弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告スキール,被告レクサスライク及び被告協同組合は,各自,原告
らそれぞれに対し,各110万円及びこれに対する被告スキールは平成
20年1月3日から,被告レクサスライクは平成20年5月23日から,
被告協同組合は平成20年1月8日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
2(1)被告スキール及び被告レクサスライクは,各自,原告P1に対し,
192万8710円及びこれに対する被告スキールは平成20年1月
3日から,被告レクサスライクは平成20年5月23日から支払済み
まで年6分の割合による金員を支払え。
(2)被告スキール及び被告レクサスライクは,各自,原告P1に対し,
139万3564円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3(1)被告スキール及び被告レクサスライクは,各自,原告P2に対し,
192万6710円及びこれに対する被告スキールは平成20年1月
3日から,被告レクサスライクは平成20年5月23日から支払済み
まで年6分の割合による金員を支払え。
(2)被告スキール及び被告レクサスライクは,各自,原告P2に対し,
138万9564円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4(1)被告スキール及び被告レクサスライクは,各自,原告P3に対し,
174万2512円及びこれに対する被告スキールは平成20年1月
3日から,被告レクサスライクは平成20年5月23日から支払済み
まで年6分の割合による金員を支払え。
(2)被告スキール及び被告レクサスライクは,各自,原告P3に対し,
136万1316円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5(1)被告スキール及び被告レクサスライクは,各自,原告P4に対し,
174万4178円及びこれに対する被告スキールは平成20年1月
3日から,被告レクサスライクは平成20年5月23日から支払済み
まで年6分の割合による金員を支払え。
(2)被告スキール及び被告レクサスライクは,各自,原告P4に対し,
137万2982円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
7訴訟費用は,第1事件につき,原告らと被告スキールとの間において
生じた分は,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告
スキールの負担とし,原告らと被告協同組合との間において生じた分は,
これを5分し,その4を原告らの負担とし,その余を被告協同組合の負
担とし,原告らと被告協力機構との間において生じた分は原告らの負担
とし,第2事件について生じた分は,これを2分し,その1を原告らの
負担とし,その余を被告レクサスライクの負担とする。
8この判決は,主文第1項,第2項(1),第3項(1),第4項(1)及び第5
項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
(1)被告スキール,被告協同組合及び被告協力機構は,連帯して,原告P1及
び原告P2それぞれに対し,各538万4800円及びこれに対する被告ス
キールは平成20年1月3日から,被告協同組合は平成20年1月8日から,
被告協力機構は平成20年1月5日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
(2)被告スキール,被告協同組合及び被告協力機構は,連帯して,原告P4及
び原告P3それぞれに対し,各568万2400円及びこれに対する被告ス
キールは平成20年1月3日から,被告協同組合は平成20年1月8日から,
被告協力機構は平成20年1月5日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
(3)被告スキールは,原告P1に対し,354万3576円及びこれに対する
平成20年1月3日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4)被告スキールは,原告P2に対し,353万7576円及びこれに対する
平成20年1月3日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(5)被告スキールは,原告P3に対し,328万0544円及びこれに対する
平成20年1月3日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(6)被告スキールは,原告P4に対し,328万4544円及びこれに対する
平成20年1月3日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2第2事件
(1)被告レクサスライクは,原告P1及び原告P2それぞれに対し,各538
万4800円及びこれに対する平成20年5月23日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
(2)被告レクサスライクは,原告P4及び原告P3それぞれに対し,各568
万2400円及びこれに対する平成20年5月23日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
(3)被告レクサスライクは,原告P1に対し,354万3576円及びこれに
対する平成20年5月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支
払え。
(4)被告レクサスライクは,原告P2に対し,353万7576円及びこれに
対する平成20年5月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支
払え。
(5)被告レクサスライクは,原告P3に対し,328万0544円及びこれに
対する平成20年5月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支
払え。
(6)被告レクサスライクは,原告P4に対し,328万4544円及びこれに
対する平成20年5月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支
払え。
第2事案の概要
本件は,外国人研修制度の研修生として来日し,後に技能実習生となった原
告らが,①第2次受入れ機関として原告らを受け入れた被告スキール及び被告
レクサスライク(以下,まとめて「被告会社ら」という。)から,旅券・預金
通帳等を強制的に管理されたり,最低賃金を下回る低賃金での長時間労働を強
いられる等の行為を受けたことが不法行為を構成し,また,原告らの研修にお
ける第1次受入れ機関であった被告協同組合(以下,被告会社ら及び被告協同
組合をまとめて「被告各受入れ機関」という。)並びに外国人研修制度及び技
能実習制度に関する機関である被告協力機構(以下,被告4名をまとめて「被
告ら」という。)は,被告会社らを指導・監督すべき義務を怠ったとして,被
告らに対し,不法行為に基づく損害賠償(逸失利益,慰謝料,弁護士費用)及
びこれに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の連帯支払を求める(上記第1の1の第1事件及び第2事
件の各(1)及び(2))とともに,②研修期間中においても,原告らと被告会社ら
との間において明示又は黙示の雇用契約が締結されていたなどと主張して,被
告会社らに対し,未払賃金,時間外手当等及び付加金の支払並びにこれらに対
する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による
遅延損害金の連帯支払を求めた(上記第1の1の第1事件及び第2事件の各(3)
ないし(6))事案である。
1前提となる事実(以下の各事実は,当事者に争いがないか,文中掲記の各証
拠により,容易に認定することができる。)
(1)外国人研修制度及び技能実習制度
ア制度概要
外国人研修制度及び技能実習制度(以下,まとめて「本件制度」という。)
は,いずれも諸外国の青壮年労働者を一定期間日本の産業界に受け入れ,
産業上の技術・技能・知識を修得させることを目的とする制度である。外
国人研修制度は,原則として1年以内の期間に,わが国の産業・職業上の
技術・技能・知識の修得を支援することを内容とし,技能実習制度は,外
国人研修制度による研修期間と合わせて最長3年の期間において,研修に
より修得した技術・技能・知識を,雇用関係の下,より実践的かつ実務的
に習熟させることを内容とする。
イ外国人研修生及び技能実習生(甲A4,乙ロ1,弁論の全趣旨)
(ア)外国人研修生
外国人研修制度による研修を受ける者(以下「研修生」という。)は,
出入国管理及び難民認定法(平成21年7月15日法律第79号による
改正前のもの。以下「入管法」という。)別表第1の4の表の上欄の「研
修」の在留資格をもって入国することになる。
「研修」の在留資格で入国する外国人は,日本の公私の機関(以下「受
入れ機関」という。)により受け入れられて行う技術,技能又は知識の
修得をする活動(入管法別表1の4の表の「留学」及び「就学」の各下
欄に掲げる活動を除く。)をすることができるが(同法2条の2第2項,
別表1の4の表の下欄),同法19条2項に定める法務大臣の許可がな
い限り,上記「研修」の在留資格として認められている活動に属しない
収入を伴う事業を運営する活動又は報酬(業として行うものではない講
演に対する謝金,日常生活に伴う臨時の報酬その他の法務省令で定める
ものを除く。)を受ける活動を行ってはならない(同法19条1項1号)。
研修は,「実務研修」を円滑に実施するための日本語や実務研修につ
いての技術・技能に関連した産業・職業の基礎知識やノウハウ,安全衛
生の基本,生活環境・日本文化・研修への取組みの姿勢等の座学である
「非実務研修」と生産現場で実際に商品の生産に従事する等しながら,
技術,技能,知識を修得する「実務研修」に大別される。研修生は,「実
務研修」において,受入れ機関の下で,「研修」の対象となる技術,技
能又は知識を用いて労務を提供することになるが,これはあくまでも「研
修」の一環であり,受入れ機関から日本滞在中の生活に要する実費とし
て研修手当を受給することとなる。
(イ)技能実習生
技能実習生が我が国に滞在し,技能実習を行うためには,研修終了時
に,入管法上の在留資格について,「研修」から同法別表第1の5の表
の上欄にいう「特定活動」に変更することについて,許可を受けなけれ
ばならない。
上記「特定活動」とは,法務大臣が個々の外国人に対して入管法別表
第1の5の表の下欄イからニまでのいずれかに該当するものとして特
に指定する活動をいうところ,研修生が一定の要件をクリアした場合に
は,在留資格変更許可を受けることができることになる。
技能実習生は,実習実施機関との間で雇用契約を締結することになる
ことから,労働基準法及び最低賃金法(平成19年12月5日法律第1
29号により改正前のもの。以下同じ。)の適用がある。
ウ研修生の受入れ機関
研修には,企業単独型研修と団体監理型研修がある。
企業単独型研修とは,日本の企業が,海外の現地法人,合弁企業又は外
国の取引先企業(一定期間の取引実績が必要)の常勤職員を研修生として
受け入れるというものである。
団体監理型研修とは,商工会議所・商工会,事業協同組合等の中小企業
団体,公益法人等が,公的援助・指導を受けて受入れ責任を持ち,これら
の団体等の指導・監督の下でその構成員である参加企業等が研修生を受け
入れるというものである。このうち,研修を監理する団体を第1次受入れ
機関といい,同機関を通して研修生を受け入れて研修を行う企業等を第2
次受入れ機関という。
(2)当事者
ア被告各受入れ機関
(ア)被告協同組合
被告協同組合は,肩書住所地に主たる事務所を置き,組合員の行うニ
ット製品製造の裁断に関する共同加工事業,組合員の必要とする副資材
の共同購入及び組合員のために行う研修生の共同受入れ事業等を目的と
する事業協同組合であり,研修生の共同受入れ事業に関し,団体監理型
研修における第1次受入れ機関に位置づけられる。(甲A1)
(イ)被告会社ら
被告スキールは,肩書住所地に本店を置き,各種衣料品の縫製,衣料
用繊維製品の製造及び加工仕上等を目的とする特例有限会社である。
また,被告レクサスライクは,肩書住所地に本店を置き,衣料品繊維
製品(ニット系,婦人下着)の製造,加工,仕上等を目的とする合名会
社である。
被告会社らは,被告協同組合の組合員であり,団体監理型研修におけ
る第2次受入れ機関に位置づけられる。
(甲A2,弁論の全趣旨)
イ原告ら
(ア)原告P1
原告P1は,中華人民共和国(以下「中国」という。)の国籍を有する▲年
▲月▲日生まれの女性であり,平成18年4月22日,被告協同組合を
第1次受入れ機関とし,被告スキールを第2次受入れ機関として,研修
の在留資格をもって入国した。その後,原告P1は,被告スキールとの
間で技能実習契約を締結した上で,平成19年4月22日,在留期限を
平成20年4月22日として,在留資格を特定活動(技能実習)に変更
することについて法務大臣の許可を受け,技能実習生となった。(甲B
1の1・7・8,乙ロ3の1)
(イ)原告P2
原告P2は,中国の国籍を有する▲年▲月▲日生まれの女性であり,
平成18年4月22日,被告協同組合を第1次受入れ機関とし,被告ス
キールを第2次受入れ機関として,研修の在留資格をもって入国した。
その後,原告P2は,被告スキールとの間で技能実習契約を締結した上
で,平成19年4月22日,在留期限を平成20年4月22日として,
在留資格を特定活動(技能実習)に変更することについて法務大臣の許
可を受け,技能実習生となった。(甲B2の1・7,乙ロ3の2)
(ウ)原告P3
原告P3は,中国の国籍を有する▲年▲月▲日生まれの女性であり,
平成18年7月12日,被告協同組合を第1次受入れ機関とし,被告レ
クサスライクを第2次受入れ機関として,研修の在留資格をもって入国
した。その後,原告P3は,被告レクサスライクとの間で技能実習契約
を締結した上で,平成19年7月12日,在留期限を平成20年7月1
2日として,在留資格を特定活動(技能実習)に変更することについて
法務大臣の許可を受け,技能実習生となった。(甲B3の1・11,乙
ロ3の3)
(エ)原告P4
原告P4は,中国の国籍を有する▲年▲月▲日生まれの女性であり,
平成18年7月12日,被告協同組合を第1次受入れ機関とし,被告レ
クサスライクを第2次受入れ機関として,研修の在留資格をもって入国
した。その後,原告P4は,被告レクサスライクとの間で技能実習契約
を締結した上で,平成19年7月12日,在留期限を平成20年7月1
2日として,在留資格を特定活動(技能実習)に変更することについて
法務大臣の許可を受け,技能実習生となった。(甲B3の11,4の1,
乙ロ3の4)
ウ被告協力機構
被告協力機構は,平成3年9月19日に設立された,法務省,外務省,
厚生労働省,経済産業省及び国土交通省の共同管轄に属する財団法人であ
り,研修生の受入れの拡大と円滑化を図り,我が国の技術,技能又は知識
を開発途上国等に積極的に移転し,もってこれらの国の人材の育成と経済
社会の発展に寄与することを基本として,①研修生・技能実習生の受入れ
を行おうとする,あるいは行っている民間団体・企業等や諸外国の送出し
