弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告会社の請求を棄却する。
2原告組合の請求を棄却する。
3訴訟費用は,参加によるものも含めてこれを2分し,
その1を原告会社の負担とし,その余を原告組合の負担
とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1第1事件
中央労働委員会(以下「中労委」という。)が中労委平成18年(不再)第
9号事件について平成19年5月9日付けでした命令の主文のうち,三重県労
働委員会(以下「三重県労委」という。)が三重県労委平成16年(不)第3
号事件について平成18年1月6日付けでした命令の主文を変更した部分を取
り消す。
2第2事件
中労委が中労委平成18年(不再)第9号事件について平成19年5月9日
付けでした命令の主文第Ⅱ項を取り消す。
第2事案の概要
原告組合は,①原告会社のP1人事部長(以下「P1部長」という。)が,平
成15年6月17日及び同月18日,原告組合の組合員であるP2に対し,組合
からの脱退を強要する言動(以下「本件言動」という。)をしたこと,②原告会
社がP2との間の雇用契約が平成16年2月20日で終了したとし,更新しなか
ったこと(以下「本件雇止め」という。),③原告組合が,平成16年3月5日,
同月9日,同月12日及び同月19日付けで申し入れたP2の不当解雇撤回等を
交渉事項とする団体交渉を原告会社が拒否したこと(以下「本件団体交渉拒否」
という。)は,いずれも不当労働行為(①につき労働組合法7条3号,②につき
同条1号及び3号,③につき同条2号所定のもの)に当たるとして,三重県労委
に対し,不当労働行為救済申立てをした(三重県労委平成16年(不)第3号事
件)。
三重県労委は,平成18年1月6日,別紙1のとおり,①ないし③のいずれに
ついても不当労働行為とは認めず,原告組合の申立てを棄却する命令(以下「初
審命令」という。)を発したため,原告組合は,中労委に対し,再審査を申し立
てた。
中労委は,平成19年5月9日,別紙2のとおり,①及び③について不当労働
行為と認め,一部救済命令(組合脱退慫慂禁止,誠実団体交渉及び文書掲示の命
令)を発し,原告会社のその余の再審査申立てを棄却する命令(以下「本件命
令」という。)を発した。
第1事件は,原告会社が本件命令の主文のうちの初審命令の主文を変更した部
分の取消しを求めた事案であり(原告組合は行政事件訴訟法22条により参加し
た。),また,第2事件は,原告組合が本件命令の主文第Ⅱ項(原告組合の再審
査申立てを棄却した部分)の取消しを求めた事案である(原告会社は行政事件訴
訟法22条により参加した。)。
1前提となる事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)
(1)当事者等
ア原告会社は,岐阜県美濃市内に本店を置き,衣料品小売り等を目的とす
る株式会社(旧商号は,有限会社P12)であり,平成16年4月当時,
全国に直営店49店舗,フランチャイズ店8店舗を有し,その従業員数は,
パート及びアルバイト従業員を含め619名であった。同社P3店(以下
「P3店」という。)には,平成16年1月ころ,正社員及びパート従業
員等合計約10名が就労していた。
(旧商号につき,乙B19)
イ原告組合は,三重県内を中心とする個人加盟の合同労働組合である。
ウP2は,昭和▲年▲月▲日生まれの女性であり,夫(平成11年7月当
時35歳)及び長女(平成11年7月当時10歳)がいる。
P2は,現在,原告会社とは別の就労先でアルバイトとして稼働してい
る。
(乙B28,30,乙C5,弁論の全趣旨)
(2)原告会社とP2との雇用契約等
ア原告会社においては,従業員の雇用形態として,正規従業員以外に,勤
務条件に応じてAパート(その勤務条件の概略は,平日のほかに土日祝日
等も勤務し,勤務時間は1日8時間,1週40時間というものである。),
Bパート(その勤務条件の概略は,日曜日に毎月2回以上勤務し,勤務時
間は1日5∼6時間というものである。)及びアルバイトという類型があ
り,P3店は,平成15年及び平成16年当時,正規従業員である店長が
1名,店長補佐の正規従業員が0名ないし1名,Aパートが0名ないし1
名,Bパート及びアルバイトが合計10名前後で構成されていた。
(乙B1,乙C2)
イP2は,平成11年12月16日,原告会社からP3店のアルバイトと
して採用され,その後,平成12年8月21日からはBパート,平成14
年8月21日からはAパートとして,概ね6か月毎に8回にわたり雇用契
約を更新した。
(乙A12,乙B2,38,乙C1,弁論の全趣旨)
(3)P2の原告組合加入及びP1部長の本件言動
アP2は,平成15年4月16日,本社からP3店に来ていたP1部長に
対し,当時のP3店の店長であったP4(以下「P4店長」又は「P4前
店長」という。)から,仕事中に臀部を触られるなどのセクシャル・ハラ
スメント(以下「セクハラ」という。)を受けた旨申し出た。
イその後,P2は,P4店長がP2の異性関係に関する噂を職場に流す嫌
がらせをしているとして,同年5月ころ,組合員である友人の紹介で原告
組合に加入した。
原告組合は,原告会社に対し,同年6月16日付けで,P2が原告組合
に所属した旨通告するとともに,賃金等の労働条件やP4店長がP2に報
復的対応をしていること等4つの事項に関し,団体交渉を申し入れた。
ウP1部長は,原告組合の前記通告を受け,原告会社のP6専務の指示に
より,同月17日,本社からP3店に赴き,勤務中のP2を呼び出して,
店舗近くの喫茶店「P5」において,同人と面談をした。
さらに,P1部長は,同月18日午後4時30分ころ,P3店で勤務中
のP2に電話をかけ,再度話をするよう説得した。
エ原告組合は,原告会社に対し,同月19日,前記ウの面談及び電話にお
けるP1部長の言動(本件言動)が違法な行為であると抗議するとともに,
原告組合に対する謝罪を求める旨記載された文書をファクシミリで送付し
た。
(4)P2の病気休職及び本件雇止めに至る経緯
ア原告会社と原告組合は,平成15年8月から同年12月にかけて,P2
に対するセクハラやP2を含むパート従業員の賃金等の労働条件をめぐり,
3回にわたり団体交渉を行った。
イ原告組合は,原告会社に対し,同年12月20日,P2が翌日から2週
間休業する旨の通知文書を,鉄欠乏性貧血及び心身症により約2週間の安
静加療を要するとの診断書とともに,ファクシミリで送付した。
P2は,同日以降,原告会社に出勤していない。
ウP4店長の後任として同年11月1日からP3店の店長に就いたP7
(以下「P7店長」という。)は,P2の雇用契約期間満了日が平成16
年2月20日であったことから,同年1月14日,病気休暇中のP2に電
話をかけ,更新手続のための面談を行うのでP3店に来るよう伝えたが,
P2は結果的にはこれに応じなかった。
エ原告会社は,P2が面談に応じなかったことから,同月16日付けで,
同日付け通知書,Aパート,Bパート及びアルバイトの3種類の雇用契約
書,誓約書,勤務条件基準書をP2の自宅に送付して,同年1月20日を
期限として雇用契約書の提出等を求めた。
しかしながら,P2は,結果的には,雇用契約の満了日である同年2月
20日までに面談に応じず,雇用契約書の提出も行わなかった。
オそこで,原告会社は,P2に対し,同年2月24日付け通知書を送付し,
同月20日をもって原告会社とP2との雇用契約が契約期間満了により終
了したと扱う旨の意思表示をした(本件雇止め)。
(5)本件団体交渉拒否
原告組合は,原告会社に対し,平成16年3月5日,同月9日,同月12
日及び同月19日付けで,本件雇止めやP2に対するP4前店長のセクハラ
の責任等に関する団体交渉を申し入れた。
しかし,原告会社は,原告組合に対し,同月29日,P2は本件雇止めに
より同年2月20日付けで従業員の身分を失っている等として,団体交渉に
は応じられない旨の通知書を送付した(本件団体交渉拒否)。
そこで,原告組合は,三重県労委に対し,同年5月6日,不当労働行為
救済の申立てを行った。
2争点
(1)P1部長の本件言動が労組法7条3号の不当労働行為に当たるか。
(2)本件雇止めが労組法7条1号,3号の不当労働行為に当たるか。
(3)本件団体交渉拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか。
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(P1部長の本件言動が労組法7条3号の不当労働行為に当たる
か)について
【原告会社の主張】
アP1部長からP2に対する組合脱退慫慂の言動があったことは否認する。
P1部長とP2との平成15年6月17日の喫茶店「P5」における面
談時間は3時間より短く,P1部長が,「(賃金の)最低基準はクリアし
ているから,不当なんて言われることはない。」,「責任を持たされるの
が嫌だったら,Bパートに戻ればいい。」,「この会社の給料で納得がい
