弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成17年(行ケ)第10320号 審決取消請求事件
平成17年7月12日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 三菱電機株式会社
 訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣
 被 告 株式会社モリテックス
 訴訟代理人弁理士 三觜晃司
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
 本判決においては,審決等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って
表記を変えた部分がある。また,位置関係等の表記については,本件発明の特許請
求の範囲及び審決の各記載に従って,方向を表す場合には「x軸方向」のように,
二次元平面を表す場合には「x,y(の二次元)」のように,三次元空間を表す場
合には「x,y,z(の三次元)」のように,できるだけ表記を統一し,「ファイ
バー」と「ファイバ」については前者の表記に統一した。
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が無効2003-35484号事件について平成16年7月20日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,被告請求に係る無効審判におい
て,本件発明1,2についての特許を無効とするとの審決がされたため,同審決の
取消しを求めた事案である。
 1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件特許
 特許権者:三菱電機株式会社(原告)
 発明の名称:「発光モジュールの組立方法および組立装置」
 特許出願日:昭和61年2月18日(特願昭61-33187号)
 設定登録日:平成8年11月21日
 特許番号:第2112777号
 訂正審判請求日:平成12年5月30日(訂正2000-39051号)
 訂正認容審決日:平成12年8月1日(甲2の2)
 (2) 本件手続
 審判請求日:平成15年11月25日(無効2003-35484号)
 審決日:平成16年7月20日
 審決の結論:「特許第2112777号の特許請求の範囲の請求項1及び2に記
載された発明についての特許を無効とする。」
 審決謄本送達日:平成16年7月30日(原告に対し)
 なお,原告は,本訴提起後にも訂正審判請求をしたが,特許庁から拒絶理由通知
を受け,同請求を取り下げた。
 2 本件発明に関する特許請求の範囲の記載
 (訂正2000-39051号の訂正審判(甲2の2)による訂正後の記載。以
下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「本件発明1」などという。なお,
本件発明は請求項3まであるが,本件無効審判請求は,請求項1,2に係る特許に
対してされ,審決も請求項1,2に係る特許を無効としたものであるので,請求項
3(組立装置の発明)の記載は省略する。また,上記訂正に係る全文訂正明細書は,
甲2の3(特許審決公報)の5頁以下に記載されており,以下,これを「本件訂正
明細書」という。)
 【請求項1】 キャップ付発光器と,光ファイバーを保持したファイバー端末
と,上記ファイバー端末が挿入されるファイバーホルダーとを具備し,
 (a)上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で上記キャップ
付発光器からの光が上記光ファイバーに最適結合するように上記ファイバー端末を
移動させる工程,
 (b)上記ファイバー端末を移動させることにより上記キャップ付発光器と光ファイ
バーとの最適光結合位置を検出し,その位置状態で上記ファイバー端末とファイバ
ーホルダーとをレーザ溶接して光ファイバーとキャップ付発光器のz軸方向を固定す
る工程,
 (c)上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最適結合する位置を,上
記キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させることにより検出し,その位置
状態で上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する工程の順序で
組立てることを特徴とする発光モジュールの組立方法。
 【請求項2】 キャップ付発光器と,光ファイバーを保持したファイバー端末
と,上記ファイバー端末が挿入されるファイバーホルダーとを具備し,
 (a)上記キャップ付発光器をx軸,y軸方向に,また上記ファイバー端末を上記フ
ァイバーホルダーに挿入した状態で光軸(z軸)方向に移動させて上記キャップ付発
光器からの光が上記光ファイバーに最大入射する位置を検出する工程,
 (b)上記(a)工程後に,上記ファイバー端末とファイバーホルダーとをレーザ溶接
して光ファイバーとキャップ付発光器のz軸方向を固定する工程,
 (c)上記(b)工程後に,上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最大
入射する位置を,上記キャップ付発光器をx,yの二次元内に移動させて検出する
工程,
 (d)上記(c)工程後に,上記キャップ付発光器とファイバーホルダーとをレーザ溶
接して光ファイバーとキャップ付発光器のx,y軸方向を固定する工程の順序で組
立てることを特徴とする発光モジュールの組立方法。
 3 審決の理由の要点
 (1) 審決は,刊行物1として特開昭60-136387号公報(審判甲1,本訴
甲3。この記載に係る発明を「刊行物1発明」という。),刊行物2として国際公
開WO79/00099パンフレット及び翻訳文(審判甲2,本訴甲4。この記載
に係る発明を「刊行物2発明」という。)を摘示した。
 (2) 審決は,本件発明1と刊行物1発明との一致点を次のとおり認定した。
 「『キャップ付発光器と,光ファイバーを保持したファイバー端末と,上記ファ
イバー端末が挿入されるファイバーホルダーとを具備し,上記ファイバー端末を上
記ファイバーホルダーに挿入した状態で上記ファイバー端末をz軸方向に移動させる
とともに,上記キャップ付発光器とファイバーホルダーとの間でx,yの二次元内
で移動させることにより,最適光結合位置を検出し,その位置状態で上記ファイバ
ー端末とファイバーホルダー,及び上記キャップ付発光器とファイバーホルダーを
