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裁判例


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平成26年2月5日判決言渡
平成23年(行ウ)第420号道路附属物損傷に伴う費用負担命令取消請求事件
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1東北地方整備局長が道路法58条1項に基づいて平成21年3月27日付け
で原告に対してした費用負担命令(以下「本件費用負担命令1」という。)を
取り消す。
2東北地方整備局長が道路法58条1項に基づいて平成21年9月30日付け
で原告に対してした費用負担命令(以下「本件費用負担命令2」といい,本件
費用負担命令1と総称するときは,「本件各費用負担命令」という。)を取り
消す。
第2事案の概要等
1事案の要旨
本件は,Aが,貨物自動車を運転して福島県南相馬市α内の道路(一般国道
6号)を進行させていた際,同所に設けられたβ横断歩道橋(以下「本件歩道
橋」という。)の橋桁を損傷する交通事故(以下「本件事故」という。)を起
こしたことにつき,東北地方整備局長が,平成21年3月27日付け及び同年
9月30日付けで,本件事故の当時にAの使用者であった原告に対し,本件歩
道橋の撤去及び復旧の工事の費用を原告に負担させる旨の命令(本件各費用負
担命令)をしたところ,原告が,本件各費用負担命令は①道路法58条1項の
解釈を誤ってされたものである,②不当に過大な費用を掛けて本件事故による
損傷箇所以外の箇所についてまで修繕した費用の負担を命じるものであるなど
として,本件各費用負担命令が違法である旨を主張し,本件各費用負担命令の
取消しを求める事案である。
2前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,当事者に
おいて争うことを明らかにしない事実である。以下「前提事実」という。)
(1)本件事故の発生等
ア原告の被用者であるAは,平成20年12月24日午前8時8分頃,貨
物自動車を運転して福島県南相馬市α内の道路(一般国道6号)を仙台方
面から磐城方面へ進行させていた際,道路法47条所定の車両の高さの最
高限度に係る規制に違反して上記貨物自動車に積載した建設機械を同所に
設けられた本件歩道橋の橋桁に衝突させてこれを損傷する交通事故(本件
事故)を起こした。
イ本件歩道橋は,本件事故の現場において道路を東西方向にまたぐもので,
昭和44年に578万円の費用をもって設けられ,本件事故当時には付近
に横断歩道は設けられていなかったところ,本件事故によりその橋桁に歪
みが生じ,供用することができない状態となった(乙2,弁論の全趣旨)。
(2)本件各費用負担命令の発出に至る経緯等
ア(ア)東北地方整備局磐城国道事務所長は,平成20年12月24日,
B株式会社との間で,同社が本件歩道橋の床版であるブロックを撤
去する工事を9万3000円(消費税抜き)で請け負うことを内容
とする請負契約を締結し,同社は,同日,本件歩道橋の床版を撤去
した(乙1,14の1,28)。
(イ)東北地方整備局磐城国道事務所長は,平成21年3月16日,
B株式会社との間で,同社が本件歩道橋の橋桁を撤去する工事を3
20万円(消費税抜き)で請け負うことを内容とする請負契約を締
結し,同社は,同日及び同月17日,本件歩道橋の橋桁を撤去した
(乙1,14の1,36)
(ウ)東北地方整備局長は,原告に対し,平成21年3月27日,本
件歩道橋の床版及び橋桁を撤去する工事の費用につき,道路法58
条1項に基づき,工事費及び事務費の合計359万0912円(消
費税込み)を原告に負担させる旨の命令(本件費用負担命令1)を
した。
イ(ア)東北地方整備局磐城国道事務所長は,平成21年4月27日,本件
歩道橋の橋桁を修復する工事の落札者となったC株式会社との間で,同
社が本件歩道橋の橋桁を修復して元の場所に架設する工事(以下,前記
アの本件歩道橋の床版及び橋桁を撤去する工事と総称して「本件各
工事」という。)を910万円(消費税抜き)で請け負うことを内容と
する請負契約を締結し(ただし,同年8月28日及び同年9月11日,
それぞれ請負金額を増額する契約(同年8月28日に締結した契約にお
いては270万円(消費税抜き),同年9月11日に締結した契約にお
いては42万円(消費税抜き)をそれぞれ増額)を締結している。),
同社は,同日までに,本件歩道橋の橋桁を修復して元の場所に架設した
(乙1,乙14の2・3,43,47,51)。
(イ)東北地方整備局長は,原告に対し,平成21年9月30日,本件
歩道橋の橋桁を修復して元の場所に架設する工事の費用につき,道
路法58条1項に基づき,工事費及び事務費の合計750万931
9円(消費税込み)を原告に負担させる旨の命令(本件費用負担命
令2)をした。
(3)本件訴えの提起に至る経緯等
ア(ア)原告は,平成21年5月21日,国土交通大臣に対し,本件費
用負担命令1について審査請求をした。
(イ)原告は,平成21年11月25日,国土交通大臣に対し,本件費用
負担命令2について審査請求をした。
イ国土交通大臣は,平成23年1月5日,原告に対し,前記アの各審査請
求をそれぞれ棄却する旨の各裁決をした。
ウ原告は,平成23年7月4日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な
事実)。
3争点
(1)道路法58条1項の解釈(争点1)
(2)本件各費用負担命令の適法性(争点2)
4争点に関する当事者の主張の要点
(1)道路法58条1項の解釈(争点1)について
(被告の主張の要点)
ア道路法49条は,「道路の管理に関する費用は,この法律及び公共土木
施設災害復旧事業費国庫負担法並びに他の法律に特別の規定がある場合を
除くほか,当該道路の道路管理者の負担とする。」と定め,道路が一般国
民の日常生活に必要不可欠で重要な公共用物であることに鑑み,道路の管
理に関する費用につき,原則として,管理者たる国又は地方公共団体が負
担するものと規定している。
しかしながら,特別の原因により道路に関する工事等が必要となった場
合には,この原因を与えた者に一定の義務を課することが,道路管理に支
障のない限り衡平であり,かつ,実際の取扱いにも便利である。そこで,
同法22条1項は,「道路管理者は,道路に関する工事以外の工事(以下
「他の工事」という。)により必要を生じた道路に関する工事又は道路を
損傷し,若しくは汚損した行為若しくは道路の補強,拡幅その他道路の構
造の原状を変更する必要を生じさせた行為(以下「他の行為」という。)
により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持を当該工事の執行者
又は行為者に施行させることができる。」と定め,このような場合に,道
路管理者がその原因者に対して当該道路に関する工事等の施行を命ずるこ
とができる旨を規定している。
そして,同項に基づいてその原因者に工事等の施行を命ずる場合及び道
路管理者自らが工事等を施行した場合においては工事等に要する費用が生
ずるところ,そもそも,原因者の行為自体がなければ道路に関する工事等
を施行する必要も生じなかったはずであり,かかる費用を道路管理者に負
担させることは衡平に反し,特に,他の行為により道路に損傷・汚染等が
生じた場合,前記のような重要性を有する道路につき迅速に本来の機能を
回復させるための修理等を道路管理者において実施し,その費用を原因者
である他の行為につき費用を負担する者に負担させるのが便宜である。そ
れゆえ,同法58条1項は,「道路管理者は,他の工事又は他の行為によ
り必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については,その
必要を生じた限度において,他の工事又は他の行為につき費用を負担する
者にその全部又は一部を負担させるものとする。」と定め,必要を生じた
限度において,工事等に要する費用の全部又は一部を原因者に負担させる
ものと規定している。これが原因者負担金制度と呼ばれる制度である(な
お,同項の規定による負担金の強制徴収の権限について,同法73条参
照)。
同法58条1項に定める原因者負担金制度は,民法上の不法行為制度と
は異なる公共用物としての道路の迅速な機能回復(効用の原状回復)を図
るために定められた特別の公用負担制度であって,同項は,たとえ他の工
事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事が老朽化した道路に
係るものであり,その現存価値の算定に当たって企業会計に関する減価償
却が観念できる場合であっても,機能の復旧に要する費用である限り,そ
の費用を原因者に負担させるという立法政策に依拠した規定である。
上記に述べたところからすると,同項にいう「道路に関する工事又は道
路の維持の費用」とは,道路の現存価値の回復に要する費用ではなく,道
路の機能回復に要する費用と解すべきである。そして,同項の「その必要
