弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金三万円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金千円を一日に換算した期間被
告人を労役場に留置する。 訴訟費用は原審及び当審とも全部被告人の負担とす
る。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人椎木緑司、同岡沢完治、同末永善久共同作成の控訴趣
意書及び同補充書に記載のとおりであるからこれを引用する。
 控訴趣意中、事実誤認、法令適用の誤の主張について
 所論は要するに、原判決は、本件事故当時の具体的状況ことに、被告人の自動車
の速度、被告人が被害者を発見したときの彼我の距離、その際における被害者の佇
立位置、その動静、現場の道路、交通の状況等についての認定に誤りがあり、その
誤つた認定事実を前提に、かつ、被害者が満六才の児童であつたことを重視して、
本件事故について被告人に過失の刑責を認めたけれども本件は、被害者が道路を横
断する等の危険な行動をすることは全く予見不可能な状況にあつたのであるから被
告人に原判示のような注意義務はない。また本件はいわゆる信頼の原則の適用せら
るべき事案であつて、被告人には右事故について過失の刑責はないから被告人は無
罪であるというにある。
 よつて、記録を精査し、原判決挙示の各証拠及び当審における事実調べの結果を
総合すると、被告人は昭和四二年九月一三日午後二時五分頃、普通乗用自動車を運
転して、原判示国道A号線の東行車道を東進中高槻市a町の交差点の手前にさしか
かつた際同交差点の対面信号が黄色の表示を示していたため、同所の横断歩道の手
前で一たん停車し、一般の通行人と、下校中の学童数名が右横断歩道を左から右に
渡り、かつ、対面信号が青色に変るのを待つて、発進し、右東行車道の中央より稍
々右寄りの箇所を時速約三〇キロメートルで東進し、徐々に加速進行し、約三〇メ
ートル進行した頃、約二〇メートル左前方の車道に接して歩道上に設けられた幅員
約九〇センチメートルのグリーンベルトの樹木の陰に、ランドセルを背負い、黄色
い帽子をかぶつた下校途上の被害者B(当時六才)が一歩踏み出せば直ちに車道に
降りられるほどの右端に立つており、被告人の自動車の接近にも気付かぬ様子で対
向の西行車道の方を見ているのを発見したが、被告人は、同被害者が自己の進路前
方を横断するようなことはあるまいと考えて、警音器を吹鳴して警告を与えるよう
なこともせずまた特別その動静を注視することなく、その儘加速進行し、時速約三
八キロメートルに加速された項、被害者が道路を右側に横断しようとして右斜めに
走り出して来ているのをその左方直前にはじめて発見し、危険を感じ急遽ハンドル
を稍々右に切つて衝突を避けようとしたが及ばず被害者に自車左前部を接触させ、
約七メートル左前方に跳ね飛ばし、因つて同日午後七時四五分大阪医大病院で腰部
打撲に基づく骨艦骨折に因り死亡するに至らしめたことが認められる。
 所論は、被告人の発進直後の速度は約四〇キロメートルであり、被害者を発見し
てから時速約二〇キロメートルに減速したというけれども、これを認めるに足りる
証拠はなく、却つて本件の場合、被告人が交差点手前で一たん停車して、発進直後
のことであること、被害者を発見した際被告人自らその時の自車の速度を速度計に
より確認しているばかりでなく、事故後被告人は本件の取調べに当つた警察官と共
に自車のセカンドの場合の速度を実地に検査し、事故当時の速度が前記認定のとお
りであつたことを再確認していること等に徴すると右の所論はとうてい採用できな
い。次に所論は、被告人が、被害者を発見した際における彼我の距離は約一九・八
メートルであつた旨主張するけれども、司法巡査の実況見分調書、原審の検証調
書、ならびに当審の検証調書を総合すると被告人が前記交差点手前で停車していた
地点から、被害者の佇立していたと認められる地点までの距離は、約五五メートル
余あることが認められるところ、被告人は事故直後の司法巡査による実況見分の際
には約一九・八メートル手前で被害者を発見したと説明、指示しており、一方、原
審公別廷(第四回公判)においては、発進後約三〇メートル進行した頃被害者を発
見したというのであり、さすれば約二五メートル手前で発見したことになるのであ
るが、これを裏づけるが如く、検察官に対しては現場においてその地点を指示して
実測した結果に基づいて約二四・一メートル手前であると述べ、しかも二、三メー
トルの誤差があると思うし、実況見分の際には一九・八メートル手前となつている
点からみて約二〇メートル手前であつたことは間違いないと述べているのであつ
