弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人菅野勘助の上告趣意第一点について。
 所論は、違憲をいうが、その実質は、単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四〇
五条の上告理由に当らない。そして、第一審公判調書によれば、検察官は、拳銃一
挺所持の点につきAの各供述調書の取調を請求し、被告人及び弁護人は、右書面を
証拠とすることに同意し、且つ証拠調には異議がなく、検察官は、証拠書類を朗読
した事実が認められるから、所論の訴訟法違反も認められない。尤も記録中に添附
されているAの聴取書は、原本ではなく、謄本であることは所論のとおりであるが、
証拠調が終つた証拠書類は、裁判所の許可を得たときは、原本に代え、その謄本を
提出することができることは、刑訴三一〇条の認めるところであるから、記録に添
附された証拠書類が謄本であるからといつて、証拠書類の原本について証拠調がな
されなかつたとはいえない。また、仮りに右供述調書が初めから原本ではなく、謄
本であつたとしても、被告人並びに弁護人がこれを証拠とすることに同意し且つこ
れが証拠調をすることに異議がなかつた以上、証拠調は、完全に施行されたもので
あつて、所論のごとく公判調書に記載された書面が全然ないことに帰着するともい
えない。
 同第二点について。
 所論は、違憲をいうが、その実質は、単なる訴訟手続違背の主張であつて、同四
〇五条の上告理由に当らない。そして、人定質問に関する刑訴規則一九六条の規定
は、被告事件につき被告人に陳述する機会を与えるため、起訴状の朗読前予め被告
人の人違でないことを確めるための訓示的規定であるから、起訴状の朗読をしない
控訴審の手続にはこれが準用あるものではない。
 控訴審においては、被告人が出頭した場合でも適宜の方法によつてその人違でな
いかどうかを取り調べるを以て足りるものであつて(刑訴規則一一五条参照)、必
ずしもいわゆる人定質問をするを要しないものといわなければならない。それ故、
原審の訴訟手続には所論の違法も認め難い。
 同第三点について。
 所論は、単なる訴訟手続違背の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らな
い。そして、原審公判調書によれば、裁判長は、判決の宣告を為す旨を告げ判決主
文を朗読し同時に理由の要旨を告げた旨の記載があるから、原判決の宣告は、判決
主文を記載した書面に基きこれを朗読し、判決理由は原稿その他に基きその要旨を
告げたものであること明白である。そして、刑事判決の宣告は、民事判決の言渡(
民訴一八九条一項参照)とは異り、必ずしも判決原本に基き宣告するを要せず、右
のごとき方法を以て足りるものであることは、刑訴規則三五条二項後段の規定する
ところである。されば、判決の宣告は先ず判決原本を作成しこれに基くことを要す
ることを前提とする所論は、刑訴四一一条一号の職権発動を求める主張としても採
用し難い。
 よつて、同四一四条、三八六条一項三号、一八一条に従い、裁判官全員一致の意
見で主文のとおり決定する。
  昭和二八年一二月一七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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