弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

判決言渡平成19年3月27日
平成18年(行ケ)第10415号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年3月20日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士大山健次郎
同小山有
被告株式会社SUMCO
訴訟代理人弁護士寿原孝満
同弁理士杉村興作
同徳永博
同来間清志
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80254号事件について平成18年8月17日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,被告の有する後記特許の請求項1ないし4について原告が無効審判
請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取
消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁等における手続の経緯
被告(旧商号三菱住友シリコン株式会社)は,名称を「欠陥検査方法及
び欠陥検査装置」とする発明につき,平成13年6月8日特許出願(特願2
001−174233号。以下「本願」という。)し,平成16年11月2
6日特許庁から設定登録を受けた(特許第3620470号。請求項1ない
し4。以下「本件特許」という。甲15)。
これに対し原告は,特許無効審判請求をしたため,特許庁は,同請求を無
効2005−80254号事件として審理することとしたが,被告は,平成
17年11月15日付けで特許請求の範囲の減縮等を内容とする訂正請求(
以下「本件訂正」という。乙1)をし,かつ平成18年6月2日付けで本件
訂正につき手続補正(乙2)をした。
そして特許庁は,平成18年8月17日,「訂正を認める。本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成18年8月28日原
告に送達された。
(2)発明の内容
本件訂正により訂正(ただし,平成18年6月2日付け補正後のもの)さ
れた特許請求の範囲の請求項1ないし4記載の発明(以下順に「本件発明
1」∼「本件発明4」という。)は,下記のとおりである。

【請求項1】検査対象物の表面を微分干渉顕微鏡で撮影し,画像処理によっ
て表面に観察される欠陥の個数を計数する欠陥検査方法において,
前記検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,欠
陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検
出することを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項2】請求項1に記載の欠陥検査方法において,
撮影画像に対して空間フィルタを適用して,前記凹部において輝度が変化
する部分を強調し,当該強調した部分を,さらに2値化することによって明
確化して検出し,その検出した部分の特徴量を基に欠陥かノイズかを判別し
て欠陥個数を計数することを特徴とする欠陥検査方法。
【請求項3】検査対象物の表面を微分干渉顕微鏡で撮影し,画像処理によっ
て表面に観察される欠陥の個数を計数する欠陥検査装置において,
前記検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,欠
陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検
出する欠陥検出部を備えて構成されたことを特徴とする欠陥検査装置。
【請求項4】請求項3に記載の欠陥検査装置において,
撮影画像に対して空間フィルタを適用して,前記凹部において輝度が変化
する部分を強調すると共に,その強調した部分を,さらに2値化することに
よって明確な欠陥画像にする境界強調部と,
当該境界強調部で強調されて明確化された欠陥を検出する欠陥検出部と,
当該欠陥検出部で検出した部分の特徴量を基に欠陥かノイズかを判別して
欠陥個数を計数する欠陥計数部と
を備えて構成されたことを特徴とする欠陥検査装置。
(3)審決の内容
ア審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。
その要点は,本件発明1ないし4は,請求人たる原告の提出した下記引
用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということは
できず,本件特許を無効とすることはできないとしたものである。

①特開2001−4331号公報(審判甲1・本訴甲1。以下「甲1公
報」又は「引用文献」といい,同記載の発明を「甲1発明」という。)
②特開2000−338047号公報(審判甲2・本訴甲2。以下「甲2
公報」といい,同記載の発明を「甲2発明」という。)
③特開2000−258140号公報(審判甲3・本訴甲3。以下「甲3
公報」といい,同記載の発明を「甲3発明」という。)
④特開平9−264730号公報(審判甲4・本訴甲4。以下「甲4公
報」という。)
⑤特開2000−98253号公報(審判甲5・本訴甲5。以下「甲5公
報」という。)
⑥「Si3N4セラミックにおける微視破壊の微分干渉顕微鏡観察」日本
金属学会誌57巻11号(1993)1258頁∼1267頁(審判甲
6・本訴甲6。以下「甲6刊行物」という。)
イなお,本件審決は,甲1発明の内容を次のとおり認定した上,本件発明
との一致点と相違点を下記のように摘示した。

<甲1発明の内容>
「検査対象物であるウェハの表面を微分干渉顕微鏡で撮像し,該撮像し
た画像について微分処理及び2値化処理を行って表面に観察される欠陥
を検出し,該検出された欠陥の個数を計数する欠陥検査方法。」
及び
「検査対象物であるウェハの表面を微分干渉顕微鏡で撮像し,該撮像し
た画像について微分処理を行い該微分処理された信号について2値化処
理を行ってウェハ表面に観察される欠陥の個数を計数する欠陥検査装
置。」
<一致点>
「検査対象物の表面を微分干渉顕微鏡で撮影し,画像処理によって表面
に観察される欠陥の個数を計数する欠陥検査方法。」である点
<相違点>
甲1発明には,「検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた
撮影画像中で,欠陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化