かないのなら,他で働けば?…そうだ!あなた,ここで働けばいい。」,
「こんなよってたかって大勢でワァワァ言ってくる奴等と,話なんてする
気はない。」,「組合,組合って…あなたはこの会社の人間でしょう。」
と発言したことはない。
P1部長は,原告組合から,同月16日付けで,P2が組合員であるこ
との通告がされるとともに,P4店長のセクハラ及び同人の報復的対応や,
原告会社が賃金を不当に低く抑えていること等を交渉事項とする団体交渉
が申し入れられたことから,P2に直接会って,同人の悩みなどについて
話を聞こうと考えたものであり,これに対し,P2が組合との間で話合い
をするようにとの対応をとったことから,P2が心を開いて話をできるき
っかけを作るため,問わず語りに,社会は分業制で成り立っていること,
店舗の中でも従業員がそれぞれの役割を分担し,助け合って仕事をしてい
るために店は成り立っていること,店長は従業員評価でもP2をきちんと
評価していることなどを説明し,P2に理解を求め,また,賃金について
は,全国一律基準で決められているので,P2だけ高くするわけにはいか
ない旨説明したのである。
さらに,P1部長は,前記喫茶店での面談の翌日(同月18日)の電話
においては,P2が前日に心を開いて話をしようとしなかったことから,
家族と一緒ならば話ができるかと思い,P2の家族と一緒に話をするよう
提案しただけである。
イ不当労働行為が認定されるためには,使用者によって,労働者が労働組
合を結成し若しくは運営することを支配し若しくはこれに介入する行為,
すなわち,労働組合の結成,運営に対する干渉,労働者の団結権,団体行
動権の行使を侵害する行為がなければならず,具体的には,使用者が組合
員に対し,組合の組織,運営に影響を及ぼすような威嚇的な言動や組合の
結成加入や役員の人事等本来組合の自主的な決定に委ねられるべき性質の
事項について,とやかく意見を表現したり,又は利益の約束をしたりする
行為がなければならない。
しかしながら,本件命令は,①平成15年6月16日付けの通告書送付
の翌日及び翌々日,勤務時間中に3時間にわたる面談の中で,P1部長の
本件言動があったこと,②P1部長の「この会社の給料で納得がいかない
なら,組合で働けばいい。」,「こんなよってたかって大勢でワァワァ言
ってくる奴等と,話なんてする気はない。」との発言,③P1部長の「自
分一人で仕事をしているんじゃない。みんなに守ってもらって仕事してい
るんだ。何かあったときに助けてくれるのは,周りのスタッフで店長なん
だ。」との発言,④P1部長の「ご両親,旦那さんを交えて話をしよ
う。」,「組合,組合って…あなたはこの会社の人間でしょう」との発言
をもって,不当労働行為を認定しているところ,①は仮に面談時間が3時
間であったことが認められるとしても,P1部長は組合からの通告書を受
け,P2の自由時間を使うより賃金支払いのある勤務時間を利用して,P
2から事情聴取をしようとしただけであって,それらの事情が不当労働行
為を推認させるものではなく,②は仮にこれがあったとしても,前者は原
告会社の給料制度に対する意見表明に過ぎず,後者も組合員に組合脱退を
強制したり,報復,威嚇,利益誘導という要素を欠くものである,③はP
2が職場において浮き上がった存在になっていることを感じたP1部長が,
P2に職場での融和,強調を説いただけであり,組合の存在を否定する言
動とはいえない,④のうち,P1部長が家族を交えて話をしようと言った
点は,P2に心を開いて話をしてもらうには,人事管理の一手法として,
家族に同席してもらった方が良いと考えたからであり,いずれの発言もP
2に組合から離脱するよう精神的圧力を加えたなどと認められるものでは
到底ない。
【被告の主張】
中労委の発した本件命令は,労働組合法25条,27条の17及び27条
の12並びに労働委員会規則55条の規定に基づき適法に発せられた行政処
分であって,処分の理由は本件命令書記載のとおりであり,中労委の認定し
た事実及び判断に誤りはなく,原告会社の主張には理由がない。
【原告組合の主張】
P1部長は,組合結成通告及び団体交渉申入れの翌日である平成15年6
月17日,原告会社の指示に基づき,勤務時間中のP2を,職務命令として
喫茶店に呼び出し,約3時間にわたり拘束した。そして,その中で,P1部
長は,原告組合を誹謗中傷した上,原告組合から申し入れた団体交渉につい
て,応じるつもりはないなどと繰り返し,「(賃金について)最低基準はク
リアしているから,不当なんていわれることはない。」,「責任を持たされ
るのが嫌だったら,Bパートに戻ればいい。」,「社員は入社試験,面接を
して,入社してきている。(お給料たくさん欲しければ)入社試験を受けれ
ばいい。でも,社員だと転勤がありますよ。あなたに転勤ができますか?で
きないでしょう。」,「この会社の給料で納得がいかないのなら,他で働け
ば?手に職付けるとか…何なら自分で店を出せば?そうだ!あなた,ここで
(組合の通告書を指さして)働けばいいじゃない。ここで働いて給料が出る
のか?出ないでしょ。」,「(セクハラのことで)大の男が頭を下げて,首
を覚悟で始末書を書いたんだ。」,「査定表見せようか?A・B+・B・B
−・Cの5段階で,B+付いてるじゃない。Aなんてめったにないのに,店
長はあなたにAまで付けているじゃないか。どこが報復的対応なんだ。もっ
とちゃんと人を見ろ。自分一人で仕事をしているんじゃない。みんなに守っ
てもらって仕事しているんだ。何かあったときに助けてくれるのは,周りの
スタッフで店長なんだ。あなたは,周りの人に感謝の気持ちを忘れている。
親に守られ,旦那さんに守られ,仕事では,一緒に働いている人たち,店長
に守られているんだよ。あなたは感謝の気持ちを忘れちゃだめだよ。」,
「(P4店長の件で嫌な思いをしていると述べるP2に対し,)会社を巻き
込むな!会社を甘く見るな!」,「(年次有給休暇を)申請すれば取れます
よ。(年次有給休暇があると聞いたことがないと述べるP2に対し,)あな
たが聞いていないだけだ。」などと申し向け,P2に対し,団体交渉事項に
ついて,組合を抜きにしてその場で要求を取り下げ,納得するように執拗に
迫るとともに,組合員である以上は会社で働くより組合で雇われれば良いな
どと排除の意思を示し,組合を脱退して原告会社に迷惑を掛けないよう求め
るなどした。
また,P1部長は,その翌日,上記のとおりP2に働きかけた要求の撤回
について,「分かってもらえたかな?」と尋ねた上,分からないと答えるP
2に対し,「昨日あれだけ話をしたのに,なぜ分からないんだ。ご両親,旦
那さんを交えて話をしよう。」,「(組合と話をするよう述べるP2に対
し,)あなたは,組合,組合って…あなたはこの会社の人間でしょう。直接
話もできないんですか。」などと申し向け,家族の話を持ち出してP2に圧
力を加えながら,組合員である前に会社の人間であるとP2の立場を問い質
して,組合との関係を断ち切るよう強烈に要求している。
(2)争点(2)(本件雇止めが労組法7条1号,3号の不当労働行為に当たる
か)について
【原告組合の主張】
ア原告会社とP2とは,期間の定めのない雇用契約関係にあったか,期間
の定めがあったとしても,少なくとも,特段の意思表示をしなくても契約
が更新される内容の雇用関係にあった。また,平成15年12月以前には,
Aパートについて,原告会社が主張するような土日の勤務を義務付けると
いう労働契約は成立しておらず,仮にそうでなくとも,P2は,その家族
に対する責任の遂行のため不可欠なものとして,Aパートの地位にありな
がらも,長女の習い事の送迎のため日曜日を休日とするよう配慮されてお
り,そのような配慮を受けるべき労働契約上の既得の権利を有していた。
それにもかかわらず,P7店長は,P2の事情に配慮することなく,P
2に対し,平成15年12月上旬,同月7日及び同月14日の日曜日を休
日と認めない旨通告した。その上,原告会社は,P2が日曜日を休日とす
る必要性が高く,原告組合から団体交渉の申入れがされていたのに,これ
を拒否して,P2に対し,Aパートとして働き続ける代わりに日曜日の家
族に対する責任に関わる事情は一切配慮されないことに同意するか,さも
なくば低賃金のBパートとして働くようにとの選択を迫り,さらに,精神
的葛藤が高じて心身症を発症したP2に対し,同様の態度で臨んだ末に,
P2が面談に応じなかったことなどを口実として,雇用打切りを通告して
きたのである。しかも,P2は,従来どおりの労働条件で雇用契約を継続
したい旨の意思表示をしており,原告会社にも雇用契約を継続させる意思
はあったのであるから,労働条件に関する取扱いに意見の対立はあったも
のの,その対立は軽微なものであって,原告会社としては,雇用契約を継
続した上で,速やかに労働条件を協議すべきであった。
したがって,本件雇止めは,まず,原告会社とP2との間に上記のよう
に期間の定めのない雇用契約関係が認められる場合には法的効力が認めら
れず,仮にそれが認められない場合にも,P2の排除を目的とする著しく
信義に反する権限濫用行為として,不利益取扱いに当たるとともに,原告