レーザ溶接する発光モジュールの組立方法。』である点で一致」
 (3) 審決は,本件発明1と刊行物1発明との相違点を次のとおり認定した。
 「相違点1:発光モジュールを組み立てる順序に関して,本件発明1は,『(a)フ
ァイバー端末をファイバーホルダーに挿入した状態で,上記ファイバー端末を移動
させ,z軸方向の位置を決める工程,(b)その位置で,光ファイバーと発光器のz軸方
向を固定する工程,(c)x,y軸方向の位置を決め,その位置で光ファイバーと発光
器のx,y軸方向を固定する工程,の順に組み立てる』のに対して,刊行物1発明
は,特に位置決め及び固定(レーザ溶接)の順序を開示していない点。」
 「相違点2:キャップ付発光器とファイバーホルダーとのx,y軸方向の位置決
め時の移動に関して,本件発明1は,『キャップ付発光器をx,yの二次元内で移
動させる』のに対して,刊行物1発明は,ファイバーホルダーをx,yの二次元内
で移動させる点。」
 (4) 相違点1について
 (4-1) 審決は,相違点1について次のとおり判断した。
 「…刊行物1には,…光結合をなすため,x,y軸方向,z軸方向の位置調整を
行い,次いでレーザ溶接により固定することは,記載されていても,位置調整及び
溶接固定の順序を具体的に示す記載はないし,当然,その理由も記載されていな
い。
 しかしながら,…刊行物2には,上記相違点1の『(a)ファイバー端末をファイバ
ーホルダーに挿入した状態で,上記ファイバー端末を移動させ,z軸方向の位置を決
める工程,(b)その位置で,光ファイバーと発光器のz軸方向を固定する工程,(c)
x,y軸方向の位置を決め,その位置で光ファイバーと発光器のx,y軸方向を固
定する工程,の順に組み立てる』ことが,記載されているといえる。
 そこで,刊行物1に記載のものをレーザ溶接で組み立てるに際し,上記刊行物2
に記載された位置調整及び固定の順序が,適用可能であるか否かについて,以下に
検討する。
 刊行物2には,z軸方向の位置調整と固定を,x,y軸方向の位置調整と固定よ
り先に行う理由が次のように記載されている。『z方向の調整は少しも重要でない
ので,ファイバーは,まずこの方向に固定される。』
 …刊行物1に記載のものにおいては,z軸方向の位置合わせ精度は,x,y軸方
向のそれに比べて1桁以上余裕があり,x,y軸方向の位置合わせほど慎重を要せ
ず,固定時に,仮に誤差が生じたとしてもほとんど問題にならず,爾後に修正の必
要がないものということができる。
 このことは,刊行物2に記載のものにおいても同様であり,むしろ,レンズを有
さない刊行物2に記載のものでは,位置合わせ精度の違いはさらに顕著であると解
されるから,結局,光ファイバーと発光器の結合においては,「z方向の調整は少
しも重要でない」ないしは「z方向の調整はほとんど臨界的ではない」ということ
ができる。
 …上記…から,z軸方向の位置合わせ精度は,x,y軸方向に比べてあまり重要
ではなく,また,z軸方向の位置合わせは,後に修正する必要性がほとんどないこ
とから,z軸方向の固定を先にしようが,後にしようが,z軸方向の位置合わせ精
度の観点からはどちらでもよいことが理解できる。
 そこで,x,y軸方向の位置合わせ,固定を精度良く行うには,どのような順序
で組み立てればよいのか考えてみると,ファイバーホルダーにファイバー端末を挿
入し,ファイバー端末をz軸方向にのみ移動可能にした構造のもの(本件発明及び
刊行物1,2発明)においては,ファイバーホルダー内で,ファイバー端末をx,
y軸方向に移動することは,構造的に無理であり,かかる移動によりx,y軸方向
の位置ずれを精度良く修正することはほとんど不可能であるから,刊行物2発明の
ごとく,z軸方向の固定を先に行い,x,y軸方向の固定を後にして,x,y軸方
向の位置ずれを修正できるようにすることが,むしろ,必然であると理解できる。
 してみると,刊行物1,2発明のような発光モジュールを精度良く組み立てるた
めには,刊行物2発明のように,z軸方向の固定を先に行い,x,y軸方向の固定
を後にすることが必然であり,しかも,このような組立順序は,固定手段がレーザ
溶接であるか,接着であるかにかかわらず,組立精度を出すために必然であること
が理解できる。
 …以上のとおり,刊行物2に記載されたような順序で発光モジュールを組み立て
ることには,…組立精度を出すための十分な理由があり,しかも,このような組立
順序は,固定手段がレーザ溶接であるか,接着であるかにかかわらず,組立精度を
出すために必要な事項であること,また,刊行物1発明において,組立に際し,光
の結合効率を良くするためには,x,y軸方向の精度が特に重要であること,が明
らかであるから,刊行物2発明のものを刊行物1発明に適用するについて,十分な
動機があるというべきであり,また,特段の阻害要因も存在しないから,相違点1
は,刊行物1発明に,刊行物2発明の位置調整,組立順序を適用することにより,
当業者が容易に発明することができたものといえる。」
 (4-2) 審決は,相違点1についての原告の主張を,次のように排斥した。
 (A)「…YAG溶接と組立順序を組み合わせ…については,上記…のとおり…組合
せには十分な動機がある…。」
 (B)「刊行物2発明には,発光素子から出た光がレンズにより集光されるキャップ
付発光器が存在せず,したがって『z方向の調整は少しも重要でない』のだから,
z軸方向の最適結合の必要性が全くない構成であり,本件発明1とは前提が異な
る,との主張については,…本件発明1には,単に『キャップ付発光器』と記載さ
れ,レンズについての明示の記載はないから,このものがレンズを備えると解する
ことはできず,また,当該技術分野において『キャップ付発光器』なる用語が,レ
ンズ付発光器を意味するものともいえないから,上記主張は,そもそもその主張の
前提となる要件を欠いており,採用できない。」
 (C)「刊行物2発明は,…z軸方向の固定に際してx,y軸方向のずれを生じない
構成であり,本件発明1とは前提が異なる,との主張については,…『z方向の調
整はほとんど臨界的ではない(z方向の調整は少しも重要でない)ので,ファイバ
ーは,まずこの方向に固定される。』ことの技術的意義が,上記『嵌めあいが密着
しているので,…ファイバーの位置には影響を与えない。』なる記載のいかんにか
かわらず,組立精度を出すために最終的にx,y軸方向の調整を可能にすることに
あるのは明らかであるから,上記主張は採用しない。」
 (D)「本件発明1は,キャップ付発光器からの光が光ファイバーに最適結合する位
置がz軸方向とx,y軸方向の影響をともに受け,かつ,z軸方向をレーザ溶接と
いう手段で固定する際に,x,y軸方向にずれを生ずるという知見の下に,かかる
