弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成19年(行ウ)第47号保有個人情報一部不開示決定処分取消等請求事件
主文
1処分行政庁が平成19年5月17日付けで原告に対してした
自己情報一部開示決定(春刑発第308号)のうち,別紙の不
開示部分C及びEを不開示とした部分を取り消す。
2処分行政庁は,原告に対し,別紙の不開示部分C及びEの開
示決定をせよ。
3本件訴えのうち,別紙の不開示部分Bの開示決定の義務付け
を求める部分を却下する。
4原告のその余の請求を棄却する。
5訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その
余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1処分行政庁が平成19年5月17日付けで原告に対してした自己情報一部開
示決定(春刑発第308号)のうち,別紙の不開示部分B,C及びEを不開示とし
た部分を取り消す。
2処分行政庁は,原告に対し,別紙の不開示部分B,C及びEの開示決定をせ
よ。
第2事案の概要
本件は,原告が,愛知県個人情報保護条例(平成16年愛知県条例第66号。平
成19年愛知県条例第47号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)1
6条1項に基づき,愛知県警察本部長(処分行政庁)に対し,地上10階建ての独
身寮から落下して死亡した長男の死亡現場を見分した調書等の開示を請求したとこ
ろ,同本部長から,平成17年6月20日付け写真撮影報告書及び同年8月19日
付け死体見分調書のうち別紙の不開示部分A∼Eを除く部分を開示する旨の一部開
示決定(春刑発第308号。以下「本件決定」という。)を受けたことから,本件
決定のうち別紙の不開示部分B,C及びE(以下「本件不開示部分」という。)を
不開示とした部分の取消しと本件不開示部分の開示決定の義務付けを求める抗告訴
訟である。
1前提事実(争いがないか,証拠上明らかである。)
(1)原告の長男甲(昭和49年▲▲月▲▲日生)は,愛知県警察本部に勤務し,
愛知県a市bc丁目d番地e所在の10階建て独身寮(f)に住んでいたが,平成
17年▲月▲日午前2時ころ,同独身寮の地上約30mの屋上から落下し,脳挫傷
により死亡した(享年30)。
(2)愛知県春日井警察署所属の警部補は,「死者の状況を明確にするため」とい
う目的で,甲の死亡に係る平成17年6月20日付け写真撮影報告書(以下「本件
写真撮影報告書」という。)を作成し,また,同警察署所属の巡査部長は,死体取
扱規則(昭和33年国家公安委員会規則第4号)4条の規定により,甲の遺体につ
いて,同年8月19日付け死体見分調書(以下「本件死体見分調書」といい,本件
写真撮影報告書と併せて「本件各文書」ともいう。)を作成した。本件死体見分調
書に添付された「死体発見(認知)及び見分結果報告」(以下「本件報告書」とい
う。)には,「見分官の判断」として,「事件性はなく,飛び降り自殺と判断され
た。」との記載がある。
なお,死体取扱規則4条1項は「前条の規定による報告を受けた警察署長は,す
みやかに,警察本部長(警視総監又は道府県警察本部長をいう。)にその旨を報告
したのち,その死体が犯罪に起因するものでないことが明らかである場合において
は,その死体を見分するとともに死因,身元その他の調査を行い,死体見分調書
(別記様式第1号)を作成し,又は所属警察官にこれを行わせなければならな
い。」と定めている。
(3)原告は,平成18年4月4日,愛知県警察本部長に対し,本件条例16条1
項に基づいて,①甲が死亡した現場を見分した調書,②甲の遺体及び着衣を見分し
た記録,③甲の死因を自殺と認定した報告書等の開示(写しの交付)を請求した
(以下,これを「本件開示請求」という。)。愛知県警察本部長は,本件開示請求
に係る情報の記録された行政文書として本件各文書を特定した(以下,本件各文書
に記録された情報を「本件保有個人情報」という。)。
(4)愛知県警察本部長は,同月18日,本件保有個人情報は,本件条例15条1
項に規定する「自己を本人とする保有個人情報」に該当しないとして,本件条例2
1条2項により,本件保有個人情報を開示しない旨の決定(春刑発第213−1
号)をした。
(5)原告は,同年5月12日,愛知県公安委員会に対し,上記不開示決定につい