を生じた限度において」原因者に「全部又は一部を負担させるものとする」
とは,道路に関する工事の全量が他の工事又は他の行為に原因する場合に
は,その費用の全額を負担させるものとし,直接必要を生じた程度以上の
道路工事が併せて行われたような場合には,その部分の費用は差し引いて
原因者に負担させるという趣旨であるところ,「その必要を生じた限度に
おいて」負担させることとしたのは,いくら他の工事又は他の行為がなけ
れば道路に関する工事を施行する必要が生じなかったとしても,当該他の
工事又は他の行為によって必要を生じた道路に関する工事の施行が道路の
改良に至るような場合にまで,その費用全額を原因者に負担させるのは,
社会通念上相当でなく,価値超過部分に係る費用は道路管理者が負担する
ことが衡平にかなうと解されるためである。また,機能復旧に要する費用
を原因者に全額負担させることが社会通念上不当と目されるような場合
(例えば損傷を受けた物件が著しく老朽化しており,近日中に具体的な撤
去又は取替えの計画がある場合)には,その「一部」を原因者に負担させ
るという運用で対応することが予定されているのである。
イ以上のように,原因者負担金制度が,道路の機能の回復を目的としてい
ることからすれば,仮に,当該公共用物がその建設時から相当期間経過し
ていたとしても,それがその機能の回復に要する費用を減額すべき理由と
はならず(減価償却資産の耐用年数等に関する省令(以下「耐用年数省令」
という。)は,飽くまでも税法における課税の公平性を図るために設けら
れた基準であり,これを原因者負担金制度に適用することは予定されてい
ない。),機能回復に必要である限り,結果的に原因者に対して現存価値
以上の負担を課することになったとしても違法とはいえないのであって,
そのことによって道路管理者に何らかの利得が生ずる余地もない(なお,
原因者負担金制度は,道路の機能回復を図るための特別の公用負担制度で
あり,道路法58条1項に由来する行政処分であるから,民法703条の
「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け」たとはいえ
ず,不当利得が発生する余地はない。同法上の不当利得制度を根拠として
道路法58条1項にいう「道路に関する工事又は道路の維持の費用」を道
路の現存価値の回復に要する費用と解すべきとする原告の主張を突き詰め
れば,同法上,原則として道路管理者が道路の管理費用を負担すべきとさ
れている以上,いずれ交換,補修が予定されているものについては行為者
は何らの費用も負担しないとの見解に等しく,かかる原告の主張が失当で
あることはいうまでもない。)。原因者負担金制度に基づく費用負担命令
については,同一条件下において差別的な取扱いをするなどの場合に限っ
て,裁量権の濫用により違法となる余地を認めるものにすぎず,原告が主
張するような私有物を損壊した場合との比較,衡平までも考慮することを
求めたものではない。
ウ以上に述べたところからすると,原因者負担金制度に基づく費用負担命
令が,それを受ける費用負担者の財産権(憲法29条1項)を制限するも
のであるとしても,その制限は,公共用物である道路の管理に関する衡平
な費用負担及び迅速な機能回復等の適切な管理の実現を目的とするもので
あり,その規制目的は公共の福祉に合致する正当なものというべきである。
そして,費用負担者に費用の全部を負担させることが相当でないと解され
る場合には,道路管理者は,その裁量により,費用の一部について費用負
担命令を発することもできるものと解されるし,費用負担命令が発せられ
る範囲は,「その必要を生じた限度」に限られ,費用負担者に対し,それ
以上の不利益を課すものではないから,道路法58条1項の「道路に関す
る工事又は道路の維持の費用」を当該道路の機能回復に要する費用と解し
ても,前記のような規制目的を達成するための手段として必要性又は合理
性に欠けることが明らかとはいえない。
したがって,同項については,立法府の合理的裁量の範囲を超えるとは
認められず,原告の主張するように憲法29条1項に違反するものという
ことはできない。
(原告の主張の要点)
ア(ア)原因者負担金制度について,道路の迅速な機能回復を図るために
定められた特別の公用負担制度であるということは争わないが,同制度
が民法の不法行為制度とは異なる特別の公用負担制度であることをもっ
て,損傷した公共用物の時価額(設置からの経過年数)に関係なく,機
能回復に必要な費用の全額について無条件で支払を強制できるというこ
とはできない。
道路法58条1項にいう「必要を生じた限度」は,同項が原因者に
「その全部又は一部を負担させるものとする」と規定していることから
も明らかなように,全く無制限に行政上の裁量権を与えたものではなく,
被告が本件に用いたとする「土木工事標準積算基準書」(乙6。以下
「基準書」という。)に基づき積算された諸費用であるからといって,
当然に,その全額を原因者に負担させるべきものではない。そして,交
通事故により損傷させた物が,一般私人の所有物であれば民法(損害賠
償法)の原則に従って賠償責任の範囲が決せられ,たまたま公共用物で
あれば生じた費用の全額を一律に負担させるというのであれば,衡平の
理念に著しく反する結果となりかねない(特に,基準書が一般民間企業
による請負工事の費用の実情とかけ離れている場合にはなおさらであ
る。)。
原因者負担金制度が公益目的による公用負担制度であるとしても,衡
平原則等の法の一般原則には当然に従うべきものであり,道路法58条
1項にいう「必要を生じた限度」を決する行政処分の裁量権の範囲は,
民法(損害賠償法)の原則ないしは衡平の理念に従い解釈され決せられ
るべきであって,損傷対象が一般私人の所有物であった場合の比較,衡
平の観点から,同項にいう「道路に関する工事又は道路の維持の費用」,
「必要を生じた限度」は,「道路の現存価値の回復に要する費用」と解
すべきである。
(イ)公共用物の補修費用を含めた管理費用は,道路法49条により,第
一次的には全て道路管理者が負担すべきものとされており,横断歩道橋
のように一定期間が経過すれば道路管理者が全ての費用を負担して交換,
補修することが予定されている物について,たまたまその期間経過前に
原因者の行為によって損傷され,これを交換,補修する時期が早まった
からといって,その費用の全部を原因者に負担させることは,予定され
ていた交換,補修時期における道路管理者の出えんを原因者の負担によ
って免れさせ,道路管理者が不当に利得(民法703条)を得ることに
なるのであり,道路法58条1項が前提とする衡平の理念に合致しない
ことは明らかであって,修理によって,損傷前の現存価値を超える状態
まで回復された場合には,現存価値を超える部分についての費用は,当
然,原因者に負担させるべきものではない。
(ウ)原因者負担金制度について,原因者にどの範囲まで負担を命じるべ
きかという問題については,「減価償却分は控除すべきではないとする
と原因者の負担によって道路施設の財産的価値を従前より増加させるこ
とになり,原因者負担金の制度がそこまで目的としていると解する必要
はない」,「「他の行為により必要を生じた」部分は,減価償却分を控
除した部分と解することは可能であり,社会通念にも合致する」,「仮
に,「他の行為により必要を生じた」の解釈として,減価償却分を控除
することができないとしても,「その全部又は一部を負担させるものと
する」と規定しているのであるから,減価償却分を控除した「一部」を
負担金として課すことによって,実質的には同様の運用が可能」と述べ
る学説もある(甲6参照)。
(エ)なお,原告は,D株式会社との間で自動車保険契約を締結している
ところ,同社からは,対物賠償保険は,法律上の損害賠償責任を負担す
ることによって被る損害に対して保険金を支払うものであって,その範
囲は損害賠償責任の原則に従って決せられるべきものであり,本件歩道
橋の時価額を限度として保険金を支払うのみである旨の告知を受けてお
り,本件のような事案において,機能回復に要する費用の負担を無条件
に強制されるのであれば,交通事故を起こした者は,自動車保険による
担保範囲をめぐって保険会社との間で訴訟を提起することになり,新た
な紛争を生じる。
イ仮に,原因者負担金制度が,損傷した公共用物の時価額に関係なく,
機能回復に必要な費用全額につき,無条件で支払を強制できる制度である
とするならば,道路法58条1項は,いずれは交換,補修が必要となる公
共用物につき,国民の財産的負担において,道路管理者の負担すべき費用
を免れさせるものであるから,国民の財産権(憲法29条)を不当に侵害
する強度な制約を課すものであって,違憲である。たとえ,原因者負担金
制度に道路の迅速な機能回復という法目的があるとしても,かかる目的を
達成する手段として,損傷した公共用物の時価額に関係なく,機能回復に
要した費用全額を原因者に負担させることの合理性は認められない(機能
回復に要した費用のうち原因者に負担させるべき費用の範囲のいかんによ