組立順序を採用したのであるから,このような前提が存在しない刊行物2に記載の
ものに基づいて,本件発明1の構成を前提としてかかる組立順序を採用することは
予測し得ない,との主張については,当該主張の前提となる上記における主張が採
用できないのであるから,当然採用することができないというべきである。」
 (5) 審決は,相違点2について次のとおり判断した。
 「キャップ付発光器とファイバーホルダーとのx,y軸方向の位置決め時の移動
に関して,本件発明1は,『キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる』
のに対し,刊行物1発明は,ファイバーホルダーをx,yの二次元内で移動させる
点で,両者は一応相違する。
 しかしながら,x,y軸方向の位置決めは,キャップ付発光器とファイバーホル
ダーとの間で,両者が相対的に移動し,位置調整されれば達成可能であることは,
いわば常識であるから,他方を固定し,一方を移動させることに,組立方法におけ
る特段の作用効果があるというのでない限り,これとは逆に,一方を固定し,他方
を移動させることと技術的に等価であるといわざるを得ない。
 そこで検討するに,本件訂正明細書の全記載を参酌しても,本件発明1において
『キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる』ことに,組立方法における
特段の作用効果があるとは見いだせないから,刊行物1発明のごとく,ファイバー
ホルダーをx,yの二次元内で移動させることと実質的な差異があるとはいえず,
上記相違点2は単なる設計的事項というべきである。」
 (6) 審決は,本件発明1の効果について,次のとおり判断した。
 「以上のとおり,相違点1に特段の困難性があるとはいえず,また,相違点2は
実質的な相違とはいえないから,これらの相違点を組み合わせたとしても,相違点
1に係る効果以上の,予期し得ない格別な効果を奏することがないことは明らかで
ある。」
 (7) 審決は,本件発明1について,次のとおり結論付けた。
 「本件発明1は,刊行物1及び2の発明に基づいて,当業者が容易に発明をする
ことができたものである。」
 (8) 審決は,本件発明2について,次のとおり認定判断した。
 「本件発明2では,本件発明1の特定事項(a)を,
 (i)『(a)上記キャップ付発光器をx軸,y軸方向に,また上記ファイバー端末を
上記ファイバーホルダーに挿入した状態で光軸(z軸)方向に移動させて上記キャッ
プ付発光器からの光が上記光ファイバーに最大入射する位置を検出する工程,』と
変更し,
 さらに,本件発明1に記載された『最適結合』,『最適光結合位置』,『最適結
合する位置』を,
 (ⅱ)『最大入射する位置』と変更している。
 上記(ⅱ)の変更については,最大入射する位置が,最適結合位置にほかならない
のは技術常識であるから,両者は単なる表現の相違にすぎず,実質的に同一であ
る。
 そこで,上記(i)について,本件発明2と刊行物1発明とを対比すると,…刊行
物1発明には,
 (ⅲ)『上記ファイバーホルダーをx軸,y軸方向に,また上記ファイバー端末を
上記ファイバーホルダーに挿入した状態で光軸(z軸)方向に移動させて上記キャッ
プ付発光器からの光が上記光ファイバーに最大入射する位置を検出する工程,』が
開示されているといえる。
 上記(i)と(ⅲ)とを対比すると,上記(i)が『キャップ付発光器をx軸,y軸方
向に』移動するのに対し,上記(ⅲ)は,『ファイバーホルダーをx軸,y軸方向
に』移動する点でのみ相違するが,これは上記相違点2にほかならない。
 よって,本件発明2は,前述の相違点1及び2で,刊行物1発明と相違している
といえるところ,相違点1及び2については,既に…述べたとおりである。
 したがって,本件発明2は,刊行物1及び2の発明に基づいて,容易に発明をす
ることができたものである。」
 (9) 審決は,次のとおり総括した。
 「本件発明1及び2は,本件の出願前に頒布された刊行物1及び2の発明に基づ
いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項
の規定により特許を受けることができないものである。」
第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
 審決は,本件発明がレンズを有しないと事実誤認し(取消事由1),相違点1に
ついての判断を誤り(取消事由2),相違点2についての判断を誤った(取消事由
3)ものである。取消事由1は,取消事由2の原因となっているものであり,相互
に関連する。しかし,取消事由3は,これらとは直接の関連性がなく一応独立した
事由である。
 1 取消事由1(本件発明に関する事実誤認)
 本件発明のキャップ付発光器はレンズを有するものである。このことは,本件訂
正明細書において,(1)「発光素子(4)から出た光は球レンズ(5)により集光さ
れて光ファイバー端末(6)で保持された光ファイバー(3)へ入射して」との記
載があること,(2)「光線捜索(11)で見つかった位置をスタート点にして,光フ
ァイバー(3)へ光が最も大きく入射する位置をxyzの三次元内で見つける動作
(xyzピークサーチ(12))を行う。」との記載があること,(3)「xyzピー
クサーチ(12)」と「xyピークサーチ(16)」とを明確に区別しているこ
と,及び,本件特許公報の第5図において,(4)レンズによる光の集光を示す点線が
記載されていることなどを総合することにより,当業者が容易に理解できたことで
ある。
 したがって,審決の「(キャップ付発光器が)レンズを備えると解することはで
きず,また,当該技術分野において『キャップ付発光器』なる用語が,レンズ付発
光器を意味するものともいえない」(甲1の18頁14~16行目。判決注:前記
第2,3(4)(4-2)(B))との認定は事実誤認であり,この誤認が審決の結論に影響を
及ぼしたことは明らかである。
 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
 刊行物1発明では,三次元内で最適結合位置を検出した後に,z軸方向もx,y
軸方向も固定してしまうものである。この方法によれば,作業時間が長くなる,熟
練作業者の経験が必要であるなどの問題点がある。
 本件発明は,キャップ付発光器がレンズを有することを前提として,三次元内で
最適結合位置を検出した後にz軸方向のみを固定し,さらにx,y面内で最適結合
位置を再検出してからx,y軸方向を固定することにより,この問題を解決したも
のである。本件発明以前には,YAG溶接に伴う位置ずれについて検討されたこと
