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平成29年1月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成28年(ネ)第10071号債務不履行損害賠償請求控訴事件
原審・大阪地方裁判所平成27年(ワ)第10913号
口頭弁論終結日平成28年11月30日
判決
控訴人X
被控訴人Y1
被控訴人Y2
上記両名訴訟代理人弁護士内田公志
主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して550万円を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
4仮執行宣言
第2事案の概要(略称は,特に断らない限り,原判決に従う。)
1本件は,控訴人が,被控訴人Y1(以下「被控訴人Y1」という。)に,発
明の名称を「血栓除去用部材とそれを使用した血栓除去用カテーテル」とする発明
について米国特許出願(本件出願)の手続を依頼したにもかかわらず,被控訴人Y
1は,クレーム補正に関する審査官からの電話連絡に対し,その定められた期限で
ある平成19年2月23日までに,補正の書面を提出すべき義務又は口頭でクレー
ム補正に応諾する旨の連絡をすべき義務を怠ったとして,被控訴人Y1及びその履
行補助者であった被控訴人Y2に対し,連帯して,不法行為に基づく損害賠償金5
50万円の支払を求める事案である。
原審は,被控訴人らは,クレーム補正に関する審査官からの電話連絡に対して,
補正の書面を提出すべき義務を負わず,また,口頭でクレーム補正に応諾する旨の
連絡をすべき義務を怠ったとは認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却
したため,控訴人が,原判決を不服として,本件控訴を提起した。
2前提事実等
原判決「事実及び理由」第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。
3争点
原判決「事実及び理由」第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。
第3争点に対する当事者の主張
1原判決の引用
当事者の主張は,下記2のとおり,争点1(被控訴人らが,審査官からのクレー
ム補正の電話連絡に対し,補正の書面を提出すべき義務又は口頭で応諾の連絡をす
べき義務を怠ったか否か)について,当審における当事者の主張を付加するほか,
原判決「事実及び理由」第3記載のとおりであるから,これを引用する。
2当審における当事者の主張
〔控訴人の主張〕
⑴特許審査便覧714ⅡEについて
実体的な補正を審査官補正で処理するための要件は,特許審査便覧714ⅡEに
記載されているように,期間延長申請と審査官への補正の授権を最終Office
Actionの返答期間内にすることである。しかし,本件における審査官からの
連絡は,これらの処理要件に合致するものではない。
したがって,本件における審査官からの連絡は,審査官補正の提案ではない。
⑵応答書における補正内容について
被控訴人らが平成19年2月20日に審査官に対し電話で審査官補正の提案を承
諾する旨伝えたのであれば,再び同じ内容の補正をする必要はない。しかし,被控
訴人らは,非最終拒絶理由通知に対し,同年6月7日付け応答書において同じ内容
の補正を行っている。そうすると,被控訴人らは,審査官補正の提案を承諾する旨
伝えていなかったというべきである。
⑶578出願について
被控訴人らは,578出願に係る発明について,本来であれば一度の審査又は補
正手続で特許として査定されるべきであったにもかかわらず,故意に手続を長期化
させ,手数料を詐取するという詐欺行為を行っている。したがって,被控訴人らの
本件出願の手続も,手数料の水増しを目的とした確信的な詐欺行為というべきであ
る。
〔被控訴人らの主張〕
⑴特許審査便覧714ⅡEについて
特許審査便覧714ⅡEは,実体的な補正を審査官補正で行うための要件を定め
たものではない。
特許審査便覧714は,出願人の行為として行われる補正についてのチャプター
であって,審査官補正に関して定めるチャプターではない。そして,特許審査便覧
714ⅡEは,審査官補正の要件を示しているわけではなく,審査官に対し,不遵
守補正の訂正は出願人からの許可なく審査官補正でできること(第2段落),その
際に実質的補正をも行う場合には,出願人からの許可が必要であって,応答期間の
延長も必要である場合には,その許可も得ること(第3段落)を確認するものであ
る。
⑵応答書における補正内容について
被控訴人らが,本件出願の手続において,同一内容の補正を重複して行ったこと
はない。
⑶578出願について
578出願の手続は,本件出願に係る発明とは異なる発明に関するものであるか
ら,578出願の手続に関する控訴人の主張は,本件とは全く関係がない。また,
