弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人本多教義,同白極光太郎の上告受理申立て理由第4について
1本件は,軽油の製造をしてこれを他の者に譲渡したとして,地方税法(平成
16年法律第17号による改正前のもの。以下「法」という。)700条の4第1
項5号に基づき,上告人から軽油引取税に係る課税標準量,税額及び不申告加算金
額を決定する処分(以下「本件処分」という。)を受けた被上告人が,その取消し
を求める事案である。
2(1)法700条の3第1項は,軽油引取税は,特約業者又は元売業者からの
軽油の引取りで当該引取りに係る軽油の現実の納入を伴うものに対し,その数量を
課税標準として,道府県(法1条2項により都を含む。以下同じ。)において,そ
の引取りを行う者に課する旨規定する。他方,法700条の4第1項5号(以下
「本件規定」という。)は,軽油引取税は,法700条の3に規定する場合のほ
か,特約業者及び元売業者以外の者が軽油の製造をして,当該製造に係る軽油を他
の者に譲渡する場合における当該軽油の譲渡に対し,当該譲渡を同条1項に規定す
る引取りと,当該譲渡をする者を同項に規定する引取りを行う者とみなし,その数
量を課税標準として当該譲渡をする者に課する旨規定する。
(2)これに対し,平成16年法律第17号によって創設された地方税法(平成
21年法律第9号による改正前のもの)700条の4の2第1項(以下「本件関連
規定」という。)は,道府県知事の承認を受けないで製造された軽油について,本
件規定等により軽油引取税を納付する義務を負う者が特定できないとき又はその所
在が明らかでないときは,当該軽油の製造を行った者は,当該納税義務者と連帯し
て当該軽油引取税に係る地方団体の徴収金を納付する義務を負う旨規定する。
3原審が確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,魚介類の輸出入及び国内販売を主な業務とするAの代表取締
役であったが,同社は平成13年当時には休業状態となっていた。
(2)有限会社B(以下「B」という。)は,茨城県岩井市に石油製品の精製工
場を設けていた。同工場においては,重油と灯油の混合油に硫酸を加えてかくはん
し,硫酸ピッチを沈殿させた上,混合油槽に活性炭,活性白土及び消石灰を加えて
かくはん及びろ過する,という工程で軽油が造られていた。
(3)被上告人は,石油類販売会社から重油及び灯油を仕入れ,運送会社に委託
してこれらをBの上記工場に持ち込み,Bに委託してこれらを軽油にし,Bから受
け取った軽油を販売先に譲渡するという一連の取引(期間は平成13年7月1日か
ら同14年10月31日まで。以下「本件軽油取引」と総称する。)において,A
の名義を用い,同社の口座を決済用に利用するとともに,運送会社に対するタンク
ローリーの手配,B等との事務連絡,軽油の販売先に対する訪問等を自ら行ってい
た。なお,被上告人が,上記期間において,軽油引取税に係る特約業者又は元売業
者となったことはない。
(4)記録によれば,Bの石油精製工場は,同時期に複数の者から重油及び灯油
の持込みを受けていた可能性があるところ,それらの重油等を分別管理することが
できるだけの施設はなく,また,上記工場において軽油を造り出すには相当程度の
時間が必要と認められるのに,被上告人を含む上記複数の者らは,持ち込んだ重油
と灯油の合計量と同量の軽油を直ちに搬出していた可能性があり,持ち帰った軽油
の原料がどの顧客の持ち込んだものなのかも判然としていなかったことがうかがわ
れる。
(5)上告人は,本件軽油取引に関し,被上告人が第1審判決別紙1記載の数量
の軽油を製造して,当該製造に係る軽油を譲渡したものと認定し,平成16年6月
25日,被上告人に対し,本件規定に基づき,課税標準量を9394kl,軽油引取
税額を3億0154万7400円,不申告加算金額を4523万1100円と決定
する本件処分をした。
4原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断し,被上告人が軽油
の製造をして,当該製造に係る軽油を他の者に譲渡したということはできないとし
て,本件処分の取消しを求める被上告人の請求を認容した。