って,道路の迅速な機能回復が達成されるという関係にない。)。
(2)本件各費用負担命令の適法性(争点2)について
(被告の主張の要点)
ア原因者負担金制度が道路の機能回復のための特別の公用負担であり,
「道路に関する工事又は道路の維持の費用」が道路の機能回復に要する費
用と解されることからすれば,本件歩道橋が本件事故によってそれまで有
していた歩道橋としての機能を失い,その回復のため,以下に述べるとお
り,本件事故による損傷の状況を適切に調査して把握し,その結果を踏ま
えて適切な工法を選択した上で,基準書に基づいて適正に算定された工事
価額で本件各工事を行うに至った本件において,本件各工事の施行によっ
て,被告に必要な機能回復以上の利得が生じていないことは明らかである。
よって,本件各工事に要した費用を道路法58条1項に基づき全額原告に
負担を課した本件各費用負担命令は,同項の定める「その必要が生じた限
度」の範囲内で行われたのであり,何ら違法性はない。
イ(ア)道路管理者は,「道路を常時良好な状態に保つように維持し,修
繕し,もって一般交通に支障を及ぼさないように努め」るとされている
とおり(道路法42条1項),本件歩道橋についても必要に応じて維持
し,修繕すれば足りるものであって,あらかじめ決められた年数の経過
等により新たに建設を行うべきものではない。
(イ)ところで,本件歩道橋を含む橋梁については,道路巡回実施要領
(案)(平成12年3月24日付け建東道管第25号東北地方整備局道
路部長通知(最終改正平成15年6月4日)。乙3)の7条に基づき,
原則として1年に1回以上の頻度で徒歩にて施設の状況等を確認し,上
記通知の13条に基づき巡回日誌を作成した上で,破損箇所等について
は,必要に応じて修繕を行っているところ,本件においては,本件事故
の約2か月前の平成20年10月15日に本件歩道橋につき巡回が実施
されたが(乙4),目隠し板の一部破損,排水管の一部腐食による穴及
び排水枡詰まりは認められたものの(これらの不具合については,道路
管理者の負担で復旧し,原告には一切求償していない。),本件歩道橋
のく体自体の異常は特段認められておらず,付近住民からの訴え出もな
かった。また,本件事故の2日前の同年12月22日午前9時10分頃
(仙台方面へ向けて)及び同日午前11時30分頃(磐城方面へ向けて)
に自動車に乗車した磐城国道事務所原町維持出張所の巡視員が目視によ
り本件歩道橋を確認したが,その時点では,いずれも磐城方面側を含め
て損傷を認めておらず(乙65),その後,本件事故が発生するまでの
間に本件事故以外に本件歩道橋に損傷が生ずるような特筆すべき事情は
なかった。このように,本件事故の発生した当時において,本件歩道橋
は歩道橋としての機能を十分に発揮していたのであり,本件歩道橋は,
本件事故時点において,歩道橋としての機能を有していたことから,そ
の架け替え工事等は当面予定されていなかった。
(ウ)本件歩道橋は,一般国道6号を東西にまたぐものであるが,当時,
本件歩道橋付近には横断歩道が設置されていなかったことから,付近の
住民等が同国道を安全に横断通行するためには必要不可欠な施設であり,
また,南相馬市立E小学校(本件事故当時の児童数200人)に近接し,
同小学校の通学路にも指定されていることから(乙2),多くの児童が
同小学校に通学するためにも必要不可欠な施設であった。ところが,本
件事故により,本件歩道橋が使用不能となったため,現場の同国道を管
理する国土交通省東北地方整備局磐城国道事務所では,公安委員会と協
議の上,急きょ歩道橋下に横断歩道を設置し,横断歩行を可能とすると
ともに,誘導員を配置し児童の通学路の確保や地域住民の往来の安全確
保に努めなければならなかった(乙5)。そして,本件歩道橋の機能を
回復するため,本件各工事を実施したのである。
(エ)以上のとおり,本件歩道橋は,本件事故時点において,歩道橋と
しての機能を十分に発揮しており,その架け替え工事等は予定されてい
なかったのであるから,本件各費用負担命令に係る負担額が,減価償却
分を控除した額となっていないとしても,そこから直ちに同命令が違法
性を帯びるとはいえない。また,本件歩道橋の目隠し板等については経
年劣化が激しかったことから原告に費用負担を命じていないのであって,
本件各工事においては,耐用年数等を経過したと見られる部分について
まで原告に負担を求めておらず,正に「必要を生じた限度」において原
因者である原告にその費用の負担を命じたにすぎないものである。
ウ(ア)東北地方整備局道路部は,本件事故のあった当日,財団法人FG支
部が運用する「道路防災ドクター制度」を活用して道路防災ドクターで
ある大学名誉教授に現地で調査することを依頼し,同教授から,調査の
結果,本件歩道橋がすぐに落橋する可能性は低いが,歩行者等への被害
の発生や地震等に伴う落橋を防止するため,応急対策として死荷重(構
造物に加わる荷重のうち時間的に変化しない一定の荷重)を低減するよ
うにとの指示を受けたため(乙59),緊急に本件歩道橋の重量を軽減
すべく,作業員2名が本件歩道橋に上がり,本件歩道橋の床版の撤去作
業を行ったものであり,このような応急対策により,本件歩道橋の安全
性は当面確保でき,必ずしも応力度照査(主桁に作用する曲げやせん断
力が損傷断面の耐力の許容値より小さいことを確認すること)をする必
要がないと判断したものであって,本件歩道橋の床版の撤去作業に先立
って応力度照査を行わなかったことは不合理ではない(当該調査(乙5
9)は本件歩道橋に係る全体の損傷状況を把握するための調査であって,
調査時に2名では安全,3名では危険などという判断を行っていな
い。)。
原告が本件事故当時の本件歩道橋の危険性を裏付けるものとする意見
書(甲7)については,その合理性に問題があり,作業荷重が本件歩道
橋の欠損部分の許容応力度(部材が破壊しない安全な強度)を超えると
結論づけているのは誤りであって,実際にも,被告が,その後,本件歩
道橋の床版の撤去作業をした時点を想定した応力度照査を行ったところ,
死荷重及び作業荷重を合わせた全体荷重が本件歩道橋が有すると想定さ
れる許容応力度を超えることはなく安全であったとの結果(乙61)が
得られているところである。
(イ)また,東北地方整備局長の委託を受けた株式会社Hは,平成21年
1月6日,磐城国道事務所の副所長,原町維持出張所長及び同出張所技
術係長も立ち会った上,国の費用の負担の下に,高所作業車を使用し,
同車のバスケットに乗った計測員が本件歩道橋の損傷箇所に近づき,目
視により損傷箇所を確認の上,損傷の程度,範囲について調査,測定を
行ったところ(乙58),損傷範囲の計測については,本件歩道橋のう
ち変形していないと考えられた2点間に水糸を張り,高所作業車のバス
ケットに乗車した計測員が,上フランジ及び下フランジともに実際にメ
ジャーを当てて,水糸から桁までの距離(変形量)を測定するという態
様で,本件歩道橋の損傷範囲に関する調査,計測をした(乙54)。な
お,この際の調査に係る「主桁損傷測定状況調査状況」と題する文書
(乙58。以下「本件調査状況報告書」という。)の作成日は,平成2
4年11月5日であるが,同文書添付の写真は,いずれも平成21年1
月6日に現地調査を実施した際に撮影されたものであって,その一番上
の写真の作業足場は,同足場に人が乗って横桁の測定点にプリズムを設
置した上で光波測距儀を用いて距離と角度を測定する目的で,平成20
年12月27日以降,平成21年3月中旬までの観測時に歩道橋の橋脚
部上にある主桁の変位観測を実施するために設置されたものである。ま
た,原告が不自然なものとして指摘する乙58の左下の写真は,水糸と
桁までの距離(変形量)の測定方法(どの部分を測定したのか)を説明
するものであり(乙54の別添2参照),実際の上フランジの変形量の
測定においては,高所作業車に乗った計測員の顔が側点の真上に位置す
るように高所作業車のバスケットの位置を調整し,計測員が測点の真上
から真下に向けて視点を持っていき(垂直となるように),その数値を
読み取ったものであって,正に適正に計測したものである。
(ウ)上記のとおり,本件歩道橋の復旧工事の調査,計測に当たっては,
破断の発生位置やその範囲,損傷の程度を現地において調査,計測して
おり,その調査,計測結果として,損傷の主要寸法を損傷一般図(乙2
5)等に記載した上,「平成20年度阿武隈東道路西楢這橋詳細設計業
務設計図縮小版(β歩道橋編)」(乙25)を作成しているのであって,
かかる調査,計測の方法等に何ら問題はない。
原告は,損傷一般図(乙25)の計測データは,本件歩道橋撤去後に
搬入された工場内で計測されたと考えられるとした上で,上記の計測デ
ータは正確ではない旨主張するが,損傷一般図(乙25)の計測データ
は,撤去工事を実施する前に現地において適正に実測したものであって,
撤去工事後に工場内で計測したものではない。
エ本件歩道橋について,下フランジ損傷平面図(乙62)にあるとおり,
変形10㎜(原告が乙54の陳述書に基づき矯正が可能であるとする変形
量)以上の部分のみを補修範囲としたとしても,撤去に必要な範囲は,2.
