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裁判例


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平成16年3月23日判決言渡,平成16年3月9日口頭弁論終結
         判    決
   原    告     株式会社セガ
   訴訟代理人弁護士   吉武賢次
同    弁理士   北野好人
   被    告     コナミ株式会社
   訴訟代理人弁護士   大場正成,尾崎英男,嶋末和秀,飯塚暁夫
   同    弁理士   園田敏雄,犬飼宏
        主    文
  原告の請求を棄却する。
  訴訟費用は原告の負担とする。
  事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 特許庁が平成10年審判第35381号事件について平成15年3月5日にした
審決を取り消す,との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 原告は,発明の名称を「競争ゲーム装置及びその制御方法」とする特許第2
645851号(本件特許)の特許権者である。
 本件特許は,昭和63年4月9日に特許出願され(昭和63年特許願第8628
9号),平成9年5月9日に特許権の設定登録がされた。
 (2) 本件特許に対して2件の特許異議の申立てと無効審判の請求がされ,原告が
平成11年9月29日に訂正請求をしたところ,異議申立て(平成10年異議第7
0882号)については平成11年10月25日に「訂正を認める。特許第264
5851号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。」との決定があり,確定し
たが,無効審判請求(平成10年審判第35381号)について,平成15年3月
5日,「本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とす
る。」との審決があり,その謄本は同年3月17日原告に送達された。
 本件は,この審決の取消しを求める審決取消訴訟である。
2 特許請求の範囲
 訂正が確定している平成11年9月29日の訂正請求書に添付した訂正明細書
(本件訂正明細書)の特許請求の範囲は,以下のとおりである(請求項1の発明を
「本件発明1」,請求項2の発明を「本件発明2」といい,これらを総称して「本
件発明」という。)。
【請求項1】 フィールドと,
   前記フィールド上を走行する模型体と,
   前記フィールドを挟んで反対側に位置し,前記模型体と磁気的に接続結合さ
れ,前記模型体を牽引する自走体と,
   前記自走体上の少なくとも2点の位置を検出する位置検出手段と,
   レース前に,時間と共に変化する前記模型体又は前記自走体の目標位置を所
定のアルゴリズムに従って演算する演算手段と,
   前記位置検出手段による検出位置と前記目標位置とに基づいて,前記自走体
の位置を前記目標位置に近づけるように前記自走体を制御する走行制御手段と
   を有することを特徴とする競争ゲーム装置。
【請求項2】 フィールド上を走行する模型体を,前記フィールドを挟んで反対側
に位置し,磁気的に接続結合された自走体により牽引する競争ゲーム装置の制御方
法であって,
   レース前に,時間と共に変化する前記模型体又は前記自走体の目標位置を所
定のアルゴリズムに従って演算し,
   前記模型体又は前記自走体上の少なくとも2点の位置を検出し,
   前記位置検出手段による検出位置と前記目標位置とに基づいて,前記模型体
又は前記自走体の位置を前記目標位置に近づけるように前記自走体を制御する
   ことを特徴とする競争ゲーム装置の制御方法。
 3 審決の理由の要旨
 (1) 本件発明1及び2は,刊行物1ないし7に記載された発明及び周知技術に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項
の規定により特許を受けることができず,その特許は,同法123条1項2号に該
当し,無効とされるべきである。
 (審決において引用された刊行物及び周知例)
   刊行物1:米国特許第2188619号明細書(審判甲1,本訴甲3の1)
   刊行物2:実願昭49-14153号(実開昭50-104785号)のマ
イクロフィルム(審判甲2,本訴甲3の2)
   刊行物3:実公昭55-46222号公報(審判甲3,本訴甲3の3)
   刊行物4:特開昭58-200177号公報(審判甲5,本訴甲3の4)
   刊行物5:特開昭60-153509号公報(審判甲6,本訴甲3の5)
   刊行物6:特開昭59-100915号公報(審判甲7,本訴甲3の6)
   刊行物7:特公昭52-38781号公報(審判甲8,本訴甲3の7)
   刊行物8:特開平1-259404号公報(審判甲9)
   周知例A:特開昭62-105206号公報(本訴甲4の1)
周知例B:特開昭63-65512号公報(本訴甲4の2)
   周知例C:実願昭54-183699号(実開昭56-100748号公
報)のマイクロフィルム(本訴甲5の1)
   周知例D:特開昭55-94276号公報(本訴甲5の2)
 (2) 特許法29条2項の特許要件違反についての判断 
  Ⅰ 本件発明1について
  (Ⅰ-a)比較・対比及び一致点・相違点
 刊行物1の記載事項を総合すると,刊行物1には,「非金属の滑らかで薄い上部
13を走行する複数の金属製目標体34と,中間の棚14の環状トラック16,1
7,18のレールに噛み合って乗る車輪24に支持されモーター25を備える複数
の駆動車22とが,前記非金属の滑らかで薄い上部13を通して,前記複数の駆動
車22の電磁石33の磁力により互いに吸引するように配置されていて,各駆動車
22のモーター25の速度は,三つの加減抵抗器35,36,37の一つにより制
御されるように設計されており,前記加減抵抗器35,36,37はそれぞれ制御
レバー38,39,40を備えていて,オペレータが制御レバー38,39,40
を操作することにより各駆動車22の速度を制御することができるように設計さ
れ,さらに,非金属の滑らかで薄い上部13上に配置された金属製目標体34を吸
引する駆動車22の電磁石33の磁力を自動的に制御する手段として,制御レバー
55,56,57により自動制御される加減抵抗器52,53,54が設けられて
いて,前記加減抵抗器52,53,54が加減されると駆動車22の電磁石33の
吸引力が変化するようになっており,複数の駆動車22のモーター25が起動され
ると各駆動車22は前記上部13上の対応する複数の金属製目標体34を搬送し,
オペレータが制御レバー38,39,40を操作して加減抵抗器35,36,37
を加減させると電流の強さが変化するモーター25によって駆動車22の速度及び
位置を変化させて各駆動車22の走行を制御して,前記複数の金属製目標体34を
競争させる電気的レーシングゲーム」の発明(以下「引用発明」という)が記載さ
れているといえる。
 ここで,本件発明1と前記引用発明とを比較すると,引用発明の「非金属の滑ら
かで薄い上部13」「金属製目標体34」「モーター25を備える駆動車22」
「電気的レーシングゲーム」が,それぞれ本件発明1の「フィールド」「模型体」
「自走体」「競争ゲーム装置」に相当する。
 また,引用発明の「駆動車22のモーター25の速度を制御する制御レバー3
8,39,40を手動操作することにより駆動車22の走行を制御するオペレー
タ」は,本件発明1の「前記自走体を制御する走行制御手段」とともに,駆動車2
2(自走体)の走行を制御する「自走体を制御する走行制御主体」である点で,共
通する。
 そうすると,両者は「フィールドと,前記フィールド上を走行する模型体と,前
記フィールドを挟んで反対側に位置し,前記模型体と磁気的に接続結合され,前記