578出願においては,非法定型自明型二重特許を理由に含む拒絶理由通知に対し,
ターミナルディスクレーマーを提出することで,この拒絶理由を回避し特許に至っ
たものであり,被控訴人らが故意に手続を長期化させたものではない。
第4当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人らは,クレーム補正に関する審査官からの電話連絡に対し
て,定められた期限までに,補正の書面を提出すべき義務を怠ったとは認められず,
また,口頭でクレーム補正に応諾する旨の連絡をすべき義務を怠ったとも認められ
ないから,控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1認定事実等
次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」第4の1記載のとおりで
あるから,これを引用する。
(1)原判決16頁1行目冒頭から2行目末尾を次のとおり訂正する。
「エ578出願のTHには,上記の審査官補正について電話面接をした記録は
記載されていない。一方,IFWには,同年2月22日に「AmendmentA
fterFinalorunder37CFR1.312,initi
atedbytheexaminer(審査官によって行われた最終拒絶理
由後又は37CFR1.312規定の補正)」との記載がある(甲35(枝番を含
む。),乙16)。」
⑵原判決16頁5行目冒頭から8行目末尾を次のとおり訂正する。
「(5)別件の米国特許出願番号11/423,151(以下「151出願」とい
う。)の出願手続において,平成23年1月13日に電話面接により審査官補正の
権限が授与され,同月18日に審査官が出願を補正し,その補正を処理する手続(E
xaminer’sAmendmentCommunication)が行わ
れた。
151出願のTHには,上記の審査官補正について電話面接をした記録は記載さ
れていない。一方,IFWには,同月26日に審査官面接要約記録(Examin
erInterviewSummaryRecord)との記載がある(甲
32,33,44,乙26)。」
2被控訴人らが,クレーム補正に関する審査官からの電話連絡に対して,定め
られた期限である平成19年2月23日までに,補正の書面を提出すべき義務を怠
ったか否かについて
(1)前記認定(引用に係る原判決第4の1(2)ア)によれば,被控訴人Y1は,
平成19年2月17日頃,審査官から,本件出願のクレーム1を,クレーム2の限
定を含むものに補正し,クレーム2を削除するか否かについて,同月23日までに
回答するよう求める旨のクレーム補正に関する電話連絡を受けたものと認められる。
そして,同認定のとおり,被控訴人Y1は,かかる電話連絡を受けて,「審査官
は,出願を特許可能な状態にするために審査官による補正(anExamine
r’sAmendment)を用意します。」と電子メールを送信していること
からすれば,被控訴人Y1は,審査官からのクレーム補正に関する上記電話連絡を,
審査官補正の提案であると解釈したものと認められる。
一方,前記認定(引用に係る原判決第4の1(1)ア(ア))によれば,米国特許出願
手続における補正は,書類を提出することによって行われるが,審査官補正の場合
には,米国特許商標庁(審査官)が審査官補正書を発行して行われるものと認めら
れる。そして,前記認定(引用に係る原判決第4の1(1)ア(イ)c及びd)のとおり,
審査官補正は,出願人が電話又は個人面接により権限を授与した場合に許されるこ
と,前記認定(引用に係る原判決第4の1(4))のとおり,578出願での審査官補
正でも電話面接による権限授与が行われているにとどまることからすれば,審査官
補正の場合,出願人が補正の書面を提出する必要はないものと認められる。
そうすると,被控訴人Y1が,審査官からのクレーム補正に関する電話連絡を,
審査官補正の提案であると解釈したことについて合理的な根拠があれば,被控訴人
らには,少なくとも定められた期限である平成19年2月23日までに,補正の書
面を提出すべき義務の違反行為はなかったというべきである。
そこで,被控訴人Y1が,審査官からのクレーム補正に関する電話連絡を,審査
官補正の提案であると解釈したことについて合理的な根拠があったか否かについて
検討する。
ア前記認定(引用に係る原判決第4の1(2)ア)によれば,被控訴人Y1は,平
成19年2月17日頃,審査官から,クレーム補正に関する電話連絡の際,提案の
とおりクレームを補正すれば,クレーム1とクレーム3ないし20は特許可能であ
る旨連絡を受けたものと認められる。そして,審査官補正は,「出願を特許として
通す場合」に許されるものであるから(引用に係る原判決第4の1(1)ア(イ)c),
審査官から上記のとおり連絡を受けた被控訴人Y1が,これを審査官補正の提案と
解釈することは合理的なものである。
また,前記のとおり,審査官は,クレーム補正に関する電話連絡の際,その回答
