弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人小野実同山中恒三の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであ
るからここにこれを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 小野弁護人の論旨第一点について
 論旨は、本件のうち、A及びBからの借入金は、被告人Cが個人として借受けた
ものであつて、D株式会社の為にしたものではなく、原判決にはこの点において事
実の誤認があるというにある。
 なるほど原審における証人A及びBの各供述調書の記載によると、右は被告人C
個人に対してしたもののように述べているけれども、しかし原判決挙示のA宛借用
証書(証第一号)及びB宛借入金帳(証第七号)によれば、その相手方はD株式会
社となつて居り、これに被告人等の検察官に対する各供述調書の記載を照し合わす
ときは、右は被告人Cか右会社の業務に関し同会社の為にしたものであることが認
め得られ、なお記録を調査するも原判決の右の事実認定に誤があるとは認められな
い。論旨は理由がない。
 小野弁護人の論旨第二点及び山中弁護人の論旨第一、二、三、について
 各論旨は、本件は縁故者又は知己友人の間におけるものであるから、貨金業等の
取締に関する法律第七条に違反するものではなく、又被告人等にはその犯意もなか
つたものであるから無罪であるというにある。
 昭和二四年法律第一七〇号貸金業等の取締に関する法律第七条の規定は、貸金業
者は自己又は特定少数の者からの資金によりその業務を行うべきことの原則を示し
たものであつて、即ち貸金業者が一面において一般人から預り金を為し、他面にお
いて金銭の貸付を業として行うときは、その業務の性質が銀行業務的性質を帯びる
に至り、銀行のように法令の厳重な規制を受けない貸金業者にこのことを認めるこ
とは、その利害の及ぼす影響範囲も広大であつて、著しい弊害を生ずる虞があるか
らこれを禁止することとしたものであることは、その立法の趣旨に照し疑のないと
ころである。
 <要旨>従つて、同条第二項にいわゆる不特定多数の者(これを所論のように不特
定且つ多数の者と解するも結局同一に帰し異るところはない)というのも、
一般大衆を指し、単に親族、縁故者等特殊の個人的つながりを持つ者のみの間に限
定された極めて小範囲に止まるものは、おのづから除外される趣旨であると解すべ
きものである。しかしもともと一般大衆を目的としてした場合において、たまたま
その中に親族、縁故者等を含んでいたに過ぎず、その取扱についても格別区別のな
いものについては、敢てこれを除外すべきものではないと解しなければならない。
 ところで本件は、原判決挙示の証拠によると、原判示のD株式会社は、貸金業を
目的として昭和二七年八月資本金百万円を以て創立されたものであるが、同年一〇
月頃から貸付資金に窮するに至つた結果、これが資金の吸収策として被告人両名共
謀の上一般人から出資金又は借入金等の名義の下に預り金の受入をしようと企図
し、その頃証第一〇号のような右募集に関する案内書約百枚を印刷した上これを一
般に配布し、更に翌二八年六月頃証第一四号ないし第一七号の写真に示すような立
看板を山陽本線周防富田駅に掲示して以て一般大衆に対しこれが勧誘をなし、なお
多数の右応募者のために証第六、七号のような銀行預金通帳に酷似している借入金
帳約百部を印刷してこれに備えたものであつて本件も右の一連の預り行為の一環と
して為されたものであることが認め得られるから(現にB、Eの分は右借入金帳を
以て取扱われている)たとえ所論のように、その相手方の中に縁故者又は知己友人
があるとしても、右は前段説示の理由に照し前記第七条の禁止規定に抵触するもの
といわなければならない。
 所論は更に、被告人等は当時本件のような行為は許されたものであつて差支ない
ものと信じてしたものであるから犯意はなかつた旨主張するけれども被告人等の検
察官に対する各供述調書の記載によれば、被告人等は当初から右のような一般大衆
を目的とする行為の如きは禁止されているものであることを知つていたことが認め
られるから、犯意がなかつたものとは到底いえない。その他記録を精査するも原判
決には所論のような事実誤認、法令適用の誤等はない。論旨はいずれも理由がな
い。
 小野弁優人の論旨第三点及び山中弁護人の論旨第三中量刑不当の主張について
 記録に現われた事実により諸般の情状を精査し、所論の被告人に有利な事情を参
酌するも、原審が被告人等を各懲役四月に処し一年間執行猶予にしたことを以て量
刑が不当であるとは認められない。論旨はいずれも理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三九六条により主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 尾坂貞治 裁判官 大賀潦作)

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