模型体を牽引する自走体と,前記自走体を制御する走行制御主体とを有する競争ゲ
ーム装置」である点で一致し,次の点で相違する。
 相違点1:本件発明1が,「前記自走体上の少なくとも2点の位置を検出する位
置検出手段」を有するのに対し,引用発明は,そのような位置検出手段を有してい
ない点。
 相違点2:本件発明1が,「レース前に,時間と共に変化する前記模型体又は前
記自走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」を有するの
に対し,引用発明は,そのような演算手段を有していない点。
 相違点3:本件発明1の自走体を制御する走行制御主体が「走行制御手段」であ
り,「走行制御手段が前記位置検出手段による検出位置と前記目標位置とに基づい
て,前記自走体の位置を前記目標位置に近づけるように前記自走体を制御する」の
に対し,引用発明の自走体を制御する走行制御主体は,オペレータであり,オペレ
ータが制御レバー38,39,40を手動操作して駆動車22のモーター25の速
度を制御することにより駆動車22の走行を制御する点。
 
(Ⅰ-b)相違点の検討
(ア)相違点1について
 刊行物4(甲第5号証)には,自動車,船舶,航空機等の移動体の現在位置,進
行方位を検出して移動体の自動運航,自動走行等に利用するための位置検出手段が
記載されている。また,例えば,特開昭62-105206号公報(周知例A)及
び特開昭63-65512号公報(周知例B)にも,移動体上の少なくとも2点の
位置を検出する位置検出手段が記載されている。このように,電気的・機械的な位
置検出手段により自走体の位置を検出する技術は,本件特許出願時の周知技術にす
ぎないものである。
 そうすると,引用発明の電気的レーシングゲームに,周知技術である前記電気
的・機械的な位置検出手段として,移動体上の少なくとも2点の位置を検出する位
置検出手段を適用することにより,前記相違点1に係る本件発明1の「前記自走体
上の少なくとも2点の位置を検出する位置検出手段」の構成を得ることは,当業者
が格別の困難を要せずに容易になし得ることである。そして,前記相違点1による
効果は,前記周知技術が奏する効果の範囲にとどまり,前記相違点1の構成による
格別の効果は認められない。
 
(イ)相違点2について
 例えば,一例として刊行物6に記載されているように,芝刈機等の無人走行作業
車の検出された位置情報に基いて無人走行作業車の自動走行すべき目標位置を所定
のアルゴリズムに従って演算する演算手段は,本件特許出願時における周知技術で
ある。
 また,例えば前記刊行物6に記載されているような,距離センサー及び方位セン
サー等の位置検出手段を有する無人走行作業車を,設定した走行コースに沿って自
動走行させるようにする,いわゆるフィードバック自動制御による無人走行作業車
の自動走行制御手段も,刊行物5の第19図~第23図記載の実施例として開示さ
れてもいるように,本件特許出願時における周知技術にすぎない。
 そして,このような無人走行作業車の自動走行制御手段において,走行コースの
目標位置情報を事前に入力することにより設定される走行コースの設定のときに,
事前に入力される前記走行コースの目標位置情報を基礎として,無人走行作業車の
目標とする走行コースについてする演算が,無人走行作業車の自動走行の前段階で
処理しておかなければならない工程であることは,当業者に自明のことであり,そ
して,無人走行作業車が自動走行することに伴って,絶えず無人走行作業車の座標
位置が時間と共に変化することになるのは当然のことである。
 そうしてみると,引用発明の電気的レーシングゲームに,周知技術である前記
「自走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」及び前記
「フィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走行制御手段」を適用する
ことにより,前記相違点2に係る「レース前に,時間と共に変化する前記自走体の
目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」を有する構成に変更す
ることは,前記の各周知技術を本件発明1のような競争ゲーム装置に適用するにあ
たって,格別の創意工夫があったものということはできないから,当業者が格別の
困難を要せずに容易に変更できることである。そして,前記相違点2による効果
は,前記各周知技術が奏する効果にとどまり,前記相違点2の構成が格別の効果を
奏するものと認めることができない。
 ところで,本件訂正明細書には,「工場内で製品等の荷物を運搬する無人運搬車
のような自走車」(本件特許明細書の1頁2欄15行~3欄1行の記載を参照),
及び「また,競馬,自動車レース等を模倣した従来の競争ゲームは,環状のトラッ
ク上を馬や自動車模型のような自走車を走らせて」(本件特許明細書の3欄14行
~同16行の記載を参照)のように記載されていて,本件訂正明細書には「競馬,
自動車レース等を模倣した従来の競争ゲームの環状のトラック上を走る馬や自動車
模型」の他にも「工場内で荷物を運搬する無人運搬車」が,本件発明1の「自走
体」に相当する「自走車」の例として挙げられていて,本件発明1は競争ゲーム装
置の自走体に前記工場内で荷物を運搬する無人運搬車に対して適用されていた自走
車の位置検出手段,演算手段,走行制御手段等の技術手段を応用したものであるこ
とが,本件訂正明細書に明記されていることから,本件訂正明細書における前記記
載は,無人走行作業車のような自走車のための一般的技術手段が,当然に本件発明
1のような競争ゲーム装置の自走体にも適用できることを示していることに他なら
ない。
 そして,本件発明1の「所定のアルゴリズムに従って」の構成が意味する技術上
の具体的内容は,本件訂正明細書に明確に定義されてなく不明であるところ,ここ
で,本件発明1の前記「所定のアルゴリズムに従って」の構成が,本件訂正明細書
に記載の「自動車レースゲーム装置側では,①1観客がベットした状況,②各自走
車に性格付けされた条件(先行型,追上型等),③ランダム性,④レースの面白
さ,等を考慮して走行テーブル46の内容を決定する(ステップS3)。」(本件
特許明細書の4頁7欄29行~32行の記載を参照。)を,仮にも意味するとした
場合であっても,前記①,②,③,④のようなゲーム展開に変化をもたらすための
「アルゴリズムによりゲーム展開を変化させる技術」をゲーム装置に採用すること
は,例えば,実願昭54-183699号(実開昭56-100748号公報)の
マイクロフイルム(周知例C),及び特開昭55-94276号公報(周知例D)
にも記載されているように,本件特許出願時の周知技術にすぎないことであるの
で,上記のようなアルゴリズムの一般的技術を競争ゲーム装置の分野に適用するに
あたって,格別の創意工夫があったものということができないので,本件発明1の
競争ゲーム装置にアルゴリズムの技術を採用することは,当業者が格別の困難を要
せずに容易に想到し得たことである。 
 なお,本件特許第2645851号に関する平成11年9月29日の訂正請求書
に添付された訂正明細書の中の訂正された部分以外の記載は,訂正前の本件特許明
細書の当該記載と共通であるので,上記の括弧内の注釈のように,平成11年9月
29日の訂正請求書に添付された訂正明細書の記載に代えて,本件特許明細書の当
該記載の参照を以て,本件訂正明細書の摘記記載の代用とする。
 
(ウ)相違点3について
 刊行物7に「例えば,複数の競走用自動車模型を環状レースコース上で走らせ
て,到着順次を競う競走遊戯装置は,従来から数多くあった。」(1欄22~24
行)と記載されているように,複数の馬,自動車等を模した模型体のそれぞれの移
動を制御して平面上を走行させることによって,それらの..
