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平成26年2月19日判決言渡
平成25年(行コ)第187号鉄道運賃変更命令等,追加的併合申立控訴事件
主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
(前注)略称は,原判決の例による。
第1当事者の求めた裁判
1控訴の趣旨
(1)原判決を取り消す。
(2)国土交通大臣が平成22年2月19日付けでA株式会社に対してした同社
とB株式会社の間の鉄道線路使用条件の設定を認可する旨の処分を取り消す
(本件請求①)。
(3)国土交通大臣が平成22年2月19日付けでC株式会社に対してした同社
とB株式会社の間の鉄道線路使用条件の設定を認可する旨の処分を取り消す
(本件請求②)。
(4)国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項4号に基づき,A株式会社及びB
株式会社に対して,上記(2)記載の鉄道線路使用条件の設定について,B株式
会社が同社○線の運行によってA株式会社の営業区間(○駅と○駅の間)で
取得する旅客運賃及び特別急行料金収入相当額を線路使用料としてA株式会
社に支払い,A株式会社が同社の上記営業区間でB株式会社が同社○線の運
行に要した経費をB株式会社に支払う方式での鉄道線路使用条件に変更する
よう命ぜよ(本件請求③)。
(5)(主位的請求)
運輸大臣(現在の国土交通大臣)が平成10年9月4日付けでA株式会社(当
時の商号は「D株式会社」)に対してした旅客運賃変更認可処分は無効であ
ることを確認する(本件請求④)。
(予備的請求)
運輸大臣(現在の国土交通大臣)が平成10年9月4日付けでA株式会社(当
時の商号は「D株式会社」)に対してした旅客運賃変更認可処分を取り消す
(本件請求⑤)。
(6)国土交通大臣は,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基
づき,A株式会社に対し,上記(5)記載の認可処分に係る旅客運賃上限及びそ
の範囲内で届け出られた旅客運賃について,同法16条2項の定める適正原
価・適正利潤の原則に基づき,上記(4)記載の鉄道線路使用条件変更命令によ
り定められた線路使用料に基づいて算定された収入額と現時点における収入
と原価を基準とするとともに,特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをする
ことがないよう変更するよう命ぜよ(本件請求⑥。なお,原審における本件
請求⑥及び本件請求⑧の請求の趣旨は,いずれも旅客運賃上限等について「距
離に比例した原則の下に」変更を求めるものとされていたところ,控訴人ら
は,当審において,控訴の趣旨の訂正を申し立て,上記及び後記(8)のとおり,
この部分を削除するように請求の趣旨を改めた。しかし,これは,請求の内
容を実質的に変更するものではないと認められるので,請求の趣旨の表記の
訂正をしたものと扱う。)。
(7)国土交通大臣が平成22年2月19日付けでB株式会社に対してした同社
の○線に係る旅客運賃上限設定認可処分を取り消す(本件請求⑦)。
(8)国土交通大臣は,鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基
づき,B株式会社に対し,上記(7)記載の認可処分に係る旅客運賃上限及びそ
の範囲内で届け出られた旅客運賃について,特定の旅客に対し不当な差別的
取扱いをすることがないよう変更するよう命ぜよ(本件請求⑧)。
2控訴の趣旨に対する本案前の答弁
(1)原判決主文第2項を取り消す。
(2)上記取消部分の請求に係る訴えをいずれも却下する。
3控訴の趣旨に対する本案の答弁
本件控訴をいずれも棄却する。
第2事案の概要
A株式会社(A)は,平成10年9月4日付けで鉄道事業法16条1項(平成
11年法律第49号による改正前のもの)に基づく旅客運賃変更認可処分を受け
て,A線(○駅と○駅の間の32.3kmの路線)における旅客の運送を行って
いる。