9mの範囲に及ぶことになるところ,その範囲で損傷箇所を撤去,交換し
ようとすると,切断及びつなぎ箇所が既設の横桁の位置からわずか0.1
mという近傍に位置することになるが,その位置で切断,つなぎの作業を
行うことは,既設の横板と添接板(部材の添接において,部材を接合する
ために側面に添える鋼板)が重なってしまうため,実際上は不可能であっ
た上,新設部材の設置に伴う既設部材との接合時には,添接板の位置,添
接板のボルト締め,塗装等の作業を行うことになるが,作業姿勢に自由度
がないと品質の低下につながってしまうため,1m程度の作業スペースを
補修範囲として確保しておくのが一般的であるから,東北地方整備局は,
変形量10㎜以上の部分(2.9m),同部分の断端から横桁位置までの
部分(0.1m)及び作業スペースとして必要な部分(1m)を合計した
4mの範囲を本件歩道橋の補修部分としたものである。
オ(ア)本件歩道橋の復旧には,腹板,下フランジ,デッキプレートの損傷
状況や横桁の配置から,4m分の製作,交換が必要であり,構造上,高
欄,デッキプレート,上フランジ,腹板及び下フランジを切断して交換
する必要もあるから,その場で補修,復旧する方法を採用すると,切断
時にはベント(支保)を設置して橋を支えておく必要があるものの,ベ
ントを設置すると作業スペースが狭くなり作業効率が悪くなる上,路面
を損傷しないように敷鉄板によって路面を養生した上でベントを設置し,
かつ,車両の路外への逸脱による乗員の人的被害の防止を目的として仮
設のガードレールも設置しなければならないことから,車道幅員が2m
しか確保できず,通行可能幅員が狭くなり,必要な工程と作業時間を考
慮すると,最低でも4日間の通行規制(全面通行止め)を行うことが必
然となるところ,本件歩道橋が架設されている道路は主要幹線道路(一
般国道6号)であって,長期間通行規制することは地域経済への影響が
大きい。
これに加え,本件歩道橋の交換部材を製作するためには,本件歩道橋
を製作した当時の製作図面ではなく,損傷状況を計測して製作する必要
があり,橋(主桁)にはキャンバ(製作した後から作用する荷重によっ
て桁が変形したとき,美観や機能が害されることがないように,桁製作
時につけた荷重による変形と逆方向のそりのこと。乙19参照)を考慮
する必要があったことから,工場において桁全体を製作管理する必要性
があったほか,橋桁等を撤去することによって,今回の衝突による他の
部材(橋桁と支柱の取付部,橋桁と階段の接続部)への影響も確認する
必要があったことから,一旦橋桁等を撤去して工場で製作の上再架設す
る方針としたものである。
したがって,被告が,本件歩道橋を補修,復旧させる方法として,一
旦その場から撤去して工場へ運搬し,工場において補修した上で元の場
所に再架設する方法を採用したことには,明確な理由があり,裁量権の
逸脱,濫用もない。
(イ)東北地方整備局は,本件歩道橋の撤去工事及び同復旧工事の工法を
選択するに際し,技術者として通常考えられる工法として,ベント工法,
撤去工法及びつり橋工法を検討したものである(乙63)。
まず,つり橋工法については,杭の打設時の振動等により歩道橋全体
に損傷を与える可能性が高いほか,杭の打設時の騒音,振動による近隣
の住民生活や家屋損傷の影響も懸念されたことから採用できないとの判
断に至ったものである。また,あえてつり橋工法を採用すると,本件歩
道橋の補修すべき範囲が前記エに述べたとおりの範囲であるため,上り
線側及び下り線側それぞれの橋脚の外側に仮設の支柱を各2本ずつ建て
込むとともに当該支柱を支持するアンカーブロックを設置することにな
るところ,そのために道路区域外の隣接民有地を利用することが必要と
なって既存の民間家屋の移設又は解体を余儀なくされると判断され,周
囲に対する影響が大きいと判断されたものである。
次に,ベント工法については,同工法を採用した場合,道路のセンタ
ー付近にベントを設置することとなり,車道の全面通行止めが必要とな
るが,その期間は,ベント設置,損傷部切断撤去,新設桁架設,ベント
撤去等の作業のため,昼夜連続作業を行っても,最低でも4日間と長期
になり,市民生活,地域経済への影響が大きいこと,ベント工法は現道
上での作業が必要となるが,現地は近隣小学校の通学路となっているこ
とから児童の安全性の面においても問題があると判断されたことから,
周囲への影響が大きいとして採用されなかったものである。
撤去工法は,車道の全面通行止めの期間が,桁撤去,桁設置の作業時
だけで済み,比較的交通量の少ない夜間の2日間で可能であって市民生
活,地域経済への影響が少ない上,撤去後は落下の危険性もなくなり,
通行車両,児童の安全性も確保される上,補修作業を工場で行うことか
ら品質確保の面でも優れていると判断されたものである。
このような検討により,東北地方整備局は,本件歩道橋の復旧工事を
施工するに当たって,撤去工法が最も合理的な復旧工法であると判断し
たものであり,かかる判断は十分合理性を有するといえる。そして,本
件の場合,安全性や現地状況を勘案して検討した結果,当然に撤去工法
が最も合理的な復旧工法であると判断したものであって,あえて3工法
に係る比較表等の作成は行っていなかったものである。
(ウ)東北地方整備局が,本件事故後に本件歩道橋の損傷箇所を検証した
際,衝突箇所である仙台方面側に衝突痕があったほか,その反対側であ
る磐城方面側の既設桁下部にも新しい損傷が認められた(乙64)。そ
して,本件歩道橋の損傷箇所を検証した結果,磐城方面側の既設桁損傷
部位は,仙台方面側の損傷部位とは対に位置しており,また,通常,貨
物自動車に建設機械を積載する場合には,建設機械のアームを貨物自動
車の荷台に接するように折り曲げ,建設機械が走行中に貨物自動車の荷
台から動かないよう固定,安定させた状態で積載する(乙64の中段の
衝突状況図(左側図面)参照)ため,Aが運転する貨物自動車が本件歩
道橋と衝突したときには,建設機械のアームは最初に仙台方面側に衝突
し本件歩道橋を破損させ(突き破り),そのまま建設機械のアームを引
っかけ引きずったような状態で磐城方面側へ衝突したと合理的に推認す
ることができる。上記のとおり,本件事故が発生するまでに当該損傷が
生じるような特筆すべき事情はなかったのであるから,Aの運転する貨
物自動車に積載されていた建設機械のアーム位置を勘案すると,磐城方
面側の損傷部位についても本件事故により発生したものと考えざるを得
ない(なお,本件歩道橋主桁下フランジの損傷については,通常,亀裂
や破断等の損傷を受けた場合には照査対象としているが,当該磐城方面
側の損傷については,そのような損傷ではなかったために,乙23にお
いては照査対象としていなかったにすぎない。)。上記のとおり,本件
歩道橋の磐城方面側の損傷箇所は,本件事故により生じたものであるか
ら,これを補修の対象としたものであり,このことに何ら不合理とされ
るところはない。本件歩道橋の復旧工事の際,磐城方面側と仙台方面側
のそれぞれの継手を対の位置関係にしたが,これは継手位置の違いによ
る左右の合成の差が出ることにより発生するねじれ等の悪影響を避ける
ことや,既設部材と新設部材の結合により歩道橋として一体的な出来形
精度管理や施工が困難となることを避けることを目的としたものである
ことに照らすと,相当なものといえる。
原告は,本件歩道橋の磐城方面側の損傷箇所につき,交換補修までは
必要がなく損傷箇所のみを補修すれば足りる旨を主張するが,仮に損傷
箇所だけを補修した場合,交換補修した場合よりも補修費用が割高とな
ってしまう上(乙66),磐城方面側についても継手位置を左右同じく
した上で併せて補修する方が原告の負担も軽減されることになるから,
磐城方面側についても補修を行ったことは補修方法として相当であり,
