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平成17年6月24日判決言渡
平成16年(ワ)第133号 交通事故による損害賠償請求事件
主 文
1 被告らは原告に対し各自連帯して6200万円とこれに対する平成13
年11月22日から支払いずみまで年5%の割合による金員を支払え。
    2 原告のそのほかの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は10%を原告の90%を被告らの負担とする。
4 この判決は第1項にかぎり仮執行をすることができる。
事実および理由
第1 請求
 被告らは原告に対し各自連帯して6826万7325円とこれに対する平成13
年11月22日から支払いずみまで年5%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,自転車に乗っていて自動車に衝突される交通事故の被害にあった者が,
自動車の運転者とその勤務先の会社に対し,不法行為と使用者責任に基づき,各自
連帯して損害額とこれに対する事故日から支払いずみまで民法所定の年5%の割合
による遅延損害金の支払いを求める事案である。
 1 基本的事実関係((3)は乙1により認める。それ以外は当事者間に争いがな
い)
 (1) 交通事故の発生
 原告(昭和43年1月生まれの男性)は下記の交通事故にあい負傷した。
  発生日時  平成13年11月22日午後3時30分頃
  発生場所  山梨県A郡B町○番地先路上
  事故概略  信号機の設置されていないT字路交差点において,Tの字の縦棒
にあたる道路から横棒にあたる道路(優先道路)へと左折しようとした被告C運転
の普通乗用自動車が,横断歩道上を進行していた原告運転の自転車の右側面中心部
に衝突し,原告運転自転車をその場に転倒させた。
 (2) 被告らの責任
 ア 被告Cの責任
 被告Cは,信号機の設置されていないT字路交差点で,一時停止の標識にしたが
って一時停止してから発進する際には,左右の車両や自転車の動静等の安全を十分
に確認のうえ発進すべき注意義務があるにもかかわらず,これを怠り,自分の右手
方向から進行してきた自動車が発進を促すシグナルを出したことに気を許し,自分
の左手方向から横断歩道を進行している原告運転自転車に気づかないまま,漫然と
発進して横断歩道に進入し,自分の車を原告運転自転車に衝突させた過失がある。
 イ 被告会社の責任
 被告Cは被告会社の従業員であり,事故当時,同社使用の自動車を運転してその
業務を遂行していたので,同社には使用者責任がある。
 
 (3) 後遺障害等級認定
 損害保険料率算出機構は,平成15年5月2日,本件事故による原告の後遺障害
を自賠等級第7級第4号と判断した(以下「本件等級認定」という)。その理由の
概要は次のとおりである。
 ア 原告の左上肢の疼痛,可動域制限,感覚障害,筋力低下等の諸症状について
は,D整形外科医院における症状経過,臨床所見を勘案するならば,本件事故に起
因する反射性交感神経性萎縮症(RSD)にともなうものととらえられる。
 イ RSDの障害等級評価については,労災保険認定基準上の「疼痛等感覚異
常」のカウザルギーの項目に基づき判断を行っており,疼痛発作の頻度,疼痛の強
度と持続時間および疼痛の原因となる他覚的所見(「血管運動性症状,発汗の異
常,軟部組織の栄養状態の異常,骨の変化」など)に基づき,第7級第4号,第9
級第10号,第12級第12号のいずれかの等級評価をする。
 ウ 本件については,D整形外科医院において腫張・皮膚変色・発汗異常に関す
る所見が認められていることに加え,提出されたカラー写真において,筋萎縮が生
じていることが認められることから,RSDにともなう神経系統の機能の障害とし
ては最高等級である第7級第4号(「軽易な労働以外の労働に常に差し支える程度
の疼痛があるもの」)を適用することが妥当である。
 左上肢の機能障害については,RSDにともなう疼痛や関節拘縮に起因するもの
ととらえられることから,上記障害に含めての評価となる。
 (4) 損害の填補
 原告は本件事故により生じた損害につき下記のとおり合計2166万3129円
の填補を受けた。
自賠責保険金1171万円
任意保険金 995万3129円
 2 争点
 (1) 事故態様(過失相殺)
【被告らの主張】
 左折しようとしてウィンカーを出し,横断歩道の手前で一時停止していた被告C
は,右手方向から進行してきた自動車がパッシングライトを点滅させ,左折をする
ようにと合図したので,ウィンカーをつけたままゆっくりと左折していったとこ