て、これらの指示説明、供述を彼此考え合せると、被告人が被害者を発見したのは
その約二〇メートル(それも以下ではなく以上とみるべきであろう)手前であつた
ものと認めるのが相当であるからこれに反する所論は採用できない。次に所論は、
被害者を発見した際直ちに警笛を吹鳴したといい、被告人も当審公判廷において、
所論にそう供述をしているけれども、他の関係証拠ことに被告人の司法巡査に対す
る昭和四二年九月一四日付供述調書中の供述内容、ならびに右の主張、弁解は、原
審において全くなされておらず、当審においてはじめて、これがなされたものであ
ること等に徴し、たやすく信用し難いから右の所論も採用することができない。次
に所論は、被害者の佇立していた位置について、グリーンベルトの中程であつて、
右端ではないと主張するけれども、被告人は原審において本件事故後間もなく自ら
撮影したグリーンベルトの写真に被害者が立つていた位置であるとして、グリーン
ベルトの側端(車道寄り)に赤い棒線を太く記入して提出し(第四回公判)、さら
に、検察官に対する供述調書に添付の写真「1」を示して被害者の立つていたのは
この写真のメジヤーを当てている位置であると供述し(第五回公判)それによると
前同様それはグリーンベルトの側端(車道寄り)であるから被害者の立つていたの
は前認定の位置であると認めるのが相当である。右に反する被告人の当審検証の際
における指示説明、当審公判廷の供述は信用し難いから右の所論も採用できない。
また所論は、被害者は、被告人の自動車の方を「チラツと見た」のでその接近に気
付いていたと主張するけれども被告人は原審公判廷において被害者が自分の方を振
返つたのは見届けていない(第四回公判)し、私の方をチラツと見たことはない
(第五回公判)旨供述しており、また原審証人Cも、被害者はこちら(被告人)の
方を向いたようであるがそれは走り出した後衝突直前のことである旨証言している
点からみて被害者は所論のように、グリーンベルトに佇立していた時点においてす
でに被告人の自動車の接近に気付いていたとは認められない。被告人の司法巡査に
対する供述及び当審公判廷における供述中所論にそう供述はたやすく信用し難い、
したがつて右の所論も採用できない。次に所論は、被害者は、「突然略々直角に、
全力疾走で」飛び出して来たもので「斜に小走り」していたものではないと主張す
るけれども、被害者が突然グリーンベルトから走り出して来たことはさきに認定し
たとおりであり、その方向が被告人からみて右斜めであつたことも前掲実況見分調
書の被害者の佇立していた位置と接触地点とを比較することによつて自ら明らかで
ある。ただ、右の走り方が「小走り」であつたか「全力疾走」であつたかはともか
くとして「走り出して」来た(飛び出して来たといつてもよい。)ことは否定し難
いところであつて、それは単なる言葉の綾の問題であり、このことによつて被告人
の過失の有無に何ら影響はないから原判決が所論のように「小走り」と認定したと
しても特にこれを違法とすべきものではない、この点の所論も採用できない。さら
に所論は、被告人が飛び出したのを発見した位置はその約九メートル(一方では
五・三メートルともいう。)手前である旨主張する。この点について被告人は、司
法巡査の実況見分の際には約一二・四メートル手前であると指示説明し、検察官に
対しては衝突地点の一メートル足らず手前であると供述し、さらに原審公判廷にお
いては、停車地点から発進後約三〇メートル進行して、被害者を発見し、さらに約
一〇メートル進行して被害者に衝突し、被害者が跳ね返つた時にはじめて被害者に
気がついたのであつて、それまでは被害者の姿は自分の視界の範囲になかつた旨供
述し(第四回公判)、当審における検証の際においては一転して約一〇メートル手
前で発見した旨指示説明し、当審公判廷においても同趣旨の供述をするに至つてい
るのである。このように被告人の供述は供述する度毎に変つていて、そのいずれが
信用できるかにわかに判断し難いのであるが、衝突直前の被告人の自動車の速度が
さきに認定したとおり時速約三八キロメートル(秒速約一〇・六メートル)であ
り、前掲実況見分調書によると被害者は三メートルばかり走つて被告人の自動車と
接触していること、接触した時点における被告人の自動車の位置がその直前の位置
に比較して稍々中央線寄りであつて被告人が接触直前に被害者を発見してハンドル
を稍々右に切つたことがうかがわれること等から判断すると、司法巡査による実況
見分の際における指示説明が事実に合致するよらにも思われるけれども、その反面
ハンドルを右に切つているとはいえ、その度合いは極めて浅く、被害者を発見した
