弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人小松英雄の上告受理申立て理由二について
 一 本件は、いわゆる株主会員組織のゴルフクラブの会員であった者が、右ゴル
フクラブ及びゴルフ場経営会社に対し、右ゴルフクラブの個人正会員たる地位を有
することの確認を請求している訴訟である。
 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人A1観光施設株式会社(以下「上告人会社」という。)は、ゴルフ場
とこれに付帯する設備の建設、利用等を目的とする会社である。
 2 上告人A2ゴルフ倶楽部(以下「上告人ゴルフクラブ」という。)は、昭和
三七、八年当時、上告人会社所有のゴルフ場を賃借してこれを運営し、会員相互の
親睦を図ること等を目的とする団体であり、議決機関たる会員の総会において多数
決による意思決定が行われ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、そ
の代表の方法、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しており、権利能力
のない社団であった。
 3 昭和三七年一二月当時、上告人ゴルフクラブの規約(以下「本件規約」とい
う。)には個人正会員は上告人会社の株式を二株以上保有すべき旨の定めがあった
ので、被上告人は、上告人会社の新株二株の引受けを申し込んで、その割当てを受
け、払込期日までに発行価額全額(一〇万円)を払い込んで、右新株二株を取得す
るとともに、上告人ゴルフクラブに対し入会を申し込み、入会の承認を得て、同月
一四日ころ、上告人ゴルフクラブの個人正会員たる地位(以下「本件会員権」とい
う。)を取得した。
 4 ところで、当時、上告人ゴルフクラブのゴルフコースは九ホールしかなく、
また、クラブハウスなど付属施設も不備であったので、会員の中でホール増設やク
ラブハウス増改築等の要望が強くなった。そこで、上告人会社及び上告人ゴルフク
ラブは、このための費用を、上告人会社の新株を発行し、既存の株主に引き受けて
もらう方法により調達することとし、上告人ゴルフクラブにおいて、昭和三八年三
月二六日、総会を開催し、本件規約中の個人正会員の資格要件である上告人会社株
式保有数の定めを「二株以上」から「三株以上」に改正し、かつ、これを既存の会
員にも適用し、この資格要件を満たさない会員はその地位を失う旨決議した(以下
右決議を「本件改正決議」といい、右改正後の定めを「本件改正規定」という。)。
 本件規約には、本件規約の改正は、理事の三分の二以上の賛成を得た理事会の発
議により、総会の出席会員の過半数の賛成による承認によって行う旨の定めがあり、
本件改正決議は、右の定めに基づいて行われた。
 5 本件改正規定は、右総会の決議に基づき、昭和三八年六月一日に施行された
が、その時点においても、被上告人は、上告人会社株式を二株保有しているにとど
まった。
 6 上告人ゴルフクラブは、上告人会社に対し、昭和五二年一月一日をもって、
それまで上告人ゴルフクラブが行っていたゴルフ場の運営業務を上告人会社に引き
継いだ。これによって、以後は、上告人会社がゴルフ場施設を利用させる役務の提
供義務を会員に対して負うことになった。しかし、右業務引継ぎ後も、上告人ゴル
フクラブは、権利能力のない社団であることに変わりはない。
 7 上告人らは、被上告人は本件改正規定の施行された昭和三八年六月一日限り
本件会員権を喪失したとして、被上告人が本件会員権を有することを争っている。
 二 原審は、被上告人と上告人ゴルフクラブとの基本的法律関係は、被上告人と
上告人ゴルフクラブとの間で入会契約が締結された昭和三七年当時の本件規約に基
づいて定められたものであり、このようにして定められた会員の契約上の基本的な
権利を変更するには、会員の個別的な承諾を得ることが必要であるが、被上告人の
承諾が得られた形跡がない以上、上告人ゴルフクラブは本件改正規定に基づき被上
告人の本件会員権を喪失させることはできないと判断して、被上告人の請求を棄却
した第一審判決を取り消し、被上告人が本件会員権を有することを確認した。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 【要旨】前記事実関係によれば、上告人ゴルフクラブは権利能力のない社団であ
り、本件改正決議は、本件規約において定められていた改正手続に従い、総会での
多数決により、構成員の資格要件の定めを改正したものである。そうすると、本件
改正規定は、特段の事情がない限り、本件改正決議について承諾をしていなかった
被上告人を含む上告人ゴルフクラブのすべての構成員に適用されるものと解すべき
ものであり、前記事実関係に照らせば右特段の事情を認めることはできない。
 よって、本件改正規定が施行された昭和三八年六月一日の時点において、本件改
正規定に定められた資格要件を満たしていなかった被上告人は、本件会員権を喪失
したものである。
 四 以上によれば、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法
は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免
れない。そして、原審の確定した事実によれば、被上告人の上告人らに対する請求
をいずれも棄却した第一審判決の結論は正当であって、被上告人の控訴はこれを棄
却すべきものである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 河合伸一 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山
継夫 裁判官 梶谷 玄)

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