでも明白であろう。
 すなわち、昭和四三年六月に学生大会によつてストが決定されているが、この頃
一部過激学生の策動により自治会執行部のリコールが行われ、自治会は事実上機能
を停止し、これにかわつて、「文学部学生自治会闘争委員会」なるものが設けら
れ、その指導によつて、同月二九日以降本館の封鎖が行われた。この時期には、封
鎖を支持する学生が少なくなかつたが、昭和四四年一月末の学生大会では、右の封
鎖の是否をめぐつて賛否がほぼ半々にわかれ、本館封鎖支持は決定されるに至らな
かつた。
 さらに同年九月三〇日の臨時学生大会では、スト中止、授業再開が決定されると
ともに、一部過激学生(前記闘争委員会)が指導した本館封鎖、教授会乱入、教官
つるしあげ、ヘルメツト・ゲバ棒による暴力行為をきびしく批判する提案が、出席
者四一五名中三三五名の多数によつて可決され(反対二、保留二八)、かつ学生自
治会の臨時執行委員が選出され、自治会は再建された。
 以上のように現在では、封鎖その他の暴力行為を支持する学生は、極く少数に転
落し、孤立化させられており(疏乙第四号証の一乃至一〇、第五号証、第一三号証
によつて、被申請人は、いかに緊迫した状況にあるかを強調しようとしているが、
これらの証拠を仔細にみるならば、過激学生のデモの数が急速に著しく減少してい
る等、以上の申請人側の主張を逆に裏づけるものである。)かつ大多数の学生は、
ストを解除して、授業再開を要求しているのであるから、現在においては、正当な
自治活動の展開は別として、再封鎖や暴力的な秩序破壊の危険は著しく減退してい
るものというべきである。そうした事態の客観的推移を正確に捕捉することなく、
大学当局がいたずらに過大な規制措置を講ずることは、単にその必要がないという
ことにとどまらず、学生の権利ないし利益を不当に侵害し、学生の反発を招き、紛
争を再び激化させるという点で、大学側としては厳に慎しむべきことである。右の
事情は、他学部においてもかわるところがない。
三、意見書一、(6)についての反論
(1) 被申請人は、文学部教授会の授業再開の決議をしたとしても、他学部との
調整が必要であり、授業は実際には実施されていないと主張している。
 しかしながら、申請人が一〇月八日付の補充書一、で指摘したように専門教育科
目の授業編成は、学部教授会の専権事項であつて、この点に関する学部教授会の決
議は、学長、評議会その他いかなる学内機関の介入も許されないものである。
 仮りに学部間の調整を必要とするものがあるとすれば、それは一般教育科目、外
国語科目、保健体育科目、教職科目についてであつて、専門教育科目については、
このような調整の必要がないばかりか、他学部や評議会、学長などは、文学部教授
会の決定に介入したり、これを変更させようとしたりしてはならないのである。次
に、文学部教授会による授業の実施は、実際に行なわれている。すなわち、九月一
六日以降九月一杯はオリエンテーシヨンとして(オリエンテーシヨンは平常も各期
の当初に授業の一部として行なわれている)、一〇月一日以降は正式講義として、
学内および学外において文学部教授会による授業が行なわれている。ただ、大学当
局が、文学部教授会の行なう授業を認めていないため、大教室の使用が困難であつ
たり、学生中に今なお入構手続をとつての授業に屈辱感をもつている者がいて、そ
れらの学生を授業に出席させるためには、学外施設を利用しなければならず、学外
には多数の学生を収容する施設が容易に得られないなどの諸事情から、聴講生が多
数にのぼる科目の授業のみが行なわれていない現状である。
 その間の経緯は、被申請人らにおいてすら認めざるを得ない事案である。すなわ
ち乙第三号証Dの陳述書によれば、「右の審議が進められている途中において、前
記のごとく、文学部の授業は九月一六日から開始されているという見解をとる教官
があり、若干の教官は構内において授業めいたものをしたように見える。その実態
は把握しがたいが、他学部には何の連絡もなく、大学当局の了承も得ず、正規の授
業計画が審議されているのを無視して行なわれたものは、もとより授業と認めるわ
