弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
         事    実
 原告は、請求の趣旨として、昭和三十年二月二十七日に行われた最高裁判所裁判
官国民審査は無効である、訴訟費用は被告の負担とするという趣旨の判決を求める
と申立て、請求の原因その他別紙一のとおり述べた。
 被告は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求める
旨申立て、請求の原因に対する答弁、抗弁を別紙二のとおり述べた。
 証拠として、当事者双方は別紙三記載のとおり、提出認否援用をした。
         理    由
 原告主張の無効の理由(請求の原因六の1ないし5)に関する当裁判所の見解は
つぎのとおりである。
 1について、
 <要旨第一>審法第七九条第二項に定められる最高裁判所裁判官国民審査は一種の
解職投票制度であつて、裁判官任命の適否を審査決定する制度ではな
い。これは当裁判所が昭和二十四年(行ナ)第三号原告A、被告最高裁判所裁判官
国民審査管理委員会委員長間の最高裁判所裁判官国民審査の効力に関する異議事件
について、昭和二十四年十二月五日言渡した判決(高等裁判所判例集第二巻第三号
三二五ページ以下)および昭和二十七年第三二号三四、三五、三六号第三八ないし
四一号原告B七名被告中央選挙管理委員会委員長間の最高裁判所裁判官国民審査の
効力に関する異議事件について、昭和二十九年十一月九日言渡した判決(高等裁判
所判例集第七巻第十一号九四三ぺージ以下)において、それぞれ詳細な説明を加え
て示したところであり、なお最高裁判所も支持した見解である(最高裁判所昭和二
十四年(オ)第三三二号昭和二十七年二月二十日言渡判決、最高裁判所判例集第六
巻第二号一二二ぺージ以下)。いま、本件について、この見解を変更すべきものと
は考えない。
 したがつて、最高裁判所裁判官国民審査法が解職投票制度を規定していること
は、憲法第七九条第二項に適合するものであり、この法律によつて行われた本件国
民審査は憲法違反の法律によつて行われたものであるから、無効であるとする原告
の主張は採用することはできない。
 2について、
 本件国民審査施行にあたつて、その投票所は審査法第一三条の定めに従つて設備
された結果、衆議院議員選挙の投票所と審査の投票所との出入口を一つにし、その
入口に棄権を望む者は投票用紙を受取らなくてよい旨の貼紙をしたこと、投票用紙
の持ち帰りを禁じていたことは、当事者間争のないところである。
 右のような設備の投票所で出頭した審査権者に対して、係員が審査の投票用紙を
さし出したとしても、ことに、衆議院議員選挙の投票用紙とともにさし出したとし
ても、審査権者は審査の投票用紙を受取らないことは不能ではなく、前記のような
貼紙による注意をしてある以上、投票用紙を受け取ることを強制したとは認めがた
い。また一度受け取つた投票用紙の持ち帰りを禁じられたからといつて、どうして
も投票しなければならないわけはなく、投票用紙を投票所内において立ち去ること
はできるのである。
 本件審査において、前記のような設備のもとに選挙の投票用紙とともに係員から
さし出された審査の投票用紙を受け取つて投票をした審査人があつたとしても、そ
の者に対し投票が強制されたのだとはいい得ない。また、前記のような貼紙がある
にはあつたが、それとはべつに、審査人の意に反して投票用紙を受け取らせ、その
意に反して投票させたという事実はこれを認めるに十分な証拠がない。(同時に国
民審査に付される裁判官が二人以上である場合に、裁判官の氏名を一枚の用紙に連
記する様式の投票用紙(国民審査法第一四条第一項)を用うると、そのうちのある
裁判官については棄権したい他の裁判官については罷免を可とする投票をしたいと
思う審査人は、罷免を可とすると信ずる裁判官について×を記入して投票するに
は、棄権したいと思う方の裁判官について、×印を記さない投票を、いやでも、し
なければならず、棄権したいと思う裁判官について棄権するには、他の裁判官につ
いての罷免を可とする投票をすることを断念しなければならないという関係に立つ
こと必然である。これは結果において審査人に対して投票を、あるいは棄権を強制
することになる。かような結果を生ぜしめるかぎりにおいて国民審査法は問題であ
るけれども、本件国民審査の対象たる裁判官は一人であるから、この点についての
論議はさしひかえる。) 選挙の投票所と審査の投票所とが、その出入口を同一に
しているため、選挙の投票所へはいる者は同時に審査の投票所へはいらなければ出
ることができないことが、憲法に保障される身体の自由を害するものでないことは
明かである。本件国民審査が憲法第一三条に反して行われたとの原告の主張は採用
することができない。
 3、4について、
 <要旨第二>国民審査は解職投票の性質を有するものであること「1について」に
おいて説明したとおりである。したがつて国民審査における問題は罷免
を可とするとの投票が多数をしめるかどうかである。罷免を可とするとの投票と、
罷免を可とするとの投票でない投票との比較において、前者が多数をしめると、そ
の裁判官が罷免されるという効果を生じ、多数をしめないときは、罷免の効果を生
じないのである。国民審査において審査人に対して求められる投票は、罷免を可と
する投票か罷免を可とする投票でない投票かのどちらかである。罷免を可とする投
票と「罷免に反対するとか、その裁判官を信任するとか、その任命を是認するとか
の意味を有する投票」とのどちらかをせよというのではない。国民審査法第二九条
第三二条第三三条などに「罷免を可としない投票」というは前にいう「罷免を可と
する投票でない投票」を意味するのである。ただ、ことばを縮めた表現を用いただ
けであつて、なんら積極的意味を有するものではない。したがつて、国民審査の投
票用紙に罷免を可とする投票をしようとする審査人がその旨を示す記載をするとこ
