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平成24年12月12日宣告
平成23年第1226号,平成24年第122号
判決
主文
被告人を懲役14年に処する。
未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1飲酒の影響により,前方注視及び運転操作が困難な状態で,平成23年12
月10日午後11時2分頃,兵庫県加西市a町b番地のc所在のコンビニエン
スストア「A店」駐車場から普通貨物自動車(軽四)を発進させて運転を開始
し,もって,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で同自動車を走
行させたことにより,同日午後11時5分頃,同市d町e番地のf付近道路に
おいて,時速約40キロメートルで走行中,居眠り状態に陥り,自車を同道路
左端外側に進出させ,折から,同道路左端の外側線付近にいたB(当時12歳)
及びC(当時8歳)に自車前部を衝突させて(以下「本件事故」という。),
両名を路外等にはね飛ばして転倒させ,よって,即時同所において,前記Bを
前頭蓋底粉砕骨折等に基づく脳挫滅及び外傷性脳蜘蛛膜下出血により,前記C
を頭蓋粉砕骨折等に基づく脳挫滅により,それぞれ死亡するに至らしめた
第2同日午後11時42分頃,同市d町g番地のh先路上に停車中の警ら用無線
自動車内において,被告人に対する飲酒検知に使用した兵庫県D警察署署長E
管理にかかる飲酒検知管在中の保護管を持っていた同署司法警察員Fの左手
を,左手でつかんだ上,右手で同保護管をつかんで力を込め,同保護管の中央
付近から折り曲げて曲損(損害額約220円相当)し,もって他人の器物を損
壊した
ものである。
(補足説明)
1弁護人は,判示第1の事実について,被告人は,本件事故の時点においてアル
コールの影響により正常な運転が困難な状態にあったと認識していなかったの
であるから,危険運転致死罪が成立しない旨主張するので,この点につき検討す
る。
2関係各証拠によれば,次の事実が認められる。
被告人は,平成23年12月10日午後6時頃から,食堂Gにおいて,焼酎
のお湯割り(340ミリリットル,アルコール度数25%)を普段は1ないし
2杯飲むところを3杯飲むなどし,さらに,午後8時30分頃からは,スナッ
クH(以下,単に「H」という。)において,持参したワイン(アルコール度
数12.5%)を約320ミリリットル飲んでいた。
また,Hでは,当初こそ知人と会話していたが,知人が退店してからは,リ
ズムをとるなどしてカラオケを歌ったり,カラオケを歌った他の客に声をかけ
たりしたことはあったものの,ほとんど,頭を下げてカウンターに突っ伏すよ
うになったり,椅子の後ろにもたれかかり俯くなどして居眠りをしていた。
被告人は,同日午後11時前頃,代金の精算をしてHを出,同日午後11時
頃,判示のA店(以下単に「A」という。)に行き,買い物をしたが,店内に
おいて,上体がふらつき,また,レジで支払いをするのに違った方向に行きか
けるなど足下も多少ふらついていた。
被告人は,同日午後11時2分頃,Aを出発し,道路の中央線を頼りに判示
の普通貨物自動車(以下「本件自動車」という。)を運転していたが,運転中
に視野が狭くなるのを感じた。そして,被告人は,同日午後11時5分頃,A
から約800メートル離れた本件事故現場において,本件自動車の左前部を道
路外に進出させるなどし,本件事故を起こしたが,現場付近は,緩やかな左カ
ーブとなっており,見通しも悪くない場所であったにもかかわらず,被告人が
本件自動車のブレーキを踏んだ形跡はなかった。
被告人は,同月11日午前1時20分頃,飲酒検知検査を受けたが,その結
果,被告人の呼気からは,1リットルにつきに約0.4ミリグラムのアルコー
ルが検出された。
なお,被告人は,この法廷において,判示の事故現場の約30メートル手前
で道路脇の竹やぶが見えたことは覚えているものの,中央線が途中でなくなっ
たことや,途中交差点にあった信号の色,さらには事故直前の状況については
全く覚えていないと供述している。
3Iの供述の信用性について
ところで,Hの経営者であるI(以下「I」という。)は,この法廷におい
て,「被告人が退店した後,ジャンパーを忘れていたので,店外に出て,本件
自動車に近寄ったところ,被告人が運転席でハンドルを握ったまま前に倒れる
ように頭を下げ,居眠りをしていた。本件自動車の運転席側の窓をノックし,
被告人にジャンパーを渡したところ,被告人は,『これがないと明日困るんや』
と述べていた。被告人の様子を見て危険を感じたことから,代行運転を頼むか
ら待っているよう告げたところ,被告人は,『べっちょない』と大丈夫である
旨答えていたが,さらに,『あかんで』『まっとってください』等と告げ,客
として来店していた知人女性(以下「知人女性」という。)に,本件自動車を
運転して被告人を送るよう頼みに同店内に戻った。しかし,知人女性から了承
を得て,店外に出ると,被告人は既に発車していた。」などと供述する。
Iの供述の信用性について
アこのIの供述は,被告人や自身の言動などが具体的に述べられた内容で,
上記2で認定のH店内における被告人の様子等に照らしても自然な流れであ
る。また,上記知人女性は,この法廷で,被告人がHを出た後,Iが同店を
出入りし,同人から代行運転を頼まれたことなどを供述しているが,この知
人女性の供述は,Iの上記供述内容を裏付けている。そして,この両名及び
被告人との人的関係や各供述内容からは,両名が,偽証罪を犯してまで,一
致して虚偽の供述をし,被告人を罪に陥れるような動機を見いだすことはで
きない。これらの事情に鑑みれば,Iの上記供述は基本的に信用できる。
イこれに対し,弁護人は,Iが代行運転を頼むと告げたのに対し,被告人が
「べっちょない」などと言ったことは捜査段階で述べていなかった点や,こ
の被告人の発言に対し,Iが「絶対,動いたら駄目。」,「あかんで。」と
大きな声で注意したと述べている点にも誇張があるとして,Iの上記供述は