はなく,まして,YAG溶接に伴う位置ずれの大小関係をz軸方向の固定に伴う
x,y軸方向のずれと,x,y軸方向の固定に伴うz軸方向のずれとに分けて比較
することなど全く行われていなかった。本件発明の最大の特徴は,固定によるずれ
の発生という新たな課題を発見し,z軸方向を先に固定するという解決手段を提供
したことにある。
 一方,刊行物2発明では,レンズを有する発光器が存在しないから,三次元内で
最適結合位置を検出することは行われていない。刊行物2発明では,光源からの光
は直線的に進行して光ファイバーに入射するだけであるから,光源から遠くなるこ
とによって光が減衰することはあっても,z軸方向に入射する光のエネルギーが最
大になるピーク位置は存在しない。したがって,三次元内で最適結合位置を検出す
ることは行われない。製作上可能な範囲でz軸方向の位置を適当に決めて固定し,
x,y面内で最適結合位置を検出すれば足りる。
 このように,本件発明及び刊行物1発明は,光源から出た光がレンズによって集
光されて光ファイバーに入射することを前提とする発明である。これに対して,刊
行物2発明は,光源から出た光がそのまま直進して光ファイバーに入射するもので
ある。したがって,刊行物2発明においては,「光ファイバーへ光が最も大きく入
射する位置をx,y,zの三次元内で見つける動作」を行う理由もなく,現実にも
行われていない。
 刊行物1発明と刊行物2発明とは前提を異にするから,そもそも,「刊行物1発
明に,刊行物2発明の位置調整,組立順序を適用すること」はあり得ない。すなわ
ち,刊行物2にはレンズを有するキャップ付発光器が記載されていないから,そも
そも,本件発明の解決した課題自体が存在しないのであって,刊行物2発明におい
てz軸方向を固定してからx,y軸方向を固定しているからといって,その順番を
刊行物1発明に適用する動機は存在しない。また,刊行物1には,YAGレーザ溶
接によって生じる位置ずれについての示唆はなく,当業者は,z軸方向を固定して
からx,y軸方向の位置を再調整してx,y軸方向を固定するという着想を刊行物
1からは得られない。
 しかし,あえて,刊行物2発明の発想を刊行物1発明に適用することを前提とし
て刊行物2を理解するならば,刊行物2には,x,y面内での位置調整を行った後
にx,y軸方向の固定を行うという当たり前のことが記載されているにすぎない。
この発想を刊行物1発明に適用するならば,「光ファイバーへ光が最も大きく入射
する位置をx,y,zの三次元内で見つける動作」を行った後に,x,y,z軸方
向をいずれも固定するという発想しか生まれない。
 これに対して,本件発明は,「光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置を
x,y,zの三次元内で見つける動作」を行ったにもかかわらず,z軸方向のみを
固定し,その後,さらに「光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y面
内で見つける動作」を行ってからx,y軸方向を固定することを構成要件とするも
のである。そして,本件発明は,甲8の実験報告書に記載されたような顕著な効果
を奏するのである。
 したがって,審決の「相違点1は,刊行物1発明に,刊行物2発明の位置調整,
組立順序を適用することにより,当業者が容易に発明することができたものといえ
る。」(甲1の17頁下から3~1行目。判決注:前記第2,3(4)(4-1)末尾)と
の判断は,本件発明の進歩性の判断を誤ったものであり,この判断の誤りが審決の
結論に影響を及ぼしたことは明らかである。
 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
 審決は,「キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる」ことと,「ファ
イバーホルダーをx,yの二次元内で移動させる」こととの相違を相違点2として
認定しながら,「上記相違点2は単なる設計的事項というべきである。」(甲1の
19頁19行目。判決注:前記第2,3(5)末尾)と判断した。しかし,「キャップ
付発光器をx,yの二次元内で移動させる」ことにより特有の効果が得られるか
ら,審決の判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼしたことは明ら
かである。
第4 被告の主張の要点
 1 取消事由1(本件発明に関する事実誤認)に対して
 本件訂正明細書においては,原告が主張している「レンズ」に関する説明は,特
許請求の範囲,発明の詳細な説明における産業上の技術分野,従来の技術,発明が
解決しようとする課題,問題点を解決するための手段及び作用の項のいずれにも全
く記載されていない。
 キャップ付発光器に関するレンズについての説明は,本件訂正明細書の実施例の
項に「(5)は球レンズ」,「球レンズ(5)により集光されて」と2個所に記載
され,また図面の簡単な説明の項に「(5)は球レンズ」として1個所に記載され
ているにすぎない。またこれらの記載は,「レンズ」ではなく,それよりも下位概
念の「球レンズ」である。
 また,原告は,レンズによる集光という問題がなければ,x,y平面内で光線を
見出せばx,y,zピークサーチが不要であることは当業者に自明であるから,本
件訂正明細書に「光ファイバー(3)へ光が最も大きく入射する位置をxyzの三
次元内で見つける動作(xyzピークサーチ(12))を行う。」という記載があ
ることから,当業者がレンズが本件発明の不可欠の要素であることを知ることは極
めて容易であると主張しているが,光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置を
x,y,zの三次元内で見つける動作を行うからといって,それが,直ちに「レン
ズ」が不可欠な要素ということはできない。
 例えば,光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次元内で
見つける動作は,刊行物2(甲4)の装置においても行われている。
 刊行物2には,x軸方向,y軸方向に調整を行うための微調整ねじ31,32と
z軸方向に調整を行うための調整ねじ27を有するx,y,z軸方向の調整機構が
記載され,光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次元内で
見つける動作が明確に記載されている。
 したがって,本件訂正明細書の記載によって,本件の特許請求の範囲の請求項1