ときには急制動の措置もとる間もなく、被害者を七・二メートルも前方に跳ね飛ば
すほどの勢で接触していることを考えると、一二・四メートルもの手前で被害者を
発見していたとは考えられない。むしろ被告人は被害者が走り出した際には、これ
に気付かず、走り出したのちこれに気付きしかもそれが避けるいとまもないほど直
前(その距離はにわかに確定することはできない。このことは被告人の供述の変遷
によつても自ら明らかである。)であつたため遂に接触したものと認むべきが相当
である。この点の所論も採用できない。以上のとおりであるから被告人の自動車の
速度、被告人が被害者を発見したときの彼我の距離、その際における被害者の佇立
位置、その動静、についての原判決の認定には所論のような事実誤認はない。た
だ、原判決が被害者が走り出しているのを左前方約一メートルの地点に発見した旨
認定したのは稍々妥当ではないがこれも前認定と同趣旨と認められないことはない
から、これを以て事実誤認であるともいい難い。
 そこで、本件事故について被告人の過失の有無について検討する。
 本件事故の具体的状況は、さきに認定したとおりであつて、すなわち、被告人
は、原判示国道を時速約三〇キロメートルで進行中左前方約二〇メートルのグリー
ンベルトの右端に一歩踏み出せば車道に降りられる位置に満六才の被害者が被告人
の自動車の接近にも気付かぬ様子で対向車道の方を向いて佇立しているのを認め、
しかも被告人自身被害者が下校途上の低学年の児童であることも認識していたので
あるが、このような場合、自動車運転者としては、被害者が成人であればともか
く、右のような学童はその年令から考えて、いつ、不測の行動に出るかも知れない
ことを慮り、警音器を吹鳴して警告を与える等その挙動に周到な注意を払うととも
に、いつでも停車できるように減速、徐行し以て事故の発生を未然に防止すべき業
務上の注意義務があるものというべきである。
 ところで所論は、本件現場の道路ならびに交通の状況、被害者の佇立していた位
置、最近の学校教育における交通教育の実情ことに現場には学童用に押釦式信号機
が設置されており、本件事故直前被害者と同級生の一団がこれに従つて正規に横断
歩道を渡つたのを被告人は現認していること等の具体的状況下においては、被害者
が児童とはいえ、車道に飛び出して横断する危険な行動をすることはおよそ予見す
ることは不可能であつたものであるから前記のような注意義務はないというのであ
る。なるほど、本件現場は大阪、京都を結ぶ国道A号の幹線道路であつて、車両の
交通の激しい場所であること、被害者の飛び出して来た場所は歩道上に設けられた
グリーンベルトの中であつたこと、本件事故直前その現場に最寄りの横断歩道を被
害者と同級生の学童数名が正規に渡つたのを被告人も現認していたことは所論のと
おりである。しかしながら、当時対向車道には所論のように、横断が全く不可能な
ほど車両の交通が激しかつたことは疑いなきを得ない。すなわち、被告人はこの点
について、司法巡査に対して「当時交通量は普通で、対向車は少しずつ来ていた」
旨供述し(昭和四二年九月一三日付供述調書)、次で検察官に対しては「対向車道
には実況見分調書添付見取図1点の右斜前方普通乗用者二台分位の車長の位置に一
台、その後方に同じく三台分位の間隔をおいて一台、またその後方に同じ位の間隔
で一、二台の各対向車両が徐行して進んで来た」旨供述し(同月二七日付供述調
書)ていたが原審公判廷においては、反対車線には重なつた状態または一車位の間
隔で四、五台が続いて来ていた(第四回公判)また五、六台、あるいは六、七台が
流れて来ていた(第五回公判)旨供述し、さらに当審公判廷においては、トラツク
や乗用車が六、七台来ていた旨供述しているのであつて、その供述は必ずしも一貫
していない。これに対して原審証人Cは「反対車道は自動車は一〇メートルないし
一五メートル間隔で割合沢山来ており、その間を横断することは危険で無理気味だ
つた」旨証言しているほか被告人の自動車に先行する車両はなく、後方には数台あ
つた程度であつた旨証言しているのである。これらを総合すると、当時対向車道に
は数台の自動車が進行して来ていて、道路を横断することは危険であつたことは認
められるけれども、所論のように、横断は全く不可能と考えるほど激しいものであ
つたとは考えられない。また、被害者の走り出して来た場所は、さきに認定したと
おりグリーンベルトの中で、当審検証の結果によると、最寄りの前記横断歩道から
約四〇メートル東方の地点であつて、必ずしも道路交通法一二条二項にいう「横断
歩道がある場所の附近」とはいい難く、また同法一三条二項により特に横断禁止場
所として指定された場所であることの証拠はないけれども、そこは、グリーンベル