て審査請求をした。
愛知県個人情報保護審議会は,愛知県公安委員会から諮問を受けて,平成19年
2月19日,本件保有個人情報は,甲の死亡原因を確認する根拠となるものであり,
社会通念上,甲の親である原告自身の個人情報とみなし得るほど密接な関係にある
情報ということができるから,原告を本件条例15条1項による開示請求権者と認
めるのが相当であるとして,上記不開示決定を取り消して改めて開示決定等をすべ
きである旨の答申をした。
愛知県公安委員会は,同年4月27日,原告が本件条例15条1項に規定する開
示請求権者であると認めることについて理由があるとして,上記不開示決定を取り
消す旨の裁決をした。
(6)愛知県警察本部長は,同年5月17日,上記裁決に従い,改めて本件開示請
求に対して,本件各文書のうち別紙の不開示部分A∼Eを除く部分を開示する旨の
一部開示決定(本件決定)をした。
(7)原告は,同年6月9日,本件決定のうち本件不開示部分を不開示とした部分
の取消しと本件不開示部分の開示決定の義務付けを求める本件訴えを提起した。
(8)原告及びその夫である乙は,甲が締結していた保険契約及び共済契約に基づ
き死亡保険金等の支払を求めたものの,いずれも甲の死亡が自殺によるものである
として支給を拒否されたため,名古屋地方裁判所豊橋支部に保険金等の支払を求め
る訴えを提起したが(同支部平成17年(ワ)第311号),同請求を棄却する旨の
判決の言渡しを受け,名古屋高等裁判所に控訴をしたが(同裁判所平成19年(ネ)
第284号),控訴を棄却する旨の判決の言渡しを受け,現在,最高裁判所に上告
中である(以下,これを「別件訴訟」という。)。
2愛知県個人情報保護条例(本件条例)の定め
(目的)
1条この条例は,個人情報の適正な取扱いに関し必要な事項を定め,実施機関
の保有する個人情報の開示,訂正及び利用停止を請求する個人の権利を明らかにし,
もって県政の適正な運営を図りつつ,個人の権利利益を保護することを目的とする。
(定義)
2条この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めると
ころによる。
1号実施機関知事,教育委員会,選挙管理委員会,人事委員会,監査委員,
公安委員会,労働委員会,収用委員会,海区漁業調整委員会,内水面漁場管理委員
会,公営企業管理者,病院事業管理者及び警察本部長並びに県が設立した地方独立
行政法人(地方独立行政法人法第2条第1項に規定する地方独立行政法人をいう。
以下同じ。)をいう。
2号個人情報個人に関する情報であって,特定の個人を識別することがで
きるもの(他の情報と照合することができ,それにより特定の個人を識別すること
ができることとなるものを含む。)をいう。ただし,次のいずれかに該当するもの
を除く。
イ法人その他の団体に関する情報に含まれる当該法人その他の団体の役員
に関する情報(当該法人その他の団体の機関としての情報に限る。)
ロ事業を営む個人の当該事業に関する情報
3号保有個人情報実施機関の職員(県が設立した地方独立行政法人の役員
を含む。以下同じ。)が職務上作成し,又は取得した個人情報であって,当該実施
機関の職員が組織的に利用するものとして,当該実施機関が保有しているものをい
う。ただし,行政文書(愛知県情報公開条例第2条第2項に規定する行政文書をい
う。以下同じ。)に記録されているものに限る。
4号事業者法人(国,独立行政法人等(独立行政法人等の保有する個人情
報の保護に関する法律第2条第1項に規定する独立行政法人等をいう。以下同
じ。),地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)その他の団体(以下「法人
等」という。)及び事業を営む個人をいう。
5号本人個人情報によって識別される特定の個人をいう。
(開示請求権)
15条1項何人も,この条例の定めるところにより,実施機関に対し,当該実
施機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる。
(開示請求の手続)
16条1項開示請求は,次に掲げる事項を記載した書面(以下「開示請求書」
という。)を実施機関に提出してしなければならない。ただし,実施機関があらか
じめ定めた保有個人情報の開示請求については,口頭により行うことができる。
1号∼3号(省略)
(開示義務)