ろ,横断歩道を越えるか越えないかの地点で原告運転自転車と接触した。原告がそ
の主張するように自転車から投げ出されたのであれば,それは自転車のスピードが
原因である。原告には,パッシングライトをつけた対向車両にもウィンカーをつけ
てゆっくりと左折しようとしている被告C運転車両にもまったく気づかず,かつ自
転車に乗りながら右側通行をして横断歩道上を走行するという大きな過失があっ
た。
【原告の主張】
 原告は,優先道路が渋滞し,かつ被告C運転車両が横断歩道の少し手前で停止し
ていたので,横断歩道に進入して4mほど進行したところ,突然,被告C運転車両
が横断歩道に突っ込んでくるように加速して進行してきたため,これを避けること
ができなかった。原告は自転車から宙に浮き上がったような状態で投げ出されたの
であり,被告Cがゆっくりと左折したのでないことは明らかである。
 被告らは原告の横断歩道通行や右側通行を問題とするが,原告は,県公安条例で
許されている歩道通行をし,そのまま交差点の横断歩道上を進行した。当時横断歩
道上に歩行者はいなかったから,原告が横断歩道を通行するにあたり自転車から降
りる義務はない。被告Cからの見通しはよく,原告運転自転車の発見は容易であっ
た。加えて,原告自転車は明らかに横断歩道に先に入っていた。
 以上から,過失相殺はすべきでない。
 (2) 傷害と後遺障害
【原告の主張】
 ア 傷害
 原告は本件事故による傷害につき下記のとおり入通院治療を受けた。
 (ア) E病院
  平成13年11月22日~27日 実通院日数4日
  傷病名 左肩脱臼,左肩関節炎
 (イ) F整形外科医院
  平成13年11月28日~12月17日 入院日数20日
  傷病名 左肩関節脱臼,腱板損傷,左腋窩神経損傷
 (ウ) D整形外科医院
  平成13年12月17日~平成14年8月19日 入院日数207日,実通院
日数30日
  傷病名 左肩関節亜脱臼(腱板損傷),左腋窩神経麻痺,外傷後反射性交感神
経ジストロフィー
 (エ) その他
 上記入通院期間中,検査,治療目的で,G病院,H温泉病院,I温泉病院,Jペ
インクリニックに通院
 イ 後遺障害
 原告は平成14年8月19日に症状固定し,左肩反射性交感神経ジストロフィー
(=ABC症候群=逆転性C繊維興奮症候群)と診断された。後遺障害診断書(甲
12,14)によれば,左上肢全体に筋萎縮著明,左上肢各関節拘縮著明,左上肢
硬直肢位となる,などとされている。また,平成14年2月9日には「X線上左肩
上腕骨の骨萎縮著明となる」と診断されている。原告は山梨県から「上肢機能障害
左上肢 全廃 2級」の身体障害者手帳の交付を受け,現在も疼痛等の症状が増悪
している。これらのことからすれば,原告の後遺障害はRSD(反射性交感神経性
ジストロフィー)であるといえる。
 RSDについては,本件等級認定でも言及されているとおり,自賠責の等級認定
では,第7級第4号,第9級第10号,第12級第12号のいずれかとするとされ
ているが,上肢・下肢の関節に強直・拘縮などが起こり,機能障害が発生する場合
には,関節機能障害として評価されこれらを超えた等級認定をすることができる。
 原告には左上肢の各関節に強直・拘縮が起こり左肩関節,左肘関節,左手関節の
機能が全廃し就業が不可能であるから,原告の後遺障害は自賠等級第5級第2号
(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服
することができないもの」)または第5級第6号(「一上肢の用を全廃したも
の」)に該当する。なお,被告らは左肩脱臼の既往症を問題とするが,この既往症
は本件等級認定においても織りこみずみであり,あらためて問題にする必要はな
い。
【被告らの主張】
 ア 原告にRSDの後遺障害が生じていると断定することはできない。
 イ 原告は,平成13年夏以降3回左肩脱臼歴があり,本件事故直後も左肩を脱
臼している。原告の主張する後遺障害については,左肩という同一部位の脱臼歴が
既往症もしくは持病として寄与していることを考慮すべきである。
 (3) 損害額
【原告の主張】
 原告に生じた損害は下記のとおり合計8393万0454円であり,ここから損
害填補額2166万3129円を差し引き弁護士費用600万円を加えた6826
万7325円とその遅延損害金を本訴において請求する。
 ア 治療費        475万9930円
イ 入院雑費             34万0500円
 ウ 通院交通費            39万0080円
 エ 介護費          16万4862円
 オ 休業損害            311万6500円