する点を基に欠陥を検出する」構成が記載されていない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決の認定判断には,以下に述べるとおり誤りがあるか
ら,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(引用文献に記載された発明の認定の誤り)
(ア)甲1発明の認定の誤り
a甲1公報には,微分干渉画像を撮像するための視野移動に関して,
段落【0016】に「また,本発明に係るDZ幅の計測方法(5)は,
上記DZ幅の計測方法(1)∼(4)のいずれかにおいて,ウェーハ表面に
沿って撮像中心をウェーハの半径方向に移動させてゆくことを特徴と
している。上記DZ幅の計測方法(5)によれば,ウェーハ表面に沿っ
て撮像中心をウェーハの半径方向に移動させてゆくので,ウェーハの
半径方向に関するすべての領域において,DZ幅を計測してゆくこと
ができ,ウェーハ全体に関するDZ幅をより正確に評価することがで
きることとなる」と,段落【0035】に「…次にステップ16で
は,DZ幅の算出処理がウェーハの劈開面2aの半径方向全体に関し
て終了したか否かを判断し,終了したと判断すると算出を終了し,終
了していないと判断するとステップ17に進み,XYステージ4を所
定距離YdだけY方向(ウェーハ2の半径方向)に移動させた後ステ
ップ1に戻り,次の視野の撮影に移り,以後,半径方向全体に関して
終了するまで上記ステップを繰り返し行う」と記載されている。この
ように,甲1公報に記載された欠陥検査方法及び装置では,ウェーハ
を一方向に移動させて得られた撮影画像について画像処理が行われて
いる。
したがって,画像処理の対象となる撮像画像に関して,「一方向に
移動させて得られた撮像画像」である点において,本件発明1と甲1
発明とは一致している。
bしかし,審決は,上記(3)イのとおり甲1発明を認定し,画像処理
の対象となる「撮像画像」について「一方向に移動させて得られた撮
影画像」である点を認定せず,この点を本件発明1と甲1発明の一致
点として認定しなかった点において,認定に誤りがある。
(イ)甲2発明の認定の誤り
a甲2公報には,発明が解決しようとする課題として,段落【000
7】に「…結晶欠陥が重なった状態で発生することもあり,かかる場
合,これらの結晶欠陥は結晶欠陥と認識されずにカウントが行われ,
真の評価よりも高い評価をそのウェーハに与えてしまい,後にユーザ
からクレームが出てくるといった課題を有していた」と,段落【00
11】に「…上記結晶欠陥の検査方法(2)によれば,結晶欠陥が重
なった状態で発生しているような場合でも,かかる場合の欠陥を正確
にカウントすることができ,真の評価よりも高い評価をそのウェーハ
に与えてしまうことはなく,後にユーザからクレームが出てくるとい
った事態の発生を阻止することができる」と記載されている。このよ
うに,甲2公報には,ウェーハの結晶欠陥を検査する技術分野におい
て,重なり合う複数の結晶欠陥を正確に検出することが従来からの課
題であることが明示されており,この課題は,本件発明1の課題と同
一である。また,甲2公報には,段落【0037】に「この計数工程
においては,結晶欠陥が重なった状態で発生しているような場合で
も,かかる場合の結晶欠陥の数を正確にカウントすることができ,真
の評価よりも高い評価をそのウェーハ2に与えてしまうことはなく,
また,結晶欠陥以外の傷等の凹凸を計数から排除することができる」
と記載され,重なり合う複数の結晶欠陥を正確に計数できる作用効果
についても記載されている。
bしかし,審決は,「甲第2∼6号証のいずれにおいても,「重なり
合う複数の欠陥の個数を正確に計数する」という課題は記載も示唆も
されておらず,…」(審決17頁36行∼37行)とし,本件発明1
の課題と同一の課題が甲2公報に開示されている事実を誤認したもの
であり,結論に影響を与える重大な瑕疵がある。
(ウ)甲3発明の認定の誤り
a甲3公報には,画像データの処理に関し,段落【0036】ないし
【0039】に,検査すべき電子部品の外観をCCDカメラで撮像
し,得られた濃淡画像データについて微分処理を行って微分画像デー
タを形成し,微分画像データについて2値化処理を行い,得られた2
値化データに基づいて欠陥検出を行うことが記載されている。すなわ
ち,段落【0036】に「微分手段110は,ディジタル濃淡画像デ
ータDbとボイド候補領域拡張データDfが供給され,ボイド候補領
域拡張データDfが表す各ボイド候補拡張領域Re2,Re3(図
7(a),(b))内のディジタル濃淡画像データDbについて,各
座標Cにおける濃淡レベルLを微分して濃淡レベルLの変化量である
微分濃淡レベルをそれぞれ求め,微分画像データDgとして出力す
る」と記載され,ここで「微分濃淡レベル」は画像データの濃淡レベ
ルの変化量を表すデータであり,「濃淡レベル」は本件発明1におけ
る「輝度」に相当する。したがって,検査対象物の撮像画像について
微分処理及び2値化処理を行って画像データの輝度の変化に基づいて
欠陥検出を行うことは,本願の出願前から公知の技術である。
bしかし,審決は,本件発明1の「輝度変化に基づいて欠陥を検出す
る」構成が甲3公報に記載されていることを認定しておらず,この誤
認は審決の結論に影響を与える重大な瑕疵である。
イ取消事由2(本件発明1と甲1発明との対比の誤り)
(ア)課題の対比
a甲2公報の「…結晶欠陥が重なった状態で発生することもあり,か
かる場合,これらの結晶欠陥は結晶欠陥と認識されずにカウントが行
われ,真の評価よりも高い評価をそのウェーハに与えてしまい,後に
ユーザからクレームが出てくるといった課題を有していた」(段落【
0007】)との記載,特開平4−313253号公報(甲7。以
下「甲7公報」という。)の「【発明が解決しようとする課題】従
来の検査装置の場合,欠陥が単独で存在していれば充分な検出精度が
得られるが,欠陥が複数,重なり合った場合,計測される特徴量から
では重なり合った欠陥を構成している一つ一つの欠陥の特徴量を正し
く計測することができない。そのため,欠陥が重なり合っている場合
に,個々の欠陥の個数を計数することができないという問題があっ
た」(段落【0003】)との記載,特開昭60−101942号公
報(甲8。以下「甲8公報」という。)の「本発明は,単結晶ウェハ
ーのエッチピットの上述の如き特性に基き,部分的に重なり合ったエ
ッチピットをも個々のエッチピットに分離して測定することのできる
エッチピットの測定方法およびそのための装置を提供するものであ
る」(2頁左下欄第2段落)との記載,特開昭59−75640公