スピード,順位等を競い争い,勝負,優劣を決するレース展開を模倣し,遊戯者を
遊興させるという種類の競争ゲーム装置は,従来から数多くあったことが明らかで
ある。
 そして,この技術分野においては,例えば刊行物1に記載の電気的レーシングゲ
ームにみられるように,競争ゲーム装置における自走体の走行制御を,走行制御主
体としてのオペレータのような遊戯者に依存し,遊戯者に自走体の走行を制御させ
る競争ゲーム装置は,本件特許出願前の周知のものである。また,走行制御のすべ
てにわたって走行制御主体としての電気的・機械的制御手段に自走体の走行を制御
させる競争ゲーム装置も,例えば前記刊行物7に記載の被請求人の出願に係る発明
である競走遊戯装置にみられるように,本件特許出願前に周知であったものであ
る。
 さらに,本件訂正明細書には,「また,本発明を人が運転を操作するレーシング
カーゲームにも適用することができる。第12図は,本発明を適用したレーシング
カーゲームの基台2を上から見た状態を示している。基台2には図示のような8字
形状の道路90が形成されている。この道路90には,破線で示すような4コース
の走行ライン94をソフト的に設ける。すなわち,走行ライン94上の各位置の座
標値を走行テーブル46に格納することにより,走行ライン94を定める。本実施
例では,レ-シングカーの動きを操作者が完全に自由に操作するのではなく,レー
シング力-が上述の走行ライン94のいずれかに沿って動くという制限を設けてい
る。すなわち,レーシングカーは上述の走行ライン94のいずれかに沿って動くこ
ととし,操作者はどの走行ライン94を選択するか,分岐点でどの方向に動くかを
ハンドル操作により選択するようにする。また,スピードについても操作者に操作
させるようにしてもよい。通常,レーシングカ-を思うように操作するのは初心者
には大変難しく,車体の方向がまったく逆に向いたり,コースから外れて落ちたり
する。しかし,本実施例によれば,基本的な走行を装置側でコントロ-ルしている
ので,初心者でも簡単に操縦でき,しかも走行コースは目に見えないので,臨場感
が薄れることもない。」(本件特許明細書の5頁9欄27行~48行の記載を参
照)が記載されているのであり,本件発明の変形例についての本件訂正明細書にお
ける上記記載は,本件特許出願時に,「自動制御型式の競争ゲーム装置」と,前記
変形例のような「手動制御型式の競争ゲーム装置」との2つの制御型式が並存して
いたこと,及び,2つの制御型式が相互に設計変更可能であったことも明らかにし
ている。
 以上のことから,競争ゲーム装置においては,自走体の走行制御主体としての遊
戯者が手動操作により走行制御することができる「手動制御型式の競争ゲーム装
置」と,自走体の走行制御主体としての電気的・機械的制御手段に走行制御を委ね
る「自動制御型式の競争ゲーム装置」とが並存し,いずれの構成の競争ゲーム装置
も周知のものであることは,本件特許出願時の当業者の技術常識に属していたとい
うことができる。
 そうすると,競争ゲーム装置における自走体の走行制御型式を,引用発明におけ
るオペレータによる手動制御型式から,前記刊行物7に記載の周知技術である電気
的・機械的制御手段による自動制御型式に変更することにより,本件発明1のよう
な走行制御のすべてにわたって電気的・機械的制御手段に依存しながら競争ゲーム
装置における自走体の走行を制御する構成を得ることは,当業者が容易になし得る
ことである。
 そして,前記相違点3に係る「走行制御手段が前記位置検出手段による検出位置
と前記目標位置とに基づいて,前記自走体の位置を前記目標位置に近づけるように
前記自走体を制御する」技術は,上記「(イ)相違点2について」欄において示し
た周知の技術手段である,いわゆるフィードバック自動制御による無人走行作業車
の自動走行制御手段が記載されている刊行物5及び刊行物6ばかりでなく,刊行物
4,周知例A及び周知例Bにも記載されているように,本件特許出願時の周知の技
術手段である。
 そうしてみると,引用発明の電気的レーシングゲームにおけるオペレータによる
手動制御型式に代えて,周知の技術手段である電気的・機械的制御手段による自動
制御型式としての,いわゆるフィードバック自動制御による無人走行作業車の自動
走行制御手段による自動制御型式を採用することにより,前記相違点3に係る本件
発明1の「走行制御手段が前記位置検出手段による検出位置と前記目標位置とに基
づいて,前記自走体の位置を前記目標位置に近づけるように前記自走体を制御す
る」構成とすることは,前記周知技術を本件発明1のような競争ゲーム装置に適用
するにあたって,格別の創意工夫があったものということはできないから,当業者
が格別の困難を要せずに容易に変更できることであり,そして,前記相違点3によ
る効果も,前記周知技術の奏する効果にとどまり,前記相違点3の構成に格別の効
果が認められない。
 
(1-c)まとめ
 以上のとおり,前記相違点1~3に係る技術事項は,いずれも本件特許出願時の
周知技術であるか,若しくは前記周知技術に基づき当業者が容易に設計変更できる
事項であると認められ,引用発明に一般的な技術分野の前記周知技術を適用するに
際して当業者が特別の技術的工夫を要するものと認めることができない。そして,
本件発明1の奏する効果は,引用発明及び周知技術が奏する効果の範囲内であっ
て,格別のものではない。
 したがって,本件発明1は,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明
をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を
受けることができない。
 
 Ⅱ 本件発明2について
(Ⅱ-a)比較・対比及び一致点・相違点
 つぎに,本件発明2について検討する。
 本件発明2と前記本件発明1とを比較すると,一方の本件発明1は「競争ゲーム
装置」に係る物の発明であるのに対し,他方の本件発明2は「競争ゲーム装置の制
御方法」に係る方法の発明であり,両者は発明のカテゴリーの点で相違するが,両
者の相違は単に発明のカテゴリーに係る形式的な相違に過ぎず,実質上の構成の相
違を両者の間に認めることができない。
 そうすると,本件発明2と引用発明との対比の結果の一致点・相違点は,本件発
明1と引用発明との比較・対比の結果と実質的に同一のものとなるから,本件発明
2についての判断の結果は,本件発明1についての判断の結果と,結論において変
わることはない。
 
(Ⅱ-b)まとめ
 以上のとおり,本件発明2についても,上記「(1)本件発明1について」欄に
おいて前述したのと同様に,引用発明との相違点に係る技術事項は,いずれも本件
特許出願時の周知技術であるか,若しくは前記周知技術に基づき当業者が容易に設
計変更できる事項であると認められ,そして,本件発明2の奏する効果は,引用発
明及び周知技術が奏する効果の範囲内であって,格別のものではない。
 したがって,本件発明2は,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明
をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を
受けることができない。
 