また,B株式会社(B)は,Aが所有する鉄道線路(○駅と○駅の間)及びC
株式会社(C)が所有する鉄道線路(○駅と○駅の間)等を使用して,○線(○
駅と○駅の間の51.4kmの路線)における旅客の運送を行っているところ,
国土交通大臣は,平成22年2月19日付けで,鉄道事業法15条1項に基づき,
A及びCがBとの間で上記鉄道線路の使用について設定した各使用条件(線路使
用料や旅客運賃収入の配分方法等を定めたもの)を認可する旨の各処分をすると
ともに,同法16条1項に基づき,Bの申請に係る○線の旅客運賃上限の設定を
認可する旨の処分をした。
本件は,A線の沿線住民である控訴人5名が,(1)A及びCがBとの間で設定し
た各鉄道線路使用条件はAのみに不利益なもので,A及びその利用者の利益を著
しく害するものであり,「鉄道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ」
(鉄道事業法15条3項)があることからすれば,国土交通大臣がA及びCに対
してした上記各使用条件の設定を認可する旨の各処分は,鉄道事業法15条3項
に規定する認可要件に違反する違法なものであると主張して,上記各処分の取消
しを求める(本件請求①及び②)とともに,国土交通大臣が同法23条1項4号
に基づきAとBの間の鉄道線路使用条件を変更するよう命じることの義務付けを
求め(本件請求③),(2)Aの旅客運賃は,距離と運賃が比例しておらず近距離の
旅客運賃が異常に高くなっており,「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをす
るものである」(平成11年法律第49号による改正前の鉄道事業法16条2項
2号)ことや,「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利
潤を含むもの」(同項1号)ではないことなどからすれば,運輸大臣(現在の国
土交通大臣。以下同じ。)がAに対してした旅客運賃変更認可処分は,平成11
年法律第49号による改正前の鉄道事業法16条2項に規定する認可要件に違反
する違法なものであり,また,上記各使用条件の設定を認可する旨の各処分が取
り消されるべき違法なものであって,Aに適正な線路使用料が支払われるべきこ
とからすれば,上記旅客運賃変更認可処分は,後発的に,同項に規定する適正原
価・適正利潤の原則に違反する違法なものとなったところ,これらの違法は重大
かつ明白であると主張して,主位的に上記旅客運賃変更認可処分の無効確認を求
め(本件請求④),予備的に同処分の取消しを求める(本件請求⑤)とともに,
国土交通大臣が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づきAに
対して旅客運賃上限等を変更するよう命じることの義務付けを求め(本件請求
⑥),(3)国土交通大臣がBに対してした○線に係る旅客運賃上限設定認可処分は,
Aに対する旅客運賃変更認可処分と同様の理由により,鉄道事業法16条2項に
規定する認可要件に違反する違法なものであると主張して,上記旅客運賃上限設
定認可処分の取消しを求める(本件請求⑦)とともに,国土交通大臣が同法16
条5項1号及び同法23条1項1号に基づきBに対して旅客運賃上限等を変更す
るよう命じることの義務付けを求める(本件請求⑧)事案である。
原審は,本件請求①,②,③,⑤,⑦,⑧に係る訴えを却下し,本件請求④及
び⑥をいずれも棄却した。これに対し,控訴人らが控訴した。
前提事実及び争点とこれに対する当事者の主張は,次のように補正するほかは,
原判決の事実及び理由の第2の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引
用する。
1原判決29頁22行目の「さらに,」の次に「平成8年算定要領の内容は極
めて不合理である上,」を加える。
2原判決32頁2行目の「用いられなければならない」の次に「し,Aについ
て現在の債務償還条件等を前提にしてシミュレーションをしても相当程度の旅
客運賃の値下げは可能という結果が出ているのである」を加える。