報(甲9。以下「甲9公報」という。)の「しかしながらエッチピッ
トの個数を測定して密度を補外するという従来方法によれば,エッチ
ピットの凝集や重なりが多くてそれらの個々のエッチピットを計数す
ることは多大な労力を要し,能率が著しく悪くなる。このため画像解
析装置で自動計測することも行われたが,凝集や重なりを生じている
エッチピットを単独に分離して計数することが実際上できず,このよ
うな場合には凝集した多数のエッチピットを1個として計数してしま
うので精度が著しく悪くなる。このために1つの手法として凝集した
ものを1つのグループと見做し,その中の1つのエッチピットを抽出
して面積を求め,これを基にしてそのグループのエッチピット数を推
定する方法も考えられている。しかしこれにおいては凝集部の抽出す
るエッチピットの大きさ,取り方等によって精度が悪くなることを避
け得ない。このように多くの問題点があった」(1頁右下欄第2段落
∼2頁左上欄第2段落)との記載によれば,ウェーハ表面に重なり合
う複数の結晶欠陥の個数を正確に計数する課題は,本願出願前からウ
ェーハの欠陥検査の分野において当業者に周知の事項である。
bしたがって,甲1公報には,重なり合う複数の欠陥を計数する技術
的課題が直接記載されてはいないが,甲1発明のDZ幅計測装置にお
いても,欠陥の個数を正確に計数する必要性が認められるから,「重
なり合う複数の欠陥の個数を正確に計数する課題」は共通である。
(イ)本件発明1と甲1発明との構成上の対比
a本件発明1の構成要件を分節すると,①「検査対象物の表面を微分
干渉顕微鏡で撮影し,画像処理によって表面に観察される欠陥の個数
を計数する欠陥検査方法において,」(以下「構成A」という。),
②「前記検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像
中で,」(以下「構成B」という。),「欠陥のエッジ部を除く欠陥
の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出することを特徴
とする欠陥検査方法。」(以下「構成C」という。)となる。
bそして,本件発明1と甲1発明を対比すると,構成A,Bで一致
し,構成Cにおいても,結晶欠陥による輝度変化に基づいて欠陥検出
を行う点において共通するが,甲1発明は,欠陥のエッジ部による輝
度変化により欠陥検出を行うのに対し,本件発明1は,欠陥の凹部内
の輝度変化に基づいて欠陥検出を行う点において相違するにすぎな
い。
(ウ)本件発明1と甲1発明との相違点
a上記(イ)のとおり,本件発明1と甲1発明とは,甲1発明は,欠陥
のエッジ部による輝度変化により欠陥検出を行うのに対し,本件発明
1は,欠陥の凹部内の輝度変化に基づいて欠陥検出を行う点において
相違するにすぎない。
bそこで,上記相違点の技術的意義について検討する。
(a)まず,ウェーハ上に存在する結晶欠陥の形状であるが,甲8公報
の第1図(6頁)には,2つの重なり合うエッチピットの形状が線
図的に記載され,「図面の簡単な説明」には,「第1図は本発明の
原理を説明するためのもので,2つのエッチピットが部分的に重な
った凹部からエッチピット毎に分離された反射光が得られる状態を
示すものである」(5頁右下欄第2段落)と記載されており,これ
らの記載によれば,ウェーハの結晶欠陥は,断面として見た場合2
つの傾斜面により構成されるすり鉢状の凹部であると認められ,ま
た,本願に係る拒絶査定不服審判における原告の審判請求書(甲1
0)にも,ウェーハ上に重なり合って存在する2つの結晶欠陥の構
造形態が参考図面(10頁)に図示され,同参考図面に関して,「
1つの欠陥に通常有する1つの凹部の変化状態を,例えば左から右
へ向けて検査した場合,最初は右下がりの傾きを有するが,次第に
水平になり,次いで右上がりの傾きになる。これは,シリコンウェ
ーハ等の欠陥すべてに共通した構造で,凹部において底部があれば
その両側に必ず傾斜が存在する。この欠陥の構造的特徴は,当業者
にとって周知のものであるため,本願明細書中には特に記載してい
ない」(5頁下第2段落)と記載されている。これらの記載によれ
ば,ウェーハ上に存在する結晶欠陥の構造は,断面として見た場合
右下がり及び右上がりの2つの斜面により構成されるすり鉢状の凹
部であると認められ,当該構造形態は当業者にとって周知慣用事項
であったと認められる。
(b)次に,ウェーハ上に存在する結晶欠陥を微分干渉顕微鏡で撮像し
た場合に得られる欠陥画像であるが,甲5公報には,試料表面を微
分干渉顕微鏡で撮像した場合に得られる微分干渉画像の特性につい
て,「微分干渉顕微鏡は観察物体面上の位相変化を画像における濃
淡の分布に変換している。逆に,微分干渉画像における濃淡の分布
を解析することにより,観察物体面上の位相変化を検出することが
できると考えられている。また,観察物体の段差のエッジ部は急激
な位相変化を伴うことから,画像の濃淡値にも急激な変化が生じる
ので,微分干渉画像から濃淡値が急激に変化する部分を抽出するこ
とにより観察物体の段差の位置を検出できることが,特開平7−2
39212号公報等に示されている」(段落【0005】),「ま
た,観察物体の段差等のエッジ部の検出では,凸部から凹部に変わ
る部分と凹部から凸部に変わる部分とでは,微分干渉画像の濃淡の
分布が反転する。…」(段落【0007】)と記載されて,これら
記載によれば,ウェーハ表面に存在するすり鉢状の結晶欠陥を微分
干渉顕微鏡で撮像した場合,欠陥の底部における傾斜面の傾斜方向
の反転によって濃淡分布が反転するから,明るい画像部分(白の部
分)と暗い画像部分(黒の部分)とが結合した画像として撮像され
ることは,微分干渉顕微鏡の原理に基づき当業者が容易に想到する
ことである。
そして,本件訂正明細書(乙2添付)の「…欠陥の凹凸部分では
輝度が変化する。即ち,ウェーハ7に発生する欠陥の場合,通常1
つの欠陥に1つの凹部があるため,その1つの欠陥において凹部の
最も底の部分を境に傾斜角度が反転する。例えば図3において欠陥
の部分を微分干渉顕微鏡で左から右方向に走査すると,凹部におい
ては,初めは右下がり方向に傾斜し,凹部の最も底の部分を境にし
て,右上がり方向に傾斜する。この傾斜を微分干渉顕微鏡で計測し
た場合,傾斜方向が反転すると輝度が変化する。図3においては,
右下がりの方向の傾斜を白,右上がりの傾斜を黒として検出される
ため,凹部の最も底の部分を境にして,左側が白,右側が黒となっ
ている。このように,凹部の最も底の部分を境にして,輝度が変化
している。…」(段落【0017】)との記載から明らかなよう
に,本件発明1では,結晶欠陥の傾斜面の傾斜方向が反転した場
