弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人権逸の上告趣意について。
 憲法三五条は同法三三条の場合を除外して住居、書類及び所持品につき侵入、捜
索及び押収を受けることのない権利を保障している。この法意は同法三三条による
不逮捕の保障の存しない場合においては捜索押収等を受けることのない権利も亦保
障されないことを明らかにしたものなのである。然るに右三三条は現行犯の場合に
あつては同条所定の令状なくして逮捕されてもいわゆる不逮捕の保障には係りなき
ことを規定しているのであるから、同三五条の保障も亦現行犯の場合には及ばない
ものといわざるを得ない。それ故少くとも現行犯の場合に関する限り、法律が司法
官憲によらずまた司法官憲の発した令状によらずその犯行の現場において捜索、押
収等をなし得べきことを規定したからとて、立法政策上の当否の問題に過ぎないの
であり、憲法三五条違反の問題を生ずる余地は存しないのである。さればこれと異
る見地に立つて国税犯則取締法三条一項の規定を憲法三五条に違反すると主張し、
且これを前提として原判決に訴訟法違反ありとする論旨には賛同することができな
い。
 弁護人池辺甚一郎、権逸の上告趣意第一点について。
 所論の物件は、本件密造にかかる酒類、醪、麹又は、これが製造に使用した機械
器具容器であること、しかも、右物件は、本件犯罪の正犯者たるAの所有に属する
ことは、原判決の碓定するところであるから、原判決が酒税法六〇条三項、六四条
二項(昭和二四年法律第四三号による改正前)の規定に依つて、右物件を没収した
ことをもつて、所論のように、違法とすることはできない。
 同第二点、第三点について。
 原判決は、幇助犯たる被告人の本件犯罪を認定するについて、その構成要件の一
部として、―被告人に対する関係において―正犯者Aの犯罪事実を認定したもので
あつて、Aに対する裁判として同人の犯罪を認定したものではないのであるから、
所論のように同人に対する訴追、審判を要するものではなく、又、これによつて同
人の裁判を受ける権利を侵したものでもない。しかして、所論没収の違法でないこ
とは前点において説明のとおりである。論旨は理由がない。
 同第四点、第六点について。
 原判決摘示の事実は、その挙示の証拠によつて認めることができる。所論は、原
判決の証拠の取捨判断事実の認定を非難するに過ぎないから、上告適法の理由とな
らない。
 同第五点について。
 原審公判調書の記載によれば、所論書類は、単に犯罪の情状に関するものとして
参考のため裁判所に一覧を求める趣旨で提出されたものに過ぎず、被告人側から証
拠書類又は証拠物として提出されたものとは認められない。従つて原審が公判で右
書類の証拠調をしなかつたからといつて、原判決に、所論のような違法があるとい
うことはできない。
 同第七点について。
 所論大蔵事務官作成の顛末書によれば、被告人の居宅で、本件密造酒類等在中の
器具機械等が差押えられた事実を証明することができるのであつて、右書類は所論
被告人の自白の補強証拠となり得ることは明らかであるから所論は理由がない。
 同第八点について。
 所論は、原判決の認定しない事実を前提として、原判決の違法を主張するもので
あるから、採用の限りでない。
 同第九点について。
 原審の量刑をもつて、所論のように憲法の保障する「公平な裁判所の裁判」に反
するものとすべきでないことは、当裁判所数次の判例の趣旨に徴して明らかである。
 よつて、刑訴施行法二条、旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は、弁護人権逸の上告趣意に対する裁判官栗山茂、同斎藤悠輔、同小林
俊三、同入江俊郎の補足意見並びに裁判官藤田八郎の少数意見の外全裁判官一致の
意見によるものである。
 弁護人権逸の上告趣意に対する裁判官斎藤悠輔、同小林俊三の補足意見は、次の
とおりである。
 憲法三五条並びに同条一項に引用されている同三三条の規定は、刑事手続に関す
る規定であつて、行政処分手続に関する規定ではない。行政処分手続に関する規定
は、同法一一条乃至一三条就中一三条後段に従い立法を以て合理的に(後記栗山説
のごとく公共の福祉の名の下に勝手に規制するのでないことはいうまでもない。)