17条実施機関は,開示請求があったときは,開示請求に係る保有個人情報に
次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが含まれている
場合を除き,開示請求者に対し,当該保有個人情報を開示しなければならない。
1号(省略)
2号開示請求者以外の個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関す
る情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等に
より開示請求者以外の特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合す
ることができ,それにより,開示請求者以外の特定の個人を識別することができる
こととなるものを含む。)又は開示請求者以外の特定の個人を識別することはでき
ないが,開示することにより,なお開示請求者以外の個人の権利利益を侵害するお
それがあるもの。ただし,次のいずれかに該当する情報を除く。
イ法令若しくは条例の規定により又は慣行として開示請求者が知ることが
でき,又は知ることが予定されている情報
ロ人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,開示することが必要で
あると認められる情報
ハ当該個人が公務員等(国家公務員法第2条第1項に規定する国家公務員
(独立行政法人通則法第2条第2項に規定する特定独立行政法人及び日本郵政公社
の役員及び職員を除く。),独立行政法人等の役員及び職員,地方公務員法第2条
に規定する地方公務員並びに地方独立行政法人の役員及び職員をいう。)である場
合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,
当該公務員等の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分(当該公務員等の
氏名に係る部分を開示することにより当該個人の権利利益を不当に侵害するおそれ
がある場合及び当該公務員等が規則で定める職にある警察職員である場合にあって
は,当該公務員等の氏名に係る部分を除く。)
3∼5号(省略)
6号開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執
行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認め
ることにつき相当の理由がある情報
7,8号(省略)
(なお,知事の保有する個人情報の保護等に関する規則《平成17年愛知県規則
第10号。以下「本件規則」という。》8条は,本件条例17条2号ハの規則で定
める職について,「警部補以下の階級にある警察官をもって充てる職及びこれに相
当する職」と定めている。)
3争点
(1)本件各文書のうち本件決定が不開示とした範囲。
(2)本件決定が本件不開示部分を不開示としたことは適法か否か。
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)について
(原告の主張)
(1)本件死体見分調書に添付された本件報告書のうち,4項5行目以下(2/10
頁),5項10行目以下(3/10頁),6項のうち5/10頁3行目以下の部分は,不自
然な空欄となっているから,本件決定が不開示とした可能性がある。
4項5行目以下の部分については,家族構成として,甲の両親及び姉らに関して
何らの記載がないのは不自然であり,かつ,仮に何も記載していないのが事実とす
れば,3/10頁冒頭から記載されている「5発見時の状況」の項目が,当然に繰り
上がって2/10頁12行目以下に続くはずである。
5項10行目以下(3/10頁)についても,仮に何も記載していないのであれば,
4/10頁冒頭から記載されている「6生前の状況」の項目が,当然に繰り上がって
3/10頁10行目以下に続くはずである。
(2)本件決定が別紙の不開示部分Bとして不開示とした部分には,本件死体見分
調書に添付された本件報告書中の「5発見時の状況」(3/10頁,10行目以下),
「6生前の状況」(5/10頁,3行目以下)及び「9見分官の判断」(8/10頁,
10行目以下20行目まで)中に,甲死亡に関する第三者証言が,証人名とともに
記載されているものと推認される。なお,原告は,第三者証言の内容が明示される