合,微分干渉画像上では,各傾斜面が白(明)又は黒(暗)の画像
として撮像されることに基づき,結晶欠陥の画像が白の画像部分と
黒の画像部分との結合画像として撮像され,得られた欠陥画像に基
づいて欠陥検出が行われているが,結晶欠陥の傾斜面の傾斜方向が
反転した場合,微分干渉画像上において各傾斜面が白(明)又は
黒(暗)の画像として撮像されることは,甲5公報に記載されてお
り,本願出願前から当業者に公知である。
(c)次に,2値化処理についてであるが,デジタル画像処理の分野に
おいて,各種画像情報を2値化処理することは技術常識として一般
的に広く実施されており,2値化処理における閾値レベルの設定
は,画像処理の目的,検出すべき欠陥の形状,及び欠陥画像の形態
等に応じて当業者により適宜設定される設計的事項であると一般的
に理解され,欠陥内部の輝度変化が顕在化するように2値化処理の
閾値レベルを変更することは,当業者にとって設計的事項にすぎな
いものである。本件訂正明細書(乙2添付)の特許請求の範囲に
は,2値化処理の閾値レベルの設定に関して全く言及されてなく,
発明の詳細な説明においても,段落【0030】に「…この強調画
像に対して,所定しきい値で2値化して,図5(d)(g)のよう
に,欠陥を明確なコントラストの画像として表示させる」と記載さ
れているだけで,2値化処理の閾値レベルをどの様に設定すれば明
確なコントラストの画像が得られるか,閾値レベルを適宜設定する
ことにより,結晶欠陥のエッジ部の輝度変化だけが顕在化された
り,欠陥内部の輝度変化だけが顕在化されること等について,何ら
記載されていないのであるから,本件発明1において,2値化処理
の閾値レベル設定は格別な技術的意義を有しないものと認められ
る。
特開平5−209732号公報(甲13。以下「甲13公報」と
いう。)の検査装置では,微分処理を行った後閾値+Thで閾値処
理(2値化処理)され,その結果に基づいて欠陥検出が行われる
が,当該閾値レベル+Thで2値化処理した場合,欠陥のエッジ部
に起因する輝度変化が消滅し,欠陥内部の輝度変化だけが抽出さ
れ,閾値処理後の2値化画像は欠陥の内部の輝度変化だけが顕在化
された2値化画像となる。一方,閾値レベル−Thで閾値処理を行
った場合,欠陥内部の輝度変化は消滅し,欠陥のエッジ部の輝度変
化が抽出され,欠陥のエッジ部の輝度変化に基づいて欠陥検出が行
われることになる。このように,ウェーハ表面に存在する結晶欠陥
の微分干渉画像のように,欠陥に起因する輝度変化が欠陥のエッジ
部と欠陥内部の両方で発生する場合,閾値レベルを適宜設定するこ
とによりいずれの輝度変化も顕在化されるので,いずれの輝度変化
を用いて欠陥検出を行うかは,欠陥検査の目的,検出すべき欠陥の
形状又は欠陥画像の形態等に応じて決定されるものである。欠陥内
部の輝度変化が抽出されるように2値化処理の閾値レベルを設定し
た場合,欠陥のエッジ部の輝度変化情報が消滅し欠陥内部の輝度変
化情報だけが抽出されるため,複数の欠陥が重なり合っている場合
でも,各欠陥が個別に分離して検出されることになる。
(d)以上述べたとおり,上記相違点である欠陥内部の輝度変化に基づ
いて欠陥検出を行うか又は欠陥のエッジ部の輝度変化に基づいて欠
陥検出を行うかは,微分処理した後に行われる2値化処理の閾値レ
ベルの設定条件の差異だけである。一方,デジタル画像処理の分野
においては,2値化処理の閾値レベル設定は,欠陥検査の目的,検
出すべき欠陥の形状,欠陥画像の形態等に応じて適宜設定される設
計的事項である。
したがって,本件発明1と甲1発明との相違点は,当業者にとっ
て設計的事項と認識されている技術的事項にすぎないものである。
ウ取消事由3(容易想到性の判断の誤り)
(ア)本件発明1
上記のとおり,本件発明1と甲1発明との相違点は,微分処理した後
に行われる2値化処理の閾値レベルの設定条件の差異だけであり,2値
化処理の閾値レベル設定は,欠陥検査の目的,検出すべき欠陥の形状,
欠陥画像の形態等に応じて適宜設定される設計的事項にすぎず,当業者
が容易に想到できたものである。
したがって,「本件発明1が甲第1∼6号証に記載された発明に基づ
いて当業者が容易に発明できたものとすることはできない」(18頁第
3段落)とした審決の判断は,誤りである。
(イ)本件発明2
本件発明2は,本件発明1を引用して限定するものであり,本件発明
1が甲各号証に基づいて当業者が容易に想到できた発明であるから,本
件発明2も同様に甲各号証に基づいて容易に想到できた発明である。
したがって,「本件発明2も同様に甲各号証から容易に発明できたも
のとすることはできない」(18頁第4段落)とした審決の判断は,誤
りである。
(ウ)本件発明3
本件発明3は,本件発明1と同様に甲各号証に基づいて当業者が容易
に想到できた発明である。
したがって,「本件発明3が甲第1∼6号証に記載された発明に基づ
いて当業者が容易に発明できたものとすることはできない」(20頁第
2段落。「本件発明1」は「本件発明3」の誤り)とした審決の判断
は,誤りである。
(エ)本件発明4
本件発明4は,本件発明3を引用して限定するものであり,本件発明
3が甲各号証に基づいて当業者が容易に想到できた発明であるから,本
件発明2も同様に甲各号証に基づいて容易に想到できた発明である。
したがって,「本件発明4も同様に甲各号証から容易に発明できたも
のとすることはできない」(20頁第3段落)とした審決の判断は,誤
りである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1)取消事由1に対し
ア甲1発明の認定の誤りの主張につき
審決は,甲1公報から,「(甲1g)「次にこの撮影画像内にDZ幅の
算出に必要な所定数,例えば3個の欠陥dが存在しているか否かを判断す
る(ステップ12)。所定数の欠陥dが存在していると判断するとステッ
プ13に進んで所定数の欠陥dのそれぞれの重心位置座標を計算する一
方,所定数の欠陥dが存在していないと判断するとステップ14に進んで
XYステージ4を所定距離x1だけX方向に移動させた後ステップ1に戻
る。」(段落【0033】)」と引用している(審決12頁第2段落)の
であるから,甲1公報に「一方向に移動させて得られた撮影画像」が記載
されている点を認定していることが読み取れる。
したがって,審決の甲1発明の認定に,原告主張の誤りがあるというこ
とはできない。
イ甲2発明の認定の誤りの主張につき
審決が「甲第1号証記載の発明に甲第2∼6号証に記載されている構成
をどのように組み合わせても,上記相違点の構成が容易とすることはでき
ない」(審決18頁第1段落)とした趣旨は,「重なり合う複数の欠陥の
個数を正確に計数する」という課題を解決するために「検査対象物の表面