機関に対し,総合的な支援・援助や適正実施の助言・指導を行うこと,②
研修生・技能実習生の悩みや相談に応えるとともに,入管法令・労働法令
等の法的権利の確保のため助言・援助を行うこと,③制度本来の目的であ
る研修・技能実習の成果が上がるよう,受入れ機関,研修生・技能実習生,
送出し機関等を支援することを使命としている。(甲A4)
2争点及び当事者の主張
(1)不法行為に基づく損害賠償請求について
ア被告らの不法行為の成否
(原告らの主張)
(ア)被告会社らについて
a被告会社らの一体性
被告会社らは,同一敷地内に事業所を置き,一体となって衣料品の
縫製等の事業を経営し,原告らを研修生・技能実習生として受け入れ,
同一の工場において縫製の労働に従事させており,原告らは,縫製の
労働中,被告会社ら双方の指揮命令に従って労務を提供していた。
b旅券の取上げ・強制管理
(a)原告P1及び原告P2は,平成18年4月22日,下関から被
告会社らの寮に向かう自動車の中において,被告スキールの代表者
であるP5から,旅券と印鑑を預けるよう言われ,これらをP5に
渡した。当時,原告P1及び原告P2は,簡単な日常会話程度の日
本語しか理解できなかったため,P5が旅券と印鑑を渡すよう言っ
ていることは分かったが,何のために渡さなければならないのかに
ついては理解できなかった。しかしながら,原告P1及び原告P2
は,中国の送出し機関から受入れ機関の指示に従うよう言われてお
り,また,P5の要求を拒否することで強制帰国させられることを
おそれたため,P5に旅券及び印鑑を手渡した。原告P1及び原告
P2は,旅券及び印鑑を手渡したことにつき,承諾書に署名してい
ないし,署名を求められたこともなかった。そして,原告P1及び
原告P2の旅券及び印鑑は,外国人登録の際に一度手元に戻された
だけで,平成19年8月31日まで返却されなかった。
また,原告P3及び原告P4の旅券及び印鑑は,下記(イ)cのと
おり,被告協同組合によって取り上げられた後,被告会社らに渡さ
れ,被告会社らによって管理され,外国人登録の際に一度手元に戻
されただけで,平成19年8月31日まで返却されなかった。
このため,原告らは,常時旅券を所持することができず,帰国の
自由・移動の自由のない状態に置かれた。
(b)旅券は研修生・技能実習生にとって日本滞在中の身分証明となる
ものであり,帰国を希望する場合には欠かせないものであり,本人
が携帯することが義務づけられている(入管法23条)。法務省も,
研修生の受入れ企業に対し,旅券を取り上げ,強制管理することを
止めるよう改善勧告を出しており,被告協力機構も同勧告に従うよ
うに指導しているし,国際人権B規約12条も「合法的にいずれか
の国の領域内にいる全ての者は,当該領域内において,移動の自由
及び居住の自由についての権利を有する。」と規定している。被告
会社らは,原告らの逃亡を防止して囲い込み,低賃金で働かせるた
めに旅券を取り上げて管理してきており,原告らは,常時旅券を所
持することができず,帰国及び移動の自由のない状態に置かれたの
であって,被告会社らの上記取扱いは,憲法13条,22条2項,
18条に反し,民法709条の不法行為に該当する。
c強制預金・通帳の強制管理
上記bのとおり,原告P1及び原告P2は,平成18年4月22日,
原告P3及び原告P4は,同年7月12日,それぞれ印鑑を取り上げ
られ,P5によって管理された。そして,P5は,同年5月18日に
原告P1及び原告P2の預金口座を,同年8月22日に原告P3及び
原告P4の預金口座をそれぞれ無断で開設し,生活費として月約1万
円を現金で交付する他は,原告らの研修手当・賃金・残業代を上記各
預金口座に振り込む形で支払ってきた。そして,原告らの印鑑及び預
金通帳がP5によって保管されていたため,原告らは,自己の賃金を
上記各預金口座から自由に下ろすことができなかったし,原告らが自
分の預金通帳を見ることができるのは,月1回ある給料日の昼休みの
約1時間だけであった。
下記(2)ア(原告らの主張)(ア)のとおり,原告らと被告会社らとの
間には労働契約が成立し,労働基準法の適用があるところ,強制預金
は,一定の例外を除いて禁止され(同法18条1項),刑事罰の対象
とされているのであり(同法119条1号),また,国際人権B規約
8条,12条,ILO29号条約1条,4条にも違反する。被告会社
らは,上記bの旅券と預金通帳の強制管理を行うことで,二重の逃亡
防止措置を謀っており,この行為は強い違法性を有し,原告らの人格
権を侵害するものである。なお,被告会社らは,原告らの預金口座を
2つ作成し,1つを研修手当・技能実習の基本給振込用,もう1つを
残業代振込用としていたが,その目的は,原告らの違法残業の発覚を
防止することにあり,責任追及をおそれて後に預金通帳を処分する等
しており,極めて悪質といえる。
d違法な労働状態
原告らは,下記(2)ア(原告らの主張)(ア)のとおり,研修生として
来日した直後から,平均して,午前8時30分から午後10時ころま
で就労させられ,忙しい時期には深夜午前3時ころまで就労させられ
たこともあり,一方で,休日は,月1回程度不定期に与えられるのみ
であった。下記(2)ア(原告らの主張)(ア)のとおり,原告らと被告会
社との間には労働契約が成立し,労働基準法の適用があるから,被告
会社らの上記各行為は,労働基準法32条,35条及び36条に違反
し,原告らの人格権を侵害する。
加えて,被告会社らは,原告らに対して,研修期間中は研修手当を
月6万円,残業代を時給300円しか支払わず,技能実習移行後も,
残業代を時給300円しか支払わず,研修・技能実習期間を通じて,
一貫して最低賃金以下の極めて低額の賃金しか支払わなかった。また,
上記cのとおり,被告会社らは,原告らの賃金の大部分を強制的に貯
金させていた。使用者は,賃金を全額,労働者に直接払わなければな
らず(労働基準法24条1項本文),最低賃金を下回る労働契約は,
その部分について無効とされているのであり(最低賃金法5条2項),
しかも,上記各法令に反する行為は刑事罰の対象とされているのであ
るから(労働基準法120条1号,最低賃金法44条),被告会社ら
の各行為は強い違法性を有し,原告らの人格権を侵害するものである。
さらに,原告らには,毎日厳しいノルマが課せられ,そのノルマを
達成しないと作業を終えることが許されず,上記のとおりの残業を強
いられ,午後10時以降の残業には残業代は支払われなかった。また,
原告らがその日に課せられたノルマが終わらない場合は,翌日に前日
分のノルマをこなさなければならず,その場合も前日のノルマ達成に
要した作業には賃金は支払われなかった。平成18年8月24日,原
告ら12名は,P5に対し,ノルマを減らすことと休みを与えること
を要請し,同月25日午後から同月27日まで作業を放棄したが,同
月28日,被告協同組合のP6理事長から「仕事をしたくないなら中
国に帰ってください。帰ったら別の中国人が来る。中国から来たい人
はたくさんいる。会社を潰さないでください。」とストライキをやめ
るよう要求され,さらに,同月分の残業代から7000円が天引きさ
れることがあった。これらの行為は違法であり,原告らの人格権を侵
害するものである。
e劣悪な住環境
原告らは,被告会社らの工場の2階にある寮で生活していたが,そ
の寮は,部屋の半分がパーティションで区切られ,一方は食事や調理
をする共同スペースとして利用され,もう一方は2段ベッドが12人
分,部屋いっぱいに詰めて置かれており,そこで12人の研修生・技
能実習生が生活していたため,極めて狭く,プライバシーの確保など
到底望めなかった。また,エアコンは100円で2時間稼働するもの
であるが,原告らは,金銭的な余裕がなかったためにこれを利用でき
ず,冬は小さな電気ストーブを3つ利用できるだけで,寮内でもコー
トを着て過ごさなければならなかった。風呂は1人用のものが1つあ
るだけで,12人が1人ずつ交替で入浴しなければならなかった。ま
た,原告らは,研修及び技能実習を通して食費を各自で負担し,就業
後に自炊していたため,就寝するのは早くても午前零時,遅いときは
午前3,4時であり,過酷な労働のために疲弊しているなか,十分な
休憩や睡眠をとることすらできず,精神的・肉体的疲弊は筆舌に尽く
せないものがあった。また,原告らは,技能実習移行後,食費のみな
らず家賃等も自己負担とされ,上記住環境にもかかわらず,毎月家賃
1万8500円,水道光熱費5000円及びその他(共益費)118
6円を給与から控除されていた。被告会社らは,このような劣悪な住
環境の下で,原告らに過酷な労働を強いており,原告の人格権を侵害
するものである。
f預金の流用
P5は,強制的に管理していた原告らの預金について,原告P1及
び原告P2については平成18年10月18日に,原告P3及び原告
P4については平成19年4月5日に,各25万円を,原告らの承諾
を得ることなく引き下ろし,事業資金に充てた。上記各25万円は,
同年8月31日,被告会社らから原告らに返却されたが,預金通帳に
ついては,わずか5分程度見せられただけで,現在まで,返却されて
いない。
被告らの行為は,業務上横領(刑法253条),私文書偽造・同行
使(同法159条1項,161条1項)に該当し,違法性が高く,原
告らの人格権を侵害するものである。
g外出の禁止
被告会社らは,原告らに対し,無断外出と外部の人間との接触を制
限し,携帯電話やパソコンなどの通信機器の所持を禁止していた。原
告らは,休日であっても自由に外出することができず,買い物に行く
際には,P5が自動車でスーパーまで送迎をすることがあった。P5
は,休日でも午前10時ころと午後2,3時ころに寮に来て,原告ら
を点呼し,全員揃っているかを確認していたため,原告らは,P5が
点呼に来ない時間帯に内緒で外出するしかなかった。また,原告らの
外出が発覚すると,P5は,原告らが戻るまで寮に居座り,寮に残っ
ている者に外出先をしつこく尋ね,帰宅後は訪ね先をしつこく問いた
だし,今後,二度と外出しないよう叱責した。原告らは,家族であっ
ても,外部の人間と自由に連絡を取ることを禁止されており,毎週日
曜日のみ,20分程度,外部に電話することが許されるのみであった。
使用者は,事業の附属寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵
してはならないのであり(労働基準法94条,事業附属寄宿舎規程4
条1号,3号),また,かかる措置は原告らの逃亡防止の措置に他な
らないから,被告会社らの上記行為は,原告らの人格権を侵害するも
のである。
h不法行為の一体性
被告会社らの上記bないしgの各行為は,それぞれが原告らの人格
権を侵害する違法行為であるが,いずれも原告らの逃亡及び違法発覚
を防止する措置というべきものであり,これを原告らの側から見れば,
原告らが逃亡したくなるような違法な労働状態・労使関係・生活環境
に置かれたことを示すものであり,本件制度における構造的な問題の
中で,全体として一体化した不法行為を構成するものであり,極めて
悪質で違法性の高いものである。
(イ)被告協同組合について
a研修期間中の作為義務違反
本件制度における団体監理型研修は,被告協同組合のような団体に
よる「監理」を適正な研修実施の担保とし,単独での適正な研修の実
施を期待できない中小零細企業でも研修生の受入れを可能とするため
に設けられたものであり,受入れ要件が緩和されたものである。そし
て,団体監理型研修の実施主体は,あくまで第1次受入れ機関であり,
同機関は,法務省入国管理局が公表した研修生及び技能実習生の入
国・在留管理に関する指針(平成11年2月公表。その後,平成19
年12月に改訂された。以下,平成11年2月公表のものを「本件指
針」,平成19年12月改訂のものを「本件改訂指針」という。)及
び平成16年2月27日法務省告示第97号(入管法第7条第1項第
2号の基準を定める省令の研修の在留資格に係る基準の6号の特例を
定める件。以下「6号告示」という。)上,「監理」の在り方として,
研修制度の適正実施のために,①非実務研修の実施(1か月,160
時間),②研修制度の趣旨の周知,③生活指導員の育成,④研修指導
員の育成,⑤適正な研修生の選抜,⑥不法就労の排除,⑦監査・報告
の実施が要求されており,監査・報告には,少なくとも3か月に1回
の定期監査・地方入国管理局への報告,問題事例等の報告が要求され
ている。さらに,本件制度の悪用事例は深刻な社会問題となっている
ところ,研修生・技能実習生の多くは,送出し機関に多額の保証金を
支払っている結果,強制帰国に対する危惧感を持っているから,同人
らに被害申告や権利救済の要求を自発的に求めることは困難である。
以上に加え,入管法第7条第1項第2号の基準を定める省令の研修の
在留資格に係る基準の5号の特例を定める件(以下「5号告示」とい
う。)第8号ロ等において「当該研修が当該団体の監理の下に行われ
るものであること」との規定があることからすれば,被告協同組合に
は,第1次受入れ機関として,原告らに対して適正に研修を実施する
法的義務があり,第2次受入れ機関である被告会社らに対して,適正
な研修の実施のために指導監督する作為義務がある。
それにもかかわらず,被告協同組合は,原告らが研修期間中,何ら
の監査も実施しなかったし,原告らは,被告協同組合の職員から研修
実態の聴取り調査を受けなかった。また,仮に監査が行われたとして
も,P6理事長は,1回の監査につきわずか30∼40分しか時間を
かけておらず,また,研修生のうち1,2人しか聴取をしておらず,
仮に旅券の取上げ等の問題が見つかっても,被告協同組合は当事者同
士の問題であるとして,特段,指摘や指導をしていないと供述してい
るから,当該監査はあまりに不十分であったというべきであり,監査
の実態がなかったことは明らかである。加えて,被告協同組合は,原
告らの研修期間中の上記ア(原告らの主張)(ア)の被告会社らの違法
行為を認識し,又は容易に認識し得たにもかかわらず,違法行為の是
正指導を行わなかった。
したがって,被告協同組合には,原告らに適正な研修を実施する義
務及び適正な研修の実施のために被告会社らを指導監督する義務の違
反がある。
b技能実習期間中の作為義務違反
技能実習移行後は,第1次受入れ機関は技能実習生を受け入れる機
関ではなくなり,法令上,監督などの義務は課されていない。しかし
ながら,被告協同組合は,技能実習移行後も,信義則又は条理,不作
為の先行行為に基づき,第2次受入れ機関に違法行為があれば,是正
指導をするという作為義務を負うというべきである。すなわち,被告
協同組合は,原告らの研修期間中から,上記ア(原告らの主張)(ア)
の被告会社による原告らの人権侵害行為を認識していたか,もしくは
容易に認識し得たにもかかわらず,被告会社らに是正指導することな
く違法行為を容認していた。さらに,被告会社らは,被告協同組合の
組合員であり,被告協同組合は,原告らの研修期間中の第1次受入れ
機関であるから,被告会社らに対する是正指導をして原告らに生じた
人権侵害状態を回避することは容易であったといえる。本件改訂指針
においても,第1次受入れ機関には,技能実習移行後も,技能実習の
適正実施のために第2次受入れ機関を指導することが求められてい
る。被告会社らは,単独では原告らを研修生として受け入れることは
できなかったのであり,被告協同組合が第1次受入れ機関として原告
らを受け入れなければ被告会社らは原告らを技能実習生として利用す
ることができなかったのであるから,被告協同組合による原告らの受
入れは,被告会社らによる原告らに対する技能実習移行後の違法行為
の不可欠の前提となっているというべきであり,原告らが技能実習期