及び2に記載された「キャップ付発光器」という用語を,原告主張のように「レン
ズ」を有するキャップ付発光器を意味するものであると限定して解釈すべきものと
根拠付けることはできず,また,当該技術分野において「キャップ付発光器」とい
う用語が,「レンズ」を有するキャップ付発光器を意味するものであるということ
もいえない。
 取消事由1は理由がない。
 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対して
 原告は,審決の一致点の認定に対して,本件発明においては,最初の位置状態で
固定されるのはz軸方向のみであり,その後,さらにx,y軸方向の位置の再調整
が行われるので,「その位置状態で」の部分は一致点の認定に含まれるべきではな
い,と主張している。
 しかしながら本件発明1も刊行物1発明も,工程の順序を考慮しなければ,「上
記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で上記ファイバー端末
をz軸方向に移動させるとともに,上記キャップ付発光器とファイバーホルダーとの
間でx,yの二次元内で移動させることにより,最適光結合位置を検出」する工程
と,最適光結合位置が検出された状態において,「上記ファイバー端末とファイバ
ーホルダー,及び上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する」
工程を有することは明らかであり,審決は,本件発明1と刊行物1発明の共通点
を,工程の順序を考慮せずにとらえ,その上で,工程の順序を相違点1として取り
上げて判断しているのであるから,一致点についての認定に誤りはない。
 審決の相違点1についての判断に対し,原告は,刊行物2発明には,レンズを有
するキャップ付発光器が記載されていないから,本件発明の解決した課題自体が存
在せず,したがって,刊行物2に記載された順番を刊行物1発明に適用する動機は
存在しないと主張する。
 しかしながら,刊行物2には,光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置,す
なわち最適光結合位置をx,y,zの三次元内で見つけるための調整機構の構成及
び調整動作が明確に記載されているとともに,調整後には,まずz軸方向を固定す
ることが,明確に記載されており,さらに,z軸方向を固定した後に,x,y軸方
向を調整し,その後にx,y軸方向を固定することが明確に記載されている。すな
わち,刊行物2発明は,このように最適光結合位置をx,y,zの三次元内で見つ
ける動作を行い,その最適光結合位置で,まずz軸方向を固定し,その後にx,y
軸方向を調整するのであるから,このx,y軸方向の調整は,z軸方向の固定によ
って生じた最適光結合位置からのずれを補正することにほかならない。なぜなら
ば,最適光結合位置でz軸方向を固定した際に,x,y軸方向にずれないのであれ
ば,このx,y軸方向を調整する必要がないからである。
 したがって,審決の認定判断に誤りはなく,取消事由2は理由がない。
 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)に対して
 原告が「キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる」ことについて主張
している作用効果は,単なる実施例として示された構造についてのものであって,
本件発明の作用効果ではなく,また原告が主張している作用効果も本件訂正明細書
中には全く記載されていない。
 したがって,審決の認定判断に誤りは認められず,取消事由3は理由がない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本件発明に関する事実誤認)について
(1) 本件発明1の「キャップ付発光器」が「レンズを有するもの」であると認定
されるべきか否かについて検討する。
 (2) 発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づい
てされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解す
ることができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細
な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細
書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないものというべき
である(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁)。
 (3) そこで,本件発明1の特許請求の範囲の記載をみるに,「キャップ付発光器
と,光ファイバーを保持したファイバー端末と,上記ファイバー端末が挿入される
ファイバーホルダーとを具備し,(a)上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダー
に挿入した状態で上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最適結合す
るように上記ファイバー端末を移動させる工程,(b)上記ファイバー端末を移動させ
ることにより上記キャップ付発光器と光ファイバーとの最適光結合位置を検出し,
その位置状態で上記ファイバー端末とファイバーホルダーとをレーザ溶接して光フ
ァイバーとキャップ付発光器のz軸方向を固定する工程,(c)上記キャップ付発光器
からの光が上記光ファイバーに最適結合する位置を,上記キャップ付発光器をx,
yの二次元内で移動させることにより検出し,その位置状態で上記キャップ付発光
器とファイバーホルダーをレーザ溶接する工程の順序で組立てることを特徴とする
発光モジュールの組立方法。」というものである。
 (A) 上記記載によれば,単に「キャップ付発光器」と記載されているのみであ
り,「レンズ」との用語は全く存在せず,「キャップ付発光器」が「レンズを有す
る」旨の記載も存在しない。
 「キャップ」との用語は,通常,「①縁なし帽子。②鉛筆・万年筆などの帽子状
のふた。③瓶のふた。④チームやグループの長」を,「発光器」は,「光を発す
る」「道具」を意味するとされるように(広辞苑第5版),これらの用語に「レン
ズを有する」との意味は全く存在しない。
 (B) 原告が明確に主張するところではないが,特許請求の範囲の記載として,
「最適光結合位置を検出」することや,「キャップ付発光器からの光が…最適結合