規定するを以て足りるものである。そして、国税犯則取締法三条は、間接国税に関
する行政処分手続に関する法律規定であつて(詳細は後記入江説参照)、その内容
に照し憲法一三条後段の尊重を欠き同条に違反するものとは認められない。されば、
右取締法の規定が刑事手続に関する憲法三五条に反するとの所論並びにこれを前提
とする訴訟法違反の主張は、採用することができない。
 弁護人権逸の上告趣意に対する裁判官入江俊郎の意見は次のとおりである。
 わたくしは、本件上告を棄却すべきことについては、多数説と結論を同じくする
者であるが、多数説が弁護人権逸の上告趣意の論旨を排斥する理由として説示した
憲法三五条一項の「第三十三条の場合」の解釈については賛成することができない。
わたくしは、憲法三五条及び同条一項に引用されている同三三条の規定が専ら刑事
手続に関する規定であること、国税犯則取締法三条が間接国税に関する行政処分の
規定であること、従つて右取締法の規定が刑事手続に関する憲法三五条に反すると
の所論並びにこれを前提とする訴訟法違反の主張が採用すべからざるものであるこ
とについては、斎藤裁判官、小林裁判官の補足意見と略所見を同じくするが、わた
くしは専らこの所見を理由としてのみ、右論旨を排斥すべきものと信ずるので、以
下理由を明らかにして、この点に関するわたくしの意見を表示する。
 (一)まず、憲法三五条が、三三条以下の諸規定と共に刑事手続に関する規定で、
刑事手続以外の行政手続には直接適用のないことは、新憲法制定の沿革からも、同
条の規定の憲法中の位置、前後の規定との関連からも推論することができる。尤も、
刑事手続以外の行政手続も、公共の福祉の要請から屡々身体、居住、書類、所持品
等に関する基本的人権の制限を伴わざるを得ないこともあり、そして或いは、刑事
手続にのみ厳重な制限を置き、行政手続については、行政権の自由に委すが如き解
釈は妥当でないとの論があるかもしれない。しかし憲法は、行政作用の特質、即ち
行政が多岐に亘る種々なる公共的目的達成のために営まれるものであつて、従つて、
行政作用の個々具体の内容及び手続は、それぞれの行政目的達成上最も適切なもの
であることが望ましいものである点に着眼し、行政手続に伴い心要とせられる身体、
住居、書類、所持品等に関する基本的人権の制限については、直接憲法三三条、三
五条等の規定を適用せず、それらに関する適当な規定は、これを憲法一二条、一三
条、三一条の枠内における立法の作用に委したと解することが相当である。勿論そ
のような立法も、上記憲法一二条、一三条、三一条の規定には従うべきものであつ
て、その場合必要とせられる基本的人権の制限が、公共の福祉上必要已むを得ない
限度のものたるべきは当然であるが、その枠内である限り、立法政策に委されたと
解したいのである。
 (二)次に、国税犯則取締法三条の手続は、同法二条の規定によつて行う間接国
税犯則事件の調査に伴う特別の手続であるが、同法による収税官吏の間接国税犯則
事件の調査は、間接国税の徴収を確保するために必要とせられる財務行政上の手続
であつて、刑事手続でなく、右犯則処分の調査に伴う同法三条の手続も、亦財務行
政上の手続であつて刑事手続ではない。同法による刑事手続は、間接国税の犯則事
件については、同法一七条による告発がなされて、はじめて開始すると解すべきで
ある。或いは、間接国税に関する通告処分を、実質上刑事手続であると解し、これ
を前提として、その先行手続である間接国税犯則事件の調査と、それに伴う同法三
条の手続もまた刑事手続であると論ずる者があるかもしれないが、通告処分は、同
法一四条に規定するとおり罰金又は科料に相当する金額、没収品に相当する物品、
徴収金に相当する金額、及び書類送達並に差押物件の運搬、保管に要した費用を指
定の場所に納付すべき旨を通告するものであつて、この処分も、徴税の徹底を期す
るが為、間接国税の犯則者に対し、財産上の負担を課する財務行政上の処分に外な
らないのみならず、この財産上の負担は、相手方の意に反してこれを課するという
性質のものでない点において、またこれを課せられた場合にも所謂前科となるもの
でない点において、罰金とは本質的に異なるものであることを注意せねばならない。
更に、通告処分は、これを処罰又は制裁として考えるよりは、寧ろ所謂「私和」即
