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平成12年(行ケ)第449号 審決取消請求事件
     判    決
 原 告 株式会社エイ・シー・エム
 訴訟代理人弁護士 奥野滋
 被 告 特許庁長官 及川耕造
 指定代理人 保坂金彦、茂木静代
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が不服2000-4519号事件について平成12年10月24日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、平成10年12月2日、別紙本願商標のとおりの態様よりなる商標(本
願商標)につき、第32類「飲料水,鉱泉水」を指定商品として、商標登録出願し
(平成10年商標登録願第103336号)、平成11年12月3日付けの手続補
正書をもって、指定商品を第32類「鉱泉水」と補正したが、平成12年1月14
日、拒絶査定があったので、審判を請求し、不服2000-4519号事件として
係属したが、同年10月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決
があり、その謄本は、同年11月15日原告に送達された。
 2 審決の理由の要点
 (1) 引用商標
 原査定において、本願商標の拒絶の理由に引用した登録第2013282号商標
(引用商標)は、「πウォーター」の文字よりなり、旧第29類「鉱泉水」を指定
商品として、昭和60年5月27日に登録出願、同63年1月26日に設定登録さ
れ、その後、平成9年11月25日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に
有効に存続しているものである。
 (2) 審決の判断
 本願商標は、別紙本願商標のとおりであるところ、その構成は、「ミネラル」及
び「ウォーター」の片仮名文字の間に黒塗り円形図形の中に「π」の文字をややデ
ザインして白抜きで表してなるものである。
 そして、本願商標中の「π」の文字は、ギリシャ語の字母の一であり「パイ」と
発音され、これは円周率の記号としても広く知られているものである。
 また、「π」の文字を介して前後の「ミネラル」及び「ウォーター」の語を一連
にした「ミネラルウォーター」の語は、指定商品である「鉱泉水」を意味する語と
して知られており、商品名を表示したものと認められ、この部分には商品の出所表
示としての機能はないものと認められる。
 そうすると、本願商標を称呼する場合には、全体として「ミネラルパイウォータ
ー」の一連の称呼が生ずるほか、前記商品の出所表示機能のない語を省略して称呼
する場合の多いことから、「π」の文字より「パイ」の称呼を生じ、さらには、前
半部の「ミネラル」の語を省略して「π」の文字と後半部の「ウォーター」の片仮
名文字より生ずる「パイウォーター」の称呼をも生ずると判断するのが相当であ
る。
 他方、引用商標は、「πウォーター」の文字よりなるところ、「ウォーター」は
「水」の意の語として知られ、指定商品との関係では識別力がない語であることか
ら、引用商標からは「パイウォーター」の一連の称呼が生ずるほか、識別力のない
「ウォーター」の語を省略して「π」の文字より「パイ」の称呼をも生ずると判断
するのが相当である。そして、「π」の文字については、前記と同様に円周率の記
号として広く知られているものである。
 してみれば、本願商標と引用商標とは、外観において差異が認められるとして
も、「パイウォーター」及び「パイ」の称呼において類似し、また、円周率の記号
として知られているギリシャ語の「π(パイ)」の観念を同じくする類似の商標で
あって、かつ、本願商標は引用商標の指定商品と同一の商品について使用をするも
のであるから、本願商標が、商標法第4条第1項第11号に該当するとして拒絶し
た原査定は妥当であって、取り消すことはできない。
 原告は、登録例を挙げて本願商標は造語であって一体となって把握されるもので
あると述べている。
 しかし、本件は、登録例とは事案を異にするものであること、そして、本件につ
いては上記のとおり判断するのが相当であることから、原告の主張は採用すること
ができない。
第3 原告主張の審決取消事由
 審決は、以下に述べるところにより、本願商標と引用商標との類否判断を誤った
ものである。
 1 本願商標は、黒塗り円形図形(黒丸)内にギリシア文字の「π」のような商
標を白抜きで配置した表示を中心にし、その左右に「ミネラル」、「ウォーター」
の文字を配しているが、その表示から明らかなとおり、黒塗り円形図形内の白抜き
は、「π」の文字をややデザインしたという程度ではなく、それ自体1個の図形で
あり、本願商標は、文字と図形とをその構成としている。そして、審決説示のよう
に、前後の文字を一連にした「ミネラルウォーター」の後は、指定商品である「鉱
泉水」を意味する語として知られており、この部分には商品の出所表示としての機
能がないのであれば、本願商標において、識別力を有する部分は上記図形部分のみ
である。
 これに対し、引用商標は、「π」と「ウォーター」の文字を横書きに一連に結合
したものであり、文字による商標であることから、本願商標とその構成を異にす
る。
 したがって、本願商標は引用商標と類似でも同一でもない。
 2 本願商標の図形部分は、ギリシア文字の「π」とは書体を異にし(形状的に
はむしろ、漢字の「兀」(こつ)に類似する。)、独特の表現方法によって表示さ
れており、特異な記号ないし図形よりなるものであり、ギリシア文字の「π」とは
異なる創造的な図形として認識される。しかも、黒塗り円形図形内の中央部にこの
独特の表現形態を黒丸と一体に図案化されている。そのため、この図形部分からは