のであれば,第三者の立場(たとえば寮生)など,証言適格性の判断に必要な事由
はともかくとして,特定の個人としての識別情報までは求めない。
(被告の主張)
(1)原告は,本件死体見分調書に添付された本件報告書のうち,4項5行目以下
(2/10頁),5項10行目以下(3/10頁),6項のうち5/10頁3行目以下の部分は,
不自然な空欄となっていて,不開示部分の可能性がある旨主張するが,当該部分は
何ら記載のない部分であり,愛知県警察本部長が不開示とした事実はない。
(2)本件決定が別紙の不開示部分Bとして不開示とした部分は,本件死体見分調
書に添付された本件報告書の「発見者」欄の巡査部長の職にある警察官の生年月日
及び年齢のみである。原告は,別紙の不開示部分Bとして不開示とした部分には,
第三者証言及び証人名が含まれる旨主張するが,別紙の不開示部分Bは「開示請求
者以外の第三者の生年月日及び年齢」を不開示とするものであるから,原告の主張
は理由がない。
2争点(2)について
(被告の主張)
(1)別紙の不開示部分C及びEについて
ア本件条例17条6号は,不開示情報の一つとして「開示することにより,
犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維
持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情
報」を規定し,いわゆる犯罪捜査等情報を不開示とする旨規定している。
同号の趣旨は,公共の安全と秩序を維持することは,国民全体の基本的な利益で
あり,開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行そ
の他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めるに
つき相当の理由がある情報を不開示とするものである。
そして,「実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」とは,犯罪の予
防,鎮圧,捜査等の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれのある情報に係
る開示・不開示の判断において,それを開示することにより将来的に予想される犯
罪等の発生に関する専門的,技術的判断を要するなどの特殊性が認められることか
ら,その性質上,上記情報の開示・不開示の判断において,実施機関の第1次的な
判断を尊重することを示しているものであり,このことは,行政機関の保有する情
報の公開に関する法律5条3号及び4号が,国の安全等に関する情報及び公共の安
全等に関する情報の不開示を定めるについて「……おそれがあると行政機関の長が
認めることにつき相当の理由がある情報」と記載して,行政機関の長の第1次的な
判断を尊重することを示しているのと同様に考えることができる。
したがって,本件条例17条6号に当たるとして不開示にした決定が違法となる
かどうかを審理,判断するにおいては,同決定が事実上の基礎を全く欠くか,又は
事実に対する評価が全く合理性を欠くこと等により,社会通念に照らして全く妥当
性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し,それらが認められる場合に
限り,実施機関の判断に裁量権の逸脱又は濫用があったものとして,これを違法と
判断することができると解すべきである。
イ本件各文書の記載内容は,次のとおりである。
(ア)本件死体見分調書は,死体取扱規則を根拠として,非犯罪死体であること
が明らかな場合に作成するものであり,行政文書として存在する文書である。
本件死体見分調書が死体取扱規則に則った非犯罪死体であることが明らかな場合
に作成される行政上の文書であっても,その内容は医学的見地に立った死因の特定
に至るものだけではない。行政検視であると司法検視であると問わず,その実施要
領は何ら変わるものではなく,その記載内容はまさしく,捜査手法等について記載
されているのであるから,本件死体見分調書は,警察の捜査手法等が記載された捜
査書類としての性質を有するものであることは明らかである。
本件死体見分調書に添付されている飛降現場断面図や現場見取図は,死体の状況,
現場の状況及び遺留物等の詳細な位置関係が記載されているものであり,これらの