組合に対する支配介入に当たる。
イ原告会社は,原告組合から,平成15年6月16日にP2の組合加入通
告及び団体交渉申入れがされて以降,①P1部長により前記(1)【原告組
合の主張】記載の組合脱退慫慂の言動が行われ,②これを抗議した組合に
対し,その謝罪の要求を無視した上,団体交渉には応じるが日時場所は追
って回答するなどとし,その後も岐阜県美濃市にて団体交渉を行う等,組
合には応じられない条件を示して実質的な団体交渉拒否に及び,その後同
年8月8日まで団体交渉の開催を引き延ばし,③セクハラについてのP2
を除く従業員への調査を行って,それまで勤務態度にも周囲との関係にも
何も問題のなかったP2について,P3店の他の従業員を組織してP2を
非難する内容の原告会社社長宛の嘆願書(乙B29の1,2)を作成させ
てP2に打撃を与え,その後も原告組合及びP2に対する敵対的姿勢を強
め,まず,平成15年8月25日には原告組合が交渉事項としていた賃金
問題についてパートの時給を引き上げる代わりに一時金を支給しないこと
として従業員の署名を集め,団体交渉の妥結を妨害したほか,同月26日,
P4店長が売上金の不足をP2の責任としてP2を攻撃したり,その後も
P4店長が「しゃべりかた何とかせい」,「目障りだ」などとP2に対す
る暴言を吐いたりし,④同年9月12日の団体交渉において,P4店長が
セクハラについて記憶がないと発言し,一旦はセクハラを認めていたP6
専務も同様に事実を否定したほか,同年11月26日,P8組合員とP6
専務との間で非公式折衝が持たれた際は,原告会社はセクハラの事実を強
固に否定し,交渉を決裂させるなど,セクハラの事実がなかったこととし
て原告組合及びP2を愚弄し,⑤同月1日付けで,P4店長の後任として
P7店長を配置し,P2の組合加入前は,退職を思いとどまるよう引き留
め,日曜部の一部を勤務シフトから除外するなどの配慮をしていたにもか
かわらず,あえてP2が働き続けられなくなるような勤務シフトを編成し
た。
このように,原告会社は,原告組合から,P2の組合加入通告等を受け
た直後,P2を抱き込むことによって原告組合の職場への影響を排除しよ
うとしたが,P2の態度からそれが不可能とみるや,原告組合に対しては
団体交渉に応じるように見せかけながら,今度はP2を原告組合と同一視
して,上記③ないし⑤のとおり,職場から排除しようとしたものであるこ
とは明らかであり,これに引き続いてされた本件雇止めについて,原告会
社には不当労働行為意思が認められる。
【被告の主張】
前記(1)【被告の主張】のとおり。
【原告会社の主張】
いずれも否認ないし争う。
(3)争点(3)(本件団体交渉拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たる
か)について
【原告会社の主張】
ア団体交渉は,労働組合がその組合員を雇用している使用者に対して,組
合員たる労働者のために行われるものであり,当該労働者が退職していれ
ば,労働組合は団体交渉権を有しない。そして,組合が団体交渉を申し入
れた平成16年3月当時,P2は原告会社の従業員の地位を失っているの
であるから,原告会社が団体交渉の申入れを拒否しても不当労働行為とは
ならない。
イ原告組合の団体交渉申入れは,解決金名下に原告会社に金銭を支払わせ
る意図からされており,到底正当な団体交渉申入れとは認められず,原告
会社がこれを拒否しても不当労働行為とはならない。
ウ原告は,中労委が団体交渉を命じた平成16年3月5日,同月9日,同
月12日及び同月19日付けの団体交渉申入れの後,同年8月18日に第
4回団体交渉を,同年11月19日に第5回団体交渉を行っており,団体
交渉を命じるべき救済利益はない。また,それらの団体交渉において,P
2について日曜日を休日と認めなかったのは時季変更権の行使であるなど
と説明をしている上,P2は,同年7月から,原告会社と同様の衣料品販
売業者に就職し,稼働して,職場復帰の意思を失っているのであるから,
やはり団体交渉を命じるべき救済利益はない。
エ本件命令はあたかもP4店長によるセクハラがあったかのような認定を
し,これを前提に原告組合の救済利益を認めているが,そのような事実認
定は労働委員会の権限を越えており,それを前提とする判断も違法である。
【被告の主張】
前記(1)【被告の主張】のとおり。
【原告組合の主張】
平成16年8月18日及び同年11月19日の団体交渉において,原告会
社は,契約書を提出しなかったから雇用を打ち切ったなどという形式的な回
答を繰り返すのみで,契約打ち切りの実質的な理由については全く説明しよ
うとせず,不誠実な交渉態度であった。
また,P2は,主治医からのアドバイスを受け,精神的葛藤を強いられな
い職場に勤務していただけであって,三重県労委の和解においても組合側が
金銭的解決案を提示した事実はなく,P2は職場復帰の意思を喪失してはい
ないし,不当な雇用打切り問題を交渉によって解決する必要性はある。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記第2の1の前提となる事実並びに証拠(甲3の1ないし6,4の1及び
2,乙A1ないし14,15の1及び2,16,17,19ないし23,24
の1ないし6,25ないし28,41,44ないし47,52,乙B1ないし
6,7の1及び2,28,29の1及び2,30,36ないし39,42ない
し46,乙C1ないし6,丙2,3,11。ただし,乙A12,13,16,
44,乙B38,39,46,乙C1ないし6については,後記認定に反する
部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)原告会社におけるパート従業員等の雇用形態とP2の休日割当の取扱い
ア原告会社においては,従業員の雇用形態として,正規従業員以外に,勤
務条件に応じてAパート,Bパート及びアルバイトという類型があり,時
給,賞与及び社会保険等の待遇は,前者から順に優遇されていた。
イAパートは,平日のほかに土曜日,日曜日,祝日及び年末年始勤務が可
能な者を対象としており,準社員として店長を補佐する業務を行うことと
され,その勤務時間は1日8時間,1週40時間のフルタイムで,時給は
平日800∼850円より,日曜日の時給は平日賃金のそれに50円加算
した金額,賞与は年2回,社会保険加入という条件になっている(平成1
6年6月当時)。
Bパートは,日曜日に毎月2回以上,1日5∼6時間の勤務が可能な者
を対象としている。その勤務時間は1日5∼6時間まで,1週25時間ま
で,時給は平日750∼800円より,日曜日は平日賃金に100円加算
した金額,賞与なし,社会保険未加入という条件になっている(平成16
年5月当時)。
アルバイトは,パート従業員と比べて勤務時間等の条件がより緩やかに
なっている。
ウパート従業員の雇用契約期間は6か月間であり,原告会社は全パート従
業員について,一律に毎年8月20日及び2月20日を雇用契約更新日と
していた。雇用契約更新の手続は,パート従業員が,更新日までに店長と
個別に面談を行い,勤務条件を確認した上,両者が雇用契約更新書に署名
捺印する方法によっており,雇用契約更新書は,雇用契約書を作成する場
合より簡略化して,雇用契約期間,雇用契約更新年月日,1週間の平均労
働時間,本人給(1時間当たり),責任者の署名捺印,労働者の署名捺印,
備考欄をそれぞれ記載するようになっていた。
なお,原告会社は,平成16年2月から,雇用契約更新手続を,雇用契
約書にパート従業員が署名捺印をする方式に変更した。
エ原告会社においては,パート従業員について,1か月単位の変形労働時
間制が採用されている。
P3店では,パート従業員の勤務日と休日については,P4店長は自ら従
業員の希望を調整して勤務表を作成していたが,P7店長は,店長以外唯
一の正規従業員であるP9に各自の希望を調整させた後,店長が最終的に
決定をし,勤務表を作成していた。
オP2は,原告会社との間で,平成14年8月21日,Aパートとして雇
用契約を更新した。
これに先立つ同年7月19日,P1部長による面接が行われ,P2は,
P1部長から働けない曜日や時間があるか質問を受け,午前9時30分以
降であれば何曜日でも構わない旨答えたほか,希望する休日は土曜日で,
日曜勤務は全て可能と述べていた。
カP2は,前記更新の後,名古屋に習い事に行く長女に付き添うため,日
曜日を休日にする必要が生じ,平成15年6月以降,勤務表作成に当たり,
日曜日を休日として希望するようになった。
P4店長は,P2の希望を受け,日曜日にP2が休日を取得することを
容認していた。
キP2の休日取得状況は以下のとおりである(甲3,丙11。平成15年
9月及び同年10月分の一部を除く。)。
平成14年8月21日(水),27日(火),
9月3日(火),4日(水),7日(土),
10日(火),17日(火),21日(土),
23日(月),28日(土),
10月1日(火),5日(土),11日(金),
16日(水),21日(月),26日(土),
29日(火),
11月2日(土),9日(土),12日(火),