3原判決120頁15行目の次に,行を改めて次のとおり加える。
「ウ平成8年算定要領の内容が極めて不合理であること
平成8年算定要領は,配当所要額(適正利潤)として,払込資本金に対
し10パーセント配当に必要な額の鉄軌道事業分担額を定めており,事業
規模からみて資本金額の大きい中小民間鉄道会社においては,これにより
不相当に総括原価の額が高額となり,旅客運賃の上限も高額とすることが
可能となるものであるし,また,A運賃変更認可処分に際して同算定要領
に基づいて平成9年度の実績値のみを基礎としてなされた将来推計は,A
のその後の実際の業務実績と大きく乖離したものであったことからする
と,平成8年算定要領の内容は極めて不合理である。
したがって,かかる不合理な平成8年算定要領に基づいてなされたA運
賃変更認可処分は,改正前鉄道事業法16条2項の認可要件を満たしてい
ないにもかかわらずされた違法なものであり,その違法は重大かつ明白で
あるというべきである。」
4原判決121頁8行目の「さらに,」の次に「平成8年算定要領の内容は極
めて不合理である上,」を加える。
5原判決128頁4行目の次に,行を改めて次のとおり加える。
「また,Aについて,現在の債務償還条件等を前提にしてシミュレーションを
しても,キャッシュフローには余力があり,公費負担の下で引き下げられてい
る現状の運賃まで値下げした上,通学定期について他の私鉄並みの運賃水準ま
で値下げすることは十分に可能という結果が出ているのであるから,国土交通
大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,旅客運賃上限等の変更を命ずる
義務を負っている。」
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,控訴人らの本件請求①,②,③,⑤に係る訴えは不適法であり
却下されるべきであり,その余の請求に係る訴えは適法であるが,請求は理由
がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の事
実及び理由の第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決42頁3行目の「そして,」を削除し,6行目の末尾の次に「そし
て,旅客運賃認可処分は,このような個々の鉄道利用者が支払うことを余儀
なくされる運賃額について直接に規定する処分である。」を加える。
(2)原判決46頁13行目から47頁1行目までを次のとおり改める。
「このように,控訴人らは,日常的にA線区間内において列車を利用するにつ
いて,直接的にはBに対して旅客運賃を支払っているわけではない。しかしな
がら,上記のように○線のA線区間を利用する旅客はAが販売する乗車券を購
入することと定められているのは,B運賃上限認可処分に係る旅客運賃上限の
額がA運賃変更認可処分に係る旅客運賃の額と同じであり,Bが上記区間の旅
客運賃の額をこの額(ただし,一部区間については値下げされたA線の旅客運
賃と同額)とする届出をしたこと(原判決の事実及び理由の第2の2(3)ア,
同ウ)を前提として,事務処理の便宜から,上記区間の乗車券の販売をAが一
元的に行うこととしたものと解される。そうすると,上記区間の旅客運賃はA
運賃変更認可処分とともにB運賃上限認可処分によっても規定されているも
のといえるので,日常的に同区間の鉄道を利用している控訴人らは,B運賃上
限認可処分の取消しの訴え(本件請求⑦)についても,原告適格を有するもの
というべきである。」
(3)原判決48頁3行目の次に,行を改めて次のとおり加える。
「これに対し,被控訴人は,鉄道事業法16条5項の趣旨は公益を保護するこ
との反射的利益として鉄道利用者の利益を保護することにとどまると主張す
るが,同項1号が「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであると
き」に旅客運賃等の変更命令を発令することができると定めていることに照ら
すと,こうした差別的取扱いを受ける鉄道利用者の利益を直接に保護していな
いと解することは困難であり,被控訴人の上記主張は採用することができな