間中に受けた人権侵害は,被告協同組合が原告らの研修期間中に被告
会社らに是正指導をしなかった結果,生じたものといえるのであって,
被告協同組合には,不作為の先行行為に基づいて,作為義務が発生し
ている。
それにもかかわらず,被告協同組合は,被告会社らに対し,違法行
為の是正指導を行わなかったのであり,上記作為義務の違反がある。
c原告P3及び原告P4の旅券の取上げ
原告P3及び原告P4は,平成18年7月12日,下関港に着き,
同日,被告協同組合事務所において,同被告の職員から旅券と印鑑を
渡すよう指示された。原告P3及び原告P4は,中国の送出し機関か
ら受入れ機関の指示に従うよう言われており,また,被告協同組合の
職員の要求を拒否することで強制帰国させられることをおそれたた
め,同職員に旅券及び印鑑を手渡した。なお,原告P3及び原告P4
は,旅券及び印鑑を手渡した際,承諾書に署名しておらず,署名を求
められたことすらなかった。そして,被告協同組合は,原告P3及び
原告P4から取り上げた旅券及び印鑑を,同原告らに無断で被告会社
らに引き渡した。これらの行為は,上記(ア)bと同様,原告P3及び
原告P4の人格権を侵害するものである。
(ウ)被告協力機構について
a作為義務の内容
条理に基づく法的作為義務は,①危険が切迫し,②行為者がそのこ
とを知り又は容易に知り得,③行為者がそれを容易に回避でき,④行
為者が危険を回避できる立場に自らを置いた場合に認められる。
本件において,①本件制度における受入れ機関と研修生・技能実習
生との間には,中小企業による安価な労働力の必要性と,保証金を支
払っていること等による研修生・技能実習生の違約金の負担・強制帰
国に対する危惧感が構造的に存在するため,強い支配従属関係が成立
し,研修生・技能実習生は,常に人権侵害を受ける危険に曝されてい
る。実際,原告らもまた,保証金,保証人,違約金等で縛られ,強制
帰国を理由に脅され,常に人権侵害の危険に曝され,上記(1)ア(原告
らの主張)(ア)及び(イ)cのとおり,実際に人権侵害を受けていた。
そして,②本件制度を悪用した人権侵害事例は,平成11年ころから
深刻な社会問題として知られるようになり,また,被告協力機構自身
も,たびたび同制度の適正化に関するガイドライン等を公表していた
のであるから,被告協力機構は,人権侵害事例の頻発・増加・構造的
な要因などについての認識があったといえるし,本件についても,地
方入国管理局に提出される書類や研修・生活状況報告書等の内容を調
査すれば,原告らが人権侵害を受けること又は受けていることは容易
に知り得たはずである。さらに,③被告協力機構は,国に代わって本
件制度を円滑に遂行するために設立され,同制度のほぼ全般に関与し
て制度の中核的役割を担い,また,具体的権限としても巡回指導など
の権限を有していたのであるから,被告協力機構こそが,まず違法・
不当な行為を発見し,強制的権限を有する各機関と連携するなどの手
段で,人権侵害の阻止にあたることが最も可能な立場にあったのであ
り,具体的には,被告協力機構は,同制度のあらゆる段階を通じて,
不正な行為を発見し,入国管理行政当局や労働基準監督,司法警察当
局等と協力して刑事上・行政上の処分も利用して,原告らの被害を防
ぐことができたのである。そして,④被告協力機構は,5省共管で設
立された公益法人として,財政的にも国から多額の援助を受け,さら
に多数の天下りを受け入れるなど人的にも中央官庁と深いつながりを
持っており,国が自ら研修生・技能実習生を受け入れる機関を設ける
代わりに設立された国の外郭団体であって,本件制度のほぼ全般に深
く関与し,同制度の中核的機関として,同制度が円滑に行われること
を自らの存在意義としており,巡回指導権などの具体的な権限を付与
され,同制度における人権侵害の防止・是正を自らの重要な役割・本
来的業務と位置づけていたのであるから,原告らの人権侵害に関して
も,積極的に防止・発見・是正に努めることに自らの存在意義を認め
ていたというべきである。
以上によれば,被告協力機構は,本件制度により入国した研修生・
技能実習生に対して,日本国内の法令に違反する違法な取扱いを防止
するために,受入れ機関及び受入れ企業に対して,注意,助言,指導,
支援を行い,研修生・技能実習生の法的権利を確保する法的義務(保
護義務),原告らの個々の職場を定期的に巡回調査し,原告らへの聴
取りなどによってその実態を把握し,法令遵守につき,受入れ機関及
び受入れ企業に対して是正指導を行う法的義務及び不適切な技能実習
が行われないように,適切に研修成果の評価をする法的義務があると
いうべきである。
b作為義務違反
被告協力機構は,上記具体的権限を適切に行使せず,被告各受入れ
機関による人権侵害行為を発見し,是正することをしなかった。そし
て,被告協力機構が,自らの権限を行使せず,漫然と人権侵害行為を
放置するようなことがなければ,原告らは上記ア(原告らの主張)(ア)
及び(イ)cの人権侵害を被ることはなく,被告会社らから離れたり,
被告協同組合から逃げ出すようなこともなく,技能実習を続けること
が可能であったのである。したがって,被告協力機構の不作為と原告
らが被った損害との間に因果関係があることは明らかである。
(エ)被告らの連帯責任
上記被告会社らの各権利侵害行為は,全体として一体化した不法行為
を構成するが,さらに,被告協同組合及び被告協力機構は,これらの行
為を知り,又は容易に知ることができたにもかかわらず,指導・監督を
行わなかったのであるから(被告協同組合については,自ら積極的に権
利侵害行為を行っている。),被告らは,連帯して,原告らの各損害に
つき賠償責任を負う。
(被告各受入れ機関の主張)
(ア)被告会社らの一体性について
被告会社らは一体として経営されておらず,また,原告らが被告会社
ら双方の指揮命令に従って労務を提供した事実はない。
(イ)旅券の取上げ・強制管理について
旅券については,原告らから,保管場所がないので預かってほしいと
いう申し出があり,過去に,旅券の盗難等があったことから,預けたい
人については預かることを説明し,預託者の自由な意思により預かった
ものである。その際には,被告各受入れ機関は,預かり書を徴し,原告
らに対し,返還の求めがあれば,預かり書と引き替えに,いつでも返還
することを説明し,預かり書にもその旨を記載しているし,現に,途中
で帰国を希望した者等には旅券を返還しており,何らの支障も生じてい
ないから,原告らに精神的苦痛を与えるものでもない。原告らは,旅券
の「取上げ」などと主張するが,旅券を預かることは,原告らの利益に
はなっても被告らの利益にはならない。旅券を保管することにより,原
告らを「囲い込み」などする必要は皆無であることは,技能実習生は期
間が来れば帰国するものであることを考えれば容易に理解できる。また,
原告らが主張する本件指針・本件改訂指針は,旅券の保管を禁止してい
るのではなく,一定の条件下で保管するように指導しているに過ぎない
し,被告協力機構が作成した技能実習制度利用企業向け雇用・労働条件
管理ハンドブックも,保管に心配がある等の理由で保管依頼があったと
きは,保管することができるとなっており,絶対的禁止をしているもの
ではないから,仮にこれに違背しても,そのことが直ちに原告らに対す
る不法行為等になるものではない。なお,被告各受入れ機関は,本件紛
争が生じるまでは,原告らから,旅券の返還を求められたことはない。
(ウ)強制預金・通帳の強制管理について
被告会社らは,原告らの預金口座を開設した事実はあるが,全て原告
らの依頼と承諾に基づくものである。被告会社らは,原告らから,紛失
防止のために預かって欲しいとの要望があり,通帳を預かったものであ
り,預かり書を交付し,必要なときは,預かり書と引替えにいつでも返
還することを合意していた。預金通帳については,いつでも見ることが
できるようにしており,見たいとの申し出があれば,原告らに預金通帳
を交付し,自分の部屋で確認をした上で,再度,保管依頼があったため
に預かったものであるから,何ら違法性はないし,原告らにとって便宜
(安全)ではあっても,不利益は一切与えていない。しかも,被告会社
らは,最終的には,原告らの退職時に,原告らに対し,預金全額を現金
で交付しているのであり,何らの損害も与えていない。
したがって,被告会社らの行為が不法行為になることはあり得ない。
(エ)違法な労働状態について
被告会社らにおける作業時間は午前8時30分から午後5時30分ま
でである。休憩時間は午後零時から午後1時まで,休日は土,日,祝祭
日である。残業は,基本的にはさせないこととしていたが,技能実習生
については,収入を増やしたいので残業したいという強い希望があった
ため,1日に1∼2時間(1か月に最大50時間程度)の残業を認めて
いた。時間外労働の時間数についての原告らの主張は,何ら証拠上の根
拠のないものである。
原告らは,日本人労働者と同じ労働をしており,原告らの強い要求に
基づく時間外労働が若干あったに過ぎない。そして,非実務研修もきち
んと行われていることは,明らかであり,仮にこれが一部行われていな
いことがあったとしても,それが原告らに対する不法行為となり,損害
賠償の対象となるものではない。
(オ)劣悪な住環境についての原告らの主張は争う。被告会社らは,原告
らの生活環境について,十分な配慮をしている。
(カ)預金の流用について
預金の流用など全くない。P5が原告らの了解を得て一時借入れをし
たことはあるが,借入れについては,原告らの承諾を得ているし,退職
にあたっては,預金全額が原告らに返済されている。したがって,少な
くとも,これが不法行為になることはあり得ない。
(キ)外出の禁止について
被告会社らが,原告らの外出を禁止していないことは明らかである。
外出にあたっては十分に注意するようには常に言っていたが,そのよう
な注意は原告らを預かる者として当然のことである。原告らは,日本人
の友達もでき,中国料理店などにも行っていた。
(ク)不法行為の一体性についての原告らの主張は争う。
(ケ)被告協同組合の違法行為についての原告らの主張は否認ないし争
う。
(被告協力機構の主張)
(ア)被告協力機構の役割
団体監理型の研修・技能実習において,第1次受入れ機関,第2次受
入れ機関,研修生・技能実習生本人及び送出し機関には,それぞれ果た
すべき役割があり,国は,その政策を反映させて研修生の受入れ要件・
技能実習生への移行要件を定めるが,当事者がこれに適合する行動を取
ることを予定し,かつ,当事者間において適切な契約関係が結ばれるこ
とを予定している。このように,本件制度の適正な実施が実現されるた
めには,本来,本件制度利用当事者各人(受入れ機関,送出し機関,研
修生・技能実習生本人)による法令遵守及び制度の趣旨を踏まえた運用
が第1に予定されているものである。一方,被告協力機構は,上記前提
となる事実(2)ウの使命を有しているが,同被告の業務は,国の定めた基
本的枠組みの実施に貢献し,関係当事者に周知させるための多方面に及
ぶ活動が中心であって,その中には,強制力を持つものは一切含まれて
いない。また,これらの業務の中には,指導業務も含まれているが,あ
くまでも受入れ機関の任意の協力のもとに行われているものであること
はもちろんのこと,いわゆる行政指導のような強制権限を背景とするも
のではない。さらに,被告協力機構には,受入れ機関を監視・監督する
権限はなく,監視・監督する業務も含まれていない。被告協力機構は,
民法(平成16年12月1日法律第147号改正前のもの。)34条に
基づいて設立された民間の財団法人であり,それ以上の特別な法的地位
を有するものではないから,同被告の本件制度における役割は,民間に
ふさわしい公益的業務を行うことにより,国の制度運営に貢献するとい
うものであると解される。
(イ)原告らの主張について
原告らは,被告協力機構に対し,不作為による不法行為に基づいて損
害賠償を請求しているところ,同請求が認められるのは,法令,契約,
条理などによって作為義務があるとされる者が,結果の発生を防止し得
る状態であるにもかかわらず,故意又は過失により防止行為をせず,こ
れにより,結果を発生させた場合に限られる。そして,これらの要件事
実についての主張立証責任は原告らにある。そして,作為義務について
いうならば,少なくとも,作為義務発生の根拠,発生時期及び当該根拠
から導かれる作為義務の内容を主張しなければならないし,その時点に
おける結果回避可能性,作為可能性・容易性について主張しなければな
らない。加えて,仮に過失による不法行為を主張するのであれば,過失
の評価根拠事実の主張が必要である。
しかしながら,原告らの主張する作為義務の内容は,極めて広範かつ
抽象的なものに留まっており,結果が生じれば作為義務違反とされるよ
うな内容であるとの謗りを免れないし,いつの時点で作為義務が発生し
たのかについても,何ら特定されていない。
また,本件において,原告らは,上記のとおり,被告協力機構に対し,
原告らが不法行為により日本で労働できなくなったことを理由に,逸失
利益として引き続き日本で働いて得たであろう賃金相当額を請求してい
るが,原告らの主張するとおり,被告協力機構に全ての研修生・技能実
習生の実態を正確に把握する義務があり,また,強制的権限を持つ諸機
関への通報等を行う義務があったと仮定すれば,当該義務を履行するこ
とにより,原告らは帰国せざるを得なくなる可能性が高く,その後に日
本で働いて得たであろう賃金相当額を,「義務」を果たした被告協力機
構に請求できるとすることは自己矛盾となる。
以上からすれば,原告らの被告協力機構に対する主張は,主張自体失
当である。
(ウ)被告協力機構は不法行為責任を負わないこと
原告らの被告協力機構に対する主張は,主張自体失当であるが,念の
ために,以下,同被告が不法行為責任を負わないことを明らかにする。
a法令・契約に基づく作為義務について
原告らは,①適切な事業の実施のための情報収集・指導・助言等を
行う具体的な作為義務及び②不適切な技能実習が行われないように,
適切に研修成果の評価をする法的義務を負うと主張する。しかしなが
ら,①について,原告らの主張する受入れ機関への巡回指導業務は,
あくまでも受入れ機関の任意の協力のもとに行われているものであ
り,何らの「権限」をも背景とするものではないことは上記(ア)で述
べたとおりであるし,②についても,被告協力機構による研修成果の
評価は,研修生の技能実習への移行に関して評価機関から受けた研修
成果の評価結果(合否)の通知を取りまとめて報告するといった極め
て客観的で技術的なものであり,法務大臣等に対してその判断材料の
一部を提供するものに過ぎない。また,技能実習への移行という在留
資格変更許可処分の権限を有するのは法務大臣等であって,被告協力
機構が技能実習への移行について実質的な許可権限を有しているとす
る原告らの主張は明らかな誤りである。
したがって,被告協力機構に,法令・契約に基づく作為義務が発生
する余地はない。
b条理上の作為義務について
原告らは,被告協力機構が,団体監理型の受入れにおいて問題事例
が多数発生していたこと及び原告らの研修が団体監理型であったこと
を認識していたことから,原告らに対する不法行為も認識していたと
主張するが,かかる原告らの主張には明らかな論理の飛躍があり,こ
れが成り立たないことは自明である。そして,条理上の作為義務が発
生する前提条件としては,少なくとも,作為義務者と当該作為を必要
とする者との間に,それを単なる道義上の義務などとは異なる法的な
義務とするだけの特殊な社会的関係が必要であるところ,上記(ア)の
とおり,被告協力機構の本件制度における役割からは,同被告が,受
入れ機関や個々の研修生・技能実習生との間で,条理上の作為義務を