する位置を…検出」することが記載され,上記(a)ないし(c)のような工程からなる
ものであることが記載されていることに照らして,本件発明1につき,「レンズを
有するもの」に限定して解釈すべきことになるのか,そのような限定がない(「レ
ンズを有しないもの」をも含む)ものと解釈しても矛盾はないのかを検討してお
く。
 「最適」とは,通常,「最も適していること。」(広辞苑第5版)を意味するも
のであり,無条件に絶対的な数値として最も適するという意味もあるが,技術分野
に関して用いられる場合において,様々な条件や制約を伴うときには,許容された
現実的な条件下で最も適するということを意味することが一般的であると解され
る。そして,「光結合」とは,光学分野における語義からしても,上記特許請求の
範囲の記載の文脈に照らしても,「キャップ付発光器から出た光が光ファイバーに
入射すること」という意味で使用されているものと認められる。そうすると,「最
適光結合」とは,許容された条件の下において,「キャップ付発光器からの光」が
「光ファイバー」に入射する光量が最大となることを意味するものと解される。
 そこで,キャップ付発光器がレンズを有さず,集光されることなく,光源から出
た光がそのまま直進する場合において,x,y軸方向についてみると,ファイバー
端末の全面が光の入射範囲外である状態から,ファイバー端末の一部に光が入射す
る状態,さらに入射光量が最大となる状態まで様々な位置関係があり得ることが明
らかであるから,x,y軸方向に関しては,上記の意味において,キャップ付発光
器から光ファイバーへの入射光量が最大となる位置が,キャップ付発光器からの光
が光ファイバーに「最適光結合」する位置であるといえる。
 次に,z軸方向に関してみるに,キャップ付発光器がレンズを有さず,光源から
出た光がそのまま直進する場合には,光は光源からの距離が離れるにしたがって減
衰するので,この点だけを考えると,光ファイバーが発光器に近ければ近いほど望
ましいことになる。しかし,このような光学的な条件だけでなく,「光ファイバー
端末」,「光ファイバーホルダー」,「キャップ付発光器」等からなる製品の構成
上の要請などから,光ファイバーと発光器との間隔,すなわちz軸方向の距離の設
定には,一定の限界があることは技術常識上明らかである。よって,z軸方向に関
しては,このような種々の要請に基づく制約の下で,できるだけ光ファイバーと発
光器との間隔を小さくし,キャップ付発光器から光ファイバーへの入射光量を最大
とした位置が,キャップ付発光器からの光が光ファイバーに「最適光結合」する位
置であると理解される。
 そうすると,本件発明1につき,キャップ付発光器が「レンズを有しないもの」
をも含むものと解釈しても,x,y軸方向,z軸方向のそれぞれに「最適光結合位
置」が存在し,「最適光結合位置を検出」し,上記(a)ないし(c)のような工程を経
ることなど,特許請求の範囲の記載のすべての事項を矛盾なく明確に理解すること
ができる。したがって,「レンズを有するもの」に限定して解釈すべきことにはな
らない。
 以上のように,特許請求の範囲の記載について仔細に検討しても,本件発明1の
「キャップ付発光器」を「レンズを有するもの」に限定して解釈すべき根拠はない
というべきである。
 (4) 原告は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明や図面の記載を根拠に,本件発
明のキャップ付発光器はレンズを有するものであると主張する。
 しかし,前記(3)に判示したところに照らせば,前記(2)の最高裁判例にいう「発
明の要旨認定において,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許され
る場合」に該当しないことは,明らかである(そもそも,原告が主張する本件訂正
明細書の記載や図面の記載は,いずれも一実施例についての記載であるにすぎず,
[問題点を解決するための手段],[作用],[発明の効果]などの欄における説
明として記載されたものではない。なお,本件訂正明細書中には,「固定用対物レ
ンズ」との記載があるが,請求項3に関する記載である上,原告主張に係る「レン
ズ」とは別の物である。)。
 (5) 結局,「本件発明1には,単に『キャップ付発光器』と記載され,レンズに
ついての明示の記載はないから,このものがレンズを備えると解することはでき
ず,また,当該技術分野において『キャップ付発光器』なる用語が,レンズ付発光
器を意味するものともいえない」などとした審決の本件発明に関する認定に誤りが
あるとはいえず,原告主張の取消事由1は,採用することができない。
 2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
 (1) 原告は,本件発明がレンズを有するにもかかわらず,審決がレンズを備える
と解することはできないと誤認し(取消事由1),これが原因となって相違点1に
ついての判断を誤った(取消事由2)ものであると主張する。すなわち,原告は,
取消事由1の主張から導かれる事項,すなわち,本件発明が光源から出た光がレン
ズによって集光されて光ファイバーに入射することを前提とする発明であること,
したがって,本件発明では,z軸方向に入射する光のエネルギーが最大になるピー
ク位置が存在すること,本件発明では,このような意味において,光ファイバーへ
光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次元内で見つける動作(最適結合位
置の検出)がされることなどを前提として,取消事由2の主張をするものである。
 しかしながら,上記前提とされている事項についての主張が失当であることは,
取消事由1について判示したとおりである。したがって,取消事由2としての原告
の主張は,その前提を欠くものというべきである。
 (2) 以下においては,本件発明の要旨認定につき既に判示したところを前提とし
つつも,原告の主張として善解し得る点を取り上げて,相違点1についての審決の
判断に誤りはないかを検討しておく。
 (A) 刊行物2発明についてみるに,審決は,刊行物2の摘記事項を引用した上,
「刊行物2には,上記相違点1の『(a)ファイバー端末をファイバーホルダーに挿入
した状態で,上記ファイバー端末を移動させ,z軸方向の位置を決める工程,(b)そ
の位置で,光ファイバーと発光器のz軸方向を固定する工程,(c)x,y軸方向の位
置を決め,その位置で光ファイバーと発光器のx,y軸方向を固定する工程,の順
に組み立てる』ことが,記載されているといえる。」(前記第2,3(4)(4-1)の第
2段落)と認定した。この認定は,証拠(甲4,甲2の1~3)に照らして,是認