期限を約1週間後に指定しているところ,代理人を通じて特許を出願した出願人が,
1週間以内に補正の書面を準備し,これを提出するのは困難であって,審査官がこ
のような期限を設定するとは考え難い。そうすると,審査官からクレーム補正に関
する電話連絡を受けた被控訴人Y1が,これを,出願人が電話又は個人面接により
権限を授与する手続のみで行える審査官補正の提案であると解釈するのも,不合理
とはいえない。
したがって,被控訴人Y1が,審査官からのクレーム補正に関する電話連絡を,
審査官補正の提案であると解釈したことについて合理的な根拠があったものという
ことができる。
イこれに対し,控訴人は,本件における審査官からの電話連絡は,特許の根幹
をなすクレーム1及び2の補正であり,このような特許の根幹をなすクレームの実
体的変更は審査官補正ではできない,審査官補正は「特許申請登録の段階に於いて」
行われるものである,として本件における審査官からの電話連絡を,審査官補正の
提案であると解釈することはできないと主張するが,同主張は採用できない。その
理由は,原判決第4の2(1)イ記載のとおりである。
ウ当審における控訴人の主張について
控訴人は,本件における審査官からの電話連絡は,特許審査便覧714ⅡEの処
理要件に合致するものではないから,同連絡を,審査官補正の提案であると解釈す
ることはできないと主張するものと解される。
(ア)しかし,特許審査便覧714ⅡEは,出願人の行為として行われる補正時
における審査官補正について解説するものであって,その内容は概ね次のとおりで
ある(乙27)。
「不遵守の補正(anon-compliantamendment)が他
の点においては出願を許可できる状態にするものである場合は,審査官は不遵守の
補正を登録し,不遵守を訂正するための審査官補正を提供することができる。」(第
2段落1行目~5行目)
「審査官補正は,…ということを含まなければならない。出願人又は弁護士/登
録されている代理人からの授権及び適切な期間延長は,変更が実質的でない場合は
要求されない。」(第3段落1行目~7行目)
「授権及び適切な期間延長が,審査官補正によってされる変更が実質的である場
合には,必要とされる。授権は最終庁指令に記載されている返答期間内に与えられ
なければならない。」(第4段落)
(イ)以上のとおり,特許審査便覧714ⅡEは,出願人による補正が不相当で
あった場合における審査官補正について規定したものであって,変更が実質的な場
合に,審査官補正を行う際には,出願人からの授権のほかに,期間延長の手続も必
要とされる旨記載されているものである。これに対し,本件出願は,平成19年2
月時点において,出願人による補正手続はされていないから(甲6,乙14),出
願人による補正が不相当であった場合における審査官補正についての規定である特
許審査便覧714ⅡEが適用されるものではない。
(ウ)したがって,本件における審査官からの電話連絡が,審査官補正の提案で
はないということを,特許審査便覧714ⅡEに記載された手続要件から判断する
ことはできないから,控訴人の前記主張は,採用できない。
(2)小括
以上のとおり,被控訴人Y1が,審査官からのクレーム補正に関する電話連絡を,
審査官補正の提案であると解釈したことについては合理的な根拠があったものとい
うことができ,また,審査官補正の場合,出願人には補正の書面を提出する必要が
ないから,被控訴人らには,少なくとも定められた期限である平成19年2月23
日までに,補正の書面を提出すべき義務の違反行為はなかったというべきである。
3被控訴人らが,審査官からのクレーム補正の電話連絡に対し,口頭で応諾の
連絡をすべき義務を怠ったか否かについて
(1)原判決の引用
原判決19頁18行目冒頭から21頁2行目末尾を次のとおり訂正するほかは,
原判決の「事実及び理由」第4の3のとおりであるから,これを引用する。
「⑵アそこで,被控訴人らがこの義務に違反して,審査官からのクレーム補正
の電話連絡に対し,口頭で応諾の連絡をしなかったと認められるかについて検討す
るに,前記認定のとおり(引用に係る原判決第4の1⑵ウ),被控訴人Y1の奥田
宛て平成19年3月14日付けの電子メールには,「我々は審査官とコンタクトを
とり,発明者がクレーム2をクレーム1に合わせクレーム1に限定することに合意
したことをアドバイスしました。残念ながら,コンタクトした時は既に審査官は彼
の上司に少なくともクレーム1と2をrejectするACTIONを発行するよ
う指示されていました。他の審査官もクレーム2はpatentableではない
と信じたようです。」と被控訴人らが口頭で応諾の連絡をした旨記載されている。
同記載は,同月7日付け非最終拒絶理由通知に至った経緯,理由を具体的に説明す
るものであるところ,被控訴人Y1が,審査官補正に応諾する旨の連絡をしなかっ
たことを隠ぺいするために,わざわざこのような具体的な説明を付すとも考え難い。