それにより補修費用が不当に過大となったともいえない。
カ(ア)被告が本件費用負担命令額の積算の根拠とした基準書(乙6)は,
土木請負工事工事費積算要領(昭和42年7月20日付け建設省官技発
第34号建設事務次官通達(乙7・1頁ないし3頁)),土木請負工事
工事費積算基準(同日付け建設省官技発第35号建設事務次官通達(乙
7・4頁以降(最終改正平成18年3月24日付け国官技第250号
(乙8)),土木工事標準歩掛(昭和58年2月2日付け建設省機発第
37号建設大臣官房技術参事官通知(乙9)(最終改正平成20年3月
25日付け国総施第103号(乙10))を根拠とし,国土交通省にお
いて,公共工事の積算に当たって標準的な工事価格が算定できるように,
毎年市場の実態調査を行い,必要があれば,その結果を反映させて改正
しているものであって,さらに,報道発表や閲覧に供することで,公表
しており(乙11ないし13),その内容は現状に即したものといえる。
基準書の適用範囲については,国土交通省直轄の河川工事,砂防工事,
ダム工事,道路工事等の土木工事を請負工事に付する場合における工事
費の積算に適用するものとされているところ,本件事故は国土交通省直
轄の道路で発生しており,損傷した本件歩道橋は被告が管理する公共用
物であることから,被告が本件歩道橋の撤去工事及び復旧工事を発注す
る金額の積算に当たっては,基準書が適用されるべきことは疑いない。
なお,基準書には「この基準書によることが著しく不適当又は困難であ
ると認められるものについては,適用除外とすることができる。」旨の
記載があるが(乙6のⅠ-1-①-1下線部参照),本件事故における
撤去工事及び復旧工事が,「基準書によることが著しく不適当又は困難
であると認められる」場合に該当するものとはおよそ考え難い。
(イ)本件において,具体的な撤去工事に係る費用負担命令額の算出につ
いては,基準書を基に(基準書にない歩掛については,建設業者より参
考見積りを徴し,歩掛を決定。),予定価格を算定し,業者と見積り合
わせを行い,受注業者との契約額を撤去工事費用として決定している。
さらに,撤去工事費用と当局基準に基づき算定した事務費の合算額を費
用負担命令の額としている(具体的な撤去工事費用の積算体系は,基準
書中,②請負工事の工事費構成中の(1)一般土木(乙6のⅠ-1-②-
1赤マーカー部参照)のとおりである。)。
次に,復旧工事費用に係る費用負担命令額の算出については,前記基
準書を基に算定した予定価格により一般競争入札を行い,落札業者との
契約金額と事務費の合計額を費用負担命令の額としている(具体的な復
旧工事費用の積算体系は,損傷を受けた部位を工場で製作修繕し,再架
設するまでを一括して請負発注することから,基準書中,②請負工事の
工事費構成中の(2)の(ハ)一括請負の場合(乙6のⅠ-1-②-1緑マ
ーカー部参照)のとおりである。)。
そして,本件各費用負担命令において,上記基準に従い,原告に対し
てその納入を求めた金額の具体的算定根拠は,乙14の1・2のとおり
である。
以上のとおり,本件各費用負担命令において,原告に納入を求める金
額は適正に算定されている。
(原告の主張の要点)
ア仮に,道路法58条1項の「道路に関する工事又は道路の維持の費用」
の解釈につき,「道路の現存価値の回復に要する費用」ではなく,「道路
の機能回復に要する費用」と解したとしても,機能回復に必要な費用全額
について原因者に対する支払を無制限に強制できる権限を与えたものでは
なく,本件各費用負担命令に関しても,①設置から約40年が経過して耐
用年数経過が間近に迫った本件歩道橋について,本件事故による破損の補
修,復旧に要した費用であるとしてその全額の負担を命じた点や,②本件
事故により損傷した歩道橋について,損傷個所等が正確に把握された上で,
適切に補修,復旧工法が選択されたとは到底認められず,不当に過大な費
用をかけて,しかも,本件事故による損傷個所以外の箇所についてまで補
修した費用の負担を命じた点において,道路管理者に認められた裁量権の
範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであって,違法であり,国民の財
産権を不当に侵害するものであるため,違憲である。
イ(ア)本件歩道橋は,昭和44年3月に新設されたものであり,本件事
故による損傷までに40年近くが経過し,金属製の橋に関する税法上の
耐用年数は45年とされている(耐用年数省令別表第一参照)ところ,
本件歩道橋の新設に要した費用(当時の貨幣価値で578万円。甲5)
から上記の耐用年数を前提に減価償却すると,本件事故時における本件
歩道橋の現存価値は,撤去,復旧工事に要した費用を大きく下回るから,
本件歩道橋を撤去,復旧工事の合計で1110万0231円もの高額な
費用を掛けて修繕したとしても,その大部分については現存価値を大き
く超えるものであり,本来かかる超過部分の費用は道路管理者が負担す
べきものであって,原因者が負担すべきものではない(工事費に対して,
一般民間企業による請負工事における標準的な経費率をはるかに超える
40%もの高額の諸経費を掛けての復旧であればなおさらである。)
(イ)被告の主張する「道路巡回実施要領(案)」(乙3)による限り,
定期巡回は,「徒歩」により歩道橋を渡り,要点検箇所を「目視」によ
り点検するにすぎないのであるから,明らかな損傷や機能障害について
は別として,かかる巡回のみによって,架け替え工事等の判断をするも
のではないことは明らかである(たとえ歩道橋としての機能を有してい
たとしても,機能障害が生ずる危険性が一定程度高まった場合(あらか
じめ決められた年数の経過等)には,機能障害発生前に架け替え工事が
されることは容易に想像がつく。)。
したがって,新設から40年近くが経過していた本件歩道橋について,
年に1度実施される「徒歩」,「目視」による定期巡回をもって,「掛
け替え工事等は当面予定されていなかった」とする被告の主張の信用性
は到底認められない。
(ウ)被告は,本件歩道橋の磐城方面側の損傷も本件事故による損傷で
ある旨主張し,その根拠として,本件事故の2日前に磐城国道事務所の
巡視員が巡回した際に作成されたとされる日誌(乙65)に損傷の記載
がないことを挙げる。しかしながら,被告が本件事故により生じたとす
る本件歩道橋の磐城方面側の損傷(乙64)のような小さな損傷が歩道
橋に存することは珍しいことではなく,以前から損傷があり報告がされ
ていたものであったため,殊更に毎回記載しなかったことが考えられる。
また,乙64に添付された写真の本件歩道橋の磐城方面側の下フランジ
の奥の方に,被告が本件事故による損傷と主張するものと同程度の歪み
と損傷によるさびが見受けられる(陳述書(乙54)添付写真も同様で
ある。)ところ,この損傷は損傷位置から本件事故によるものではない
ことが明らかであるが,「パトロール日誌」(乙4,65)には記載が
ない。したがって,本件事故直前の定期巡回において報告がなかったこ
とは,磐城方面側の損傷が本件事故以前に存在しなかったことの根拠と
はならない。
ウ次のとおり,被告による本件歩道橋の損傷範囲,程度の計測方法はあ
まりにもずさんである上,本件歩道橋撤去に際して応力度照査が行われて
いないことに照らすと,被告は,実際には,本件歩道橋の損傷範囲,程度
を現地において何ら調査,計測していないことが推認されるのであり,本
件各工事に係る補修範囲は妥当性を欠くから,本件各工事の工事費用は不
当に過大であるといえる。
(ア)被告は,本件事故の当日にされた道路防災ドクターの診断に基づ
き応急対策として死荷重を軽減することで当面の安全性は確保できると
判断したため,応力度照査は不要と判断した旨主張する。