カ 傷害慰謝料           410万円
 キ 後遺障害逸失利益       5605万8582円
 ク 後遺障害慰謝料        1500万円
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(事故態様)について
 (1) 事実
 争いのない事実と証拠(甲2,32,乙3,原告,被告C)により以下の事実を
認める。
 ア 事故現場は,東西に走る優先道路に北側から南北方向の道路が接続するT字
路交差点である。信号機はない。被告C運転車両は,南北方向の道路を北側から走
ってきて,この交差点を左折して優先道路に進入しようとした。原告運転自転車
は,優先道路にそってその北側に設置された歩道を東から西へと向けて走ってき
て,そのまま横断歩道上を進行して南北方向の道路を横断しようとした。
 イ 被告Cが優先道路へと左折しようとしたとき,優先道路は渋滞していた。被
告Cはいったん横断歩道の手前で停止し,左折の合図を出した。そこからゆっくり
と動き出して,横断歩道にかかったあたりで,優先道路を右方向(西)から進んで
きた自動車が左折しろという合図をした。そこで被告Cはアクセルを踏みこみ,さ
らに進むと,横断歩道上で原告運転自転車と衝突した。
 この間,被告Cは右方向(西)のみを見ており,左方向(東)にはまったく注意
を払わなかった。横断歩道の手前あたりから左方向への見通しはよく,左方向を見
てさえいれば,歩道上を原告運転自転車が進行してきたことに容易に気づくことが
できたのに,左方向を見なかったため,原告運転自転車に気づかなかったのであっ
た。
 ウ 一方,原告は,歩道を進行しているときに被告C運転車両に気づいていた
が,横断歩道の手前で停止していたので,そのまま自転車を走らせた。ところが,
被告C運転車両が急に前に出てきたため,衝突してしまった。
 被告C運転車両が衝突したのは,原告運転自転車の右側面中央部あたりであり,
原告は右下半身に衝撃を受けた。原告は被告C運転車両に押された後,自転車の左
側に投げ出され,優先道路の車道上に落下した。その位置は被告C運転車両の進行
方向であり,衝突地点から4m以上(実況見分調書〔甲2〕では4.4mとなって
いる)離れていた。  
 (2) 判断
 被告Cは左方向をまったく見ずに交差点を左折しようとしたのだから,被告Cに
は過失がある。一方,原告も,被告C運転車両が横断歩道の手前あたりまで迫って
いるのを見ながら,そのまま横断歩道上を進行して被告C運転車両の前を横切ろう
とした点で,交差点を進行するにあたり注意を欠いたところがあったといわなけれ
ばならない。優先道路に進入しようとした被告Cと,優先道路にそった歩道上を進
行してきてそのまま横断歩道上を進行しようとした原告を比較すると,被告Cの側
の過失の程度がかなり大きいことは明らかである。
 被告らは原告の右側通行を問題にするが,被告Cから原告運転自転車方向への見
通しはよかったのだし,左方向にまったく注意を払わなかった被告Cの過失の程度
は著しいので,原告の右側通行の点を重視することはできない。被告らはまた,原
告運転自転車のスピードが速かったとも主張するが,そのような事実は認められな
い。上記の事実によれば,被告C運転車両は,スピードこそ速くなかったかもしれ
ないが,相当大きな加速度をもって進行して原告運転自転車に衝突したことが認め
られ,原告が自転車から投げ出されたのはそのためであると判断できる。
 そこで,これらの点を総合的に考慮し,本件においては5%の過失相殺をするこ
とにする。
 2 争点(3)(傷害と後遺障害)について
 (1) 傷害
 証拠(甲4ないし6,7の1~7,8ないし11,原告)により以下の事実を認
める。
 原告は本件事故により左肩に傷害を負った。その治療のため,下記のとおり入通
院治療を受けた。
 ア E病院
  平成13年11月22日~27日 実通院日数4日
  傷病名 左肩脱臼,左肩関節炎
 イ F整形外科医院
  平成13年11月28日~12月17日 入院日数20日
  傷病名 左肩関節脱臼,腱板損傷,左腋窩神経損傷
 ウ D整形外科医院
  平成13年12月17日~平成14年8月19日 入院日数207日,実通院日数30日
  傷病名 左肩関節亜脱臼(腱板損傷),左腋窩神経麻痺,外傷後反射性交感神
経ジストロフィー
 エ その他
 上記入通院期間中,検査,治療目的で,G病院,H温泉病院,I温泉病院,Jペ
インクリニックにそれぞれ1日から数日通院
 (2) 後遺障害
 ア 原告の症状がRSDといえるかについて
 証拠(甲12ないし14,26,27,乙1)により以下の(ア)~(オ)を認