トの中であることを考慮すると、一般的には横断を禁止された場所と同視できない
ことはないのである。
 (したがつて原判決が本件現場に横断禁止の場所ではなく、最寄りの横断歩道ま
で約五〇メートル離れている旨説示しているのは誤りであるけれども、この点は本
件の場合特に過失の判断に影響はない。)。そして右の各事情を考え合わせると、
成人の場合には、恐らく身の危険を冒して道路を横断することは一般的に予見し難
いものと考えられるけれども、本件のように満六才の低学年の学童の場合は、成人
と同一に論ずることはできないのである。すなわち、このよらな児童は、原判決も
説示するように老人、酩酊者などと同様、事物に対する正確な認識、判断をする能
力に乏しく、したがつて、これらの者に適切な行動を期待することができないのが
通例であつて、そのため、これらの者は自動車の接近に気付かず、あるいは気付い
たとしても危険を無視し、またはこれを察知しないで横断をする等の不測の行動に
出るかも知れないことは容易に予見し得るところといわなければならない。本件の
場合被害者は満六才に過ぎない学童であるばかりかさきに認定したように歩道を歩
行中に突然走り出して来たといらのではなくグリーンベルトの右端で一歩踏み出せ
ば車道に降りられる地点に立つという異常な態度を示していたばかりでなく対向車
道の方を向いて、被告人の自動車の接近にも気付かない様子であつたのであるか
ら、右の不測の行動に出る危険はむしろ予見可能な状態にあつたものといえるので
あつて、このことは被告人が事故直前、学童数名が前記横断歩道を正規に渡つて行
つたことを現認していたことによつて結論を左右されるものではない。したがつ
て、右の危険は予見不可能であつたとの所論は採用できない。そしてもし被告人に
おいて前記注意義務ことに警笛を吹鳴して警告を与えることに欠くるところがなけ
れば被告人が被害者を発見した際における被害者との距離、被告人の自動車の速
度、被告人の後続車両の比較的少なかつたこと等に照らし、被害者との衝突は回避
できないことはないと思われるのである。所論は前記危険が予見可能であつたと
し、前記注意義務を尽したとしても衝突は不可避であつたと主張するけれども、さ
きに認定したように被告人が被害者を発見した際における彼我の距離が約二〇メー
トルあり被告人の自動車の速度が時速約三八キロメートルであり、かつ被害者は被
告人の自動車の接近に気付いていない様子であつたのであるから直ちに警笛を吹鳴
して警告を与えることにより被害者の横断を防止することがてきたと思われるばか
りでなく、右の彼我の距離、自動車の速度から勘案してなお制動距離外にあつたと
考えられるから仮令急停車までの措置を採らないまでも、直ちに減速徐行すること
により衝突は回避できないことはなかつたと思われるのである。すなわち自動車運
転者としては危険が予見されかつその危険が回避できる場合においては、可能なか
ぎり危険回避のための措置を採るべき義務があるものというべきである。したがつ
て、本件の場合衝突は不可避であり前記注意義務もないとの前記所論も採用するこ
とはできない。
 しかるに、被告人はさきに認定したとおり、被害者の側方を通過するに当り、前
記の注意義務を怠り、被害者は自己の進路前方を横断することはあるまいと軽信し
て、警音器の吹鳴すらせず、また特別その動静にも注意することなく、その儘加速
進行したものであるから被告人は本件事故についての過失責任を免れないことは明
らかである。
 <要旨>次に所論は、本件は、まさにいわゆる信頼の原則の適用せらるべき場合で
あると主張する。いわゆる信頼の原則は、歩行者をも含めて、交通関与者相
互の間において、互いに一方の者が他方の者の交通法規を遵守した行動に出るであ
ろうことを信頼することが社会的に相当と認められる場合にはじめてその適用が認
められるものであつて、そのためこの原則を適用するに当つては、当然、事故当時
の道路、交通事情等の具体的状況を個別的に分析、検討することを必要とし、他の
交通関与者の交通法規を遵守した行動に出ることを信頼したことが果して社会的に
相当と認められるか否かを厳格かつ慎重に判断しなければならないのである。した
がつて、事故発生の予見可能性があり、かつ、結果回避の可能性のある場合は、よ
し他の交通関与者の事故原因に連なる交通法規違反の行為があり、一方の交通関与
者が交通法規に従つた行動をとつたとしてもただそれたけで常に必ずこの原則の適
用が許されるものと解すべきではない。そしてこの原則は運転免許の取得が義務づ
けられ、交通法規に精通していることが十分期待できる車両の運転者に対する場合
は格別歩行者に対する場合にはむしろ適用されないのが通例であろうと考えられ