しかしながら,損傷箇所の調査,計測は一,二時間で済むものである
一方,道路防災ドクターがいかに有能な人物であろうと現場を目視で一
べつしたことによる判断が客観的な計測データに基づく科学的判断にか
なうものではないし,道路の安全性確保に関わる判断であれば,道路防
災ドクターの診断を利用したとしても,調査,計測を省略する理由とは
ならず,交通量の多い道路であればなおさらである(なお,損傷一般図
(乙25)から本件歩道橋の応力度照査を行ったところ,本件事故後の
本件歩道橋は,補強なしに作業員が上がるには非常に危険な状態であっ
たことが判明しているが(甲7),被告は,そのような危険な状態の本
件歩道橋を何ら補強することなく床版の撤去作業を行っている。)から,
応力度照査を行わなかったという被告のずさんな判断からも,現地調査,
計測を行わなかったことが推認される。また,道路防災ドクターの目視
による判断においては,磐城方面側については本件事故による損傷であ
るとの判断がされていない(乙59)。
(イ)被告から提出された本件歩道橋の損傷範囲を事故後の平成21年
1月6日に現地において高所作業車を使用して適正に計測した事実を証
するとされる資料(乙54,58等)には,調査,計測を行ったのであ
れば当然に撮られてしかるべき写真(甲8資料①の写真のように,適正
に計測が行われたことを記録するために,調査日時,調査内容等を記載
した黒板等を調査対象物の脇に配置したものや,計測器具の数値や目盛
りが読み取れるようにしたもの),記録,高所作業車を使用して現地調
査した際の費用等が計上された請求書,調査結果の報告書等が見当たら
ない上,被告が本件歩道橋の損傷範囲を事故後に調査,計測したときの
ものとして提出する本件調査状況報告書(乙58)に添付された写真
(左下のもの)は,高所作業車からではなく歩道橋の手すりの間から不
自然な体勢で手を伸ばしてメジャーを当てる不自然な内容であることな
どからすれば,本件事故後に,本件歩道橋の損傷箇所が適正に調査,計
測された事実は認められないというべきである。また,上記の報告書
(乙58)に添付された写真には,撮影日としての日付(平成21年1
月6日)が付されており,その作成(平成24年11月5日)に当たっ
てパソコン上で編集されて付されたものと思われる(乙54の別添2の
下の写真参照)が,既に述べたようなずさんともとれる記録状況からす
れば,この撮影日にも疑問を呈さざるを得ない。さらに,同報告書の一
番上の写真に,歩道橋支柱に作業足場が組まれていることから,同写真
が撮影されたのは,損傷箇所の測定調査時ではなくその後の平成21年
3月16日の撤去工事の際にではないかとうかがわれるところ,この原
告の指摘に対して,被告は,上記の足場は光波測距儀を用いて主桁の変
位観測を実施するために設置されたものである旨主張するが,原告によ
る上記の指摘があるまで,被告は,目視測定による調査についてのみ説
明し,機械測定を行った事実の主張をしておらず,機械による測定がさ
れた事実をうかがわせる記載のある書証も見当たらない。
(ウ)損傷一般図(乙25)については,前記(イ)に述べたとおり,損
傷箇所の変形量を現地で計測したことを証するに足りる客観的な資料が
提出されていないことに照らすと,損傷一般図(乙25)の信用性は何
ら裏付けがない。その計測データは,本件歩道橋撤去後に搬入された工
場内で計測されたことも考えられるが,主桁を撤去する際に特別な釣り
上げ方法,変形防止措置を執らなければ撤去作業によって変形してしま
うおそれがあり,また,運送方法によっても変形のおそれがあるところ,
これらの変形防止措置等が執られた形跡は認められないから,損傷一般
図(乙25)の計測データは正確なものとはいえない。
エ①文献(「道路橋示肩書・同解説」(財団法人日本道路協会))に工
場製作時や架設完了後に組立誤差(±5㎜)が生じる旨の記載があること,
②本件歩道橋の復旧工事に関与した職員の陳述書(甲54)に,10㎜の
変形については,補修ではなく,現場での矯正が可能である旨の記載があ
ることなどからすれば,10㎜を超える変形量をもって補修を要する範囲
と評価すべきであるから,本件歩道橋の補修を要する範囲は,2mが妥当
であり,これを4mとする被告の評価は過大である。既に述べたとおり,
本件事故後に本件歩道橋の損傷箇所の調査,計測が適正にされた事実が認
められず,計測データの裏付けがない以上,必要な補修範囲が4mであっ
たとの判断結果が妥当であるとはいえない。
オ(ア)損傷した歩道橋を補修,復旧するための工法は複数存在し(撤去
工法,ベント工法,つり橋工法等。甲7),その特性も様々であるから,
損傷箇所,態様,程度を正確に把握した上で,作業状況,工事の安全性,
周辺交通への影響,経済合理性等の点から,最も総合評価の高い工法を
選択すべきである。
しかしながら,本件においては,本件歩道橋の損傷範囲,程度の測定
方法がずさんないし測定等がされていないといわざるを得ず,応力度照
査の結果や作業荷重を考慮した欠損主桁の計算の資料もなく,構造計算
等の基礎資料に基づき各工法の比較検討が綿密にされた形跡は認められ
ない。そして,本件歩道橋の補修を要する範囲が2mであることなどか
らすれば,ベント工法又はつり橋工法によっても補修することが可能で
あり,その場合の費用も600万円程度である。
(イ)被告は,本件各工事に先立って,撤去工法以外の工法も検討した旨
を主張し,これに沿う証拠(乙63)を指摘するが,同証拠(乙63)
は,原告が本件訴えにおいて提出した意見書(甲7)に対する反論とし
て作成されたものである上,工事着工に先立って検討したのであれば,
検討結果が妥当であったというに足りる検討書等の資料が作成されてい
てしかるべきである。また,そのような検討書を作成するためには,損
傷箇所の詳細な調査,計測に基づく計測データにより許容応力度照査を
行う必要があるが,これらが行われた形跡は認められない。
また,被告は,安全性や現地状況を勘案して検討した結果,当然に撤
去工法が最も合理的な復旧工法であると判断し,あえて3工法に係る比
較表等の作成は行っていなかった旨主張する。しかしながら,最も合理
的かどうかの判断は,他の工法の比較において行うものであり,これに
は応力度照査の結果と各工法の設計計算書をまとめた検討書等が当然必
要になるから,これらの資料に基づく比較検討の結果ではない被告の判
断は適正な判断とはいえない。
(ウ)本件歩道橋については,損傷箇所(仙台方面側)と併せてその反
対側(磐城方面側)についても橋撤去の方法により交換補修がされてい
るという点でも補修費用は不当に過大となっている。しかも,磐城方面
側については変形量の計測すらされていない。歩道橋主桁下フランジの
損傷は,損傷位置と損傷程度によっては曲げモーメントが不可であるこ
とから,必ず照査対象となるはずであるが,設計計算書(乙23)にお
いて,磐城方面側の損傷が全く照査対象とされていないのであり,これ
は,被告が,本件事故による損傷ではない又は補修の必要はない損傷で
あると判断していたことを推認させるものである。なお,仮に,応力度
照査で「NG」との結果が出た場合であっても,わずかな損傷であるこ
とから,下フランジ構面内側20㎝程度の部分補修で十分であり,仙台
方面側の損傷と同時に補修を行った場合の磐城方面側の損傷の工事費用
はわずか30万円程度である(甲8)。
カ民法(損害賠償法)の原則に従い解釈すれば,被告がした本件各費用
負担命令の金額の積算のうち一般民間企業による請負工事における諸経費
率を超える部分は,いわゆる特別損害(民法416条2項)であり,原告
が予見することはできなかったものであるから,原告が負担すべき「必要
を生じた限度」(道路法58条1項)には含まれないというべきである。