よって,同記載は信用できるから,被控訴人らが,審査官からの電話連絡に対し
て口頭で応諾の連絡をしなかったと認めることは困難である。
イこれに対し,控訴人は,審査官からの補正の電話連絡に対して口頭で応諾の
連絡をしたのであれば,THやIFWにその旨が記録されるにもかかわらず,本件
出願に係るTH(甲6)及びIFW(乙14)のいずれにも,そのような記録が残
っていないと主張する。
しかし,前記1(1)及び(2)のとおり,578出願及び151出願の出願手続にお
いて,電話面接により審査官補正の権限の授与がされたにもかかわらず,いずれの
THにも,電話面接をした旨は記載されていないから,そもそも口頭で応諾の連絡
をしたのであれば,THにその旨が記録されるということはできない。
また,審査官が,どのような事実をどのような形式で,IFWの記録に編綴する
かについては明らかではない。本件出願については,結果的に審査官補正がなされ
ていないから,本件出願に係るIFWに,前記1(1)及び(2)のとおり,578出願
におけるIFWの記録(AmendmentAfterFinaloru
nder37CFR1.312,initiatedbytheexa
miner)や,151出願におけるIFWの記録(ExaminerInte
rviewSummaryRecord)のような記載がないのは当然であっ
て,さらに,審査官からの補正の電話連絡に対して口頭で応諾したか否かのみをI
FWとして記録化する必要性も乏しいから,審査官補正に応諾する旨の被控訴人ら
からの連絡自体がIFWに記載されていなくても不自然ではない。
したがって,控訴人のTHやIFWに関する前記主張は,その前提を欠くから採
用できない。
ウまた,控訴人は,特許審査便覧713.04には,電話によるインタビュー
の内容は,審査官との同意に達したか否かにかかわらず記録されなければならない
とされているにもかかわらず,そのような記録が残っていないと主張する。
しかし,前記認定(引用に係る原判決第4の1⑴イ)のとおり,特許審査便覧7
13には,出願人が電話による会話等により審査官に考慮を求める事項を提示する
ことを「面接」と定められているところ,審査官補正の提案に応諾することが,審
査官に考慮を求める事項であると直ちにいえるものではない。また,本件出願にお
いて,結果的に審査官補正はなされていないから,このような場合であっても,平
成19年2月に行われた審査官と被控訴人Y1との間の審査官補正の提案とそれに
応諾する旨のやり取りが記録化されるか否かも明らかではない。
したがって,控訴人の特許審査便覧713.04に関する主張をもって,被控訴
人らが,審査官からの電話連絡に対して口頭で応諾の連絡をしなかったと認めるこ
とはできない。」
(2)当審における控訴人の主張について
ア応答書における補正内容について
控訴人は,被控訴人らが平成19年2月20日に審査官に対し電話で審査官補正
の提案を承諾する旨伝えたのであれば,再び同じ内容の補正をする必要はなかった
にもかかわらず,被控訴人らが,同年6月7日付け応答書において同じ内容の補正
を行っていることが不自然であると主張する。
しかし,本件出願において審査官補正はなされておらず,上記応答書が提出され
た同日時点において,本件出願のクレーム1をクレーム2の限定を含むものに補正
し,クレーム2を削除するという補正は行われていなかったものである(甲6,乙
14)。そうすると,非最終拒絶理由通知に対する応答書で,上記内容の補正を改
めて行うことは何ら不自然ではなく,控訴人の前記主張は採用できない。
イ578出願について
控訴人は,被控訴人らが578出願の手続を故意に長期化させるという詐欺行為
を行ったと主張する。しかし,被控訴人らが578出願の際に不相当な手続を行っ
たと認めるに足りる証拠はなく,そもそも,被控訴人らによる578出願の手続経
過をもって,被控訴人らが,本件出願の際に,口頭で応諾の連絡をすべき義務を怠
ったか否かの判断が左右されるものでもない。したがって,控訴人の上記主張は採
用できない。
4その余の控訴人の主張について
原判決の「事実及び理由」第4の4のとおりであるから,これを引用する。
その他,控訴人はるる主張するが,いずれも,被控訴人らが,クレーム補正に関
する審査官からの電話連絡に対して,定められた期限までに,補正の書面を提出す
べき義務を怠ったとは認められず,また,口頭でクレーム補正に応諾する旨の連絡
をすべき義務を怠ったとも認められないとの前記判断を左右するものではない。
5結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれ
も理由がないから,これを棄却した原判決は相当である。
よって,本件控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官柵木澄子
裁判官片瀬亮

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