図面に記載されている死体の状況,現場の状況及び遺留物等の詳細な位置関係は,
犯罪捜査を行う上で重要な捜査の秘密事項となるものである。
(イ)本件写真撮影報告書は,甲の死体の状況や行政検視の状況等を疎明するた
め写真撮影されたものであり,本件死体見分調書を補完するものとして作成された
書類である。そのため,本件写真撮影報告書についても,不開示部分は,警察が甲
の死体につき,犯罪死体であるか否かを判別するために着眼する部位等が撮影され
ているものであり,まさしく,死体の状況につき,警察の捜査手法等が記録された
捜査書類である。
ウ以上のとおり,本件各文書は,刑事訴訟に関する重要な書類としての性質
を有する文書であり,別紙の不開示部分C及びEには「犯罪捜査に係る着眼点,捜
査手法及び関心事項に関する情報」が記載されているものである。
そして,別紙の不開示部分C及びEの捜査手法等にわたる部分が開示されること
となれば,見分官においてこの種事案の自殺と他殺との判断に際し着眼する死体の
状況や現場の状況等が白日の下となり,犯罪行為を敢行又は企図する者が対抗措置
や防衛措置を講じ,証拠隠滅を図ることなどが十分に予測され,さらに,本件事案
が犯罪捜査に至った場合,将来の捜査及び公訴維持に多大な支障の生ずるおそれが
あることは明らかである。
愛知県警察本部長は,捜査に携わる者の立場から,捜査手法等にわたる部分は,
将来の犯行を容易にするおそれ,すなわち,公共の安全と秩序の維持に支障を来す
おそれがあると認め,別紙の不開示部分C及びEにつき,これを不開示としたもの
であって,適法な処分である。
(2)別紙の不開示部分Bについて
本件条例17条2号は,開示請求者以外の個人に関する情報であって,当該情報
に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識
別することができるもの等については第三者個人情報として不開示とすることがで
きることを定めている。本件条例17条2号のただし書イ∼ハにおいては,第三者
の個人情報に該当するものであっても,例外的に開示することのできる情報につい
て定め,そのうち,ただし書ハは一定の警察職員氏名を不開示とすることを定めて
おり,本件規則8条は,氏名を不開示とする警察職員の範囲を,警部補以下の階級
にある警察官をもって充てる職及びこれに相当する職にある警察職員と定めている。
これは,警察職員のうち一定の職にあるものについては,その職務の特殊性から,
氏名を開示することにより,当該警察職員の私生活等に影響を及ぼす可能性が高い
ことから,その氏名を開示の対象としないこととしたものである。
以上の理由から,本件決定では,本件死体見分調書に添付された本件報告書の
「発見者」欄の巡査部長の職にある警察官の生年月日及び年齢(別紙の不開示部分
B)を不開示にしたものであって,適法な処分である。
(原告の主張)
(1)別紙の不開示部分C及びEについて
本件決定は,別紙の不開示部分C及びEが,本件条例17条6号に該当し,「犯
罪捜査に係る着眼点,捜査手法及び関心事項に関する情報であって,開示すること
により犯罪行為を敢行または企図する者が対抗措置や予防措置を講じ,証拠隠滅を
図る等,将来の捜査に支障が生じるおそれがあると認められる」ことを不開示の理
由とする。
しかし,本件条例17条は,保有個人情報開示を原則としており,開示すること
により第三者の権利利益を侵害し,あるいは事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそ
れがある場合を例外的に除外しているにすぎない。同条6号も「開示することによ
り,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序
の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由があ
る情報」と限定している。
そもそも,本件各文書は,甲の死亡を自殺と認定して,その事件性を否定したも
のであるから,本件条例17条6号が本来対象としている事件性を有する文書類と
は性格を異にする。
仮に,本件各文書が,一応,同号の対象に含まれるとしても,本件開示請求は甲
の死亡原因を解明するため,親として当然の心情によるもので,他の不正・不法な
意図に基づくものでないことが明らかである。
いずれにしても,実施機関が,将来の捜査などに支障を及ぼすおそれがあると認