ち、間接国税は逋脱が行われやすく、国家としては犯則者に処罰をもつて臨むより
も、その課税権さえ確保出来れば、その犯則の情状と犯則者の反省とを勘案して、
国家と犯則者とが一種の和解をし、これを赦免することとするほうが妥当であると
して考案された財務行政上の特殊な制度と考えるべきで、この制度の母法である独
乙法においてもこれをVERGLEICHとして観念されたことも注意されてよい
ことである。このことは、国税犯則取締法の前身たる間接国税犯則者処分法立法の
経過に徴するも、同法が明治二三年九月制定せられ同二四年一月一日から施行され
た当初は、通告処分は処罰としての色彩つよく、多分に刑事手続に準ずるものと考
えられていたようであるが、同法が明治三三年法律六七号で全文改正された際には、
議会の審議に当つても、通告処分は裁判的のものではなく私和を本質とするもので
あり、これに副うて規定が改められた旨が述べられていることからも窺えるであろ
う。また、同法一八条は右手続において差押えられ又は領置せられた物件は、犯則
事件の告発がなされた場合にはこれを検察官に引継ぐこととせられ、引継があつた
ときは、当該物件は検察官が刑事訴訟法の規定により押収した物とせられる旨を規
定するけれども、特にかような規定の設けられたことは、半面において、右告発前
の手続が行政手続であつて刑事手続でないことの証左とも考えられるし、また同条
の規定があつたからといつてこれによりそれらの物件が其の後の刑事手続において
当然に証拠能力を有することになる趣旨ではなく、刑事手続における証拠能力の有
無は、それらの物件が差押えられ又は領置せられた際の手続が、憲法三五条の要求
するところと、実質において異らないものであつたか否かによつて判断せらるべき
ものと解するを相当とし、従つて、この規定があるからといつて、逆にその手続に
常に必ず憲法三五条の適用があると解さねばならぬことにはならないと思う。
 以上述べたところにより国税犯則取締法三条には、憲法三五条の適用なく、従つ
て、憲法三五条違反の問題は生ずる余地がないのである。
 次に、国税犯則取締法三条の合憲性は、憲法一二条、一三条、三一条との関係に
おいて問題となり得るので考えてみるに、その規定の内容から見て、特にこれを違
憲と認むべき点は存しない。蓋し、上述したように間接国税に関する通告処分は、
その本質は、財務行政上の手続であつて、刑事手続ではないけれども、それが罰金
又は科料に相当する金額、没収品に相当する物品等の納付を通告する点において一
般の他の行政手続と異り刑事手続に近似するものといえるし、又それに先行する犯
則処分の調査においても、強制的に臨検、捜索、差押の許されている点において基
本的人権に対する重大な制限を含むものであるから、この手続は立法政策上におい
ては、可及的に刑事手続に準じた厳重な規定が設けられるべきであることは勿論で
ある。しかし、右取締法三条一項は、間接国税に関し、現に犯則を行い又は現に犯
則を行い終つた際に発覚した事件につき、その証憑を集取するため必要であり且つ
急速を要する場合について、その犯則の現場における特例を規定したものであり、
同条二項は、間接国税に関し現に犯則に供した物件若しくは犯則により得た物件を
所持し又は顕著な犯則の痕跡があつて、犯則ありと思料せらるる者のある場合にお
いて、その証憑を集取する為必要であり、且つ急速を要する場合についての特例を
法律によつて規定しているのであつて、このような要急の場合である限り、裁判官
の許可なしに臨検、捜索、差押をなし得るとすることは、財務行政上の必要に応ず
る已むを得ない手段と認められると共に、基本的人権の保障の面からいつても、刑
事手続に準じた厳重な規定が設けられているのであるから、特に不当というべき点
なく、憲法一二条、一三条、三一条の要請に違反するものとは認められないのであ
る。
 所論大蔵事務官B外一名作成の顛末書は、適法に作成されたものであるから、こ
れを証拠としたことは何ら違法ではない。それ故、所論は採用できない。
 (三)なお、多数説は、憲法三五条一項の「第三十三条の場合を除いては」の規
定を解釈して、三三条による不逮捕の保障の存しない場合においては、三五条の搜
索、押収等を受けることのない権利もまた保障されないことを明らかにしたもので