16日(土),19日(火),22日(金),
26日(火),29日(金),
12月3日(火),7日(土),10日(火),
14日(土),17日(火),21日(土),
24日(火),28日(土),
平成15年1月1日(水),4日(土),7日(火),
11日(土),13日(月),16日(木),
17日(金),21日(火),24日(金),
28日(火),
2月1日(土),4日(火),12日(水),
15日(土),17日(月),22日(土),
25日(火),
3月1日(土),4日(火),8日(土),
11日(火),15日(土),18日(火),
25日(火),28日(金),29日(土),
4月1日(火),5日(土),8日(火),
12日(土),15日(火),19日(土),
21日(月),24日(木),29日(火),
30日(水),
5月6日(火),10日(土),13日(火),
17日(土),20日(火),24日(土),
27日(火),30日(金),
6月1日(火),7日(土),15日(日),
19日(木),21日(土),24日(火),
28日(土),31日(火),
7月2日(木),5日(土),8日(火),
12日(土),15日(火),17日(木)(有給),
20日(日),22日(火),27日(日),
8月1日(金),4日(月),8日(木),
9日(金)(有給),12日(火),16日(土),
18日(月),22日(金),23日(土),
24日(日),28日(木),30日(土),
9月2日(火),7日(日),9日(火),
13日(土),15日(月),20日(土),
10月21日(火),25日(土),28日(火),
11月1日(土),4日(火),9日(日),
11日(火),16日(日),17日(月),
23日(日),25日(火),29日(土),
12月2日(火),7日(日),9日(火),
14日(日),16日(火),20日(土)
(2)P1部長の本件言動
アP1部長は,P2から,平成15年4月16日,P3店において,P2
がP4店長によってセクハラ被害を受けた旨の申出を受けたことから,ま
ず,P2から事情を聴取した後,P4店長に事実確認を行ったところ,同
店長はセクハラを否定した。
しかし,P1部長は,P4店長に謝罪させた上,P2が申し出たセクハ
ラの内容をP4店長に書き出させて,「P2さんからこのようなことを言
われました,誤解をされるような言動があったことを反省し,今後セクハ
ラと誤解されないよう言動を慎みます。」との趣旨の始末書を作成,提出
させた。
イ原告組合は,原告会社に対し,平成15年6月16日付けの通告書(乙
A14)で,「P2さんが当労組の組合員であることを通告します。今後,
P2組合員の労働条件は当労組と協議の上決定いただきますよう申し入れ
ます。」とした上,①賃金・一時金等の労働条件を不当に低く抑えている
件,②店長がセクハラを働き,部長に改善を求めた後,店長が報復的対応
をしている件,③有給休暇が取得できない件,④残業割増が支払われてい
ない件の4点を交渉事項として,団体交渉を申し入れた。
ウP1部長は,前記通告書の提出を受け,P6専務の指示により,同月17
日午後3時30分ころから午後6時30分ころまでの間,P3店近くの喫茶
店「P5」にてP2と面談した。
P1部長は,P2に対し,同面談において,要旨,次の発言等を行った。
①賃金については,「最低基準はクリアしているから,不当なんて言われ
ることはない。」,「(賃金が11ないし12万円で正規従業員と変わらな
い責任が掛かるのは割に合わないと言うP2に対し,)責任を持たされるの
が嫌だったら,Bパートに戻ればいい。」,「社員は入社試験,面接をして,
入社してきている。(賃金がたくさん欲しければ)入社試験を受ければいい。
でも,社員だと転勤があるが,あなた(P2)にはできないでしょう。」,
「この会社の給料で納得がいかないのなら,他で働けばいい。手に職付ける
とか,自分で店を出すとか。」,また,(ユニオンの通告書を指差して)
「ここで働けばいいじゃない。ここで働いて給料は出ないでしょ。」といっ
た趣旨を述べた。
②P4店長については,(ア)セクハラのことで大の男が頭を下げて,クビ
を覚悟で始末書を書いたこと,(イ)P2の査定表について,A・B+・B・
B−・Cの5段階で,B+がつけられていること,また,A評価は滅多にな
いのに,店長はAまでつけていることを指摘して,ちゃんと人を見るべき旨
を告げ,さらに,「自分一人で仕事をしているんじゃない。みんなに守って
もらって仕事しているんだ。何かあったときに助けてくれるのは,周りのス
タッフで店長なんだ。あなたは,周りの人に感謝の気持ちを忘れている。親
に守られ,旦那さんに守られ,仕事では,一緒に働いている人たち,店長に
守られているんだよ。あなたは感謝の気持ちを忘れちゃダメだよ。」旨を述
べた。また,この一連の話の中で,店長のことで嫌な思いをしていると言う
P2に対して,会社を巻き込んだり,会社を甘くみないようにという趣旨を
述べた。
③有給休暇に関しては,「申請すれば取れますよ。」,「(有給休暇があ
ると聞いたことがないと言うP2に対し,)あなたが聞いていないだけ
だ。」などと述べた。
④組合については,その通告書を指差しながら,「よってたかって大勢で
ワァワァ言ってくる奴等と,話なんてする気はない。」旨を述べ,同通告書
をテーブルの上に投げ出した。
エさらに,P1部長は,同月18日午後4時30分ころ,P3店で勤務中の
P2に電話をかけ,「昨日あれだけ話をしたのに,なぜ分からないんだ,ご
両親,旦那さんを交えて話をしよう。」と述べた上,P2が,「組合と話し
て下さい。」,「団交の場に親も呼びますから,団交で話して下さい。」と
答えたところ,P1部長は,「組合,組合って…あなたはこの会社の人間で
しょう,直接話もできないんですか。」などと述べた。
オ原告組合は,原告会社に対し,同月19日,前記ウの面談及びエの電話に
おけるP1部長の言動(本件言動)が違法な行為であると抗議するとともに,
原告組合に対する謝罪を求める旨記載された文書(乙A17)をファクシミ
リで送付した。
一方,原告会社は,原告組合に対し,同月20日付けで,同月16日付
け通告書の回答として,団体交渉に応じる所存である旨通知した(乙A2
8)。
(3)第1回及び第2回団体交渉
ア原告会社と原告組合は,同年8月8日,第1回団体交渉を開催し,原告
会社側からはP6専務,P1部長及びP4店長が出席し,原告組合側から
はP10書記長,P2及びその他の組合員が出席した。
同交渉においては,原告組合から,P2に対するセクハラ,パート従業
員の賃金が非常に低く抑えられていること,就業規則の存否及び店舗にお
ける設置状況,P2の時間外割増賃金の未払,パート従業員の有給休暇の
各問題が指摘され,原告会社から,P3店のP2以外の従業員による嘆願
書(乙B29の1,2)が示された上,P4店長によるセクハラについて
はその事実はなく,同店長による報復的行為もないと思われるが再調査は
する,パート従業員の賃金は採用又は雇用契約更新時に確認しているので
問題ない,就業規則は存在するが店舗には設置していない,P2の時間外
割増賃金については調査する,パート従業員にも有給休暇はあるが,各従
業員の取得状況は把握していない旨の回答がされた。
イ原告会社と原告組合は,同年9月12日,第2回団体交渉を開催し,原
告会社側からはP6専務,P4店長が出席し,原告組合側からはP8組合
員及びその他の組合員が出席した。
同交渉においては,原告会社は,P2のセクハラについて関係者に確認
したところ,P4店長によるセクハラ行為及びその後の報復的対応の事実
はなかったが,P4店長が,マジックパンツという商品の着用時の状態に
ついて,P2の臀部を指さして,「ラインが出るぞ。」と言ったことが誤
解を招くような行為であったと報告した。また,原告組合は,第1回団体
交渉に引き続き,パート従業員の賃金が非常に低く抑えられていることを
指摘し,原告会社は,前回同様の説明をした。さらに,原告会社は,原告
組合に対し,就業規則については今後順次各店舗に設置すること,P2の
時間外割増賃金については時間外勤務の事実を確認したので支払ったこと
を伝えた。
ウその後,原告組合のP8組合員とP6専務は,同年11月26日,解決
に向けた非公式の折衝をもち,P8組合員から賃上げが難しければ一括の
金銭支払による解決ができないか提案があったが,P6専務が,P4前店
長のセクハラはなかったと否定し,P8組合員からの前記提案も拒否した
ため,交渉が決裂した。
(4)P7店長の着任とP2の日曜日休日割当の取扱いの変更
ア原告会社は,同年11月1日付けで,P4店長に代えて,P7店長をP
3店店長とした。
イP7店長は,P4前店長と異なり,P2が日曜日を休日とすることにつ
いて,同人がAパートであるとしてこれを認めず,P2に対し,遅くとも
同年12月7日までに,日曜日を休日にする扱いはできない旨通告すると
ともに,P2について,全日曜日を出勤日とする出勤表を作成した。
これに対し,P2は,休日として申請していた同年11月23日,同年