発生させるような特殊な社会的関係に立たないことは明らかである。
さらに,被告協力機構としては,原告らの主張する不法行為(原告
らの主張(ア)及び(イ)c)の発生については不知ないし争うものであ
るが,仮にそのような不法行為が発生していたとしても,被告協力機
構は,それについて認識しておらず,その点においても,特殊な社会
的関係が生じる余地はない。
したがって,被告協力機構に,条理上の作為義務が生じる余地もな
い。
イ損害及びその額
(原告らの主張)
(ア)逸失利益
原告らは,研修生・技能実習生として,通算して3年間は日本で働く
ことが予定されていた。しかしながら,原告らは,被告らの不法行為に
より,平成19年9月以降,労働する機会を失った。仮に同月以降も日
本において労働を継続したとすれば,原告P1及び原告P2は,平成2
1年3月までの19か月間,原告P3及び原告P4は,平成21年6月
までの22か月間,賃金を得ていたはずである。したがって,原告らに
は,逸失利益として,日本で働いて得たであろう賃金相当額の損害が生
じている。
そして,熊本県の本件訴え提起時(平成19年12月6日)における
最低賃金額(時給620円)を基礎にして,平日(月20日)に,原告
らの労働日の所定の就業時間であった午前8時30分から午後5時30
分まで(1時間の休憩を含む。)の間の8時間働いたと仮定して,その
逸失利益を算定すると,以下のとおりとなる。
a原告P1及び原告P2各188万4800円
4960(620×8)(円/日)×20(日)×19(月)=188
万4800(円)
b原告P3及び原告P4各218万2400円
4960(620×8)(円/日)×20(日)×22(月)=218
万2400(円)
(イ)慰謝料
原告らは,被告らの不法行為によって人間としての尊厳を著しく傷つ
けられた。原告らの屈辱感,不安等は計り知れず,原告らが被った精神
的苦痛は甚大である。
このような精神的苦痛を慰謝するには,原告ら各自につき,各300
万円が相当である。
(ウ)弁護士費用
原告各自につき各50万円を請求する。
(被告らの主張)
争う。
ウ紛争解決の合意(和解契約)の成否
(被告各受入れ機関の主張)
被告会社らは,本件紛争を生じて事業の遂行ができず,既に廃業してい
る。その結果,被告会社らは,収入の途を失ったが,それでも,本件が国
際的な問題であり,原告らが加入した労働組合の執拗な要求があったため,
労働局は,解決のため,被告会社らに対し,金員の支出を要請した。被告
会社らは,原告らの主張の大部分が事実に反することであり,しかも,既
に廃業して資金の準備ができないことから,この要請に応えることは困難
であったが,自分は廃業しても,他に事業継続し,中国から研修生・技能
実習生を受け入れている企業が多数あることを考えて,労働局の要請に応
じることとし,労働局の要請どおり,原告P1及び原告P2に対し,時間
外・休日労働手当として各25万円,解雇予告手当として各17万円の計
各42万円,また,原告P3及び原告P4に対し,時間外・休日手当とし
て各6万円,解雇予告手当として各17万円の計各23万円を支払った。
この支払は,労働局の強い要請で,紛争解決のための解決金の性質を有す
るもので,被告会社らは借金をしてまで出捐したもので,これで紛争解決
しないのであれば,出捐しなかったものであるから,仮に上記ア(原告ら
の主張)(ア)及び(イ)が認められるとしても,原告と被告各受入れ機関と
の紛争は,既に,和解により解決済みである。
(原告らの主張)
被告会社らが原告らに対し,時間外・休日手当及び解雇予告手当を支払
ったこと及びその額については認めるが,紛争解決の合意が成立したこと
については争う。
また,被告協同組合は,原告らに対し,「貯金,給料,その他清算確認
書」なる文書(以下「清算確認書」という。)に署名をさせている。しか
しながら,清算確認書は,平成19年9月3日に,原告らが,P6理事長
から同年8月分の給与として約11万円を受領した際,P6理事長から署
名を求められたものである。原告らは,清算確認書は日本語で記載されて
いるためその内容がわからなかったが,被告協同組合の職員がその内容を
同年8月分の給与を受領したことであると中国語で説明し,署名を拒むと
技能実習を継続できず,中国に強制帰国させられると思い,署名したもの
である。したがって,清算確認書をもって,原告らの貯金,給与等の清算
が全て済んでいるということはできない。
(2)賃金等の支払請求について
ア研修期間における原告らの労働者性の有無(労働基準法及び最低賃金法
の適用の可否)
(原告らの主張)
(ア)労働者性の有無
原告らは,研修期間中,研修を受けることなく,被告会社らの指揮命
令のもと,縫製業務の労働に従事していたのであり,労働基準法9条所
定及び最低賃金法2条1号所定の労働者に該当する。したがって,原告
らと被告会社らとの間には,労働契約が成立しており,労働基準法及び
最低賃金法の適用があるというべきであり,被告会社らは,研修期間中
の労働に対し,最低賃金額により算定された賃金及びそれを基準とした
深夜・時間外労働手当を支払わなければならない。
a実質的に研修がされていないこと
外国人研修制度においては,①非実務研修を研修期間全体の3分の
1以上行う必要があり,②研修生に修得させる技術等は,それが「研
修」としてふさわしいものである必要があり(すなわち,既に研修生
本人が身につけている技術等では「研修」とはいえない。),③「研
修」の実を挙げ,かつ,「研修」を低賃金労働に利用する脱法行為を
抑止するため,時間外の稼働や休日労働は原則として許されない。そ
れにもかかわらず,①原告P1及び原告P2は,平成18年4月に来
日して以降,非実務研修を全く受けることはなく,原告P3及び原告
P4は,来日した同年7月12日から同月21日までの10日間,被
告協同組合において日本語の教育を受けたのみであったし,②原告ら
は,いずれも,中国で中学校を卒業後,縫製工場において縫製の仕事
をした経験があるところ,被告各受入れ機関は,原告らに対し,格別
の職業訓練を施すことなく,単に仕事内容が書かれたプリントを渡し
たのみで,中国で原告らが得た技術のみでこなすことができる縫製の
単純作業に従事させたものであるし,③上記(1)ア(原告らの主張)(ア)
dのとおり,被告会社らは,原告らを毎日朝8時から夜10時まで働
かせ,休日は月に1日から3日程度しか与えず,深夜残業までもさせ
る状態であったのであり,これに上記(1)ア(原告らの主張)(ア)及び
(イ)の事情を併せ考慮すれば,原告らの研修期間において,「研修」
の実質が失われていたことは明らかである。
b原告らは労働基準法及び最低賃金法にいう「労働者」に該当するこ

労働基準法9条所定及び最低賃金法2条1号所定の「労働者」に該
当するか否かは,契約の外形にかかわらず,実質的な使用従属関係の
有無(指揮監督関係の存否及び報酬の労務対償性)によって判断され
るべきであって,その中心的な考慮要素である指揮監督関係の存否の
判断の際には,①仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由
の有無,②業務遂行上の指揮監督の有無,③時間的・場所的拘束性の
有無,④労務の代替性の有無などの諸要素が考慮されるべきであり,
「使用従属性」の基準を補強する判断要素として,事業者性の有無,
専属性の程度等が考慮されるべきである。
本件について見ると,指揮監督関係の存否については,①原告らは,
来日後すぐ,ノルマを課され,終日,ひたすら定型的な縫製作業に従
事させられたのであり,原告らには,与えられた仕事を拒否して,他
の業務を選択する余地はなく,被告会社らの指示について諾否の自由
はなかったし,②原告らは,上記縫製作業について,被告会社らから
具体的な仕事のやり方を示され,女性用下着を水準どおり仕上げるこ
とが求められ,仕事のやり方について裁量の余地はなかったし,③原
告らは,被告会社らの工場内で,通常は午前8時から午後10時まで
働かされており,ときには夜中の3時ころまで縫製作業をさせられ,
この間,原告らは工場(会社)外に出ることはできず,ノルマ達成の
ために,P5らの監視下で作業に取り組み続けていたし,④原告らは,
自らの裁量で他の者を使役して労務を提供することは許されておら
ず,自らの判断で補助者を使うこともできなかった。そして,報酬の
労務対償性については,原告らは,被告会社らの工場で指揮監督に服
しながら縫製作業に従事することで生活の資を得ていたし,被告会社
らは,深夜にわたる長時間労働,休日労働に対して,「残業代」とし
て低額ながら時給300円を支払っていたのであって,原告らは,被
告会社らに提供した労務の対償として報酬を得ていたものということ
ができる。以上に加え,原告らは,被告会社らの工場で,被告会社ら
所有の道具,被告会社らから提供された材料を使い,被告会社らの指
揮命令の下で縫製作業に従事していたこと,原告らは,賃金を被告会
社らのみに依存していたこと,被告各受入れ機関は,結局のところ,
原告らを,日本人並みの待遇を与えずに済む安い労働力として期待し
て使用していたといえることをも考慮すれば,原告らは,その研修期
間においても,労働基準法9条所定及び最低賃金法2条1号所定の労
働者に該当するというべきである(最高裁判所平成14年(受)第1
250号同17年6月3日第2小法廷判決・民集59巻5号938頁
参照)。
(イ)被告会社らの一体性
原告らは,上記(1)ア(原告らの主張)(ア)のとおり,縫製労働中,被
告会社らによる共同の指揮命令に従って労務を提供していた。
すなわち,被告会社らは,同一敷地内に事業所を置いており,同一の
工場内で,被告スキールの社員も被告レクサスライクの社員も区別なく
一体となって衣料品等の製造,加工,仕上等の事業を行っていた。工場
内における作業の具体的な手順は,P5が工場内の裁断室において生地
を裁断し,原告ら研修生・技能実習生らが,工場内作業所において,被
告スキール従業員から仕様書の説明を受けて,その指示どおりにその生
地を縫製し,被告スキールの従業員及び被告レクサスライクの従業員ら
が,作業所の作業台において,原告らが縫製した製品の糸切り,検品,
包装をし,工場内倉庫において被告スキールの従業員が梱包をするとい
うものであった。原告らは,この工程の中で,受入れ機関ないし技能実
習実施先にかかわらず,P5ないし被告スキールの従業員及び被告レク
サスライクの代表者P7ないし同被告従業員から指示があれば,その指
示に従って縫製作業等の労務を提供していたのである。
以上によれば,原告らは,受入れ機関ないし研修実施先のいかんにか
かわらず,被告会社ら双方と明示ないし黙示の労働契約を締結したとい
うべきであり,被告会社ら双方に対し,賃金請求権を有している。
(被告会社らの主張)
(ア)労働基準法及び最低賃金法の適用の可否について
研修生には,研修手当を支給しており,賃金請求権はない。研修期間
は,仕事を学ぶ期間であり,文字通り「研修生」であって労働者ではな
い。また,研修生には,実務・非実務の研修につき,カリキュラムを組
み,そのとおりに行っている。
(イ)被告会社らの一体性についての原告らの主張は争う。
イ支払われるべき賃金の額
(原告らの主張)
原告らは,別紙1労働時間目録(主張)の各原告毎の労働時間に関する
表の「年月」欄に記載の月に,「労働時間」欄に記載の時間のとおり,被
告会社らの指揮命令下において就労した。その労働時間の内訳は,同目録
の「法定労働時間」,「平日残業」,「平日深夜」,「休日労働」及び「休
日深夜」の各欄に記載のとおりであり,原告らが被告会社らから支払を受
けるべき賃金等の額は,下記のとおりである(なお,熊本県における当時
の最低賃金額は時給612円であった。)。

(ア)原告P1354万3576円
①法定労働時間分165万3624円
612(円/時間)×2702(時間)=165万3624(円)
②平日残業分94万8447円
612(円/時間)×1.25×1239.8=94万8447
(円)
③平日深夜分8万3538円
612(円/時間)×1.5×91(時間)=8万3538(円)
④休日労働分101万5813円
612(円/時間)×1.35×1229.5(時間)=101万
5813(円)
⑤休日深夜分3万8678円
612(円/時間)×1.6×39.5(時間)=3万8678(円)
⑥既払金等156万7000円
被告スキールは,原告P1に対し,別紙2既払賃金目録の原告P
1の「既払賃金」のとおり,平成18年4月分から平成19年8月
分まで,基本給合計90万9000円を,時間外手当合計29万6
000円を支払った。その他に,被告スキールは,未払の時間外・
休日労働分として25万円を,被告協同組合は,未払賃金分として
11万2000円を,それぞれ原告P1に対して支払った。
⑦付加金154万0476円
被告スキールは,原告P1に対して支払うべき時間外手当の合計
額から既払金を控除した残金154万0476円(上記②ないし⑤
の合計額から⑥の既払金等のうちの時間外手当支払分合計54万6
000円を控除した金額)の支払をしていない。したがって,被告
会社らは,これと同額の154万0476円の付加金を支払わなけ
ればならない。
⑧未払賃金等合計371万3576円
⑨損益相殺
被告スキールは,原告P1に対し,解雇予告手当という名目で1
7万円を支払った。
⑩損益相殺後の額354万3576円
(イ)原告P2353万7576円
①法定労働時間分165万3624円
612(円/時間)×2702(時間)=165万3624(円)
②平日残業分94万8447円
612(円/時間)×1.25×1239.8(時間)=94万
8447(円)
③平日深夜分8万3538円
612(円/時間)×1.5×91(時間)=8万3538(円)
④休日労働分101万5813円
612(円/時間)×1.35×1229.5(時間)=101
万5813(円)
⑤休日深夜分3万8678円
612(円/時間)×1.6×39.5(時間)=3万8678
(円)
⑥既払金等156万9000円
被告スキールは,原告P2に対し,別紙2既払賃金目録の原告P
2の「既払賃金」のとおり,平成18年4月分から平成19年8月
分まで,基本給合計90万9000円,時間外手当合計30万円を
支払った。その他に,被告スキールは,未払の時間外・休日労働分
として25万円を,被告協同組合は,未払賃金分として11万円を,
それぞれ原告P2に対して支払った。
⑦付加金153万6476円
被告スキールは,原告P2に対して支払うべき時間外手当の合計
額から既払金を控除した残金153万6476円(上記②ないし⑤
の合計額から⑥の既払金等のうちの時間外手当支払分合計55万円
を控除した金額)の支払をしていない。したがって,被告会社らは
これと同額の153万6476円の付加金を支払わなければならな
い。
⑧未払賃金等合計370万7576円
⑨損益相殺
被告スキールは,原告P2に対し,解雇予告手当という名目で1
7万円を支払った。
⑩損益相殺後の額353万7576円
(ウ)原告P3328万0544円
①法定労働時間分137万5164円
612(円/時間)×2247(時間)=137万5164(円)
②平日残業分84万7467円
612(円/時間)×1.25×1107.8(時間)=84万
7467(円)
③平日深夜分8万1702円
612(円/時間)×1.5×89(時間)=8万1702(円)
④休日労働分85万4291円
612(円/時間)×1.35×1034(時間)=85万42
91(円)
⑤休日深夜分3万6230円
612(円/時間)×1.6×37(時間)=3万6230(円)
⑥既払金等120万5000円