上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,欠陥のエッジ部を除く欠
陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出する」という構成
を採用することが記載されていないので,甲1発明に甲2公報ないし甲6
刊行物に記載されている構成をどのように組み合わせても相違点の構成が
容易とすることはできないということであって,甲2公報に「重なり合う
複数の欠陥の個数を正確に計数する」という課題が記載されているか否か
の認定が審決の結論に影響を与えるとは考え難く,甲2発明の認定誤りを
いう原告の主張は,当を得たものではない。
ウ甲3発明の認定の誤りの主張につき
甲3公報の段落【0067】に「以上のように,本実施の形態では,(
1)ボイドが存在する可能性のあるボイド候補領域を抽出し,(2)これ
らボイド候補領域をそれぞれ拡張して各ボイド候補拡張領域を求め,(
3)各ボイド候補拡張領域内の各座標における濃淡レベルを微分して濃淡
レベルの変化量を求め,(4)この変化量が大きい微分領域の面積を求
め,(5)この面積が一定以上の場合に,当該ボイド候補領域内にボイド
が存在すると判断するようにしたので,むらの影響を排除して,ボイド等
の欠陥の有無を確実に検出でき,誤判定を大幅に低減できる」と記載され
ていることからも明らかなように,甲3公報は,濃淡レベルの変化量が大
きい微分領域の面積に基づいて,むらか,ボイド等の欠陥かを確実に判別
できることが記載されているのであって,本件発明1のように「欠陥のエ
ッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出す
る」構成については記載されていない。
したがって,甲3発明の認定誤りをいう原告の主張は,当を得たもので
はない。
(2)取消事由2に対し
ア課題の対比の主張につき
甲1公報の【請求項3】には,「前記顕微鏡に微分干渉顕微鏡を用い,
撮影画像に微分処理,2値化処理,及び穴埋め,ノイズ除去処理を施して
欠陥の座標を求める…」という具体的な構成が記載されており,欠陥の座
標を求める工程として,欠陥のエッジを強調するため,微分処理,2値化
処理,及び穴埋め,ノイズ除去処理の3つの工程が必須の工程である。ま
た,甲1発明は,DZ幅を正確かつ迅速に計測できるようにすることを課
題としており,本件発明1のように,複数の欠陥が重なっていて個々の欠
陥のエッジが明確に分離されていない場合に,従来の欠陥検査方法ではこ
れらの欠陥を1個の欠陥と判断されてしまっていたのを,正確に分離した
欠陥として識別できるようにするという課題はない。
したがって,甲1発明は,欠陥の座標を正確に求めるため,欠陥のエッ
ジを強調するための手段として,欠陥以外を検出しないように欠陥のエッ
ジの内側,すなわち,欠陥の凹部に埋め込み処理を施す穴埋め,ノイズ除
去処理が必須であるため,甲1発明に「重なり合う複数の欠陥の個数を正
確に計数する課題」を適用したとしても,本件発明1のように「欠陥のエ
ッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出す
る」という構成に想到できるはずがない。
イ本件発明1と甲1発明との構成上の対比の主張につき
本件発明1と甲1発明との構成上の相違点は,正しくは,甲1発明が「
欠陥のエッジ部に起因する輝度変化に基づいて欠陥検出を行う」構成であ
るのに対し,本件発明1は「欠陥のエッジ部を除く凹部内の輝度変化に基
づいて欠陥検出を行う」構成である点に加えて,本件発明1が必要としな
い構成要件である,①ウェーハの劈開面を上とした撮影画像の所定位置を
中心にして該撮影画像を所定の角度ピッチで水平方向に回転させ,回転さ
せた各撮影画像毎にこれら撮影画像の縦方向あるいは横方向に関する輝度
値の合計値を求め,これら各撮影画像における前記輝度値の最大値の比較
に基づいてウェーハ表面を前記撮影画像の縦方向あるいは横方向と平行に
設定する工程,②前記縦方向あるいは横方向と平行に設定された前記ウェ
ーハの表面座標と検出された欠陥の座標とからDZ幅を求める工程,を必
須の構成要件とすることであり,さらに,甲1発明が微分処理であるのに
対して,本件発明1は【図4】に示すような空間フィルタ処理である点に
おいても異なり,原告は両発明の構成を正しく対比していない。
ウ本件発明1と甲1発明との相違点の主張につき
(ア)甲8公報に記載された発明は,エッチピットの存在する単結晶表面に
一方向から光を照射し,検知装置で受光した反射光の光線束の数(より
厳密には,凹部を形成する2つの傾斜面のうちの一方の傾斜面のみから
の反射光の光線束の数)を測定することにより,反射面の数,すなわち
エッチピットの数を算出するものであって,本件発明1の欠陥検出とは
構成が大きく異なるものである。
(イ)また,原告が引用する甲5公報の段落【0007】の記載は,【図3
】と【図2】(a)ないし(c)を見比べれば明らかなように,1個の
凹部とその両側にある2個の凸部に対応して,微分干渉画像の濃淡の分
布が単に反転することを述べているにすぎず,本件発明1のように,欠
陥の凹部の最も底の部分における傾斜面の傾斜方向の反転によって輝度
変化が反転することを示したものではない。したがって,甲5公報に
は,欠陥の凹部の最も底の部分における傾斜面の傾斜方向の反転によっ
て輝度変化が反転することについては示唆や開示はない。
(ウ)原告は,甲13公報を引用するが,甲13公報が周知技術であるとい
う立証はない。
仮に甲13公報が周知技術であるとしても,本件発明1と甲13公報
記載の発明とは次の点で相違するから,甲1発明に甲13公報記載の発
明を適用したとしても,当業者が本件発明1に想到することはない。す
なわち,甲13公報記載の技術は,自動車の塗装表面に存在する凹凸等
の塗装欠陥を検出することを目的とする点で,シリコンウェーハの表面
の欠陥,特に欠陥が重なって検出されることが多い欠陥(特にBMD)
の個数を正確に計数することができる欠陥検査技術である本件発明1と
は目的が異なる。また,甲13公報は,欠陥の発生位置を検出するため
に,単に凹状欠陥や凸状欠陥の輝度変化を利用したものにすぎず,欠陥
のエッジ部を除く欠陥の凹部において輝度が変化する点を基に欠陥を検
出することにより,特に欠陥のエッジ部が明確に分離されていないよう
な複数の近接した重なった欠陥(の集合体)についても正確に分離した
欠陥として識別することができるという本件発明1の技術的思想は存在
しない。
(3)取消事由3に対し
ア甲1発明に,甲2公報ないし甲6刊行物を適用したとしても,欠陥のエ