けにはいかない。しかるに、右の「授業」と称するものが行なわれるようになつた
頃から、学生の入構がだんだん増えてきた」と陳述している(傍点は引用者)。
 すなわち、前記の理由により、文学部教授会による授業は九月一六日から開始さ
れているのであり、陳述書のいう「授業めいたもの」、「『授業』と称するもの」
は、正しく正規の授業なのである。被申請人は、他学部に連絡のないこと、大学当
局の了承がないこと、全学的授業計画が審議中であつたこと等をあげて授業とは認
められない旨主張しているが、前記のように、専門教育科目に関する限り、授業編
成は学部教授会の専権事項であり、他学部に連絡したり、大学当局の了承を得た
り、全学的調整を行なつたりする必要は全くないだけでなく、本来そのようなこと
をしてはならないのである。
 次に、一般教育科目など、一般教育委員会における調整、他学部との調整を必要
とする科目についていえば、現在、文学部以外の学部において行なわれている授業
も、そのすべてが、文学部教授会との調整を経ぬまゝに行なわれているのであり、
かつ文学部より選出されている一般教育委員の審議への参加なしに行なわれている
ものであつて、若しこの点をとらえて正規の授業でないというのであれば、現在文
学部以外の学部において行なわれている授業もまた、正規の授業ではないといわな
ければならないのである。しかるに、文学部教授会の実施する教授についてのみ
(問題になるのは専門教育科目以外の科目のみであるが)、しいて他学部との調
整、全学的調整の必要を云々して、これを正規の授業と認めないなどと主張するの
は、論理の必然として、他学部の授業(専門科目を除く)もまた、正規の授業でな
いことを主張することになる。被申請人は、果してこのような主張をなお維持する
つもりなのだろうか。
(2) 被申請人は、本件処分は、「文学部教授会の議に基き正規に実施している
授業を受請しようとする申請人らの入構を制限する意図」に出たものではないと主
張している。
 しかしながら、被申請人の右主張は、事実を曲げるものでしかない。被申請人ら
の主張中、三八名の教官を除く「その余の教官による授業は、現在に至るまで実施
されていない」との主張が、事実に反することは先に(1)において言及した。
 三八人の実施している授業が、「昭和四四年度の授業の開始に先だつて文学部教
授会の審議を経、かつ東京教育大学評議会でも正規の授業と認めているものであ
る」との被申請人主張についていえば、なるほど確かに三八人による授業は、文学
部教授会の議を経て決定された授業計画に基くものではあるが、停止されていた授
業をいつどのようにして再開するか、明年三月末または四月末までに履修単位を消
化するために、祭日、休日などの授業編成をどのように行なうのか等の点について
は、学部教授会が決定すべきものであり、この点からみても、三八人の授業は、本
来正規の授業と認められるものである(但し疎甲第一三号証(2)により三八名の
授業は、文学部教授会により、いわば追認されてはいる)。なお評議会の承認につ
いていえば、本来評議会は、授業が正規の授業であるか否かについて承認したり否
認したりする権限を有しないものである。
 次に被申請人の本件処分は「特定の教官の授業を妨害するためのものではない」
との主張についていえば、疎甲第三二号証Eの報告書で明らかなように、「こゝの
検問を通過するには、これ(入構手続説明のビラ)に記された入構証でなければ通
れないわけか? 文学部教授会が正式に定めた方式でも通れないのか?」、との質
問に対して、「そうだと思う」と答えているのをみても被申請人の主張が全く事実
を曲げていることは明らかである。なおこの間の事情は、疎甲第四四号証Fの陳述
書でも明らかであり、また、疎乙第六号証第二丁表の記述でも明らかである。
四、被申請人の一〇月八日付意見書三、(1)(イ)について疎甲第一三号証の
(1)の文言は、正確には「文学部教官全員が「検問」に当る。個人の特殊事情は
教授会の責任において考慮することを再確認する」
とのものであつて、被申請人主張のように「文学部教授会の責任で全教官が検問に