めるだけでは不十分であり,当該事由は相当な理由であることを必要とし,相当な
理由とは,開示を原則とし不開示事由を極力限定している条文の趣旨からすれば,
客観的かつ具体性を具備した理由と解すべきである。本件決定の不開示理由は,理
由を主観的かつ抽象的に述べるのみで,相当な理由とはいえない。
(2)別紙の不開示部分Bについて
本件決定は,別紙の不開示部分Bが,本件条例17条2号に該当し,「開示請求
者以外の個人に関する情報であって,開示請求者以外の特定の個人を識別すること
はできないが,開示することにより,なお開示請求者以外の個人の権利利益を侵害
するおそれがある」ことを不開示の理由とする。
この「第三者」の趣旨に関し,春日井警察署警務課の丙に電話で確認したところ,
「第三者の氏名及び証言内容」との説明を受けた。したがって,本件決定が事件性
を否定する際に根拠とした第三者証言を意味することは明らかであり,本件開示請
求が保険金等の請求権(財産権)確保を目的としていることからして,その帰趨に
影響を及ぼす第三者証言は,本件条例17条2号の不開示の除外事由ロに当たる。
第4当裁判所の判断
1争点(1)について
(1)本件死体見分調書について
本件決定は,本件死体見分調書においては,①1枚目の上から4行目の巡査部長
の氏名(別紙の不開示部分A),②添付の本件報告書の1頁(1/10頁)の最上行の
係長の印影部分(別紙の不開示部分A),③同頁「発見者」欄の巡査部長の職にあ
る警察官の氏名(別紙の不開示部分A),④同頁「発見者」欄の同警察官の生年月
日,年齢(別紙の不開示部分B),⑤同頁「見分官」欄の警察官の氏名(別紙の不
開示部分A),⑥同6頁(6/10頁)の「死体の状況」欄の4行目「靴下等は履いて
おらず,」の後から同7頁(7/10頁)11行目までの部分(別紙の不開示部分C),
⑦同8頁(8/10頁)の「見分官の判断」欄の5行目「係の係員(事務吏員)であ
り,」の後から16行目「事件性はなく,」の前までの部分(別紙の不開示部分
C),⑧同9頁(9/10頁)の「飛降現場断面図」の全部(別紙の不開示部分C),
⑨同10頁(10/10頁)の「現場見取図」の全部(別紙の不開示部分C)を不開示
にしたものと認められる(乙1,調査嘱託回答書)。
原告は,本件死体見分調書に添付された本件報告書のうち,4項5行目以下(2/
10頁),5項10行目以下(3/10頁),6項のうち5/10頁3行目以下の部分は,不
自然な空欄となっていて,不開示部分の可能性がある旨主張するが,愛知県個人情
報保護審議会からの調査嘱託回答書によれば当該部分は当初から何も記載されてい
なかったものと認められ,原告の主張や関係各証拠をしんしゃくしても,当該部分
に何らかの記載があったものと認めることはできない。
(2)本件写真撮影報告書について
本件写真撮影報告書においては,本件不開示部分のうち,別紙の不開示部分Eに
当たるのは写真番号7∼18の写真であり,この点は当事者間に争いがない。
2争点(2)について
(1)別紙の不開示部分C及びEについて
ア本件条例17条6号該当性の判断の在り方について
本件条例は,個人情報の適正な取扱いに関し必要な事項を定め,実施機関の保有
する個人情報の開示等を請求する個人の権利を明らかにし,もって県政の適正な運
営を図りつつ,個人の権利利益を保護することを目的として制定され(1条),そ
の観点から,実施機関の保有する自己を本人とする保有個人情報について,17条
各号に掲げる不開示情報が記載されている場合を除いて,原則として開示すること
を義務付けている(同条柱書)。
そして,17条6号は「開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴
の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると
実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報と規定している
ところ,その趣旨は,公共の安全と秩序の維持の確保は県民全体の基本的な利益で
あり,これらの利益を守ることは地方公共団体である愛知県にとって重要な責務で
あることから,これらの利益を保護するため,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の
維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認