ろを設け、罷免を可とする投票でない投票をしようとする審査人はなんらの記入を
しないで投票することとしたのは、国民審査の憲法上の性質に合致するものであ
る。
 したがつて、また、罷免を可とする投票以外の投票のすべてを罷免を可としない
投票として、罷免を可とする投票と対比して多数少数を決することは、罷免を可と
しない投票をもつて、罷免に反対するとか、その裁判官を信任するとか、またはそ
の任命を是認するとかいう意思とか意見の表現であるとしてとりあつかう意味には
ならない。憲法によつて保障される思想及び良心の自由表現の自由(憲法第一九条
第二一条)をうばうことにはならない。原告の主張は、国民審査の制度を裁判官の
任命の適否を問題とするものとし、したがつて罷免投票か信任投票かをさせるもの
だとの見地に立つて、国民審査法にいわゆる罷免を可としない投票を信任投票と解
することから出て来る違憲論であつて採用に価しない。
 5について
 <要旨第三>原告は国民審査法第一五条第一項に定めるところの「審査人は投票所
において、罷免を可とする裁判官については、投票用紙の当該裁判官に
対する記載欄に自ら×の記号を記載し、罷免を可としない裁判官については、投票
用紙の当該裁判官に対する記載欄に何等の記載をしないで、これを投票箱に入れな
ければならない」との投票の方式によるときは、投票の秘密が侵されると主張する
けれども、必ずしもそうとはいえない。投票所の設備を、審査人が投票前投票用紙
に×の記載をしたのかしなかつたのかを他人からうかがい知り得ないように施すな
らば、前記方式によつたからといつて、投票の秘密が侵されるものではない。選挙
の投票用紙と審査の投票用紙とを同時に交付し、両方の投票の記入台を同一個所に
して、審査の投票に×の記載をしようと思う審査人は選挙の投票記載と同時に記載
し得るようにするとか、その他投票所の設備についてくふうをこらすことによつ
て、投票の秘密を保護することはできるのである。国民審査法第一五条第一項所定
の投票の方式によれば、つねに、投票の秘密が侵されると断ずることはできない。
本件国民審査において右の方式が用いられたということだけで、投票の秘密が侵さ
れたということはできない。
 しかし、投票所の設備において、特に審査の投票のみのために記入台を設け、×
を記載しようとする者は記入台を用うるも、×の記入をしないで投票箱へ入れよう
とする者は、記入台には関係なく、ただもに投票箱へ入れることができる状況であ
る場合には、記入台へ立ちよつた審査人は×を記入したもの、記入台へ立ち寄らな
いものは、×の記入をしないものと推測されることは、免れ得ないところである。
審査人が記入台のところへ行くには行つたが、考えなおして、なにも記入しないで
投票するということも絶対にないとは断言し得ないけれども、かような場合には、
×の記載をしないのに記載をしたと反対の推測をされるのであろう。
 投票の秘密は、投票者が完全に自由な意思決定にしたがつて、投票をすることの
できるために絶対に必要なことであるとして、憲法において、これを侵し得ないも
のとするほどのものである、したがつて、投票所においてもそれは完全に保護せら
るべきものであつて、投票の内容についていちおうの推測を、それが、かりに真実
と反対の推測であろうとも、受けることも免れない状況において投票をさせること
は、投票の秘密保護に欠けるものであり、かような場合の投票者は投票の秘密を侵
されていると認めるのが相当である。「投票記載所に立ち寄つた審査人であつても
なんら記載をしないことも自由であるし、記載所に立ち寄らずして直接投票箱にい
つて投票したかつこうの査人であつても、ひそかに記号を記載するようなことは、
あながち不可能ではない」(被告所論、前記昭和二十九年十一月九日当裁判所判決
理由所論)といい得ないではない。審査人が秘密保持のために、かような、とくべ
つの創意くふうに努力することを要求するは相当でないのみならず、かかる努力を
した場合にも、その効なかつた場合にはやはり投票の内容に対する推測を受けるこ
とを免れないこと<要旨第四>もあろう。投票所の設備は、投票者が、その設備にし
たがつてすなおに行動する場合に投票の内容が他人から、いちおうの推
測も受けないようにされなければならない。もしこれと反対に、投票者がすなおに
行動した場合に投票の内容について推測を受けることを免れないような設備のもと
に投票させるならば、投票の秘密は完全に保護されているとは認めがたい。
 原告本人尋問における原告の供述によると本件国民審査においては、東京都世田
谷区のC小学校に設けられた投票所の設備は、審査人が投票を投票箱へ入れる前に
記入台へ立ち寄つたかどうかが、投票所内にいる他人から見分られ、それによつ
て、審査人が、投票に×を記載したかしなかつたかを推測し得る状況であつたこと
が認められる。本件国民審査は、憲法国民審査法に違反するところあるものという
べきである。しかし本件にあらわれたすべての証拠によつても、右C小学校のほか
には、これと同様に投票の秘密の保たれない状況において投票が行われた投票所の
あつたことを確認することはできず前記C小学校投票所における法律違反だけで、
本件国民審査の結果に異動を及ぼすおそれがあるとは、とうてい認められないの
で、これによつて本件国民審査を無効とすることはできない。原告のこの点の主張
も結局採用することができない。
 以上のようなわけで、本件国民審査を無効とする原告の主張は、すべて理由がな
いので、原告の請求はこれを棄却するのほかなく、訴訟費用は敗訴の当事者たる原
告の負担とすべきものである。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 藤江忠二郎 判事 渡辺葆 判事 薄根正男)
(別 紙 一)
<記載内容は末尾1添付>
(別 紙 二)
<記載内容は末尾2添付>
(別 紙 三)
<記載内容は末尾3添付>

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