協力する」というものではない。
 すなわち検問をどのような方式で行うのか、検問をどのような趣旨、考え方に基
いて行なうのかについては、文学部教授会と被申請人との間には、なお大きな見解
の相違が残されているのであつて、被申請人主張のように今後短期間に、文学部教
授会と被申請人との間で、この問題について、見解の一致をみる蓋然性は、きわめ
て乏しいものといわなければならない。
別紙(五)
意見書
       意見の趣旨
 本件申請は、これを却下する。
 申請費用は、これを申請人の負担とする。
との裁判をなすべきものと思料する。
       意見の理由
一、申請人らが取消しを求める処分について
(1) 申請人らの主張によれば、被申請人が昭和四四年一〇月四日申請人らに対
し、同月六日より当分の間東京教育大学構内への入構を午後三時から午後四時三〇
分(土曜日は午前一一時から正午)までの間に制限する旨の処分をしたとしてその
取消しを求めるというのである。
 ところで被申請人が取消しを求めているのは被申請人が疎乙第一号証の「入構に
ついて」の告示である。この告示による措置は、その文面によつて明らかなよう
に、入構証を持たない学生の入構時間を定めたものであるところ、その証拠ならび
に内容は次のとおりである。
(2) すなわち、国有財産法五条によれば、各省各庁の長はその所管に属する行
政財産を管理するものとされ、同法九条一項は、右管理の事務の一部を部局の長に
委任することができるものとしている。そして右委任の規定を受けて、文部省所管
国有財産取扱規程(文部省訓令昭和三二・七・一)四条は、部局長は当該部局に所
属する国有財産に関する事務を分掌するものとし、国立学校設置法に規定する国立
学校の長はこの部局長に該る(取扱規程二条、三項)。被申請人は、右取扱規程に
より東京教育大学所管の国有財産の管理権限を有するものであり、また学校教育法
五八条三項により校務を掌る権限を有する。東京教育大学大塚校舎構内への学生の
入構を制限しているのは、この権限に基づくものであるが、その内容は次のとおり
である。
(3) 東京教育大学においては、昭和四四年二月二八日に、昭和四三年六月以来
一部学生らによつてなされていた大学本部・教育学部、文学部の建物の封鎖を警察
力の導入の下に排除し、以来損傷を受けていた建物施設等の復旧修理をなし、中断
していた授業を再開するよう準備し努力をしていたのであるが、一部の過激学生ら
による再封鎖、あるいは、構内における混乱の発生を防止する必要上、封鎖解除後
直ちに一般学生の大塚校舎構内への立入りを禁止したのである。
(4) 以来、東京教育大学では、理学部、教育学部、文学部と順次研究授業を再
開するにともなつて、大学院生、学生らが研究受講のためその他の必要があつて入
構する場合、入構後同大学における研究教育活動が平静に行なわれることを妨げる
おそれがないと認められる者の入構を許す措置をとつて来たのである。
 しかしながら、その間において、大学側の許可承認がないのに入構した一部学
生、あるいは一応大学側の許可承認を得て入構した学生のうちの一部の者によつ
て、大学構内で混乱状態が惹起され、研究授業の平静な遂行が妨害されるに至つた
事例が数多く発生しそのため右の入構制限措置は継続されて現在に及んでいるので
ある。
 しかして、昭和四四年一〇月四日の時点における学生の入構に関する措置は疎乙
第二号証のとおりとなつていた。
(5) ところが、それまでの間右の措置において、受講研究の目的のための入構
証の交付を受けずに正門において氏名、学生証番号を記帳して入構していた学生
で、必要がないのに残留し、大学側の構内の秩序維持に支障を与えた者があつたた
め、大学側としては、受講研究の目的でなく事務的な用件等で入構する学生につい
ては、相当な範囲において入構時間を明確に定める必要があるものと認め、その結
果、被申請人は、本件の告示を発するに至つたものである。
(6) この点について、申請人らは、本件告示による措置は、文学部教授会の議
にもとづかずに三八名の教授、助教授によつてなされている授業を受講する旨を誓