ッジ部を除く欠陥の凹部において輝度が変化する点を基に欠陥を検出する
ことにより,特に欠陥のエッジ部が明確に分離されていないような複数の
近接した重なった欠陥(の集合体)についても正確に分離した欠陥として
識別することができるという本件発明1の技術的思想に想到することはで
きず,本件発明1の進歩性を否定することはできない。
イまた,本件発明1と本件発明3は,それぞれ本件発明2と本件発明4の
上位クレームに係る発明であり,上位クレームに係る発明である本件発明
1と本件発明3が容易想到であるとしても,それだけを理由として下位ク
レームに係る発明である本件発明2と本件発明4が容易想到であるとする
ことはできない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(
審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の適否につき,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2取消事由1(引用文献に記載された発明の認定の誤り)について
(ア)甲1発明の認定の誤りにつき
ア審決は,第3,1(3)イのとおり甲1発明を認定したものであるが,原
告は,審決の甲1発明の認定は,画像処理の対象となる「撮像画像」につ
いて「一方向に移動させて得られた撮影画像」である点を認定せず,この
点を本件発明1と甲1発明の一致点として認定しなかった点において誤り
があると主張する。
イ甲1公報には,次の記載がある。
①「【0016】また,本発明に係るDZ幅の計測方法(5)は,上記
DZ幅の計測方法(1)∼(4)のいずれかにおいて,ウェーハ表面
に沿って撮像中心をウェーハの半径方向に移動させてゆくことを特徴
としている。上記DZ幅の計測方法(5)によれば,ウェーハ表面に
沿って撮像中心をウェーハの半径方向に移動させてゆくので,ウェー
ハの半径方向に関するすべての領域において,DZ幅を計測してゆく
ことができ,ウェーハ全体に関するDZ幅をより正確に評価すること
ができることとなる。」
②「【0035】次にステップ15において,ステップ9で検出した撮
影画像の縦方向に平行なウェーハ表面2bの位置座標とステップ13
で算出した所定数の欠陥dの重心位置座標とからDZ幅の算出を行
う。この場合,縦方向に平行なウェーハ表面2bと3個目までの欠陥
dとの距離をDZ幅としてもよく,あるいは縦方向に平行なウェーハ
表面2bと3個の欠陥dとの平均距離をDZ幅としてもよい。次にス
テップ16では,DZ幅の算出処理がウェーハの劈開面2aの半径方
向全体に関して終了したか否かを判断し,終了したと判断すると算出
を終了し,終了していないと判断するとステップ17に進み,XYス
テ−ジ4を所定距離YdだけY方向(ウェーハ2の半径方向)に移動
させた後ステップ1に戻り,次の視野の撮影に移り,以後,半径方向
全体に関して終了するまで上記ステップを繰り返し行う。」
ウ上記イの記載によれば,甲1公報には,「一方向に移動させて得られた
撮像画像について画像処理」が行われる点が記載されているものと認めら
れる。そして,本件発明1の「一方向に移動させて得られた撮像画像」
は,本件訂正明細書(乙2添付)の段落【0036】,【0041】の記
載から,微分干渉顕微鏡により静止画像を撮影した後に,XYステージ等
を駆動させて,検査対象物の表面上を一方向に順次移動させて多数の静止
画像を撮影することであると認められる。
そうすると,審決が本件発明1と甲1発明が共に「検査対象物の表面上
を一方向に移動させて得られた撮影画像について画像処理を行うものであ
る」点を一致点として認定しなかったことは,誤りであるといわざるを得
ない。
しかしながら,審決は,本件発明1と甲1発明の相違点として,「検査
対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,欠陥のエッ
ジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検出す
る」構成が記載されていない点を認定し,一致点の認定に上記の誤りがあ
るとしても,両者は,甲1発明が「撮影画像中で,欠陥エッジ部を除く欠
陥の凹部において輝度が変化する点を基に欠陥を検出する構成」を有しな
い点で相違することに変わりはない。そして,この点が容易想到でない以
上,本件発明1の進歩性は否定されないから,上記一致点の認定誤りは審
決の結論に影響を及ぼさないところ,上記の点が容易想到とすることがで
きないことは,後述するとおりである。
エしたがって,甲1発明の認定の誤りをいう原告の主張は,採用すること
ができない。
(2)甲2発明の認定の誤りにつき
ア原告は,甲2公報には,重なり合う複数の結晶欠陥を正確に計数できる
作用効果についても記載されているから,「甲第2∼6号証のいずれにお
いても,「重なり合う複数の欠陥の個数を正確に計数する」という課題は
記載も示唆もされておらず,…」(審決17頁36行∼37行)とした審
決の認定は,甲2公報に開示されている事実を誤認したものであると主張
する。
イ甲2公報には,段落【0007】に「…特公平6−71038号公報に
係る提案では,矩形状の像を検査対象としており,結晶欠陥には図5に示
したように,結晶欠陥が重なった状態で発生することもあり,かかる場
合,これらの結晶欠陥は結晶欠陥と認識されずにカウントが行われ,真の
評価よりも高い評価をそのウェーハに与えてしまい,後にユ−ザからクレ
−ムが出てくるといった課題を有していた」として,特公平6−7103
8号公報に記載された先行技術が「矩形状の像」を検査対象とし,【図5
】(甲2の7頁)のような「結晶欠陥が重なった状態で発生する結晶欠
陥」は,結晶欠陥と認識されずにカウントが行われるという課題が存在し
たことが記載され,続いて,段落【0011】に「…本発明に係る結晶欠
陥の検査方法(2)は,上記結晶欠陥の検査方法(1)において,前記結
晶欠陥の個数の計数が,撮影画像を所定の閾値で2値化した後,各画素に
関して水平及び垂直方向それぞれに輝度値の合計を求め,これらの合計値
に基づいて行われることを特徴としている。上記結晶欠陥の検査方法(
2)によれば,結晶欠陥が重なった状態で発生しているような場合でも,
かかる場合の欠陥を正確にカウントすることができ,真の評価よりも高い
評価をそのウェーハに与えてしまうことはなく,後にユ−ザからクレ−ム
が出てくるといった事態の発生を阻止することができる」とし,甲2発明
の方法(2)を用いることにより,結晶欠陥が重なった状態で発生してい
るような場合でも,かかる場合の欠陥を正確にカウントすることができる