める。
 (ア) D整形外科医院の医師は,傷病名を左肩反射性交感神経ジストロフィー
(左肩亜脱臼,腱板損傷後)とし症状固定日を平成14年8月19日とする後遺障
害診断書を同日作成した(甲12)。
 (イ) 本件等級認定は上記後遺障害診断書を含めた資料をもとに行われてい
る。また,既往症として,平成13年夏に左肩脱臼があったことも前提としてい
る。すでに述べたとおり,本件等級認定は,原告の症状がRSD(反射性交感神経
性萎縮症)であるとしている。
 (ウ) 被告ら訴訟代理人ないし被告らが加入する保険の関係者から原告の症状
について意見を求められたK労災病院の医師は,平成17年2月16日付けの意見
書において,上記後遺障害診断書と本件等級認定を検討したうえ,RSDの診断と
しては不十分であるとし,RSDの診断を正確にするには以下の検査をする必要が
あるとした(乙4の1・2)。
 i 両手の前後像の単純X写真による骨萎縮の証明
 ii 両手のサーモグラフィーによる手の皮膚温の低下の証明
 iii 普通写真による皮膚の色調の変化,浮腫,皮膚の菲薄化の証明
 iv 上腕,前腕周囲径の測定やMRIによる筋萎縮の証明
 v 可能であれば,筋電図検査による麻痺の存在の証明
 (エ) D整形外科医院の医師は,みずからの診察に基づき,上記K労災病院医
師の見解に対して次のように反論している(甲14,26)。
 iについて  X線で骨萎縮の証明は行っている。
 iiについて  皮膚の色調が赤褐色に変化するほどの所見があれば皮膚温の変化
は明らかであり,サーモグラフィーまで施行して判断できる病院は少数である。発
汗障害についても明らかに認められ触診で十分に判断可能であった。
 iiiについて  皮膚所見は,Jペインクリニック医師2名,H温泉病院医師,G
病院医師が診察し皮膚の異常所見を認識している。
 ivについて  上肢の周径差は視診上明らかであり計測するまでもないほど骨萎
縮が著明であった。MRIまで施行して判断する必要性はない。
 vについて  筋肉の麻痺どころか硬直肢位で固定している。
 (オ) L大学医学部附属病院麻酔科医師は,平成17年1月20日付けの診断
書において,原告の病名を反射性交感神経性ジストロフィーとし,「同疾患は難治
性であり完全回復は難しいと考える」と記載した(甲27)。
 上記の各医学的見解のうち,(ウ)以外はいずれも原告の症状をRSD(反射性
交感神経性ジストロフィー)としている。(ウ)の見解を述べたK労災病院医師
も,原告を直接診察したわけではなく,原告の症状がRSDでないと診断したわけ
でもなく,ただ,(ア)の診断書と本件等級認定について,RSDの診断として不
十分なところがあると述べるにすぎない。そして,(エ),(オ)によれば,
(ウ)の見解によって示された疑問点は,原告を直接診察した医師によっていずれ
も解消されている。これらのことを総合的に考慮すれば,本件交通事故の結果原告
にはRSDの後遺障害が残ったと断定することができる。
 なお,被告らは,原告に左肩脱臼の既往症があることがRSDに影響を与えてい
ると主張するが,本件等級認定は,この既往症があることを前提として,原告のR
SDを交通事故による後遺障害と評価しているのであるし,ほかの医学的証拠を検
討しても,左肩脱臼の既往症とRSDとを結びつけて論じているものは皆無である
から,被告らの主張を採用することはできない。
 イ 自賠等級について(後遺障害の程度)
 交通事故による後遺障害の等級は自動車損害賠償保障法(自賠法)施行令別表第
2が定めており,実務上,その等級認定は厚生労働省の通達(昭和50年9月30
日基発第565号)に基づいて行われている(以下この通達を「認定基準」とい
う)。認定基準は通達であって裁判所を拘束するものではないが,その内容が合理
的であることに加え,同様の事例を同様に判断するという公平の見地からしてもこ
れにしたがうのが妥当であるから,本件においてもこれにしたがって判断する。
 本件等級認定は認定基準に基づいて行われており,すでに述べたとおり,原告の
症状は,RSDにともなう神経系統の機能の障害としては最高等級である第7級第
4号(「神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服するこ
とができないもの」)にあてはまるとし,他方,左上肢の機能障害については,R
SDにともなう疼痛や関節拘縮に起因するものととらえられることから,上記障害
に含めての評価となるとしている。
 これに対して原告は,第5級第2号(「神経系統の機能又は精神に著しい障害を