る。けだし、現在のわが国の歩行者に対する交通教育の実情、歩行者の交通道徳の
程度、自動車専用道路及び歩行者専用道路が極めて少なく殆どの道路は歩車道の区
別のある場合でも両者共用であるのが実情であること等にかんがみると、歩行者に
多くを期待することはできないからである。ことに歩行者のうちでも、それが幼
児、児童、老人、酩酊者のような場合であつて、車両の運転者が予め、これらの者
を認識し、または容易に認識し得べかりし場合であるか、これらの者が危険な行動
に出ることを予見し得べき状況があつた場合においてはむしろ右の期待(信頼とい
つてもよい)をすることはそのこと自体が不相当であり、信頼の原則は適用されな
いものと解すべきである。以上の見地から本件をみると、本件道路は、大阪、京都
を結ぶ国道の幹線であるとはいえ、車両専用道路ではなく、歩行者との共用道路で
あるほか、当時の具体的状況もすでに詳細に認定したとおりであり、被害者も満六
才の学童で、適切な行動を十分期待し得る者ではないのはもちろん、被告人も予め
その被害者を認識し、かつその佇位位置、態度から推して不測の危険な行動に出る
ことが予見可能な状況にあり、しかも前記注意義務を尽すことにより、衝突を回避
することも時間的、空間的にみて必ずしも不可能ではなかつたと思われるのに、被
告人は被害者が走り出してくることはあるまいと軽信して、警笛すらも吹鳴せず、
その動静をも注視しない儘加速進行したため本件事故の発生をみるに至つたもので
あるから、よし被告人が所論のように被害者は学校において、交通訓練を受けてい
るものと考えまた、現場近くの横断歩道に学童用の押釦式信号機が設置せられてい
て、他の学童がこれによつて横断歩道を渡つて行つたことを現認していたこともあ
つて被害者は道路を横断することはないと信頼していたとしても、その信頼は社会
的に見て相当とは認められないのである。したがつて、本件の場合いわゆる信頼の
原則はその適用がないものと解すべきが相当である。それ故この点に関する所論も
採用することができない。
 なお所論は、被害者の死因についても疑いがあるというけれども、医師D作成の
死体検案書及び同人の当審証言によればその死因はさきに認定したとおりであつ
て、当審の事実取調べの結果によつても他に死因となるべき事実は認められないか
らこの点の所論も理由がない。
 以上のとおりであるから、原判決が本件事故について、被告人に過失の刑責を認
めたのは相当であつて、縷述の所論にかんがみ、記録を精査し、かつ当審の事実取
調べの結果によつても右認定には所論のような事実誤認ないし法令の適用の誤りが
あるとは考えられない。論旨はいずれも理由がない。 控訴趣意中量刑不当の主張
について
 論旨は、原判決が被告人に対し禁錮刑を科したことは重きに過ぎるから、罰金刑
を以て処断せられたいというのである。
 よつて按ずるに、さきに詳細に判断したとおり、被告人は本件事故についての過
失責任は免れないとしても、その事故の具体的状況からみて、被害者が満六才に過
ぎない学童であつて成人には予想できないような不測の行動に出たことが事故発生
の重要な原因をなしており、その過失の程度も軽いものと考えられるからこの点を
勘酌すれば原判決が被告人に対して禁錮刑を科したことは重きに過ぎると考えられ
る。論旨は理由がある。
 よつて刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条
但書にしたがいさらに次のとおり自判する。
 原判決の確定した事実(但し原判決二枚目表九行目の「左前方約一米」とあるを
「左前方直前」と訂正する)に法令を適用すると、判示所為は刑法六条、一〇条に
より昭和四三年法律第六一号による改正前の刑法二一一条前段罰金等臨時措置法三
条に該当するから、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内において被告
人を罰金三万円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法一八条により
金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、原審及び当審にお
ける訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文を通用して全部被告人に負担させるこ
ととし、主文二項ないし四項のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 岡田退一 裁判官 瓦谷末雄 裁判官 藪田康雄)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