被告レクサスライクは,原告P3に対し,別紙2既払賃金目録の
原告P3の「既払賃金」のとおり,平成18年7月分から平成19
年8月分まで,基本給合計73万6000円,時間外手当合計29
万9000円を支払った。その他に,被告レクサスライクは,未払
の時間外・休日労働分として6万円を,被告協同組合は,未払賃金
分として11万円を,それぞれ原告P3に対して支払った。
⑦付加金146万0690円
被告レクサスライクは,原告P3に対して支払うべき時間外手当
の合計額から既払金を控除した残金146万0690円(上記②な
いし⑤の合計額から⑥の既払金等のうちの時間外手当支払分合計3
5万9000円を控除した金額)の支払をしていない。したがって,
被告会社らは,これと同額の146万0690円の付加金を支払わ
なければならない。
⑧未払賃金等合計345万0544円
⑨損益相殺
被告レクサスライクは,原告P3に対し,解雇予告手当という名
目で17万円を支払った。
⑩損益相殺後の額328万0544円
(エ)原告P4合計328万4544円
①法定労働時間分137万5164円
612(円/時間)×2247(時間)=137万5164円
②平日残業分84万7467円
612(円/時間)×1.25×1107.8(時間)=84万7
467(円)
③平日深夜分8万1702円
612(円/時間)×1.5×89(時間)=8万1702(円)
④休日労働分85万4291円
612(円/時間)×1.35×1034(時間)=85万42
91(円)
⑤休日深夜分3万6230円
612(円/時間)×1.6×37(時間)=3万6230(円)
⑥既払金等120万8000円
被告レクサスライクは,原告P4に対し,別紙2既払賃金目録の
原告P4の「既払賃金」のとおり,平成18年7月分から平成19
年8月分まで,基本給合計74万6000円,時間外手当合計29
万2000円を支払った。その後,被告レクサスライクは,未払の
時間外・休日労働分として6万円を,被告協同組合は,未払賃金分
として11万円を,それぞれ原告P4に対して支払った。
⑦付加金146万7690円
被告レクサスライクは,原告P4に対して支払うべき時間外手当
の合計から既払金を控除した残金146万7690円(上記②ない
し⑤の合計額から⑥の既払金等のうちの時間外手当支払分合計35
万2000円を控除した金額)の支払をしていない。したがって,
被告会社らは,これと同額の146万7690円の付加金の支払わ
なければならない
⑧未払賃金等合計345万4544円
⑨損益相殺
被告レクサスライクは,原告P4に対し,解雇予告手当という名目で
17万円を支払った。
⑩損益相殺後の額328万4544円
(被告会社らの主張)
争う。時間外労働の時間数についての原告らの主張は,何ら証拠上の根
拠のないものである。
ウ紛争解決の合意(和解契約)の成否
(被告会社らの主張)
仮に原告らの被告会社に対する賃金請求権が発生していたとしても,上
記(1)ウ(被告各受入れ機関の主張)のとおり,原告らと被告会社らとの間
の紛争は合意(和解契約)により解決済みであるから,原告らの請求は認
められない。
(原告らの主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
上記前提となる事実と証拠(甲A4,5,17,18,20,73∼75,
81の1の1∼4,81の2の1∼4,84の1の1・2,84の2の1∼3,
85の1・2,86の1及び2の各1∼3,89の1∼4,甲B1の1∼5,
1の6の1・2,1の7・8,2の1∼7,3の1・2・7∼12,4の1・
2・7∼10,乙イ1∼8,10,11及び12の各1・2,13,32,乙
ロ1,原告P1,原告P2,原告P3,被告スキール代表者,被告協同組合代
表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告らの来日の経緯
ア原告らの中国における労働内容
原告らは,いずれも中学校を卒業してすぐに中国山東省青島市にある縫
製工場に就職し,原告P1及び原告P2は平成18年1月まで,原告P3
及び原告P4は同年3月まで,ミシンを使って衣服を縫製する作業に従事
し,それぞれ月700∼1000人民元程度(月1万円から1万5000
円程度)の収入を得ていた。(甲B1の1・8,2の1・7,3の1・1
2,4の1)
イ送出し機関との契約
(ア)a原告らは,上記縫製工場での就労中,本件制度を利用して日本で
働くことを考え,外国人研修制度の受入れ機関に研修生を送り出す
機関である青島益佳国際貿易集団有限公司経済合作分公司(以下「訴
外送出し機関」という。)に対し,原告らが日本における外国人研
修制度を利用するための手続を4万人民元の保証金を支払って委託
することとし,その旨の協議書(以下「本件協議書」という。)に署名
し,その交付を受けた。原告らは,親族や知人から金員を借り入れ
て,訴外送出し機関に4万元を支払ったが,その他にも,親族ら2
人を保証人として立てなければならなかった。また,本件協議書に
は,研修生が労働組合・団体・組織に参加した場合には8万人民元
の賠償金や契約期間を守らずに帰国を要求した場合には2万500
0人民元の賠償金等の支払義務が定められていた。
b原告らの研修待遇に関して,本件協議書に記載されていた内容は,
下記のとおりである。

①職種:裁縫
②研修場所:被告協同組合
研修期間は12か月とし,技能試験に合格した場合,並びに企業・
研修生協力機構の受入れと入国管理局の認可を得た後,技能実習生
として合計36か月とすることができる。
研修期間中の1日の労働時間は8時間とし,毎週6日間労働する。
③賃金待遇
ⅰ研修手当:月6万円
技能実習期間の待遇は受入れ組合と受入れ企業の規定に従って
執行する。
ⅱ残業代は日本の研修企業の規定に従って執行する。
④税金と保険:受入れ組合と受入れ企業の規定に従う。
⑤食費:各自で賄う。
⑥住居:受入れ組合と受入れ企業の規定に従う。
⑦帰国旅費は原告らが負担する。
(甲B1の1,1の6の1・2,8,2の1・6・7,3の1・12,
4の1)
(イ)原告らは,訴外送出し機関から,本件協議書の内容について,記載
に沿って一つ一つ説明を受けたが,来日1年目は研修生で,2年目か
らは技能実習生となり,その間に試験があることは理解できたものの,
本件制度の詳しい内容及び研修制度と技能実習制度の違いについては
本件協議書には記載がなく,説明も受けなかったため,両制度の違い
は給料の額の違いにあるという程度にしか理解しておらず,研修期間
中は残業代を受け取ることは認められていないことも知らなかった。
確かに,本件協議書の賃金待遇に関する上記記載内容からは,少なく
とも,研修期間中,残業(労働)を行うことが認められないことを理
解することは困難であるということができる。(原告P1,原告P3)
ウ来日までの経緯
原告らは,平成17年11月,P5と青島市で面接し,縫製作業の実技
試験を受け,原告P1及び原告P2は平成18年1月から,原告P3及び
原告P4は同年3月から,いずれも青島市において3か月間の日本語の研
修を受け,その後,原告P1及び原告P2は同年4月22日に,原告P3
及び原告P4は同年7月12日にそれぞれ来日した。(甲B1の1・8,
2の1・7,3の1・12,4の1,弁論の全趣旨)
(2)旅券の管理について
ア原告P1及び原告P2について
原告P1及び原告P2は,来日当日,山口県下関市でP5に会い,P5
の車で被告スキールの事務所のある建物(以下「本件建物」という。)内
にある工場(以下「本件工場」という。)に向かった。P5は,知人から,研修
生に旅券を所持させていると逃亡することがあるといった話を聞いていた
ため,本件工場に向かう車中において,原告P1及び原告P2に対し,「な
くさないように」,「安全のために」と言って旅券を渡すよう求めた。こ
れに対し,原告P1及び原告P2は,訴外送出し機関から,「旅券は社長
に預けるように」との指示を受けていたため,何の疑いもなく旅券をP5
に渡した。その後,P5は,外国人登録のときを除き,平成19年8月3
1日まで,原告P1及び原告P2の旅券を管理し続けた。(甲B1の8,
2の7,原告P1,被告スキール代表者)
イ原告P3及び原告P4について
原告P3及び原告P4は,来日当日,被告協同組合の事務所に赴いたが,
同被告の職員は,原告P3及び原告P4の入国等の事務手続のため,同原
告らに対し,旅券を渡すよう求めた。原告P3及び原告P4は,訴外送出
し機関から「あなた達が旅券を持っていると危ないから,日本に行ったら
協同組合に預けなさい。」等の指示を受けていたため,預けることに不安
を感じつつも,旅券を同職員に渡した。ところが,上記事務手続の終了後,
原告P3及び原告P4の旅券は,同原告らの知らない間に,被告協同組合
からP5に交付され,同人が管理することとなった。原告P3及び原告P
4は,他の研修生の旅券もP5が管理しており,旅券の返還を求めると帰
国を求められるのではないかと考え,本件協議書における違約金の定めや
保証人の存在もあって,旅券の返還を要求することはしなかった。その後,
P5は,平成19年8月31日まで,原告P3及び原告P4の旅券を管理
し続けた。(甲B3の1・12,4の1,原告P3,被告スキール代表者,
被告協同組合代表者,弁論の全趣旨)
ウ被告協同組合による旅券の管理についての指導内容
被告協同組合は,研修生が入国したことの警察への届出,期間更新,資
格変更,一時帰国等の事務手続のため,研修生から旅券を一時的に預かる
ことがあり,また,第2次受入れ機関の多くが研修生から旅券を預かっ
ていることを認識していたが,これについては,基本的には第2次受入れ
機関と研修生との任意の取決めに任せることとしていた。そして,被告協
同組合は,第2次受入れ機関が研修生から旅券を預かる場合のために,貴
重品保管依頼書(「パスポートの預かり書」及び「研修生,実習生パスポ
ート保管依頼書」と題する書面)のひな形を作成し,同機関に交付してい
た。もっとも,原告らの旅券の保管に関しては預かり書は存在せず,また,
被告協同組合の第2次受入れ機関に対する監査の際,旅券についての預か
り証があればその写しをとることとなっていたものの,原告らの旅券につ
いて,預かり証の写しも存在していない。(乙イ10,被告スキール代表
者,被告協同組合代表者)
エ被告協力機構及び法務省の指導内容
被告協力機構は,平成18年10月作成の「技能実習制度利用企業向け
雇用・労働条件管理ハンドブック」において,技能実習制度利用企業に対
し,旅券は,本来自己責任で保管すべきものであり,事業主や他人が保管
してはならないとした上で,技能実習生からの自発的な保管依頼(依頼書
の提出)があった場合には,①技能実習生が,旅券は本人のものであり,
本人の責任において保管すべきものということを認識していること,②保
管は,適当な保管場所もなく,紛失,盗難を防ぐために技能実習生自身か
ら願い出たものであること,③保管中も,技能実習生から願いがあるとき
は,何時でも返還されること,④保管する場合は,上記①∼③の内容を明
らかにした本人からの書面が提出されていること,⑤第1次受入れ機関が
全ての旅券を保管することとしているものとか,第2次受入れ機関で保管
しているが,第1次受入れ機関の方針の基で,一律に保管することとして
いるものではないことを条件に,受入れ企業は旅券を保管することができ
るとの指針を示している。(甲A18)
また,本件指針において,第2次受入れ機関の役割として,不適切な方
法による研修生の管理を禁止しており,具体的には,旅券及び外国人登録
証明書を預かったりしてはならないことを公表している。(甲A5)
(3)原告らの来日後の縫製作業への従事状況
ア縫製作業に従事した時間
(ア)認定事実
原告らは,来日後,被告会社らの下で縫製作業に従事していた時間数
を手帳に記載し続け,これを保管していた(ただし,原告P1及び原告
P2は,その後,被告会社らの寮から被告協同組合の寮に移る際に,各
自の手帳を無くしており,同時期に研修生及び技能実習生として同一内
容の縫製作業に従事した訴外P8の手帳を写し取り,保管している。)。
したがって,原告らは,各自の手帳(甲B1の2,2の2,3の2,4
の2)に記載されたとおり,被告会社らの下で縫製作業に従事したもの
と認められ,その労働日数と時間を月毎に集計すると,別紙3労働時間
目録(認定)中の「日数」欄及び「労働時間」欄に記載のとおりとなる
(その内訳は「法定時間内労働時間」,「時間外労働時間(休日[法定
休日]深夜を除く。)」及び「休日(法定休日)における労働時間」欄
に記載のとおりである。)。そして,これらの手帳によれば,原告らは,
概ね午前8時30分から午後6時ないし午後11時まで(昼休みは1時
間),遅い場合は翌日午前3時まで縫製作業に従事していたものと認め
られる。また,原告らの休日の取得状況は,概ね月に2,3日程度であ
った。(甲B1の1・2・8,2の1・2・7,3の1・2・12,4
の1・2,原告P1,原告P2,原告P3)
(イ)事実認定の補足説明
a被告各受入れ機関は,上記認定事実について,研修時間を超える時
間外の作業時間については何ら証拠がない旨主張する。しかしながら,
下記(6)アのとおり,被告会社らから原告らの預金通帳に時間外作業手
当名目で金員が振り込まれていたのであるから,研修期間中,残業が
存在していたこと自体は否定できないところ,原告P1は,本人尋問
において,原告らは,原告らより先に本件制度を利用して来日してい
た中国人の研修生及び技能実習生から,残業代について争いが生じた
場合等に備えて作業時間をメモしておくことが重要であると教えら
れ,寝る前に毎日作業時間を手帳に記録していた旨供述しており,上
記(1)イのとおり,原告らには,研修制度と技能実習制度の違いは給料
の額にあるという程度にしか理解しておらず,研修制度の下において
も残業代を得ることが可能であると認識していたのであるから,上記
供述内容は合理性を有するということができるし,原告らの各手帳に
記載されている内容自体も,日々の作業時間の記載が30分単位で記
載されてはいるものの,内容自体に不自然な点はなく,かえって,作
業時間だけでなく,作業内容等を記載した部分があるなど,日々の作
業時間をその都度,機械的に記したものと認めることができるのであ
って,上記各手帳の記載内容には信用性を認めることができるという
べきである。そもそも,労働基準法の賃金全額支払の原則(同法24
条1項)や時間外労働及び休日労働に対する規制の存在に照らすと,
本来,使用者において,労働者の労働時間を適正に把握し,管理すべ
きであって,下記2のとおり,研修期間においても,原告らの労働者
性を認めることができる本件事案においても,このことは当てはまる
というべきであるから,被告会社らから何ら具体的な反証がされてい
ない以上,上記手帳の記載内容に沿って原告らの縫製作業の時間を認
定するのが相当である。
bところで,原告P1と原告P2は,同じ手帳を写し取っているが,
原告P1の手帳(甲B1の2)と原告P2の手帳(甲B2の2)の記
載内容には,平成18年5月2日と平成19年3月23日の各終業時
間に若干の違い(1時間と30分)がある。そして,原告P2の手帳
には記載が欠落している日(平成18年10月10日)が存在してお
り,原告P1の手帳の記載内容の方がより正確であると認められるか
ら,上記相違する点については,原告P1の手帳の記載に拠って認定
する。また,原告P2の手帳の平成18年10月10日の欠落は,同
原告が他の手帳を写し取った際に誤って生じたものと考えられるか
ら,同日の同原告の作業時間については原告P1の手帳(甲B1の2)
に基づいて認定するのが相当である。