めるに足りる相当の理由がある情報を不開示とするものと解される。そして,同号
が「おそれがある情報」と規定せず,「おそれがあると実施機関が認めることにつ
き相当の理由がある情報」と規定したのは,犯罪の予防,鎮圧又は捜査等に支障を
及ぼすか否かの判断は,専門的,技術的判断を要するなどの特殊性があることから,
実施機関の第1次的な判断を尊重したものと解される。
したがって,17条6号に該当するとしてされた不開示処分が違法となるのは,
実施機関の第1次的な判断が合理性のある判断として許容される限度を超える場合,
すなわち,当該処分が裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合に限られるとい
うべきであるが,17条6号が実施機関の判断について「相当の理由がある」こと
を要件としていることや,本件条例が保有個人情報について開示することを原則と
しつつ,17条各号に掲げる不開示情報について例外的に不開示としていることに
かんがみると,実施機関が不開示とした根拠,理由等に照らしてその判断がそもそ
も合理性のある判断として許容される限度内のものであると認められないときは,
当該不開示処分は,裁量権の逸脱又は濫用があったものとして違法であるというべ
きである。
イ被告は,本件死体見分調書に添付された本件報告書中の「死体の状況」欄,
「見分官の判断」欄には,警察の捜査手法等について記載されており,飛降現場断
面図や現場見取図は,死体の状況,現場の状況及び遺留物等の詳細な位置関係が記
載されているから,不開示部分の記載内容は犯罪捜査を行う上で重要な捜査の秘密
事項となるなどと主張する。また,本件写真撮影報告書は,甲の死体の状況や行政
検視の状況等を疎明するため写真撮影されたものであり,不開示部分には,警察が
甲の死体につき,犯罪死体であるか否かを判別するために着眼する部位等が撮影さ
れており,まさしく,死体の状況につき,警察の捜査手法等が記録された捜査書類
であると主張する。
そこで,検討するに,まず,本件死体見分調書に添付された本件報告書には,
「見分の結果」として「脳挫傷(自殺)」と記載され(1/10頁),「見分官の判
断」として「事件性はなく,飛び降り自殺と判断された。」と記載されており(8/
10頁),甲が10階建て独身寮から落下した原因を飛び降り自殺であると判断して
いる。また,当時春日井警察署の刑事課長代理であった丁の別件訴訟における証言
(甲9)によれば,独身寮の屋上は,4方を高さ約1.2mのフェンスで囲まれて
いるところ,フェンスの上端に甲のスリッパの紋様と一致する足跡が付いていたこ
と,その場所から約20m移動したところの屋上のへりに腰掛けたような跡があっ
たこと,その腰掛けたような跡がある場所は,正に落下した場所の真上に当たるこ
と,死体の状況においても防御による手足の損傷が認められないことなどの事情か
ら,警察署として甲の落下は自殺によるものと判断したことが認められる。
したがって,甲の死亡の調査に関わった見分官を含む警察官は,いずれも甲の落
下の原因を自殺と判断しており,現時点で,甲の死亡について将来犯罪捜査が開始
される具体的な可能性は認められないから(仮に,本件各文書に犯罪性をうかがわ
せる情報が記載されているのであれば,警察署としては捜査を尽くすべきであって,
自殺と判断すべきものではないことは明らかである。),別紙の不開示部分C及び
Eを開示することにより,甲の死亡に関する将来の捜査等に具体的な支障が生ずる
おそれがあるものとはいえず,愛知県警察本部長がこのような支障が生ずるおそれ
があると認めたとしても,その判断が合理性のあるものとして許容される限度内の
ものであるとは直ちに認められず,愛知県警察本部長の当該判断について相当の理
由があるものということはできない。
次に,犯罪死体であるか否か(自殺か他殺か)を判別するために着眼する部位等
の警察の捜査手法等が記録されているという主張は,結局,捜査機関が死体を見分
する際の一般的な着眼点が開示されることをもって,将来,一般的に,自殺を装っ
た殺人の敢行や罪証隠滅を容易にし,将来の捜査等に一般的な支障が生ずるおそれ
がある旨をいうにすぎないものである。本件死体見分調書の記載項目が死体を司法
検視した場合に作成される検視調書(様式第1号。乙3の2)のそれと同様である