い。」
(4)原判決48頁9行目の「Aに対する」から11行目の「(本件請求⑥)」
までを「A及びBに対する鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1
号に基づく各旅客運賃の変更命令及び旅客運賃上限の変更命令の義務づけの
訴え(本件請求⑥及び⑧)」に改め,13行目から16行目までを削除する。
(5)原判決50頁21行目の次に,行を改めて次のとおり加える。
「これに対し,控訴人らは,本件においては,AとBとの間の鉄道線路使用条
件が控訴人らが求めるような内容のものになるならば,これによりAの収入が
増加して,A線の旅客運賃上限が引き下げられるべきことになると主張する。
しかし,一般に鉄道線路使用条件が旅客運賃に必然的に影響を与えるものでは
ないし,仮に影響を与える可能性があるとしても,それは同様に影響を与える
様々な要素の中の1つとして働くにすぎず,その影響は直接的なものではない
から,控訴人らの上記主張も直ちに採用することができない。」
(6)原判決51頁25行目の「及び」を「,」に改め,26行目の「(本件請
求⑥)」の次に「,B運賃上限認可処分の取消しの訴え(本件請求⑦)及び
Bに対する旅客運賃上限等の変更命令の義務づけの訴え(本件請求⑧)」を
加え,52頁2行目の「,」を「及び」に改め,3行目の「,B運賃上限認
可処分の」から5行目の「求⑧)」までを削除する。
(7)原判決53頁12行目の次に,行を改めて次のとおり加える。
「これに対し,被控訴人は,違法に高額な旅客運賃が設定されたとしても,そ
れにより鉄道利用者に発生する損害は金銭的なものにとどまるし,およそ一般
の利用者が利用できなくなるような高額の旅客運賃が設定されることは現実
には考えられず,また,本件でのA線の運賃設定によって鉄道利用者に生活の
基盤が損なわれるような重大な損害が発生するとは考えられないし,仮にそう
した損害が発生したとしても,事業者に対する損害賠償請求ないし人格権に基
づく運賃値上げ差し止め訴訟等を提起することにより救済される余地もある,
などと主張する。しかし,極めて高額な旅客運賃が設定されることもあり得な
いとはいえず,そうなれば鉄道利用者に上記のような生活基盤が侵害されるよ
うな損害が発生する可能性も否定できないし,その損害を事後的に賠償請求に
より回復することは実際には容易ではなく,また,回復しきれるものでもない。
そして,違法な運賃によるこうした損害は,多数の沿線利用者にある程度定型
的に発生するものであることに鑑みれば,事前救済の必要性が大きく,かつそ
れにより問題が合理的かつ抜本的に解決されるものといえる。」
(8)原判決54頁15行目の「違法となった」の次に「ものであるところ,処
分後も効力が継続する行政処分については処分に必要な要件を後発的に欠く
ようになった場合にはその時点から取り消し得る状態となる」を加える。
(9)原判決55頁8行目の「及び」を「,」に改め,9行目の「(本件請求⑥)」
の次に「,B運賃上限認可処分の取消しの訴え(本件請求⑦)及びBに対す
る旅客運賃上限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑧)」を加え,1
0行目の「(本件請求①,②,③,⑤,⑦及び⑧)」を「(本件請求①,②,
③及び⑤)」に改め,13行目の「,争点(5)」を「及び争点(5)」に改め,
13行目の「,争点(8)」から15行目の「更命令の可否)」までを削除する。
(10)原判決55頁20行目の「違法となった」の次に「ものであるところ,処
分後も効力が継続する行政処分については処分に必要な要件を後発的に欠く
ようになった場合にはその時点から違法な状態となる」を加える。
(11)原判決60頁3行目の次に,行を改めて次のとおり加え,4行目行頭の
「d」を「e」に改める。
「dさらに,控訴人らは,平成8年算定要領は,配当所要額(適正利潤)
として,払込資本金に対し10パーセント配当に必要な額の鉄軌道事業分担
額を定めており,事業規模からみて資本金額の大きい中小民間鉄道会社にお