(1)本件規定にいう「製造」とは,造り出された軽油の所有権を原始的に取得
することを意味するものと解すべきであり,本件関連規定にいう「軽油の製造を行
った者」とは実際上軽油の製造を行ったがその所有権を原始取得していない者と解
することで両者の区別をすることができる。
(2)前記3(4)記載の事情からすると,Bは,あらかじめ重油等の原料を加工し
て軽油を製造しておき,その中から,新たに原料である重油と灯油を持ち込んだ顧
客に対し,その合計量と同量の軽油を引換えに渡し,この数量に応じた金額を加工
賃と称して取得するという取引をしていた可能性が高い。したがって,特段の事情
がない限り,本件軽油取引においても,Bが製造した軽油はいったんはBの所有物
になると考えられ,被上告人が当該軽油を原始取得したと認めることは困難であ
る。
5しかしながら,原審の上記4(1)の判断は是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
(1)本件規定を始めとする法の文言や趣旨からは,本件規定にいう「製造」が
軽油の所有権を原始取得する場合に限られると解すべき根拠を見いだすことはでき
ない。また,本件関連規定は,他の者の委託を受けて軽油を物理的に製造したにす
ぎない旨主張したり,そのような受委託を繰り返すなどの方法で意図的に本件規定
等に基づく納税義務者の特定を困難にし,軽油引取税を免れようとする事例が生じ
たことから,これに対処するため,物理的に軽油の製造を行った者等が軽油の製造
に実質的に荷担したことを理由として,これらの者に軽油引取税の補完的納税義務
を課す趣旨のものと解される。このような趣旨からすれば,本件関連規定は,本件
規定等に基づく軽油引取税の納税義務者が他に存在することが明らかである場合は
もとより,上記納税義務者が存在するか否かが不明である場合(すなわち,物理的
に軽油の製造を行った者が,実際には本件規定等に基づく本来の納税義務者である
可能性を排除することができない場合)にも適用し得るものと解すべきである。そ
うすると,本件関連規定にいう「軽油の製造を行った者」と本件規定に基づく軽油
引取税の納税義務者とを原審のように峻別すべき理由はないといわざるを得ない。
したがって,軽油の製造及び譲渡に関与した行為者が複数存在する場合におい
て,造り出された軽油の原始的所有権の帰属に加え,軽油の製造及び譲渡に係る全
過程における各行為者の行為態様及びその意図,各行為者間における利益及びリス
クの帰属等の諸要素を総合的に勘案した結果,上記過程において実質的に果たして
いた役割からみて,ある者が当該軽油を製造してこれを他に譲渡していたものと評
価することができるときには,その者が法的にみて当該軽油の所有権を原始的に取
得したとはいえないというだけの理由で,本件規定に基づく納税義務者に当たらな
いということはできない。
(2)記録及び前記事実関係等によれば,被上告人は,本件軽油取引に関し,B
との協議や連絡,原料の調達,保管,運搬に関する手配,手数料の支払等に関して
重要な役割を担い,販売先への働き掛けを行っているほか,被上告人が管理する会
社の名義を使用し,同社や被上告人名義の口座を利用して,販売代金の徴収,各種
経費の支払等に関して主導的な役割を果たし,これらの関与の対価として多額の利
得を得ており,本件軽油取引にかかわった関係者も,被上告人を単なる連絡役では
なく主体的に取引を行う立場の者とみなしていたことがうかがわれる。
6以上によれば,本件軽油取引における被上告人の役割について何ら検討する
ことなく,被上告人が軽油の所有権を原始取得していなかった疑いがあることのみ
を理由として,被上告人を本件規定に基づく軽油引取税の納税義務者であると解す
る余地はないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れな
い。そして,上記5(1)で挙げたような諸要素について更に審理を尽くさせるた
め,本件を原審に差し戻すのが相当である。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平裁判官近藤崇晴)

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