12月7日及び同月14日,原告会社に出勤しなかった。
ウ原告組合は,原告会社及びP7店長に対し,同年12月9日,従来の条
件のとおりP2の希望に応じ日曜日を休日とすることを求めるとともに,
原告会社がこれを聞き入れない場合には,組合の指示でP2に有給休暇を
取得させる旨記載された文書(乙A19)をファクシミリで送付した。
これに対し,原告会社は,原告組合に対し,同月10日,①Aパートで
あるP2との雇用契約は「パート・アルバイト勤務条件基準」に基づき,
日曜勤務が条件となっている,②12月は1年のうち最も多忙な時期であ
り,日曜日はその中でも最も忙しい日である,③したがって,平成15年
12月7日及び同月14日の日曜日を有給休暇とすることを認めることは
できない,④今後も正当な理由がなく日曜日を休日とすることを望む場合
は契約違反となるので,P2との話合いにより雇用条件の変更を考えられ
たい旨記載された文書(乙A20)をファクシミリで送付した。
エ原告組合は,原告会社に対し,同月11日,P2の有給休暇を認めない
ことは労働基準法違反であること,有給休暇申請をしない契約をしたとい
うのであれば,その契約は違法であり無効であることを通告した上,①一
方的な労働条件変更の件,②有給休暇取得の件を交渉事項とする団体交渉
を申し入れる旨記載された団交申入書(乙A21)を送付した。
(5)第3回団体交渉
原告会社と原告組合は,同月18日,第3回団体交渉を開催し,原告会社
側からはP6専務及びP7店長が出席した。
同交渉においては,原告組合から,パート従業員の賞与が一方的にカット
されたこと,P2の労働条件について一方的に日曜を休日とできないように
したこと及びP2の有給休暇を認めないことは問題である旨の指摘があり,
原告会社から,賞与については賞与分を時給として支給するように変更した,
P2の労働条件を一方的に変更したことはない,P2から有給休暇の申請は
されていないので無断欠勤である旨回答があった。
また,原告会社は,P2に対するP4前店長のセクハラについては,前回
の報告どおり,その事実がなかったと回答した。
(6)本件雇止めの経緯
ア原告組合は,原告会社に対し,同月20日,P2が翌日から2週間休業
する旨の通知文書(乙A22)を,鉄欠乏性貧血及び心身症により約2週
間の安静加療を要するとの診断書(乙A23)とともに,ファクシミリで
送付し,P2は,同日以降,原告会社に出勤しなくなった。
P7店長は,P2の雇用契約期間満了日が平成16年2月20日であっ
たことから,同年1月中旬ころ,病気休暇中のP2に電話をかけ,年末調
整の還付金を交付するほか,同月14日に更新手続のための面談を行うの
でP3店に来るよう伝え,P2はこれを了解した。
しかし,P2は,P7店長に対し,同月12日,電話で,体調が良くな
いので面接を断る旨伝え,同月14日には,P6専務及びP1部長に宛て
て,①P7店長から連絡を受けた,②組合から,体調が悪くて会社を休ん
でいるのだから行かなくていいと言われた,③体調が良くなるのがいつに
なるか分からない,④迷惑をかけて本当にすまない,⑤よく考えたが子供
のために必要な日曜と祝日はやはり休みとして欲しい,⑥会社が日曜・祝
日出勤できないAパートは困るというのであれば後は会社の判断に任せる
旨記載された文書(乙B37)をファクシミリで送付した。
イP2は,同月16日,P3店に立ち寄り,前記アの電話でP7店長から
話があった年末調整の還付金を受け取った。その際,P7店長は,契約の
話をしたいとP2に声を掛けたが,P2はこれに応じなかった。
ウ原告会社は,P2が面談に応じなかったことから,同月16日付けで,
同日付け通知書,Aパート,Bパート及びアルバイトの3種類の雇用契約
書,誓約書,勤務条件基準書をP2の自宅に送付した(乙A8,24の1
ないし6)。
上記通知書には,①原告会社はP2をAパートとして雇用している,②
同年2月20日をもって期間満了となるので,雇用契約更新を望むのであ
れば,本来は面談を必要とするところ,今回に限り,上記雇用契約書に署
名捺印の上必要事項を記入して同年1月20日までに会社に送付すればよ
い,③連絡がない場合には,今回に限り,とりあえずAパート勤務とする
が,勤務条件基準に照らし,毎日曜日・土曜日・祝日・年末年始は出勤日
となり,多忙となる日曜日,祝日についてはP2が希望する休みの許可は
できない,④契約の更新を望まない場合は会社に連絡されたい旨記載され
ていた。
エ原告組合は,原告会社に対し,同年1月20日,①同月16日付け通知
書記載の勤務条件は従来と異なるものであるから,組合と協議して決定す
べきである,②会社から組合に対して団体交渉を申し入れるよう求める,
③現段階では雇用契約書等に署名はできない旨を記載し,P2から原告会
社に対し,引き続き病気療養のため休ませてもらう旨記載された文書(乙
A6)をファクシミリで送付した。
さらに,P2は,原告会社に対し,同月21日,同月16日付け通知書
の回答として,引き続き原告会社で従来の条件で働き続けること及び詳し
い条件は組合と協議し決定してもらいたい旨記載された文書(乙A7)を
ファクシミリで送付した。
オ原告会社は,P2に対し,同月22日付けで,同月21日付け文書に対
する回答として,パート及びアルバイトの勤務条件は会社の定める勤務条
件基準以外の特別な勤務条件は存在せず,全国統一の基準によるものであ
るとした上,雇用契約書及び誓約書に署名捺印の上至急送付するよう求め
る旨の通知書(乙A9)を送付した。
カ原告組合は,原告会社に対し,同月29日,P2はこれまでに8回雇用
契約を更新しており,Aパートになってからも2回更新していて,既に期
間の定めのない雇用契約と変わらない権利を有していること,P2が同月
21日付け文書で,従来の条件で働き続けること及び勤務条件については
原告組合と協議し決定する意思を表明しているにもかかわらず雇用契約書
にサインしないという不当な理由で契約解除することは,明らかに違法な
解雇である旨記載した文書(乙A10)をファクシミリで送付した。
キP7店長は,雇用契約の満了日である同年2月20日までの間,数回に
わたりP2に電話をかけ,雇用契約書等を提出しなければ雇用契約が更新
されない旨を伝えたが,P2から雇用契約書等の提出はなかった。
クP2は,原告会社に対し,同月23日付けで,同月24日から同年3月
27日まで23日間の有給休暇を取得するとの年次有給休暇取得届(乙A
225)を送付した。
ケ原告会社は,P2に対し,同月24日付け通知書(乙A11)で,本件
雇止めを通知した。
その後,P7店長は,P2に対し,同月25日,電話で,「同月20日
に雇用契約が切れたから,今度出勤するときには,契約書にサインして持
ってきて下さい。」と伝えた。
(7)本件団体交渉拒否
ア原告組合は,原告会社に対し,平成16年3月5日,交渉事項を①不当
労働行為に対する謝罪について,②不当解雇の撤回について,③P4前店
長の謝罪及びセクハラ行為の責任の所在について,④賃金の引上げ等労働
条件の改善について,とする団体交渉を申し入れた(回答期限を同月8日
としていた。)(乙A1)。
また,原告組合は,原告会社に対し,同月9日,交渉事項を上記①ない
し④に加え,⑤団体交渉拒否に対する謝罪について,とする団体交渉を申
し入れ(回答期限を同月11日としていた。),同月12日,交渉事項を
上記①ないし④に加え,⑥P2の平成16年2月21日からの有給休暇申
請に対する賃金及び今後の賃金支払について,⑦夕方の休憩が取れなかっ
た日の時間外勤務に対する賃金の支払について,とする団体交渉を申し入
れ(回答期限を同月15日としていた。),さらに,同月19日,交渉事
項を上記①ないし④,⑥及び⑦に加え,⑧セクハラ防止策について,とす
る団体交渉を申し入れた(回答期限を同月23日としていた。)(乙A2
ないし4)。
イ原告会社は,原告組合に対し,原告組合の求めた回答期限を経過した同
月29日,前記アの団体交渉申し入れに対する回答として,①P2は同年
2月20日付けで従業員の身分を失っている,②P2が期間の定めのない
雇用形態になったという組合の主張は,会社と法的な見解が異なる,③一
方的に日時を指定して津市の組合事務所に呼びつけられるような団体交渉
には応じられない旨の通知書(乙A5,56の1)を送付した(本件団体
交渉拒否)。
ウ原告組合は,三重県労委に対し,同年5月6日,不当労働行為救済申立
てを行った。
(8)救済申立て後の団体交渉
ア原告組合は,原告会社に対し,同年5月14日及び同年7月27日,原
告会社の不当労働行為に対する謝罪等を求め,前記(7)アと概ね同様の,
①不当労働行為に対する謝罪について,②不当解雇の撤回について,③P
2の同年2月21日からの有給休暇申請に対する賃金及び今後の賃金支払
について,④夕方の休憩が取れなかった日の時間外労働に対する賃金の支
払について,⑤P4前店長の謝罪及びセクハラ行為の責任の所在について,
⑥賃金の引上げ等労働条件の改善についての6点を交渉事項とする,団体
交渉を申し入れた(乙A26,27)。
これに対し,原告会社は,団体交渉に応じる旨回答した。