あつて、現行犯についていえば、三五条の保障から除外される三三条の場合という
のは、現行犯が存在する場合たることをもつて足り、これを逮捕する場合たること
を必要としないと解し、これを前提として国税犯則取締法三条と憲法三五条との関
係を説明するが、わたくしは、憲法三五条のかかる解釈には反対であり、憲法三五
条で「第三十三条の場合」というのは、現行犯についてはこれを逮捕する場合、非
現行犯についてはこれにつき三三条所定の逮捕令状が発給されこれを執行して逮捕
する場合をいうものと解するのである。思うに、憲法三五条は、刑事手続における
住居、書類及び所持品の不可侵を規定し、若しこれらに対し、侵入、捜索、押収を
する場合には、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を
明示する令状を必要とし、そして、捜索又は押収は、権限を有する司法官憲の発す
る各別の令状によりこれを行うこととして、その手続を極めて厳重且つ慎重ならし
め、また、捜索、押収の場所、物を特定することに意を用いているのであるが、唯
その例外として、三三条の保障の下において合憲的に逮捕せられる場合だけは、三
五条所定の令状なくして住居、書類及び所持品の侵入、捜索、押収を受けることあ
るを認めたと解するを相当とする。蓋し、三三条は人身逮捕に関する場合であつて、
既に最も重大且つ基本的な人身の自由を拘束する逮捕が合憲的に行われる以上、そ
の逮捕に伴い、これに関連して必要な範囲内において、住居、書類、所持品の侵入、
捜索、押収については、特にそのための令状を必要としない旨を定めたものであり、
また、三三条の保障の下において、合憲的に逮捕せられる場合であるならば、右逮
捕に関連して必要な捜索、押収を、三五条所定の令状なくして行つても、捜索、押
収の場所、物は特定されうるのであつて、かように解してこそ、はじめて、三三条、
三五条とを対比してこれらの規定の内容である基本的人権保障の憲法の趣旨が徹底
するのである。多数説のいうごとく、三三条の場合というのを逮捕する場合たるこ
とを必要としないと解することは、折角三五条で定めた基本的人権の保障を不徹底
ならしめるものといわなければならない。
 弁護人権逸の上告趣意に対する裁判官栗山茂の補足意見は次の通りである。
 多数意見はその意味が把握しがたい嫌があるのと、国税犯則取締法三条には憲法
三五条の適用がないとする少数意見があるので、本件に関するわたくしの所見を明
にしておきたい。
 (1) わたくしは憲法三五条にいう「第三十三条の場合」には、現行犯として
逮捕される場合と、令状によつて逮捕される合とを含むばかりでなく、緊急逮捕の
場合もまた内在していると解するのが相当だと考える。それ故憲法三五条にいう「
第三十三条の場合」とは逮捕に随伴して、その現場における犯罪の証拠の集取が許
される場合をいうのである。しかし実質上逮捕できる場合であれば、現実に逮捕を
伴わなくても、犯人の現在するその場所に於て犯罪の証拠の集取ができるものと解
しても犯人にとつては逮捕に伴つて証拠が集取される場合に比し不利益ではないか
ら合理性を欠くことはないと思う。以上の理由で国税犯則取締法(以下単に取締法
という)三条が間接国税に関し現に犯則を行い又は行い終りたる際に発覚した事件
について、その犯則者の現在するその現場において、裁判官の許可がなくても、収
税官吏が臨検捜索又は差押をすることができると規定したのは憲法三五条に違反し
ないものと考えるので、多数意見と結論を同うするものである。
 (2) 入江裁判官の意見は、憲法は行政作用の特質に着眼し、行政手続に伴い
必要とせられる身体、住居、書類、所持品等に関する基本的人権の制限については、
直接憲法三三条、三五条の規定を適用せず、それに関する適当な規定は、これを憲
法一二条、一三条、三一条の枠内における立法の作用に委せられたと解することが
相当であると説明されている。しかし日本国憲法が基本的人権を侵すことのできな
い永久の権利と宣明して保障している所以は、その保障が行政作用の特質だからと
いつて安易に立法その他の作用で取り上げられないことを意味するのである。(憲
法一一条、九八条)わたくしは、身体、住居、書類、所持品に関する最も尊重さる
べき国民の基本的な自由と権利とが、行政目的のためだとして、立法の作用によつ