第3 原告主張の審決取消事由
 審決は,刊行物1に記載された発明(引用発明)と本件発明1との対比におい
て,相違点1の判断を誤り(取消事由1),周知技術の認定を誤ったことにより,
相違点2,3の判断を誤り(取消事由2,3),周知技術の認定を誤ったことによ
り引用発明と本件発明2との対比において,相違点の判断を誤り(取消事由4),
ひいては進歩性の判断を誤ったものであるから,違法なものとして取り消されるべ
きである。
 1 取消理由1(相違点1の判断の誤り)
 (1) 審決は,「電気的・機械的な位置検出手段により自走体の位置を検出する技
術は,本件特許出願時の周知技術にすぎないものである。」と認定した上,「引用
発明の電気的レーシングゲームに,周知技術である前記電気的・機械的な位置検出
手段として,移動体上の少なくとも2点の位置を検出する位置検出手段を適用する
ことにより,前記相違点1に係る本件発明1の「前記自走体上の少なくとも2点の
位置を検出する位置検出手段」の構成を得ることは,当業者が格別の困難を要せず
に容易になし得ることである。」と判断したが,誤りである。
 (2) 引用発明に上記周知技術を適用するのは容易ではない。
 電気的・機械的な位置検出手段により自走体の位置を検出する技術は周知技術で
あるとした審決の認定を原告は否定するものではないが,引用発明の電気的レーシ
ングゲームでは,駆動車22又はこれに吸引される金属製目標体は,常に同じ固定
されたコース上のみを走行するから,その位置を検出する必要性がなく,引用発明
に上記周知技術を適用する動機づけは全く存在しない。
 また,「自走体の少なくとも2点の位置を検出する」ことは,自走体の位置だけ
でなくその向きをも検出することを意味しているところ,引用発明では,駆動車2
2の向きはレールにより規制されているので,駆動車22の「少なくとも2点」を
検出することは技術的に見て全く無意味である。
 以上の理由から,引用発明の電気的レーシングゲームに,周知技術である前記電
気的・機械的な位置検出手段として,移動体上の少なくとも2点の位置を検出する
位置検出手段を適用することは全く考えられず,このような周知技術の適用は到底
考えられないことである。
 2 取消理由2(周知技術の認定の誤りに基づく相違点2の判断の誤り)
 (1) 審決は,相違点2の判断において,刊行物6から「「自走車の目標位置を所
定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」は本件特許出願時における周知技術
である」と認定し,刊行物5から「「フィードバック自動制御による無人走行作業
車の自動走行制御手段」は本件特許出願時における周知技術である」と認定してい
るが,かかる周知技術の認定は誤りである。
 刊行物6の無人車誘導システムは,少なくとも一回は作業者が人為的に運転して
テイーチングを行い,以後は操作の度毎にテイーチングによって設定された走行コ
ースに沿って無人で倣い走行するものであり,「自走車の目標位置を所定のアルゴ
リズムに従って演算する演算手段」を開示も示唆もするものではない。
 刊行物5は,無人車誘導システムに関するものであり,その実施例には「誘導す
べき座標位置を指定し,指定座標位置と現在位置とを比較して演算処理し無人車を
当該指定座標位置まで誘導する」ことが記載されているが,指定される座標位置は
最終目標位置のみで,途中経路は指定されない。刊行物5における「最終到達点」
は定点であり「時間と共に変化する目標位置」ではないから,刊行物5は,本件発
明1のような「フィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走行制御手
段」を開示も示唆もするものではない。
 (2) 審決は,上記周知技術を前提として,「そして,このような無人走行作業車
の自動走行制御手段において,走行コースの目標位置情報を事前に入力することに
より設定される走行コースの設定のときに,事前に入力される前記走行コースの目
標位置情報を基礎として,無人走行作業車の目標とする走行コースについてする演
算が,無人走行作業車の自動走行の前段階で処理しておかなければならない工程で
あることは,であり,そして,無人走行作業車が自動走行する
ことに伴って,絶えず無人走行作業車の座標位置が時間と共に変化することになる
のはである。」と認定しているが,この認定は,相違点2における「レ
ース前に」や「時間と共に変化する目標位置」なる重要な要件を,具体的な刊行物
を何ら示すことなく「当業者に自明のこと」「当然のこと」と一方的に断じてお
り,全く失当である。
 (3) さらに,審決は,「引用発明の電気的レーシングゲームに,周知技術である
前記「自走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」及び前
記「フィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走行制御手段」を適用す
ることにより,前記相違点2に係る「レース前に,時間と共に変化する前記自走体
の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」を有する構成に変更
することは,前記の各周知技術を本件発明1のような競争ゲーム装置に適用するに
あたって,格別の創意工夫があったものということはできないから,当業者が格別
の困難を要せずに容易に変更できることである。そして,前記相違点2による効果
は,前記各周知技術が奏する効果にとどまり,前記相違点2の構成が格別の効果を
奏するものと認めることができない。」と結論づけているが,仮に「自走体の目標
位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」及び「フィードバック自動
制御による無人走行作業車の自動走行制御手段」が周知技術であるという審決の認
定を前提としても,引用発明にこれら周知技術を適用する動機づけは全く存在しな
い。
 すなわち,引用発明の電気的レーシングゲームは,駆動車22又は金属製目標体
34が常に同じ固定されたコース上を走行し,それ以外のところを走行することは
ない。そして,オペレータにより各駆動車22の速度を操作してレーシングゲーム
が行われ,駆動車22がどのように走行し,どのオペレータが操作する駆動車22
が先着するかは,レースが終了するまでオペレータを含め誰にも予測できない。
 このような引用発明の電気的レーシングゲームに,駆動車22の走行を予め規制
する「自走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」や「フ
ィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走行制御手段」なる周知技術を
適用したのでは,引用発明の電気的レーシングゲームが成立しないから,周知技術
を適用する余地はない。
 (4) 審決は,本件発明1の「所定のアルゴリズムに従って」について,実願昭5
4-183699号(実開昭56-100748号公報)のマイクロフィルム(甲
5の1,審決における周知例C),特開昭55-94276号公報(甲5の2,審
決における周知例D)を引用して,「アルゴリズムによりゲーム展開を変化させる