いては,これにより不相当に総括原価の額が高額となり,旅客運賃の上限も
高額とすることが可能となるものであるし,また,A運賃変更認可処分に際
して同算定要領に基づいて平成9年度の実績値のみを基礎としてなされた将
来推計は,Aのその後の実際の業務実績と大きく乖離したものであったこと
からすると,平成8年算定要領の内容は極めて不合理であるので,これに基
づいてなされたA運賃変更認可処分は違法である旨主張する。
しかし,鉄道事業者が払込資本金の10パーセントという額を利潤として
確保し,配当することを認めることが一般的に鉄道事業法の趣旨に反すると
解すべき理由は見出せないし,Aの実際の業務実績が平成8年算定要領に基
づいて算出された将来推計と乖離したとしても,これにより直ちに算定の基
礎となった平成8年算定要領の内容が不合理で,これに基づいたA運賃変更
認可処分に重大かつ明白な違法があると認めることはできない。したがって,
控訴人らの上記主張も採用することができない。」
(12)原判決62頁20行目から21行目にかけての「BからAに対して」を「B
からA及びCに対して」に改める。
(13)原判決64頁17行目から18行目にかけての「もなければ,線路使用料
収入による増収が生じることも」を「が」に改める。
(14)原判決64頁23行目から65頁15行目までを次のとおり改める。
「(c)これに対して控訴人らは,BがAとCの鉄道施設を使用し,また,Aも
Cの鉄道施設を使用することにより,全体として首都圏と成田空港を結ぶ
路線となっているにもかかわらず,本件各線路使用条件によると,BとC
はそれにより増加した収益を取得することができるのに対し,Aは,収益
が減少することはないとしても,増加した収益の配分をほとんど受けるこ
とができず,その結果,A線の旅客運賃が国内の他の鉄道路線と比較して
もかなり高い状態に据え置かれているもので,BがAの実質的な親会社で
あり,Aに対して強い影響力を及ぼしていることからこのような使用条件
が設定されたことが不当であると主張する。
しかし,上記(a)のとおり,鉄道線路使用条件設定の認可要件である「鉄
道事業の適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ」がないか否かは,鉄道
線路使用条件の設定に関する鉄道事業者相互の経営判断を尊重しつつ検
討すべきものであり,それは,当事者間に親子会社の関係があるなどの事
情により一方当事者が他方に影響力を有していたとしても変わりはない。
そして,鉄道線路使用条件の設定において,双方の当事者に必ず増収が生
じるようにすることを鉄道事業法が求めているとは解せないし,A運賃変
更認可処分に係るA線の運賃水準を同法が許容していないと解すべき根
拠も見出せない。
そうすると,本件において控訴人らの上記主張のような事実があったと
しても,そのことにより直ちに,本件各線路使用条件の内容が鉄道線路の
適切な維持管理や鉄道利用者への良好かつ安定的な鉄道輸送サービスの
提供に支障を及ぼすおそれがあると認めなかった国土交通大臣の判断に
重大かつ明白な違法があるとまではいえない。」
(15)原判決65頁21行目の次に,行を改めて次のとおり加える。
「(d)以上によれば,本件各線路使用条件認可処分が重大かつ明白な違法があ
り無効であるとはいえない。したがって,そのことを理由として国土交通
大臣が鉄道事業法23条1項1号に基づきAに対して旅客運賃の上限の
変更を命ずるべき理由もない。」
(16)原判決66頁16行目の次に,行を改めて次のとおり加える。
「(エ)また,控訴人らは,Aについて,現在の債務償還条件等を前提にしてシ
ミュレーションをしたところ,キャッシュフローには余力があり,現状の
公費負担による値下げ運賃まで値下げした上,通学定期について他の私鉄
並みの運賃水準まで値下げすることは十分に可能という結果が出ているの
であるから,国土交通大臣は,鉄道事業法23条1項1号に基づき,旅客
運賃上限等の変更を命ずる義務を負っていると主張する。
しかし,前記(ウ)のとおり,現状においてAの旅客運賃等の収入が適正
な原価に適正な利潤を加えたものを超えているとは認められず,控訴人ら
