弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人久保寺誠夫の上告趣意は未尾添附別紙記載の通りである。
 原判決が挙示の証拠によつて判示第一の(イ)及び(ロ)の詐欺の事実を認定し
ていることは所論の通りである。
 而して右挙示の証拠によつて原判決が確定した事実は要するに、被告人において
受配者が大津市に実在していないに拘らず恰も現存しているように装い不在受配者
等の記入された家庭用主要食糧購入通帳を使用して判示配給所において係員に対し
主食の配給を請求して係員を欺罔し因つて主食受配名義の下に判示米麦等の主食を
騙取したというのである
 而して原判決が証拠に引用している被告人の原審公判廷における供述の要旨は原
判示において大津市に現住していなかつたものと認定している合計九名の中一名は
被告人がA名義とB名義でわゆる二重配給を受けたもの他の二名は被告人が判示配
給を受けた当時既に無断で被告人の許を去り所在不明になつていた人夫であり残り
の六名は昭和二三年六月の福井震災の際之が復旧工事の為被告人の指示に従い同地
に行つていた人夫だというにある。
 右の事実において被告人がいわゆる二重配給を受けた分と受配当時既に行方不明
になつて大津市に実在していなかつた人夫二名の分について被告人が恰も大津市に
現住しているように装い主食の配給を受けた点が詐欺となることは異論のないとこ
ろであつて被告人も亦之を争わないのである。
 然し受配当時偶々前記のように福井の震災復旧工事の為同地にあつた人夫六名の
分についても前同様詐欺になるというべきであらうか凡そ日本国内に居住する者は
特殊の者を除き何人も正規に発行された主食購入通帳により一定量の主食を一定の
配給所から購入する権利を有するものであつて偶々受配者が他の地域へ転住するこ
とがあつたとしてもかゝる転住者は直ちに転出、転入の手続を採り転住地の配給所
においてのみ主食を購入をしなければならないというような法規上の根拠がないの
であるから受配者が購入した主食の輸送その他の不便を忍ぶ以上―尤もそれが食糧
管理法違反の罪を構成するか否やは別問題であるが―かゝる手続を採らない間は転
住前の地域の配給所から従前通り元の購入通帳により主食の配給を受けることは一
向差支のないところである。
 其他一時旅行して居る者の分を其者に代つて世帯主が受取る様なことも(旅行者
が旅行先で何等かの方法で配給を受けて居る場合の外は)少しも差支えないわけで
ある。斯様に現在して居ない場所で配給を受けても差支えない場合も多々ありこれ
等の場合には配給所でも転住の事実又は旅行の事実を知つて配給をするであろうか
ら、受配者が転住又は旅行の事実を秘して受配したとしても其行為と配給所の為し
た配給行為との間に因果の関係もないわけである、故に原審が判示した様に只現在
して居ない者を現在して居る様に装つて配給を受けたというだけでは罪を構成しな
い場合がある、行衛不明になつてしまつた者の分とか、他所で配給を受けて居る者
の分とか其他受けてはならない配給を受けた場合でなければ罪とならない、原審も
或は被告人が受けてはならない配給を受けたという趣旨であつたかも知れない、し
かし原判文では其趣旨はあらわれて居ないし原審挙示の証拠と対照して見ても其趣
旨は明とならない、却つて証拠によると前記の様に原判示九人の中六人一時的に被
告人の許を去つて震災復興工事に行つて居たものの様で再び帰つて来たのかも知れ
ず、行つた先で配給を受けて居た事実も少しも認められない、要するに原判文及び
原審挙示の証拠を対照して見ても被告人の行為が(前記六人分については)罪とな
るべき事実であるかどうかわからないのであつて此点において原判決は審理不尽若
しくは理由不備の違法あるものというの外ない、そして右の違法は判決に影響を及
ぼす可能性あること勿論であるから原判決は此点において破毀を免れない。
 よつて上告を理由ありとし旧刑事訴訟法第四四八条の二に従つて主文の如く判決
する
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 田中已代治関与
  昭和二四年一二月一三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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