ギリシア文字の「π」が理解されることはなく、そこから「パイ」の称呼及び観念
も生じない。
 3 被告は、本願商標の構成からあえて「ミネラル」の部分だけを省いて、「本
願商標は「パイウォーター」の称呼及び「生体水に近いパイ化された水」の観念を
も生じると主張するが、この主張は、「ミネラルウォーター」という普通名称の普
遍性を無視したものである。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 本願商標中の、「ミネラル」と「ウォーター」との文字の間に配された、黒
塗り円形図形内に白抜きで表されたものは、ギリシア文字の字母、円周率を表す記
号として、我が国において極めて親しまれている「π」(パイ)とその形状が極め
て近似しているものであるから、「π」をやや図案化して表現したものと理解され
るというのが自然の見方である。
 2 本願商標及び引用商標の指定商品の分野において、「ミネラルウォーター」
の語は、「無機塩類を多く含んだ水,鉱泉水」を意味する商品の普通名称として、
広く使用されている。
 また、「πウォーター」の語は、例えば、1989年7月20日付け日経産業新
聞には、「二価三価鉄塩をごく微量含む水、『πウォーター』の普及と応用」と、
また、1994年9月19日付け日食外食レストラン新聞には、「・・・具材のア
サリは、生きた水、パイウォーターで砂をはかせ、ボイル、乾燥、味付けし真空パ
ックの状態。」との記事が掲載されている。さらに、1994年7月12日付け流
通サービス新聞には、「・・・和風素材を健康水『π(パイ)ウォーター』を使っ
て調理したもの。」との記事が掲載されているように、飲料水、農業、畜産、園
芸、食品加工等の分野において普通に使用されている。
 3 「鉱泉水」等の分野におけるこれら取引の実情に照らして本願商標を考察す
ると、「ミネラルウォーター」の語が指定商品の分野で商品の普通名称として広く
知られているところから、本願商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「ミ
ネラル」と「ウォーター」とを一体のものと理解し、「無機塩類を多く含んだ水」
を意味する商品の普通名称を表したものと認識する場合が多いということができ
る。
 このように、本願商標は、その構成中の「ミネラル」と「ウォーター」の各文字
が自他商品の識別機能を有しないとみた場合は、黒塗り円形図形内に白抜きで書さ
れた「π」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たすものと
して看取され、これより「パイ」の称呼、及び「ギリシア文字のパイ」、もしくは
「円周率」の観念をもって商品の取引がなされるというべきである。
 一方、鉱泉水等の分野において、「生体水に近いパイ化された水」の意をもって
「πウォーター」の語が普通に使用されている事実、及び「ミネラル」の語が「無
機物、栄養素として生理作用に必要な無機物の称」を意味し、商品の品質表示語と
して普通に使用されている事実よりすると、本願商標に接する取引者、需要者は、
その構成中の白抜きの「π」とその右に書された「ウォーター」の各文字部分とを
結合させ、「πウォーター」を表したと理解し、これより「パイウォーター」の称
呼、及び「生体水に近いパイ化された水」の観念をもって商品の取引に当たる場合
も決して少なくないというべきである。
 4 以上によれば、本願商標は、その構成より、「パイ」の称呼及び「ギリシア
文字のパイ」、若しくは「円周率」の観念が生ずるほか、「パイウォーター」の称
呼及び「生体水に近いパイ化された水」の観念をも生ずるというべきものである。
そして、引用商標は、「πウォーター」の文字を書してなるものであるから、これ
より「パイウォーター」の称呼及び「生体水に近いパイ化された水」の観念を生ず
る。
 このように、本願商標と引用商標は、いずれも「パイウォーター」の称呼を生
じ、「生体水に近いパイ化された水」の観念を生ずるものであるから、称呼及び観
念を共通にする類似の商標というべきであり、両商標をその指定商品について使用
した場合は、取引者、需要者をして、商品の出所につき誤認混同を生じさせるおそ
れが十分にある。
第5 当裁判所の判断
 原告は、本願商標の黒塗り円形図形内の白抜きは、ギリシア文字の「π」をやや
デザインしたという程度ではなく、それとは異なる創造的な図形であると主張する
が、この白抜きが、円周率を表す記号として広く知られているギリシア文字「π」
(パイ)と看取されるものであり、これをもってほとんど知られていない漢字
「兀」(こつ)と看取する者は極めて少ないことは明らかである。この部分から
「パイ」の称呼及び観念が生じないとする原告の主張は理由がない。
 この白抜きを含む黒塗り円形図形が創造的な図形として認識されるか否かは別と
して、この円形図形から「パイ」の称呼が生じる以上、本願商標からは「パイウォ
ーター」の称呼も生じるものと認められる。
 したがって、本願商標と引用商標とは称呼において類似し、円周率の記号として
知られているギリシア語の「π(パイ)」の観念を同じくする類似の商標であると
した審決の判断に、何らの誤りはなく、審決に原告主張の誤りはない。
第6 結論
 よって、原告主張の審決取消事由は理由がなく、原告の請求は棄却されるべきで
ある。
(平成13年5月10日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   永   井   紀   昭
            裁判官   塩   月   秀   平
            裁判官   橋   本   英   史
別紙 本願商標

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