第3当裁判所の判断
1道路法58条1項の解釈(争点1)について
道路法58条1項は,「道路管理者は,他の工事又は他の行為により必要を
生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については,その必要を生じた
限度において,他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は
一部を負担させるものとする。」と規定する。
道路が一般国民の日常生活に必要不可欠で重要な公共用物であることに鑑
み,道路の管理に関する費用は,道路管理者が負担するのが原則である(同法
49条)が,同法58条1項の規定するいわゆる原因者負担金制度は,他の工
事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用に
ついては,当該他の工事又は他の行為がなければその必要が生じなかったはず
であり,その費用を道路管理者に負担させることは衡平に反し,当該他の工事
又は他の行為につき費用を負担する者にこれを負担させるのが衡平にかなう
上,特に他の行為により道路に損傷や汚染等が生じた場合,前記のような重要
性を有する道路につき迅速に本来の機能を回復させるための工事等を道路管理
者において施行し,その費用を原因者である当該他の行為につき費用を負担す
る者に負担させるのが,その目的を達する上で便宜であることから定められた
ものと解される。また,仮に,道路に関する工事等の内容に鑑み,衡平の観点
からみて,上記の者にその費用の全部を負担させることが相当でない場合に
は,同項の規定の文理に照らし,道路管理者は,その合理的な裁量により,費
用の一部のみについて負担を命ずることもできるものと解され,いずれにせ
よ,同項の規定に基づき費用の負担をさせることができる範囲は,「その必要
を生じた限度」に限られ,費用を負担する者に対し,それ以上の不利益を課す
ものではない。
これらの点を前提とすると,たとえ,同項の規定に基づく費用の負担の命令
が,それを受ける者の財産権(憲法29条1項)を制限するものであるとして
も,その制限は,上記のとおり,公共用物である道路の管理に関する費用の衡
平な負担及び迅速な機能の回復等を通じ道路の適切な管理の実現を目的とする
ものであり,その規制の目的は,公共の福祉に合致する正当なものというべき
であるから,公共の福祉に適合するものであり,目的の達成の手段としての必
要性・合理性に欠けるため立法府の合理的裁量の範囲を超えるとも認められな
いのであって,同条に違反するものということはできず,また,費用の負担を
命ぜられた者に対して結果的にいわゆる現存価値以上の負担を課することとな
ったとしても,そのことのみをもって,当該命令が違法であるということもで
きないというべきである。
以上に反する原告の主張は,全て採用することができない。
2本件各費用負担命令の適法性(争点2)について
(1)認定事実
前提事実,括弧内掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が
認められる。
ア原告の被用者であるAは,平成20年12月24日午前8時8分頃,貨
物自動車を運転して福島県南相馬市α内の道路(一般国道6号)を仙台方
面から磐城方面へ進行させていた際,上記貨物自動車に建設機械を道路法
47条所定の車両の高さの最高限度に係る規制に違反して積載していたと
ころ,同建設機械のアームを本件歩道橋の仙台方面側の主桁に衝突させて
これを損傷し,そのまま同機械のアームを引っかけて引きずったような状
態で本件歩道橋の磐城方面側の下フランジにも衝突させてこれを損傷する
交通事故(本件事故)を起こした。本件歩道橋の磐城方面側の下フランジ
の損傷部位は,本件歩道橋の仙台方面側の主桁の損傷部位とは対に位置し
ていた(乙1,58,59,64,弁論の全趣旨)。
なお,東北地方整備局磐城国道事務所原町維持出張所の担当者は,本件
事故の約2か月前(同年10月15日)に道路を巡回した際,本件歩道橋
に設置された排水管の腐食等の報告をしていたが,上記のような損傷につ
いては何ら報告をしておらず,また,同年12月22日に道路を巡回した
際にも,上記のような損傷については何ら報告をしていなかった(乙4,
65)。
イ東北地方整備局道路部は,平成20年12月24日,IJ大学名誉教授
に対し,本件歩道橋の損傷状況等の調査を依頼し,同教授は,同日午後1
時から午後2時10分までの間,本件歩道橋に赴いて目視により調査を行
い,この際,同局磐城国道事務所技術副所長,同事務所原町維持出張所所
長,同出張所技術係長等が立ち会った。上記の調査の結果,同教授は,①
本件歩道橋の横桁が損傷を受けておらず,主柱と階段があるのでこのまま
でも大丈夫と考えられるが,死荷重を小さくした方がよいこと,②応急対
策として,死荷重を小さくするため,デッキプレート上の間詰めコンクリ
ートとアスファルトブロックは撤去した方が良く,対策工事に着手するま
で長期間を要する場合には手すりも撤去した方が良いこと等の旨の見解を
示した。(乙59)
東北地方整備局は,上記見解に基づき,本件歩道橋の死荷重を軽減
するための工事をすることとしたが,これを早急にする必要があり,
競争に付することができない場合であったことから,随意契約による
こととし,同局磐城国道事務所長は,同日,B株式会社から見積書を
受領した上で,同社との間で,同社が本件歩道橋の床版であるブロッ
クを撤去する工事を9万3000円(消費税抜き)で請け負うことを
内容とする請負契約を締結し,同社は,同日,本件歩道橋の床版を撤
去した(乙26ないし28)。
ウ東北地方整備局は,平成21年1月6日,株式会社Hに依頼して,本件
歩道橋の損傷範囲を調査させた。同社は,高所作業車を使用し,同車のバ
スケットに乗った計測員が本件歩道橋の損傷箇所に近づき,目視により損
傷箇所を確認の上,損傷の程度や範囲について調査及び測定を行ったとこ
ろ,その際,本件歩道橋のうち変形していないと考えられた2点間に水糸
を張り,高所作業車のバスケットに乗った計測員が,その顔が測点の真上
に位置するように高所作業車のバスケットの位置を調整した上で,上フラ
ンジ及び下フランジともに実際にメジャーを当て,計測員が測点の真上か
ら真下に向けて視点を持っていき,その数値を読み取って水糸から桁まで
の距離(変形量)を測定するという態様で,調査及び計測を行った。その
結果,本件歩道橋の仙台方面側の損傷については,上フランジが本件歩道
橋の中央から1ないし5mの範囲で,下フランジが同じく中央から0.5
ないし5mの範囲で,それぞれ変形していることが判明した。(乙54,
58,弁論の全趣旨)
エ東北地方整備局は,前記ウの測定の結果を基に,本件歩道橋の損傷箇所
につき,修繕すべき範囲を検討した。本件歩道橋の仙台方面側の下フラン
ジは,本件歩道橋の中央から0.5ないし5mの範囲で変形していること
が判明したが,同中心から1m内の位置の変形量は10㎜未満であり,現
地での矯正が可能であると判断されたことから,本件歩道橋の仙台方面側
の主桁の修繕すべき範囲を同中央から1ないし5mの範囲とすることとし
た。なお,本件歩道橋の仙台方面側の下フランジの変形量が10㎜以上の
部分は2.9mの範囲にとどまるところ,その範囲で損傷した箇所の撤去
及び交換をしようとすると,切断及びつなぎ箇所が2m間隔となっている
既設の横桁の位置からわずか0.1mという近傍に位置することになり,
その位置で切断及びつなぎの作業を行うことは,既設の横板と添接板が重
なってしまうため,実際上は不可能であった上,新設部材の設置に伴う既
設部材との接合時には,添接板の設置,添接板のボルト締め,塗装等の作
業を行うことになるが,作業姿勢に自由度がないと品質の低下につながっ