し得るものである。
 (B)(B-1) 刊行物1(甲3)には次のような記載がある。
 「〔発明の背景〕…半導体発光素子…と光ファイバーを高効率で光結合した光素
子モジュールは,…光半導体素子と光ファイバーとが高効率で光結合するよう結合
光学系及び光ファイバーを高精度で位置合わせ調整した後,固定している。」(1
頁右欄3~12行)
 「半導体レーザダイオード1に埋め込み型(BH)レーザ,光ファイバーにコア
径50μm,屈折率差1%の集束形屈折率分布ファイバー,レンズ5に日本板硝子製
セルフォックレンズを用いた場合,結合効率の劣化を最大結合効率の0.5dB以内と
するには保持部材7,9及び8の位置合わせ精度は各々±3μm,±7μm,±
80μmとなる。」(2頁右上欄15行~左下欄2行)
 (B-2) 刊行物2(甲4の訳文による)には次のような記載がある。
 「従来技術の説明 光ファイバーシステムにおいて,ファイバーをファイバー
に,或いは,光電子変換装置,例えば,レーザーや発光ダイオードに結合させるこ
とがよくある。このような変換装置からの放射線図は,発光表面の前におけるファ
イバー端部の調整が非常に臨界的となるようなことがよくある。ガラスファイバー
の端部は,数マイクロメーターの許容範囲で固定され,そして固定の長期安定性も
同様な限度内にあることが望ましい。」(2頁12~18行)
 (B-3) 特開昭60-221713号公報(甲5)には次のような記載がある。
 「本発明によれば,グラスファイバー端部と光電素子との間の機械的,光学的な
位置調節が簡単になり,また1μm以下の極めて高い精度が得られる。」(2頁右
下欄19~3頁左上欄2行)
 (B-4) 上記各記載によれば,発光モジュールの組立方法において,光ファイバー
と光源とを固定して光結合させるに当たり,高精度での位置合わせをすることが,
本件出願当時,周知の技術課題であったものと認められる。
 他方,部材の固定に当たって高精度の位置調整が必要とされる場合,部材の位置
調整を繰り返し行うことは,一般的に行われている程度の事項であることからすれ
ば,特に上記のような高精度での位置合わせが要求される光ファイバーと光源との
固定に当たり,位置調整を繰り返し行うことはむしろ当然といえる。
 そうすると,原告が主張するように,刊行物1発明が一度位置決めした後は固定
工程のみが存在し再度の位置決めは行われないものであるとしても,当業者として
は,発光モジュールの組立方法に関する上記周知の技術課題を認識しているはずで
あるから,刊行物1発明の光ファイバーと光源との位置合わせにおいても,位置調
整を繰り返し行う技術的選択肢を当然に理解するものというべきである。
 (C) 前記(A)に認定のとおり,刊行物2には,「(a)ファイバー端末をファイバー
ホルダーに挿入した状態で,上記ファイバー端末を移動させ,z軸方向の位置を決
める工程,(b)その位置で,光ファイバーと発光器のz軸方向を固定する工程,(c)
x,y軸方向の位置を決め,その位置で光ファイバーと発光器のx,y軸方向を固
定する工程,の順に組み立てる」構成が記載されているといえる。そして,この構
成は,まさに「光ファイバーを光学活性素子に対して精度よくまた安定性よく固定
する手順に関する」(甲4の翻訳文2頁25~26行)ものである。
 一方,刊行物1発明は,「上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入
した状態で上記ファイバー端末をz軸方向に移動させるとともに,上記キャップ付発
光器とファイバーホルダーとの間でx,yの二次元内で移動させることにより,最
適光結合位置を検出し,…上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶
接する」構成を有するものである(甲3。この点は,審決が一致点として認定する
ところであり,上記の限度では原告も争わない。)。すなわち,刊行物1には,光
結合をなすため,x,y,zの三次元内で位置調整を行って最適光結合位置を検出
した上,レーザ溶接により固定することが記載されているといえる。
 そこで,上記(B)に判示した点にもかんがみれば,刊行物1発明において,キャッ
プ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接して最適光結合位置に固定するに当
たって,刊行物2に記載された,z軸方向の位置を決め,z軸方向を固定した後,
x,y軸方向の位置を決め,x,y軸方向を固定するという手順を位置調整のため
に採用することは,当業者が容易に想到し得るものというべきである。
 そうすると,相違点1は,刊行物1発明に刊行物2の上記の事項を適用すること
により,当業者が容易に想到し得るものというべきである。これと同旨の審決の判
断は是認することができる。
 (D) 原告は,刊行物2について,レンズを有さず,z軸方向に入射する光のエネ
ルギーが最大になるピーク位置は存在しないから,三次元内で最適結合位置を検出
することは行われず,製作上可能な範囲でz軸方向の位置を適当に決めて固定し,
x,y面内で最適結合位置を検出すれば足りるものであると主張する。
 検討するに,刊行物2発明においては,レンズが存在しないので,原告が主張す
るような意味での光エネルギーのピーク位置は存在しないとしても,z軸方向の設
定においては,取消事由1の(3)(B)で判示したような種々の要請に基づく制約の下
で,できるだけ光ファイバーと発光器との間隔を小さくし,キャップ付発光器から
光ファイバーへの入射光量を最大とした位置が,キャップ付発光器からの光が光フ
ァイバーに「最適光結合」する位置であると理解される。そして,刊行物2発明に
おいても,少なくとも,上記のような意味での最適光結合位置を調整する必要があ
ることが認められるのであって(甲4),z軸方向の位置を適当に決めて固定し,
x,y面内で最適結合位置を検出すれば足りるというようなものとは解されない。
原告の主張は採用の限りではない。
 (E) 原告は,刊行物1発明と刊行物2発明とは前提を異にし,刊行物1発明に刊
行物2発明の固定の順番を適用することはあり得ないし,適用する動機が存在しな
いと主張する。
 検討するに,原告の上記主張は,本件発明1について,光源から出た光がレンズ
によって集光されて光ファイバーに入射するもので,光エネルギーのピーク位置が
存在するということを前提とする発明であるとの見解に立って,刊行物1発明に刊
行物2発明を適用してなす本件発明1の容易想到性の判断を争うものである。しか
し,本件発明1の要旨認定として,キャップ付発光器がレンズを有するものである