技術」をゲーム装置に採用することは,本件出願当時の周知技術にすぎない」旨,
認定し,「上記のようなアルゴリズムの一般的技術を競争ゲーム装置の分野に適用
するにあたって,格別の創意工夫があったものということができないので,本件発
明1の競争ゲーム装置にアルゴリズムの技術を採用することは,当業者が格別の困
難を要せずに容易に想到し得たことである。」と結論づけているが,誤りである。
 審決が周知例C,周知例Dのどの記載を根拠にして,本件発明1の「所定のアル
ゴリズムに従って」が周知技術であると認定しているか不明であるが,仮に,「ア
ルゴリズムによりゲーム展開を変化させる技術」が本件出願当時の周知技術である
としても,引用発明にこれら周知技術を適用する動機づけは全く存在しない。すな
わち,引用発明の電気的レーシングゲームでは,ゲーム展開はそのときに参加した
オペレータの操作や技量に依存しており,オペレータの操作に反して,何らかのア
ルゴリズムによりレース展開が決定することはあり得ないことである。
 
 3 取消理由3(相違点3の判断の誤り)
 (1) 審決は,本件発明1と引用発明とを比較し,「本件発明1の自走体を制御す
る走行制御主体が「走行制御手段」であり,「走行制御手段が前記位置検出手段に
よる検出位置と前記目標位置とに基づいて,前記自走体の位置を前記目標位置に近
づけるように前記自走体を制御する」のに対し,引用発明の自走体を制御する走行
制御主体は,オペレータであり,オペレータが制御レバー38,39,40を手動
操作して駆動車22のモータ25の速度を制御することにより駆動車22の走行を
制御する点」を相違点3として認定している。
 しかし,審決が,相違点3を認定する前提として,「自走体を制御する走行制御
主体」が本件発明1と引用発明との一致点であると認定していることは失当であ
る。審決によれば,引用発明の「走行制御主体」は「オペレータ」であり,引用発
明の「走行制御主体」は「走行制御手段」であるとされているが,そもそも,人間
であるオペレータと,ハードウェアである走行制御手段とが一致するはずがない。
 (2) 審決は,刊行物1から「「競争ゲーム装置における自走体の走行制御を,走
行制御主体としてのオペレータのような遊戯者に依存し,遊戯者に自走体の走行を
制御させる競争ゲーム装置」は本件特許出願前の周知のものである」と認定し,刊
行物7から「「走行制御のすべてにわたって走行制御主体としての電気的・機械的
制御手段に自走体の走行を制御させる競争ゲーム装置」も本件特許出願前に周知で
あったものである」と認定し,本件訂正明細書の5頁9欄27行~48行に記載さ
れた「本件発明の変形例」の記載を引用して,「本件特許出願時に「自動制御型式
の競争ゲーム装置」と「手動制御型式の競争ゲーム装置」との2つの制御型式が並
存しており,2つの制御型式が相互に設計変更可能であったことは明らかである」
と認定している。
 本件特許出願時に,刊行物1に記載されているような,駆動車22が物理的に固
定された環状トラック16,17,18のレール上のみを走行し,オペレータによ
り各駆動車22の速度を操作してレーシングゲームが行われる競争ゲーム装置(以
下便宜上「オペレータ操作型ゲーム装置」という。)が知られていたことを原告は
否定するものではない。また,本件特許出願時に,刊行物7に記載されているよう
な,オペレータの操作を排除して電気的・機械的制御手段により移動模型を制御さ
せる競争ゲーム装置(以下便宜上「オペレータ非操作型ゲーム装置」という。)が
知られていたことを原告は否定するものではない。
 しかしながら,オペレータ操作型ゲーム装置とオペレータ非操作型ゲーム装置と
は全く異質の設計思想によるものであって,それらが相互に設計変更可能であった
との認定は全くの失当である。本件訂正明細書における「本件発明の変形例」の記
載はその認定の根拠にはなり得ない。
 (3) オペレータ操作型ゲーム装置は,引用発明のように,プレイヤが駆動車を操
作し操作技術を競うタイプのゲーム装置であり,駆動車により牽引される目標体の
着順はプレイヤの技量により決定される。一方,オペレータ非操作型ゲーム装置
は,本件発明1のように,模型体の着順はゲーム装置自体が決定し,プレイヤは模
型体の着順を予想して投票し,着順及び入賞結果に応じて配当を得るもので,プレ
イヤが模型体の走行や着順決定に関与することはできない。
 このように,オペレータ操作型ゲーム装置とオペレータ非操作型ゲーム装置と
は,ゲーム装置に対するプレイヤの関与の仕方が全く異なるのであるから,工夫し
改良すべき点も全く異なり,その設計思想も相容れないものであるから,審決の判
断は失当である。
 上述したように,原告は,本件特許出願時に両方式の競争ゲーム装置が併存して
いたことを否定するものではない。しかしながら,両方式の競争ゲーム装置が併存
していたということと,両方式の一方から他方へと方式を変更することが適宜なし
得たということとは,全く別個のことである。
 引用発明のようなオペレータ操作型ゲーム装置は,その手動操作の優劣をプレイ
ヤ同士が競い合い楽しむものである。プレイヤにより手動制御することが競争ゲー
ム装置の要である。その要の手動操作の部分からオペレータを排除し,それを電気
的・機械的制御手段に置き換えたのでは,競争ゲーム装置の基本コンセプト(要)
が変質してしまう。競争ゲーム装置の基本コンセプトを変質させるような方向の技
術を組み合わせることは,その技術が仮に周知慣用技術であったとしても,当業者
にとって考えられないことである。
 オペレータ操作型ゲーム装置において,手動操作にしているのは技術が未熟であ
るからではなく,オペレータに手動操作させる必要があるからである。このこと
は,オペレータ操作型ゲーム装置が,技術が発達した現在においても,人気のある
競争ゲーム装置として定着していることからも明らかである。したがって,オペレ
ータ操作型ゲーム装置からオペレータ非操作型ゲーム装置にその方式を変更するこ
とは当業者が適宜なし得るとの審決の判断は失当である。
 (4) 審決は,「引用発明の電気的レーシングゲームにおけるオペレータによる手
動制御型式に代えて,周知の技術手段である電気的・機械的制御手段による自動制
御型式としての,いわゆるフィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走
行制御手段による自動制御型式を採用することにより,前記相違点3に係る本件発
明1の「走行制御手段が前記位置検出手段による検出位置と前記目標位置とに基づ
いて,前記自走体の位置を前記目標位置に近づけるように前記自走体を制御する」
構成とすることは,前記周知技術を本件発明1のような競争ゲーム装置に適用する
にあたって,格別の創意工夫があったものということはできないから,当業者が格
別の困難を要せずに容易に変更できることであり,そして,前記相違点3による効
果も,前記周知技術の奏する効果にとどまり,前記相違点3の構成に格別の効果が
認められない。」(審決20頁7~18行)と結論づけている。 
 しかしながら,上述したように,引用発明のようなオペレータ操作型ゲーム装置
からオペレータ非操作型ゲーム装置にその方式を変更することは,当業者が格別の