残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」)または第5級第
6号(「一上肢の用を全廃したもの」)に該当すると主張する。本件等級認定でも
言及されているとおり,認定基準は,神経系統の機能障害の観点からRSDをとら
えた場合,第7級第4号が最高等級であるとしており,認定基準に基づくかぎり,
原告についても,これを上回る第5級第2号の認定をすることは困難である。そこ
で,以下においては,本件等級認定が神経系統の機能障害に含めて評価するとして
いる左上肢の機能障害の観点から原告の症状を検討し,第5級第6号に該当するか
どうかを判断することとする。
 D整形外科医院医師が平成14年8月19日の診断に基づき作成した後遺障害診
断書(甲12)によれば,「左上肢各関節は拘縮が著明となり又筋力低下著明で下
垂位でほぼ固定している。握力はなし,若干筋が収縮するのみ。左手での物の把持
は不可」とされ,原告の関節機能障害の状態は次のとおりとされている。
  【関節名】  【運動の種類】    【他動】       【自動】
 右    左     右    左
    肩     前挙上     180°  0°180°  0°
          後挙上      90°  0°    90°  0°
          外転      180°  0°   180°  0°
    肘     屈曲      145° 20°   145° 15°
          伸展        0°  5°     0°  5°
    手(全指) 屈曲・伸展  ほぼ固定
 同じ医師が平成15年4月21日の診断に基づき作成した後遺障害診断書(甲1
4)によれば,関節機能障害の状態は次のとおりであり,これに「左肩は0°,左
肘75°,左手関節10°で硬直肢位となっている」とのコメントがついている。
  【関節名】  【運動の種類】    【他動】       【自動】
 右    左     右    左
    肩     前挙上     180°  0°180°  0°
          後挙上      90°  0°    90°  0°
          外転      180°  0°   180°  0°
    肘     屈曲      145° 75°   145° 75°
          伸展        0° 75°     0° 75°
   手関節    屈曲       90° 10°    90° 10°
          背屈       90° 10°    90° 10°
 認定基準によれば,「上肢の用を廃したもの」とは,3大関節(肩関節,ひじ関
節,手関節)のすべてが強直し,かつ,手指の全部の用を廃したものをいう。「手
指の用を廃したもの」とは,手指の末節骨の半分以上を失い,または中手指節関節
もしくは近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すも
のをいう。このうち手指の「著しい運動障害」に関しては,中手指節関節または近
位指節間関節(母指にあっては指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の1/2
以下に制限されるものがこれにあたるが,母指については,橈側外転または掌側外
転のいずれかが健側の1/2以下に制限されているものも,「著しい運動障害を残
すもの」に準じてとりあつかうこととされ,さらに,手指の末節の指腹部および側
部の深部感覚および
表在感覚が完全に脱失したものも,「手指の用を廃したもの」に準じてとりあつか
うこととされている。
 上記の各後遺障害診断書によると,原告の症状は,まず,3大関節すべての強直
という要件をみたしていることが認められる。次に,手指については,上記各診断
書では必ずしも明確ではないが,「全指ほぼ固定」という表現がみられることに加
え,診断書全体の内容からこれがうかがわれ,原告自身の供述もふまえると,この
要件も肯定することができる。さらに,原告は平成15年5月15日に山梨県知事
から身体障害者手帳の交付を受け,身体障害者等級表による2級の身体障害者とさ
れており,その障害名は「上肢機能障害左上肢 全廃」である(甲13)。この障
害は,身体障害者福祉法施行規則別表第5号の身体障害者障害程度等級表における
2級に該当する「一上肢の機能を全廃したもの」にあたると解される。これらの点
を考慮すると,原告
の左上肢の機能障害は,自賠等級第5級第6号の「一上肢の用を全廃したもの」に
該当すると判断することができる。
 本件等級認定とここまでの検討によれば,原告には本件交通事故による受傷の後