また,原告P3と原告P4は,同じ時期に入国し,下記イのとおり,
作業内容や時間の共通性が強く認められるし,原告P3と原告P4の
手帳には若干の齟齬があるものの,ほぼ同じ内容となっている。した
がって,原告P3と原告P4の各手帳(甲B3の2,4の2)におい
て,それぞれ,記載が欠落している部分(具体的には,原告P3の平
成19年6月9日から同月29日までの間の記載が欠落しているが,
これは,前後の関係からして,同期間の作業内容を記載した頁が1頁
失われたためであると考えられる。また,原告P4の平成18年8月
28日から同月31日までの分と平成19年2月28日の分が欠落し
ているが,これも記載を失念したものと考えられる。)については,
それぞれ,相互に他方の手帳の記載に拠って認定するのが相当である。
イ作業内容
(ア)認定事実
P5又はP7は,毎日,全研修生(ないし技能実習生)の作業ノルマ
が記載された紙,例えば,「各600枚×2,1.200枚ブラキャ
ミナオシで終了!」(平成19年7月8日:甲A89の3),「7/9
∼7/15各900枚×2=1800枚終了後ナオシで終り。」(平
成19年7月9日:甲A89の4)などと記載された紙やグループ(被
告スキールと被告レクサスライクの各研修生や技能実習生を混合して編
成したグループ)毎の作業ノルマが記載された紙(甲A89の1・2)
を本件工場内に掲げることにより,原告らに対して,縫製作業のノルマ
を課していた。原告らは,研修時間(技能実習生においては法定労働時
間)を超過してもノルマを達成しない限り(自己のノルマを達成しても,
他の者[他のグループ]のノルマが達成されない限り),作業を終了す
ることができず,同日中に作業を終了できない場合には,P5が,作業
を終えるか,翌日まで作業を続けるかを判断し,P5が同日の作業を終
える旨判断した場合には,ノルマが翌日のノルマに加算されることとな
っていた。(甲A89の1∼4,甲B1の1・8,2の1・7,3の1・
12,4の1,原告P1,原告P2,原告P3)
なお,被告スキール及び同レクサスライクには日本人の従業員もいた
が,同人らにはノルマが課されておらず,就業時間は午前8時から午後
3時までであり,基本的には残業はなかった。(原告P2,被告スキー
ル代表者)
(イ)事実認定の補足説明
被告スキール代表者尋問の結果中には,本件工場内に掲示した紙は,
その日の予定を書いているに過ぎず,それができなければ残業してでも
仕上げるなどというものではない旨の供述部分が存在する。しかしなが
ら,被告会社らは,取引先から1か月の受注を受け,納期を設定されて
おり,納期が遅れ続ければ取引先の信用を失うことが認められる(被告
スキール代表者)から,P5が,上記紙に記載された内容を達成できな
い場合に原告らに残業させることは何ら不自然ではないし,上記ア(ア)
で認定したとおり,原告らは,実際に,研修時間ないし技能実習期間に
おける法定労働時間を大幅に超過する縫製作業に従事し,下記(6)のとお
り,時間外手当(残業代)の支払を受けていたのであるから,上記供述
部分は採用できない。
ウ被告会社らにおける研修生及び技能実習生の作業内容の相違
被告会社らは,同じ敷地内の本件建物に事業所を置いていた。本件建物
には,被告スキールの看板は掲げられているものの,被告レクサスライク
の看板は掲げられていなかった。
被告会社らの研修生及び技能実習生は,どちらの会社に属するかにかか
わりなく,本件建物内の同じ場所で縫製作業に従事しており,上記イのと
おり,作業グループを組む場合も被告スキールと被告レクサスライクの各
研修生(ないし技能実習生)を混合して編成したグループで作業を行って
いた。また,被告会社らにおいて,作業の難易度によっては研修生が作業
に従事しないこともあったが,従事する縫製作業の内容はほぼ共通してい
た。なお,被告会社らは,被告協力機構の監査がある際には,倉庫にミシ
ンを移動させ,本件工場を被告スキールの作業場,倉庫部分を被告レクサ
スライクの作業場として,研修生・技能実習生が所属すべき会社毎に同人
らを区別し,縫製作業に従事するという外形を作るなどしていた。
(甲A89の2,甲B2の7,原告P1,原告P2,原告P3,被告スキ
ール代表者)
(4)研修計画とその実施状況
ア認定事実
被告協同組合は,原告らを受け入れるにあたって,研修実施計画表を作
成していたが,同計画表によれば,原告らの研修期間中における非実務研
修の総時間は643時間であり,そのうち,原告らの来日1月目において,
被告協同組合における集合研修(合計160時間)が予定されており,そ
の後,被告会社らにおいて,P5又はP7らにより,①日本の生活習慣,
日本語,安全教育,商品・品質管理といった非実務研修(2月目から10
月目まで。月12∼80時間)及び②指示書・仕様書の見方,仕分け,縫
製の準備工程といった実務研修(2月目から12月目まで。月64∼16
8時間)が予定されていた。上記研修実施計画表によれば,実務研修の総
時間として,1285時間が予定されていた。
しかしながら,原告P1及び原告P2は,来日当日の平成18年4月2
2日以降,本件工場において縫製作業に従事し,被告協同組合において集
合研修を受けておらず,被告会社らによる非実務研修もほとんど受けてい
ないし,原告P3及び原告P4は,同年7月12日に来日した後,被告協
同組合において,同月21日まで非実務研修を受けているが,同月22日
以降は,本件工場において縫製作業に従事し,以後,集合研修を受けるこ
とはなく,被告会社らによる実務・非実務研修もほとんど受けていなかっ
た。また,上記(1)アのとおり,原告らは,いずれも中学校を卒業してすぐ
に中国にある縫製工場に就職し,来日する少し前まで縫製作業に従事して
いたため,P5らにより,改めて系統だった実務研修は行われなかった。
(甲A81の1及び2の各1∼4,甲B1の2,2の2,3の1・2,4
の1・2,乙イ11及び12の各1・2)
イ以上に対し,被告各受入れ機関は,上記研修実施計画に則り,原告らに
対し,適正に実務研修及び非実務研修を実施した旨主張するが,これを裏
付けるに足りる的確な証拠は見当たらない。
(5)技能実習契約の締結
原告P1及び原告P2は,平成19年1月9日,被告スキールとの間で,
原告P3及び原告P4は,同年3月28日,被告レクサスライクとの間で,
概ね下記の内容の技能実習契約を締結した。

①業務内容婦人子供服製造に必要な技能及び知識
②実習期間ⅰ原告P1及び原告P2
平成19年4月22日から平成20年4月22日まで
ⅱ原告P3及び原告P4
平成19年7月12日から平成20年7月12日まで
③労働時間就業時間
ⅰ原告P1及び原告P2
午前8時30分から午後5時まで
ⅱ原告P3及び原告P4
午前8時30分から午後5時30分まで
所定労働時間
ⅰ原告P1及び原告P2
7.5時間
ⅱ原告P3及び原告P4
8時間
休憩時間60分
④休日毎週土,日曜日,祝日
その他に年末年始,夏季休暇等計8日
⑤休暇有給休暇10日
⑥賃金月給10万7000円(ただし,税金,保険料,家賃,水
道光熱費等を控除した後の手取額は6万6000円)
毎月末日締め翌月18日払
(甲B1の7,3の11,弁論の全趣旨)
(6)預金通帳及び印鑑の管理,研修手当等の支払
ア預金通帳及び印鑑の管理
原告らは,P5に対し,旅券とともに印鑑を預けた。そして,P5は,
これらの印鑑を使用して,原告ら名義の預金通帳を原告1人につき2通ず
つ作成し,そのうちの1通については,主に研修手当(技能実習移行後は
基本給)を振り込むために使用し,他の1通については,主に研修時間外
に縫製作業に従事した対価(以下,単に「時間外作業代金」という。)及
び技能実習移行後の時間外手当を振り込むためにそれぞれ使用し,同通帳
及び印鑑を管理し続けた。旅券の場合と同様に,被告会社らによる原告ら
の印鑑及び預金通帳の保管に関する預かり書は存在しない。
原告らは,P5が預金通帳及び印鑑を管理していたため,上記各預金口
座に振り込まれる金員(以下「研修手当等」という。)につき,自由に払
戻しを受けることができず,まとまった金員が必要となった都度,P5に
申し出て,払戻しを受けていた。また,原告らの生活費は,研修手当等の
支払日に1万円から2万円程度を現金として渡してもらっていた。そして,
原告らは,各預金通帳の中身について,P5から,研修手当等の支払日に
10分程度の時間,見せてもらっていた。そして,上記各預金通帳は,下
記(10)の被告会社らの廃業の際,P5により,原告らに無断で廃棄され,
原告らに返還されることはなかった。
(甲B1の1・5・8,2の1・5・7,3の1・9・10・12,4の
1・9・10,原告P1)
イ研修手当等の支払
原告らは,被告会社らから,それぞれ,別紙2既払賃金目録記載のとお
り(但し,平成19年8月分の各支払は被告協同組合によるものである。),
①基本給として,「支給対象月」欄記載の年月分を「基本給」欄中の「支
給対象月」欄の月日に「支給額(基本給)」欄の金額の支払を受け,また,
②時間外手当として,「支給対象月」欄記載の年月分を「時間外手当」欄
中の「支給対象月」欄の月日に「支給額(時間外手当)」欄の金額の支払
を受けた。上記各金員は,上記(3)アで認定した原告らの労働時間並びに平
成18年及び平成19年当時における熊本県の最低賃金額(時給612円)
を前提にして算定した賃金額に比べると,著しく低額なものであった。(甲
B1の5,2の5,3の9・10,4の9・10,弁論の全趣旨)
(7)預金の流用
P5は,本件工場の拡張工事及び新しい研修生を迎えるための寮の新設等
のため,原告P1及び原告P2から金員を借り受けることにし,平成18年
9月ないし10月ころ,その旨を同原告らに伝えた。そして,P5は,原告
P1及び原告P2の明確な同意を確認しないまま,同年10月19日,原告
P1及び原告P2の預金口座(2つの口座)から,各それぞれ合計25万円
ずつ払戻しを受け,これを事業資金に充てた。
また,P5は,他の研修生が帰国する際の出費に充てる名目で,平成19
年4月5日,原告P3及び原告P4の預金口座(2つの口座)から,同原告
らの同意を確認することなく,それぞれ合計25万円ずつ払戻しを受け,こ
れを使用した。
上記各金員は,被告会社らの廃業に伴い,同年8月31日,P5から,原
告らに対し,旅券と共に返還された。
(甲B1の1・5・8,2の1・5・7,3の1・9・10・12,4の1・
9・10,原告P1)
(8)日常生活及び休日の状況
原告らは,本件建物の2階にある寮(広さ約66㎡)で生活していた。寮
の間取りは,大きく分けて台所,テーブルとテレビのある部屋,ベッドのあ
る部屋に分かれており,このうち,テーブルとテレビのある部屋とベッドの
ある部屋は1間続きで,間仕切りで区切れるようになっていた。ベッドは2
段ベッドが6つ,人が1人通れる程度の間隔を空けて設置されていた。
原告らは,この寮に12人で生活しており,食事は自炊で,エアコンは2
時間100円の使用料を払って利用し,ストーブはベッドのある部屋に1台
あり,風呂は1人用のものが1つあり,電話も1台あった。原告らは,上記
(3)ア(ア)のとおり,縫製作業が夜間に及ぶこともあり,作業終了後,食事を
作り,12人が交替で風呂に入るため,就寝するのが深夜になることもあっ
た。
原告らは,買物などの外出や被告会社ら以外の人との交流は可能であった
が,P5が,原告らの外出や門限等に注意を払っていたため,休日の生活に
ついて不自由を感じていた。
(甲A86の1の1,甲B1の1・8,2の1・7,3の1・12,4の1,
乙イ32,原告P2)
(9)原告らの作業放棄
原告らを含む12名の研修生及び技能実習生は,平成18年8月24日,
多い作業ノルマを課せられてノルマが達成できない日々が続き,P5から,
ノルマを達成できない場合には8月分の残業手当は支払わないと言われ,ま
た,トイレに行くのも惜しんで働くように言われたり,昼休みを1時間から
30分に短縮すると言われたりしたことから,ストレスがたまり,P5に対
し,ノルマを減らし,休みを与えることを要求し,同月25日午後から同月
27日まで作業を放棄したことがあった。(甲B1の1・8,2の1・7,
3の1・12,4の1)
(10)被告会社らの廃業とその後の経緯
P5は,被告会社らの事業を廃業することとし,平成19年8月31日,
原告らに対し,旅券及び印鑑と預金口座(2つずつ)から払戻しを受けた預
金残高に相当する金員(原告P1は18万1626円及び7万6180円,
原告P2は18万9121円及び5万0160円,原告P3は11万631
4円及び9109円,原告P4は17万6265円及び3万2087円)を
返還した。
被告協同組合の職員は,同年9月1日,本件建物を訪れ,原告らに対し,
「被告スキールと被告レクサスライクは倒産したので,仕事がしたいなら被
告協同組合で新しい会社を探す。仕事をしたくないなら帰国してよい。」と
伝えた。これに対し,原告らは,仕事がしたい旨伝えたため,被告協同組合
の職員は,原告らを同被告の事務所に連れて行った。
P6理事長は,同月3日,原告らに対し,原告らの上記手帳に基づき,同
年8月分の給料を,原告P1につき11万2000円,その余の原告らにつ
き各11万円と算定して支払い,原告らに対し,被告協同組合宛の「貯金,
給料,その他清算確認書」と題する書面に署名させた。同書面は,「私は,
第1次受入れ機関であるプラスパアパレル協同組合と,全ての貯金,給料の
支払を受け清算が済んでいることを認めます。」との文言がふりがなを付し
た状態で記載されていた。
その後,被告協同組合は,原告らの新たな第2次受入れ機関を探したが,
見つからなかった。また,原告らは,被告協力機構に対しても,新たな受入
れ先を探すことを依頼していたが,結局,見つからなかった。
これに対し,原告らは,ローカルユニオン(労働組合)に加入し,被告協
同組合の事務所を出た。
その後,被告会社らは,熊本地方労働局の仲裁により,平成19年11月
19日,原告P1及びP2に対し,時間外・休日労働手当として各25万円,
解雇予告手当として各17万円を,原告P3及び同P4に対し,時間外・休
日労働手当として各6万円,解雇予告手当として各17万円を連帯して支払
った。
(甲B1の1・3・4・8,2の1・3・4・7,3の7・8・12,4の
1・7・8,乙イ1∼8,13)
(11)本件制度における第1次受入れ機関の位置づけ
団体監理型研修は,入管法7条1項2号の基準を定める省令を受けた5号
告示及び6号告示により,中小企業団体等の一定の公的性格を有する第1次
受入れ機関が,研修の実施を「監理」することにより,中小企業等の第2次
受入れ機関の研修実施能力を補完して,適正な研修の実施を図るものである。
そして,本件指針は,第1次受入れ機関が行うべき「監理」の具体例とし
て,①非実務研修の実施,②生活指導員の育成,③研修指導員の育成,④適
正な研修生の選抜,⑤受入れ機関における不法就労の排除,⑥事前研修の実
施,⑦不適切な方法による研修生の管理の禁止,⑧監査・報告,⑨失踪事例
の取扱い及び⑩体制の確保等を挙げている。このうち,①の非実務研修の実
施については,日本語教育,安全衛生教育,日本の生活習慣等を中心に,1
か月160時間程度を目安にして欲しいとし,⑦の不適切な方法による研修
生の管理の禁止については,宿舎内の閉じこめ,旅券や外国人登録証明書の
預かり等を挙げ,⑧の監査・報告については,第2次受入れ機関に対して指
導した事項及び第2次受入れ機関が適正に研修を行っているかについて監査
し,少なくとも3か月に1回,地方入国管理局に報告する必要があるとし,
失踪等の問題事例やその疑いのあるものが発生した場合にも,地方入国管理
局に報告すること等が挙げられている。