て適当に規定されることができるというような考え方は、明治憲法の下ではとにか
く、日本国憲法が保障している基本的人権の根本観念に反するものであることを指
摘したい。論者の引用する憲法一三条は公共の福祉のため基本的自由と権利との制
約を是認しているけれども、それはあくまでも基本的人権の保障即ちその適用を前
提としているのであつて、公共の福祉の名の下にその保障を取り上げ又は排除し若
しくはその適用がないとして勝手に行政目的のために立法その他の作用で自由と権
利とを規制することを是認しているものではない。また論者は財務行政上の必要を
以て、公共の福祉というけれども、徴税上の必要というような単なる行政目的を以
て公共の福祉とするような、絶対主義的見解は、日本国憲法一二条、一三条にいう
公共の福祉の理念にそわないものである。更に論者は取締法三条には憲法三五条の
適用がないとしながら、憲法三一条に反しないという。しかし憲法三一条にいう法
律の定める手続というのは、同条以下の各本条が規定する保障の上に立つ手続をい
うのであるから、憲法三五条の適用がないとしながら、同時に同三一条の枠内のも
のとすること自体が矛盾した見解たるを免れない。
 租税犯の処罰は、近来いわゆる定額刑が廃止されて自由刑が採用されるに至つた
ように、その本質に変遷があつたことは周知のとおりである。すなわち、往時は租
税犯は国庫に対する損失の填補という見地から、追及され処理されていたのであつ
たが、昭和二二年税法罰則の改正を転機として、租税犯でも一般刑事犯と異る特色
をもたなくなつたのである。次に取締法二条、三条が犯則といつて犯罪といわず、
又刑訴法とはちがつた用語に従つていても、犯則者にとつては、訴追されれば犯則
の事実は租税犯の事実に外ならないし、又その証拠は租税犯の証拠となるものであ
る(取締法一八条参照)。ことに取締法二条にいう裁判官の許可は許可といつても
実質は憲法三五条の令状である。されば特定の罪を犯したと疑うに足る合理的理由
がないのに、右許可状によつて漫然徴税上の調査のために捜索又は差押を認めるこ
とができないことは憲法三五条の明定するところである。(そうでなければ取締法
二条はいわゆる一般令状的性質の許可を認めたことになつて憲法三五条違反となる
であろうし、又さような許可状は違憲というべきであろう。)それ故論者は行政手
続と呼んでいるけれども、取締法二条と等しく同三条も実質上は刑事手続に外なら
ないのであつて、憲法三五条の適用あること明である。
 以上述べたところは、斎藤、小林両裁判官の意見中入江裁判官の意見と共通する
部分に対しても、あてはまるものと思う。
 弁護人権逸の上告趣意に対する裁判官藤田八郎の少数意見は次のとおりである。
 (一)憲法三五条が三三条以下の諸規定と共に、刑事手続に関する規定であつて、
刑事手続以外の行政手続に直接適用のるあものでないことは、入江裁判官所説(一)
のとおりである。
 (二)しかしながら国税犯則取締法三条の手続は、入江裁判官所説(二)のごと
く単なる財務行政上の手続であつて、全然刑事手続たる性質を持たないものであろ
うか。
 国税犯則取締法は、間接国税犯則者処分法(明治三三年法律第六七号)の後身で、
もと、旧憲法下の遺物であつて、当時、同処分法は、違警罪即決例と同じく、行政
処分をもつて、ある限度において、実質上、司法処分に属する科刑処分をすること
を認めたものとせられたのである。国税犯則取締法のみとめる通告処分も、それが
国税徴収を確保するための財務行政上の目的をもつものであることは争いのないと
ころであるけれども、これを純粋な財務行政上の手続とみるべきではなく、税務官
庁が税法犯則行為に関して行うところの一種の科刑手続ーそれが強制力をもたない
点において、本来の司法処分とは本質において、異るけれどもーたる性格を有する
ものと解すべきである。同法一四条は、通告処分について、「国税局長又ハ税務署
長ハ……犯則ノ心証ヲ得タルトキハ其ノ理由ヲ明示シ罰金若ハ科料ニ相当スル金額、
没収品ニ該当スル物品……ヲ納付スヘキ旨ヲ通告スベシ」と規定する。税法等所定
の罰則の適用を外にして、罰金科料に相当する金額を徴収し、没収物を納付せしめ
る権利のないことは勿論であつて、これをもつて単なる課税権の行使とみることは