てしまうため,1m程度の作業スペースを補修範囲として確保しておくの
が一般的であることも考慮し,変形量10㎜以上の部分(2.9m),同
部分の断端から横桁位置までの部分(0.1m)及び作業スペースとして
必要な部分(1m)を合計した4mの範囲を本件歩道橋の仙台方面側の主
桁の修繕部分とした。(乙54,62,弁論の全趣旨)
また,本件歩道橋の磐城方面側については,損傷部分のみを修繕した場
合,仙台方面側の損傷の修繕と併せて交換修繕をした場合と比べて費用が
高くなる上,継手の位置を仙台方面側と同じくすることにより,ねじれな
どの悪影響が発生することを避け,歩道橋としての一体的な管理等を可能
とする目的もあって,本件歩道橋の仙台方面側と同様,交換修繕をするこ
ととした。(乙14の3,66,弁論の全趣旨)
オ東北地方整備局は,本件歩道橋の損傷箇所を修繕する工事を施行する前
提として,具体的な工法を選択するに際し,ベント工法,撤去工法及びつ
り橋工法を検討した。
まず,ベント工法については,道路の中央付近にベントを設置するため
に車道の幅員が2mしか確保できないことになり,車道を全面的に通行止
めとすることが必要となるが,その期間は,ベントの設置,本件歩道橋の
損傷した部分の切断及び撤去,新設した桁の架設,ベントの撤去等の作業
のため,最低でも4日間と長期間にわたることが見込まれるところ,長期
間の通行止めをすることは,本件歩道橋が設けられている一般国道6号が
多数の自動車が通行する幹線道路であって,市民生活等への影響が大きい
上,本件歩道橋が設けられている道路は近隣にある小学校への通学路でも
あって同小学校へ通学する児童の安全を確保する面においても問題がある
ことから,同局は,不適切と判断した。次に,つり橋工法については,杭
を打設する際の振動等により本件歩道橋の全体に損傷を与える可能性が高
いほか,杭を打設する際の騒音,振動等による近隣の住民の生活や家屋の
損傷に対する影響も懸念された上,同工法によるときは,道路の両端にあ
るそれぞれの橋脚の外側に仮設の支柱を各2本ずつ建て込むとともに当該
支柱を支持するアンカーブロックを設置する必要があり,道路外にある既
存の民間家屋の移設又は解体も必要となるなど周囲に対する影響が大きい
ことから,同局は,不適切と判断した。
撤去工法については,同局は,車道の全面通行止めは必要となるものの,
その期間は,桁の撤去及び設置の作業時だけで済み,比較的交通量の少な
い夜間の2日間で可能であって市民生活等への影響が少ない上,本件歩道
橋を撤去した後はそれが落下する危険性もなくなり,道路を通行する車両
や上記の小学校へ通学する児童の安全性も確保される上,修繕作業を工場
で行うことから品質確保の面でも優れていると判断した。
そこで,同局は,本件歩道橋の損傷を修繕する工事を施行するに当たっ
て,撤去工法を採用するのが最も合理的であると判断した。(乙2,17,
18,20,63,弁論の全趣旨)
カ(ア)東北地方整備局磐城国道事務所は,平成21年2月19日,前
記イの工事を担当したB株式会社から参考見積りの提出を受けた上
で,同見積りの歩掛を前提に,工事数量総括表及び特記仕様書を作
成し,それを基に予算書及び請負工事費計算書を作成し,予定価格
を算出した。そして,同事務所長は,同社が現場を熟知しているこ
となどを理由として,本件歩道橋の橋桁を撤去する工事に係る契約
の締結については,同社との随意契約によることとし,同年3月1
6日,同社との間で,同社が本件歩道橋の橋桁を撤去する工事を3
20万円(消費税抜き)で請け負うことを内容とする請負契約を締
結し,同社は,同日及び同月17日,本件歩道橋の橋桁を撤去した
(乙29ないし36)。
(イ)東北地方整備局磐城国道事務所長は,本件歩道橋の橋桁を修復して
元の場所に架設する工事に係る契約の締結については,一般競争に付す
ることとし,平成21年3月23日,その旨を公告した。同事務所は,
入札の方法をもって一般競争に付するに当たり,工事数量総括表,特記
仕様書及び各図面を基に予算書及び請負工事費計算書を作成した上で,
予定価格を算出し,同年4月24日,開札をしたところ,同工事に係る
契約の締結については,C株式会社が落札者となった。同事務所長は,
同月27日,同社との間で,同社が上記の工事を910万円(消費税抜
き)で請け負うことを内容とする請負契約を締結したが,本件歩道橋の
他の部分について修繕する必要性等が新たに認められたことから,同年
8月28日及び同年9月11日,それぞれ請負金額を増額する契約(同
年8月28日に締結した契約においては270万円(消費税抜き),同
年9月11日に締結した契約においては42万円(消費税抜き)をそれ
ぞれ増額し,総額で1222万円(消費税抜き)となった。)を締結し,
同社は,同日までに,本件歩道橋の橋桁を修復して元の場所に架設した。
(乙37ないし52の7(枝番のあるものは枝番を含む。))
キ(ア)東北地方整備局長は,原告に対し,平成21年3月27日,本
件歩道橋の床版及び橋桁を撤去する工事の費用につき,道路法58
条1項に基づき,工事費(9万3000円と320万円の合計32
9万3000円に消費税を加えた345万7650円)及び事務費
(13万3262円(消費税込み))の合計359万0912円
(消費税込み)を原告に負担させる旨の本件費用負担命令1をした
(乙14の1,15,16)。
(イ)東北地方整備局長は,原告に対し,平成21年9月30日,本件
歩道橋の橋桁を修復して元の場所に架設する工事の費用につき,道
路法58条1項に基づき,工事費(1283万1000円(消費税
込み)のうちの本件事故による損傷を修繕する部分に要した733
万9000円(消費税込み))及び事務費(17万0319円(消
費税込み))の合計750万9319円(消費税込み)を原告に負
担させる旨の本件費用負担命令2をした(乙14の2・3,15,
16)。
(2)原告は,以上の事実認定と異なる主張をし,道路管理者が本件各負担費用
命令を発出したことについてはその裁量権の範囲からの逸脱又はその濫用が
あったとして,これに沿う証拠(甲7ないし9)も提出したが,原告の提出
した上記の証拠をもっても,上記認定を左右するに足りるものとはいい難
く,他に上記認定を左右するに足りる証拠ないし事情等も見当たらない。
したがって,原告の主張は採用することができない。
(3)前記(1)に認定した事実関係を前提とすれば,本件各工事は,本件事故に
より生じた本件歩道橋の損傷について,適切な範囲を適切な工法により修繕
したものといえ,基準書を基礎として積算され決定されたものと推認される
その費用の金額も,適正なものであったと認めるのが相当であり(乙6ない
し13,14の1ないし3,弁論の全趣旨),本件各費用負担命令は,本件
事故により必要を生じた本件各工事の費用について,その必要を生じた限度
において,本件事故につき費用を負担する者である原告にこれを負担させた
ものといえるから,本件各費用負担命令の発出をもって,東北地方整備局長
の裁量権の範囲から逸脱し,又はこれを濫用したものということはできない
というべきである。また,他に,本件各費用負担命令の発出をもって,東北
地方整備局長の裁量権の範囲から逸脱し,又はこれを濫用したものというべ
き事情を認めるに足りる証拠は見当たらない。
よって,本件各費用負担命令はいずれも適法なものというべきである。
第4結論
以上の次第であって,原告の請求は,いずれも理由がないからこれをいずれ
も棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官品川英基
裁判官福渡裕貴

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