困難を要せずに容易に想到し得たということはできず,審決の判断は失当である。
 4 取消理由4(本件発明2の進歩性判断の誤り)
 審決は,本件発明2と引用発明との対比の結果の一致点・相違点は,本件発明1
と引用発明との比較・対比の結果と実質的に同一のものとなるから,本件発明2に
ついての判断の結果は,本件発明1についての判断の結果と,結論において変わる
ことはないとしたが,本件発明2についても本件発明1について主張したのと同様
の理由により,審決の判断は誤りである。
第4 被告の反論の骨子
 審決の認定判断に誤りはない。
 審決における各相違点についての判断は,いずれも,引用発明の電気的レーシン
グゲームにおけるオペレータによる手動制御型式に代えて,周知の技術手段である
電気的・機械的制御手段による自動制御型式としての,いわゆるフィードバック制
御型式に変更するに当たり,周知技術を適用することに格別の困難性がなかったこ
とを指摘する趣旨のものである。
 各相違点に係る構成については,引用発明の電気的レーシングゲームにおけるゲ
ーム装置において,駆動車の走行を自動制御してみようというごく自然な発想を出
発点として(人間が操作していた各種の走行体の走行制御の全部又は一部について
コンピュータによる自動制御を行うこと自体は,本件特許出願時には広く行われて
いたことである。),コンピュータによる自動制御を行うために周知のフィードバ
ック走行制御が当然必要となり(相違点3に関連),かかるフィードバック走行制
御を行うための必須の構成として,現在位置を検出する手段(相違点1に関連)
と,あらかじめ目標位置を演算して決定しておく手段(相違点2に関連)が必要に
なるという論理的関係があるところ,本件発明は,刊行物1で公知の電気的レーシ
ングゲーム用自走車の走行をコンピュータにより自動制御するというありふれた目
的を,周知技術の寄せ集めにより実現しようとしているものにすぎない。
第5 当裁判所の判断
 原告主張の取消事由3,1,2,4の順に検討する。
 1 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について
 (1) 原告は,審決が,相違点3を認定するのに先立ち,本件発明1と引用発明が
ともに「走行制御主体」を備えることを一致点と認定したことが誤りであると主張
する。
 しかし,審決は,本件発明1と引用発明とがいずれも「自走体を制御する走行制御
主体」の存在を前提しているという限度で,両者の共通点を把握し,自走体を「オ
ペレータ」が制御するか「走行制御手段」が制御するかの違いを相違点3として認
定した上で,当該相違点3について,引用発明におけるオペレータによる手動制御
型式に代えて,周知の技術手段である電気的・機械的制御手段による自動制御型式
としての,フィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走行制御手段によ
る自動制御型式を採用することにより,前記相違点3に係る本件発明1の構成とす
ることは,前記周知技術を本件発明1のような競争ゲーム装置に適用するにあたっ
て,格別の創意工夫があったものということはできないから,当業者が格別の困難
を要せずに容易に変更できることであると判断しており,この相違点3の判断にお
いて,原告の主張する「オペレータ」(人間)と「走行制御手段」(ハードウェ
ア)の違いを考慮しているということができる。したがって,原告が主張する点
は,相違点3の判断に影響を及ぼすものではない。
 (2) 原告は,審決が相違点3について,競争ゲーム装置においては,遊技者が手
動操作により走行制御をすることができる「手動制御型式の競争ゲーム装置」と,
走行制御のすべてにわたって電気的・機械的制御手段に走行制御を委ねる「自動制
御型式の競争ゲーム装置」とが並存し,いずれの構成の競争ゲーム装置も周知のも
のであるから,競争ゲーム装置における自走体の走行制御型式を手動制御型式から
自動制御型式に変更して本件発明1のような構成を得ることは当業者が容易になし
得ることであると判断したことに対し,両者は全く異質の設計思想によるものであ
るから,それらが相互に設計変更可能であったとの判断は誤りであると主張する。
 しかしながら,「手動制御型式の競争ゲーム装置」と「自動制御型式の競争ゲー
ム装置」のいずれの構成の競争ゲーム装置も本件特許出願当時周知であったこと
は,審決挙示の証拠から優に認めることができ(この点につき,原告も特段争って
いない。),このような両制御型式が競争ゲーム装置において併存していた状況の
下では,競争ゲーム装置における自走体の制御を,オペレータによる手動制御か
ら,周知技術である電気的・機械的制御手段による自動制御に変えてみようとする
ことは,競争ゲーム装置の開発者であれば容易に発想することというべきであっ
て,そのこと自体に困難性があるとはいえない。
 また,「走行制御手段が位置検出手段による検出位置と目標位置とに基づいて,
自走体の位置を目標位置に近づけるように自走体を制御する技術」(いわゆるフィ
ードバック自動制御)は,「無人車誘導システム」の発明を記載した刊行物5,
「無人走行作業者」の発明を記載した刊行物6,自動運転や自動走行等に有効に利
用されうる移動体の位置検出方法に関する発明を記載した刊行物4,「無人誘導車
の誘導装置」の発明を記載した特開昭62-105206号公報(甲4の1,審決
における周知例A)及び「車両の走行自動化システム」の発明を記載した特開昭6
3-65512号公報(甲4の2,審決における周知例B)に照らすと,本件特許
出願時の周知技術と認められるから,このような周知のフィードバック自動制御の
技術を,競争ゲーム装置における自走体の走行制御に用いてみようとすることも,
当業者にとっては自然な発想ということができる。
 そうすると,引用発明の競争ゲーム装置において手動制御型式に代えて自動制御
型式を採用し,その採用に当たり,自走体の自動制御手段として,「走行制御手段
が位置検出手段による検出位置と目標位置とに基づいて,自走体の位置を目標位置
に近づけるように自走体を制御する技術」構成とすることは,当業者が容易に想到
し,格別の創意工夫を要することなく行い得たことというべきである。
 (3) 原告は,引用発明のようなオペレータ操作型ゲーム装置は,その手動操作の
優劣をプレイヤ同士が競い合い楽しむものであって,プレイヤにより手動制御する
ことが競争ゲーム装置の要であるにもかかわらず,その要の手動操作の部分からオ
ペレータを排除し,電気的・機械的制御手段に置き換えたのでは,競争ゲーム装置
の基本コンセプト(要)が変質してしまうから,競争ゲーム装置の基本コンセプト
を変質させるような方向の技術を組み合せることは,その技術が仮に周知慣用技術
であったとしても,当業者にとって考えられないことであると主張する。
 しかしながら,周知の「手動制御型式の競争ゲーム装置」と「自動制御型式の競
争ゲーム装置」とは,自走体の走行の制御型式は異なるが,いずれも自走体を競争
させて遊技者が楽しむゲーム装置である点で共通する。そして,このような競争ゲ
ーム装置において,当業者の観点からみた開発の要は,遊技者をいかに楽しませる
かであって,遊技者を楽しませるために競争ゲームに種々のコンセプトを取り入