無理である。同法において、通告処分に、公訴の時効中断の効力が付与せられ(一
五条)、「犯則者通告ノ旨ヲ履行シタルトキハ同一事件ニ付訴ヲ受クルコトナシ」
(一六条)として、通告処分に、判決類似の既判効がみとめられているのは、右の
手続が刑事手続たる性格を具有することの一証左である。従つて、また、同法二条
三条所定の調査手続も、税務官吏がその権能にもとずき犯則事件の有無を決すべき
証憑を集取することを旨とするものであつて、その本質において、通常刑事手続に
おける検察官、司法警察官の犯罪捜査の処分と異るところはないのである。されば
こそ、同法はこの手続によつて集取された証憑は、「犯則事件ヲ告発シタル場合」
において、刑事々件における証拠物件として移行することを認めているのである(
一八条)。かりに同二条三条の調査手続をもつて、純然たる刑事手続とまではいえ
ないとしても、多分に刑事手続たる性格を有する処分であることは疑のないところ
である。
 自分は、憲法三五条は、刑事手続に関する規定であつて、直接、行政手続に適用
のあるものでないとすることは、冒頭所説のとおりであるけれども、以上述べたご
とく、多分に刑事手続たる性格を具有する本法二条三条所定の調査手続のごときに
対してはその適用ありと解すべきこと憲法三五条規定の趣旨からみて当然であると
信ずる。
 (三)憲法三五条一項の「三十三条の場合を除いては」の解釈については入江裁
判官の所説に賛同する。すなわち「三十三条の場合」とは三三条の規定する犯人逮
捕の場合ー令状による逮捕の場合および現行犯として令状なくして逮捕する場合の
両方の場合ーを指すのであつて、たとえ現行犯に関する場合であつても、犯人逮捕
に関連なくして、令状によらず、住居、書類、所持品の侵入、捜索、押収をするこ
とは許されない。犯人逮捕に接着する極めて例外の場合にのみ、令状なくしてこれ
らの強制処分が許されるという趣旨である。新刑訴が、二二〇条において検察官、
検察事務官又は司法警察職員は現行犯の場合たると否とを問わず被疑者逮捕の場合
において、その逮捕の現場においてのみ、裁判所の令状なくして、差押、捜索又は
検証をすることができると規定している所以である。これは旧刑訴においては、検
事又は司法警察官は「現行犯ある場合において、急速を要するときは」逮捕の現場
であると否とを問わずその事件につき押収、捜索、検証の権ありとせられていたの
を(一七一条、一八一条)新憲法三五条三三条の趣旨に従つて、右のごとく改正さ
れたものであつて、多数説のごとく逮捕の場合たると否とを問わず、令状なくして、
これらの処分ができるとするごときは、事を旧憲法下に復元せんとするものであつ
て、人権尊重の大本に立脚する新憲法の趣旨を没却するものである。
 (四)以上のごとく、国税犯則取締法三条の手続は、刑事処分たる性質を有する
ものであり、これについて憲法三五条の適用ありと解するにおいては、たとえその
犯則が現行犯の場合であつても、犯人の逮捕と関係なく、裁判所の令状なくして、
収税官吏に、臨検、捜索、差押の処分をする権能を与えた同法三条の規定は、憲法
三五条に違反する無効の規定であると断ぜざるを得ない。(この法律は前述のごと
く、旧憲法下の遺物であつて、新憲法の実施に伴い、憲法三五条の趣意に則り速か
に改正せらるべきものである。)
 これを本件について言えば、かかる違法の手続によつて作成された大蔵事務官B
外一名作成の顛末書を証拠として、被告人に有罪を宣告した原判決は違法であつて、
此点において、論旨は理由ありと思料する。
 裁判官霜山精一は退官につき合議に関与しない。
 検察官佐藤藤佐、浜田龍信、大場十郎関与
  昭和三〇年四月二七日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
裁判官井上登は退官につき署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎

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◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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