イ原告会社及び原告組合は,同年8月18日,第4回団体交渉を開催し,
原告会社側からはP6専務,P1部長,P7店長及び宮澤俊夫弁護士(本
件訴訟の原告会社訴訟代理人。以下「宮澤弁護士」という。)が出席し,
原告組合側からはP10書記長,P8組合員,P2及びその他の組合員1
2ないし13名が出席した。
同交渉においては,原告組合から,P2の雇止めは不当な解雇であり,
不当労働行為である旨の主張があり,他方,原告会社からは,会社がP2
に送付した雇用契約書が返送されなかったため契約期間が満了したのであ
って,不当解雇でないのはもちろん,解雇か契約期間満了かという法的見
解が根本的に異なるので団体交渉を行う意味がない上,P2は既に従業員
ではないので有給休暇及び就業規則について説明する必要はない旨の回答
がされた。
原告組合は,再び団体交渉を申し入れることとして,時間切れで交渉を
終えた。
ウ原告会社及び原告組合は,同年11月19日,第5回団体交渉を開催し,
原告会社側からはP6専務及び宮澤弁護士が出席し,原告組合側からはP
10書記長,P11組合員及びその他の組合員12ないし13名が出席し
た。
同交渉においては,原告組合から原告会社に対し,初審申立事件におい
て和解するよう強く求めたが,P6専務は,会社がP2を不当解雇した訳
ではないことを説明するために団体交渉の場に来たこと,会社は組合に対
し和解のための金銭は支払わないことを説明した。
これに対し,原告組合が,団体交渉拒否を文書にするよう原告会社に求
め,交渉の雰囲気が騒然となった。
このため,原告会社は団体交渉をこれ以上継続しても意味がないと判断
し,団体交渉を打ち切った。
2争点に対する判断
以上の認定事実及び前記第2の1の事実を踏まえて判断する。
(1)争点(1)(P1部長の本件言動が労組法7条3号の不当労働行為に当たる
か)について
ア使用者のある言動が不当労働行為(支配介入,不利益取扱い)に当たる
かどうかは,その言動の時期,場所,内容及び方法等の具体的事情を総合
的に考慮して判断すべきであり,その内容に威嚇,報復ないし利益の約束
の要素があれば不当労働行為であるということが認定されやすいとはいえ
るものの,そのような内容であることが不可欠であるとまではいい難い。
イP1部長の本件言動は,P6専務の指示を受けて行われたP2との面談
等でされたものであり,いずれも勤務時間中にされていることからすると,
P2の使用者である原告会社の意を表明したものであるといえる。
本件言動がされた時期は,原告会社が原告組合からP2が原告組合に加入
したこと及びP4店長からのセクハラや賃金等の労働条件等に関する団体
交渉を申し入れることを記載した通告書を交付された直後であり,その後
に原告会社は原告組合に対して前記団体交渉の申入れに応じる回答をして
いる。
また,P1部長の本件言動は,平成15年6月17日には,勤務時間中
に職場近くの喫茶店でP2と二人でいたときに約3時間にわたってされ,
翌18日には,P2が勤務しているP3店に勤務時間中に電話をかけてさ
れているところ,いずれの場合も,P1部長とP2との会話を他の従業員
に知られないような場所,方法でされている。
そして,本件言動の内容は,前記1(2)ウ及びエのとおりであったので
あり,①喫茶店での「この会社の給料で納得がいかないのなら,他で働け
ば」,(原告組合の通告書を指差して)「ここで働けばいいじゃない。」,
「よってたかって大勢でワァワァ言ってくる奴等と,話なんてする気な
い。」という旨の発言は,原告組合の存在や活動(特に団体交渉)を軽視
する態度を表明し,原告組合を非難する趣旨を含むものであるというほか
ないし,②喫茶店での「自分一人で仕事をしているんじゃない。みんなに
守ってもらって仕事しているんだ。何かあったときに助けてくれるのは,
周りのスタッフで店長なんだ。」という旨の発言は,原告組合と話をして
ほしい(前記の団体交渉の申入れに応じてほしい)とするP2に対してさ
れたものであることからすると,単に職場での協調を説くにとどまらず,
原告組合の存在や同組合の組合員であることの意義を否定するものである
と評価せざるを得ないし,③電話での「組合,組合って…あなたはこの会
社の人間でしょう,直接話もできないんですか。」,「ご両親,旦那さん
を交えて話をしよう。」という発言は,原告組合と話をしてほしいとする
P2の前記態度を問題視し,家族を労使対立に巻き込むことも示唆して,
P2に原告組合に所属し続けることを躊躇させ,原告組合から離脱するよ
うに精神的圧力を加えようとするものであるといえる。
してみると,P1部長による本件言動は,原告会社の意を表したものと
いえるところ,P2に対し,同人の原告組合の加入通告及び原告組合から
の団体交渉の申入れの直後に,他の従業員に知られない場所・方法により,
相当の時間にわたってされたものであること,原告組合の存在や活動を否
定し,家族を労使対立に巻き込むことも示唆するなどして,P2が原告組
合に所属しつづけることを躊躇させ,原告組合から離脱するように精神的
圧力を加えようとする内容であることからして,原告組合を除外した状態
でP2個人に働きかけることによって,同人の原告組合からの脱退を慫慂
するものであり,原告組合の組織,運営に関する支配介入にあたるという
のが相当である。
ウ原告会社は,前記1(2)ウ,エのP1部長の本件言動の一部を否認し,
同人がP2に組合脱退を慫慂したり,組合否認的な言動を行ったりしたこ
とはなく,むしろ,P2との面談等の後,原告組合との団体交渉にも応じ
ているのであって,本件命令の事実認定が中労委の公益委員が予断と偏見
に基づきP2の陳述書等の記載を鵜呑みにしてされたものである旨主張し,
P1部長の陳述書(乙B46)及び同人の審問調書(乙C1,2,6)
(以下,陳述書及び審問調書を併せて「陳述書等」ともいう。)にも,面
談について,時間はせいぜい1時間半程度であり,「よってたかって大勢
でワァワァ言ってくる奴等と,話なんてする気はない。」等の発言をした
ことはなく,原告組合を誹謗中傷したこともない,当時は合同労組につい
ての知識がなかったので,P2が組合員だという認識もなく,P2との面
談において組合の話をしたことは全くない,会社から,P2が何に悩んで
いるのかを聞き出すように言われ,P2に賃金の不満等を尋ねたところ,
P2が組合と話をするようにとの対応に終始したため,無人島で自動車に
乗ろうと思っても,各部品を作るのには大変な手間が掛かることを例に挙
げて,社会ないし会社は分業制で成り立っていると説明した旨の記載や,
P2に対する電話では,前日に賃金面での不満以外にP2には別の問題が
あるのだろうと感じたことから,家族を交えてよりリラックスして話をし
ようと告げたが,P2が組合と話すように言うのみであったので,これ以
上P2と話をしても無駄だと思い,組合に対し,団体交渉に応じると回答
をした旨の記載がある。
しかしながら,P2の陳述書等(乙A13,44,C5)には,前記1
(2)ウ,エに沿う記載があるところ,その内容は具体的かつ詳細で,基本
的に不自然な点はないというべきである。そして,P1部長との面談の翌
日である平成15年6月18日に組合員がP2から面談の状況を聴き取り,
その日のうちに原告組合にファクシミリで送付した報告書(乙A16,4
7)には,「何でこんな事をしたのか分からない(ユニオンに加入)」,
「給料については,最低基準はクリアしている」,「8h労働で責任が重
くなった。金庫,レジの精算までしていて正社員並である,と主張したと
ころ,これが嫌ならBパート(103万までに収まるパート)に変更しろ。
たしかに正社員は給料,賞与は高いが,入社試験があり,転勤もある。こ
れがあなたに出来るか。」,「給料が納得出来ない場合,辞めるか自分で
店を出すか…」,「セクハラについては,大の男が,頭を下げて始末書を
書いている。それで済ませたらどうか…査定についても店長はP2組合員
について良く書いてもらっていたのに報復するのは何故か…店長は良くし
てくれているのに何故分からない。人をよく見ろ!!」などの記載がある
ところ,これは,上記P2の陳述書等の記載とほぼ合致している(なお,
前記報告書(乙A16,47)には,P1部長の「よってたかって大勢で
ワァワァ言ってくる奴等と,話なんてする気はない。」等の発言の記載が
ないが,証拠(丙2)によれば,同報告書がP2の勤務中に短時間で作成
されたものであることが認められるのであり,P2の認識するP1部長の
本件言動が余すことなく記載されていなかったとしてもやむを得ないとい
うべきであり,そのことでP2の陳述書等の信用性が損なわれるものでは
ない。)。
他方,P1部長の陳述書等についてみると,まず,P2が組合員である
旨の通告書を見た上,P2から組合を通じて話すようにと強く言われなが
ら,P2が組合員だと認識しなかった旨の記載は措信し難いといわざるを
得ない。また,組合を通じて話をするように述べるP2に対し,組合の話
題を全く持ち出すことなく話を続けたというのはいかにも不自然であるし,
そのようなP2に社会ないし会社の分業制について説明したという意図も