第1次受入れ機関は,研修の実施主体であって,研修生が技能実習に移行
した後については,技能実習生の受入れ機関は技能実習実施機関(第2次受
入れ機関)のみとなる。なお,本件改訂指針(平成19年改訂)は,第1次
受入れ機関は,研修を監理していた実態に鑑み,技能実習本体の活動以外で
技能実習の実施に協力することが望ましいとした上で,①技能実習生の生活
面でのフォローアップ,②地方入国管理局等からの指導の徹底,③実習実施
機関への意識の徹底及び④実習実施機関における不法就労の排除の指導等が
望まれるとしている。
(甲A5,17,73∼75,乙ロ1)
(12)本件制度における被告協力機構の業務内容
平成18年度及び平成19年度当時の被告協力機構の業務内容は,別紙4
「被告協力機構の業務内容」に記載のとおりである。(甲A4,乙ロ1)
なお,平成5年に労働大臣が作成した技能実習制度推進事業運営基本方針
によれば,国は,技能実習制度推進事業を被告協力機構に委託しており,被
告協力機構は,同事業の円滑かつ適正な実施を図るため,関係行政機関との
連携を図りつつ,研修及び技能実習状況を把握し,必要な指導,助言等を行
うものとされている。(甲A20)
(13)被告協同組合及び被告協力機構の研修状況の監査・監督等について
ア被告協同組合について
被告協同組合は,その職員が毎月1回以上,被告会社らの事務所のある
本件建物を訪れ,監査を行い,福岡入国管理局長に対し,3か月に1回,
監査結果報告書を提出していた。被告協同組合による監査の内容は,賃金
台帳及び研修手当の領収書を確認し,また,研修生ないし技能実習生1,
2名と面接して話を聞くこともあった。しかしながら,原告らの研修につ
いての監査の際,被告協同組合の担当職員は,原告らから作業時間や研修
手当以外の支給等について事情を聴取したり,同手当の振込先の預金口座
の通帳を確認したりすることはなく,監査結果報告書においても,「研修
手当以外の支給(残業手当・休日手当)」の「問題の有無」の項の「無」
に丸印が付けられた。さらに,被告協同組合は,上記監査において,旅券,
預金通帳及び印鑑の保管状況について,原告らから事情を十分に聴取して
おらず,旅券や預金通帳等の確認も不十分であったため,原告P1及び原
告P2についての初回の監査結果報告書(監査実施日平成18年7月18
日)では,「問題の有無」の項で受入れ機関が旅券及び預金通帳を保管し
ているとされていたが,2回目の監査結果報告書(監査実施日同年10月
31日)では,受入れ機関が保管しているのは旅券のみとされ,さらに,
3回目の監査結果報告書(監査実施日平成19年1月18日)では,受入
れ機関が保管しているものは何もないとされ,また,原告P3及び原告P
4についての初回の監査結果報告書(監査実施日平成18年10月31日)
では,受入れ機関が保管しているのは旅券のみとされ,2回目の監査結果
報告書(監査実施日平成19年1月18日)では,受入れ機関が保管して
いるものは何もないとされ,3回目の監査結果報告書(監査実施日同年6
月11日)では,再び,受入れ機関が旅券を保管しているとされている等,
上記(2)ア及びイ,(6)アで認定した事実に反する報告を続けた。そして,
上記各監査結果報告書の「総合講評」欄には,原告らの研修が順調に進ん
でおり,被告会社らの指導も適正と認められる旨が繰り返し記載されてい
た。
そして,被告協同組合は,上記監査により把握した被告会社らによる原
告らの旅券や預金通帳の保管について,被告会社らに対し,特段の指導は
行っていない。
(甲A86の1及び2の各1∼3,甲B2の7,被告スキール代表者,被
告協同組合代表者)
イ被告協力機構について
被告協力機構は,被告各受入れ機関から,原告らの研修・生活状況につ
いて,ほぼ研修計画どおりに実施されている旨の報告を受けており,技能
実習制度移行のための原告らの技能実習計画を「良」と評価している。ま
た,被告協力機構は,被告協同組合から,原告らの件について,第2次受
入れ機関である被告会社らに対する指導に関して,相談を受けたことはな
かった。
(甲A84の1の1・2,84の2の1∼3,85の1・2)
2賃金等の支払請求について
(1)研修期間における原告らの労働者性の有無
ア労働基準法及び最低賃金法の適用の可否
(ア)労働基準法9条及び最低賃金法2条1号は,「労働者」について,
「職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払
われる者」と規定しており,労働基準法及び最低賃金法が適用されるか
否かは,法形式の有無にかかわらず,その実態が使用者の指揮監督の下
における労務の提供と評価するにふさわしいものであるかどうかによっ
て判断されるものというべきである。
これを本件について見るに,上記1(3)ア認定のとおり,原告らは,研
修期間中にもかかわらず,①概ね午前8時30分から午後6時ないし午
後11時ころまで,場合により午後12時を超えて,1時間の休憩を除
く他は被告会社らの指揮監督下において,本件工場内で縫製作業に従事
していたこと,②しかも,原告らは,被告会社らからノルマを課せられ,
そのノルマを達成するか,又はP5の指示があるまでは作業から解放さ
れなかったこと,③原告らは,被告会社らと雇用関係にある技能実習生
とほぼ同一内容の作業に従事し,かつ,日本人従業員よりも長時間,作
業に従事していたこと,等の事実が認められるのであるから,原告らの
研修期間中における被告会社らの下での縫製作業への従事は,被告会社
らの指揮監督の下における労務の提供であると評価するにふさわしいも
のというべきである。そして,上記1(1)及び(6)によれば,原告らは,
研修期間中においても,残業代を支払って貰えるものと理解しており,
他方,被告会社らとしても,原告らの研修期間中に,残業代として,研
修手当を超える金員を原告らに支払っていたのであり,原告らの労務の
提供に対して対価を支払う意図があったと推認されるから,原告ら及び
被告会社らの双方ともに,研修期間中,労務の提供の対価として報酬が
支払われるとの認識を有していたと認められる。
(イ)ところで,上記前提となる事実(1)イ(ア)のとおり,研修生は,①「実
務研修」として受入れ機関の下で労務を提供した場合においても,かか
る労務の提供は,「研修」の一環に過ぎず,また,②入管法上,研修生
が報酬を得る活動を行うことは原則として許されないこととなってい
る。
しかしながら,上記1(4)アのとおり,原告らは,原告P3及び原告P
4が来日後の10日間に受けた非実務研修以外,非実務研修をほとんど
受けていないし,実務研修についても,原告らは,いずれも中学校を卒
業してすぐに中国山東省青島市にある縫製工場に就職し,来日する少し
前まで縫製作業に従事してきており,P5らから,改めて系統だった研
修・指導が行われたとは認められないことからすれば,原告らが研修期
間中に従事した縫製作業はいずれも「研修」の一環とは到底認められず,
結局,「研修」とは名ばかりで,その実態を伴わないものであるし,労
働基準法及び最低賃金法は,実態としての労働関係に着目し,労働者を
保護することを目的とするものであり,入管法上,報酬を得る活動が禁
止されていることをもって直ちに労働基準法及び最低賃金法の適用が排
除されるものと解さなければならないわけではないから,上記①及び②
の事情は,上記(ア)の認定を左右するものではない。
(ウ)以上によれば,原告らは,その研修期間中においても,労働基準法
9条所定及び最低賃金法2条1号所定の「労働者」に該当するものと認
めるのが相当である。
イ被告会社ら相互の関係
上記1(3)ウのとおり,被告会社らは,原告らが,被告会社らのいずれに
属する研修生であるか,技能実習契約をいずれの会社との間で締結したか
にかかわりなく,P5を中心にして,統一された意思による共同の指揮監
督の下,原告らを,同一の建物内において同一内容の作業に従事させてい
たのであるから,原告らは,被告会社らの共同の指揮監督下で労務を提供
していたものであり,したがって,原告らと被告会社ら双方との間におい
て,明示又は黙示の労働契約が成立しているものと認めるのが相当である。
ウ小括
以上によれば,原告らは,研修期間中を含めて,労働基準法及び最低賃
金法に基づき,被告会社ら双方(不可分債務)に対し,賃金等を請求する
ことができる。
(2)支払われるべき賃金の額
ア原告らは,被告会社らの指揮監督下において縫製作業に従事し,労務を
提供したところ,技能実習期間(原告P1及び原告P2については平成1
9年4月22日以降,原告P3及び原告P4については,平成19年7月
12日以降)の労働時間の取決め等については,上記1(5)のとおりであ
る。他方,研修期間中について,特に,労働時間等について明確な取決め
がされていたとは認められないものの,上記1(3)の原告らの来日後の縫
製作業への従事状況等に照らすと,技能実習期間中の就労状況と特段の差
異は認められないから,原告ら各自の技能実習契約における取決め内容に
準じるのが相当であると認める。そして,算定の基礎となる賃金額につい
ては,原告らの研修期間及び技能実習期間中における熊本県の最低賃金額
である1時間612円によることとする。
イ賃金額
そこで,以下,原告ら各自について,法定労働時間分,時間外労働時間
(深夜労働分とそれ以外)及び法定休日分(深夜労働分とそれ以外)に分
けて算定する(円未満切捨て)。
(ア)原告P1332万2274円
①法定労働時間分172万6146円
2820.5(時間)×612(円/時間)=172万6146(円)
②時間外労働分
ⅰ時間外労働時間(深夜労働を除く。)分149万4748円
1953.92(時間)×612(円/時間)×1.25=14
9万4748円
ⅱ時間外労働時間(深夜労働)分10万4193円
113.5(時間)×612(円/時間)×1.5=10万41
93円
ⅲ休日労働(深夜労働を除く。)分33万9155円
410.5(時間)×612(円/時間)×1.35=33万9
155円
ⅳ休日深夜労働分1468円
1.5(時間)×612(円/時間)×1.6=1468円
ⅴ小計193万9564円
③既払金等156万7000円
その内訳は,上記1(6)イ及び(10)記載のとおりであり,法定労働時
間分に対して,102万1000円,時間外労働分として,54万6
000円である。
④未払賃金209万8710円
ⅰ法定労働時間分70万5146円
ⅱ時間外労働分139万3564円
⑤損益相殺17万円
原告P1は,被告会社らから,解雇予告手当の名目により支払を受
けた17万円について,損益相殺を主張しているところ,法定労働時
間分の未払賃金と損益相殺するのを相当と認める(他の原告らについ
ても同様である。)。
⑥損益相殺後の未払賃金192万8710円
ⅰ法定労働時間分53万5146円
ⅱ時間外労働分139万3564円
⑦付加金139万3564円
⑧合計額332万2274円
(イ)原告P2331万6274円
①法定労働時間分172万6146円
2820.5(時間)×612(円/時間)=172万6146(円)
②時間外労働分
ⅰ時間外労働時間(深夜労働を除く)分149万4748円
1953.92(時間)×612(円/時間)×1.25=14
9万4748(円)
ⅱ時間外労働時間(深夜労働)分10万4193円
113.5(時間)×612(円/時間)×1.5=10万41
93(円)
ⅲ休日労働(深夜労働を除く。)分33万9155円
410.5(時間)×612(円/時間)×1.35=33万9
155(円)
ⅳ休日深夜労働分1468円
1.5(時間)×612(円/時間)×1.6=1468(円)
ⅴ小計193万9564円
③既払金等156万9000円
その内訳は,上記1(6)イ及び(10)記載のとおりであり,法定労働時
間分に対して,101万9000円,時間外労働分として,55万円
である。
④未払賃金209万6710円
ⅰ法定労働時間分70万7146円
ⅱ時間外労働分138万9564円
⑤損益相殺17万円
⑥損益相殺後の未払賃金192万6710円
ⅰ法定労働時間分53万7146円
ⅱ時間外労働分138万9564円
⑦付加金138万9564円
⑧合計額331万6274円
(ウ)原告P3310万3828円
①法定労働時間分139万7196円
2283(時間)×612(円/時間)=139万7196(円)
②時間外労働分
ⅰ時間外労働時間(深夜労働を除く)分132万5301円
1732.42(時間)×612(円/時間)×1.25=13
2万5301(円)
ⅱ時間外労働時間(深夜労働)分10万4193円
113.5(時間)×612(円/時間)×1.5=10万41
93(円)
ⅲ休日労働(深夜労働を除く。)分29万0822円
352(時間)×612(円/時間)×1.35=29万082
2(円)
ⅳ休日深夜労働分0円
ⅴ小計172万0316円
③既払金等120万5000円
その内訳は,上記1(6)イ及び(10)記載のとおりであり,法定労働時
間分に対して,84万6000円,時間外労働分として,35万90
00円である。
④未払賃金191万2512円
ⅰ法定労働時間分55万1196円
ⅱ時間外労働分136万1316円
⑤損益相殺17万円
⑥損益相殺後の未払賃金174万2512円
ⅰ法定労働時間分38万1196円
ⅱ時間外労働分136万1316円
⑦付加金136万1316円
⑧合計額310万3828円
(エ)原告P4311万7160円
①法定労働時間分139万7196円
2283(時間)×612(円/時間)=139万7196(円)
②時間外労働分
ⅰ時間外労働時間(深夜労働を除く)分132万7978円
1735.92(時間)×612(円/時間)×1.25=13
2万7978(円)
ⅱ時間外労働時間(深夜労働)分10万6029円
115.5(時間)×612(円/時間)×1.5=10万60
29(円)
ⅲ休日労働(深夜労働を除く。)分28万9996円
351(時間)×612(円/時間)×1.35=28万999
6(円)
ⅳ休日深夜労働分979円
1(時間)×612(円/時間)×1.6=979円
ⅴ小計172万4982円
③既払金等120万8000円
その内訳は,上記1(6)イ及び(10)記載のとおりであり,法定労働時
間分に対して,85万6000円,時間外労働分として,35万20
00円である。
④未払賃金191万4178円
ⅰ法定労働時間分54万1196円
ⅱ時間外労働分137万2982円
⑤損益相殺17万円
⑥損益相殺後の賃金174万4178円
ⅰ法定労働時間分37万1196円
ⅱ時間外労働分137万2982円
⑦付加金137万2982円
⑧合計額311万7160円
(3)紛争解決の合意(和解契約)の成否
上記1(10)のとおり,被告会社らは,原告らに対し,時間外・休日労働手
当及び解雇予告手当を支給しており,被告会社らは,同支給により,原告ら
と被告会社らとの紛争は,解決済みである旨主張する。
しかしながら,上記各手当の支払により,原告らと被告会社らとの間でそ
の余の債権債務関係を全て清算する旨の合意(和解契約)が成立したと認め
るに足りる証拠は見当たらないから,被告会社らの主張は採用できない。(な
お,上記1(10)のとおり,原告らは,被告協同組合に対して清算確認書を提
出しているが,同書面は被告協同組合に対するものであるから,これをもっ
て被告会社らとの間で紛争解決の合意があったと認めることはできない。)
(4)小括
以上によれば,原告らは,被告会社らに対し,原告P1は332万227
4円の,原告P2は331万円6274円の,原告P3は310万3828
円の,原告P4は311万7160円の各賃金等支払請求権を有する。
3不法行為に基づく損害賠償請求について
(1)被告らの不法行為の成否
ア被告会社らについて