ことが記載されている。
しかし,甲2公報の上記段落【0011】,【0023】の記載によれ
ば,甲2公報の検査方法(2)は,縦方向と横方向の輝度を積算して一定
値以上である場合に欠陥と認識するものであるから,本件発明1のよう
に,エッジが重なって同じ方向に並列する欠陥が一つの欠陥と誤認識され
てしまうという課題を解決するものではない。すなわち,甲2発明は,結
晶欠陥が重なり合った結果矩形状とならない欠陥を認識することができな
いということを課題とするものであり,結晶欠陥が重なった状態のミスカ
ウントを防止するものではあるが,そのミスカウントの対象となる欠陥の
重なりは,本件発明1が課題とする欠陥の重なりとは異なるものである。
したがって,甲2発明の課題と本件発明1の課題が同じであるということ
はできない。
ウしたがって,審決が甲2公報に開示されている事実を誤認したというこ
とはできず,甲2発明の認定の誤りをいう原告の主張は,採用することが
できない。
(3)甲3発明の認定の誤りにつき
原告は,本件発明1の「輝度変化に基づいて欠陥を検出する」構成が甲3
公報に記載されていることを認定していない点において,審決には誤りがあ
ると主張する。
しかし,審決は,「…欠陥の凹部の輝度が変化する点を検出するか,欠陥
のエッジ部を検出するかなどの違いによって,2値化処理の閾値を変更する
ことが必要であって,甲第1号証に記載の発明は,エッジ部を含めて検出す
るものであり,また甲第2∼6号証にも欠陥の凹部の輝度が変化する点を検
出することは記載もしくは示唆されていないものであるから,欠陥の凹部の
輝度が変化する点を検出することが明らかということはできず…」(18頁
第2段落)と説示しているものであり,この説示から,審決は,甲3公報
に「輝度変化に基づいて欠陥を検出する」構成が記載されていないとしてい
るのではなく,「凹部」の「輝度変化に基づいて欠陥検出をする」ことが記
載されていないと認定していることが読み取れる。そして,甲3公報には「
凹部の輝度変化に基づいて欠陥検出をする」ことは記載されていないから,
甲3発明の認定の誤りをいう原告の主張は,審決を正しく理解しないものと
いうほかなく,採用することができない。
3取消事由2(本件発明1と甲1発明との対比の誤り)について
(1)課題の対比につき
ア原告は,甲2公報,甲7公報,甲8公報及び甲9公報を引用して,ウェ
ーハ表面に重なり合う複数の結晶欠陥の個数を正確に計数する課題は,本
願出願前からウェーハの欠陥検査の分野において当業者(その発明の属す
る技術の分野における通常の知識を有する者)に周知の事項であると主張
する。
イしかし,甲2公報の課題と本件発明1の課題が同じであるということは
できないことは,上記1(1)イのとおりである。
また,甲7公報には,「【0003】【発明が解決しようとする課題】
従来の検査装置の場合…欠陥が複数,重なり合った場合,計測される特徴
量からでは重なり合った欠陥を構成している一つ一つの欠陥の特徴量を正
しく計測することができない。そのため,欠陥が重なり合っている場合
に,個々の欠陥の個数を計数することができないという問題があっ
た」,「【0005】【課題を解決するための手段】被検査体の複合欠陥
の画像が入力されて,その画像信号を出力する画像信号出力手段と,この
画像信号出力手段の出力する画像信号により形成される画像を細線化処理
して骨格画像を得る画像処理手段と,この骨格画像の交点を検出する交点
検出手段と,この検出された交点で,骨格画像の骨格を分離する骨格分離
手段と,この分離された骨格の特徴量を計測する特徴量計測手段と,この
計測された個々の骨格の特徴量に応じて,分離した骨格を連結する骨格連
結手段と,この連結された骨格および分離されたままの骨格の個数を計数
し,この値を複合欠陥を構成する欠陥数として出力する計数手段とを有す
ることを特徴としたものである」との記載がある。これらの記載よれば,
甲7公報には,複数の欠陥を分離して検出するという課題が記載されてい
ることが認められるが,この課題の解決手段としては,段落【0005】
に記載されている手法を用いるものであって,凹部の輝度変化に基づいて
欠陥を検出するものではない。
次に,甲8公報には,「本発明は,単結晶ウエハーのエッチピットの上
述の如き特性に基き,部分的に重なり合ったエッチピットをも個々のエッ
チピットに分離して測定することのできるエッチピットの測定方法および
そのための装置を提供するものである」(2頁左下欄第2段落)と記載さ
れ,複数の重なり合った欠陥を分離して検出するという課題が記載されて
いる。しかし,甲8公報の検出方法は,エッチピットの検出を,斜め方向
から光線を照射して,エッチピットの斜面において反射した光に基づいて
検出するものであって,凹部の輝度変化に基づいて検出するものではな
い(3頁左上欄最終段落∼左下欄第1段落)。
甲9公報には,複数の欠陥を分離して検出することができないという課
題が記載されている(1頁右欄最終段落∼2頁左上欄第2段落)。しか
し,甲9公報の検出方法は,複数の欠陥を分離して,正確に計数するため
に,あらかじめ1個相当,凝集された2個,3個,4個等に相当する面積
及び形状を定めておき,個々のエッチピットの面積,形状を,それらと比
較して個数に換算するものであり(2頁左上欄最終段落∼右上欄第1段
落),凹部の輝度変化に基づいて検出するものではない。
ウ以上に検討したところによれば,原告が引用する甲2公報,甲7公報,
甲8公報及び甲9公報には,ウェーハ表面に重なり合う複数の結晶欠陥の
個数を正確に計数する課題が記載されているが,当該課題に対応する検出
方法は,本件発明1のように「凹部の輝度変化に基づいて欠陥検出をす
る」ものではないから,その対象となる欠陥の重なりは本件発明1が課題
とする欠陥の重なりと同じではない。したがって,上記各公報に記載され
た課題と本件発明1の課題が同じであるということはできず,ウェーハ表
面に重なり合う複数の結晶欠陥の個数を正確に計数する課題が周知である
からといって,そのことから,本件発明1の「凹部の輝度変化に基づいて
欠陥検出をする」構成に想到することが容易であるとすることはできな
い。
(2)本件発明1と甲1発明との構成上の対比につき
原告は,本件発明1と甲1発明を対比すると,構成Cにおいて,甲1発明
は,欠陥のエッジ部による輝度変化により欠陥検出を行うのに対し,本件発
明1は,欠陥の凹部内の輝度変化に基づいて欠陥検出を行う点において相違
するにすぎないと主張する。
確かに,審決が認定した本件発明1と甲1発明との相違点「甲1発明に
は,「検査対象物の表面上を一方向に移動させて得られた撮影画像中で,欠
陥のエッジ部を除く欠陥の凹部において,輝度が変化する点を基に欠陥を検