れ,それを装置として実現することは当業者であれば当然に試みることと考えられ
る。たとえ手動操作の部分を自動化することによって,原告のいうところのゲーム
のコンセプトが変質するとしても,そのことは,当業者が引用発明に自動制御型式
を採用することを妨げる理由とはならないというべきである。この点に関する原告
の主張は,採用することができない。
また,オペーレータの操作や技量にゲーム展開が依存している引用発明に「アル
ゴリズムによりゲーム展開を変化させる技術」を適用する動機づけがない,という
原告の主張(前記第3の2(4))は,ゲームのコンセプトを変更するような技術を
採用することの困難性をいうものであるが,上記と同様の理由により,採用するこ
とができない。
(4) 以上のとおりであるから,取消事由3は理由がない。
 2 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
 (1) 原告は,引用発明に「電気的・機械的な位置検出手段により自走体上の少な
くとも2点の位置を検出する」という周知技術を適用することについては,その動
機づけも技術的意味も存在しないから,引用発明に上記周知技術を適用して相違点
1に係る本件発明の構成とすることが容易であるとした審決の判断は,誤りである
と主張する(なお,「電気的・機械的な位置検出手段により自走体上の少なくとも
2点の位置を検出する技術」が本件特許出願時の周知技術であったことは,審決挙
示の刊行物4,周知例A及びBから優に認めることができ,原告も特に争っていな
い。)。
 しかしながら,引用発明の走行制御型式を電気的・機械的制御手段による自動制
御方式に変更するに当たり,「走行制御手段が位置検出手段による検出位置と目標
位置とに基づいて,自走体の位置を目標位置に近づけるように自走体を制御する技
術」を採用することは当業者が容易になし得たことと判断されることは,前示のと
おりである。そして,その際に,自走体の位置検出手段として,「移動体上の少な
くとも2点の位置を検出する位置検出手段」という周知の手段を採用することも,
当業者が適宜なし得たことにすぎないというべきである。
 (2) 原告は,引用発明の自走体が常に固定されたコース上のみを走行し,走行の
向きもレールにより規制されているから,引用発明に「自走体上の少なくとも2点
の位置を検出する技術」を適用する動機づけがないと主張する。
 しかしながら,自走体の走行態様を,固定されたコース上のみを走行する態様か
ら他の態様へと変更することも,当業者がゲームに新たな興趣を導入しようと試み
る場合には,当然考慮の対象となる選択肢の1つであるということができる。そう
である以上,周知の「自走体上の少なくとも2点の位置を検出する技術」を引用発
明に適用することは,当業者であれば当然採用を試みる技術的選択肢の一つにすぎ
ず,動機づけがないということはできない。
 (3) 以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。
 3 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について
 (1) 前提となる周知技術の認定について
  ア 原告は,審決が刊行物6から無人走行作業車の自動走行すべき目標位置を
所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段は本件特許出願時における周知技術
であると認定したことに対し,刊行物6の無人車誘導システムは,少なくとも一回
は作業者が人為的に運転してテイーチングを行い,以後は操作の度毎にテイーチン
グによって設定された走行コースに沿って無人で倣い走行するものであり,「自走
車の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」を開示も示唆もす
るものではないとして,審決の認定は誤りであると主張する。
 しかしながら,本件発明1における「アルゴリズム」は,請求項1に「所定のア
ルゴリズム」と規定されているだけで,そのアルゴリズムの具体的内容が規定され
てるわけではないから,相違点2に係る「目標位置を所定のアルゴリズムに従って
演算する演算手段」は,自走体を走行させる際の自走体の目標位置を何らかの規則
に従って演算する手段,という以上のものと解することはできない。
 刊行物6の無人車誘導システムは,テイーチングによって設定された走行コース
に沿って無人で倣い走行するものであるとしても,無人走行車(自走体)の目標位
置を何らかの規則にしたがって演算する手段を有することは明らかであるから,刊
行物6には,「自走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手
段」が開示されていると認められる。
  イ また,原告は,審決が刊行物5から,「距離センサー及び方位センサー等
の位置検出手段を有する無人走行車を,設定した走行コースに沿って自動走行させ
るようにする,いわゆるフィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走行
制御手段」は,本件特許出願時における周知技術である,と認定したことに関し
て,刊行物5の無人車誘導システムは,「誘導すべき座標位置を指定し,指定座標
位置と現在位置とを比較して演算処理し無人車を当該指定座標位置まで誘導する」
が,指定される座標位置は最終目標位置のみで,途中経路は指定されず,その最終
到達点は定点であって「時間とともに変化する目標位置」ではないから,刊行物5
は,本件発明1のようなフィードバック自動制御による無人走行作業車の自動走行
制御手段を開示も示唆もするものではないと主張する。
 本件発明1の「時間と共に変化する・・・目標位置」は,本件特許公報(その発
明の詳細な説明欄の記載及び図面は本件訂正明細書のものと実質的に変更はないの
で,審決に倣い本件特許公報の該当個所の引用をもって本件訂正明細書の引用に代
える。)の第4図(a)及び(b)に示される走行ルート及び走行テーブル並びに
「走行テーブル46は,所定の走行ルートに沿い,所定の速度で動く自走車10の
制御周期毎の位置座標を格納したものである。この位置座標が自走車10の目標位
置の座標となる。・・・すなわち,各自走車10の各時刻における目標位置の座標
値から走行テーブル46は構成されている。」(甲2の1の5欄34行~41行)
との記載に照らすと,走行中の各時点(t0,t1,t2・・・)における座標上
の目標位置であると解される。そして,「走行テーブル46の内容は,レースのた
びに所定のアルゴリズムに従って作成してもよいし,多数種類の走行テーブルを用
意しておいて選択してもよい。」(同7欄37行~40行)との記載によれば,各
時点における座標上の目標位置は,レースが始まる前に走行ルートとして予め設定
されるものであると認められる。
 一方,刊行物5記載の無人車誘導システムは,その実施例についての説明「処理
装置150に・・・無人車120を誘導すべき座標位置を入力する。処理装置15
0は,座標位置検出装置110より無人車の現時点の座標位置を読み込む。・・・
処理装置150は指定位置と現座標値とを比較し演算処理し,必要な制御コード