明らかではなく,むしろこの点は,P1部長から「自分一人で仕事をして
いるんじゃないんだ。」などとP4店長を含む周囲への配慮ないし感謝を
強調され,P4店長の問題を大事にしないよう言外に圧力を受けた趣旨の
P2の陳述書等の記載と合致するものである。
加えて,P1部長の陳述書等によっても,P1部長自身,P2との面談
等で原告組合から申入れのあった団体交渉事項について話をしたところ,
P2が原告組合を通じてしか交渉しない強固な態度を示したことから,P
2とのそれ以上の話合いを断念し,原告組合に連絡をとったという経緯が
認められるところ,この経緯からしても,原告会社がP1部長をしてP2
との面談等をした意図が原告組合を排除して団体交渉事項を解決しようと
したところにあったと推認できるのであり,P2との面談等の後に原告組
合との団体交渉に応じたことと原告会社(P1部長)がP2に原告組合か
らの脱退を慫慂したこととは矛盾するものではない。
これらの事情を総合すると,P2の陳述書等により本件言動の内容等を
前記1(2)ウ及びエのとおり認定するのが相当であり,これに反するP1
部長の陳述書等の前記記載は採用することができず,原告会社の前記主張
も理由がなく,採用できない。
エ以上によれば,P1部長の本件言動は,原告組合に対する支配介入(労
働組合法7条3号)であるというのが相当であり,これと同旨の本件命令
が違法であるということはできない。
(2)争点(2)(本件雇止めが労組法7条1号,3号の不当労働行為に当たる
か)について
ア原告会社とパート従業員との雇用契約は,6か月の有期雇用契約であっ
て,その更新手続は,平成15年までは店長及び当該従業員が雇用契約更
新書に署名捺印する方法で,平成16年以降は当該従業員に雇用契約書を
提出させる方法で行われていたことは前記認定のとおりである。
このことは,P2についても同様であり,アルバイト,Bパートのとき
を含め,概ね6か月毎に8回にわたり,同契約を更新し,各更新時期に,
店長及びP2が雇用契約更新書に署名捺印する方法で更新手続がされてい
たのである。
そして,原告会社は,P2の雇用契約期間である平成16年2月20日
を控えて,P2に対し,同年1月から更新手続をとるよう求め,更新後の
契約内容として「毎日曜日・土曜日・祝日・年末年始は勤務日となる」と
のAパートの勤務条件基準を示し、それを適用する旨を提示した上,Aパ
ート,Bパート,アルバイトのいずれかの雇用契約書の提出を求めたのに
対し,原告組合は更新後のAパート契約についてP2の希望する勤務条件
やそのための交渉日時の要望等を具体的に示した上で協議・交渉を求める
ことをしなかったのであり,P2も雇用契約書を提出しなかったことから,
結局,原告会社と原告組合との間でP2の契約更新問題に関する協議・交
渉が何ら行われないまま,同年2月20日となって原告会社とP2との雇
用契約期間が満了するに至ったのである。
一方,原告会社において,雇用契約期間が満了した後にも特段の更新手
続をしないで従前の雇用契約関係を継続しているパート従業員がいること
を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告会社が,雇用期間満了時までに更新手続に応じなかっ
たP2について本件雇止めをしたのは,これまでのパート従業員一般に対
する対応と同様の対応であったということができ,格別不利益に取り扱っ
たものではないといわざるを得ない。
イ原告組合は,原告会社とP2との間には,期間の定めのない雇用契約関
係ないし期間の定めがあったとしても,原告会社からの通知書に記載され
ているとおり,特段の意思表示をしなくても契約が更新される内容の雇用
契約関係が成立していたのであるから,特段の更新手続を要しなかったの
であって,更新手続をしていないことを理由とする本件雇止めは,それま
での原告会社と原告組合との関係に照らし,原告組合員であるP2を排除
しようとする意図で行われたものであると主張する。
たしかに,本件当時の労使事情をみると,P1部長の組合に対する支配
介入の不当労働行為に当たる本件言動がされ,第1回から第3回の団体交
渉において,原告会社と原告組合とは,P2に対するセクハラ問題,日曜
休日の取扱いの変更問題等で労使間に対立があったことが認められるし,
平成16年2月の更新手続においても,原告会社は,P2の勤務条件に関
する原告組合の協議要求に応じていないという経緯がある。
しかしながら,前記アのとおり,原告会社とP2との雇用契約は,6か
月間の期間の定めがあるものとして,雇用契約更新に当たり店長及び従業
員が雇用契約更新書に署名捺印する方法が行われていたのであり,当該契
約が期間の定めのないものであったということは直ちにはいえない。
また,原告会社の平成16年1月16日付け通知書には「連絡がない場
合には,今回に限り,とりあえずAパート勤務とする」,「契約の更新を
望まない場合は会社に連絡されたい」という記載があるけれども,その後,
原告会社はP2に対し同月22日付け回答書で雇用契約書の提出を求めて
いるし,P7店長もP2に対し数回にわたり電話をかけ,雇用契約書を提
出しなければ雇用契約が更新されない旨伝えているのであるから,原告会
社とP2との間に「特段の意思表示をしなくとも契約が更新される内容の
雇用契約関係」があったということはできない。
してみると,原告会社とP2との雇用契約においては,期間満了後も雇
用関係を継続するには更新手続が不可欠であったというほかなく,このこ
とが,P2が原告組合に所属していることを理由として,他のパート従業
員と別異に扱っていたものであったということもできない。
したがって,原告組合の前記主張は採用できない。
ウ原告組合は,Aパートについて,土日の勤務を絶対的に義務付けるとい
う雇用契約は成立しておらず,仮にそうでなくとも,P2は,Aパートの
地位で日曜日を休日とする配慮を受けるべき雇用契約上の既得の権利を有
していたものであるところ,原告会社が,Aパートであれば日曜日の休日
取得を認めず,日曜日の休日取得のためには賃金の低いBパートとして働
くようにとの選択を迫り,精神的葛藤が高じて心身症を発症したP2が,
平成16年1月21日付けで,従来どおりの条件で雇用契約を継続する旨
の意思表示をし,原告組合も協議を申し入れたにもかかわらず,これを拒
んで本件雇止めをしたのであることからすると,本件雇止めは著しく信義
に反する権限濫用行為である旨主張する。
そこで,まず,AパートとBパートの勤務条件についてみると,原告会
社において,パート従業員の雇用形態はAパートとBパートに区分されて
おり,Aパートは土曜日,日曜日,祝日及び年末年始勤務が可能な者を対
象とし,Bパートは日曜日に毎月2回以上勤務可能な者を対象としている
が,P2は,平成14年8月21日にAパートとして契約を更新した際,
P1部長の面接において,希望休日を土曜日とすること,日曜日は全て勤
務可能であることを述べ,これをP1部長が面接メモに控えていたこと,
P3店においては,AパートのP2も含めて,P4店長ないしP9が各従
業員の希望を聞いて調整した上勤務表を作成していたこと,平成14年9
月以降のP2の休日取得状況は下記のとおりであることが認められる。

土曜日日曜日その他の曜日
平成14年9月21日以降3回0回4回
10月21日以降4回0回4回
11月21日以降2回0回6回
12月21日以降4回0回6回
平成15年1月21日以降2回0回6回
2月21日以降4回0回4回
3月21日以降4回0回5回
4月21日以降2回0回7回
5月21日以降2回1回4回
6月21日以降4回1回6回
(1回は有給)
7月21日以降1回1回7回
(1回は有給)
8月21日以降4回2回5回
10月21日以降2回2回5回
11月21日以降2回3回4回
これらによれば,Aパートの勤務条件としては,土曜日,日曜日,祝日
及び年末年始勤務が可能なことが要求されてはいるが,これは常に当該曜
日等に出勤を求められるというものではなく,実際の勤務割の調整等の結
果,土曜日や日曜日が休日となる場合があることが認められる。そうする
と,原告組合の主張どおり,Aパートが土日勤務を絶対的に義務づける雇
用形態というものではなかったとはいえる。
もっとも,P1の陳述書(乙B46)及び同人の審問調書(乙C1)に
は,1週間の中で日曜日が特に忙しい旨の記載があり,これは,衣料品等
の小売りを業とする原告会社の性質上,当然ともいえることであるし,原
告会社が,非正規雇用の労働者の中で最も経済的待遇を厚く設定している
Aパートの勤務条件を土曜日,日曜日,祝日及び年末年始勤務が可能な者,
Bパートを日曜日に毎月2回以上勤務可能な者とした上,日曜日の時給を
他の曜日よりも引き上げるなど,日曜日に勤務可能な者を確保しようとし
ていることからも裏付けられるものである。そして,P2も,従前は土曜
日を休日として取得することは多かったものの,日曜日はむしろ出勤して
いたのである。そうすると,原告会社がP2の家庭の事情に基づいて一定
の配慮をした事実はあるものの,それを超えて,P2がAパートとして日