約しなければ学生の入構は認められないものであつて、文学部教授会の議にもとづ
き正規に実施している授業を受講しようとする申請人らの入構を制限するものであ
ると主張する。
 しかしながら、右の主張は誤つている。すなわち、右の三八名の教官の実施して
いる授業は、昭和四四年度の授業の開始に先だつて文学部教授会の審議を経、か
つ、東京教育大学評議会でも正規の授業と認めているものである。また、その余の
教官による授業は、現在に至るまで実施されていない。もつとも、本年九月一〇日
付をもつて右三八名以外の教官はそれまで「B専決体制」に反対すると称して授業
を行つていなかつたのを改め、同月一六日をめどとして授業を開始するとの意向を
表明したが、文学部の講義の中には他学部の学生が受講するものもあり、また、文
学部教官による他学部の講義もあるところ、他学部の授業はすでに相当期間進んで
おり、その間の調整を必要とするにもかかわらず、その処置のなされないままに授
業開始を宣言したものであつて、実際には実施されていないものである。
 さらに、被申請人が本年二月以来学生の入構を制限しているのは、また、一〇月
四日の本件告示をなしたのは大学における授業研究が平静に行なわれるのに対する
妨害を予防する趣旨に出たものであつて、特定の教官の授業の受講を妨害するため
のものではない。ただ、入構証交付申請を保証教官又は指導教官を通じてさせてい
たのは、その学生が授業研究の平静を乱すおそれがないことを当該教官をして確認
させるためであるから、かかる大学側の措置に反対している教官が右の確認をする
ことを期待しえないことは勿論であり、実際にも、このような教官を通じ入構証交
付申請がなされたことはなかつたにすぎない。学生がどの教官を通じて入構証交付
申請をするかということと、どの授業を受講するかということは関連のないもので
あり、右三八名の教官の授業の受講を誓約しなければ、入構証の交付を受けられな
いというのは事実に反する主張である。
二、本件措置の適法性
 本件の告示による措置は抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しないと考えるの
であるが、かりに行政処分性を有するとしても、前述したような事情の下でなされ
た本件措置は、被申請人の適法な権限の行使であるというべきである。
三、本件申請は回復の困難な損害を避けるための緊急の必要性を欠く
(1) 前述したように、申請人らは、文学部教授会の議をへた正規の授業の受講
を拒否されていないのであるが、昭和四四年一〇月六日、文学部教授会はB学長事
務取扱が従来とつてきた、いわゆる学園正常化の方針を過半数をこえる多数で全面
的に了承し、具体的に(イ)、文学部教授会の責任で全教官が検問に協力する
(ロ)、三八名の教官のこれまでの授業を正規のものとして認める等の議決をなす
に至つた。そして、早急に右三八名以外の文学部教官による検問の参加も期待さ
れ、また、授業計画については評議会の下部機関として全学的な授業実施委員会が
設けられ、同委員会によつて細目的な立案検討が加えられ全学的に正常な授業が行
なわれるに至ることが確実となつた。したがつて、申請人らが文学部の正規の教授
を受けられないとの非難はすでにその根拠も全く失うに至つたものというべきであ
り、また、新事態の下における授業によつて、学生の卒業進級には全く差支を生じ
ないのであつて、本件申請人には回復の困難な損害を避けるための緊急の必要を欠
くものである。
(2) 右に述べたように、現在の時点では、学生が研究受講のため、あるいはク
ラブ活動のため入構し、あわせて他の用務を果すことには事実上さしたる支障はな
いのであつて、入構証の交付を受けないで入構するのにある程度の不便はあるとし
ても、それは、依然として大学の研究教育の平静な遂行を妨げるおそれのある学生
の存在を否定しえない現在においては大学の機能活動を全面的に正常化するという
目的のためには止むをえないところといわねばならない。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