(ア)旅券の預り行為及び管理行為について
上記1(2)ア及びイのとおり,P5が原告らの旅券を管理する主たる目
的は,原告らの逃亡防止にあったのであり,他方,原告らは,本来,自
己で保管すべき旅券を被告会社らに管理させることの意味・目的を十分
に理解できないまま,来日当日に,指示されるまま,原告P1及び原告
P2においては直接P5に,原告P3及び原告P4においては被告協同
組合を介してP5に,旅券を引き渡したものであるところ,上記1(2)
ウ及びエによれば,法務省入国管理局及び被告協力機構は,旅券を預か
ることの問題点を指摘し,旅券は,本来自己責任で保管すべきものであ
り,事業主や他人が保管してはならないとの基本的立場に立っており,
P5は,これらのことを十分に認識していたのであるから(被告スキー
ル代表者),上記逃亡防止という目的を秘したまま原告らの旅券を預か
ることが許されないことについても十分に認識していたと認められる。
そして,外国人は,日本への入国にあたっては有効な旅券を所持してい
なければならず(入管法3条1項1号),日本に在留するには,外国人
登録証明書を携帯する場合を除き,常に旅券を携帯しなければならず(同
法23条),これに違反した者には罰則規定の適用が予定されている(同
法76条)のであるから,旅券は,日本に在留する外国人にとって,日
本への入国・在留資格を公的に証明し,日本における移動の自由を担保
するものとして重要な役割を担うものということができることを併せ考
慮すれば,P5が,原告らの逃亡を防止することを主たる目的として,
原告らの旅券を預かり,これを管理し続けた行為は,原告らの日本にお
ける移動の自由を制約し,下記(ウ)の違法な労働状態の継続を助長する
ものとして違法な行為であるというべきである。
これに対し,被告会社らは,被告協同組合からの指導を受け,被告会
社らの研修生・技能実習生に対し,「パスポートの預かり書」及び「研
修生,実習生パスポート保管依頼書」を作成し,同人らに署名をさせて
いるとして,これに関する書面(乙イ10)を提出し,被告スキール代
表者尋問の結果中には,原告らについても,同書面を作成した旨の供述
部分がある。しかしながら,原告P1は,本人尋問において,同書面を
作成したことを否定する供述をしている上に,同書面は原告らが来日す
る前の3名の研修生について作成されたものに過ぎず,これをもって,
原告らについても,同様の書面が作成されたと認定することは困難であ
り,被告スキール代表者尋問の結果中の上記供述部分も採用できない。
(イ)預金口座の開設と預金の払戻し,預金通帳・印鑑の管理行為につい

上記1(6)及び(7)のとおり,P5は,原告らから預かった印鑑を使用
して,複数の預金口座を開設し,原告らの明確な同意をとることなく,
預金通帳及び印鑑を管理し,これにより原告らが,必要な都度,自由に
研修手当等を払い戻すことを困難にしたばかりか,原告らの意思を確認
することなく,自己の事業資金等として5ないし10か月の間,合計1
00万円もの金員を,返済時期や利息の支払について何ら取り決めるこ
となく,流用したというのであり,かかる行為は,強制貯金の禁止(労
働基準法18条1項)及び賃金直接支払の原則(同法24条1項)に反
するものというべきである。そして,上記(ア)のとおり,P5が原告ら
の逃亡防止を主たる目的として旅券を管理していたことに鑑みれば,P
5の上記行為の目的は原告らの財産を管理することにより,その逃亡を
防止することにあったものと推認することができる。さらに,P5が,
原告ら各自について複数の預金口座を開設し,研修手当と時間外作業代
金を別々に振り込むようにしたのは,その後,P5が原告らの預金通帳
を無断で廃棄していることも併せると,外部からの監査を受けた際,研
修生に残業をさせる等の違法状態の存在を隠ぺいする目的があったもの
というべきである。
(ウ)違法な労働状態の作出について
上記1(3)によれば,被告会社らは,研修期間及び技能実習期間を問わ
ず,労働基準法36条の要件を満たすことなく,法定労働時間(同法3
2条)を大幅に上回り,また,休日に関する規定(同法35条)に反し
て,被告会社らの指揮監督下において,原告らを縫製作業に従事させ,
しかも,原告らにノルマを課する等して強い指揮命令下に置いており,
さらに,上記1(6)イのとおり,被告会社らは,原告らの労務の提供に対
して著しく低額な対価しか支払っておらず,他方で,上記1(4)アによれ
ば,被告会社らは,原告らの研修期間中,原告らに対して,実施すべき
研修を実施しなかったというのであるから,被告会社らのこれらの各行
為は,違法な労働状態を積極的に作出し,これを継続させたものである
と認められる。
(エ)日常生活及び休日について
上記1(8)によれば,原告らの生活していた寮は,台所,ベッド,風呂,
テーブル,テレビ,電話機等,原告らの生活に必要なものは最低限整っ
ていたのであって,それ自体が劣悪な住環境であったと認めることはで
きない。また,原告らは,P5によって外出及び外部との接触が制限さ
れていた旨主張するが,上記1(8)のとおり,P5が原告らの外出や門限
等に注意を払っていたことは認められるものの,原告らは外出及び外部
との接触自体を禁止されていたわけではないから,P5による上記行為
をもって違法な行為とまでは認めることはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(オ)小括
上記(ア)の旅券の預り行為及び管理行為及び(イ)の預金口座の開設と
預金の払戻し,預金通帳・印鑑の管理行為は,(ウ)の違法な労働状態を
継続させるための手段としての側面も有している等,(ア)ないし(ウ)の
各行為は,相互に密接に関連しているものと認められ,これらの違法行
為を全体として見た場合,原告らの人格権を侵害するものとして,不法
行為を構成するというべきである。そして,上記(ア)ないし(ウ)の各行
為の内容と上記1(3)ウ及び2(1)イの被告会社らの相互の関係を前提に
すると,上記行為は被告会社らの共同不法行為に該当すると認めるのが
相当である。
イ被告協同組合について
(ア)原告P3及び原告P4の旅券の預り行為について
上記1(2)イのとおり,被告協同組合は,原告P3及び原告P4から,
事務手続のため旅券を預かり,これを同人らに返還することなく,P5
に渡しているところ,これは,預かる目的の点においては理由があるも
のの,同手続終了後,原告P3及び原告P4の同意を得ることなく,P
5に旅券を渡した点においては,同人の違法な旅券管理の継続の原因を
作出したものであり,この点において,被告会社らの不法行為に荷担す
るものであるというべきである。
(イ)作為義務違反について
上記1⑾のとおり,被告協同組合は,入管法7条1項2号の基準を定
める省令を受けた5号告知及び6号告知により,被告会社らの研修実施
能力を補完するため,研修を「監理」することが求められているのであ
り,同監理には,第2次受入れ機関による違法就労の排除,不適切な方
法による研修生の監理の禁止,非実務研修の実施,監査・報告等が含ま
れている。そして,上記1⒀アのとおり,被告協同組合は,毎月1回以
上,被告会社らの事務所を訪れ,監査を行っていたのであるから,原告
らを始めとする研修生からの事情聴取や旅券,預金通帳等の確認等の調
査(上記1(2)イのとおり,被告協同組合は,P5が原告P3及び原告P
4の旅券の管理を継続している可能性があることを知っていた。)によ
り,違法就労の排除,不適切な監理の禁止,非実務研修の実施等につい
て適正な監査を行い,その結果に基づいて,被告会社らを適切に指導す
べき作為義務があるというべきであるし,これらの監査が履行されてい
たならば,被告会社らの上記アの一連の違法行為の存在が明らかとなり,
適切な指導を行うことにより,これらの違法行為が是正されていた可能
性は高いというべきである。しかるに,被告協同組合は,被告会社らに
対する十分な監査を行わず,福岡入国管理局長に対し定期的に提出した
監査結果報告書においても,「研修手当以外の支給(残業手当・休日手
当)」については問題は無いと記載し続け,また,原告らの旅券,預金
通帳及び印鑑の保管状況についても,事実に反する極めて不十分な報告
を行っており,結局,原告らの研修が順調に進んでおり,被告会社らの
指導も適正と認められると繰り返し報告し,被告会社らに対しても,旅
券と預金通帳の保管の点を始めとして,何らの指導も行っていないとい
うのであるから,被告協同組合は,上記作為義務に違反したものである
といわざるを得ない。
(ウ)被告各受入れ機関の連帯責任
以上によれば,被告協同組合は,被告会社らに対する監査・指導義務
に違反し,その結果,研修期間中はもとより,技能実習期間中も被告会
社らによる上記アの違法行為の継続を招いたということができる。した
がって,上記1⑾のとおり,第1次受入れ機関は,研修の実施主体であ
って,研修生が技能実習に移行した後については,技能実習生の受入れ
機関は技能実習実施機関(第2次受入れ機関)のみとなるとしても,被
告協同組合の監査・指導義務の違反と,原告らの技能実習期間中の被告
会社らの違法行為の継続との間には,因果関係が認められるから,被告
協同組合は,被告会社らと連帯して,原告らに生じた損害につき,賠償
責任を負うものと認めるのが相当である。
ウ被告協力機構について
原告は,条理上,被告協力機構には,本件制度により入国した研修生・
技能実習生に対して,日本国内の法令に違反する違法な取扱いを防止する
ために,受入れ機関及び受入れ企業に対して,注意,助言,指導,支援を
行い,研修生・技能実習生の法的権利を確保する法的義務(保護義務)が
あり,これに加えて,原告らの個々の職場を定期的に巡回調査し,原告ら
への聴取りなどによってその実態を把握し,法令遵守につき,受入れ機関
及び受入れ企業に対して是正指導を行う法的義務があり,さらに,不適切
な技能実習が行われないように,適切に研修成果の評価をする法的義務が
あると主張する。
しかしながら,上記前提となる事実(2)ウ及び上記1⑿のとおり,被告協
力機構は,国から技能実習制度推進事業を委託され,本件制度の円滑かつ
適正な実施を使命とする等,公的な性格を担っていることは認められるも
のの,あくまでも民法上の財団法人であり,かつ,被告各受入れ機関と異
なり,個々の研修・技能実習の実施において,その当事者となるものでも
ない。そして,被告協力機構の業務内容に照らしても,同被告が行う報告,
指導(巡回による指導を含む。),援助等の業務が,強制力や何らかの法
的権限を伴うものであると認めるに足りる証拠は見当たらないし,研修成
果の評価についても,「各研修生に係る検定・資格試験等の結果を研修成
果の評価としてとりまとめて法務省に報告する」業務であって(甲A20),
このことから,何らかの法的作為義務が導かれると解することは困難であ
る。
以上によれば,被告協力機構につき,原告らの主張する法的義務の存在
を認めることはできないから,原告らの上記主張を採用することはできな
い。
(2)損害及びその額
ア慰謝料について
被告各受入れ機関の上記不法行為の内容,態様,侵害された権利の内容
等本件に顕れた諸事情を考慮すれば,同行為により,原告らの受けた精神
的損害を慰謝するには,原告らそれぞれにつき,100万円をもって相当
と認める。
イ逸失利益について
原告らは,研修生・技能実習生として,通算して3年間は日本で働くこ
とが予定されていたところ,被告らの行為により,平成19年9月以降,
技能実習生としての在留期間の満了日まで,日本で労働する機会を失った
から,同期間の賃金相当額が逸失利益となる旨主張する。
しかしながら,上記1(10)によれば,原告らが,平成19年9月以降,
日本において就労できなかったのは,被告会社らの廃業後に新たな技能実
習受入れ企業が見つからなかったことに起因するものと認められるのであ
って,被告各受入れ機関の上記不法行為に直接起因するものとは認められ
ないから,原告らの上記主張を採用することはできない。
したがって,原告らについて,逸失利益の発生を認めることはできない。
ウ弁護士費用について
事案の内容,認容額等本件に顕れた諸事情を考慮すると,不法行為と相
当因果関係のある弁護士費用としては,原告らそれぞれにつき,10万円
をもって相当と認める。
(3)紛争解決の合意(和解契約)の成否について
被告各受入れ機関は,原告らと被告各受入れ機関との間には紛争解決の合
意(和解契約)が成立した旨主張する。
しかしながら,上記2(3)で判示したとおり,原告らと被告会社らとの間に,
上記紛争解決の合意が成立したと認めるに足りる証拠はない。また,原告ら
は,被告協同組合に清算確認書を提出しているが,上記1(10)の清算確認書
の記載内容及び同書面の作成の経緯からすると,同書面は,原告らと同被告
との間で,賃金及び貯金の払戻しについての清算がされたことを確認する趣
旨であると認められるから,当該清算の対象として,原告らの被告各受入れ
機関に対する不法行為に基づく損害賠償請求を含むものであると認めること
はできない。
したがって,被告各受入れ機関の上記主張は認められない。
第4結論
よって,原告らの本訴請求のうち,①不法行為に基づく損害賠償請求につい
ては,被告各受入れ機関に対し,連帯して,110万円及びこれに対する被告
スキールは平成20年1月3日から,被告レクサスライクは平成20年5月2
3日から,被告協同組合は平成20年1月8日から支払済みまで年5分の割合
による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がない
からいずれも棄却し,②賃金等の支払請求については,被告会社らに対し,各
自,原告P1について,192万8710円及びこれに対する被告スキールは
平成20年1月3日から,被告レクサスライクは平成20年5月23日から支
払済みまで,年6分の割合による金員並びに139万3564円及びこれに対
する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払
を,原告P2について,192万6710円及びこれに対する被告スキールは
平成20年1月3日から,被告レクサスライクは平成20年5月23日から支
払済みまで年6分の割合による金員並びに138万9564円及びこれに対す
る本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を,
原告P3について,174万2512円及びこれに対する被告スキールは平成
20年1月3日から,被告レクサスライクは平成20年5月23日から支払済
みまで年6分の割合による金員並びに136万1316円及びこれに対する本
判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を,原告
P4について,174万4178円及びこれに対する被告スキールは平成20
年1月3日から,被告レクサスライクは平成20年5月23日から支払済みま
で年6分の割合による金員並びに137万2982円及びこれに対する本判決
確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度
で理由があるから認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとし,
主文のとおり判決する。
熊本地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官高橋亮介
裁判官古市文孝
裁判官植田裕紀久

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