弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告理由第三点について。
 薬事法において、薬局開設に当り、開設者が薬局の登録を受けなければならない
こととしたのは、薬局における業務が保健衛生に重要な関係のあるものであること
に鑑み、その業務を規整しその適正を図るため、業務主体(その業務が営業である
場合は営業主)を特定し、薬局の業務につきその責に任ぜしめようとしたものに外
ならない。従つて、自ら営業としてなす薬局の開設者として右登録の申請をした者
は、上記の意味合において、薬局における営業主となることの意思を示したものと
いうべく、また営業としてなす薬局開設の登録につき、開設者として自己の名義を
使用することを他人に許容した者は、その他人が登録を申請したときは、その他人
の登録申請を通じ、自己が当該薬局における営業主となることの意思を示したもの
というべきであつて、このことは、その登録が未だ完了していない一事によつて何
ら異るところはない。そして、右後段の場合のように、営業としてなす薬局の開設
者として自己の名義を使用することを他人に許容し、その他人が登録を申請した場
合は、上記のとおり、その他の申請を通じ、自己が当該薬局の営業者となることの
意思を示したものと認むべきであるから、かかる場合は、商法二三条の「自己ノ氏
名ヲ使用シテ営業ヲ為スコトヲ他人ニ許容シタル」場合に該当するものと解すべき
である。
 ところで本件において、原審の認定した事実によれば「成立に争のない甲第二、
三号証によれば、D薬局開設後間もない昭和二六年二月中旬頃、被控訴人(被上告
人)名義で所轄保健所に対して薬局開設並びに医薬品製造の各登録申請書が提出さ
れた事実を認めることができ」、そして「右甲第二、三号証に原審(第一審)並び
に当審(第二審)における被控訴人(被上告人)本人尋問の結果及び弁論の全趣旨
を綜合すれば、右登録申請は、被控訴人(被上告人)がa村民として村内に顔も広
く、且つその経歴に徴し許可官庁に対する関係において被控訴人(被上告人)名義
による方が都合がよいため、Eの依頼によつて便宜上被控訴人(被上告人)名義を
貸してやつた」ものであり、「被控訴人(被上告人)は訴外Eの依頼により薬局開
設並びに医薬品製造の各登録申請について一応被控訴人(被上告人)名義の使用を
了承したのである」というのであつて被上告人は、本件薬局の登録申請に当り、そ
の申請名義人として自己の氏名を使用することを訴外Eに許容し、被上告人名義で
登録申請がなされたというのであるから、右薬局の業務が営業である限りは、この
場合が、商法二三条の場合に該当すると認むべきことは明らかである。従つて、右
薬局の業務が営業である限りは、上告人が被上告人を本件薬局の営業主であると認
めて本件取引をしたものであるときは、被上告人はその取引上の責任を負担すべき
ものであり、このことは、右訴外人が本件取引につき、本件薬局の経営主として被
上告人名義を利用したかどうか、また被上告人が本件薬局の共同経営者ないしその
単独経営者であつたかどうかによつて何ら影響を受くるものではない。殊に成立に
争のない甲第一号証は、D薬局B(被上告人)名義の領収証であつて、かかる書証
の存在は、右薬局が被上告人名義であることを窺わしめるに足るものである。しか
るに、原審が上記の事実関係及び証拠につき、何ら首肯せしむべき説明を与えるこ
となくして、原審の認定した事実関係から直ちに本件取引に関し商法二三条を適用
する余地なしと判示したことは、右法条の解釈を誤り、ひいて審理不尽、理由不備
の違法があるを免れず、論旨は理由があり、原判決はこれを破棄し、原審に差し戻
すべきものである。
 よつてその余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条により、裁判官全員の
一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
 裁判官岩松三郎は退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎

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