ということができないことは,取消事由1について判示したとおりであるから,原
告の本件発明1についての上記見解自体が採用し得ないものである。
 この点をおくとしても,刊行物1発明及び刊行物2発明について既に判示したと
ころに加え,前記(B)で判示したような当業者の認識,理解等を合わせて考慮するな
らば,刊行物1発明に,刊行物2発明の位置調整及び組立順序を適用することが可
能であるとする審決の判断は,是認し得るものである。刊行物1発明と刊行物2発
明がレンズの有無で異なるからといって,適用の阻害事由となるとはいえない。
 原告の主張は採用することができない。
 (F) 原告は,あえて,刊行物2発明の発想を刊行物1発明に適用することを前提
としてみても,「光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次
元内で見つける動作」を行った後に,x,y,z軸方向をいずれも固定するという
発想しか生まれないと主張する。
 しかし,前記(C)に判示したとおり,相違点1は,刊行物1発明に刊行物2に記載
された事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得るものである。なお,
前判示のとおり,本件発明1(本件発明2も同様)においては,「キャップ付発光
器」を「レンズを有するもの」に限定して解釈すべき根拠はないのであるから,z軸
方向を固定する工程の前に行う最適光結合位置の検出作業におけるz軸方向の最適
光結合位置とは,取消事由1に関する(3)(B)において判示した意味における最適光
結合位置であると解される。
 (G) 上記争点に関連して,原告の審決に対する認否中には,本件発明1と刊行物
1発明の一致点の認定に関し,「その位置状態で」の部分は一致点の認定に含まれ
るべきではないとし,相違点1の認定に関しても,相違点は単なる順序の開示の有
無に尽きるものではなく,刊行物1では再度の位置決めが行われていないと主張す
る部分がある。
 しかし,審決の一致点の認定は,z軸方向とともにx,y軸方向での部材の移動
により最適光結合位置を検出し,その位置状態で溶接するという限度で一致するこ
とをいうものであり,相違点1の認定としては,本件発明1について,z軸方向の
位置決めとz軸方向の固定,さらにx,y軸方向の位置決めとx,y軸方向の固定
という二段階の位置決め及び固定の工程とその順序を記載した上で,刊行物1発明
では,「特に位置決め及び固定(レーザ溶接)の順序を開示していない点」と認定
しているのであり,表現上の疑義の余地はなくはないとしても,上記のような記載
に照らせば,位置決め及び固定がz軸方向,x,y軸方向の順で二段階で行われる
点をも含む趣旨で相違点1として認定しているものと理解される。したがって,審
決の一致点及び相違点の認定に誤りがあるとはいえない。そして,刊行物1発明に
刊行物2に記載された位置調整及び組立順序(二段階で行われる点をも含む。)を
適用することにより,上記相違点1の構成に想到し得るものであることは,前判示
のとおりである。
 (H) 原告は,本件発明が甲8の実験報告書に記載されたような顕著な効果を奏す
ると主張する。
 刊行物1発明は,「上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接す
る発光モジュールの組立方法。」という点で本件発明1と一致するものであり(甲
3,甲2の1~3。この限度では原告も争わない。),「相違点1は,刊行物1発
明に,刊行物2発明の位置調整,組立順序を適用することにより,当業者が容易に
発明することができたものといえる。」との審決の判断が是認し得ることは既に判
示したとおりである。そうすると,本件訂正明細書の[発明の効果]の欄に記載さ
れた「この発明は以上説明したとおり,光軸調整した後の固定作業を,エポキシ系
の樹脂やハンダで作業者が固定した作業をレーザ溶接機を使って瞬時に固定する溶
接へ変更すると共に,光軸調整装置と連動して,光軸調整作業から固定作業までを
従来に比べて短時間で行えるようにしたことにより,従来は熟練作業者が長時間を
かけて行っていた発光モジュールの組立作業が簡単に行えるようになった。」(甲
2の3,9頁下から7~4行)という効果は,上記のようにして刊行物1発明に刊
行物2発明を適用した構成から当業者が予測し得るものにすぎない。そして,甲8
の実験報告書を検討しても,上記の判断を覆すに足りるものではない。
 よって,原告の上記主張は,採用することができない。
 3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
 審決は,「x,y軸方向の位置決めは,キャップ付発光器とファイバーホルダー
との間で,両者が相対的に移動し,位置調整されれば達成可能であることは,いわ
ば常識であるから,他方を固定し,一方を移動させることに,組立方法における特
段の作用効果があるというのでない限り,これとは逆に,一方を固定し,他方を移
動させることと技術的に等価であるといわざるを得ない。」(前記第2,3(5)の第
2段落)と説示したが,この点は,是認し得るものである。
原告は,キャップ付発光器の重心直下でステージが水平に移動し,キャップ付発
光器を安定して移動させることで,x,yステージを使用したx,y軸方向の位置
調整は短時間に行うことができるという作用効果を主張するが,この点は,本件訂
正明細書に記載されていない。仮に,この点が当業者にとって自明なものであると
すれば,格別なものとはいえない。
そうすると,「本件訂正明細書の全記載を参酌しても,本件発明1において『キ
ャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる』ことに,組立方法における特段
の作用効果があるとは見いだせないから,刊行物1発明のごとく,ファイバーホル
ダーをx,yの二次元内で移動させることと実質的な差異があるとはいえず,上記
相違点2は単なる設計的事項というべきである。」(前記第2,3(5)の第3段落)
とした審決の判断は,是認することができるものである。
 原告主張の取消事由3は理由がない。
 4 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却さ
れるべきである。
  知的財産高等裁判所第4部
        裁判長裁判官     塚  原  朋  一
           裁判官     田  中  昌  利
           裁判官     佐  藤  達  文

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