出する」構成が記載されていない点。」のうち,「検査対象物の表面上を一
方向に移動させて得られた撮影画像について画像処理を行うものである」は
一致点として認定すべきであり,両者は,甲1発明が「撮影画像中で,欠陥
エッジ部を除く欠陥の凹部において輝度が変化する点を基に欠陥を検出する
構成」を有しない点で相違するにすぎないことは,上記2(1)ウのとおりで
ある。しかし,当該相違点が容易想到とすることができないことは,後述す
るとおりである。
(3)本件発明1と甲1発明との相違点
ア原告は,本件発明1と甲1発明とは,甲1発明は,欠陥のエッジ部によ
る輝度変化により欠陥検出を行うのに対し,本件発明1は,欠陥の凹部内
の輝度変化に基づいて欠陥検出を行う点において相違するにすぎず,この
点は,当業者にとって設計的事項と認識されている技術的事項にすぎない
と主張し,その根拠として,①甲5公報に記載されているように,微分干
渉顕微鏡においては,傾斜面の傾斜方向の反転によって濃淡分布が反転す
ることが周知であること,②甲13公報には,微分処理後の2値化の閾値
を設定して凹部の輝度変化のみを抽出する点が記載されていることを挙げ
る。
イ本件発明1と甲1発明とは,甲1発明が「撮影画像中で,欠陥エッジ部
を除く欠陥の凹部において輝度が変化する点を基に欠陥を検出する構成」
を有しない点で相違することは,上記2(1)ウのとおりである。
そこで,この相違点が容易想到とすることができるかについて検討す
る。
(ア)確かに,甲5公報には,「観察物体の段差等のエッジ部の検出では,
凸部から凹部に変わる部分と凹部から凸部に変わる部分とでは,微分干
渉画像の濃淡の分布が反転する」(段落【0007】)と記載されてお
り,傾斜方向が変化すると濃淡が反転することは公知であったと認めら
れる。しかし,甲5公報には,重なり合う欠陥を正確に認識するため
に,「凹部の輝度変化」,すなわち,凹部位置の情報のみに基づいて欠
陥検出を行うという技術的思想は記載されていない。
(イ)また,甲13公報には,次の記載がある。
「【0021】…光照射手段14からは光射出面14aにおけるX方向に
沿って輝度が徐々に変化する(本実施例では図4,5中においてX
方向左端から右端に向けて輝度が小さくなる,なお図中線分mの長
さは輝度の大きさを表わす)明暗光が被検査面6上に照射され,該
被検査面6からの反射光が撮像手段16によって受光されてその反射
光による被検査面6の画像(受光画像)が形成される。図中Sは光
照射手段14による光照射領域であり,Fは撮像手段16の視野であ
り,撮像手段16においてはこの視野Fの受光画像が形成される。」
「【0024】上記の如き受光画像36において,被検査面6上に欠陥
32,34が存在すると,この欠陥32,34によって光照射手段14からの
光の正反射方向が変換し,それによって受光画像36中の欠陥32,34
に対応する領域32A,34Aにおける輝度は周囲の輝度とは異なると
共に輝度変化状態も周囲の輝度変化状態とは異なることとなる。
【0025】即ち,欠陥が凸状欠陥32の場合,図4に示す様に,そ
の凸状欠陥32はいわゆる凸面鏡として作用し,欠陥32の左面32aか
らは光照射手段14の輝度が大きい部分38からの明光が正反射して撮
像手段16に入射し,一方欠陥32の右面32bからは光照射手段14の輝
度の小さい部分40からの暗光が正反射して撮像手段16に入射し,そ
の結果図6に示す様に受光画像36中の凸状欠陥対応領域32Aは,受
光画像36全体の輝度がX1方向に向って小さくなっていく中で該領
域32Aの左側領域(凸状欠陥32の左面32a対応領域)は周囲よりも
輝度が大きくなり,領域32Aの右側領域(凸状欠陥32の右面32b対
応領域)は周囲よりも輝度が小さくなる。
【0026】また,欠陥が凹状欠陥34の場合,図5に示す様に,そ
の凹状欠陥34はいわゆる凹面鏡として作用し,欠陥34の左面34aか
らは光照射手段14の輝度が小さい部分40からの暗光が正反射して撮
像手段16に入射し,一方欠陥34の右面34bからは光照射手段14の輝
度の大きい部分38からの明光が正反射して撮像手段16に入射し,そ
の結果図7に示す様に受光画像36中の凹状欠陥対応領域34Aは,受
光画像36全体の輝度がX1方向に向って小さくなっていく中で該領
域34Aの左側領域(凹状欠陥34の左面34a対応領域)は周囲よりも
輝度が小さくなり,領域34Aの右側領域(凸状欠陥34の右面34b対
応領域)は周囲よりも輝度が大きくなる。」
「【0030】従って,画像処理手段20により受光画像36を走査し,
各主走査ライン上の輝度を微分し,その微分値が所定のしきい値(
+Th,−Th)を超えた場合(図9,11参照)に,その超えた位
置に欠陥が存在し,かつ微分値が+Thを超えた場合は凸状欠陥で
あり,−Thを超えた場合は凹状欠陥である旨を検出することがで
きる。」
【図4】
【図5】
(ウ)上記記載によれば,甲13公報に記載の検査方法は,凹部の輝度変化
に基づいて検出するものではあるものの,凹形状のみを検出する本件発
明1や甲1発明とは異なり,凹凸形状を区別して検出するためのもので
あり,また,重なり合う欠陥を検出するためのものではないから,甲1
発明のように凹部のみから成る欠陥を検出するものに結びつくものでは
ない。
ウ以上検討したところによれば,原告が引用するいずれの刊行物にも,本
件発明1の「重なり合った複数の欠陥を正確に計数するために凹部の輝度
変化に基づいて欠陥検出をする」技術的思想が開示ないし示唆されている
と認めることはできず,本件発明1の相違点に係る構成が当業者に容易想
到であるとすることはできない。
4取消事由3(容易想到性の判断の誤り)について
(1)原告は,本件発明1と甲1発明との相違点は設計的事項にすぎず,当業者
が容易に想到できたものであるから,本件発明1の容易想到性を否定した審
決は誤りであると主張する。
しかし,本件発明1と甲1発明との相違点の構成を容易想到とすることが
できないことは,上記3のとおりである。
(2)また原告は,本件発明2ないし4も,本件発明1と同様に容易想到である
と主張するが,本件発明1を容易想到とすることができないことは上記のと
おりであり,本件発明2ないし4についての原告の主張は,前提において誤
りである。
(3)したがって,本件発明1ないし4の容易想到性についての審決の判断に,
原告主張の誤りはない。
5結語
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官岡本岳
裁判官上田卓哉

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