曜日に休日を取得できるよう配慮を受けるべき雇用契約上の既得の権利を
有していたとはいい難く,むしろ日曜日も就労可能という前提で勤務表が
作成されてもやむを得ない地位にあったというほかない。
してみると,原告会社が,Aパートでありつつ日曜日を休日とすること
を希望するP2に対し,これを容認できないことを前提に,雇用契約の更
新に当たり,平成16年1月16日付けで3種類の雇用契約書をP2に送
付し,P2が休日の条件の異なる3つの雇用形態のいずれを希望するのか
明らかではないからP2においてこれを選択するよう求めた上,同年2月
25日に至るまで雇用契約書の提出を求め続けていたのに対し,P2が,
同月14日,日曜日に出勤ができないAパートは困るというのであれば原
告会社の判断に任せる旨連絡した後,同月21日付けで引き続き従来の条
件で働き続けるので原告組合と協議するよう求めるのみで,雇用形態を特
定して契約を更新する旨の何らの意思表示をもしなかったという事情をふ
まえるときは,原告会社において,P2との間で,勤務条件という基本的
かつ重要な問題決定のために必要な手続が行われていないという状態にな
ったとして,本件雇止めに至ったとしても,やむを得ないといわざるを得
ない。
したがって,原告会社が従前の休日の扱いを変更したこと,原告組合か
らの協議の申し出を拒んだことに問題点が指摘される余地があるとしても,
そうであるからといって本件雇止めを著しく信義に反する権限濫用行為で
あるとはいえないから,原告組合の前記主張は採用できない。
エ原告組合は,P2が,同年1月21日付けで,従来どおりの条件で雇用
契約を継続する旨の意思表示をしており,休日の取得について意見の対立
はあったものの,その対立は軽微なものであるから,むしろ,原告会社の
側で雇用契約を継続させるべきであった旨主張する。
しかし,上記のとおり,原告会社は,P2がいずれの雇用形態を希望す
るのか明らかではないとして,3種類の雇用契約書を送付したものであり,
Aパート,Bパート及びアルバイトでは,休日の取得のみならず,賃金そ
の他の待遇も大きく異なるものであった。
したがって,そのような雇用契約内容の重要部分について特定されてい
ないのであったから,「対立が軽微である」ということはできず,原告組
合の前記主張は採用できない。
オ以上によれば,原告組合の主張するその余の事情を考慮しても,本件雇
止めが,労働組合法7条1号,3号の不当労働行為に該当するとはいえな
いのであり,これと同旨の本件命令が違法であるとはいえない。
(3)争点(3)(本件団体交渉拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たる
か)について
ア正当理由の存否について
(ア)本件団体交渉拒否の理由は,①P2は平成16年2月20日付けで従
業員の身分を失っている,②P2が期間の定めのない雇用形態になったと
いう組合の主張は,会社と法的な見解が異なる,③一方的に日時を指定し
て三重県津市の組合事務所に呼びつけられるような団体交渉には応じられ
ない,というものである。
しかしながら,労働者が自らの雇用契約上の地位を争い,その所属する
労働組合が使用者に団体交渉による解決を求めたときは,合理的期間内に
団体交渉の申入れがされているのであれば,当該労働者を労働組合法7条
2号の「雇用する労働者」に該当するものとして扱い,当該労働組合が団
体交渉の当事者になるというのが相当である。そして,原告組合の前記団
体交渉の申入れは,P2が本件雇止めの効力を争い,その所属する原告組
合が団体交渉による解決を求めたものであるところ,P2が本件雇止めを
通告された日(同年2月24日)から原告組合が前記団体交渉の申入れを
した日(同年3月5日)までは10日ほどしか経過していないのであるか
ら,原告組合による前記団体交渉の申入れは合理的期間内にされたもので
あるといえ,P2に対する本件雇止め等に関し,原告組合は原告会社との
団体交渉の当事者になり得るから,P2が既に契約期間を満了して従業員
としての地位を失ったことは,団体交渉の申入れを拒否する正当理由とは
なり得ない。
また,P2の雇用形態について原告組合と見解が異なることや,一方
的に日時を指定されたことは,団体交渉が労使双方の見解を示して妥協点
を探る場であり,その開催日時等についても協議すれば足りるものである
ことからすれば,そもそも団体交渉の申入れを拒絶する正当理由たり得な
い。
したがって,原告会社の示した本件団体交渉拒否の理由はいずれも正当
なものではない。
(イ)原告会社は,P2が原告会社の従業員の地位を雇用契約期間満了によ
り喪失しており,そのような場合,正当な理由のない解雇や雇止めにあっ
た労働者が団体交渉を申し入れる場合とは異なって,原告組合には団体交
渉権がない旨主張する。
しかしながら,期間雇用された者がその地位を争う場合でも,そのこと
を所属の労働組合と使用者との団体交渉によって解決を求める限り,他の
雇用形態の場合と別異に扱う合理的理由は見いだせない。
したがって,原告会社の前記主張は採用できない。
(ウ)原告会社は,原告組合の団体交渉申入れは,解決金を得ようとの不当
な目的によるもので,正当な団体交渉申入れとは認められない旨主張する。
しかしながら,原告組合は,不当解雇の撤回等を求めて団体交渉を申し
入れているのであって,仮に原告組合が本件の解決に当たって金銭を要求
したとしても,労使紛争の解決の一手段といい得るのであるから,不当と
はいえない。
したがって,原告会社の前記主張は採用できない。
(エ)以上のとおり,本件団体交渉拒否は,正当な理由がないものであって,
労働組合法7条2号に該当する不当労働行為である。
イ団体交渉を命じるべき救済の利益について
(ア)本件命令は,①P2の土曜日及び日曜日の休日の取扱いを変更した経
緯・理由を含む契約更新問題の解決方法等,②P4店長のセクハラ行為の
事実関係やその責任の所在,今後の防止対策等,③夕方の休憩が取れなか
った日の時間外勤務に対する賃金の支払についての団体交渉を命じている。
そして,本件団体交渉拒否後に行われた第4回団体交渉及び第5回団体
交渉の経緯に照らしてみても,原告会社は本件雇止めの正当性を主張する
ばかりで,なぜP2の休日の取り方について従前の取扱いを変更したのか,
その経緯や理由を説明していない(第4回団体交渉において,P2につい
て日曜日の有給休暇を認めなかったのは時季変更権の行使である旨説明を
しているとする証拠(甲4)もあるが,そのような説明をしていたとして
も,それは個別の有給休暇の申請を認めなかった理由を説明したにすぎず,
勤務表の作成に当たって日曜日の休日取得を認めていた取扱いを変更した
点についての説明とはいえない。)し,P4店長のセクハラ行為に関する
事項や時間外勤務に対する賃金の支払については,ほとんど協議されてい
ない。
加えて,証拠(乙A43,52)によれば,原告組合が,第5回団体交
渉後も,平成17年3月31日に至るまで,本件雇止め(解雇)問題の解
決,不当労働行為問題の解決及びセクハラ問題の解決等の交渉事項につい
て,数回にわたり団体交渉を申し入れているにもかかわらず,原告会社は
これを拒否しているのである。
したがって,本件命令が命じた団体交渉事項について,第4回及び第5
回団体交渉において,誠実に団体交渉が行われたとはいえず,依然として,
これらについて原告会社に団体交渉に応じることを命ずる利益(救済の利
益)があるということができる。
(イ)原告会社は,P2が他に就業先を見付けたことで職場復帰の意思を失っ
ていると主張するが,P2の審問調書(乙C5)によれば,P2は職場復
帰の意思を有していることが認められ,生計を立てるために一時的に他に
就業していることをもってその意思を失ったということはできないから,
この点でも,救済利益が消滅したということはできない。
(ウ)原告会社は,本件命令はあたかもP4店長によるセクハラがあったかの
ような認定をし,これを前提に原告組合の救済利益を認めているが,その
ような事実認定は労働委員会の権限を越えており,それを前提とする判断
も違法である旨主張するが,労働委員会が命令の前提として個別的労働関
係に関する事実の認定をすることもその権限の範囲内というべきであるか
ら,本件命令がその点で違法であるということはできない。
ウまとめ
以上のとおり,本件団体交渉拒否は労働組合法7条2号に該当する不当労働
行為であり,これを前提として本件命令が命じた団体交渉事項について,依然
として救済の利益があるといえるから,同事項について原告会社に団体交渉を
行うことを命じた本件命令が違法であるとはいえない。
3結論
以上の次第であり,本件命令が違法であるということはできず,その取消し
を求める原告会社の本件請求(第1事件)及び原告組合の本件請求(第2事
件)はいずれも理由がないから棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
裁判長裁判官白石哲
裁判官鈴木拓児
裁判官髙嶋由子

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