弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人諫山博ほか二名及び被告人Bの弁護人太田晃ほか一名の各上告
趣意は、いずれも事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上
告理由に当たらない(なお、原判決の判示する被告人Bに対する検察官の取調状況、
取調内容等の諸事情に徴すれば、第一審判決が有罪の証拠とした同被告人の検察官
に対する各供述調書について、その任意性を肯定した原判断は首肯しうるところで
あり、また、右各調書を除外しても、第一審判決挙示のその余の証拠によって同判
決の判示する被告人両名の犯罪事実はこれを優に認定できることが明らかである。)。
 よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。
 この決定は、裁判官奥野久之の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によ
るものである。
 裁判官奥野久之の反対意見は、次のとおりである。
 私は、被告人Bの検察官に対する各供述調書の任意性を肯諾した多数意見には賛
成することができない。
 同被告人が初めて本件贈賄の事実を認めた昭和五七年一月二六日の警察における
取調べについては、原判決の認定によれば、取調官は、同被告人に対し、同被告人
が否認を続けるのは私欲があって被疑事実を認めることができないからだ、欲を捨
てて無欲の境地に達したとき、自供する気になれるのだ、欲を捨てよ、といった趣
旨のことを告げて同日午前一一時ころより同被告人を取調室の椅子に正座させ、取
調室の後ろ壁に貼りつけた「無欲」と書かれた紙に向かって対面させ、取調官とそ
の補助者とは同被告人の後ろ姿を黙って見守るといった方法をとりはじめ、午後零
時半ころ、一度、同被告人を取調官と正対させたうえで、同被告人が自供する気に
なったかどうかを確かめ、同被告人が依然否認の態度を維持していると分かるや、
もう一度やり直しということで、再び同被告人を前同様「無欲」の紙と対面させ、
午後一時ころから三〇分くらい昼食時間をとった後、午後一時半ころから再び同被
告人を前同様「無欲」の紙に向かって正座させて対面させ、このような状態が午後
三時半ころに同被告人が被疑事実を認めるにいたるまで続けられた、というのであ
るから、右の事実関係だけから考えても、強制的な取調べが行われたといってよく、
その供述に任意性があったとは認め難い。そして、記録によれば、同被告人は、突
然談合罪の容疑で取調べを受けることになり、同年一月一九日午前零時四〇分ころ
逮捕されて以来身柄を拘束され、同月二二日からは本件贈賄容疑でも取り調べられ
ていたのであるから、六〇歳を過ぎ、高血圧の持病もあるらしい同被告人はすでに
心身ともに相当程度疲労していたものと思われる。そのうえ、同月二六日の取調べ
の前に接見した弁護人から、弁護人としては同被告人のいうところを信じたいが、
同被告人の指示で賄賂を届けたとされるCが絶対黒といっているので、どちらを信
じていいか分かちない、もし真実黒であるのなら、速やかに自供して情状酌量とい
うことを考えた方がいいし、もし白だというのなら、強い意思と体力で四〇日は頑
張らなくては駄目だという趣旨のことをいわれた、というのであるから、右取調当
時同被告人としては精神的にかなり動揺し、前途に不安を感じていたものと考えら
れる。このような状態にある、別件で身柄拘束中の被疑者に対し、自供しない限り
いつまで続けられるか分からない形で行われた本件取調方法が、被疑者に不安と苦
痛(なお、同被告人はその間、取調官から体を動かしちゃいかん、目を動かしちゃ
いかんと姿勢を一々チェックされた旨供述している。)を与え、心理的、肉体的に
一種の強制、拷問となるものであり、このような取調べによって得られた自白が任
意性を欠くものであることはいうまでもない。
 取調官の証言するところによれば、同被告人が「いきなり私のほうに向きまして、
立ちまして泣きながら談合だけでこらえていただけないでしようかといったから駄
目だというふうにはっきりいいました。助けて下さいと、何としてでも私は若けれ
ば頑張りますけれども、もうここで助けていただきたいということで、私の確か右
腕か左腕だと思いますが、とりまして泣きながら確かに事実はありますということ
で述べました。」というのであるが、この「若ければ何としてでも頑張りますけれ
ども」と泣きながら取りすがったというところに、同被告人の絶望的な心情がよく
現れているといえよう。
 同被告人は、同月二八日本件贈賄の事実で逮捕されたのであるが、右のように、
いったん警察で自白した場合には、その後の弁解録取、勾留質問等の機会において
もこれを覆すことは期待し難く、検察官の取調べにおいても自白を撤回することに
は困難があると思われるが、特に同被告人の検察官に対する供述調書の場合は、引
き続き同一警察署のいわゆる代用監獄に身柄を拘束され、かつ、同じ警察官の取調
べと並行して行われた取調べによるものであるから、警察における前記不当な取調
べの影響を強く受けているといわなければならない。もとより検察官自身の取調方
法に不当と目すべき廉があったとは考えられないし、内容も司法警察員調書の単な
る引き写しに終わることなく、かえってより詳細かつ具体的に記述されている部分
もあり、その他一々の調書の内容には格別不自然、不合理なところもないのである
が、そうだからといって、検察官に対する供述調書に任意性があるものということ
はできない。
 以上のとおり、被告人Bの検察官に対する各供述調書は任意性を欠くものである
から、原判決が右各調書に任意性ありとし、第一審判決がこれを他の証拠と総合し
て被告人両名の犯罪事実を認定したことを是認したのは、証拠能力に対する判断を
誤り、採証すべからざる証拠を証拠とした違法があるというべきである。そして、
右各調書は贈賄者の賄賂の供与に関するものであって、犯罪事実認定の重要な証拠
となっているのであるから、賄賂の授受の有無についても、さらに検討を要するも
のと認められる。したがって、前記の違法は被告人両名の犯罪の成否に影響を及ぼ
すことが明らかであり、原判決はこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと
認められるから、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、同法四一三条本文に
より、さらに審理を尽くさせるため、本件を原審である福岡高等裁判所に差し戻す
べきものと考える。
  平成元年一〇月二七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   久   之
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    香   川   保   一

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