が提出するシミュレーションの結果(甲135)も,この点を左右するも
のではない。また,同シミュレーションは,「前提となる情報の正確性に
ついては,なんら確認作業を行っておらず,従って,結論の正確性を保証
するものではない。」とされているとおり,その正確性に留保がつけられ
ている上,そこでは将来の条件の変動は考慮されていないので,この点に
変動があった場合には,いずれにしてもその結論は妥当しないこととなる
ものである。そうすると,上記シミュレーションの結果を考慮に入れても,
国土交通大臣が鉄道事業法23条1項1号に基づき旅客運賃上限等の変更
を命じないことが裁量権の範囲を超え又はその濫用となるものとは認めら
れない。」
(17)原判決66頁21行目の次に,行を改めて次のとおり加える。
「(3)争点(8)(B運賃上限認可処分の適法性)について
控訴人らは,B○線の旅客運賃は,鉄道利用者に混乱を生じさせないと
いう理由で,A線の旅客運賃と同額に設定されており,近距離の旅客運賃
が異常に高い「メタボ運賃」となっているから,B運賃上限認可処分につ
いても,A運賃変更認可処分と同様に違法であると主張している。
しかし,近距離の利用者に遠距離の利用者に比べて割高の旅客運賃を負
担させていることにより運賃設定が違法となるものではなく,その他,B
運賃上限認可処分に違法となる原因があるとはいえないことは,A運賃変
更認可処分に関して前記(1)イに説示したのと同様である。
したがって,B運賃上限認可処分の取消しを求める控訴人らの請求(本
件請求⑦)は理由がない。
(4)争点(9)(Bに対する旅客運賃上限等の変更命令の可否)
控訴人らは,B○線の旅客運賃は,A線の旅客運賃と同額に設定されて
いるから,Aに対する旅客運賃上限等の変更命令と同様に,国土交通大臣
が鉄道事業法16条5項1号及び同法23条1項1号に基づき,Bに対し
て旅客運賃上限等の変更を命じないことは,裁量権の範囲を逸脱し又はこ
れを濫用するものであると主張する。
しかし,Bに対して旅客運賃上限等の変更を命じないことが裁量権の範
囲を逸脱し又はこれを濫用するものでないことは,Aに対して旅客運賃上
限等の変更を命じることが裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するも
のでないことについて前記(2)のとおり述べたことがそのまま妥当するの
であり,Bに対して旅客運賃上限等の変更を命じないことが裁量権の範囲
を逸脱し又はこれを濫用するものであることの理由となる他の事情も見
当たらない。
以上によれば,Bに対して旅客運賃上限等の変更を命じることの義務付
けを求める控訴人らの請求(本件請求⑧)は理由がない。」
(18)原判決66頁22行目行頭の「(3)」を「(5)」に改め,23行目から24
行目にかけての「及び」を「,」に改め,25行目の「⑥)」の次に「,B
運賃上限認可処分の取消しの訴え(本件請求⑦)及びBに対する旅客運賃上
限等の変更命令の義務付けの訴え(本件請求⑧)」を加える。
2したがって,原判決が本件請求①,②,③,⑤に係る訴えを却下し,本件請
求④,⑥を棄却したのは相当であるが,本件請求⑦及び⑧に係る訴えを,不適
法なものとして却下した(ただし,原判決は,仮に上記訴えが適法なものであ
るとしても,いずれにしても本件請求⑦及び⑧は棄却されるべきものである旨
を判示している。)のは相当ではない。しかし,この部分につき原審に差し戻
すことは相当ではなく(民事訴訟法307条ただし書き),本件では控訴人ら
のみが控訴していることから,上記部分を取り消して請求を棄却することも不
利益変更の禁止の原則に反するので,結局,この部分についても控訴人らの控
訴を棄却すべきものである。
よって,本件控訴はいずれも理由がないことに帰するので,これを棄却する
こととして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第20民事部
裁判長裁判官坂井満
裁判官佐藤美穂
裁判官内田博久

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