を・・・送出する。・・・・これによりモータ122,123が駆動され無人車1
20が指定座標位置まで誘導される。」(7頁左上欄12行~右上欄14行)によ
れば,「誘導すべき座標位置を指定し,指定座標位置と現在位置とを比較して演算
処理し無人車を当該指定座標位置まで誘導する」ものであると認められるから,刊
行物5に,無人走行車を「現時点の座標値」から「誘導すべき座標位置」まで自動
走行させるという意味で本件発明と同様の「フィードバック自動制御による無人走
行作業車の自動走行制御手段」が開示されていることは明らかである。
 ウ 以上によれば,審決が相違点2についての判断において前提とした周知技
術の認定に誤りがあるということはできない。
 (2) 相違点2の判断について
  ア 原告は,審決が,相違点2の「レース前に」,「時間と共に変化す
る・・・目標位置」という重要な要件を具体的な刊行物を何ら示すことなく,「当
業者に自明のこと」「当然のこと」と一方的に断じたと主張する。
 しかしながら,例えば刊行物5には,「無人車11は経路上の位置17-0にあ
るものとする。ここで無人車11を他の位置,例えば17-30へ移動させたい場
合,まずオペレータが前記位置指定用磁石10をタブレット40上の配置図の位置
17-30へ置く。座標入力装置4は該磁石10のX及びY座標値をコンピュータ9
2へ送出する。コンピュータ92はこのX及びY座標値に対応する磁気標識14の標
識信号即ち(30)・・・をメモリ91より読み出し,移動すべき位置を指定す
る。次にコンピュータ92は位置検出装置2より現在の標識信号を入力する。ここ
では標識信号が(0)であるから移動すべき位置17-30までのコースのうち短
い方,即ち17-0→17-10→17-20→17-30へと移動するコースを
メモリ91より選択する。」(6頁左上欄11行~右上欄10行)と記載されてお
り,この記載に見られるように,「無人走行作業車の自動走行制御手段において,
走行コースの目標位置情報を事前に入力することにより設定される走行コースの設
定のときに,事前に入力される前記走行コースの目標位置情報を基礎として,無人
走行作業車の目標とする走行コースについてする演算が,無人走行作業
車の自動走行の前段階で処理しておかなければならない工程であること」は,技術
常識に照らして当然のことであって,これを「当業者に自明のこと」とした審決の
認定に誤りはない。
 また,技術常識からして,「無人走行作業車が自動走行することに伴って,絶え
ず無人走行作業車の座標位置が時間と共に変化することになるのは当然のことであ
る。」とした審決の認定にも誤りはない。
  イ 原告は,引用発明の電気的レーシングゲームは,駆動車22又は金属製目
標体34は常に同じ固定されたコース上を走行し,どのオペレータが操作する駆動
車22が先着するかはレースが終了するまで誰にも予測できないものであるから,
これに駆動車22の走行を予め規制する「自走体の目標位置を所定のアルゴリズム
に従って演算する演算手段」や「フィードバック自動制御による無人走行作業車の
自動走行制御手段」という周知技術を適用する動機づけはなく,これらの周知技術
を適用したのでは引用発明の電気的レーシングゲームが成立しないと主張する。
 しかし,取消事由1に対する判断中で示したように,当該技術分野の当業者は,
従来のゲーム装置より面白いものを実現するために,従来のゲーム装置の発想にと
らわれることなく,新たな観点から様々な技術の採用を試みるというべきであり,
しかも,引用発明に新たな技術事項を適用する際の観点は,より面白いゲーム装置
を実現できるかどうかであることは明らかであるから,引用発明の電気的レーシン
グゲームが成立しないとしても,そのことは,新たな技術事項を採用することの妨
げになるとはいえない。当業者にとっては,駆動車22の走行を予め規制すること
も,より面白いゲーム装置を実現する際に新たな観点から採用を試みる技術的選択
肢の一つにすぎない。
 そして,引用発明の駆動車22(自走体)に,自走体の走行制御に係る上記「自
走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って演算する演算手段」及び「フィード
バック自動制御による無人走行作業車の自動走行制御手段」という周知技術を採用
することに格別の困難性は見出せない。
 また,引用発明に上記周知の「自走体の目標位置を所定のアルゴリズムに従って
演算する演算手段」を採用するに当たり,その演算を「レース前に」するようにす
ることは,該周知技術を採用する際の当然の付随事項にすぎない。
 さらに,「無人走行作業車が自動走行することに伴って,絶えず無人走行作業車
の座標位置が時間と共に変化することになる」のは,当然のことであって,例えば
特開昭62-105206号公報(甲4の1,審決における周知例A)に,「12
は移動量演算手段11で演算した結果に基づいて無人誘導車3の現在位置と無人誘
導車3が到達すべき位置との偏差を求める偏差演算手段,13は偏差演算手段12
に到達すべき位置を伝達する指令手段で,必要に応じて一連の移動位置を指定でき
る。」(2頁左下欄18行~右下欄3行)と記載されているように,フィードバッ
ク自動制御による無人走行車の目標位置を「時間と共に変化する目標位置」とする
ことは,周知の事項と認められる。引用発明に上記周知の「フィードバック自動制
御による無人走行作業車の自動走行制御手段」を採用するに当たり,自走体の目標
位置を「時間と共に変化する目標位置」とすることは,該周知技術を採用する際の
当然の付随事項にすぎない。
(3) 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由2は理由がない。
 4 取消事由4(本件発明2の進歩性についての判断の誤り)について
 原告は,本件発明2についても,本件発明1についての上記取消理由1~3と同
じ理由により,審決は,周知技術の認定を誤り,その結果,本件発明2と引用発明
との対比において,相違点の判断を誤り,ひいては進歩性の判断を誤ったものであ
るから,審決は違法なものとして取り消されるべきであると主張する。
 しかしながら,請求項1及び2を検討すると,本件発明2と本件発明1とは,単
に発明のカテゴリーに係る形式的な点で相違するにすぎず,両者の間に実質上の構
成の相違を認めることはできない。したがって,本件発明2と引用発明の一致点及
び相違点は,本件発明1と引用発明の一致点及び相違点と実質的に同一のものとな
ることが明らかであって,本件発明2についての判断の結果は,本件発明1につい
ての判断の結果と結論において変わることはないというべきであり,これと同旨の
審決の判断に誤りはない。。
 よって,原告主張の取消事由4も理由がない。
第5 結論
 以上のとおり,原告主張の取消事由1ないし4はいずれも理由がないから,原告
の請求は棄却されるべきである。
 東京高等裁判所第18民事部
       裁判長裁判官     塚   原   朋   一
裁判官     古   城   春   実
          裁判官     田   中   昌   利

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