としても,そもそも,検視調書自体は,捜査機関が内部文書として用いるものでは
なく,刑事事件になれば証拠として提出することを予定しているものであるし,上
記の着眼点も刑事裁判において主張立証の対象とされるものであって,そうした捜
査上の一般的な着眼点自体を開示することにより,将来の捜査等に具体的な支障が
生ずるおそれがあるものとは容易に認めることができない。また,本件各文書に一
般的な着眼点以外の捜査機関のみが保有する特別な着眼点が記載されているとの事
情も認められない。したがって,別紙の不開示部分C及びEを開示することにより,
将来の捜査等に支障が生ずるおそれがあると愛知県警察本部長が認めたとしても,
その判断が合理性のあるものとして許容される限度内のものであるとは直ちに認め
られず,愛知県警察本部長の当該判断について相当の理由があるものということは
できない。
ウそうすると,本件決定のうち別紙の不開示部分C及びEを不開示とした愛
知県警察本部長の判断は,合理性のある判断として許容される限度を超え,裁量権
を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法な処分というべきであるから,同部分
の取消請求は理由がある。
そして,本件条例17条柱書によれば,上記部分について開示の決定をすべきこ
とが明らかであるから,同部分の開示決定の義務付けを求める請求は,行政事件訴
訟法3条6項2号,37条の3第5項に照らして理由がある。
(2)別紙の不開示部分Bについて
ア別紙の不開示部分Bに該当するとして不開示とした部分は,前記1のとお
り,本件死体見分調書のうち「発見者」欄の巡査部長の職にある警察官の生年月日,
年齢であるところ(原告は,同不開示部分には第三者証言及び証人名が含まれる旨
主張するが,これを認めるに足りる証拠はなく,採用することができない。),同
不開示部分が,本件条例17条2号の「開示請求者以外の個人に関する情報であっ
て,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特
定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することができ,それによ
り,開示請求者以外の特定の個人を識別することができることとなるものを含
む。)」に該当することは明らかである。
そして,同号ハは,開示請求者以外の個人が,地方公務員であり,当該情報がそ
の職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職及び氏
名並びに当該職務遂行の内容に係る部分を不開示事由から除外しているが,本件規
則8条が定める「警部補以下の階級にある警察官をもって充てる職及びこれに相当
する職」にある警察職員の氏名に係る部分を同号ハの対象から除外し不開示とする
ことを認めており,上記「発見者」欄の巡査部長の職にある警察官の生年月日,年
齢は,警部補以下の階級にある警察官を識別することができることとなる情報であ
るから,同号ハの除外事由に該当しないことが明らかである。同号イ,ロの除外事
由に該当するものとも認められない。
したがって,本件決定のうち,本件死体見分調書に添付された本件報告書のうち
「発見者」欄の巡査部長の職にある警察官の生年月日,年齢(別紙の不開示部分
B)を不開示とした部分は適法である。
イそうすると,本件決定のうち別紙の不開示部分Bを不開示とした部分の取
消請求は理由がない。
そして,別紙の不開示部分Bの開示決定の義務付けを求める訴えは,同部分を不
開示とした決定が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であると
きに限って提起することができるものであるから(行政事件訴訟法37条の3第1
項),その要件を欠いて不適法である。
3結論
以上によれば,本件決定のうち別紙の不開示部分C及びEを不開示とした部分の
取消し及びその開示決定の義務付けを求める請求は理由があるから認容し,別紙の
不開示部分Bの開示決定の義務付けを求める訴えは不適法であるから却下し,原告
のその余の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
松並重雄裁判長裁判官
前田郁勝裁判官
片山博仁裁判官

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