信用できない旨主張する。しかし,Iは,捜査官に対しこの法廷と同じよう
な供述をしたと,弁護人の反対尋問において供述しているのであって,本件
の捜査方針の変更等の事情により,捜査官がその関心に基づいて,Iの供述
を全て正確に録取しておらず,Iも,公判廷で何度も呼び出されて精神的に
参っていたと供述していることからすると,表現に違いがあったとしても,
その内容は大筋で一致していることから,供述調書に署名したとも考えられ
るところである。そうすると,弁護人の主張するような供述の変遷が見られ
たとしても,H店外で被告人に代行運転を頼むことを告げたことや,被告人
がこれに返答したといった,上記I供述の根幹部分の信用性に疑いを抱かせ
るものではない。
ウ上記のとおり信用性の認められるIの供述その他の関係証拠を総合すれ
ば,Iは,被告人が退店した後,忘れ物を届けに被告人のもとへ赴いたが,
被告人が本件自動車内で居眠りをしていたので,代行運転を頼む旨被告人に
告げたところ,被告人がこれに返答していたことが認められる。
4危険運転の故意について
上記2で認定した本件事故の態様,本件事故直前における被告人の心身の状
態及び記憶の程度等に照らすと,本件事故の時点において,被告人がアルコー
ルの影響により正常な運転が困難な状態であったことは明らかというべきで
ある。
そして,本件事故がA出発からわずか3分しか経っておらず,約800メー
トルしか進行していない段階で起こっていることに加え,被告人の飲酒量が上
記出発の時点で普段よりも多かったこと,H店内や同店外で駐車していた本件
自動車内での被告人の居眠りの状態,これを見たIが被告人に代行運転を頼む
ことを告げていること,A店内での被告人の状態などの上記認定事実からする
と,被告人が,A出発の時点においても,アルコールの影響により自動車の正
常な運転が困難な状態であったと認めるのが相当である。
もっとも,関係証拠によれば,弁護人が指摘するとおり,被告人は,本件事
故当時は中程度の酩酊状態であり,A店内で店員と会話し,買い物もできてい
ることや,本件事故の現場まではカーブのある暗く細い道をクラッチ操作を交
えながら運転していたことなどの事実は認められる。しかしながら,アルコー
ルの身体に対する影響を専門に研究しているJの当公判廷における供述によ
れば,交通事故を起こすことなく,適切に自動車を操作して運転するには,高
度の認知,判断及び運動能力が必要であることが認められるところ,弁護人が
指摘するような買い物をするなどの行為は,それほど高度な能力が要求されな
い動作であると認められるのであって,このようなことからすると,弁護人主
張の事実をもって,直ちに,A出発時点においても,被告人がアルコールの影
響により正常な運転が困難な状態にあったとの上記認定を左右しないという
べきである。
さらに,上記Iの被告人に対する言動に対し,被告人が返答していることな
どの事実も併せ考えると,被告人が,A出発の時点から,少なくとも一般人の
目からは自動車の運転が困難な状態であると見られていることを認識してい
たというべきであり,危険運転致死罪の故意もあったと認めるのが相当であ
る。
5被告人の供述について
被告人は,この法廷で,Hを出る際に居眠りしたことはなく,Iから代行運転
を頼むから待ってるよう告げられたこともないとか,Aを出る際には,酔っては
いたが運転が困難な状態ではなかったなどと供述する。
しかしながら,H店外でのIとのやりとりに関しては,上記の通り信用できる
Iの供述に反しており,到底信用できない。また,被告人自身の酔いの状態につ
いても,上記認定事実に加え,J証人の供述内容も併せ考えると,被告人が,ア
ルコールの影響により気が大きくなって過信していたに過ぎないものと考えら
れ,被告人の故意を否定するものではない。
6結論
以上からすれば,被告人には,危険運転致死罪が成立する。
(法令の適用)
1罰条(科刑上一罪の処理を含む。)
判示第1の事実につき各被害者ごとに刑法208条の2第1項前段(致
死の場合。なお,判示第1の所為は,1個の行為
が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54
条1項前段,10条により1罪として犯情の重い
Cに対する危険運転致死罪の刑で処断。)
判示第2の事実につき同法261条
2刑種の選択
判示第2の罪につき,懲役刑を選択。
3併合罪の処理
同法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の刑に同法47条た
だし書の制限内で法定の加重。)
4未決勾留日数の算入同法21条
5訴訟費用刑訴法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
被告人の運転行為は,重大な人身事故を引き起こす危険性の高いものであり,二
人の被害者を死亡させた結果も非常に重大である。幼い子供を一度に失った遺族の
悲しみは察するに余りあり,被告人に対し厳重処罰を求める心情も十分理解できる。
さらに被告人は,以前から飲酒運転を繰り返しており,被告人の飲酒運転に対する
規範意識の乏しさが,今回の運転行為を行い,本件事故を起こした一因になってい
るといえる。
これらの事情に照らすと,犯情はかなり悪く,被告人の刑事責任は相当重いが,
被告人が反省の情を示し,被告人の妻が出廷して被告人の更生に助力する旨誓って
いることや,被告人が対人賠償無制限の任意保険に加入し,既に賠償金の一部が支
払われ,今後も被害回復の見込みがあることなどの被告人に酌むべき事情も考慮し,
量刑の実情なども斟酌した上で,主文のとおりの刑に処するのが相当と判断した。
(求刑懲役18年)
平成24年12月12日
神戸地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官奥田哲也
裁判官三宅康弘
裁判官塚本晴久

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