遺障害としてRSDが残り,その症状は自賠等級第5級第6号に該当するというこ
とができる。
 3 争点(3)(損害額)について
 (1) 治療費     475万9930円
 証拠(甲4,17)により認める。
 (2) 入院雑費             34万0500円
 入院雑費は1日あたり1500円とすべきである。原告の入院日数は227日で
あるから,入院雑費合計は34万0500円である。
1,500×227=340,500
 (3) 通院交通費            39万0080円
 証拠(甲17)により認める。
 (4) 介護費          16万4862円
 証拠(甲17)により認める。
 (5) 休業損害            311万6500円
 1日あたりの基礎収入について,原告は,平成13年中の給与収入400万02
69円(甲16の2)と平成12年中の給与収入443万4183円(甲16の
1)の平均をとり,1万1500円とすべきであると主張する。
(4,000,269+4,434,183)÷(365×2)≒11,500
 本件事故が平成13年11月22日であり,その後原告が就労できていないこと
(甲32,原告)や,上記2年間における給与収入の金額を考慮すると,この原告
の主張は妥当である。そこで1日あたりの基礎収入は1万1500円とする。
 休業日数は,証拠(甲32,原告)によれば,事故日から症状固定日である平成
14年8月19日までの全期間271日であると認められる。
 したがって休業損害は原告の主張どおり次のとおり算出される。
11,500×271=3,116,500
 (6)後遺障害逸失利益       5605万6830円
 基礎収入は平成12年中の給与収入額である443万4183円とする(甲16
の1,17)。
 労働能力喪失率は,自賠等級第5級であるから79%とする。
 原告は後遺障害の症状固定時である平成14年8月19日に34歳であり,67
歳まで33年間就労可能とするとライプニッツ係数は16.0025である。
 したがって,後遺障害逸失利益は次のとおり算出される。
4,434,183×79%×16.0025≒56,056,830
 (7) 過失相殺後の財産的損害6158万7266円
 ここまでの合計額は6482万8702円であり,これに5%の過失相殺をする
と6158万7266円となる。これが原告に生じた財産的損害の額である。
4,759,930+340,500+390,080+164,862+3,116,500+56,056,830
=64,828,702
64,828,702×(100%-5%)≒61,587,266
 (8) 傷害慰謝料           270万円
 事故日から症状固定日までが271日で,そのうち入院日数が227日であるか
ら,通院日数は44日である。
271-227=44
 この入通院日数を基本的な考慮要素とし,上記認定の傷害の部位,程度,事故態
様,証拠(甲32,原告,被告C)により認められる事故後の事情を総合的に考慮
し,傷害慰謝料は270万円とする。
 (9) 後遺障害慰謝料        1400万円
 原告の後遺障害が自賠等級第5級であることを基本的な考慮要素とし,上記認定
の後遺障害の部位,程度,事故態様,証拠(甲32,原告,被告C)により認めら
れる事故後の事情,さらに,本件事故の影響により原告が不安障害(甲15),外
傷後ストレス障害(甲31)と診断され,激しい疼痛などのためにうつ状態となり
自傷行為をするほどまで追い詰められた状態におちいったこと(甲28ないし3
0,原告)などの事情を総合的に考慮し,1400万円とする。
 (10) 損害残額      5662万4137円
 財産的損害と慰謝料の合計額は7828万7266円である。
61,587,266+2,700,000+14,000,000=78,287,266
 損害の填補額は2166万3129円であるから,損害残額は5662万413
7円である。
 (11) 弁護士費用537万5863円
 損害残額が5662万4137円であるから,この金額の10%を目処とし,ほ
かに本件訴訟の経緯も総合的に考慮して,弁護士費用は537万5863円とす
る。
 (12) 結論
 原告は被告らに対し6200万円とこれに対する遅延損害金を各自連帯して支払
うよう請求することができる。
56,624,137+5,375,863=62,000,000
   甲府地方裁判所民事部
 裁判官  倉 地 康 弘

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